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訂正報告書に対する監査報告書|要否と実務指針103号の判断軸

経営リスクナビ編集部

訂正報告書の作成を検討する局面では、訂正報告書に添付(または再発行)される監査報告書をどう扱うかが、開示の正確性だけでなくスケジュールと上場維持リスクに直結します。財務諸表等の訂正が「軽微」と見えても、監査人のリスク評価や「その他の記載内容」の整理次第で、監査範囲や監査報告書の記載が拡張し、手続や合意形成が長期化し得ます。特に初動で発覚から3営業日以内に事実関係と証拠を整理できないと、受嘱判断・監査計画が重くなり、提出・開示の設計に手戻りが生じやすくなります。以下では、訂正報告書の判断材料として監査報告書の要否・範囲と、監査人と連携する際の実務上の要点を示します。

目次

訂正報告書と監査報告書の位置付け

訂正報告書と訂正後財務諸表の関係

訂正報告書は、過去に提出した有価証券報告書や四半期報告書等に重要な虚偽記載(重要な誤謬・不正等)が判明した場合に、当該開示を公的に是正するための書類です。そもそも有価証券報告書・四半期報告書には財務諸表の掲載が求められ(有価証券報告書は金融商品取引法第24条6項(金融商品取引法第24条)等、四半期報告書は金融商品取引法第24条の4の7第1項(金融商品取引法第24条の4の7)等)、掲載された財務諸表は監査証明を受ける必要があります(金融商品取引法第193条の2第1項(金融商品取引法第193条の2))。したがって、訂正報告書の中核は、訂正後財務諸表(訂正再表示後の財務諸表)であり、訂正の要否・範囲の検討は、単なる数値の差替えにとどまらず、開示制度上の位置付けと不可分です。

実務では、訂正が特定の勘定科目の修正に見えても、連結貸借対照表・連結損益計算書・注記事項の整合性を保つ必要があります。特に過年度遡及(過去の会計期間の数値を修正再表示する考え方)を伴う場合は、影響が期首残高や関連注記へ波及し得るため、財務諸表全体の首尾一貫性を監査人と同じ視点で検証することが重要です。

また、財務諸表以外の記載(いわゆる「その他の記載内容」)も、監査の設計に影響します。改訂監査基準報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(2021年1月14日公表)により、監査報告書で独立した区分「その他の記載内容」を設けて記載する取扱いが明確化され、2022年3月31日以降終了する連結会計年度・事業年度に係る監査から適用されています。訂正後財務諸表の作成だけでなく、訂正に付随して有報の記述(MD&A等)にも修正が及ぶ場合は、監査人が「監査の過程で得た知識」とその他の記載内容の重要な相違を検討する点も見据えて、社内で整合性を取る必要があります。

監査報告書が必要な場合と不要な場合

訂正報告書に監査報告書(または四半期レビュー報告書)が必要かは、訂正が財務諸表等(数値・会計方針・重要な注記等)に及ぶか、また訂正後の財務諸表に対して監査証明を要するかで整理します。監査証明は、有価証券報告書については監査報告書、四半期報告書については四半期レビュー報告書により行われ(監査証明府令第3条)、意見・結論の類型は監査証明府令第4条で整理されています。

区分 監査報告書(意見) 四半期レビュー報告書(結論)
1 無限定適正意見 無限定の結論
2 除外事項を付した限定付適正意見 除外事項を付した限定付結論
3 不適正意見 否定的結論
4 意見不表明 結論の不表明
監査報告書・四半期レビュー報告書の意見/結論の類型(監査証明府令4条)

一方、財務諸表等の数値や重要な注記に影響しない訂正(例:役員略歴の表記、設備の概要の転記、単純な誤字脱字等)であれば、訂正報告書のみで足り、監査報告書の再発行が不要となり得ます。ただし「軽微」の判断は、金額基準だけではなく質的要素(投資判断への影響、ガバナンス上の含意等)も含むため、会社の独断は避け、監査人と再監査の要否と判断根拠を事前に合意して文書化しておく必要があります。

