法務

動産執行の費用はいくら?内訳と相場、手続きの流れを実務解説

経営リスクナビ編集部

売掛金回収の最終手段として動産執行を検討する際、その費用がいくらかかるかは重要な判断材料です。しかし、予納金や専門家報酬、現場での実費など内訳が複雑で、費用倒れのリスクから実行に踏み切れないケースも少なくありません。この記事では、動産執行(動産の差押え)にかかる費用の全内訳と相場、手続きの流れ、そして費用倒れを防ぐための注意点までを網羅的に解説します。

動産執行にかかる費用の全内訳

裁判所に納める予納金の相場

動産執行を申し立てる際、裁判所へ予納金を納める必要があります。これは、執行官が現地調査や差押えを行うための日当・交通費などの実費に充てられる費用で、相場は3万円から5万円程度です。金額は管轄の裁判所によって異なり、例えば東京地方裁判所では基本額が3万5000円と定められています。

予納金は手続きの進行に応じて消費され、終了後に余剰が出れば返還されますが、不足した場合は追加で納付を求められます。たとえ差し押さえる動産がなく執行不能に終わったとしても、執行官が出動した分の費用は消費されるため、全額が返還されるわけではありません。また、債務者が複数いる場合や、執行場所が複数にわたる場合は、対象ごとに追加の予納金が必要になることがあります。

専門家への依頼費用(弁護士・司法書士)

動産執行を弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合、その費用は主に「着手金」と「成功報酬」で構成されます。

動産執行は、申立てから執行官との打ち合わせ、現場での立ち会いまで、法的な知識と実務的な対応力が求められるため、専門家のサポートが効果的です。費用体系は事務所によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

費用項目 金額の目安 備考
着手金 10万円~30万円 手続きの開始時に支払う費用です。訴訟から継続依頼している場合は減額されることもあります。
成功報酬 回収額の16%~20%程度 実際に債権を回収できた場合に、その金額に応じて発生する費用です。
日当・出張費 数万円~5万円程度 専門家が執行現場へ立ち会う場合に、着手金や成功報酬とは別に発生することがあります。
専門家への依頼費用の目安

専門家が現場に同行することで、動産の価値を的確に判断したり、債務者と直接交渉して任意弁済を促したりできるため、回収率の向上が期待できます。

その他実費(開錠・運搬・保管費用など)

予納金や専門家費用とは別に、執行現場の状況に応じてさまざまな実費が発生する可能性があります。これらの費用は債権者が直接業者を手配し、支払う必要があります。

主な実費の内訳
  • 開錠費用: 債務者不在時に強制的に入室するため、鍵開け業者に支払う費用です(1回2万円~3万円程度)。
  • 運搬費用: 差し押さえた動産を運び出すためのトラックや作業員にかかる費用です。
  • 保管費用: 運び出した動産を保管するための倉庫代などです。物品の量によっては高額になることもあります。
  • 廃棄処分費用: 換価できず、最終的に動産を処分する場合の費用です。

これらの実費は予期せず発生することが多く、場合によっては数十万円規模になる可能性もあるため、あらかじめ資金に余裕を持っておくことが重要です。

動産執行の手続きと流れ

ステップ1:申立ての準備(債務名義の取得)

動産執行を開始するには、まず強制執行の根拠となる「債務名義」を取得する必要があります。これは、国が強制執行を許可する公的な証明書です。債務名義と合わせて、執行文と送達証明書も準備します。

申立てに必要な主な書類
  • 債務名義: 確定判決、和解調書、仮執行宣言付支払督促、執行認諾文言付公正証書など。
  • 執行文: 債務名義に基づき強制執行できることを証明するため、裁判所書記官や公証人から付与してもらいます。
  • 送達証明書: 債務名義が債務者に送達されたことを証明する書類で、裁判所から取得します。

これらの書類が揃って初めて、裁判所への申立てが可能となります。

ステップ2:裁判所への申立てと執行官との協議

必要書類を揃えたら、目的の動産が所在する地域を管轄する地方裁判所の執行官に、動産執行の申立てを行います。申立てが受理されると、執行官と具体的な執行計画について協議します。

