事業運営

危機管理マニュアルの作り方と企業実務で外せない設計要点

経営リスクナビ編集部

危機管理マニュアル(クライシスマネジメント)の策定・改訂に着手しようとしても、既存のBCPや就業規則、個人情報の取扱いと整合しないまま「形だけ」作ってしまうと、有事に現場が動けず、指揮命令や情報管理が後追いになりがちです。とくに健康情報を扱う局面では、平成30年9月7日公表の指針等も踏まえた社内規程との上位整合が取れていないと、労務・コンプライアンス・レピュテーションの火種になり得ます。自社の実態に即した設計にするには、危機の定義から初動フロー、対外対応、訓練・改訂までを一続きで決められる状態にすることが重要です。以下では、危機管理マニュアルを実務で運用できる形に落とし込む判断材料として要点を示します。

目次

危機管理マニュアルの位置づけ

BCPとの違いと事業継続の関係

危機管理マニュアルとBCP(事業継続計画)は似て見えますが、狙いと使われる局面が異なります。BCPは、緊急時でも重要業務を継続し、中断した場合も可能な限り短期間で再開するために、平時の準備事項や危機時の業務基準をあらかじめ定める色彩が強い計画です。一方、一般の危機管理マニュアルは、被害を局限するための平時準備と、緊急時に対策本部を中心に組織的活動を適切に行うための活動要領(指揮命令・情報共有・初動対応など)を示す位置づけになります。

また、危機管理広報も含めた広い意味の危機管理マニュアルは、「災害・事故等で従業員や建物・施設・設備等の経営資源が被害を受け、事業活動に大きな影響が出た場合でも、最重要機能を継続または可能な限り短期間で再開できるよう、事前に準備・対応・取決めをしておく事項や、想定される危機対応業務を規定化したもの」と整理できます。ここでは、BCPの要素(重要業務・経営資源の準備)と、危機管理の要素(対策本部・意思決定要領・広報対応)を、用途に応じて切り分けつつ接続することが実務的です。

観点 危機管理マニュアル BCP(事業継続計画)
主目的 被害の局限と、対策本部を中心とした緊急時の組織行動の統制 重要業務の継続と、中断時の可能な限り短期間での再開
中心要素 初動対応、社内連絡、情報共有、意思決定要領、(必要に応じ)広報対応 重要業務の優先順位、必要な経営資源(人・もの・金・サービス・情報等)の準備、代替手段
準備の範囲 報告ルート・連絡網・通信手段の多重化・役割分担など「動くための仕組み」 代替拠点・代替生産/サービス提供のための施設・生産ライン・原材料の確保や移送手段、協力支援の取決め
危機管理マニュアルとBCPの主な違い

就業規則・個人情報保護規程・内部通報制度と矛盾させない整備順序

危機管理マニュアルは「行動の手引き」ですが、内容が就業規則や個人情報・通報制度のルールと矛盾すると、緊急時の指示が適法性を欠き、労務・個人情報・コンプライアンスの火種になります。特に、安否確認や健康配慮が絡む局面では、健康情報を含む労務情報の取扱いが問題化しやすく、平時からルールの上位整合を取っておくことが重要です。

労働安全衛生法は、労働者の安全・健康確保の義務を定め(例:労働安全衛生法第3条)、その前提として事業者が健康情報等を取り扱う場面が生じます。他方、健康情報が勤務評価・配置転換・昇格等に不相当に利用される、あるいは退職勧奨・解雇目的で収集されるおそれがあるため、事業場の状況に応じた「健康情報等の取扱規程」を、労使関与の下で策定し周知することが求められる、という整理が各種指針で示されています。

矛盾を避けるための整備順序(実務)
  1. 就業規則で有事対応に関する基本(緊急時の指揮命令・緊急連絡・出退勤や避難に関する取扱いの枠)を整理します。
  2. 個人情報の取扱い(特に雇用管理情報・健康情報)について、個人情報保護法(個人情報保護法)と「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)」を前提に、利用目的・アクセス制御・保管期間・第三者提供等を社内規程として確定します。
  3. 健康情報を扱う場合は「労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成30年9月7日)等を踏まえ、健康情報等の取扱規程を労使関与(衛生委員会等)で検討し、就業規則その他の社内規程に位置づけ、掲示・備え付け・イントラネット掲載などで周知します。
  4. 内部通報制度は、公益通報者保護法(公益通報者保護法)を踏まえ、通報対応者の守秘・調査時の情報管理・報復防止などを具体化し、危機情報が「途中で止まらない」報告ルート設計と接続します。
  5. 上位規程に適合する形で、危機管理マニュアルに「現場が実行する手順(初動・連絡・記録・広報・復旧)」を落とし込みます。

