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D&O保険(会社役員賠償責任保険)はなぜ必要?補償内容と費用を解説

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会社役員損害賠償保険(D&O保険)は、役員が経営判断に伴い直面する個人的な賠償責任リスクに備えるための重要な手段です。株主代表訴訟や取引先からの訴訟は、役員個人の資産を脅かす深刻な問題となり得ます。この記事では、D&O保険の基本的な仕組み、必要性、具体的な補償範囲から保険料の相場、加入手続きの注意点までを網羅的に解説します。

役員が直面する賠償責任リスク

株主から提起される訴訟

株主代表訴訟は、役員が個人として直面する最も深刻なリスクの一つであり、賠償額が巨額になる傾向があります。会社法上、役員は会社に対して善管注意義務(善良な管理者の注意義務)忠実義務を負っており、これらの義務に違反したと判断されると、経営判断の誤りや他の役員への監視不足を問われます。この種のリスクは上場企業に限りません。同族経営の非上場企業でも、世代交代や内紛がきっかけで訴訟に発展するケースが増加しています。

株主代表訴訟が提起される主なケース
  • 新規事業への過大な投資が失敗し、会社に甚大な損失を与えた。
  • 関連会社の不動産投資の失敗による負債を、自社が不当に肩代わりした。
  • 不適切な会計処理や製品の性能偽装を隠蔽した結果、株価が下落し株主が損害を被った。
  • 経営陣と対立する少数株主が会社の会計帳簿を調査し、過去の不透明な取引を追及した。

株主代表訴訟は、株主が提訴する際に必要な手数料が低額に設定されているため、訴えを起こすハードルが低いという特徴があります。そのため、企業の規模にかかわらず、役員は常に自らの経営判断の正当性を客観的な記録で証明できる体制を整えておく必要があります。

取引先など第三者からの訴訟

会社の役員は、株主だけでなく取引先や顧客といった第三者から直接、損害賠償を請求されるリスクもあります。会社法では、役員が職務執行において悪意または重大な過失があった場合、それによって第三者に生じた損害を個人として賠償する責任を負うと定められています。特に、会社が倒産して債権を回収できなくなった第三者は、支払い能力のある役員個人に矛先を向ける傾向があります。

第三者から役員個人が訴えられる典型例
  • 倒産が不可避と知りながらその事実を隠し、取引先から商品の納入を受け続けた。
  • 重大な欠陥のある商品を販売し、購入者に損害を与えたことについて品質管理体制の構築を怠った。
  • 海外企業との提携を十分な協議なく解消し、相手企業に投資資金の回収不能などの損害を与えた。

このように、第三者からの訴訟は多様な商取引の場面で起こり得ます。会社自体に支払い能力がない状況では役員個人の財産が直接の対象となるため、経営の透明性を確保し、常に慎重な事業判断を行うことが不可欠です。

従業員から提起される訴訟

労働環境の変化や労働者の権利意識の高まりに伴い、従業員やその遺族が役員個人を訴えるケースが増加しています。役員には、従業員が安全で健康に働ける環境を整備する安全配慮義務があり、長時間労働やハラスメントを放置した場合、その責任を厳しく問われます。

従業員から役員が訴えられる主なケース
  • 全社的な長時間労働を認識しながら是正措置を怠り、従業員が過労死や過労自殺に至った。
  • 上司によるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントを把握しながら適切な対応をせず、被害を拡大させた。
  • 未払い残業代の支払いや不当解雇に関して、役員の直接的な指示や承認があったと認定された。

従業員からの訴訟は、企業の社会的信用を大きく損なう「ブラック企業」という評判にもつながりかねません。役員は、日頃から労務コンプライアンスを徹底し、問題が発生した際に迅速に対応できる社内調査体制を構築しておくことが求められます。

会社役員賠償責任保険(D&O保険)とは

役員個人の資産を守るための保険

会社役員賠償責任保険(D&O保険)は、役員が職務上の過失などを理由に損害賠償請求をされた際、その経済的負担から役員個人の資産を守るための保険です。役員が負う法的責任は極めて重く、訴訟で敗訴すれば個人の全財産を失う可能性すらあります。この保険は、役員が訴訟リスクに過度に萎縮することなく、積極的かつ健全な経営判断を行える環境を整える重要な役割を担います。

