法務

イラスト無断使用の損害賠償はいくら?著作権侵害訴訟の流れと対処法

経営リスクナビ編集部

他人のイラストを無断使用してしまい、訴訟や高額な損害賠償を請求されるリスクは、企業活動において無視できない問題です。著作権侵害は、意図せず発生することもありますが、その法的責任は免れません。この記事では、著作権侵害の法的根拠から、警告書への対応、訴訟プロセス、賠償額の算定基準、そして加害者・被害者それぞれの立場で取るべき具体的な対処法までを詳しく解説します。

イラスト無断使用と著作権侵害

著作権侵害となる法的根拠

他人が作成したイラストを無断で使用する行為は、著作権侵害にあたる違法行為です。著作権法では、思想や感情を創作的に表現したイラストや写真などを「著作物」として保護しています。著作物は、作成された時点で自動的に著作者に権利が発生し、登録などを必要としない「無方式主義」が採用されています。

著作者の許諾なく他人のイラストをウェブサイトに掲載したり、印刷物に使用したりする行為は、著作権に含まれる権利を侵害します。

著作権に含まれる主な財産的権利
  • 複製権: 著作物をコピーする権利
  • 公衆送信権: インターネットなどを通じて著作物を公衆に送信する権利
  • 譲渡権: 著作物の原作品や複製物を譲渡する権利

著作権を侵害した場合、民事・刑事の両面で責任を問われる可能性があります。特に法人が事業として侵害行為を行った場合、行為者だけでなく法人自身も重い罰金刑を科される両罰規定が適用されるため、企業はコンプライアンス体制の構築が不可欠です。

著作権侵害に対する法的措置
  • 民事上の請求: 侵害行為の差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求など
  • 刑事罰: 10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(故意の場合)、またはその両方
  • 法人への両罰規定: 3億円以下の罰金

「無断使用」に該当する具体例

「無断使用」とは、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用する行為全般を指します。特にビジネスシーンでは、著作権への理解不足から意図せず侵害してしまうケースが少なくありません。

「無断使用」に該当する主なケース
  • 画像検索で見つけたイラストを、許諾なく自社のウェブサイトやSNS、販促物に使用する。
  • 他社のウェブサイトやブログに掲載されているイラストや文章を、そのまま自社コンテンツに転載する。
  • 外部の制作会社が、権利関係を確認せずにフリー素材と誤認して他人の著作物を使用してしまう。
  • 購入した素材やフリー素材を、利用規約で定められた範囲(例:商用利用の可否、利用期間)を超えて使用する。

自社で制作したもの以外のイラストや画像を利用する際は、必ず著作権の所在と利用条件を確認し、必要に応じて書面で許諾を得るなど、慎重な対応が求められます。

侵害の例外となる「引用」の条件

著作権法では、一定の条件を満たす場合に限り、例外的に他人の著作物を許諾なく利用できる「引用」を認めています。これは文化の発展を目的とした規定ですが、適法な引用と認められるためには、以下の厳格な要件をすべて満たす必要があります。

適法な「引用」と認められるための要件
  • すでに公表されている著作物であること。
  • 引用部分が、自社のコンテンツに対して量・質ともに「従」たる関係にあること(主従関係)。
  • 引用部分がカギ括弧や枠線などで明確に区別されていること(明瞭区別性)。
  • 自社のコンテンツを補足・説明するために引用する必然性があること(引用の必要性)。
  • 引用元(著作者名、作品名、URLなど)を明記すること(出所の明示)。
  • 引用する著作物を改変しないこと(同一性保持)。

これらの要件を一つでも満たさない場合、適法な引用とは認められず、著作権侵害と判断される可能性が極めて高くなります。

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発覚から訴訟までのプロセス

①権利者からの警告書(内容証明)

著作権侵害が発覚すると、多くの場合、権利者本人または代理人弁護士から侵害行為の停止や損害賠償を求める警告書が内容証明郵便で届きます。これは、訴訟を提起する前に、侵害の事実を通知し、交渉による早期解決を図る目的で行われます。内容証明郵便は、誰がいつどのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明するものであり、後の法的手続きにおける証拠となります。

