人事労務

不正雇用のリスク管理|助成金の返還・公表と自主申告の判断基準

経営リスクナビ編集部

不正受給は「不正雇用」という曖昧な不安として検索されがちですが、雇用調整助成金を含む雇用関係助成金では、勤怠・賃金・在籍の整合が崩れた時点で実務リスクとして具体化します。運用のズレを放置すると、都道府県労働局の突合調査や従業員申告を端緒に、返還・公表・一定期間の不支給といった不利益が連鎖し得ます。自社が不正受給(未遂を含む)に当たり得るか、調査連絡後の48時間で何を優先して揃え、どのラインで自主申告・取下げ・専門家相談を判断するかが焦点になります。以下では、雇用調整助成金の不正受給リスクの判断材料として発覚経路・調査対応・返還と公表までを示します。

目次

不正受給の意味と制度範囲

不正受給の定義と支給要領の位置づけ

雇用保険法に基づく雇用関係助成金の不正受給とは、偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金を受給し、または受給しようとすることをいいます。実務では、厚生労働省が定める「雇用関係助成金に共通の支給要領」に沿って、都道府県労働局が審査・調査・処分を行うため、支給要領は単なるマニュアルではなく、支給実務上の統一基準として強い拘束力を持ちます。

また、不正の実行者が申請担当者、現場管理者、役員、外部委託先(社会保険労務士等)であっても、申請名義人である事業主が不正を行ったものと扱われ得る点が重要です。申請書類の提出時点で「受給しようとした」と評価されるため、結果として不支給に終わった場合でも、故意の虚偽があれば不正受給(未遂を含む)として整理されるリスクがあります。

さらに、助成金申請は労務資料だけで完結しません。例えば、退職手続で会社がハローワークへ提出する雇用保険関係書類(雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届)は、退職日の翌日から10日以内の提出が想定されており、こうした別手続の記載内容とも整合していることが、後日の突合や調査で強く求められます。

故意の虚偽と制度理解の誤りはどこで分かれるか|勤怠・賃金・申請書の不一致で見る判断軸

故意による虚偽申請と、過失による制度理解の誤り(不適正受給・過誤受給)の分岐点は、申請内容が実態と異なることを事業主側が認識していたか、または通常の確認を尽くせば認識できたのに放置したか(過失)にあります。形式的に申請書の体裁が整っていても、調査では「客観資料と整合しているか」が中心になります。

労働局が整合性を確認しやすい客観資料(例)
  • 出勤簿・タイムカード等の勤怠記録
  • 賃金台帳(賃金台帳は労働基準法上の作成義務資料です:労働基準法第108条
  • 労働者名簿(労働者名簿も作成義務資料です:労働基準法第107条)
  • 銀行振込の事実が分かる預金通帳・振込記録
  • 給与明細書や源泉徴収票
  • 勤務日程表・労務日報
  • パソコンの履歴や電子メールの送受信記録

例えば、休業日として申請した日に、メール送信履歴やPCの履歴が残り、現場の勤務日程表や労務日報にも稼働が記載されていれば、「実態と異なる申請をした」ことが具体的に裏づけられ、故意または少なくとも重大な過失が疑われやすくなります。他方で、転記ミスや集計ミスなどが、元資料と修正履歴等から客観的に説明できる場合は、不正ではなく「過誤」と整理され、過大受給分の差額返還にとどまる方向で検討されることがあります。

雇用調整助成金で多い不正受給

コロナ特例下で増えた典型スキーム

新型コロナウイルス禍の特例措置下では、迅速な支援のため申請負担が軽減された局面があり、その反動として不正受給が問題化しました。典型例は、実際には稼働しているのに休業扱いで申請するパターンで、勤怠改ざんや、休業日数・時間の水増し、退職者を在籍扱いにして申請するなどの手口が見られます。

参照されやすいのは「帳簿上だけ整っている」状態ですが、別領域の不正リスクと同様に、人事データの更新漏れや不正な入力があると、退職者・架空従業員が名簿に残り続け、申請対象者に紛れ込みやすくなります。退職者や架空従業員が人事データに含まれることで「架空の賞与引当金が計上されるリスク」が指摘されており、同じ構造のまま助成金申請に波及すると、実在しない(または在籍しない)者の申請に発展し得ます。

