事業運営

居宅介護支援事業所の苦情処理マニュアル構成と実務手順

経営リスクナビ編集部

居宅介護支援事業所の苦情処理・苦情対応マニュアルを整備しようとしても、運営基準や指導対応を意識するほど、窓口設計・切替基準・記録の粒度が事業所内で揃わず手が止まりがちです。ここを曖昧にしたまま運用すると、担当者ごとに対応がぶれて「たらい回し」や紛争化につながり、結果として運営指導や市町村・国民健康保険団体連合会からの照会時に説明が難しくなります。指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第二十六条の趣旨を踏まえ、どこまでを苦情として処理し、どの時点で事故・虐待疑い・ハラスメントへ切り替えるかを決められる状態にしておくことが重要です。以下では、苦情処理マニュアルの判断材料として必須項目と運用設計の要点を示します。

目次

居宅介護支援の苦情処理の位置づけ

指定居宅介護支援事業の基準

指定居宅介護支援事業所は、運営基準に基づき、利用者本人や家族等からの苦情の申出があったときに、適切かつ迅速な処理に努めることが求められます(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第二十六条の趣旨)。ここでいう苦情は、事業所が直接行ったケアマネジメント(アセスメント、居宅サービス計画の作成、モニタリング等)に対する不満に限らず、居宅サービス計画に位置付けた他事業所のサービス(訪問介護・通所介護等)に関する申出も含め、必要な確認・調整を行う対象になります。

また、苦情対応は「その場しのぎ」では足りず、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を前提に、窓口・手順・記録の取り方を事業所内で統一しておく必要があります。具体的には、苦情相談窓口の連絡先や、申出から回答までの流れ、記録・共有・再発防止の方法を運営規程や重要事項説明書等に落とし込み、契約時に説明できる状態にしておくと、運営指導でも説明が通りやすくなります。

苦情対応で事業所に求められる体制

苦情対応は、担当ケアマネジャー個人の力量に依存させると、対応のばらつきや「たらい回し」により、かえって紛争化しやすくなります。そのため、苦情相談窓口を設置して情報を集約し、統一的な対応ができる体制を、マニュアル上も明確化します。

体制整備で明確化しておく役割分担(例)
  • 苦情解決責任者:最終判断(事実認定・対応方針・再発防止の決裁)を担い、原則として管理者が担います。
  • 苦情受付担当者:日常の一次受付・傾聴・初期記録を担い、担当ケアマネ以外(事務職等)も選択肢にします。
  • 複数名対応ルール:危険分散と窓口担当者のストレス過重回避のため、内容により当初から複数で対応します。
  • 窓口以外の職員の対応制限:窓口以外は個別交渉をしない(情報を窓口に集約する)ルールを徹底します。
  • 記録・共有責任:苦情情報を社内共有し、再発防止の検討に回す責任者と方法を定めます。

「苦情」で処理するか「事故・虐待疑い・ハラスメント」で切り替えるかの判断基準

申出の入口で重要なのは、内容に応じて「苦情対応」だけで完結させず、事故対応虐待疑い対応ハラスメント対応へ早期に切り替える判断基準を、マニュアルに明記することです。特に「何が業務の適正な範囲を超えるか」は一律に決めにくく、業種・職場文化・行為が行われた状況、継続性などで左右されるとされています。そのため、現場判断を個人に任せず、具体例とエスカレーション条件を置きます。

区分 主な対象 初動の着眼点 基本の対応レーン
苦情(正当な改善要望) 説明不足、接遇、計画の不満、サービス品質 事実関係の確認と合意形成が可能か 苦情手順で受付→調査→回答→再発防止
事故 負傷、転倒、誤薬等が疑われる 生命・身体・財産への影響があるか 事故対応マニュアルを優先し第一報・記録・関係機関連携
虐待疑い 身体拘束、心理的虐待、介護放棄が疑われる 利用者の尊厳侵害の疑いがあるか 虐待防止マニュアルへ切替し組織調査・通報等
ハラスメント(カスハラ含む) 暴言、威圧、土下座強要、私生活への介入要求等 行為が業務の適正範囲を超えるか、継続の危険があるか 複数対応・記録/証拠化・必要に応じ外部機関連携
初動での振り分け(例)

