工場の品質向上活動とは|進め方とKPI・事例
品質向上活動を工場で体系的に立ち上げたいのに、不良品やクレームが増えて現場対応に追われ、どこから手を付けるべきか判断がつきにくい状況が起こりがちです。ここで整理を誤ると、過剰品質や過剰管理によって納期悪化や検査不正の誘因になり、顧客説明や受注判断まで含めた実務上の不利益が連鎖します。宇部興産の調査委員会報告書(2018年6月5日付、130頁)でも示されるように、「納期より品質保証を優先する」前提を社内外で揃えたうえで、現場で回る可視化・標準化・KPI設計まで落とし込むことが重要です。以下では、品質向上活動の判断材料として進め方・指標・仕組みの要点を示します。
工場の品質向上活動の基本
品質向上と品質改善の違い
品質向上と品質改善はどちらも品質を高めますが、狙いと意思決定が異なります。品質改善は、現に起きている不具合・不良を潰して規格・基準を満たす状態に戻す活動です。例えば工程内不良の低減、手直しの削減、同種不良の再発防止(是正)などが中心になります。
一方で品質向上は、基準を満たしている状態から、顧客価値や収益性を含めてより良い品質水準へ引き上げる活動です。ただし、品質向上を「上げれば上げるほど良い」と誤解すると、過剰品質(オーバースペック)と過剰管理により現場が疲弊し、納期悪化や検査不正の誘因になり得ます。実際に、大手メーカーの品質検査不正事例では、顧客にとって必須ではない高すぎる品質基準を前提に管理が膨張し、現場判断で顧客同意を得ないまま特別採用(通称トクサイ)が悪用された、と整理されています。
- 品質改善は「マイナスをゼロへ」であり、工程内の不良・ミス・ばらつきに直接手を打ちます。
- 品質向上は「ゼロをプラスへ」ですが、顧客の使用価値と契約要求に照らして上げ幅を設計します。
- 品質基準を下回って出荷するなら本来は顧客同意が必要であり、現場裁量の拡大はコンプライアンスリスクになります。
- 過剰品質を避けるため、強度・耐久性など品質をグレード別にして取引条件(価格等)を分ける設計も検討対象になります。
品質管理・品質保証との関係
品質管理(QC)は主に作り手視点で、工程内で不良を作らない・流さないための手段を運用します。検査、測定、管理図などで工程を監視し、変動を抑えます。品質保証(QA)は買い手視点で、企画・設計・調達・製造・出荷・顧客対応まで含めて「要求品質を満たす仕組み」を作り、説明責任を果たします。
品質保証は「納期より品質保証を優先する」ことを社内の共通認識として徹底し、さらに顧客とも認識を共通化すべきだと、宇部興産の調査委員会報告書(2018年6月5日付、130頁)で提言されています。顧客要求が実施困難な程度に高い場合も、品質保証優先の対応について理解を求められる関係を構築すべき、と同頁で整理されています。
また、クレーム発生時に工場が「後から呼ばれる」体制では、初動が遅れます。苦情相談窓口と品質保証部門・工場は平時からコミュニケーションを取り、詳細説明が必要な場合は品質保証担当者や技術者が顧客対応に同行すべき、とされています。
- クレーム情報が品質保証だけで滞留せず、工場の工程条件・検査・4M変更に即時フィードバックされます。
- 顧客との受注・仕様交渉に、工程能力の事実データが使われ、無理な受注を抑止できます。
- 顧客説明が必要な案件では、品質保証・技術が同席し、事実と再発防止策を一貫して説明できます。
製造業で品質向上が必要な理由
不良品削減と顧客満足の効果
不良品の流出は、現場の損失にとどまらず、顧客信頼・取引継続・ブランドに直結します。SNS等で品質問題が拡散しやすい環境では、初動の遅れや説明の不整合が被害を拡大させます。品質向上活動は、不良を減らす「技術」だけでなく、顧客対応や受注判断を含む「経営の防衛線」として設計する必要があります。
寺岡製作所の品質問題調査委員会の調査報告書(2018年6月29日付、36頁)では、量産時の正確な工程能力指数を製造部門だけでなく、開発・技術・品質保証・営業といった各部門が共有・分析し、顧客との受注交渉等に用いて的確な受注判断を行うべきだと提言されています。これは「不良を減らす」だけでなく、「そもそも無理な約束をしない」ことで品質事故を未然に防ぐ考え方です。
- 仕様・要求が実施困難な水準なら、受注前に工程能力の事実で交渉し、品質保証優先の合意形成を行います。