さらに実務上は、監査報告書の意見が3または4(不適正意見・意見不表明)に該当する場合、東京証券取引所は一定の条件の下で特設注意市場銘柄に指定し得るほか(上場規程503条1項2号b)、市場秩序維持の観点から上場廃止とする枠組みもあります(上場規程601条1項8号等)。監査人が監査報告書(または四半期レビュー報告書)を提出しないケースでは、法定期限経過後1か月の間(提出期限延長がある場合は延長期間経過後8営業日目まで)に提出できないと上場廃止となる取扱いも規定されています(上場規程601条1項7号・上場規則601条7項1号)。訂正の監査対応は、開示の正確性だけでなく、上場維持リスクも踏まえて管理する必要があります。

訂正報告書が必要となる判断

提出が必要となる典型的な訂正箇所

訂正報告書の提出が問題となりやすいのは、収益認識、棚卸資産評価、固定資産の減損、税効果会計、見積り(貸倒引当金等)など、損益や財政状態に直結する領域です。これらは投資判断への影響が大きく、監査人が識別する重要な虚偽表示リスク(監査が実施されていない状態で財務諸表に重要な虚偽表示が存在するリスク)とも結び付きやすい領域です。

参照事例として、東証プライム上場で決算期3月のソフトウェア開発・販売会社(京都府宇治市本社)のケースでは、2023年4月に監査手続の中で、監査法人から「大阪府堺市所在の取引先への販売取引のうち、納入の事実が確認できないものがある」との指摘を受けています。取引の実在性(納入事実)に疑義が生じると、売上計上だけでなく、売掛金の回収可能性、関連する契約・検収資料、内部統制の運用状況にまで検討が及び、訂正の要否判断が一気に重くなります。

また、誤謬訂正に過年度遡及が絡む場合、税務面の論点も出ます。国税庁は「法人が『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を適用した場合の税務処理について」(平成23年10月20日)を公表しており、会計上の訂正が税務申告(更正・還付等)にどのように連動するかは、監査対応と並行して検討が必要です。

軽微な修正との線引きと開示判断

軽微か否かの線引きは、金額的な重要性だけでなく、質的な重要性(投資判断への影響、経営者による内部統制の無効化の疑い、継続企業の前提への波及等)を組み合わせて判断します。監査実務の用語でいえば、重要な虚偽表示リスクは「財務諸表全体レベル」と「アサーション・レベル」の2段階で識別され、前者は経営者の内部統制の無効化のように、多数のアサーションに広く影響するリスクを含みます。会社側が「単純ミス」と捉えていても、統制無効化の兆候があると評価されれば、訂正の範囲や監査手続が拡張されやすくなります。

また、訂正が財務諸表以外の記載に限られる場合でも、改訂監査基準報告書720(2021年1月14日公表)の枠組みでは、監査人はその他の記載内容を通読するだけでなく、監査の過程で得た知識との重要な相違の検討を行います。したがって、訂正の対象が「非財務情報の文章」だとしても、監査で把握した事実(例:取引実在性の疑義、内部統制上の問題)と矛盾する記載になっていないか、会社側で事前に整合性レビューを行うことが、監査人協議を円滑にします。

開示判断の根拠は、監査人との協議内容も含め、社内で文書化しておく必要があります。特に上場会社・上場準備会社では、取締役会・監査役等(監査役会、監査等委員会等)への説明責任があり、後日の当局対応や投資家説明の観点からも、判断プロセスの証跡が重要です。

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訂正後の監査の進め方

新たな監査契約と監査人の受嘱判断

訂正後財務諸表に対する監査は、通常の定期監査の延長ではなく、訂正後財務諸表に対して合理的保証を与えるための枠組みとして、実質的に新規の監査契約として整理されるのが一般的です。訂正局面では、監査人は監査リスクを再評価し、どの水準の監査証拠が必要かを組み直します。

受嘱判断では、経営者の誠実性、調査への協力状況、統制環境の有効性等が厳しく見られます。過去の粉飾決算事件では、同一監査人が長年担当することで馴れ合いが生じ、独立性に疑義が生じたのではないかと指摘された経緯があり、金融庁の懲戒処分でも、依頼会社・子会社を長期間担当したメンバー中心のチーム構成がガバナンスへの過信につながった旨が指摘されています。訂正対応では、この種の懸念を踏まえて、監査チームの体制や品質管理(審査体制等)の説明・運用がより重視されやすい点を、会社側も前提としておく必要があります。

