法務

退職勧奨の退職金相場は?|上乗せ額と合意条件の決め方

経営リスクナビ編集部

退職勧奨の退職金(上乗せ・解決金)の水準と条件設計で迷っていると、就業規則・法令・裁判例との整合が取れないまま交渉が進み、合意の不安定化や前例化といった実務上の不利益が生じやすくなります。とくに解雇の枠組み(30日前予告等)や、税務で「退職所得の受給に関する申告書」が未提出の場合に20.42%の源泉徴収となる点まで見落とすと、提示額と手取りのズレが紛争の火種になり得ます。放置せず、規程退職金と任意の解決金を切り分け、社内決裁・合意書・支払フローまで一貫した説明可能性を持たせる必要があります。以下では、退職勧奨時の金銭設計の判断材料として退職金・解決金の位置づけとリスク管理の要点を示します。

目次

退職勧奨の退職金の位置づけ

退職勧奨の退職金と解決金の違い

退職勧奨で扱う金銭は、(1)就業規則・退職金規程等に基づく退職金(退職手当)と、(2)合意退職の成立を目的として任意に設計する解決金(特別退職金・退職合意金等)に分けて整理するのが安全です。前者は「退職という事実」と「規程に定めた支給要件」を満たすことを根拠に発生し、後者は「合意の条件」として個別に成立します。

また、退職金が争点になった場合、従業員側は退職金請求の前提として、雇用契約の存在退職の事実退職金の定めの存在を立証する必要があり、実務上は就業規則・退職金規程や過去の退職金明細書などが資料になり得ます(東京高決平成19年10月9日・労判959号173頁、東京高決平成21年11月16日・判タ1323号267頁)。このため、会社側も「規程に基づく退職金」と「任意の解決金」を別建てで合意書に記載し、根拠と性質を切り分けておくことが、後日の認識齟齬や紛争化を抑えるうえで有効です。

合意書での区分の実務ポイント
  • 退職金は「退職金規程に基づき算定した金額」として算定根拠(条項・計算要素)を残します。
  • 解決金は「退職勧奨に応じる合意形成の対価」として任意金銭であることを明確にします。
  • 支給目的が異なる金銭を混在させず、項目を分けて記載します。

退職金の支払義務が生じる場面

退職金は法律上「必ず支払うもの」とは限らず、まずは退職金制度の有無が前提になります。制度(就業規則・労働契約・労働協約・退職金規程等の定め)が存在しない場合、未払退職金の「確定」自体ができず、会社に当然に支払義務が生じる構造ではありません。

一方で、支払義務が問題になり得る典型は次のとおりです。

退職金の支払義務が発生し得る典型
  • 就業規則・退職金規程等に支給要件・算定方法等が明文化され、当該従業員が要件を満たす場合(賃金としての性格が強くなります)。
  • 明文化が薄くても、客観的に明らかな算定基準で退職金が反復継続して支払われ、労使双方が暗黙のルールとして認識している労使慣行が成立している場合。

退職金請求の局面では、「会社に制度があるのか」「規程等から請求額を算定できる資料があるのか」が実務上の分水嶺になります。会社としては、退職勧奨の設計時点で、規程に基づく支給部分と、任意に上乗せする部分の境界を先に確定しておくことが重要です。

就業規則と退職金規程の確認

就業規則と退職金規程の読み方

退職勧奨に着手する前に、就業規則・退職金規程の条項を「誰に」「いくら」「いつ」「どう払うか」まで分解して確認します。退職手当に関する定めを置く場合、就業規則には、適用範囲決定・計算方法支払方法支払時期といった要素を記載して運用することが前提となります(労働基準法第89条)。

退職金規程チェックの実務手順
  1. 適用範囲(正社員のみ、一定雇用形態を除外等)を確認し、対象者が支給対象かを確定します。
  2. 支給要件(最低勤続年数、懲戒・自己都合の減額条件等)を条項ベースで整理します。
  3. 算定基礎(基本給、平均賃金、ポイント制など)と係数テーブル(勤続年数・職種等)を抽出します。
  4. 支払方法・支払時期(退職日、最終給与日、翌月払い等)を確認し、実務フローに落とします。
  5. 過去の退職金明細書等がある場合は、規程運用が一貫していたかを照合し、慣行リスクも把握します。