この打ち合わせでは、当日の段取りや予想されるトラブルへの対策をすり合わせます。これは執行の成否を左右する重要なプロセスです。

執行官との主な協議事項
  • 執行日時の決定
  • 債務者の状況や建物の構造に関する情報共有
  • 執行当日に同行する業者(開錠業者、運搬業者など)の手配の要否
  • 債務者が抵抗した場合の対応策

ステップ3:差押え実行当日の動き

執行当日、執行官と債権者(または代理人弁護士)が現場に赴き、債務者の建物に立ち入って財産の差押えを実行します。債務者が不在の場合や入室を拒否した場合は、事前に手配した開錠業者が強制的に鍵を開けます。

室内では執行官が主導し、換金価値のある動産を探します。現金、貴金属、ブランド品、事業用の在庫商品など、価値のあるものが見つかると、執行官が「差押物件」と書かれた札(封印)を貼り付けます。この封印がされた動産を、債務者が無断で処分することは法律で固く禁じられています。

ステップ4:差押え品の換価と配当

差し押さえた動産は、競り売り(オークション)などの方法で売却され、現金に換えられます(換価)。その売却代金から執行費用を差し引いた金額が、債権者へ支払われます(配当)。現場で現金が発見された場合は、換価の手間なく、その場で回収額に充当できます。

主な換価方法
  • 競り売り: 買取業者などが参加するオークション形式で売却します。
  • 債権者による買い取り: 債権者自身が動産を買い取り、その代金を回収すべき債権額と相殺します。

この配当をもって、一連の動産執行手続きは完了となります。

執行現場での交渉は可能か?任意弁済を引き出すための準備

動産執行の現場は、単に財産を差し押さえるだけでなく、債務者との任意弁済の交渉を行う絶好の機会でもあります。執行官が自宅や店舗に立ち入り、私物に封印を貼っていくという現実は、債務者に強い心理的プレッシャーを与え、支払いに向けた話し合いに応じやすくなるためです。

特に弁護士が立ち会うことで、法的な状況を冷静に説明し、その場で一部弁済や分割払いの合意を取り付けるといった柔軟な解決が期待できます。動産執行は、債権回収を実現するための強力な交渉カードとしても機能するのです。

差押えの対象になる動産・ならない動産

差押え対象となる動産の具体例

動産執行では、換金価値があり、債権回収につながる財産が差押えの対象となります。

差押え対象となる動産の例
  • 66万円を超える現金
  • 貴金属、宝石、高級腕時計、ブランドバッグ
  • 絵画、骨董品などの美術品
  • パソコン、コピー機、応接セットなどの事務用品(事業者の場合)
  • 在庫商品(事業者の場合)
  • 軽自動車や未登録の自動車
  • 株券、商品券、小切手などの有価証券

法律で定められた差押禁止財産

債務者の生活保障や職業の維持のため、法律によって一部の動産は差押禁止財産と定められており、差し押さえることができません。

法律で定められた主な差押禁止財産
  • 66万円以下の現金(標準的な世帯の2か月分の生活費)
  • 衣服、寝具、冷蔵庫、洗濯機などの生活に不可欠な家財道具
  • 農業従事者の農具や、漁業従事者の漁網など、業務に欠かせない道具
  • 仏壇、位牌など、祭祀に必要な物
  • 実印や認印
  • 子供の学習に必要な書籍や器具

執行官はこれらの規定に基づき、債務者の最低限の生活を維持するために必要な財産を除外して、差押えを行います。

動産執行が失敗する「執行不能」とは

執行不能となる主なケース

動産執行を申し立てても、現場に差し押さえるべき財産が全くない、または法律上差し押さえられない場合、手続きは「執行不能」として終了します。実務上、執行不能に終わるケースは少なくありません。

執行不能となる主なケース
  • 室内にある財産が、生活必需品などの差押禁止財産のみだった場合。
  • 高価そうな物品があっても、リース品など債務者以外の第三者の所有物だった場合。
  • 財産の市場価値が著しく低く、売却しても執行費用を賄えないと執行官が判断した場合。