加えて、会計監査人の継続性に関する開示の論点もあります。会計監査人は株主総会で一度選任されると原則として再任とみなされ(会社法第338条2項(会社法第338条))、会社法施行規則は事業報告で会計監査人の解任・不再任の決定方針の記載を求めています(会社法施行規則126条4号)。訂正局面で監査人交代や辞退が絡む場合、形式的な契約の問題にとどまらず、ガバナンス開示上の説明の整合も論点になります。

虚偽表示リスク評価と監査計画への反映

訂正監査では、発覚した誤謬・不正の原因を踏まえて、重要な虚偽表示リスクを再識別し、監査計画に反映させます。重要な虚偽表示リスクは「財務諸表全体レベル」と「アサーション・レベル」に区分され、アサーション・レベルは固有リスクと統制リスクで構成されます。訂正対応の局面では、まさにこの再評価が監査範囲を決めます。

監査人がリスクを識別・評価するために実施するリスク評価手続には、質問、分析的手続、観察・閲覧、他の情報源の検討、監査チーム内の討議などが含まれます。会社側は、監査人の手続が「訂正箇所の再計算」にとどまらないことを前提に、追加質問や追加資料要請が来ても説明可能な状態を整えておく必要があります。

また、訂正項目に直接関係する科目だけでなく、同一プロセスに依存する科目や類似取引への波及(例:売上の実在性問題が出た場合の売掛金・リベート・在庫評価への波及)を見込んだ上で、監査人と論点整理を行うことが、後工程の手戻りを減らします。個別論点としては、上も「個別財務諸表項目の修正の検証」が挙げられており、個別・連結の両面で、修正の妥当性と表示の妥当性(注記を含む)をセットで検討することが実務上の要点になります。

監査人に初動相談する前に、会社側が3営業日以内に整理すべき事実関係と資料

初動相談に入る前提として、会社側は発覚から3営業日以内を目安に、客観的事実と基礎資料を整理し、監査人に提示できる状態にしておくことが重要です。初期的調査の実務では、目的(何を確かめるための調査か)を明確化した上で、基本的事実関係の把握、証拠の保全・収集、広がりや影響の把握へ進むことが整理されています。

3営業日以内に最低限そろえる整理項目(初期的調査の観点)
  • 発覚の経緯と時系列(いつ・誰が・何を把握したか)
  • 関与した役職員の範囲と組織的関与の有無(個人逸脱か統制上の問題か)
  • 影響対象期間(どの連結会計年度・事業年度に波及するか)
  • 影響する勘定科目・注記の候補(売上、売掛金、棚卸、引当、税効果等)
  • 訂正影響額の現時点での概算と算定根拠(仮置きである旨を含めて明確化)
  • 証拠の保全・収集状況(契約書、納品・検収、メール、仕訳データ等)
  • 監査役等からの報告・認識(常勤監査役・監査委員・監査等委員からの報告を含む)

この段階で資料が揃っていないまま相談を開始すると、監査人は監査リスクを高めに見積もり、受嘱判断や監査計画が重くなる傾向があります。逆に、事実と証拠の保全ができていると、監査人は論点を切り分けやすくなり、開示スケジュール(EDINET提出・TDnet開示を含む)を現実的に設計しやすくなります。

訂正後財務諸表の監査論点

対象期間と重要性判断の決め方

訂正監査の対象期間は、実務上「どの開示書類を訂正する必要があるか」と直結し、結果として監査手続の範囲・深度に影響します。加えて、提出期限の制度理解も重要です。有価証券報告書は原則として事業年度終了後3か月以内(延長承認により延長可能)で、根拠は金融商品取引法第24条1項柱書(金融商品取引法第24条)です。四半期報告書は原則45日以内(延長承認により延長可能)で、根拠は金融商品取引法第24条の4の7第1項(金融商品取引法第24条の4の7)です。訂正の検討では、この「何をいつまでに出すべきか」の前提が、監査人との作業計画に直結します。