作成前のリスク整理

リスクの洗い出しと危機レベル

マニュアルを機能させるには、最初に「何を危機として扱うか」を社内で言語化し、危機レベル(対策本部の起動基準や意思決定者)まで落とし込む必要があります。特に、危機が内部で発見される場合でも、拡大を防ぐには迅速な対応が不可欠であり、「規定の危機報告ルートに何があっても通知する」仕組みを前提にレベル設計を行うべきです。子会社・拠点内で報告が止まるような設計だと、どれだけ手順が整っていても実効性が落ちます。

洗い出し対象に含めるべき領域(例)
  • 災害・事故(地震、火災、洪水、土砂災害、設備事故など)
  • 情報セキュリティ(サイバー攻撃、ランサムウェア、情報漏えい、システム障害)
  • 法令・不祥事(品質不正、贈収賄、独禁法・下請法違反、ハラスメント等)
  • レピュテーション(SNSでの炎上、風評、メディア問い合わせが第一報となる「発覚」型事案)
  • サプライチェーン(主要サプライヤー停止、メンテナンス業者不在、物流寸断)

危機レベルは、影響(人命・法令違反・顧客影響・操業影響・信用毀損)と、対応の組織規模(部門内/複数部門/全社)を連動させ、レベルごとに「誰が決めるか」「どこへ報告するか」「広報を入れるか」を固定します。ここで重要なのは、末端で入力された危機情報が、リスク管理部門や広報部門も含めた登録者に瞬時に届く全社システムを前提にすることです(メールアラート等の実装を含む)。

全事象を1冊に入れる会社と事象別に分ける会社の判断基準

総合版(1冊)か、基本+事象別(分冊)かは、組織規模・拠点数・職能分化・危機時の参照行動で決めます。参照者が迷わないことが最優先で、特に大規模化するほど、緊急連絡網は部署別の方が機能的になりやすい、という整理が実務上の示唆になります。

観点 1冊(統合型)が向く 基本+事象別(分冊型)が向く
組織・拠点 単一拠点・指揮命令が社長直結 複数拠点・子会社・事業部門が多い
参照者 総務等が全領域を横断して担う IT、製造、法務、広報など専門対応が前提
連絡網設計 地域別・少人数の連絡で回る 部署別連絡網+全社一斉連絡の併用が必要
実装上の要点 索引と検索性(紙・PDF)を最優先 基本(連絡・指揮・広報)を共通化し、事象別に手順・記録様式を分離
形式選定の判断基準
広告

危機管理マニュアルの基本構成

章立てと必要項目の考え方

章立ては「発生→初動→対策本部運営→対外対応→復旧→検証」の時系列と、実務で必要な成果物(報告書・記録・承認)に合わせて設計します。危機対応では、社内の情報共有と情報の取扱い(アクセス範囲・持出し・保管)が同時に問題化するため、章立ての中に「共有」と「取扱い」を明示的に置くと、コンプライアンス面の抜けが減ります。

章立てに織り込みたい必須項目(例)
  • 適用範囲と危機の定義(災害・事故・不祥事・サイバー等を含む)
  • 対策本部の設置要件と活動要領(対策本部中心の組織的活動)
  • 初動対応(危機の情報収集、社内連絡、状況報告書の作成)
  • 対外対応(監督官庁・取引先への報告、情報の公表、警察への相談の要否)
  • 危機管理広報(ホールディングコメント、危機管理広報対応方針の策定と承認、ニュースリリース・記者会見)
  • 情報共有と情報管理(インシデント対応情報の取り扱い、長期化に備えた体制)
  • 復旧・平常化と検証(再発防止、改訂、記録の保管)

テンプレートの記載例と応用法

テンプレートは骨組みとして有用ですが、企業の危機対応では「通信断」「問い合わせの第一報」「サプライチェーン調整」など、現実の摩擦点を具体化しないと運用できません。特に通信手段は、地震等の緊急時に固定電話・ファクシミリ・携帯電話が途絶したり、通話規制が行われる可能性が極めて高くなるため、平時から多重化を前提に書き換える必要があります。東日本大震災では電子メールや衛星携帯電話が有効に機能したと言われている、という示唆も踏まえ、単一手段依存を避けます。