D&O保険の主な役割
  • 裁判で命じられた巨額の損害賠償金や和解金を、支払限度額の範囲内で補償する。
  • 訴訟対応に必要となる高額な弁護士費用や調査費用などの争訟費用を補償する。
  • 外部から優秀な人材を社外取締役として招聘する際の、就任の前提条件となる。

D&O保険は、単なる損害の補填にとどまらず、有能な経営陣を確保し、企業の持続的な成長を支えるための戦略的な経営基盤といえます。

改正会社法による位置づけの明確化

令和元(2019)年の会社法改正により、D&O保険の法的な位置づけが明確化され、会社が保険料を負担する際の手続きが整備されました。以前は、会社が役員個人の利益となる保険の保険料を負担することが、会社法上の利益相反取引にあたるのではないかという法解釈上の懸念がありました。しかし、この法改正によって「役員等賠償責任保険契約」という概念が明文化され、適切な手続きを経ることで、会社が保険料を全額負担することが適法であると明確に示されました。

改正会社法による主な変更点
  • 会社が適切な機関決定(取締役会決議など)を経れば、役員の保険料を全額負担できるようになった。
  • 会社負担による保険料は、役員個人の給与所得として課税されないことが明確になった。
  • 公開会社は、事業報告において保険契約の内容や被保険者の範囲などを開示することが義務付けられた。

この法改正は、保険契約の透明性を高めると同時に、企業が役員を法務リスクから保護する体制を構築するための、強固な法的基盤となっています。

取締役会決議など契約時に必要な社内手続き

D&O保険を新たに契約、または更新する際には、原則として取締役会の決議を経ることが会社法で義務付けられています。この保険契約は、会社が保険料を支払い、役員がその利益を受けるという構造上、利益相反の側面を持つため、組織的な承認手続きによって契約の妥当性と透明性を確保する必要があるためです。 取締役会設置会社では、保険会社名、被保険者の範囲、保険料、保険期間、支払限度額といった契約の主要な条件を議案として提出し、承認を得なければなりません。取締役会を設置していない会社の場合は、株主総会の決議が必要となります。これらの手続きを適正に行うことで、保険契約の有効性が法的に担保され、後に株主から不当な利益供与であると追及されるリスクを回避できます。

D&O保険の主な補償内容

法律上の損害賠償金と和解金

D&O保険の最も中核的な補償は、役員が職務上の行為によって法律上の損害賠償責任を負った場合に支払うべき損害賠償金および和解金です。役員の任務懈怠などが裁判で認定された場合、賠償額は個人の資力をはるかに超える巨額に達する可能性があります。例えば、株主代表訴訟で取締役の監視義務違反が認められ、会社に対して数億円の支払いを命じられた場合、その賠償金が支払限度額の範囲内で保険から支払われます。判決に至らず、裁判上の和解や調停で合意した解決金についても、保険会社が妥当と判断すれば補償の対象となります。近年では、会社が自社の役員を訴える「会社提訴」による損害賠償金も、最新の保険商品では標準的に補償範囲に含まれる傾向にあります。

訴訟対応にかかる争訟費用

損害賠償金と並び、実務上きわめて重要となるのが、訴訟に対応するための弁護士報酬や裁判費用などの争訟費用です。たとえ最終的に役員に責任がないと判断され勝訴したとしても、複雑な企業関連訴訟を戦い抜くためには、数千万円規模の防御費用が発生することもあります。D&O保険は、こうした勝訴した場合の訴訟費用も補償対象とするため、役員は費用の心配をすることなく、早期から万全の法的防御を固めることができます。不当な訴訟に対して安易に妥協することなく、正当性を主張するための重要な経済的基盤となるのが、この争訟費用補償です。

補償の対象外となる主なケース

D&O保険は広範囲なリスクをカバーしますが、役員の意図的な不正行為や犯罪行為に起因する損害は、免責事由として補償の対象外となります。保険制度はあくまで偶然の事故による損害を補填するものであり、意図的な違法行為まで保護することは公序良俗に反するためです。