- 出荷後対応(クレーム初動・解析・説明)が遅れるほど信頼毀損が拡大するため、平時の連携設計が重要です。
- 過剰品質の競争が続くと、現場疲弊→不正の誘因となるため、顧客価値に基づく要求品質の再定義が必要です。
コストと生産性への波及
品質はコスト要因であると同時に、生産性・キャッシュフローに直結する管理対象です。不良が出ると、廃棄・手直し・再検査・段取り替え・停止復旧などが連鎖し、QCD(Quality/Cost/Delivery)のバランスが崩れます。参照事例の整理でも、トラブルに入ると「コストと時間は戻ってこないが、品質だけは戻さなければならない」状態になり、プロジェクトや現場が品質に振り回されるとされています。
また、生産領域の施策として「品質管理強化による歩留まり改善」「設備開発ノウハウの共有による設備生産性向上」「生産キャパシティの共有(他拠点の余剰キャパシティ利用)」などが挙げられており、品質の安定は工場単体ではなく拠点横断の生産性にも波及します。
- Q(品質)の悪化は、C(コスト)とD(納期)を同時に悪化させ、後から取り返せない損失になります。
- 歩留まり改善は品質管理強化の成果として扱い、設備・人・材料のばらつき抑制とセットで管理します。
- 拠点間で余剰キャパシティを使う場合も、品質条件・検査基準・トレーサビリティを揃えないと再発の温床になります。
工場品質向上の進め方
現場の可視化と課題の定量化
品質向上の起点は、主観ではなく事実で現状を定義することです。工程・検査・出荷・クレームの情報が散在していると、議論が「印象」になり、対策が場当たりになります。そこで、まず「どこで」「何が」「どれだけ」起きているかを、現場で回る形に落とし込みます。
可視化は品質だけでなく安全でも有効で、危険や注意喚起を視覚的に捉え、一般の労働者も参加しやすくする「安全の見える化」という考え方が示されています(大阪労働局作成の「安全の見える化」事例集)。品質でも同様に、標準状態と異常を誰でも見分けられる表示・ルールが有効です。
また、品質と納期・コストが絡むトラブル局面では、行動実績の見える化として「KPIカウントシート」により行動の量と質をチェックする、という整理もあります。データは「結果」だけでなく、「行動」を含めて設計すると改善が回りやすくなります。
- 工程フロー(製造〜検査〜出荷)を言語化・図式化し、どの工程で不良が出るか仮説を置きます。
- 不良・再検査・停止・手直し・クレームの記録を一箇所に集め、定義(数え方)を統一します。
- パレート等で「多い順」を出し、優先度の高い不良モードを特定します。
- 工程条件・作業・材料ロット・設備状態など、4Mと紐づくデータ項目を不足なく揃えます。
- KPIカウントシート等で、是正処置の実施回数・遵守率・教育実施など行動指標も同時に追います。
実践から定着までの進め方
施策は「試す」だけでは不十分で、標準化して守られ続ける状態まで作り込みます。特に品質は、短期の手直しで一時的に数字が良くなっても、変更点が現場に残らなければすぐ戻ります。
参照整理でも、属人性は少人数でも発生し、人が増えるほど拡大するとされています。これを抑えるには、作業手順に加えて、レビューや承認のプロセス、テンプレート化、ツールによる自動化などで個人差を「チームのプロセス」で極小化します。
さらに、宇部興産の調査委員会報告書(2018年6月5日付、125頁)では、品質保証の意義・関係法令・契約遵守の重要性について定期的な研修を行い、品質保証教育・コンプライアンス教育を充実させる提言があります。運用としては「教育→監査→改訂」を回す設計が重要です。
- 施策を小さく実施し、効果と副作用(工数増・納期影響・安全影響)をデータで確認します。
- 効果が出た条件を「標準」に落とし込み、手順・判定基準・記録様式を統一します。
- 教育(雇入れ時・作業変更時・職長等教育)で手順の意義と急所を説明し、理解度を確認します。
- レビュー・承認・監査を組み込み、逸脱が起きたときに是正処置が回るようにします。
- 改善定例を見直し、必要性・頻度・議題・参加者の4観点で形骸化を潰します。
不良率・再検査率・クレーム件数のどれを最初の改善KPIにするか