テンプレートを自社仕様へ落とす観点(具体化ポイント)
  • 緊急連絡手段を具体化します(固定電話・携帯電話・電子メール・災害時優先電話・無線(MCA無線等)・トランシーバー・衛星(携帯)電話・電話会議/テレビ会議・社内音声同報・安否確認システム・一斉通報/自動配信・緊急用ウェブサイト)。
  • 本社所在地圏外の連絡先(中継点)を設ける等、電話輻輳を前提にした連絡設計に置き換えます。
  • 「危機の第一報」がメディアからの問い合わせとして入る場合(発見ではなく発覚)を織り込み、広報部門が受けた時点で危機報告ルートに載せる手順を明記します。
  • サプライヤー・関連会社・メンテナンス業者との協力支援の取決め(誰が、何を、どの順に依頼するか)を、連絡先と承認権限まで含めて記載します。

危機発生時の手順設計

初動対応フローの書き方

初動は、文章ではなく「迷いなく動ける単位」に分解し、フロー化します。危機管理広報の観点でも、初期対応で最低限こなすべきTo Doとして、危機の情報収集、社内連絡、状況報告書の作成、ホールディングコメントを使ったメディア対応、危機管理広報対応方針の策定と承認取得、といった要素を並行処理できる設計が現実的です。

初動フローに必ず入れるブロック(例)
  1. 第一発見者が安全確保を最優先しつつ、危機報告ルートへ一次情報を入力します(止めない設計にします)。
  2. 現場部署が状況を把握し、就業時間中の初期対応は現場判断で実施する原則を前提に、追加被害を防ぐ応急措置を行います。
  3. リスク管理部門・広報部門を含む登録者にアラートが一斉通知され、対策本部設置要否の判断材料を揃えます。
  4. 状況報告書を作成し、社内の情報共有範囲と、対外公表の可否・タイミングを切り分けます。
  5. 問い合わせが発生した場合は、ホールディングコメント(確認中の旨等)で一次対応し、危機管理広報対応方針の承認後にニュースリリース・会見対応へ移行します。

緊急連絡網とエスカレーション

緊急連絡網は「作って終わり」ではなく、随時更新され、かつ通信断に耐える設計であることが要件です。会社規模が大きくなるほど、部署別の緊急連絡網が機能的になりやすい点を踏まえつつ、現場→部門→全社(リスク管理・広報・経営)へと上がるエスカレーションを一本化します。

また、安否確認や緊急時の配慮では、従業員の連絡先だけでなく健康情報等の取扱いが問題になります。個人情報保護法(個人情報保護法)に加え、健康情報については「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成30年9月7日)等の枠組みを前提に、利用目的・アクセス権限・目的外利用禁止を社内規程で明確化してから、連絡網運用に落とします。

通信手段の多重化(設計に入れる具体例)
  • 固定電話・ファクシミリ
  • 携帯電話・PHS
  • 電子メール(インターネットメール・携帯メール)
  • 災害時優先電話・専用線電話
  • 無線(MCA無線・携帯無線・防災無線)
  • トランシーバー(免許不要)
  • 衛星(携帯)電話
  • 電話会議システム・テレビ会議システム
  • 社内音声同報システム
  • 従業員の安否確認システム(電話または電子メール)
  • 一斉通報・自動配信システム(電話・ファクシミリ・電子メール)
  • 従業員からアクセス可能な緊急用ウェブサイト

発生後30分・2時間・24時間で誰が何を決めるかを時系列で固定する

意思決定の空白をなくすには、発生後30分・2時間・24時間といった節目で、決める人と決める事項を固定します。この「時間軸での固定」は、危機対応を長期化させないためにも有効で、特に外部説明(取引先報告・情報公表)に遅れが出ないように設計します。

時点 主担当(例) 決めること(例)
発生後30分 現場責任者+当番管理職 安全確保の完了確認、危機報告ルートへの登録、対策本部設置要否の一次判断
発生後2時間 対策本部長+事務局+広報 状況報告書の確定、社内共有範囲、ホールディングコメント使用の可否、監督官庁・取引先報告の要否
発生後24時間 対策本部+事業部門 操業可否・代替手段の起動、取引先への影響見込みと調整方針、情報公表(ニュースリリース・会見)方針
時系列で固定する意思決定の例