主な免責事由(補償対象外)
  • 役員による会社の資金の横領や、法令違反を認識して行った不正会計。
  • インサイダー取引など、役員の地位を悪用した個人的な利益追求行為。
  • 役員自身が加害者となった悪質なハラスメントや暴力行為。
  • 保険契約前にすでに提起されていた訴訟や、請求されることを予見していた損害。
  • 行政機関から科される罰金、課徴金、懲罰的損害賠償金。

役員は、保険の存在を過信せず、常に法令や倫理規範を遵守した職務遂行を心がける必要があります。

子会社や関連会社の役員は補償対象になるか

親会社がD&O保険を契約する際、子会社の役員も被保険者に含めることで、グループ全体のリスクを包括的にカバーすることが可能です。親会社の役員が子会社の役員を兼任することも多く、グループ経営におけるガバナンス強化の観点からも、一体的なリスク管理が求められます。保険契約時に、補償対象とする子会社を明記することで、その子会社の役員が訴えられた場合でも、親会社の保険契約から保険金が支払われます。ただし、通常は親会社の支配下にあった期間中の行為に起因する損害に限られ、グループから離脱した後の行為は対象外となる点には注意が必要です。

保険料の相場と税務上の取扱い

保険料の目安と主な変動要因

D&O保険の保険料に定価はなく、企業の状況に応じて保険会社が個別に算出します。これは、企業が抱える潜在的なリスクの大きさがそれぞれ異なるためです。保険料は、以下のような多様な要因を総合的に評価して決定されます。

保険料を左右する主な要因
  • 企業の売上高や総資産などの事業規模
  • 上場・非上場の別、株主構成
  • 事業内容(業種)や海外展開の有無
  • 設定する支払限度額や特約の有無
  • 過去の訴訟歴やコンプライアンス体制
  • 財務状況(連続赤字など)

例えば、売上高が数十億円規模の非上場企業であれば年間数十万円程度から加入できる一方、事業規模の大きな上場企業や海外展開を進める企業では、年間数百万円から数千万円に達することもあります。自社のリスクを正確に把握し、複数の保険会社から見積もりを取得して比較検討することが重要です。

会社負担と損金算入の可否

会社が適法な手続きを経て負担したD&O保険の保険料は、税務上、全額を損金に算入することが認められています。これは、役員の職務執行を支え、経営リスクを管理するための費用として、事業遂行上の必要性が認められるためです。かつては、株主代表訴訟を補償する部分の保険料を会社が負担すると、役員個人への給与とみなされ所得税が課される懸念がありましたが、改正会社法と国税庁の見解により、取締役会の決議などを経ていれば給与課税は不要であることが明確化されています。これにより、会社は保険料全額を法人の経費として処理でき、法人税の負担を軽減できるというメリットがあります。

加入手続きと選定時の注意点

契約までの基本的な流れ

D&O保険の契約は、自社のリスク評価から始まり、社内での承認手続きを経て締結に至ります。企業の経営実態が保険の引受可否や保険料に直接影響するため、正確な情報提供と適切な手続きが不可欠です。

D&O保険契約の主なステップ
  1. 保険会社や代理店に、決算書や役員構成などの経営情報を含む告知書を提出する。
  2. 保険会社がリスクを審査し、引受条件と保険料の見積もりを提示する。
  3. 提示された複数のプランを比較検討し、自社に最適な補償内容と支払限度額を決定する。
  4. 取締役会または株主総会で契約内容について決議し、正式な承認を得る。
  5. 保険会社と契約を締結し、初回保険料を支払う。

告知書に虚偽の記載や重大な事実の隠蔽があると、保険金が支払われなかったり契約を解除されたりする可能性があるため、誠実な情報開示が極めて重要です。

補償範囲や特約の確認ポイント

D&O保険を契約する際は、基本補償の内容はもちろん、自社の事業リスクに合わせた特約や、自己負担に関する条件を詳細に確認することが重要です。万一の際に想定していた補償が受けられない事態を防ぐため、以下の点などを入念にチェックする必要があります。