退職金請求が訴訟等に発展した場合、就業規則・退職金規程、過去の退職金明細書などが「退職金の定め」の立証資料になり得るとされています(東京高決平成19年10月9日・労判959号173頁、東京高決平成21年11月16日・判タ1323号267頁)。したがって、会社側の交渉ベースラインは「規程に基づき算定した本来の退職金」を先に確定し、その上で解決金の設計に進むのが実務上の安全策です。

離職理由と規程適用を切り分ける

退職勧奨で合意退職に至った場合でも、雇用保険上の離職理由と、社内の退職金規程上の区分は自動的に一致しません。離職票(離職理由)は所定給付日数や給付制限に影響するため、注意書きとして「所定給付日数・給付制限の有無に影響を与える場合があり、正確に記載してください」とされており、実務でも形式的に合わせにいく運用は避けるべきです。

参照資料の類型でも、離職理由には「希望退職の募集又は退職勧奨」「事業の縮小又は一部休廃止に伴う人員整理」など複数の選択肢が整理されており、会社側は「主たる離職理由を1つ選択し、具体的事情欄に事情を記載する」運用が前提とされています。つまり、雇用保険上の整理は行政手続であり、退職金規程の「会社都合・自己都合」の定義とは別問題です。

この切り分けを踏まえると、雇用保険上は実態に即して退職勧奨等の類型で記載しつつ、退職金支給は規程の定義に従って自己都合水準を適用し、差額を解決金として任意に設計して合意する、という組み立てが可能です。重要なのは、どの区分を適用したのかを合意書・社内決裁の双方で説明できる形にしておくことです。

規程にない上乗せを行うとき、取締役決裁・稟議書に残す判断項目

規程にない上乗せ(解決金)を支払う場合、意思決定の合理性を説明できるよう、決裁・稟議に判断項目を残します。とくに「他の従業員よりも多い金銭」を安易に支払うと、社内公平・ガバナンスの観点だけでなく、以後の退職事案での前例化リスクも高まります。

また、交渉局面で相手方から過大な金銭要求が出ること自体は起こり得るため、会社としては「過剰に(他の従業員よりも多く)支払うことがないようにすべき」という整理を前提に、上限設定と例外基準を明文化しておくのが安全です。なお、過剰な退職金等の要求行為がエスカレートする場合には、事実関係と就業規則上の評価次第で、解雇理由の一つとして検討対象になり得る、というリスク整理も社内では共有しておく必要があります(実際に解雇に踏み切るかは別途慎重な検討が必要です)。

稟議に残す判断項目(実務で揉めやすい点)
  • 規程退職金の算定額(条項・勤続年数・算定基礎・係数など)と、上乗せ部分の区分を明示します。
  • 上乗せの目的(合意退職の成立、紛争コスト抑制、引継ぎ確保等)と、目的に対する相当性を整理します。
  • 「過剰支給を避ける」観点から、類似事案との比較軸(役職・勤続・退職理由・会社帰責性)を置きます。
  • 交渉過程の記録(提示案、相手の要求、持ち帰り判断)を残し、その場即答を避けた経緯を示します。
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退職勧奨の退職金相場

相場を左右する判断要素

解決金(上乗せ)の金額は法定の算式がなく、最終的には合意で決まります。ただし、金額の「ブレ」を小さくするには、会社側の判断要素を先に棚卸しし、稟議・交渉・合意書で同じロジックを使うことが有効です。

解決金の金額が動く実務要素
  • 規程退職金の有無と算定結果(制度がない場合は「未払退職金の確定」自体ができません)。
  • 過去の支給実績(過去の退職金明細書等があり、慣行として認識され得るか)。
  • 相手の要求の性質(合理的な補償要求か、過剰要求か)と、社内公平への影響。
  • 交渉の進め方(その場で即答しない、持ち帰り検討する、複数人で対応する等の基本動作)。

