法務

国税局の犯則調査|税務調査との違いと手続きの流れ、初期対応の要点

経営リスクナビ編集部

国税局による「犯則調査」は、通常の税務調査とは目的も権限も大きく異なり、企業の存続に直結する重大な手続きです。これは単なる税額の是正ではなく、刑事告発を最終目的とする強制捜査の性質を持つため、その実態とリスクを正確に把握しておくことが不可欠です。この記事では、国税犯則調査の定義や目的、税務調査との決定的な違い、調査の一連の流れから対象となりやすいケースまでを詳しく解説します。

国税犯則調査の基本

犯則調査とは?その目的と法的根拠

国税犯則調査とは、悪質な脱税者を摘発し、その刑事責任を追及することを目的とした強制力を伴う行政手続きです。一般の任意調査では実態解明が困難な、申告納税制度の根幹を揺るがす重大な租税法違反が対象となります。

犯則調査は国税通則法を法的根拠として実施されます。この法律に基づき、国税局の査察官(マルサ)などが証拠を発見・収集し、刑事責任を問うべきと判断した事案を検察官へ告発します。したがって、犯則調査は単なる税額の是正にとどまらず、公平な課税を実現し、国の財政基盤を守るための最終手段として位置づけられています。

国税犯則調査の概要
  • 目的: 悪質な脱税者を摘発し、刑事責任を追及する。
  • 性質: 強制力を伴う行政手続きであり、実質的な犯罪捜査。
  • 対象: 一般の任意調査では解明困難な、重大かつ悪質な租税法違反。
  • 法的根拠: 国税通則法。

悪質な脱税事件を刑事告発する手続き

犯則調査の最終的な目的は、収集した証拠に基づいて検察官へ刑事告発を行うことです。行政手続きである犯則調査で犯則事実の心証を得た場合、事案を刑事手続きに移行させる必要があります。

刑事告発までの手続き
  1. 証拠収集: 調査を通じて隠し口座や二重帳簿といった客観的な証拠を収集し、脱税の意図、不正手段、正確な脱税額を特定します。
  2. 告発: 国税局査察部が収集した証拠をまとめ、所轄の地方検察庁へ事案を引き継ぎ、告発します。
  3. 起訴・刑事裁判: 国税局によって告発された事案の大半は起訴され、刑事裁判における有罪率は極めて高い水準にあります。

このように、犯則調査は刑事罰を科すことを前提とした厳格な手続きであり、企業や経営者にとっては事業の存続を左右する重大な事態となります。

税務調査との決定的違い

目的の違い:任意協力と強制捜査

一般の税務調査と犯則調査の最も大きな違いは、その目的にあります。税務調査が適正な申告を促す任意協力を基本とするのに対し、犯則調査は刑事告発を最終目的とする強制捜査としての性質を持ちます。

項目 一般の税務調査 国税犯則調査
目的 申告内容の誤りを是正し、適正な課税を実現すること 悪質な脱税行為を立証し、刑事告発を行うこと
性質 納税者の任意協力を基本とする行政指導 刑事罰を科すことを前提とした強制捜査
結末 修正申告と追徴税(加算税・延滞税)の納付 検察官への告発、起訴、刑事罰
税務調査と犯則調査の目的の違い

権限の違い:令状に基づく強制力

両者は、調査担当者に与えられた権限の強さも全く異なります。犯則調査は、裁判官が発付する許可状(令状)に基づき、極めて強力な強制力を行使できる点が特徴です。

項目 一般の税務調査 国税犯則調査
根拠となる権限 質問検査権(任意調査) 裁判官の発付する許可状(令状)
強制力の有無 間接強制(正当な理由なく拒否すれば罰則)のみ 臨検・捜索・差押えといった直接的な強制力を持つ
対象者の同意 原則として必要 不要(施錠された金庫の解錠なども可能)
電磁的記録 質問検査権の範囲内での提出要求 記録媒体へのコピーを含めた強制的な差押えが可能
調査権限の比較

担当部署の違い:税務署と国税局査察部

通常の税務調査は、主に所轄の税務署や、資本金の大きな法人の場合は国税局の調査部が担当します。これに対し、犯則調査を専門に行うのは、国税局に設置された査察部、通称「マルサ」です。査察部には高度な調査能力を持つ国税査察官が所属しており、組織的に犯則事件の解明にあたります。

調査の種類 主な担当部署
一般の税務調査 所轄の税務署、または国税局調査部(大規模法人の場合)
国税犯則調査 国税局査察部(通称「マルサ」)
担当部署の比較

犯則調査の一連の流れ

①内偵調査:情報収集と分析

犯則調査は、対象者に気づかれないよう水面下で進められる内偵調査から始まります。これは、強制調査に踏み切るための確実な証拠を収集し、裁判所への令状請求を準備するために不可欠なプロセスです。