保険選定時の主な確認ポイント
  • 特約の要否: 従業員からの訴訟リスクに備える「雇用関連賠償責任補償特約」など、自社に必要な特約が付いているか。
  • 免責金額: 損害発生時に自己負担となる金額が、自社の財務体力に見合った適切な水準か。
  • 縮小支払割合: 保険金が損害額の一定割合に削減される条件がないか、ある場合は自己負担額がいくらになるか。
  • 社外役員の補償: 社外役員を保護するための手厚い補償が確保されているか。

自社の具体的なリスクを想定し、保険約款の細部まで専門家と相談しながら、補償に漏れがないよう設計することが肝要です。

補償開始のタイミングと遡及適用(レトロデート)の確認

保険契約で特に注意すべきなのが、補償がいつの行為まで遡って適用されるかという点です。D&O保険は、損害賠償請求が「保険期間中」になされた場合に適用される「クレームズメイド方式」が一般的です。しかし、請求の原因となった役員の行為が保険加入前に行われていた場合、補償を受けられるかどうかは遡及適用日(レトロデート)の設定によります。初めてD&O保険に加入する場合、遡及適用が無制限であったり、十分に過去の日付に設定されていたりすれば、保険加入前の行為が原因で訴えられても補償の対象となります。しかし、遡及日が保険開始日と同じ日付に設定されていると、過去の行為は一切補償されません。潜在的なリスクをカバーするためにも、この遡及適用の条件は必ず確認すべき最重要項目の一つです。

よくある質問

個人で加入することはできますか?

D&O保険は、役員個人が単独で加入することはできません。この保険は、会社が契約者となり、役員全員を被保険者として包括的に補償する法人向けの制度です。役員の職務に関するリスクは、会社のリスクマネジメントの一環として管理されるべきものであるため、このような設計になっています。したがって、保険による補償を希望する役員は、所属する会社に対して、法人としてD&O保険を導入するよう働きかける必要があります。

中小企業やスタートアップでも必要ですか?

D&O保険は、大企業だけでなく中小企業やスタートアップ企業にとっても非常に重要です。企業の規模にかかわらず、役員が訴えられるリスクは存在します。

中小・スタートアップ企業に潜むリスク
  • 同族企業における経営権や事業承継を巡る親族間の紛争
  • スタートアップ企業の投資家(ベンチャーキャピタルなど)からの経営責任の追及
  • 急成長に伴う労務管理体制の不備やコンプライアンス違反

特に、成長段階にある企業では、管理体制が追いつかないまま事業が拡大し、予期せぬトラブルに発展しやすくなります。役員が安心して大胆な経営判断を下し、優秀な人材を確保するためにも、D&O保険は不可欠な防衛策といえます。

退任した役員も補償の対象になりますか?

はい、在任中の行為が原因であれば、退任した役員も補償の対象となるのが一般的です。役員の法的責任は、退任後も時効が成立するまで追及される可能性があるため、退任後の生活を守る上でも重要な規定です。例えば、在任中に行った経営判断について退任から数年後に訴訟を起こされた場合でも、その時点で会社がD&O保険契約を継続していれば、元役員として補償を受けられます。また、商品によっては、会社が保険契約を解約した場合でも、退任役員に対する補償期間を一定期間(例:10年間)延長する特約が自動付帯されていることもあります。

まとめ:D&O保険で役員の賠償責任リスクに備える

会社役員賠償責任保険(D&O保険)は、株主代表訴訟や第三者からの訴訟など、役員が職務上直面する様々な賠償責任リスクから個人資産を守るための重要な防衛策です。この保険は、巨額の損害賠償金や和解金に加え、訴訟対応に要する弁護士費用などの争訟費用も補償します。会社法改正によって会社が保険料を負担する際の手続きや税務上の取扱いも明確化され、役員が安心して経営判断を行える環境を整備する上で不可欠な制度となっています。保険を検討する際は、自社の事業内容や規模に応じた補償範囲や特約を慎重に吟味し、複数の選択肢を比較することが肝要です。ただし、意図的な法令違反や犯罪行為は補償されないため、保険の存在を過信せず、常にコンプライアンスを遵守する姿勢が求められます。具体的なプラン選定にあたっては、保険代理店などの専門家に相談し、自社に最適な契約内容を確認しましょう。

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