とくに「過剰に(他の従業員よりも多く)支払うことがないようにすべき」という観点は、相場感の出発点になります。支払う場合でも、規程退職金+解決金の合計が、社内の説明可能性を失う水準に達していないかを必ず点検します。

最低水準を考える基準

最低水準を「数字の相場」として固定してしまうと、根拠の弱い要求合戦になりがちです。実務では、(1)法令上の最低限の支払義務が生じ得る領域と、(2)紛争回避のための任意の補償領域に分け、前者を踏み外さない設計が重要です。

法令面では、解雇に踏み切る場合に解雇予告(または解雇予告手当)が問題となり、少なくとも30日前の予告等の枠組みが定められています(労働基準法第20条)。退職勧奨は解雇ではないものの、従業員から見れば「応じないと解雇されるのでは」という圧迫が生じやすく、交渉の最低ライン設計では、この法定枠組みとの整合を意識しておくことが紛争予防になります。

また、有給休暇の扱いは合意形成に直結します。年次有給休暇は法定の制度であり(労働基準法第39条)、退職日設定や引継ぎ都合で消化が難しい場合、未消化分をどう処理するか(消化のための退職日調整、または金銭補填を解決金に含める等)を、条件として明確にします。

モデルケースで算定する

解決金の設計は、会社側の「説明可能性」を担保するため、積み上げ式でモデル化しておくと運用が安定します。ただし、再就職までの平均期間など、根拠のない数値を置くと逆に争点化するため、社内で説明できる根拠(規程差額、解雇予告枠組み、有給の取扱い等)に寄せて組みます。

根拠がぶれにくい積み上げの作り方
  1. 規程退職金がある場合は、まず規程どおりに算定し「退職金」として確定します(制度がない場合はこのステップ自体が置けません)。
  2. 解雇の法定枠組み(30日前予告等)を踏まえ、交渉の最低ラインを社内で設定します(労働基準法第20条)。
  3. 年次有給休暇(労働基準法第39条)の未消化が見込まれる場合、退職日調整で消化させるか、消化できない部分の補填を解決金の設計要素として明確化します。
  4. 相手方から過剰要求が出た場合に備え、「過剰支給を避ける」上限・例外基準を稟議で固定し、その場即答を避けて持ち帰り判断します。

このように、法令・規程・行政手続で「既に枠組みがある要素」を中心に積み上げると、従業員の納得感と会社側の統制(支払上限・説明可能性)を両立しやすくなります。

支払わない場合のリスク

上乗せなしで合意が崩れる場合

解決金の上乗せをしないこと自体は直ちに違法ではありませんが、退職合意が「自由意思に基づくもの」と認められないリスクが高まる点は実務上の注意点です。退職合意が争われる場面では、面談の態様や説明内容、持ち帰り検討の機会の有無など、手続の相当性が厳しく見られます。

また、退職金(規程退職金を含む)を支給する場合、会社が従業員の貸付金等と相殺したいという論点が出ることがあります。しかし、賃金の全額払いの原則(労働基準法第24条)との関係で、相殺は無制限にできるわけではありません。少なくとも、書面による賃金控除協定がある場合(労働基準法第24条ただし書)や、合意による相殺が労働者の自由意思に基づくものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合(最二小判平成2年11月26日・民集44巻8号1085頁)といった整理が前提になります。上乗せなしで合意が不安定な状況で相殺まで持ち込むと、後から「自由意思」を争われやすくなるため、支払・清算の設計はより慎重に行う必要があります。

解雇移行で紛争化する場合

退職勧奨がまとまらないからといって、直ちに解雇へ移行する設計は危険です。解雇は客観的合理性と社会通念上の相当性が求められ(労働契約法第16条)、能力不足等を理由にする場合でも、指導・改善機会・配置転換等の回避努力が不足していると無効判断につながり得ます。