最初のKPIは「現場が毎日動かせる」ものを優先します。クレーム件数は顧客満足の最終指標ですが、出荷後に戻る情報でタイムラグがあり、原因も複合的で、初動の改善ループが作りにくいです。再検査率はムダの炙り出しに有効ですが、そもそもの不良発生を抑えないと再検査設計が膨らみがちです。
そのため、初期は工程内不良率や初回合格率(直行率)など、工程内で即日把握できる指標を置き、異常時に即是正できる状態を作ります。加えて、工程能力に基づく受注判断も品質KPIと結びつけるべきです。寺岡製作所の調査報告書(2018年6月29日付、36頁)が、量産時の正確な工程能力指数を部門横断で共有・分析し、受注交渉等に用いるべきだと提言している点は、KPIを現場改善だけでなく受注プロセスにも接続する示唆になります。
| 候補KPI | 強み | 注意点 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 工程内不良率 | 日次で集計しやすく、現場アクションに直結します | 数え方(母数・不良定義)を統一しないと比較不能です | 立上げ初期の現場改善、重点工程の管理 |
| 初回合格率(直行率) | 手戻りの有無を一目で示せます | 検査工程の設計次第で見え方が変わります | 手直し・再検査の多いラインの改善 |
| 再検査率 | ムダ工数・検査負荷を可視化できます | 「検査を増やして安心する」方向に流れやすいです | 過検査の棚卸し、検査設計の見直し |
| クレーム件数 | 顧客視点の結果指標です | タイムラグと要因の多さで現場改善に落ちにくいです | 中期の成果確認、顧客対応プロセス改善 |
製造現場の改善手法
5Sでムダと異常を見える化する
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は、品質の土台です。ポイントは「片付け」ではなく、標準状態を作って異常を誰でも発見できるようにすることです。安全領域でも、危険を可視化し注意喚起を分かりやすく周知する「安全の見える化」が有効なツールとされていますが、品質でも同じ発想で、異物混入・工具置き忘れ・治具の摩耗・漏れ・緩みなどの兆候を日常点検で拾える状態にします。
- 整理は「必要・不要」を決め、不要物を撤去して混入・取り違えの起点を消します。
- 整頓は定位置・定量・表示で迷いを消し、探すムダと取り違えを減らします。
- 清掃は「掃除+点検」として扱い、設備の緩み・漏れ・異音など変化点を拾います。
- 清潔は3Sの状態を維持するルール化であり、チェック表で実施実績を残します。
- しつけは監督の叱責ではなく、守れるルール設計と教育・監査で習慣化します。
4M変更管理で不良要因を抑える
不良は「変化点」で増えます。4M(Man・Machine・Material・Method)の変更を把握し、事前評価と承認、変更後確認をセットにするのが4M変更管理です。特に「初めての作業・変更後の作業・久しぶりの作業」のように不確実性が上がる局面では、追加検査や試作確認を計画に組み込みます。
サプライヤーが関与する場合は、材料ロット切替や工程変更が自社に見えないまま起きるため、通知・申請・承認のルールを契約・運用で握る必要があります。宇部興産の調査委員会報告書(2018年6月5日付、130頁)が「納期より品質保証が優先」という認識を顧客とも共通化すべきとしたのと同様に、サプライヤーとも「変更は品質保証優先で事前合意する」運用が重要です。
- 変更対象(人員・設備/治具・材料/仕入先・手順/条件)を4Mで分類して台帳化します。
- 変更時の申請項目(理由・影響範囲・検証方法・判定基準・責任者)を定型化します。
- 承認フロー(製造・技術・品質保証)を定め、承認前の実施を禁止します。
- 変更後の初品確認・追加検査・工程能力の確認を実施し、結果を記録します。
- 変更情報を関係部門で共有し、受注判断や顧客説明に使える状態にします。
QC7つ道具となぜなぜ分析の使い分け
原因究明は「データで絞る」と「論理で掘る」を分けると迷いが減ります。QC7つ道具は、現場データから傾向と優先度を見える化する道具です。なぜなぜ分析は、個別事象の因果を掘り下げ、根本原因に到達する思考プロセスです。
また、トラブル局面では「Check:なぜを徹底する」と整理されており、PDCAのCheckを形骸化させない運用が重要です。会議が機能不全(意味のない会議が増える、参加者が不適切、逆に必要な会議が無い)になりやすい点も指摘されているため、解析と意思決定の場を設計し直すことが再発防止の前提になります。