休業・出勤・転籍の申請ずれを見分ける

雇用調整助成金の適正申請では、休業、通常出勤、出向・転籍などの勤務区分を、労働契約関係と賃金支払実態に沿って峻別する必要があります。特に「在籍型出向」のように籍が出向元に残る類型では、出向先での稼働があるのに、出向元で休業と扱って申請する、といった区分ずれが不正認定の端緒になり得ます。

区分ずれの点検では、賃金台帳・給与明細・振込記録だけでなく、補完資料として勤務日程表、労務日報、PC履歴、電子メール送受信記録なども含め、労務提供の実態がどこで発生したかを確認します。これらは労務提供の立証資料として列挙されている類型であり、助成金調査でも同様の発想で突合されます。

在宅勤務・シフト変更・一部出勤が混在する会社がつまずく申請パターン

在宅勤務と休業が混在し、さらにシフトが頻繁に変わる職場では、「休業のつもりだったが実際は業務が発生していた」というズレが起きやすくなります。例えば、休業指示中に本人が自己判断でメール対応を行うと、メール送受信記録やPCの履歴が残り、休業日としての申請との不一致が外形的に明確になります。

この種のズレは、意図的な勤怠改ざんがなくても、管理の不備として「通常の注意で防げた」と評価されると不正・重大な過失を疑われます。社内ルールとしては、休業日の業務連絡の遮断(アカウント制御等)や、業務指示・例外対応の記録化が重要です。テレワークでは「働く場所・時間」を本人に委ねる運用が混ざることがありますが、助成金の休業申請と両立させるには、少なくとも休業日については、業務の発生がないことを説明できる運用に落とし込む必要があります。

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不正受給が発覚する経路

労働局調査と書類突合で見つかる流れ

都道府県労働局の調査は、申請書類の記載だけでなく、原資料・周辺資料との突合で矛盾を探す形で進むことが一般的です。申請に添付した出勤簿・賃金台帳に加え、その根拠となるタイムカード原本、給与振込の記録、総勘定元帳、売上台帳、決算書など、金流・業務実態・人事情報を横断する資料の提出を求められることがあります。

特に「休業手当を支払った」とするなら、銀行振込等の事実が残りやすく、賃金台帳・給与明細・預金通帳(振込記録)といった資料の整合性で検証されます。賃金支払や労務提供の立証資料として、賃金台帳、給与明細、預金通帳、源泉徴収票、勤務日程表、労務日報、PC履歴、電子メール送受信記録等が挙げられており、助成金調査も同じ方向で「つながる証拠」を見ていきます。

従業員申告と内部告発への初動対応

不正受給が発覚する契機として、従業員や退職者からの申告(内部通報を含む)は実務上大きいです。近時は従業員の内部通報を端緒に不祥事が顕在化し、社内調査と是正で自浄的に解決できれば、外部から発覚した場合より社会的信頼の毀損を小さくできる、という趣旨が示されています。

内部通報があった場合、通報者を探索して圧力をかけたり、解雇・配置転換などの不利益取扱いを行ったりすることは、公益通報者保護法上の問題を生じ得るだけでなく、労働局調査・刑事告発・公表の局面で「隠蔽」と評価されるリスクを高めます(公益通報者保護法)。

内部通報を受けた直後の実務的な初動
  1. 通報内容を事実と評価を分けて記録し、通報者保護(不利益取扱いの禁止)を明確化します。
  2. 経営から独立性のある調査担当(人事単独ではなく法務・監査等を含む)を定めます。
  3. 申請対象期間の勤怠・賃金・シフト・メール等の客観資料を先に確保し、後追い作成をしない運用を徹底します。
  4. 申請担当者・現場管理者・対象者本人へ、時系列に沿って個別ヒアリングを実施します。

他の助成金申請・社会保険手続・退職処理との食い違いで発覚するケース

助成金申請は単独で完結せず、退職処理、雇用保険手続、社会保険手続、税務資料などと情報が連動します。にあるとおり、会社は退職日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者離職証明書と雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークへ提出する運用が想定されます。この離職手続の記載(離職日、賃金、就労状況等)と、雇用調整助成金の申請に用いた出勤簿・賃金台帳・休業期間の整合が取れていない場合、疑義が生じやすくなります。

また、健康保険・厚生年金保険の資格喪失についても、会社は退職から5日以内の届出が想定されており、保険証(被扶養者分を含む)の回収や資格喪失証明書の交付といった実務が動きます。これらの手続過程で作成・提出した書類の整合性が、助成金申請の内容と食い違っていると、結果として助成金の申請内容にも疑いが及ぶことがあります。