警告書に記載される主な要求内容
  • 侵害の対象となっている著作物の特定
  • 侵害行為(無断掲載など)の具体的な事実
  • 侵害コンテンツの即時削除要求
  • 無断使用期間に応じた損害賠償金の支払い要求
  • 謝罪文の掲載などの名誉回復措置
  • 指定された期限(通常1~2週間)内の回答要求

警告書が届いた時点で、問題は法的な紛争段階に入ったと認識し、速やかに社内で事実確認を行い、対応を協議する必要があります。

②当事者間での示談交渉

警告書を受け取った後は、訴訟への発展を避けるため、当事者間で示談交渉が行われるのが一般的です。訴訟は双方にとって時間的・金銭的コストが大きく、企業の評判を損なうリスクもあるため、裁判外での和解を目指すことが合理的とされています。

示談交渉では、侵害の事実を認めるか否か、また損害賠償額が妥当かどうかが主な争点となります。

示談交渉における主な争点
  • 著作権侵害の事実の有無
  • 侵害行為の故意・過失の程度
  • 損害賠償額の算定根拠と金額の妥当性
  • 再発防止策の提示
  • 守秘義務や清算条項を含む示談書の作成

自社の過失を認めるべき点は真摯に謝罪しつつ、相手方の要求が法外な場合は、市場価格や裁判例を基に冷静に減額交渉を行う姿勢が重要です。

③交渉決裂から訴訟提起へ

当事者間の示談交渉が決裂した場合や、警告書を無視し続けた場合、権利者は民事訴訟を提起します。これにより、裁判所の公的な判断を求めることになります。

訴訟では、原告(権利者)が著作権侵害の事実と損害額を証拠に基づいて立証し、被告(侵害者)はそれに反論します。裁判所は双方の主張を審理し、判決を下します。

訴訟に移行すると、企業にはさまざまなデメリットが生じます。

訴訟に移行した場合のデメリット
  • 解決までに1年以上の長期間を要することが多い。
  • 着手金や成功報酬など、高額な弁護士費用が発生する。
  • 裁判対応に社内の人的リソースを割かれる。
  • 判決内容が公開され、企業の社会的信用が低下する恐れがある。

このようなリスクを避けるためにも、可能な限り示談交渉の段階で紛争を解決することが、企業法務における重要な課題となります。

損害賠償額の算定方法

算定の根拠となる著作権法第114条

著作権侵害による損害賠償額は、被害者が受けた損害の立証負担を軽減するため、著作権法第114条に特別な算定規定が設けられています。実務上は、これらの規定を基に損害額が主張され、交渉や裁判が進められます。

条項 内容 概要
第114条第1項 侵害品の譲渡数量 × 権利者の単位あたり利益 侵害品が販売された場合の逸失利益を推定します。
第114条第2項 侵害者が得た利益の額 侵害行為によって侵害者が得た利益を、権利者の損害額と推定します。
第114条第3項 ライセンス料相当額 権利者がその著作物の利用許諾で本来受けるべき金銭の額を、最低限の損害額として請求できます。
著作権法第114条に基づく損害額の推定規定

算定基準①:侵害者が得た利益額

著作権法第114条第2項は、侵害者が侵害行為によって得た利益の額を、権利者の損害額と推定する規定です。例えば、他人のイラストを無断で商品パッケージに使用して200万円の利益を上げた場合、その全額が損害額と推定されます。

この規定により、権利者は侵害者の利益を証明すればよいため、立証の負担が軽くなります。ただし、侵害者側は、その利益がイラスト以外の要因(商品の性能など)によるものであることを主張・立証することで、損害額を減額できる可能性があります。

算定基準②:ライセンス料相当額

著作権法第114条第3項は、ライセンス料相当額を損害額として請求できる規定です。これは、侵害者が特に利益を得ていない場合でも、著作物を無断で使用した以上、正規の利用料は支払うべきだという考え方に基づいています。