参照資料でも、退職勧奨・合意解除の交渉局面では「相手からの不当要求が出ることがある」「その場で即答せず持ち帰る」「相手が用意した書面に署名しない」など、交渉の基本動作を徹底する必要があるとされています。退職勧奨の失敗から解雇へ移行すると、これまでの交渉経緯(発言・態様・記録)がそのまま不利な証拠になり得るため、早期に「冷静な交渉の枠組み」を作り、拙速な解雇移行を避けることが重要です。

拒否後に面談を続けると違法性が強まる線引き:回数・参加者・発言記録の残し方

拒否後の面談は、違法性(退職強要・ハラスメント等)が問題化しやすく、回数の目安を機械的に置くよりも、運用の型を決めて記録で担保するほうが安全です。

参照資料の交渉実務では、少なくとも次のような行動規範が推奨されています。これは退職勧奨でも同様に、面談の適法性・任意性を裏付ける要素になります。

拒否後の面談で「任意性」を守る運用の型
  • 面談は必ず複数人で臨み、後日の言った言わないを防ぐため記録の役割分担を明確にします。
  • 面談場所は密室を避け、自社オフィスの会議室等の管理可能な場所やオープンスペースを選びます。
  • 相手の要求にその場で即答せず、必ず持ち帰って検討し、決裁権限者を同席させない運用も検討します。
  • 相手が用意した書面にその場で署名せず、会社側の合意書案で整理します。

上記に加え、発言は「退職しなければ解雇する」といった断言を避け、あくまで会社の評価・配置や業務の見通しを事実ベースで説明し、退職は本人の選択であることを繰り返し確認することが重要です。

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退職勧奨の交渉と合意書

提示タイミングと交渉の進め方

金銭条件は、最初に提示して「買収」に見せてしまうより、経緯説明と選択肢提示を先に置いた方が合意の安定性が高まります。交渉では、相手の反応に応じて即答せず、社内の判断手続に乗せることが、過剰要求・前例化を防ぐうえでも重要です。

参照資料の合意解除交渉の整理でも、相手から金銭等の不当要求が出る可能性があるため、(1)複数人で臨む、(2)交渉場所を相手方拠点にしない、(3)その場で即答せず持ち帰る(決裁権限者を同席させない)、(4)相手が用意した書面に署名しない、といった基本動作が推奨されています。退職勧奨でも同様に、交渉の「型」を先に作り、面談記録と決裁記録で支えることが、合意の任意性と会社の説明可能性を高めます。

有給休暇と再就職配慮の扱い

有給休暇は法定制度であり(労働基準法第39条)、退職勧奨の条件設計では「金額」だけでなく「退職日までの消化設計」をセットで提示するほうが合意に近づきます。消化が難しい場合に金銭補填で調整するかどうかはケースバイケースですが、少なくとも「何日を消化し、何日をどう扱うか」を合意書に落とし、運用の齟齬を防ぎます。

また、再就職配慮は紛争予防上の実益があります。参照資料では、再就職支援として同業他社の求人情報を収集して提供すること、年配で再就職が難しい場合に起業支援として設備・備品を安価に譲渡すること、場合によっては事業の譲渡という支援もあり得ることが示されています。金銭一辺倒ではなく、こうした支援策を「選択肢」として提示することで、合意形成の余地が広がります。

条件設計に組み込みやすい非金銭条件(参照資料に沿う例)
  • 同業他社の求人情報を収集し、本人に提供して再就職の負担を下げます。
  • 起業を希望する場合、会社保有の設備・備品を安価に譲渡する支援を検討します。
  • 事業譲渡型の支援を行う場合は、取引先へ説明し取引継続の働きかけもセットで検討します。

退職合意書と清算条項の定め方

退職合意書は、金額合意だけでなく「後で争われない形」に整えることが目的です。参照資料が示すとおり、退職金が争点化した場合、就業規則・退職金規程・過去の退職金明細書などが立証資料になり得るため(東京高決平成19年10月9日・労判959号173頁、東京高決平成21年11月16日・判タ1323号267頁)、会社側も支給根拠を文書で固定します。