労働局調査と企業対応

報告徴収から事案調査までの進み方

労働局の調査は、報告徴収(資料提出要請)から始まり、疑義の程度に応じて事案調査(実地調査・聴取)へ進むことがあります。企業側は、求められた書類提出や説明を、事実に基づき誠実に行う必要があります。

提出資料は、雇用調整助成金の枠内資料にとどまらず、賃金台帳(労働基準法第108条)、労働者名簿(労働基準法第107条)など法定帳簿、預金通帳・振込記録、勤務日程表、労務日報、PC履歴、電子メール送受信記録といった「労務提供や支払の痕跡」を含む方向で広がります。実地調査に移行すると、担当者への聴取に加え、その場で業務実態の確認が行われ、最終的に聴取書の作成・署名押印を求められる運用となることがあります。

証拠保全と社内ヒアリングの進め方

調査連絡が入った段階で、社内の証拠保全を先行させ、ヒアリングは客観資料に基づいて行うことが重要です。証拠保全は「集める」だけでなく、改ざん・欠落の疑いを生まないための手順設計が必要です。

証拠保全で優先度が高い資料(申請期間単位で揃える)
  • 支給申請書の控えと添付書類一式
  • 出勤簿・タイムカード・勤務日程表・シフト表
  • 賃金台帳(労働基準法第108条)・給与明細書・源泉徴収票
  • 銀行振込記録(預金通帳・振込データ)
  • 労務日報、業務報告、押印・サインのある稼働記録
  • PC履歴、ログオン情報、電子メール送受信記録
  • 労働者名簿(労働基準法第107条)と在籍・退職の更新履歴

社内ヒアリングは、申請担当者だけでなく、シフト決定者、現場責任者、対象者本人を含め、申請期間ごとの時系列に沿って行います。で示されるとおり、労務提供の有無は出勤簿等だけでなく、PC履歴やメール記録等でも補完され得るため、「言った・言わない」ではなく、資料に基づく確認に徹します。

代表者・人事・経理・現場管理者の誰が何を出すか|調査連絡後48時間の社内分担

調査連絡後の初動はスピードが重要で、最初の48時間で体制と資料が整っているかが、その後の説明の一貫性に影響します。

担当 主な役割 優先して揃える資料
代表者(経営) 協力方針の決定、社内統制、外部専門家の起用判断 全体方針メモ、意思決定の記録、関係部署への指示書
人事労務 申請書類の体系化、在籍・休業・シフトの整理 申請書控え、対象者名簿、労働者名簿、出勤簿、タイムカード、勤務日程表
経理財務 支払実態・会計記録の裏づけ 賃金台帳、給与明細、預金通帳・振込記録、総勘定元帳、決算書
現場管理者 稼働実態の説明、日々の記録の補完 シフト表、労務日報、業務日報、顧客対応記録、現場の実態メモ
調査連絡後48時間の社内分担(例)

加えて、人事データの更新漏れによって退職者が残っていないか、架空の従業員が混入していないかを早期に点検します。退職者や架空従業員が人事データに含まれると「架空の賞与引当金」の計上リスクになるとされており、助成金でも同様に「対象者の実在性・在籍性」が争点化し得ます。

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不正受給の返還と公表リスク

不支給・支給取消・返還の関係

不正受給と認定されると、未支給分については不支給、既支給分については支給決定取消、そして返還(納付)という整理になります。支給決定取消により返還義務が生じ、期限を定めた納付を求められます。

実務上の注意点は、「一部の従業員・一部の日だけ」の問題として収束せず、同一の不正が疑われる判定基礎期間以降の受給が広く点検され、結果として返還範囲が拡大するリスクがあることです。返還の根拠となる事実認定は、賃金台帳(労働基準法第108条)、労働者名簿(労働基準法第107条)、預金通帳等の支払記録、勤務日程表・労務日報、PC履歴・電子メール送受信記録といった、複数の客観資料の突合で固められます。

延滞金・違約金と5年不支給の影響

不正受給とされる場合、元本返還に加え、金銭的ペナルティが上乗せされます。本文のとおり、延滞金は原則年3%で算定され、違約金は返還額の20%が重畳され得ます。さらに、支給決定取消の日から起算して5年間、雇用関係助成金が不支給となる運用があり、資金繰りや人員施策に直接影響します。

