法務

労災の後遺障害12級、慰謝料の相場と逸失利益の計算方法

経営リスクナビ編集部

労災で後遺障害12級の認定を受け、今後の慰謝料や賠償金についてお調べではありませんか。労災保険からの一時金と会社への損害賠償は仕組みが複雑で、正しい知識がなければ適正な金額を受け取れない可能性があります。この記事では、後遺障害12級で受け取れるお金の全体像について、労災保険給付の内訳、会社に請求できる賠償金の相場と計算方法、具体的な手続きの流れまで分かりやすく解説します。

目次

後遺障害12級の認定対象となる症状

局部に残る頑固な神経症状(12級13号)

後遺障害12級13号は、事故が原因で体に痛みやしびれといった神経症状が残り、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として認定されます。代表例は、むちうち(頸椎捻挫や腰椎捻挫)などです。この等級が認定されるには、症状の存在を医学的に証明する必要があります。

具体的には、以下の要件を満たすことが求められます。

12級13号の主な認定要件
  • レントゲンやMRIなどの画像検査で、神経の圧迫や損傷といった客観的な異常所見が確認できること。
  • 医師による神経学的検査の結果が、画像所見と整合していること。

単なる自覚症状だけでは不十分で、症状の原因を医学的に証明できることが、14級との大きな違いです。

関節の機能障害(12級6号・7号)

事故による骨折や靭帯損傷などが原因で、腕や脚の関節の動かせる範囲(可動域)が狭まってしまった状態が、関節の機能障害です。後遺障害12級では、主要な関節の機能に障害が残った場合に認定されます。

等級 対象となる関節 認定基準
12級6号 肩・肘・手首のいずれか1つの関節 健常な側の関節の可動域の4分の3以下に制限されている
12級7号 股関節・膝・足首のいずれか1つの関節 健常な側の関節の可動域の4分の3以下に制限されている
12級の関節機能障害の対象部位

関節の可動域は角度で明確に測定できるため、医師による正確な測定結果と、それを裏付ける画像所見が認定の重要な根拠となります。

骨の変形障害(12級5号・8号)

事故で骨折した骨が、ずれたまま癒合するなどして変形が残った状態が、骨の変形障害です。

12級の骨変形障害の対象部位と基準
  • 12級5号: 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨または骨盤骨に、裸になったときに目で見て明らかにわかる程度の変形が残った場合。
  • 12級8号: 腕や脚の長管骨(腕や脚の長い骨)に変形が残った場合。

レントゲン写真で変形が確認できるだけでは足りず、外見からでも変形がはっきりとわかることが認定の重要な基準となります。

その他の代表的な症状例

後遺障害12級の対象となる症状は多岐にわたります。神経症状や関節・骨の障害以外にも、以下のような例が挙げられます。

12級に該当するその他の症状例
  • 片方のまぶたに著しい運動障害が残った場合
  • 7本以上の歯に対して歯科補綴(入れ歯など)を行った場合
  • 頭部や顔面など、人目につく部分に鶏卵大以上の傷跡(醜状障害)が残った場合
  • 片方の耳の耳殻の大部分を失った場合(欠損障害)

これらの症状が、どの程度労働や日常生活に支障を及ぼすかを総合的に評価し、等級が決定されます。

労災保険から受け取れる3つの一時金

後遺障害12級の認定を受けると、労災保険から3種類の一時金が支給されます。見出しの金額や日数は一般的な例であり、12級の具体的な内容は以下の通りです。

一時金の種類 12級の場合の支給額 会社への賠償請求時に控除されるか
障害(補償)一時金 給付基礎日額の156日分 控除される(逸失利益の一部とみなされる)
障害特別支給金 20万円(定額) 控除されない(お見舞金的な性質のため)
障害特別一時金 算定基礎日額の156日分 控除されない(ボーナス分への補償のため)
後遺障害12級で支給される労災保険の一時金

障害(補償)等給付:給付基礎日額の560日分

後遺障害12級の場合、給付基礎日額の156日分が障害(補償)一時金として支給されます。「給付基礎日額」とは、原則として事故発生直前3ヶ月間の賃金総額をその期間の暦日数で割った、1日あたりの平均賃金です。この一時金は、将来の収入減少を補う逸失利益の一部前払いと位置づけられるため、後に会社へ損害賠償を請求する際は、賠償額からこの金額が差し引かれます(損益相殺)。

障害特別支給金:257万円

後遺障害12級の場合、一律20万円の障害特別支給金が支払われます。これは被災労働者の社会復帰を支援するための特別なお見舞金という性質を持つため、等級が同じであれば給与水準にかかわらず同額です。損害の補填を目的としないため、会社への損害賠償請求において賠償額から差し引かれることはありません