- まずパレート図等で不良の「多い順」を出し、狙う不良モードを一つに絞ります。
- 特性要因図で因子を洗い出し、追加データが必要な箇所を特定します。
- 管理図等で工程の変動と変化点を捉え、4M変更やロット切替と突合します。
- 絞り込んだ事象に対してなぜなぜ分析で因果を掘り、対策が標準に落ちる形にします。
品質向上を支える仕組み
標準化とマニュアルで属人化を防ぐ
属人化は「熟練者がいるから大丈夫」ではなく、欠勤・異動・退職・増員時に品質が崩れる構造リスクです。参照整理でも、属人性は少人数でも発生し、人が増えるほど拡大するとされています。抑えるには、作業手順を定めるだけでなく、レビュー・承認プロセス、テンプレート化、可能ならツール化で個人差をプロセスに吸収します。
また、作業手順は安全衛生管理でも重要とされ、雇入れ時および作業内容変更時の教育では「作業手順に関すること」が、職長等教育では「作業手順の定め方」が教育内容になると整理されています。作業手順は作業を主な手順に分解し、最良順に並べ、各手順ごとに急所(正否・安全・やりやすさ等)を付け加えたもの、という定義は、品質手順書にもそのまま応用できます。
- 手順は作業を分解し、順番を固定し、各工程の急所(品質の判定点・やってはいけないこと)を入れます。
- 変更履歴と改訂理由を残し、4M変更管理と連動して陳腐化を防ぎます。
- テンプレート化で書式のばらつきを消し、レビューの観点を揃えます。
- ツール化(自動集計・自動作表等)で記録負荷を下げ、守れる運用にします。
検査と工程管理で早期検知する
品質は「作り込み(工程管理)」と「見つける(検査)」の組み合わせで守ります。工程管理では、温度・圧力・速度などの条件を監視し、標準からの逸脱を早期に検知します。検査は、受入検査・工程内検査・完成品検査を製品特性とリスクに応じて設計します。
ただし、検査を増やせば品質が上がるわけではなく、過剰管理が納期悪化や現場疲弊を招くと、品質検査不正の背景として整理されています。検査設計は「工程で作り込む」を基本に、工程内で止める(自工程完結)ために必要十分なポイントに絞る発想が重要です。
- 工程能力の事実を把握し、受注・仕様交渉と接続して無理な要求を受けないようにします。
- 工程内で異常を止めるため、検査結果を工程条件・4M変更と紐づけて解析できる形で記録します。
- 過剰検査は「安心」の錯覚を生むため、目的(流出防止か工程安定化か)を明確にします。
データ一元管理とトレーサビリティ強化
品質データが紙・個人PC・部門別ファイルに分散すると、解析や顧客説明で整合が取れず、初動が遅れます。原材料入荷から工程条件、作業者、検査結果、出荷までを一元管理し、識別番号から履歴を追えるトレーサビリティを強化すると、問題発生時に影響範囲の切り分けが速くなります。
クレーム対応についても、苦情相談窓口と品質保証部門・工場が普段からコミュニケーションを取り、必要に応じて品質保証担当者や技術者が顧客説明に同行すべき、とされています。データ一元管理は、こうした説明責任を「その場の記憶」ではなく、事実で支える基盤になります。
- 製品識別情報(製造日時・ライン・ロット・出荷先)
- 材料情報(ロット・サプライヤー・切替履歴)
- 工程条件(設備条件・設定値・実績値・アラーム)
- 人の情報(作業者・教育履歴・交代/応援)
- 検査情報(判定基準・測定値・不適合内容・処置)
手順書を作っても不良が減らない職場で起きやすい形骸化のパターン
手順書が効かない職場では、「作った」だけで運用設計が止まっていることが多いです。文章が多く現場スピードに合わない、例外判断が曖昧、改訂されず実態とズレる、配布だけで理解度確認がない、といった形骸化が起きます。
また、形骸化は教育・監査・会議設計の不備でも加速します。宇部興産の調査委員会報告書(2018年6月5日付、125頁)は、品質保証やコンプライアンスの重要性、関係法令や契約遵守の意義について定期的に研修を行うなど教育を充実させる提言をしています。加えて同報告書(128頁)では、他部門との人事ローテーションや品質保証部門内のローテーションも可能な限り行い、悪しき習慣を根付かせない土壌形成を提言しています。