重要性(マテリアリティ)の基準値は、訂正前ではなく訂正後の財務数値を前提に再検討されます。訂正で利益や純資産が減少すれば、重要性の基準値が下がり、従前は重要性が乏しいとして深掘りしていなかった取引・注記が追加検証対象になり得ます。会社側としては、訂正後数値に基づく重要性の再設定により「監査が追加で必要になる領域が増える」ことを織り込み、工数・資料準備・関係部署の巻き込みを早期に行う必要があります。

内部統制への影響と関係会社への波及

重要な訂正が必要となった場合、財務報告に係る内部統制に不備があった可能性が高く、グループ統制や連結決算プロセスにも点検が及びます。特に、売上の実在性に疑義がある、在庫評価が歪められている、といった事象は、単一拠点の問題に見えても、親会社の子会社管理、関係会社からの報告資料の閲覧、連結調整のレビューといった統制プロセスの有効性が問われます。

監査実務上も、監査人は企業理解・内部統制理解の過程で、観察・文書閲覧や他の情報源の検討を行い、重要な虚偽表示リスクを再評価します。会社側は、影響が疑われる関係会社について、報告パッケージ、取引証憑、権限規程、IT統制の運用記録など、監査人が統制評価・実証に使う情報の所在と取得経路を整理し、提出の遅延が生じないように手当てする必要があります。

会計上の誤謬で済む案件と不正リスク前提で監査範囲が広がる案件の分かれ目

会計上の誤謬(意図的でない誤り)として収束し得るか、会計不正(意図的な虚偽表示)を前提に監査範囲が拡張するかは、意図的な偽装・隠蔽の兆候の有無が分水嶺になります。「会計不正」を一般に意図的な虚偽表示としつつ、便宜上「不適切な会計処理」と区別せず会計不正と呼ぶ整理が示されていますが、実務の監査計画では、この峻別が手続の重さを左右します。

例えば「納入の事実が確認できない取引」が見つかったケースでは、単純な計上時期の誤りではなく、契約書の整合、検収の実在、証憑の真正性、取引先との反面確認(外部確認)など、実在性・網羅性に関する手続が大幅に増える可能性があります。さらに、経営者による内部統制の無効化リスクが疑われる場合は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクが上がり、特定部門に限らず複数アサーションに波及する前提で監査が設計されます。

加えて、後発事象の観点(修正後発事象が適切に修正されない、開示後発事象が適切に注記されない等)も訂正局面では重要です。訂正作業の過程で新事実が判明した場合、当期の財務諸表・開示に反映すべきものが混在しやすいため、会社側も「訂正対象(過年度)」と「当期反映(後発事象)」の切り分けを監査人と合意して進める必要があります。

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監査報告書の記載と監査人対応

訂正理由と以前の意見との関係整理

訂正後財務諸表に対して監査報告書が発行される場合、過去に表明された監査意見と、訂正に至った理由との関係が、利用者に誤解が生じない形で整理されます。監査証明は金融商品取引法第193条の2第1項(金融商品取引法第193条の2)に基づく開示制度の根幹であり、訂正により新たな監査証明を付す以上、「何が対象で、何に意見を述べているのか」を明確にする必要があるためです。

訂正後の監査報告書では、監査対象が訂正後財務諸表であることを明示し、必要に応じて以前に発行した監査報告書の日付や、訂正の理由を記載した注記への参照を行うことで、以前の監査報告と今回の監査報告の射程を区別します。これにより、過去の監査報告が存在する事実と、訂正後数値に対する合理的保証の付与が、読み手にとって切り分けて理解できる形になります。

また、改訂監査基準報告書720(2021年1月14日公表)以降は、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設けて記載することが求められています。訂正局面では、有報本文の記述(その他の記載内容)も訂正対象となり得るため、監査報告書上の記載区分との整合(どの開示を「その他の記載内容」として扱うか)も、監査人と事前に擦り合わせておくことが実務上のポイントです。

強調事項区分と記載上の留意点

財務諸表の注記で訂正理由・訂正内容が適切に開示されている場合、監査人は監査報告書で利用者の注意を喚起するための記載(強調事項等)を検討します。訂正という事実は利用者の理解に重要であり、注記参照を促すことが適切と判断されることがあるためです。