例えば、月額5万円で提供しているイラストを6カ月間無断で使用された場合、30万円(5万円×6カ月)を最低限の損害額として請求できます。実務上、このライセンス料相当額による算定は立証が比較的容易なため、ウェブサイトへの無断転載などの事案で最も頻繁に用いられる基準です。

賠償額の交渉で争点となる要素(使用態様・市場価格)

実際の賠償額交渉では、著作権法第114条の規定をベースにしつつも、事案ごとの個別具体的な事情が考慮されます。権利者側は高額な賠償を求め、侵害者側は減額を主張するため、以下の要素が主な争点となります。

賠償額の交渉で考慮される要素
  • 権利者側の主張: 正規ライセンス料、逸失利益、調査費用、慰謝料など
  • 侵害者側の主張: 一般的な市場価格との比較、侵害コンテンツの利用態様(掲載場所、サイズ、期間)、ウェブサイトの閲覧数(アクセス数)、侵害の故意・過失の程度

これらの要素を客観的な証拠に基づいて主張し合い、双方が納得できる妥当な金額での解決を目指すことになります。

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立場別の具体的な対処法

【加害者側】警告書への初期対応

著作権侵害の警告書を受け取った場合、その後の展開を大きく左右するのが初期対応です。無視や放置は、相手の態度を硬化させ、事態を悪化させるだけです。迅速かつ誠実な対応が、損害を最小限に抑える鍵となります。

以下に、警告書受領後の基本的な対応フローを示します。

警告書受領後の初期対応フロー
  1. 事実確認: 社内の関係者から、指摘されたイラストがいつ、誰によって、どのような経緯で掲載されたかを詳細に調査します。
  2. コンテンツの即時削除: 調査中であっても、問題となっているイラストや画像は直ちにウェブサイトなどから削除し、サーバー上からも完全に消去します。
  3. 相手方への一次回答: 回答期限内に、画像の削除が完了したこと、および現在社内で詳細を調査中であることを、まずは書面で通知します。

この初期対応により、交渉による解決の意思があることを示し、訴訟への移行を回避しやすくなります。

【加害者側】訴訟回避に向けた交渉

訴訟は多大なコストとリスクを伴うため、可能な限り示談交渉による早期解決を目指すべきです。交渉においては、感情的な対立を避け、客観的な根拠に基づき、合理的な解決金の着地点を探ります。

交渉を有利に進めるためのポイント
  • 無断使用の事実がある場合は、真摯に謝罪し、意図的ではなかった経緯などを丁寧に説明する。
  • 相手方の提示額が不当に高額な場合は、類似作品の市場価格や過去の裁判例を基に、論理的に減額を求める。
  • 再発防止策を具体的に提示し、コンプライアンス遵守の姿勢を示す。
  • 全ての合意内容は、後の紛争を防ぐために必ず示談書として書面化する。

弁護士に相談し、法的な観点から交渉を進めることが、不利益な条件での合意を避けるために重要です。

【加害者側】発覚後の社内対応と再発防止策

著作権侵害の問題が解決した後、最も重要なのは再発防止策を構築し、徹底することです。一つの問題で終わらせず、組織全体の法的リスク管理能力を高める機会としなければなりません。

主な再発防止策
  • 全従業員を対象とした著作権に関するコンプライアンス研修を実施する。
  • 画像やコンテンツを利用する際の社内ルール(利用許諾の確認手順など)を明文化し、周知徹底する。
  • 出所が不明な画像や安易なフリー素材の利用を禁止し、権利関係が明確な有料ストックフォトサービスの利用を原則とする。
  • 外部の制作会社に業務委託する際は、契約書に著作権を侵害しない旨の保証条項を盛り込む。

これらの対策を組織的に実行することで、将来的な著作権侵害リスクを大幅に低減できます。

【被害者側】侵害の証拠を確保する

自社のイラストなどが無断で使用されているのを発見した場合、相手に警告する前に、まず侵害の証拠を保全することが最優先です。証拠がない状態では、相手にコンテンツを削除されてしまい、侵害の事実を立証できなくなる恐れがあります。