執行不能に終わった場合の費用負担

動産執行が執行不能に終わったとしても、手続きのために発生した費用は申立人である債権者の負担となります。債権を1円も回収できないまま、費用だけがかかってしまう「費用倒れ」のリスクがあることを理解しておく必要があります。

執行不能時に債権者が負担する費用
  • 裁判所への予納金: 執行官の日当や交通費など、実際にかかった分は返還されません。
  • 業者への実費: 鍵開け業者や運搬業者を依頼した場合、作業費は全額支払う必要があります。
  • 専門家への依頼費用: 弁護士などに依頼した場合の着手金や日当は、回収の成否にかかわらず発生します。

費用倒れを防ぐための事前調査と判断基準

費用倒れのリスクを避けるためには、申立て前の事前調査が極めて重要です。債務者の生活状況や事業内容を可能な限り調査し、換金可能な財産の存在についてある程度の見込みを立ててから実行を判断すべきです。

例えば、個人宅であれば高価なコレクションや多額の現金の存在が推測できる場合に、事業者であれば店舗の売上金が入金されるタイミングや、高価な在庫を保管している時期を狙うといった戦略が考えられます。動産執行は最後の手段と位置づけ、慎重に判断することが求められます。

動産執行に関するよくある質問

Q. 債務者が不在の場合、執行は中止ですか?

いいえ、債務者が不在でも執行は中止されません。執行官の権限に基づき、同行した鍵開け業者が強制的にドアを解錠して室内に立ち入ります。財産を隠されるのを防ぐため、債務者の立ち会いがなくても室内を捜索し、財産を差し押さえることが法的に認められています。

Q. 現場にある家族の所有物も差押え対象ですか?

差押えの対象は、あくまで債務者本人の所有物に限られます。同居する配偶者や子供など、家族の私物は対象外です。ただし、リビングにあるテレビのように誰の所有物か判別しにくい共有財産は、差し押さえられる可能性があります。その場合、家族は領収書などを示して自己の所有物であることを証明する必要があります。

Q. 予納金はいつ、どのように支払いますか?

予納金は、動産執行を裁判所に申し立てるタイミングで、管轄の裁判所が指定する方法(窓口での現金納付や銀行振込)で支払います。この予納金が納付されない限り、手続きは開始されません。手続き終了後に残額があれば、申立人に返還されます。

Q. 執行現場で現金が見つかった場合はどうなりますか?

現場で現金が発見された場合、差押禁止財産である66万円を超える部分については、その場で直ちに差し押さえられます。現金は物品と異なり換価(売却)の必要がないため、最も効率的に債権回収に充てることができます。回収された現金は、執行官が執行裁判所に提出し、配当手続きを経て債権者に交付されます。

Q. 債務者に事前に知られず実行できますか?

はい、動産執行は債務者に事前の通知をせず、不意打ちで実行するのが一般的です。事前に通知すると、債務者が財産を隠匿したり処分したりする恐れがあるためです。申立て後、執行日時は債権者と執行官の間で秘密裏に調整され、当日突然訪問する形で実施されます。

Q. 預金差押えなど、他の手段とどう使い分けるべきですか?

債権回収の実務では、まず預金や給与を対象とする「債権執行」を優先するのが基本です。債権執行は動産執行に比べて費用が安く、口座に預金があれば確実な回収が見込めるためです。動産執行は、債務者の預金口座が不明な場合や、口座残高が乏しい場合、あるいは自宅に踏み込むことで心理的圧力をかけ、交渉の糸口としたい場合の最終手段として位置づけるのが効果的です。

まとめ:動産執行の費用を理解し、費用倒れを防ぐ判断を

動産執行には、裁判所への予納金、弁護士など専門家への依頼費用、そして現場で発生しうる開錠や運搬などの実費がかかります。換金できる財産がなく執行不能に終わった場合でも、これらの費用は債権者負担となるため、費用倒れのリスクを常に念頭に置く必要があります。実行を判断する上で最も重要なのは、申立て前の事前調査であり、債務者の財産状況を可能な限り把握し、預金差押えなど他の回収手段と比較検討することが、費用対効果の高い債権回収につながります。最終的な実行の可否や戦略は個別の状況によって異なるため、一度弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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