ただし、改訂監査基準報告書720の枠組みでは、監査報告書上の記載として、改訂前のように「未修正の重要な相違がある場合のみその他の事項に記載」ではなく、常に独立した区分「その他の記載内容」を設けて記載する取扱いが明確化されています。したがって、訂正局面で監査報告書の文言を検討する際は、

訂正局面で監査報告書の記載を詰めるときの実務上の確認点
  • 訂正理由・訂正内容を記載した注記への参照関係が明確か
  • 訂正が「監査意見そのものを変更する追記」なのか「注記参照による注意喚起」なのかの整理ができているか
  • 「その他の記載内容」の対象範囲(有報本文やアニュアルレポート等を監査対象とする場合の扱い)を監査人と合意できているか
  • 監査役等への事前説明・協議の段取り(草案レビューの場、決裁経路)が確保されているか

といった点を、監査人・監査役等・開示担当(経理、法務、IR)の三者で並行して詰める必要があります。

前任監査人と現任監査人の連携

訂正対象期間中に会計監査人が交代している場合、前任監査人と現任監査人の連携が不可欠です。過年度の監査判断や監査調書(当時入手した監査証拠・結論)の状況を正確に把握できなければ、訂正後の監査で十分かつ適切な監査証拠を確保することが難しくなるためです。

実務としては、会社が三者協議の場を設定し、現任監査人が前任監査人に対して監査調書の閲覧や論点ヒアリングを求め、訂正金額の期間配分や会計処理の論点の認識合わせを行います。監査人側も、長期担当による馴れ合い懸念が指摘されてきた背景を踏まえ、チーム体制や品質管理の観点から、引継ぎの適切性と独立性に配慮した進め方が求められます。

連携が不十分だと、手続の重複や見解の不一致が発生し、EDINET提出・TDnet適時開示のスケジュールに遅延が出るだけでなく、監査意見の取りまとめ自体が難航し得ます。会社側は、調書閲覧の可否・範囲、守秘の枠組み、責任分界(誰がどの期間を監査するか)を早期に整理し、監査人同士の対話が進む環境を整える必要があります。

訂正報告書提出後の会社対応

社内意思決定から提出と開示までの流れ

訂正報告書の提出は、事実確定、修正数値の確定、社内承認、監査報告書の受領、EDINET提出、TDnet開示といった工程を、整合性を保って進める必要があります。提出期限の制度として、有価証券報告書は原則3か月以内(金融商品取引法第24条1項柱書(金融商品取引法第24条))、四半期報告書は原則45日以内(金融商品取引法第24条の4の7第1項(金融商品取引法第24条の4の7))という枠組みがあるため、訂正対応でも「監査手続に必要な時間」と「開示上の期限管理」を同時に満たす計画が必要です。

訂正報告書提出までの社内プロセス(実務上の標準的な流れ)
  1. 事実関係の確定(初期的調査→影響範囲の特定→原因分析)
  2. 訂正方針の決定(訂正対象年度・修正再表示の要否・開示方針の整理)
  3. 訂正後財務諸表等と訂正報告書ドラフトの作成(注記・MD&A等の整合を含む)
  4. 監査人との協議(監査の要否、監査範囲、監査報告書文言、その他の記載内容の扱い)
  5. 監査役等との協議(草案レビュー、統制不備・再発防止策の説明)
  6. 取締役会承認(訂正報告書案・訂正後財務諸表等・関連開示の決議)
  7. 監査報告書(または四半期レビュー報告書)の最終受領(監査証明府令の枠組みを踏まえる)
  8. EDINET提出とTDnet適時開示の同日運用(同刻開示の体制を敷く)

TDnetは東京証券取引所が提供する適時開示システムで、上場会社はTDnetで開示し、開示日を含めて31日間は無償で閲覧できる取扱いとされています。訂正局面では、投資家説明の一貫性のため、EDINETの法定開示とTDnetの適時開示の整合が特に重要になります。

内部統制報告書と継続監査への影響

重要な訂正が発生した場合、内部統制(財務報告に係る内部統制)の評価結果や開示内容にも影響します。会社としては、訂正の原因が統制の設計不備・運用不備・統制環境の問題(経営者による無効化を含む)なのかを切り分け、是正状況を説明できる状態にする必要があります。

