人事労務

労働基準法119条の罰則を解説。対象となる違反行為と実務上の注意点

経営リスクナビ編集部

労働基準法第119条は、時間外労働や賃金未払いなど日常業務に直結する違反への罰則を定めており、企業経営者や労務担当者はその内容を正確に理解しておく必要があります。意図しない法令違反が、企業の信用失墜や「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」といった刑事罰につながるリスクをはらんでいます。この記事では、労働基準法119条の罰則対象となる具体的な違反行為や、企業が講じるべき実務対応について解説します。

労働基準法119条の罰則とは

条文の概要と罰則内容

労働基準法119条は、労働条件の最低基準に違反した使用者に対して刑事罰を定めた条文です。労働者の権利を保護し、企業に法令遵守を促すことを目的としています。具体的な罰則内容は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。なお、現在の「懲役刑」は、刑法改正により2025年6月1日から「拘禁刑」に変更されます。

この条文は、労働時間や割増賃金の未払いなど、日常の労務管理に深く関わる重要な規定違反に適用されます。是正勧告に従わないなど悪質なケースでは、書類送検や起訴に至り、刑事責任を問われる可能性があります。

第119条が適用される主な違反行為
  • 法定労働時間、休憩、休日に関する規定違反
  • 時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の未払い
  • 満18歳未満の年少者や妊産婦などに対する就業制限違反

罰則の対象者と両罰規定

罰則の対象となるのは、事業主や、労働時間の管理などについて具体的な権限を持つ「使用者」です。これには、経営者だけでなく、現場の管理職や人事担当者なども含まれる場合があります。

また、労働基準法には「両罰規定」が設けられています。これは、違反行為を行った担当者個人だけでなく、その事業主である法人や個人事業主に対しても罰金刑を科すという制度です。会社のために行われた違反行為の責任は、最終的な利益の帰属主体である企業も負うべきという考えに基づいています。ただし、事業主が違反防止のために必要な措置を講じていたことを証明できれば、処罰を免れる場合があります。

罰則の対象となる主な違反行為

強制労働の禁止違反(第5条)

労働基準法第5条は、暴行や脅迫など、精神または身体の自由を不当に拘束する手段を用いて、労働者の意思に反して労働を強制することを固く禁じています。これは労働基準法の中で最も重い罰則が科される違反行為であり、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」の対象となります。

強制労働とみなされる可能性のある行為の例
  • 労働者が退職を申し出たにもかかわらず、損害賠償をちらつかせて無理に働かせ続ける
  • 「研修費用の返済が終わるまで辞めさせない」などと主張し、退職の自由を妨げる
  • 過酷なノルマを課し、達成するまで執拗に帰宅を許さない

中間搾取の排除違反(第6条)

労働基準法第6条は、法律で認められた場合を除き、業として他人の就業に介入して利益を得る「中間搾取」を禁止しています。いわゆる「ピンハネ」行為を防ぎ、労働者が賃金の全額を直接受け取れるようにするための規定です。この規定に違反した場合、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます。

利益を得る手段は金銭に限らず、反復継続する意思があれば一度の行為でも「業として」とみなされる可能性があります。なお、労働者派遣法に基づく適法な人材派遣事業は、この中間搾取にはあたりません。

法定労働時間・休憩・休日の違反

労働基準法で定められた労働時間・休憩・休日のルールに違反した場合、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となります。企業は、36協定の締結と届出なしに法定労働時間を超える労働を命じることはできません。

主な違反内容
  • 法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて労働させる
  • 労働時間が6時間を超える場合に45分、8時間を超える場合に1時間の休憩を与えない
  • 毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の法定休日を与えない
  • 36協定を締結・届出せずに時間外労働や休日労働をさせる
  • 36協定で定めた上限時間を超えて労働させる

割増賃金の未払い(第37条)

時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働に対して、法律で定められた割増率で計算した賃金を支払わない場合、第37条違反となり「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。いわゆる「サービス残業」や、固定残業代制度の誤った運用による未払いは、典型的な違反例です。

労働の種類 法定割増率
時間外労働(法定労働時間超) 25%以上
時間外労働(月60時間超) 50%以上
休日労働(法定休日) 35%以上
深夜労働(22時~翌5時) 25%以上
割増賃金の種類と法定割増率

年少者・妊産婦等の就業制限違反

労働基準法は、特に保護を必要とする年少者や妊産婦などに対して、就業に関する特別な制限を設けています。これらの保護規定に違反した場合も罰則の対象となります。

主な違反と罰則
  • 児童(満15歳到達年度の3月31日終了まで)の使用:1年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 年少者(満18歳未満)の深夜業禁止違反:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 妊産婦等の危険有害業務の就業制限違反:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
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企業が違反しないための実務対応

勤怠管理の適正化と実態把握

労働基準法違反を防ぐ第一歩は、従業員の労働時間を客観的な方法で正確に把握することです。労働安全衛生法により、企業には労働時間を客観的に把握する義務が課されています。

勤怠管理のポイント
  • 推奨される方法:タイムカード、ICカード、パソコンのログイン・ログオフ記録など、客観的な記録を用いる。
  • 避けるべき方法:従業員の自己申告制は、実態との乖離が生じやすく、サービス残業の温床になり得るため慎重な運用が求められる。
  • 労働時間の範囲:始業前の準備、終業後の片付け、手待時間なども、使用者の指揮命令下にあれば労働時間として扱う。