合意書に必ず落とすべき事項(実務上の最低限)
  • 合意解除であること、退職日、最終出勤日(必要なら有休消化日程)を特定します。
  • 退職金(規程に基づく金員)と解決金(任意金員)を別項目で記載し、支払日・振込先を明記します。
  • 会社貸与物の返還、データ取扱い、私物の回収方法など、退職後のトラブル源を手当てします。
  • 清算条項は抽象的にせず、未払賃金・残業代・慰謝料等を含めて精算する趣旨を当事者が理解できる形で記載します。

加えて、退職金との相殺(貸付金等)があり得る場合は、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)との関係で、書面による賃金控除協定や自由意思に基づく合意相殺の要件(最二小判平成2年11月26日・民集44巻8号1085頁)を満たすかを確認し、安易に「相殺する」とだけ書かないことが重要です。

退職金支給の税務と実務対応

退職所得控除と課税区分の確認

退職勧奨に伴う金銭が税務上どの区分になるかは、名目ではなく実態で判断されます。退職所得として処理する場合、会社が「退職所得の受給に関する申告書」を受領しているかどうかで、源泉徴収の取り扱いが大きく変わります。

参照資料にある退職所得金額の計算は、退職手当等の区分ごとに整理されています。

退職手当等の区分 退職所得金額
一般退職手当等 (一般退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
特定役員退職手当等 特定役員退職手当等の収入金額-退職所得控除額
短期退職手当等(差引額≦300万円) (短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
短期退職手当等(差引額>300万円) 150万円+{短期退職手当等の収入金額-(300万円+退職所得控除額)}
退職所得金額の計算(参照資料の整理)

また、「特定役員退職手当等」は役員等としての勤続年数が5年以下の人が受ける退職手当等であること、「短期退職手当等」は(役員等以外の期間で計算した)勤続年数が5年以下に対応するもの等であることが注記されています。対象者の属性(役員該当性・勤続年数)で課税計算が変わり得るため、合意書の名目だけで判断せず、給与・役員区分を含めて事前に整理します。

支払方法と社内フローの整え方

支払実務は、税務書類の回収・計算・支払・証憑保管までを一連で設計します。参照資料のとおり、「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合、会社は退職金の額面総額に対し20.42%の税率で源泉徴収しなければならない取り扱いになります。従業員の手取りが想定より減ると合意が揺らぐ原因にもなるため、申告書の交付・回収はスケジュール管理が必須です。

退職金(解決金含む)支払の社内フロー(最低限)
  1. 退職日・支払日・支給項目(退職金/解決金/未払賃金等)を合意書で確定します。
  2. 「退職所得の受給に関する申告書」を速やかに交付し、退職日までの回収期限を設定します。
  3. 申告書の有無に応じて源泉徴収計算の前提が変わる点(未提出時は20.42%の源泉徴収)を、本人にも事前説明します。
  4. 振込先・支払承認(稟議)・支払証憑の保管を、人事・経理で二重チェックします。

一括払いと分割払いはどちらが安全か:税務・資金繰り・合意不履行リスクで比較する

支払方法は、税務上の区分・資金繰り・不履行リスクの観点で比較し、合意書に落とします。参照資料が示す退職所得計算の枠組みは「退職手当等」として一時に支給される性質を前提に整理されているため、分割設計は課税関係がずれやすい点に注意が必要です。

観点 一括払い 分割払い
税務(退職所得の枠組み) 退職手当等として整理しやすく、参照資料の計算枠組みに乗せやすい 退職手当等の実態性が争点になりやすく、区分誤りのリスクが上がります
社内統制 支払時点で債権債務を終結させやすい 支払管理が継続し、担当者交代・遅延・漏れの運用事故が起きやすい
合意不履行リスク 履行完了により合意の安定性が高まりやすい 会社側の支払遅延があると、合意違反として紛争が再燃しやすい
一括払い/分割払いの実務比較(主要リスク)

加えて、退職金との相殺(貸付金等)が絡む場合は、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)との整合が必要であり、書面の賃金控除協定または自由意思に基づく合意相殺の要件(最二小判平成2年11月26日・民集44巻8号1085頁)が満たせるかを、支払方法の設計とセットで検討することが重要です。

よくある質問

退職勧奨でも退職金規程がない場合に解決金だけ支給できますか?