また、監査人は重要な虚偽表示リスクを「財務諸表全体レベル」と「アサーション・レベル」で識別し、統制リスクの評価に応じて統制への依拠度合いを調整します。したがって、訂正後に内部統制が改善されるまでの期間は、監査人が統制への依拠を下げ、実証手続(取引実査や外部確認等)が増える可能性があります。会社側は、監査工数・資料要求が増えることを前提に、改善策の実装と運用証跡の整備(運用結果報告を含む)を優先課題として進める必要があります。

EDINET提出とTDnet適時開示を同日に動かす場合の役割分担と確認順序

EDINET(法定開示)とTDnet(適時開示)を同日に実施する場合、担当部門の役割分担と確認順序を明確にし、同刻開示を実現する運用設計が重要です。TDnetは開示日を含め31日間無償閲覧できるため、市場参加者が最初に目にする情報になりやすく、両者の記載差異は直ちに信頼毀損につながります。

同日開示の役割分担(典型例)
  • 経理・連結決算担当が訂正後財務諸表等とEDINET提出データの作成を主担当する
  • 法務・開示担当が訂正理由・リスク情報・注記の整合と提出書類の形式チェックを主担当する
  • IRがTDnetの適時開示文(訂正決算短信、正誤表等)の作成・登録を主担当する
  • 監査役等・内部監査が統制不備の説明と再発防止策の記載整合をレビューする
同日開示の確認順序(実務上の事故を減らすための手順)
  1. 取引所への事前相談事項を整理し、開示の粒度・表現の方向性を社内で統一する
  2. 取締役会決議に向けた最終ドラフトを確定し、数値・注記・本文の整合を一括で突合する
  3. 監査人から監査報告書(または四半期レビュー報告書)を最終受領し、添付対象・日付等の形式を確認する
  4. TDnet登録内容の最終承認を取り、送信時刻・担当者・バックアップ手順を確定する
  5. TDnetの開示処理完了とほぼ同時にEDINET提出を実行し、公開後の表示確認を分担して行う

訂正後に再訂正へ発展しやすい会社の共通点と、提出前レビューで止める確認項目

再訂正に発展しやすいのは、開示期限の圧力から「論点の切り分け」より「提出を急ぐ」判断が先行し、影響範囲の洗い出しや証拠の保全が不十分なまま部分修正にとどめてしまうケースです。初期的調査では、証拠の保全・収集、広がりや影響の把握が重要と整理されていますが、ここが弱いと、後から追加事実が出て訂正範囲が拡張し、再訂正につながります。

提出前レビューで再訂正を止めるための確認項目
  • 修正仕訳が波及する勘定科目と注記の連動(表示の妥当性を含む)を突合しているか
  • 個別・連結の両方で修正の整合が取れているか(連結相殺消去や未実現利益の論点を含む)
  • 訂正対象と後発事象の切り分けができているか(網羅性・表示の妥当性の観点)
  • 訂正理由の説明が監査の過程で得た知識と矛盾しないか(改訂監査基準報告書720の観点)
  • 関係会社からの報告資料・証憑の閲覧により、類似取引の有無を横断確認したか
  • 監査役等からの報告・指摘事項が開示・再発防止策に反映されているか

外部専門家のレビューを入れるか否かにかかわらず、社内で「数値」「注記」「本文(その他の記載内容)」「統制不備の説明」が同じ事実関係に基づいているかを、提出前に一括で突合する体制が重要です。

よくある質問

訂正報告書を提出する場合は、必ず監査が必要ですか?

必ずしも一律ではなく、訂正の対象が財務諸表等に及ぶかで整理します。有価証券報告書・四半期報告書には財務諸表の掲載義務があり(有価証券報告書は金融商品取引法第24条6項(金融商品取引法第24条)等、四半期報告書は金融商品取引法第24条の4の7第1項(金融商品取引法第24条の4の7)等)、掲載された財務諸表は監査証明を受ける必要があります(金融商品取引法第193条の2第1項(金融商品取引法第193条の2))。

したがって、連結財務諸表・個別財務諸表の金額や会計方針、重要な注記等に訂正が及ぶ場合は、監査人が訂正後財務諸表について監査証拠を再収集し、監査報告書(四半期の場合は四半期レビュー報告書)で監査証明を行うことが通常です。一方、役員略歴の誤記や単なる誤字脱字等で財務諸表等に影響しない場合は、監査が不要となり得ますが、「軽微」の判断は必ず監査人と協議して根拠を残す必要があります。

軽微な注記漏れでも監査報告書の再発行は必要ですか?