障害特別一時金:算定基礎日額の560日分

後遺障害12級の場合、算定基礎日額の156日分が障害特別一時金として支給されます。「算定基礎日額」とは、事故発生以前1年間に支払われたボーナスなどの特別給与の総額を365日で割った額です。したがって、ボーナスを受け取っていない場合は支給されません。この一時金も障害特別支給金と同様に、会社への損害賠償額から差し引かれることはありません

会社へ請求できる損害賠償金の内訳

労災保険の給付だけでは、事故によって受けたすべての損害が補償されるわけではありません。会社に安全配慮義務違反などの責任がある場合、労災保険ではカバーされない損害について、会社へ損害賠償を請求することができます。

後遺障害慰謝料

後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償金です。労災保険の給付項目に慰謝料は一切含まれていないため、全額を会社に請求することになります。認定された後遺障害の等級に応じて、慰謝料の相場が定められています。

逸失利益

後遺障害によって労働能力が低下し、将来得られるはずだった収入が減少した分に対する補償です。労災保険から支給される障害(補償)一時金は、この逸失利益の一部に過ぎません。そのため、逸失利益の総額を計算した上で、すでに受け取った障害(補償)一時金を差し引いた不足分を会社に請求します。

入通院慰謝料

後遺障害慰謝料とは別に、ケガの治療のために入院や通院を余儀なくされたこと自体の精神的苦痛に対する賠償金です。この慰謝料も労災保険からは支給されないため、会社に全額請求できます。金額は、入通院の期間やケガの程度に応じて算定されます。

労災保険で不足する休業損害など

労災保険の休業(補償)給付は、平均賃金の6割(特別支給金の2割を加えても合計8割)しか補償しません。会社に責任がある場合、不足する賃金の約2割分を休業損害として請求できます。また、入院時にかかった諸雑費などで労災保険の給付範囲を超えるものも、請求の対象となる場合があります。

慰謝料・逸失利益の計算方法と相場

後遺障害慰謝料の相場(弁護士基準)

会社に請求する後遺障害慰謝料には複数の算定基準がありますが、過去の裁判例に基づく弁護士基準(裁判基準)が最も高額で適正な基準とされています。後遺障害12級の場合、弁護士基準での慰謝料相場は290万円です。

算定基準 慰謝料の目安額
自賠責基準 94万円
任意保険基準 100万円前後(保険会社による)
弁護士基準 290万円
後遺障害12級の慰謝料算定基準による金額の違い

会社側は低い基準で示談を提示してくることが多いため、弁護士基準で適正な金額を請求することが重要です。

入通院慰謝料の算定基準

入通院慰謝料は、入院期間と通院期間をもとに、裁判所で用いられる算定表(通称「赤い本」の基準)を使って計算します。算定表には、むちうちなどの比較的軽傷なケースで用いる「軽傷用」と、骨折などの「重傷用」の2種類があります。労災事故では、重傷用の基準が適用されるケースが多い傾向にあります

例えば、骨折で1ヶ月入院し、その後6ヶ月通院した場合、慰謝料の目安は約149万円となります。

逸失利益の計算式と労働能力喪失率

逸失利益は、以下の計算式で算出されます。

`基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数`

逸失利益の計算要素
  • 基礎収入: 原則として、事故発生前年の年収額です。
  • 労働能力喪失率: 後遺障害等級ごとに定められた、労働能力がどの程度失われたかを示す割合です。12級の場合は14%です。
  • 労働能力喪失期間: 症状が固定した日から、原則として就労可能な年齢とされる67歳までの年数です。
  • ライプニッツ係数: 将来にわたって受け取るはずだった収入を一時金として前倒しで受け取るため、将来発生する利息分を差し引く(中間利息控除)ための係数です。

逸失利益の労働能力喪失期間における注意点

後遺障害12級の労働能力喪失期間は、原則として67歳までとされますが、症状の内容によってはより短い期間に制限されることがあります。

症状による労働能力喪失期間の違い
  • 関節機能障害や骨の変形障害: 器質的な損傷であるため、原則通り67歳までの全期間が認められやすい傾向にあります。
  • むちうち等の神経症状(12級13号): 将来的に症状が軽減する可能性があると判断され、労働能力喪失期間が10年程度に制限されるのが一般的です。

会社側から不当に短い期間を主張されることもあるため、症状の永続性を医学的根拠に基づいて主張することが重要です。

【計算例】逸失利益の具体的な算定

年収600万円の40歳の方が12級7号の認定を受けた場合の、会社へ請求できる逸失利益を計算してみましょう。(労災から障害補償一時金として156万円を受け取ったと仮定します)

逸失利益の計算手順
  1. 逸失利益の総額を計算する

基礎収入600万円 × 労働能力喪失率14% × ライプニッツ係数18.327(40歳から67歳までの27年間)= 15,394,680円

  1. 労災保険給付を差し引く(損益相殺)
  2. 15,394,680円 - 障害(補償)一時金1,560,000円 = 13,834,680円

この計算例では、労災保険給付とは別に、会社に対して約1,383万円の逸失利益を請求できることになります。

会社への損害賠償請求の流れ

証拠の収集と損害額の算定

まず、会社の責任を明らかにするための証拠を収集し、請求する損害額を正確に計算します。労働者側が会社の過失(安全配慮義務違反など)と損害の内容を証明する必要があるためです。