ハラスメントの例としては、職員の私的な交際関係に介入して交際をやめるよう迫る、配偶者を侮辱する発言をする等が挙げられており、苦情の体裁でも「人権侵害」や安全配慮の問題に転化し得ます。さらに、従業員の些細なミスに対し罵詈雑言を浴びせ土下座まで要求するような行為は、通常の苦情受付ではなく、組織防衛・職員保護のレーンで扱うべき典型です。

苦情処理マニュアルの基本項目

目的・適用範囲・用語の定義

苦情処理マニュアルは、現場で判断が割れやすい「入口」と「記録」を統一し、結果として利用者の権利擁護とサービスの質向上につなげるための業務文書です。目的は、利用者本人から苦情の申出があったときに、適切かつ迅速な処理に努めることを組織として担保する点に置きます。

用語の定義(マニュアル記載例)
  • 苦情:サービス内容・説明・接遇等に関する不満や改善要求で、対話と是正で解決を図る申出です。
  • 事故:サービス提供に関連して生命・身体・財産に損害が生じた、又は生じ得る事象で、事故対応手順を優先します。
  • 虐待疑い:尊厳侵害(身体的・心理的・介護放棄等)が疑われ、通報・組織調査を優先する事象です。
  • ハラスメント(カスハラ含む):業務の適正な範囲を超える言動・要求で、状況や継続性も踏まえ組織防衛・職員保護の手順に切り替えます。

適用範囲は、居宅介護支援の全業務に加え、居宅サービス計画に位置付けた他事業所サービスへの苦情についても「確認・調整・会議設定等の調整責任」を含めて明記しておくと、担当者の対応範囲がぶれにくくなります。

苦情処理マニュアルの項目リスト

マニュアルは「章立て」だけでなく、運営指導や外部照会(市町村・国保連)でも提示できるよう、体制・手順・記録・是正が一本の線でつながる構成にします。

必須項目として盛り込みたい構成(例)
  • 基本方針:利用者本人からの申出に対し適切かつ迅速に処理する旨、職員保護(ハラスメント)も併記します。
  • 体制:苦情相談窓口、苦情解決責任者、苦情受付担当者、複数対応ルール、窓口以外が個別交渉しないルールを定めます。
  • 受付:来訪・電話・文書・メール・FAX等の経路別に、初動対応(傾聴・謝意・記録)を統一します。
  • 調査:支援経過記録・居宅サービス計画・会議記録等との突合、関係職員聴取、他事業所への照会手順を定めます。
  • 切替基準:事故・虐待疑い・ハラスメントに切替える判断基準と、管理者への即時報告条件を明記します。
  • 回答:説明文書(必要に応じ)・面談設定・第三者同席の可否等、回答方法を定めます。
  • 是正・再発防止:落ち度の範囲内で謝罪や回復を行い、過大要求には応じない等の方針を明記します。
  • 記録・証拠化:交渉経過を時系列で残し、無言電話や継続クレーム等は被害状況を記録・証拠化する旨を置きます。
  • 外部対応:市町村・国保連等からの照会時の提出範囲、回答窓口、期限管理を定めます。
  • 研修・改訂:事例を基に定期的に改訂し、職員に周知する手順(改訂履歴・研修記録)を定めます。

受付窓口を誰にするかで変わる実務設計:管理者直轄・一次受付担当・複数窓口の選び方

受付窓口の設計は、苦情の「入口」で炎上を防ぐための重要論点です。窓口が不明確だと、申出者がたらい回しになったり、担当ごとに対応が変わったりして状況が悪化するおそれがあるため、まず窓口を明確化します。

方式 向く事業所像 主な利点 注意点(マニュアルに書くこと)
管理者直轄型 小規模、意思決定を速くしたい 判断が速く、調査・是正まで一気通貫にしやすい 管理者不在時の代行、記録の標準化を必ず定めます。
一次受付担当者型 中規模以上、管理者の負荷を分散したい 傾聴と事実記録に集中でき、客観性を担保しやすい 一次受付→管理者への報告期限と、途中で個別交渉しないルールを置きます。
複数窓口型 利用者の相談しやすさを優先したい 担当以外にも言いやすく、心理的安全性が上がる 情報集約の仕組み(最終的に窓口に集める)を必ず設計します。
窓口設計の選択肢と運用ポイント