注記漏れが軽微で、投資判断への影響が乏しいと評価できる場合は、監査報告書の再発行が不要となり得ます。ただし、監査報告書には改訂監査基準報告書720(2021年1月14日公表)に基づく「その他の記載内容」の区分が設けられるなど、監査報告書上の記載枠組みが整理されているため、注記漏れが「財務諸表の表示の妥当性」に関わるのか、それともその他の記載内容に関連する問題なのかを切り分けた上で、監査人と合意形成することが重要です。

また、軽微性は金額だけでなく質的要素で判断されます。監査の過程で得た知識との重要な相違が生じるような注記漏れであれば、改訂720の趣旨からも看過されにくく、結果として監査手続や監査報告書の記載の検討が重くなる可能性があります。

訂正の監査は既存の監査契約に含まれますか?

一般に、訂正後財務諸表に対する監査は、当初の監査報告書発行をもって履行が完了した定期監査契約とは切り分けて、追加の監査業務(実質的に新たな監査契約)として整理されます。訂正局面では監査人が重要な虚偽表示リスクを再評価し、リスク評価手続(質問、分析的手続、観察・閲覧、監査チーム内討議等)を含む追加手続を見積もるため、会社側は監査時間・監査報酬・提出スケジュールへの影響を早期に織り込む必要があります。

前任監査人がいる場合、誰が訂正後を監査しますか?

前任監査人が当初の監査意見を表明している期間が訂正対象に含まれる場合、当該期間について前任監査人が訂正後の監査に関与することが実務上は多いです。前任監査人は当時の監査調書や判断経緯を保有しており、訂正金額の期間配分や論点の背景把握に資するためです。

ただし、前任監査人が受嘱を辞退する場合等には、現任監査人が引継ぎを受けて対応する可能性もあります。このとき、前任・現任・会社の三者で、調書閲覧や論点ヒアリングの枠組みを整え、監査の重複や見解不一致による遅延を避けることが重要です。加えて、長期担当による馴れ合い懸念が指摘されてきた背景も踏まえ、独立性と品質管理に配慮した情報共有の設計が求められます。

訂正報告書への対応で次にすべきこと

訂正報告書に監査報告書(または四半期レビュー報告書)が必要かは、訂正が財務諸表等に及ぶか、そして訂正後財務諸表として監査証明を要するかで整理し、会社の独断ではなく監査人との合意形成を前提に進める必要があります。実務上は、改訂監査基準報告書720により「その他の記載内容」の扱いも監査設計に影響するため、数値・注記だけでなく有報本文の修正範囲まで含めて整合性を点検します。初動では発覚から3営業日以内を目安に、時系列、影響対象期間、証拠の保全状況などの客観的事実と資料を揃え、監査人がリスク評価と監査計画を組める状態にすることが、手戻りと遅延の抑制につながります。次のアクションとして、経理・法務・IR・監査役等を巻き込み、提出・開示(EDINET/TDnet)の段取りと監査報告書の記載(強調事項や「その他の記載内容」区分を含む)を同時並行で詰める体制を整えることが重要です。個別案件の軽微性や監査範囲の判断は事情により変動するため、最終的には監査人や必要に応じて専門家に相談しながら進めてください。



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当社は、日本最大級の法人データベース「Musubu」において国内1200万件超の企業情報を掲げ、企業の変化の兆しを捉える情報基盤を整備しています。

加えて、与信管理・コンプライアンスチェック・法人確認を支援する「Riskdog」では、年間20億件のリスク情報をAI処理、日々4000以上のニュース媒体を自動取得、1.8億件のデータベース等を活用し、取引先の倒産・不正等の兆候の早期把握を支援しています。

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