復旧と役割分担の設計

復旧から平常化までの手順

復旧は「原状回復」と「重要業務の再開」を混同しない設計にします。危機管理・BCPの定義上も、被害復旧を行いつつ平常の業務体制に復帰させるため、社内各部署の準備と復旧活動、重要業務の再開が円滑に進むよう規定しておくことがポイントです。

復旧から平常化までの段階設計(例)
  1. 安全確認と復旧宣言の前提整理を行います(建物・設備・インフラの安全確認、二次災害リスクの除去)。
  2. 重要業務の再開に必要な経営資源(人・もの・金・サービス・情報等)の充足状況を点検し、不足分は代替手段で補います。
  3. 代替生産・サービス提供が必要な場合は、施設・生産ライン・原材料の確保や移送手段まで含めて起動判断します。
  4. サプライヤー・関連会社・メンテナンス業者との協力支援の取決めに基づき、優先順位をつけて復旧支援を要請します。
  5. 平常化判定後、検証(何が詰まったか、報告ルートは機能したか)とマニュアル改訂に接続します。

担当者と指揮命令系統の定め方

指揮命令系統は対策本部を中心に一本化し、役割を「実際に動ける部署」に紐づけます。危機管理広報の実務でも、危機対応の要所に「社内連絡」「情報共有」「電話対応」「個別インタビュー対応」「ニュースリリース対応」「記者会見対応」といった機能が並ぶため、広報機能を後付けにせず、最初から班編成に入れておくことが重要です。

対策本部の班編成に入れたい機能(例)
  • 事務局(状況報告書、会議体運営、承認記録、タスク管理)
  • 情報連絡(危機報告ルート運用、全社共有、緊急連絡網更新)
  • 現場対応(避難誘導、初期消火、設備停止、応急措置)
  • IT/セキュリティ(ログ保全、暫定対策、復旧手順、インシデント記録)
  • 広報対応(ホールディングコメント、リリース、会見、問い合わせ窓口)
  • 対外調整(監督官庁・警察相談、取引先・サプライヤー調整)

経営者不在・管理職被災・担当者退職でも回る代行順位の決め方

代行順位は、実名ではなく役職で定め、最低でも第3順位までを事前に固定します。加えて、危機情報が子会社・拠点内で止まる事態を避けるため、「どんな末端であれ、いったん入力した危機情報は登録者全員に瞬時に届く」運用を前提に、代行者にも同じ通知・承認線が回るように設計します。

代行順位設計で明記しておく事項(例)
  • 本部長(社長)不在時の職務代行順位を役職で定義します(例:専務→常務→事業部長など)。
  • 広報承認者不在時の代行(ホールディングコメント・リリース承認の代替線)を定めます。
  • 初期の安全確保に関する緊急アクション(避難誘導、通報等)は本部長決裁を待たず現場権限で実行できる範囲を切り出します。
  • 危機報告ルートへの登録・状況報告書の作成は代行者でも同じ粒度で遂行できるよう様式を統一します。
広告

危機管理マニュアルの運用

訓練・教育とツール整備の進め方

運用で重要なのは、危機を見つけたら真っ先に「危機の報告ルートに伝達する」という行動原則を、全社員・全管理職・全役員に徹底することです。ここが徹底されないと、危機が内部にとどまり、外部告発やメディアによる「発覚」を招きやすくなります。

危機管理広報の社内演習の例として、年に2回、リスク管理室・広報・総務・法務から選抜した約30名を対象に、直面するリスクや新規リスク共有→危機発生シナリオ作成→各自が直ちにやるべき危機対応活動の洗い出し→模擬記者会見、という流れで実施する設計が示されています。自社の規模に合わせて人数や頻度は調整しつつ、「広報を含む横断訓練」を定例化すると、対外対応の初動が安定します。

訓練設計で組み込みたい要素(例)
  • 危機報告ルートへの登録訓練(子会社・拠点から本社へ止まらず上がるかを確認します)。
  • アラートメール等の一斉通知が、リスク管理・広報を含む登録者に瞬時に届くかの確認を行います。
  • 通信断を想定し、電子メール・衛星(携帯)電話・無線等の代替手段で連絡が回るかを点検します。
  • 広報対応として、ホールディングコメント→リリース→会見の判断と承認の速度を計測します。