いずれの方式でも、危険分散・窓口担当者のストレス過重回避の観点から、複数名での対応を組み込むことが実務上有効です。慎重に対応すべき案件(過大要求が疑われる、威圧的、継続性がある等)は、当初から複数で受付・記録する運用にします。

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苦情受付から解決までの手順

利用者・家族の苦情受付手順

初動で「言った・言わない」を作らないことが最重要です。受付時は、相手の感情に配慮しつつも、後日の検証ができるよう事実の記録を優先します。謝罪は必要に応じて行いますが、謝罪したことが直ちに相手の言い分や法的責任の全てを認めることにはならない点を踏まえ、責任の帰属に踏み込まない表現で「迷惑をかけたこと」への謝意を述べる整理にしておくと、過大要求への発展を抑えやすくなります。

受付の標準手順(マニュアル記載例)
  1. 傾聴し、途中で反論せずに申出の趣旨(何が困っているか・何を求めているか)を確認します。
  2. 責任論に踏み込まず、迷惑をかけたことへの謝意を述べ、調査して回答する旨を伝えます。
  3. 受付票に、受付日時、応対方法(来訪・電話・その他)、応対場所、申立人の氏名・連絡先(不明なら不明)を記録します。
  4. 苦情内容を、相手の表現をできるだけ保ったまま要約し、要求事項(例:自宅への謝罪要求、担当変更要求等)を分けて記録します。
  5. 事故・虐待疑い・ハラスメント該当の可能性を一次判定し、該当し得る場合は管理者へ即時エスカレーションします。
  6. 回答までの見通し(いつ頃、誰から、どの方法で)を説明し、管理者へ速やかに報告・共有します。

継続クレーム(連日メールやFAX等で同内容が届く等)や無言電話が疑われる場合は、後の警告や必要措置に備え、被害状況を記録・証拠化する方針を、この受付段階から徹底します。

管理者の事実確認と原因分析

管理者は、事案の性質を踏まえ、事実確認と原因分析を「記録に残る形」で行います。支援経過記録、居宅サービス計画、モニタリング記録、サービス担当者会議の記録等と突合し、当事者(担当ケアマネ等)への聴取も実施します。

原因分析で確認したい観点(例)
  • 説明・同意の不足:重要事項説明や計画内容の説明が十分であったか、説明の記録があるかを確認します。
  • 連絡調整の遅れ:他職種・他事業所・家族との連絡経路が機能していたかを確認します。
  • 手順の形骸化:マニュアルや手順書があるのに運用されていなかった点がないかを確認します。
  • 記録の整合性:時系列で記録がつながり、後追い修正に見える不自然さがないかを確認します。

過大な要求が疑われる場合は、「落ち度への対応」と「相手方の要求事項」を比較し、落ち度の範囲内で謝罪や回復を検討しつつ、過大要求には応じないという整理を、判断理由として残します。

ケアマネが立てた計画に位置付けた他事業所サービスへの苦情で、どこまで確認・調整するか

居宅サービス計画に位置付けた他事業所サービスへの苦情は、「他社の問題」では済まず、ケアマネジャーに調整責任が生じます。もっとも、ケアマネジャーは他事業所の人事・経営に介入できる立場ではないため、確認・調整の「範囲」をマニュアルで明確にしておくことが実務上重要です。

確認・調整として行う範囲(例)
  • 利用者・家族から、いつ・どこで・誰が・何をしたか等の事実と、要望(何を変えてほしいか)を整理して聞き取ります。
  • 該当サービス事業所の管理者または担当責任者へ連絡し、事実確認と再発防止の検討状況を照会します。
  • 必要に応じてサービス担当者会議を設定し、利用者の意向を踏まえた改善策や計画の見直し(事業所変更含む)を検討します。
  • 利用者の不利益が継続する場合は、計画の変更、モニタリング頻度の見直し等、ケアマネとして実施可能な手段を優先します。
越権となり得るため避ける範囲(例)
  • 他事業所の職員処分や配置転換等の内部人事に踏み込んだ要求を行うこと。
  • 事実未確認の段階で、断定的に他事業所の違法・不適切を前提とした指示を出すこと。