加えて、社内で「別の手続ではこう書いた」という矛盾があると、返還範囲や故意・組織性の評価にも影響し得ます。例えば退職手続では、ハローワークへの離職証明書等の提出が退職日の翌日から10日以内とされる運用が想定され、そこに記載する賃金・就労状況と助成金申請の整合性が崩れると、事実認定が不利に進みやすくなります。

100万円基準だけで判断しない|公表対象外でも重大・悪質と見られやすい事情

公表基準として、支給取消額と不支給決定額の合計が100万円以上の場合に原則公表と整理される運用が示されることがありますが、100万円未満でも重大・悪質と判断されれば公表され得る点に注意が必要です。金額だけでなく、手口の悪質性、反復性、組織性、隠蔽の有無が見られます。

重大・悪質と見られやすい事情(例)
  • 架空の従業員や退職者を在籍扱いにして申請対象に混入させる(人事データ更新漏れを装う場合を含む)
  • タイムカード原本や勤怠データの改ざん、原資料の差替えなどの隠蔽工作
  • メール送信履歴やPC履歴など客観ログと矛盾する説明を繰り返す
  • 外部の指南役と共謀し、申請を反復するなど組織性が認められる

公表はレピュテーション(信用)に直撃します。したがって、金額閾値だけでリスク評価をせず、申請根拠資料の整合性と、説明可能性(誰が、いつ、何を根拠に判断したか)を基準に点検することが現実的です。

自主申告と再発防止の設計

自主申告と申請取下げの判断基準

申請内容の誤りに気づいたときの分岐は、労働局から具体的な照会・調査が入る前か後かです。調査が具体化する前であれば、自社で事実確認を行い、必要に応じて自主申告して是正することが、損害拡大を抑える観点から重要になります。

一方、まだ振込前の申請であれば取下げも選択肢になり得ますが、取下げが「故意の虚偽申請」を無かったことにするとは限りません。重要なのは、申請に至った経緯、誤りに気づいた契機、どの資料の突合で誤りと判明したかを、客観資料(賃金台帳、出勤簿、メール記録等)に基づいて説明できる状態にすることです。

なお、退職手続や社会保険手続の期限が迫っている場面では、助成金申請との整合が崩れやすくなります。雇用保険の離職関係書類は退職日の翌日から10日以内、健康保険・厚生年金の資格喪失届は退職から5日以内の提出が想定されており、これらの記載内容(賃金、在籍状況、退職日等)と助成金申請の基礎資料が矛盾しないかを同時に点検する必要があります。

外部専門家の関与リスクと選定基準

外部委託は有効な一方で、無資格者や過激な成功報酬型コンサル等が介在すると、不適切申請に引き込まれるリスクがあります。提出代行・事務代理を業として行える範囲には法的な限界があり、資格・権限の確認と、依頼範囲の明確化が前提です。

また、実務では「外部が作ったから自社は知らない」という抗弁は通りにくく、申請名義人としての説明責任・管理責任が問われます。したがって、外部専門家の選定では、形式的な実績だけでなく、社内の一次資料(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等)を丁寧に確認し、違法・不適切な運用(勤怠の後追い作成、退職者の名簿残し等)を止める姿勢があるかを重視します。

選定時に最低限確認したい事項(例)
  • 資格・登録の有無と、依頼する業務範囲(提出代行等)の適法性
  • 申請根拠として労働者名簿(労働基準法第107条)や賃金台帳(労働基準法第108条)を確認する運用があるか
  • 退職手続(10日以内の離職関係提出など)や社会保険手続(5日以内の資格喪失など)との整合まで視野に入れているか

勤怠管理と支給申請フローの整備

再発防止は、担当者の注意喚起だけでは足りず、仕組み(内部統制)として「ズレが出たら検知される」状態にすることが重要です。退職者や架空従業員が人事データに含まれると架空の賞与引当金が計上されるリスクがあるため、人事データ管理と、仕訳伝票の上長承認などの内部統制が有用とされています。助成金でも同様に、対象者の実在性・在籍性・支払実態を多層でチェックする設計が必要です。

申請ミス・不正リスクを下げるための整備ポイント
  1. 労働者名簿(労働基準法第107条)と賃金台帳(労働基準法第108条)を基礎台帳として、在籍・退職・休業区分の更新責任者と更新期限を明確化します。
  2. 勤怠データと勤務日程表・労務日報・メール送受信記録等を突合できるよう、保存場所と保管期間のルールを統一します。
  3. 支給申請書の作成担当と承認担当を分離し、少なくとも「勤怠」「賃金支払(振込記録)」「在籍(退職者混入の有無)」の3点を承認要件にします。
  4. 退職時の行政手続(雇用保険:退職日の翌日から10日以内、社会保険:退職から5日以内)と、助成金の対象期間が重なる場合は、書類ドラフト段階で相互チェックします。

よくある質問

雇用調整助成金の不正受給が疑われる場合、まず何を確認すべきですか?