内偵調査における主な活動
  • 取引先や金融機関への照会調査
  • 対象者や関係者の行動確認(尾行など)
  • 廃棄物の回収・分析
  • 収集情報に基づく不正スキームの解明
  • 強制調査の実行計画(日時、人員配置など)の策定

②強制調査:臨検・捜索・差押え

内偵調査で脱税の嫌疑が固まると、裁判所の許可状を得て、対象者に事前通告なく一斉に強制調査が実施されます。これは、証拠隠滅を防ぐために極めて重要です。

強制調査では、査察官が本社や代表者の自宅などに同時に立ち入り、以下の活動を行います。

強制調査の主な内容
  • 臨検: 対象者の同意なく事業所や自宅に立ち入ります。
  • 捜索: 帳簿書類、現金、その他の証拠物を探し出します。
  • 差押え: 証拠物を強制的に確保します(PCやスマートフォンのデータも対象)。
  • 取調べ: 経営者や従業員から事情を聴取し、供述調書を作成します。

③告発:検察官への事件引継ぎ

強制調査によって脱税の証拠が十分に固まると、国税局は事案を検察官へ告発します。国税局には容疑者を逮捕・起訴する権限はなく、刑事罰を科すには検察の権限が必要となるためです。

告発から事件引継ぎまでのプロセス
  1. 証拠の最終分析: 押収資料や供述調書を精査し、脱税額や手口の悪質性を確定させます。
  2. 告発の判断: 国税局内部で告発基準に基づき最終判断を行います。
  3. 事件引継ぎ: 証拠物件とともに検察官へ事件を引き継ぎ、行政手続きから刑事手続きへと完全に移行します。

調査対象となりやすいケース

計画的かつ悪質な所得隠し

意図的に租税を免れるための計画的かつ巧妙な所得隠しは、犯則調査の最大の標的です。これらは単なる申告漏れとは異なり、申告納税制度に対する重大な背信行為と見なされます。

悪質な所得隠しの具体例
  • 二重帳簿の作成
  • ペーパーカンパニーを利用した架空経費の計上
  • 売上の一部を除外し、個人口座や貸金庫で隠匿
  • 他人名義の資産への偽装

社会的影響が大きい大規模な脱税

脱税額が巨額である事案や、社会的な注目度が高い業界での不正も、犯則調査の対象となりやすい傾向にあります。国税当局には、一罰百戒により他の納税者を牽制する狙いがあるためです。

対象となりやすい大規模脱税の要素
  • 脱税額の大きさ: 過去は1億円が目安とされましたが、現在は数千万円規模でも悪質性が高ければ対象となり得ます。
  • 社会的注目度: 世間の関心が高い著名人や大企業の事案。
  • 業界の健全性: 新興ビジネスや仮想通貨取引など、社会的に影響の大きい業界での不正に対する牽制。

消費税の不正還付や無申告

消費税制度を悪用した不正行為も、厳しく追及されます。不正還付は国庫から資金を詐取する行為、無申告は納税義務の根本的な放棄と見なされるためです。

消費税関連で対象となる主な不正行為
  • 不正還付: 架空の輸出取引を装い、消費税の還付を不正に受ける行為。
  • 不正還付: ペーパーカンパニーとの架空仕入を計上し、仕入税額控除を不正に適用する行為。
  • 意図的な無申告: 多額の課税売上がありながら、故意に申告・納税義務を怠る行為。

国際取引を利用した租税回避

海外の法人や金融口座を利用して巧妙に資産を隠し、日本の課税を逃れる国際的な租税回避スキームも、重要な調査対象です。国税当局は各国の税務当局との情報交換制度を活用し、調査能力を強化しています。

国際取引を利用した租税回避の例
  • 実体のない海外子会社への架空コンサルティング料の支払い
  • タックスヘイブン(租税回避地)の法人を利用した所得の移転
  • 海外の金融機関に開設した秘密口座での資産隠匿

通知後の初期対応と注意点

調査の現場における基本的な心構え

犯則調査が実施された場合、パニックに陥って不適切な対応をとると、状況をさらに悪化させる危険があります。冷静かつ毅然とした態度で臨むことが極めて重要です。

現場での基本姿勢
  • 冷静な対応: 突然の調査でも動揺せず、毅然とした態度を保ちます。
  • 令状の確認: 調査官の身分、容疑事実、捜索範囲を正確に確認します。
  • 適正手続きの要求: 捜索範囲外の資料の押収には、その旨を明確に指摘します。
  • 事実に基づく応答: 取り調べには、憶測を避け、事実のみを淡々と述べます。

弁護士・税理士への速やかな相談

強制調査の着手後、直ちに専門家の支援を求めることが不可欠です。犯則調査は税務と刑法の両方にまたがる高度な事案であり、自社のみでの対応は極めて困難です。

税理士と弁護士が連携して対応にあたる必要があります。

専門家 主な役割
税理士 税務面での対応(押収資料の把握、修正申告の要否検討など)
弁護士 刑事手続きへの対応(取調べへの助言、告発・逮捕の阻止、刑の軽減に向けた弁護活動など)
専門家の役割分担