苦情対応の記録と再発防止

苦情対応記録簿の記載項目

苦情対応記録簿は、再発防止と外部説明(運営指導、照会対応)の両面で核になります。特に、交渉経過を時系列で残す欄を設けておくと、後から「いつ・誰が・何をしたか」を説明しやすくなります。

記録簿に最低限入れたい項目(例)
  • 受付情報:クレーム受付年月日(時間帯含む)、受付担当者、応対方法(来訪・電話・その他)、応対場所。
  • 申立人情報:氏名・住所等、連絡先(自宅・勤務先・携帯等)、利用者との関係(匿名の場合は不明と明記)。
  • 分類:正当クレーム/不当クレーム/その他(一次判定と、後の見直し結果)。
  • 内容:苦情内容、要求事項、背景事情(推測ではなく申立人の発言として整理)。
  • 交渉経過:日時ごとの対応内容(調査、連絡、面談、会議設定、回答等)を時系列に記載。
  • 調査と判断:管理者の事実確認方法、判断理由(なぜその対応にしたか)と根拠資料。
  • 是正・再発防止:落ち度の範囲内で行った謝罪・回復、再発防止策、職員周知・研修実施。
  • フォロー:是正後の確認(利用者の不満が解消したか、継続課題は何か)と確認日。

無言電話、連日FAX・メール等の継続クレームは、後の対応(警告や必要措置)に備え、可能な限り被害状況を記録・証拠化しておく位置づけを、記録簿の運用ルールとして明確にします。

苦情対応チェックリストの構成

チェックリストは、担当者の経験差が大きい領域ほど効果があります。運用上は「一連の流れ」を分解し、各段階で必ず確認すべきことを見える化します。

チェックリストの基本構成(例)
  1. 受付:傾聴し反論せず記録したか、責任論に踏み込まず回答見通しを説明したか、切替基準の一次判定をしたか。
  2. 初期共有:管理者へ即時報告したか、窓口以外が個別交渉していないか。
  3. 調査:記録突合(計画・支援経過等)、関係者聴取、他事業所照会、必要なら会議設定を行ったか。
  4. 対応方針:落ち度の範囲と要求事項を比較し、過大要求に応じない整理を含め判断理由を残したか。
  5. 実施:回答(面談・文書等)を行い、合意内容・未合意点を記録したか。
  6. 再発防止・フォロー:再発防止策を周知し、是正後確認(再度の状況確認)を実施・記録したか。

運営指導で説明しやすい記録の残し方:時系列・判断理由・是正後確認の3点セット

運営指導では、「体制はあります」ではなく、実際に機能していることを記録で示す必要があります。特に有効なのが、交渉経過を時系列で残し、管理者の判断理由を文章化し、是正後の確認までをセットで保管する運用です。

3点セットを記録で実現する工夫(例)
  • 時系列:記録簿の「交渉経過(時系列)」欄に、受付から回答・会議・是正・フォローまでを日時単位で連続的に残します。
  • 判断理由:過大要求に応じない、複数対応に切り替える等の判断について、行為の状況や継続性も含め根拠を記載します。
  • 是正後確認:実施した改善の後に、利用者の不満が解消したかを確認し、その結果(未解消の場合の追加対応)を記録します。

これにより、口頭説明に頼らず、日常のマネジメントが適切に行われていることを示しやすくなります。

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市町村・国民健康保険団体連合への対応

調査協力と報告の基本ルール

市町村や国民健康保険団体連合会から苦情に関する照会・調査が入った場合、指定居宅介護支援事業者として、求められる範囲で誠実に協力し、事実に基づき報告します。対応の基本は「窓口の一本化」と「記録に基づく回答」です。

調査対応の基本ルール(マニュアル記載例)
  • 事業所内の回答窓口を管理者等に一本化し、職員が個別に回答しない運用にします。
  • 提出要請があった場合は、居宅サービス計画や支援経過記録等を、改変せずに提示します。
  • 口頭回答は、記録に基づき事実のみを述べ、推測や断定を避けます。
  • 指導・助言があった場合は、是正措置と再発防止策を検討し、文書での報告に耐える形で記録化します。