確保すべき証拠の例
  • 侵害ページ全体のスクリーンショット(URL、掲載日時が分かるように撮影)
  • ウェブページ全体のPDF保存
  • 侵害ページのソースコード(HTMLファイル)の保存
  • インターネットアーカイブ(Wayback Machineなど)での過去の掲載状況の確認
  • 侵害者が匿名の場合は、発信者情報開示請求に必要なIPアドレスやタイムスタンプの記録

これらの証拠を確実に確保することが、後の交渉や法的手続きを有利に進めるための大前提となります。

【被害者側】賠償請求の進め方

証拠の確保が完了したら、次に法的な手続きに沿って賠償請求を進めます。感情的にならず、客観的な証拠に基づいて冷静に対応することが、正当な権利回復への近道です。

以下に、賠償請求の基本的な手順を示します。

賠償請求の基本的な手順
  1. 侵害者の特定: 相手が匿名のブログやSNSアカウントの場合、プロバイダ責任制限法に基づき、裁判手続きを通じて発信者情報の開示を請求します。
  2. 警告書の送付: 侵害者を特定した後、内容証明郵便で著作権侵害の事実を通知し、使用停止と損害賠償を求める警告書を送付します。
  3. 示談交渉: 相手方が交渉に応じてきた場合、ライセンス料相当額などを基準に賠償額の合意を目指します。
  4. 訴訟提起: 相手が警告を無視したり、交渉が決裂したりした場合は、裁判所に民事訴訟を提起し、法的な判断を求めます。

よくある質問

SNSアイコンへの無断使用も訴えられますか?

はい、訴えられる可能性があります。他人が作成したイラストを著作者に無断でSNSのアイコンとして使用する行為は、不特定多数のユーザーが閲覧できる状態に置くため、「公衆送信権」の侵害にあたります。個人的なアカウントであっても私的利用の範囲を超えると判断されるため、権利者から削除や損害賠償を請求されるリスクがあります。

警告書を無視した場合のリスクは?

警告書を無視すると、権利者は交渉による解決は不可能と判断し、民事訴訟に移行する可能性が極めて高くなります。訴訟になれば、多額の弁護士費用や裁判費用が発生するうえ、裁判所からより高額な損害賠償を命じられるリスクがあります。また、悪質なケースでは刑事告訴される可能性も否定できません。警告書は法的措置の最終通告と捉え、誠実に対応すべきです。

フリー素材の誤認でも責任を問われますか?

はい、責任を問われます。「フリー素材だと思っていた」という主張は、原則として法的に認められません。著作物を利用する側には、その素材の利用規約や権利関係を自らの責任で調査・確認する義務があるとされています。この確認を怠った場合、過失があったと判断され、損害賠償責任を負うことになります。

訴訟になった場合の弁護士費用と期間は?

著作権侵害訴訟は、専門的な争点が多く審理が複雑化しやすいため、解決までに通常1年以上の期間を要することが珍しくありません。弁護士費用は、請求額や事案の難易度によりますが、着手金で数十万円、さらに勝訴した場合は賠償額に応じた成功報酬が発生するのが一般的です。訴訟は金銭的・時間的負担が非常に大きいため、可能な限り交渉段階での解決が望まれます。

まとめ:イラスト無断使用のリスクと訴訟を回避する対処法

イラストの無断使用は、著作権侵害として法的な責任を問われる重大な問題です。損害賠償額は、侵害者が得た利益やライセンス料相当額を基に算定され、企業の存続に影響を与える可能性もあります。万が一、警告書を受け取った場合は、コンテンツの即時削除と誠実な交渉が訴訟を回避する鍵となります。逆に、自社の権利が侵害された場合は、相手に通知する前にスクリーンショットなどの証拠を確実に保全することが最優先です。再発防止のためには、全社的なコンプライアンス研修やコンテンツ利用に関する明確なルール作りが不可欠です。この記事で解説した内容は一般的な手続きであり、具体的な対応は個別の状況によって異なるため、必ず弁護士などの専門家へ相談してください。

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