見直し・更新と改訂履歴管理

見直しは、定期だけでなく「更新トリガー」を明示します。特に規程整備との関係では、個人情報保護法(個人情報保護法)や公益通報者保護法(公益通報者保護法)に関する運用変更、また健康情報等の取扱いに関する指針(平成30年9月7日公表の指針等)を踏まえた社内規程改定が入った場合、危機管理マニュアル側の手順・様式・アクセス権限も連動して更新する必要があります。

また、健康情報等の取扱規程については、衛生委員会等で労使関与の下に検討し、策定したものを就業規則その他の社内規程に定め、掲示・備え付け・イントラネット掲載などで周知する、という周知方法まで含めて示されています。マニュアル側でも、最新版が参照される配布・保管・掲載の仕組み(紙・電子)と、改訂履歴の一本化が必要です。

項目 記載内容
改訂年月日 いつ改訂したか
改訂責任者 誰が最終責任を負うか(役職)
変更箇所 対象章・様式・連絡網など
変更理由 法改正・組織変更・訓練結果・事故/インシデントの教訓など
周知方法 掲示・備え付け・イントラネット掲載・教育実施など
改訂履歴に最低限残す項目(例)

訓練後に残すべき記録と取締役会・監査対応で使える報告項目

訓練後の記録は、改善のためだけでなく、社内外への説明(監査・取締役会報告)にも使える形で残します。危機対応では、インシデントの状況が刻一刻と変化するため、対応中に確認した事実と、組織側の応急処置等の対応を詳細に記録し、全体をタイムライン形式で俯瞰できるようにすることが有効だとされています。これによりフェーズごとの作業効率が上がり、外部・内部への対応状況報告が求められる場面でも活用できます。

訓練・インシデント対応後に残すべき記録(例)
  • 訓練実施日、対象(例:年2回の演習、選抜約30名等)、想定シナリオ、実施範囲(拠点・子会社)
  • 危機報告ルートへの登録から、登録者への一斉通知(アラート)が完了するまでの所要時間
  • 広報対応の記録(ホールディングコメント使用の有無、ニュースリリース起案・承認時刻、会見判断の根拠)
  • インシデントの時系列ログ(確認した事実、意思決定、実施した応急処置、未解決課題)
  • サイバー対応の管理台帳(例:ホスト名、OSバージョン、IPアドレス、設置場所・用途等)
  • ボトルネックと改善ロードマップ(担当部署、対策内容、完了期限、次回訓練での検証方法)

公的手引きの企業応用

学校・行政向け手引きの使いどころ

公的機関の手引きは、リスクの網羅性や人命安全の考え方、初動の型が整理されている点で参考になります。企業で応用する際は、学校・行政の枠組みをそのまま移すのではなく、企業側の「重要業務の継続・可能な限り短期間での再開」という目的と接続して、実行可能な要素を採り入れます。

特に、危機管理の一般論としては、被害を局限する平時準備と、緊急時に対策本部を中心とした組織的活動を適切に行う活動要領を示すことが重要です。公的手引きは、この「初動の型(誰が何をするか)」を学ぶ素材として有効なので、自社の対策本部設計・避難誘導・連絡網・情報共有の章に反映させると、抜け漏れが減ります。

見やすいフロー化と企業向け調整

公的手引きを企業に適用する場合は、フロー化して「報告・共有・対外対応」の流れを一本化する調整が必要です。特に企業では、監督官庁・取引先への報告、情報の公表、警察への相談といった対外対応が、レピュテーションリスクや法令対応と直結します。

企業向けに追加・調整すべき観点(例)
  • 「社内の情報共有」と「インシデント対応情報の取り扱い」をセットで規定し、共有範囲と持出し可否を明確にします。
  • 取引先への報告(影響見込み、納期、代替供給の方針)を、対策本部の意思決定と連動させます。
  • 情報公表(ニュースリリース、会見、個別取材)を、危機管理広報対応方針の承認プロセスに乗せます。
  • 長期化に備えた体制(交代要員、記録の継続、意思決定要領)を明示し、属人化を防ぎます。

よくある質問

危機管理マニュアルと防災マニュアルはどう違いますか?