- 手順が複雑で読まれないため、写真・図・急所中心に再編集し、テンプレートで書式を揃えます。
- 例外対応が曖昧なため、特別採用(トクサイ)等の判断・承認条件を明文化します。
- 改訂されないため、4M変更管理と連動し、変更時に手順書改訂を必須にします。
- 教育が配布止まりのため、定期研修と理解度確認、監査で遵守を確認します。
- 悪しき慣行が固定化するため、人事ローテーションを組み込み、閉鎖性を下げます。
品質向上活動の運用設計
PDCAとTQMで継続改善を回す
品質向上をイベントで終わらせないために、PDCAを「回る形」にして業務に埋め込みます。TQM(総合的品質管理)は、品質を製造の問題に限定せず、受注・設計・調達・顧客対応・教育・監査まで含めて管理する考え方です。
特にCheckは形骸化しやすく、「Check:なぜを徹底する」という整理の通り、なぜなぜ分析等を用いて事実ベースで確認する運用が必要です。加えて、トラブル局面では会議が増えがちですが、機能不全の会議に時間を使う余裕はありません。定例会議は「必要性・頻度・議題・参加者」の4観点で見直し、不要ならやめる、必要なら意思決定できる形に絞るのが実務的です。
- Planで品質方針と優先課題を定め、工程能力等の事実データを前提に目標を置きます。
- Doで標準・変更管理・教育をセットにして実装し、行動実績も記録します。
- Checkで「なぜ」を徹底し、結果指標と行動指標の両方をレビューします。
- Actで標準改訂・承認フロー改訂・会議体改訂まで踏み込み、仕組み自体を改善します。
KPIと品質コストの見方
品質コストは、品質活動を経営判断に接続するための共通言語です。予防コスト(教育・工程設計等)と評価コスト(検査・監査等)を適合コストとして把握し、廃棄・手直し・返品・クレーム対応などを不適合コスト(低品質コスト)として把握します。重要なのは、予防に投資して不適合を減らし、トータルを下げる設計です。
実務では、行動が伴わないKPIは形骸化しやすいため、「KPIカウントシート」で行動の量と質をチェックするという整理が有効です。例えば、教育実施回数、4M変更申請の遵守率、監査での逸脱件数、是正処置の期限遵守といった行動KPIを、工程内不良率や直行率などの結果KPIと並べてレビューすると、打ち手が具体化します。
| 区分 | 代表的な管理対象 | KPI例(結果/行動) | 狙い |
|---|---|---|---|
| 予防コスト | 教育・標準化・工程設計・変更管理 | 教育実施、4M変更申請遵守、標準改訂件数 | 不良の発生源を断ちます |
| 評価コスト | 受入・工程内・完成品検査、監査 | 検査遵守、監査実施、計測器点検実施 | 流出防止と工程の異常検知を行います |
| 不適合コスト | 廃棄・手直し・再検査・返品・クレーム | 工程内不良率、直行率、再検査率、クレーム | 損失を抑え、QCD崩壊を防ぎます |
経営者・工場長・品質保証・生産管理で役割をどう切り分けるか
品質は部門の努力ではなく、役割分担と意思決定の設計で決まります。経営者は品質を投資として位置づけ、方針と資源配分、品質コンプライアンスの基準を決めます。工場長は工場全体の優先順位とリソース配分を握り、現場指標(歩留まり・直行率等)を統制します。
品質保証は、顧客視点の番人として、納期より品質保証が優先されるべきことを社内外で共通認識にする、という宇部興産調査委員会報告書(2018年6月5日付、130頁)の提言に沿って、受注・出荷・顧客対応の品質判断を担います。生産管理は、生産計画と品質要求を整合させ、工程能力や品質条件に照らして「作れる計画・守れる計画」を作り、必要なら受注判断にも関与します。寺岡製作所の調査報告書(2018年6月29日付、36頁)が工程能力指数の部門横断共有と受注判断への活用を提言している点は、役割分担の根拠になります。
- 経営者は品質方針と「品質優先」の原則を明文化し、教育・監査の予算を確保します。
- 工場長は重点工程を決め、会議体を整理し、是正処置が止まらない運用を作ります。
- 品質保証は顧客対応と出荷判断の基準を握り、クレーム時は技術・工場と連携して説明責任を果たします。
- 生産管理は工程能力と負荷を見て無理な受注を抑止し、拠点間キャパ共有時も品質条件を揃えます。
よくある質問
工場の品質向上活動はまず何から着手すべきですか?