最初に行うべきは、申請書の体裁確認ではなく、申請の根拠となった一次資料の回収と突合です。

最初に確認する順番(実務向け)
  1. 過去に提出した支給申請書の控えと添付書類一式を、判定基礎期間ごとに揃えます。
  2. 出勤簿・タイムカード・勤務日程表・労務日報を回収し、休業日として申請した日と稼働の痕跡の有無を突合します。
  3. 賃金台帳(労働基準法第108条)・給与明細・預金通帳等の振込記録で、休業手当の支払実態を確認します。
  4. PC履歴や電子メール送受信記録等で、休業日に業務が発生していないかを補強確認します。
  5. 対象者が実在し在籍していたかを、労働者名簿(労働基準法第107条)と退職記録で確認し、退職者の混入がないか点検します。

退職者が関係する場合は、ハローワーク提出書類(離職証明書・資格喪失届)の提出が退職日の翌日から10日以内という運用が想定されるため、そこに記載した賃金・就労状況と助成金申請の整合も同時に確認すると、矛盾の早期発見につながります。

うっかりミスによる誤った申請も不正受給に当たりますか?

故意によらない転記ミス・集計ミス・解釈誤りは、直ちに不正受給と評価されないことがありますが、結局は「客観資料で説明できるか」が鍵になります。例えば、賃金台帳(労働基準法第108条)や給与明細、振込記録、出勤簿・タイムカードなどの原資料に照らし、どの段階でどのような誤りが生じたかが追跡できる場合は、過誤として差額返還の枠組みで整理される可能性があります。

一方で、メール送受信記録やPC履歴など、労務提供の痕跡があるのに休業として申請していた場合は、うっかりミスの説明が難しくなり、故意または重大な過失を疑われやすくなります。

不正受給を自主申告した場合、延滞金や違約金は軽減されますか?

自主申告であっても、金銭的ペナルティ(延滞金や違約金)が当然に免除・軽減されるとは限りません。本文のとおり、延滞金は原則年3%、違約金は返還額の20%が重畳され得ます。

ただし、自主申告には、調査による発覚と比べて、事実関係の整理・説明を主導できるという実務上の利点があります。内部通報を端緒として不祥事が発覚する事例が増えているという指摘もあるため、疑義を把握した段階で、客観資料(賃金台帳、出勤簿、メール記録等)を踏まえて早期に是正方針を検討することが重要です。

雇用調整助成金以外の雇用関係助成金でも不正受給の扱いは同じですか?

雇用調整助成金以外でも、雇用保険法に基づく雇用関係助成金では、共通の支給要領に基づいて不正受給の判断や措置が整理されます。そのため、助成金の種類が異なっても、返還、違約金(20%)、延滞金(原則年3%)、一定期間の不支給(5年)など、枠組みとして共通する部分があります。

また、どの助成金であっても、基礎となる労務資料の整備は共通です。労働者名簿(労働基準法第107条)や賃金台帳(労働基準法第108条)の整備・更新、預金通帳等による支払実態の裏づけ、出勤簿・タイムカードや勤務日程表・労務日報、PC履歴・電子メール送受信記録等との整合が取れているかが、調査局面では重要になります。

雇用調整助成金の不正受給への対応で次にすべきこと

雇用調整助成金の不正受給リスクは、申請書の見た目ではなく、勤怠・賃金・在籍を裏づける客観資料の整合で評価されます。返還局面では延滞金(原則年3%)や違約金(返還額の20%)、さらに5年間の不支給といった影響があり得るため、金額や「一部の期間だけ」で判断せず、判定基礎期間ごとに点検する視点が重要です。次アクションとしては、まず申請控えと一次資料(出勤簿・賃金台帳・振込記録・メール/PCログ等)を確保し、調査連絡後は48時間で社内分担と説明方針を固めます。退職者が絡む場合は、ハローワーク提出書類が退職日の翌日から10日以内という運用も踏まえ、関連手続との食い違いがないかを同時に確認してください。個別の事実認定や自主申告の可否は事情により結論が変わるため、必要に応じて法務・社労士等の専門家に相談して進めるのが現実的です。



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