虚偽答弁や証拠隠滅の法的リスク

調査の過程で虚偽の説明をしたり、不利な証拠を隠滅したりする行為は絶対に避けるべきです。これらの行為は、事態を破滅的な方向へ導く可能性があります。

厳禁される行為とそのリスク
  • 虚偽答弁: 調査官に嘘の説明をすること。
  • 証拠隠滅: 書類の改ざん、PCデータの削除、関係者への口裏合わせの指示など。
  • 法的リスク: 逮捕・勾留の可能性が飛躍的に高まり、重加算税(最大40%)が課される要因となります。

調査当日の社内体制と従業員への指示

突然の強制調査による社内の混乱を最小限に抑えるため、指揮命令系統を即座に確立し、従業員へ適切な指示を出すことが重要です。

調査当日の社内対応
  • 対応窓口の一本化: 責任者を定め、調査官とのやり取りを集約します。
  • 従業員への指示徹底: 事実のみを回答し、推測で話さないよう周知します。
  • 情報共有体制の確立: 取り調べを受けた従業員から速やかに内容をヒアリングし、会社として状況を把握します。

取引先への調査波及と事業継続リスク

犯則調査の影響は自社のみならず、取引先や金融機関にも波及し、事業の継続に深刻なダメージを与える可能性があります。不正の全容解明のため、関係先への反面調査が徹底的に行われるからです。

事業継続における主なリスク
  • 信用の失墜: 調査の事実が外部に知れ渡り、企業の評判(レピュテーション)が著しく損なわれます。
  • 取引の停止: 取引先からの契約打ち切りや、金融機関からの融資停止・引き揚げ。
  • 事業資格の剥奪: 公共事業の入札参加資格停止など、事業機会を喪失します。
  • 反面調査による関係悪化: 取引先に調査が及ぶことで、関係が悪化する可能性があります。

よくある質問

犯則調査と警察の捜査の違いは?

国税犯則調査は脱税という特定の犯罪(租税犯)に特化している点で警察の捜査と異なりますが、その手法や強制力の面では非常によく似ています。どちらも実質的には犯罪捜査として機能します。

項目 国税犯則調査 警察の捜査
対象犯罪 租税犯(脱税など)に特化 刑法犯全般
捜査手法 令状に基づく臨検・捜索・差押え、取調べなど、刑事訴訟法に準じた手法 刑事訴訟法に基づく捜査(捜索・差押え、逮捕、取調べなど)
犯則調査と警察の捜査の比較

調査の際に黙秘権は行使できますか?

いいえ、犯則調査において黙秘権は認められていません。黙秘権は刑事訴訟法で保障された被疑者の権利ですが、犯則調査は行政手続きであるため、直接適用されないと解されています。調査対象者には質問に答える受忍義務があり、正当な理由なく答弁を拒否したり虚偽の答弁をしたりすると、法律に基づく罰則が科される可能性があります。

調査が入ると必ず逮捕・起訴されますか?

必ずしも全員が逮捕されるわけではありません。証拠隠滅や逃亡の恐れがないと判断されれば、身柄を拘束されずに在宅のまま捜査が進むこともあります。しかし、犯則調査を経て検察庁へ告発された事案は、起訴される可能性が極めて高いです。これは、国税局が有罪の確証を得てから告発するためであり、その後の刑事裁判での有罪率は極めて高い水準にあります。

「マルサ」とは国税局査察部のことですか?

はい、その通りです。「マルサ」とは国税局査察部を指す通称(隠語)です。かつて組織内で査察の「査」の字を丸で囲んで表記したことに由来すると言われています。悪質な脱税事件の摘発と刑事告発を専門とする部署であり、強制的な権限を持つことから、納税者にとって最も恐れられる存在の一つです。

まとめ:国税犯則調査のリスクを理解し、万が一に備える

本記事で解説した通り、国税犯則調査は適正な課税を目的とする税務調査とは異なり、刑事告発を前提とした強制捜査です。裁判所の令状に基づく臨検・捜索・差押えといった強力な権限を持ち、その対象は計画的で悪質な所得隠しや社会的に影響の大きい事案に重点が置かれます。万が一調査が開始された場合、初動対応が極めて重要であり、虚偽答弁や証拠隠滅は事態を悪化させるため絶対に避けなければなりません。自社の税務処理に少しでも懸念がある場合は、状況が深刻化する前に税理士や弁護士などの専門家に相談し、コンプライアンス体制を再点検することが賢明です。犯則調査は事業の継続や社会的信用(レピュテーション)に計り知れない影響を与えるため、そのリスクを正しく理解し、備えておくことが不可欠です。



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