また、重大事故や虐待疑い等、通常の苦情処理を超える事案は、苦情レーンではなく事故・虐待疑いの手順を優先して関係機関対応に移行する、という切替ルールをこの章でも再確認できるようにしておくと、現場の迷いが減ります。

調査時の提出記録と留意点

調査時に慌てないためには、「提出対象になり得る記録」を平時から揃え、同意・日付等の形式面の不備を作らないことが重要です。

提出を求められやすい記録(例)
  • 重要事項説明書・利用契約書(苦情相談窓口の記載を含む)。
  • アセスメント、居宅サービス計画、サービス担当者会議の記録。
  • 支援経過記録、モニタリング記録。
  • 苦情受付簿(受付票)・対応記録簿(交渉経過の時系列、判断理由、是正後確認を含む)。

提出時は、署名・押印・作成日付の有無などを点検し、後追いでの作成・同意取得と誤解される状態を避けます。電子保存している場合も、必要部分を速やかに出力・提示できる体制(印刷・閲覧権限等)を整えておくことが実務上の備えになります。

事業所マニュアル全体との関係

事故対応・虐待防止との切り分け

苦情対応マニュアルは、事故対応・虐待防止マニュアルと「入口」で接続します。申出が事故や虐待疑いに該当し得る場合、苦情処理で対話を続けるよりも、利用者保護と法令上の対応を優先する必要があるためです。

切替を迷わせないための明記(例)
  • 事故が疑われる申出は、苦情受付後ただちに事故対応マニュアルへ切り替え、第一報・記録・関係機関連携を優先します。
  • 身体拘束や心理的虐待、介護放棄が疑われる申出は、虐待防止マニュアルへ切り替え、組織的な調査・通報等を優先します。
  • 切替時も、苦情受付票の初期記録(受付日時、申出内容、一次判定)を残し、後の検証に耐える形にします。

ハラスメント防止等との整合

苦情とハラスメントは混在しやすいため、整合した一本の方針が必要です。職場のハラスメント対策では、事業主に対し、方針の明確化と周知、相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、事後の迅速・適切な対応、プライバシー保護や不利益取扱い禁止等の措置が要旨として求められています(ハラスメント防止指針の考え方)。

苦情が「正当な改善要望」に当たる限り真摯に対応しますが、行為が業務の適正範囲を超える場合は、職員を守る観点からハラスメントとして扱います。何が「適正な範囲を超える」かは、業種・企業文化、行為の状況、継続性の影響を受け得るため、例示を置くことが実務的です。

ハラスメントとして扱う例(明記例)
  • 私的な交際関係に介入し、交際をやめるよう迫るなど業務と無関係な要求をする行為。
  • 配偶者を侮辱するなど人格攻撃を含む発言をする行為。
  • 些細なミスに付け込み、罵詈雑言を浴びせ、土下座を強要するなど手段が社会通念上許容されない行為。

継続の危険が高い場合は、異動等の措置後も行為者の動向確認を行い、再発防止策を講じる必要がある、という考え方も踏まえ、居宅介護支援の現場では「複数対応」「記録・証拠化」「窓口一本化」をセットで運用します。

作成・改訂と研修の進め方

マニュアルは作って終わりではなく、事例を反映して更新し、研修で運用を揃えて初めて機能します。特に苦情・クレームは反復しやすく、同内容が継続的に届く(連日メール・FAX等)ケースもあるため、受付から記録・共有・再発防止までの流れを、定期的に点検します。

作成・改訂・研修の実務フロー(例)
  1. 現行文書の棚卸し(運営規程、重要事項説明書、各種マニュアル)を行い、苦情窓口・切替基準・記録様式の不整合を洗い出します。
  2. 受付票・記録簿・チェックリストの様式を整え、交渉経過を時系列で残せる形に統一します。
  3. 過去の苦情事例を分類(正当/不当/ハラスメント等)し、切替判断の例示を追記します。
  4. 研修は座学だけでなく、傾聴・謝意の伝え方(責任論に踏み込まない)、複数対応、記録の書き方をロールプレイで標準化します。
  5. 継続クレームや無言電話等の「証拠化が必要な事案」を題材に、記録・共有・エスカレーションの訓練を行います。
  6. 改訂履歴を残し、周知(配布・回覧・会議記録)と理解度確認をセットで実施します。