最初は、現場の「事実」を集めて可視化し、狙う課題を一つに絞ることから着手します。品質データだけでなく、行動実績も見える化して改善を回しやすくします。
- 製造日報・検査記録・停止/手直し記録・クレーム情報を集約し、定義(数え方)を統一します。
- パレートで頻度の高い不良モードを一つ選び、重点工程を決めます。
- 5Sで標準状態と異常を見える化し、混入・取り違え・工具迷子などの起点を潰します。
- 4M変更管理の台帳と承認フローを作り、変化点での不良増加を抑えます。
- KPIカウントシート等で「やったかどうか」を追い、PDCAのCheckでなぜを徹底します。
品質向上活動の成果はどのくらいの期間で現れますか?
成果が出るまでの時間は、対象が「環境・ルール」か「工程能力・受注判断」かで変わります。短期で見えるものと、中期で効いてくるものを分けて設計します。
- 5Sによる見える化は、異常発見や探し物の削減として比較的早く体感されやすいです。
- 4M変更管理は、変更のたびに不良が出る体質を抑えるため、運用が回るほど効果が積み上がります。
- 工程能力指数を部門横断で共有し受注判断に使う(寺岡製作所の提言)施策は、無理な要求を減らし、中期で事故の芽を減らします。
- 定期研修による品質保証・コンプライアンス意識改革(宇部興産の提言)は、継続運用で効きます。
小規模な製造現場でも始めやすい取り組みはありますか?
小規模でも、仕組み化の基本は同じです。属人性は少人数でも発生するため、最小限の標準化・見える化・変更管理から始めるのが現実的です。
- 5Sで定位置・表示を徹底し、取り違えや異常の見逃しを減らします。
- 手順書は「急所(正否・安全・やりやすさ)」を入れ、テンプレートで書式を揃えます。
- 記録の自動集計など、ツール化できるものはツール化して運用負荷を下げます。
- 作業変更時の教育で手順を扱うという整理に沿い、変更のたびに教育と理解度確認を行います。
サプライヤーを含む品質向上はどう進めますか?
サプライヤー品質は、受入検査だけで守ると限界があります。変更情報が見えないと、材料や工程の変化点で不良が増えます。
- 受入検査の判定基準と不適合時の処置(隔離・連絡・返品/選別)を明確にします。
- 材料ロット切替・工程変更・設備更新などの4M変更について、事前申請と承認のルールを合意します。
- 変更後は初品確認や追加検査を実施し、結果を記録して双方で共有します。
- 顧客要求が実施困難なほど高い場合は、品質保証優先で理解を求める関係を構築する(宇部興産の提言)発想で交渉します。
- 必要に応じて監査・改善支援を行い、供給チェーン全体で工程能力と品質条件を揃えます。
品質向上活動への対応で次にすべきこと
品質向上活動は、現場の不良を減らすだけでなく、受注判断・顧客説明・変更管理まで含めて「品質保証優先」の意思決定を通す設計が要点になります。まずは工程〜検査〜出荷〜クレームの情報を集約して定義を統一し、工程内で即日把握できるKPI(工程内不良率や直行率など)と、行動KPI(教育実施や4M変更申請遵守など)をセットで回せる状態を作ります。次に、4M変更管理・標準化・教育(宇部興産の調査委員会報告書(2018年6月5日付、125頁)が提言する定期的な研修を含む)を通じて、属人化や例外運用(特別採用/トクサイ)の膨張を抑えます。判断の軸は「顧客価値と契約要求に照らして品質水準を設計すること」と「納期より品質保証を優先する前提を社内外で揃えること」です。個別の製品特性や契約条件、顧客対応の要否によって最適解は変わるため、必要に応じて品質保証・技術・法務等の関係者と事実データをもとに協議して進めてください。