防災マニュアルは、地震・火災等の局面で人命・拠点を守る初動行動(避難・初期消火・点呼等)に焦点を当てるのが通常です。これに対して危機管理マニュアルは、被害を局限する平時準備と、緊急時に対策本部を中心とした組織的活動を適切に行う活動要領まで含め、自然災害だけでなく不祥事・情報漏えい・サプライチェーン寸断等も対象にし得ます。

また、BCPが重視する「重要業務を継続し、中断した場合でも可能な限り短期間で再開する」という観点まで接続すると、防災(現場の安全確保)→危機管理(全社統制と対外対応)→BCP(重要業務再開)のつながりが明確になり、社内の役割分担が整理しやすくなります。

小規模事業者でも危機管理マニュアルは必要でしょうか?

必要です。規模が小さいほど、危機情報が特定個人に滞留しやすく、報告が遅れて外部告発・メディアによる「発覚」につながるリスクが相対的に高くなります。実務上は、分厚い冊子よりも、まず「危機を発見したら第一に危機の報告ルートに伝達する」という行動原則と、末端から入力された情報が登録者(リスク管理・広報を含む)に瞬時に届く仕組みを優先して整えるのが現実的です。

あわせて、通信断を前提に連絡手段を多重化し、固定電話・携帯だけに依存しない設計(電子メール、衛星(携帯)電話、無線等)にしておくと、少人数でも初動の確実性が上がります。

既にBCPがある場合でも別途作成すべきですか?

作成を推奨します。BCPは、重要業務の継続や可能な限り短期間での再開のため、必要な経営資源(人・もの・金・サービス・情報等)の準備、代替生産・サービス提供のための施設・生産ライン・原材料の確保や移送手段、協力支援の取決め等まで含めて整理するため、どうしても情報量が多くなりがちです。

一方、危機管理マニュアル(初動編)は、危機の情報収集、社内連絡、状況報告書、ホールディングコメントを含むメディア一次対応、危機管理広報対応方針の策定と承認、といった「発生直後にやること」を見ながら動ける形に落とすのが目的です。BCPの前段に初動マニュアルを置いて接続すると、現場の迷いが減ります。

危機管理マニュアルはどのくらいの頻度で見直し・更新しますか?

定期更新に加えて、実務上の更新トリガーを明確化して運用します。特に、個人情報保護法(個人情報保護法)や公益通報者保護法(公益通報者保護法)の運用変更、健康情報等の取扱いに関する指針(平成30年9月7日公表)を踏まえた規程改定が生じた場合、危機管理マニュアル側も連動して更新が必要です。

また、訓練で「危機報告ルートが途中で止まる」「アラートが届かない」「通信手段が単一で詰まる」などの不具合が見つかった場合は、その時点が更新トリガーになります。改訂履歴(改訂年月日・責任者・変更箇所・理由・周知方法)を残し、最新版が参照される状態を維持することが重要です。

危機管理マニュアルへの対応で次にすべきこと

危機管理マニュアルは、BCPとの役割分担を明確にしたうえで、初動・対策本部運営・対外対応・復旧までを「迷いなく動ける単位」に分解して設計することが要点です。とくに就業規則や個人情報・健康情報の社内規程と矛盾すると、有事の指揮命令や連絡網運用が後から問題化しやすいため、平成30年9月7日公表の指針等も踏まえた上位整合を先に固めます。判断の軸としては、危機の定義と危機レベル、報告ルートが途中で止まらない設計、発生後30分・2時間・24時間の意思決定固定、訓練と改訂履歴までを一続きで回せるかを確認します。次アクションは、リスク管理・広報・総務・法務・人事などの関係部署で、緊急連絡網と情報管理(アクセス権限・目的外利用禁止)を含む運用前提をすり合わせ、訓練で詰まりを可視化することです。個別事案の適法性判断や労務・個人情報対応は論点が分岐し得るため、必要に応じて専門家に相談しながら具体化してください。



Baseconnect株式会社
サイト運営会社

本メディアは、「企業が経営リスクを正しく知り、素早く動けるように」という想いから、Baseconnect株式会社が運営しています。

当社は、日本最大級の法人データベース「Musubu」において国内1200万件超の企業情報を掲げ、企業の変化の兆しを捉える情報基盤を整備しています。

加えて、与信管理・コンプライアンスチェック・法人確認を支援する「Riskdog」では、年間20億件のリスク情報をAI処理、日々4000以上のニュース媒体を自動取得、1.8億件のデータベース等を活用し、取引先の倒産・不正等の兆候の早期把握を支援しています。

記事URLをコピーしました