よくある質問

居宅介護支援事業所の苦情処理マニュアルは運営基準上必須でしょうか

運営基準で「苦情処理マニュアル」という文書名を直接義務づける規定があるかとは別に、利用者本人から苦情の申出があったときに、適切かつ迅速な処理に努めることが求められています(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第二十六条の趣旨)。また、相談に応じ適切に対応するために必要な体制整備という観点からも、窓口・手順・切替基準・記録を文書化し、職員に周知していないと、実際の運営指導で「組織として処理できる状態」と説明しにくくなります。

そのため、文書名の義務の有無にかかわらず、実務上は、苦情処理の取り決めをマニュアルとして整備し、様式(受付票、記録簿、チェックリスト)まで含めて運用できる形にしておくことが合理的です。

苦情受付の担当者をケアマネジャー以外に設定しても問題ありませんか

問題ありません。むしろ、窓口が決まっていないと、申出者がたらい回しになったり対応がまちまちになったりして悪化するおそれがあるため、苦情相談窓口を設置して情報を集約し統一的に対応する設計が有効です。

担当ケアマネジャーが当事者になり得る類型では、一次受付を事務職等が担うことで、感情的対立を避け、事実記録の客観性を確保しやすくなります。重要なのは、窓口以外が個別交渉をしないルールと、一次受付から管理者へ確実に報告する導線をマニュアルに明記し、複数対応が必要な案件は当初から複数で対応する運用を置くことです。

苦情が匿名・電話のみの場合でも記録簿への記載は必要ですか

必要です。匿名・電話のみであっても、後の検証や再発防止に資するため、受付日時、応対方法(電話)、申出内容、要求事項、一次判定(正当/不当/その他)、対応経過を記録として残します。

また、無言電話や継続的な電話・連日FAX等の被害が疑われる場合は、後の警告や必要措置に備えて、可能な限り被害状況を記録・証拠化しておくべきとされています。したがって、「匿名だから」「電話だから」を理由に除外せず、把握できた事実を確実に記録し、社内共有と再発防止に接続させる運用が重要です。

市町村や国民健康保険団体連合への報告が必要となる苦情の基準はありますか

「苦情」として受けた申出でも、事故や虐待疑い等が含まれる場合は、苦情処理の枠内にとどめず、事故対応・虐待疑い対応へ切り替えて、関係機関への連絡・報告を優先します。

一方、サービス内容への要望や接遇への不満など、通常の苦情であっても、市町村や国保連等から照会・調査が入った場合には、窓口を一本化し、居宅サービス計画や支援経過記録、苦情記録簿(交渉経過の時系列、判断理由、是正後確認を含む)に基づいて、事実を誠実に報告できる状態にしておくことが実務上の基準になります。過大要求やハラスメントが疑われる場合も、行為の状況・継続性を踏まえた判断理由と、複数対応・証拠化の実施状況を記録で示せるようにしておくと、外部説明がぶれにくくなります。

居宅介護支援事業所の苦情処理・苦情対応マニュアルへの対応で次にすべきこと

苦情処理・苦情対応マニュアルは、指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第二十六条の趣旨に沿って、「体制(窓口・役割)」「手順(受付→調査→回答→是正)」「記録(時系列・判断理由・是正後確認)」が一続きになるよう設計しておくことが要点です。実務上の判断軸は、申出を苦情のまま処理するのか、事故・虐待疑い・ハラスメントへ切り替えるのかを入口で迷わせないこと、そして窓口の一本化と複数名対応で対応のぶれや紛争化を抑えることに置きます。次のアクションとして、運営規程・重要事項説明書・各種マニュアルの棚卸しを行い、苦情窓口の記載、切替基準、受付票・記録簿・チェックリストの整合を確認してください。市町村や国民健康保険団体連合会からの照会に備え、提出対象になり得る記録(居宅サービス計画、支援経過記録、苦情記録簿等)が「改変せず提示できる状態」かも併せて点検しておくと運用が安定します。個別事案の線引き(過大要求の評価やハラスメント該当性など)は事情で変わるため、判断に迷う場合は管理者の決裁ルールを明確にし、必要に応じて専門家へ相談する前提で記録を揃えておくことが重要です。



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