賃金規定と支払方法の見直し

割増賃金の未払いを防ぐには、賃金規定や給与計算の仕組みが法的に正しいかを定期的に見直すことが重要です。

賃金規定の見直しポイント
  • 割増賃金の計算率が、法定の率(時間外25%、休日35%など)を満たしているか確認する。
  • 固定残業代制度を導入する場合、基本給と手当を明確に区分し、超過分は追加で支払うルールを徹底する。
  • 年俸制や歩合給制であっても、時間外労働などに対する割増賃金の支払い義務は免除されないことを理解する。
  • 賃金支払いの5原則を遵守し、社内監査などを通じて計算ミスや支払漏れを防ぐ。

36協定の適切な締結・運用

法定労働時間を超えて労働を命じるためには、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結と、労働基準監督署への届出が不可欠です。

36協定の運用における注意点
  • 届出の徹底:協定を締結しただけでは不十分で、労働基準監督署に届け出て初めて時間外労働が適法となる。
  • 代表者の選出:労働者の過半数代表者は、会社による一方的な指名ではなく、投票や挙手など民主的な手続きで選出する。
  • 上限時間の遵守:特別条項を設けた場合でも、法律で定められた絶対的な上限(月100時間未満、複数月平均80時間以内など)は超えられない。
  • 実態の管理:従業員ごとの残業時間をリアルタイムで把握し、上限に近づいた場合は業務量を調整するなどの対策を講じる。

定期的な法改正の把握と研修

労働関連法規は頻繁に改正されるため、常に最新の情報を入手し、社内体制を適応させることが不可欠です。時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金、有給休暇の取得義務化など、重要な改正を見落とすと、意図せず法令違反を犯すリスクがあります。人事労務担当者だけでなく、経営層や現場の管理職に対しても定期的な研修を実施し、組織全体で法令遵守の意識を高めることが求められます。

意図せぬ違反を防ぐための社内チェック体制の構築

日々の業務の中で意図せぬ違反が発生するのを防ぐためには、社内にチェック機能を設けることが有効です。

社内チェック体制の構築例
  • 人事部門などが各部署の労働時間や有給休暇の取得状況を定期的にモニタリングし、異常値を早期に発見する。
  • 従業員がサービス残業やハラスメントについて安心して相談・通報できる内部通報窓口を設置する。
  • 社会保険労務士や弁護士といった外部の専門家による労務監査を定期的に受け、客観的な視点でリスクを洗い出す。

労働基準監督署の調査と是正勧告への対応

労働基準監督署による調査(臨検監督)は、従業員からの申告などをきっかけに実施されます。調査を拒んだり虚偽の報告をしたりするとそれ自体が罰則の対象となるため、誠実に対応しなければなりません。調査の結果、法令違反が認められると「是正勧告書」が交付されます。是正勧告は行政指導であり、それ自体に法的強制力はありませんが、無視し続けると悪質と判断され、書類送検や企業名公表といった厳しい措置につながる可能性があります。

是正勧告を受けた場合の対応手順は以下の通りです。

是正勧告への対応フロー
  1. 労働基準監督署の調査に真摯に協力する。
  2. 交付された是正勧告書の内容を正確に理解し、指摘された違反状態を確認する。
  3. 速やかに具体的な改善策を策定し、実行する。
  4. 指定された期日までに、改善内容をまとめた「是正報告書」を提出する。

よくある質問

違反した場合、会社だけでなく担当者も罰せられますか?

はい、罰せられる可能性があります。労働基準法には両罰規定があるため、違反行為を直接行った管理職や担当者といった「行為者」個人が処罰されると同時に、その使用者である「法人(会社)」にも罰金刑が科されることがあります。

違反が発覚したら、すぐに処罰されるのでしょうか?

いいえ、直ちに刑事罰が科されるケースは稀です。通常は、まず労働基準監督署による調査と、改善を求める「是正勧告」(行政指導)が行われます。この勧告に従って誠実に改善すれば、刑事罰に至ることはほとんどありません。ただし、度重なる指導を無視するなど、悪質な場合は書類送検される可能性があります。

過失や知らなかった場合でも罰則対象になりますか?

「法律を知らなかった」という主張は、原則として罰則を免れる理由にはなりません。使用者には労働法規を遵守する義務があります。ただし、刑事罰が科されるには「故意」が必要とされることが一般的です。しかし、労働基準監督署から是正勧告を受けたにもかかわらず放置した場合は、違法性を認識していたとみなされ、故意が認定されやすくなります。

他の罰則規定(第118条、第120条)との違いは何ですか?

労働基準法の罰則は、違反行為の重大性に応じて段階的に定められています。

条文 罰則の上限 主な対象行為の例
第117条 1年以上10年以下の懲役等 強制労働の禁止違反
第118条 1年以下の懲役等 中間搾取の排除違反、児童の使用禁止違反
第119条 6か月以下の懲役等 時間外労働の上限違反、割増賃金未払い
第120条 30万円以下の罰金 労働者名簿等の書類作成・保存義務違反、就業規則の未届出
労働基準法の主な罰則規定の比較

まとめ:労働基準法119条の罰則を理解し、労務リスクを管理する

労働基準法119条は、時間外労働の上限違反や割増賃金の未払いなど、日常の労務管理における違反に対し「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を定めています。違反を防ぐ基本は、タイムカードなど客観的な記録による労働時間の適正な把握であり、これを怠ると意図せぬ法令違反につながります。まずは自社の勤怠管理や賃金規定が法的に問題ないかを確認し、不明な点があれば社会保険労務士などの専門家に相談することが重要です。労働基準監督署からの是正勧告を放置すれば、悪質と判断され刑事罰に発展する可能性もあるため、誠実に対応しなくてはなりません。労務コンプライアンスの徹底は、従業員を守り、企業の持続的な成長を支える経営基盤となります。

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