収集すべき証拠の例
  • 会社の過失に関する証拠: 事故現場の写真、作業マニュアル、同僚の証言など
  • 損害額の算定に関する資料: 診断書、後遺障害等級認定通知、源泉徴収票など

この準備段階が、後の交渉を有利に進めるための鍵となります。

会社との示談交渉

証拠と請求額が固まったら、内容証明郵便を送付するなどして、会社との示談交渉を開始します。まずは訴訟を避け、当事者間の話し合いによる解決を目指すのが一般的です。会社側は、責任を否定したり、労働者側の過失(過失相殺)を主張してきたりすることが多いため、冷静な対応が求められます。

会社からの示談提示に応じる前の確認事項

会社から示談金の提示があっても、すぐに合意してはいけません。一度示談が成立すると、原則として覆すことはできないため、内容を慎重に確認する必要があります。

示談提示の確認ポイント
  • 慰謝料が弁護士基準で計算されているか。
  • 不当な過失相殺で減額されていないか。
  • 逸失利益の労働能力喪失期間が短く見積もられていないか。

提示内容に疑問があれば、安易に署名せず、専門家である弁護士に相談することが重要です。

労働審判や民事訴訟への移行

示談交渉で合意できない場合、裁判所を介した法的手続きに移行します。主な手続きには「労働審判」と「民事訴訟」があります。

  • 労働審判: 比較的短期間(原則3回以内の期日)で、調停による解決を目指す手続きです。
  • 民事訴訟: 労働審判で解決しない場合や、複雑な事案の場合に提起します。裁判官が法的な判断を下しますが、解決までには時間がかかる傾向があります。

弁護士に相談するメリットとタイミング

労災事故に遭った場合、事故後できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。専門家のサポートを得ることで、多くのメリットが期待できます。

弁護士に相談する主なメリット
  • 適切な後遺障害等級認定を受けるためのアドバイスがもらえる。
  • 会社との交渉をすべて任せることができ、精神的な負担が軽減される。
  • 慰謝料や逸失利益を弁護士基準(裁判基準)で請求し、賠償金の増額が期待できる。
  • 不利な条件で示談してしまうリスクを避けられる。

後遺障害12級に関するよくある質問

労災保険の一時金と会社の賠償金は両方もらえますか?

はい、両方受け取ることが可能です。ただし、同じ損害を二重に補償しないよう、一部調整が行われます(損益相殺)。

  • 慰謝料など: 労災保険からは支給されないため、全額を会社に請求できます。
  • 逸失利益: 労災保険の「障害(補償)一時金」が逸失利益の一部とみなされるため、逸失利益の総額から受け取った一時金の額を差し引いた差額分を会社に請求します。

会社に損害賠償を請求すると不利益な扱いを受けませんか?

正当な権利である損害賠償請求を理由に、会社が労働者に対して解雇や降格などの不利益な扱いをすることは法律で固く禁じられています。もしそのような扱いを受けた場合は、不当労働行為などとして別途法的な対抗措置をとることが可能です。報復を恐れて請求をためらう必要はありません。

受け取った賠償金や一時金に税金はかかりますか?

いいえ、原則として税金はかかりません。労災保険からの給付金も、会社から支払われる慰謝料や逸失利益などの損害賠償金も、所得ではなく損害の穴埋め(填補)とみなされるため、所得税や住民税の課税対象外となります。

後遺障害12級と14級の主な違いは何ですか?

最も大きな違いは、症状の存在を医学的に「証明」できるか否かです。

等級 認定基準 求められる根拠
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 医学的に証明できること(MRI等の画像所見と神経学的検査結果の一致など、客観的証拠が必須)
14級9号 局部に神経症状を残すもの 医学的に推測できること(症状の連続性や一貫性から、医学的に説明可能であれば認定の余地あり)
12級と14級(神経症状)の比較

このように、12級は14級に比べて認定のハードルが高い分、認定された場合の慰謝料や逸失利益は大幅に高額になります。

まとめ:後遺障害12級の適正な賠償金を知り、次の行動へ

労災で後遺障害12級が認定された場合、労災保険から3種類の一時金が支給されますが、精神的苦痛に対する慰謝料や、将来の収入減を十分に補う逸失利益は、会社へ別途請求する必要があります。会社への請求で最も重要なのは、慰謝料や逸失利益を最も高額で適正な弁護士基準(裁判基準)で算定することです。まずはご自身の症状や事故状況に関する証拠を整理し、会社からの提示内容が妥当か判断するために、早期に労災問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。本記事で解説した金額や計算方法はあくまで一般的な目安であり、個別の事情によって金額は大きく変わるため、専門家による具体的な診断が不可欠です。


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