可能です。退職金制度が存在しない場合、未払退職金の「確定」をする前提がなく、従業員に規程退職金の請求権が当然に発生する構造ではありません。一方で、退職勧奨を合意で成立させるために、任意の解決金を個別合意として支給することは設計上可能です。

ただし、参照資料が指摘するとおり、金銭要求が出た場合でも「過剰に(他の従業員よりも多く)支払うことがないようにすべき」という統制は重要です。解決金だけで運用する場合ほど、前例化しやすいため、稟議で上限・例外基準を先に決め、合意書で「解決金は任意の合意金であり、規程退職金とは別建て」であることを明確にします。

問題行動が多い従業員にも退職金や解決金の上乗せは必要ですか?

一律に「必要」とは言えませんが、早期に合意退職を成立させる観点では、解決金の提示が交渉手段として機能する場面はあります。

他方で、参照資料には「過剰な退職金等の支払いを要求してきた場合、当該過剰要求行為を解雇理由の1つとして解雇することも考えられる」という整理もあり、要求の態様次第では会社側のリスク評価が変わり得ます。したがって、問題行動があるケースほど、(1)規程・就業規則に基づく事実整理、(2)交渉の記録化、(3)過剰支給を避ける上限統制、を整えたうえで、支払うとしても「支払う合理性」を稟議で言語化しておくことが重要です。

提示した退職金額に従業員が納得しない場合、どこまで交渉すべきですか?

「どこまで」は社内統制の問題であり、交渉前に上限と例外基準を決めておくのが安全です。参照資料が示すとおり、自主退職を促す局面で金銭要求が出ても、過剰に(他の従業員よりも多く)支払うことがないようにすべきであり、これを超える要求に安易に応じると前例化・公平性崩壊につながります。

交渉のやり方としては、参照資料の合意解除交渉の整理に沿い、要求にその場で即答せず持ち帰る(決裁権限者を同席させない)、相手が用意した書面に署名しない、複数人で臨んで記録化する、といった基本動作で「引き上げの線」を守ることが実務上のポイントです。

解決金で未払い残業代やハラスメント請求もまとめて合意できますか?

私法上の金銭債権は合意で精算できる余地がありますが、後から争われないよう、清算条項の設計と証跡化が重要です。参照資料の退職金請求に関する整理でも、請求金額を算定できる資料の提出が必要とされるなど、紛争化すると「何を、いくら、どの根拠で」という立証の世界になります。

そのため、清算条項は抽象的に「一切」だけで済ませず、未払賃金・未払残業代・慰謝料等が解決金に含まれるのか、含まれるなら相互に放棄する趣旨なのかを、当事者が理解できる形で具体化し、合意書本文に落とし込みます。さらに、退職金との相殺が絡む場合は賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)との整合や、自由意思に基づく合意相殺の要件(最二小判平成2年11月26日・民集44巻8号1085頁)も踏まえて、条項設計を行う必要があります。

退職勧奨への対応で次にすべきこと

退職勧奨の退職金設計は、まず「規程に基づく退職金」と「任意の解決金」を別建てで整理し、就業規則・退職金規程と過去資料からベースラインを確定することが出発点になります。そのうえで、解雇の法定枠組みである30日前予告等(労働基準法第20条)や、有給休暇(労働基準法第39条)の取扱いを条件に織り込み、合意書・稟議・面談記録まで同じロジックで説明できる形にします。支払実務では、「退職所得の受給に関する申告書」未提出時に20.42%の源泉徴収となる点を含め、手取り見込みのズレが出ないよう社内フローを先に整えることが重要です。次のアクションとして、規程の条項確認(適用範囲・支給要件・算定・支払時期)と、上乗せをする場合の上限・例外基準の決裁化、合意書の清算条項と相殺要件(労働基準法第24条)の点検をセットで進めてください。個別案件の相当性判断や条項設計は事実関係で結論が変わり得るため、必要に応じて弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談する前提で運用するのが安全です。



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