法務

犯罪損害賠償の進め方|制度の違いと回収判断を整理

経営リスクナビ編集部

犯罪損害賠償は、役職員の横領・背任や情報漏えい、暴力・恐喝などで自社が損害を受けたときに、刑事手続を使うのか通常の民事請求で回収を狙うのかを見誤ると、社内判断と実務対応が後手に回りやすい論点です。放置すると、証拠の散逸や資産の隠匿が進み、たとえ刑事事件化しても賠償が自動的に入らず、回収の手段選択を誤ってコストだけが増えるおそれがあります。損害賠償命令制度の申立手数料が請求額にかかわらず2,000円とされる一方で、制度の対象外となりやすい類型もあるため、初動から「使える制度」と「使えない制度」を切り分ける必要があります。以下では、回収手段の選択と社内意思決定の判断材料として要点を示します。

犯罪損害賠償の全体像

刑事事件と民事請求の関係

刑事手続と民事請求は、目的・当事者・結論の効果が異なる別の法的枠組みです。刑事手続は、警察・検察が中心となって加害者の刑事責任を追及し、犯罪の成否や刑罰を判断します。一方、民事請求は、被害企業が主体となって損害の填補(埋め合わせ)を求める手続であり、損害額や因果関係を企業側が立証して回収を目指します。

企業被害でも、行為態様によっては、例えば街宣活動・威力による業務妨害が問題となる場面で威力業務妨害罪(刑法第234条)、名誉毀損罪(刑法第230条)、信用毀損罪(刑法第233条)、恐喝罪(刑法第249条)、強要罪(刑法第223条)などが成立しうると整理されます。ただし、有罪になっても損害が自動的に企業へ支払われるわけではないため、回収は示談・民事訴訟・強制執行等を別途組み立てる必要があります。

また、刑事と民事は無関係ではなく、刑事事件化により「何が起きたか」が公的手続で整理され、民事の立証・交渉が進めやすくなる場合があります。もっとも、刑事記録が常に入手できるとは限らないため、企業側でもメール、入出金記録、ログ等を独自に確保し、民事の要件(違法行為・損害・因果関係)に落とし込める形で準備しておくことが実務上重要です。

被害回復の手段と選び分け

被害回復の手段は複数あり、相手の資力(回収可能性)と争点の複雑さ(立証負担)とスピードで使い分けます。刑事事件化する場合でも、まずは管轄警察署への相談と、被害状況が分かる資料の持参、必要に応じた被害届(書式例が流通)提出や刑事告訴という流れになります。街宣活動等による被害が疑われる場合は、被害発生後できるだけ早期に警察へ相談する運用が示されています。

手段 主な狙い 企業側の負担 回収面の特徴
示談(民事合意) 早期回収と紛争終結 条件設計と履行管理が必要 合意できれば迅速だが不履行リスクが残る
刑事和解(公判調書) 債務名義を得て強制執行へ 刑事手続の進行に依存 合意成立なら執行に直結しやすい
損害賠償命令制度 刑事裁判の枠内で被害回復 申立要件・対象犯罪の限定 対象犯罪なら低負担で命令を得やすい
民事訴訟(通常訴訟) 争点整理と確定判断 証拠収集・主張立証が重い 判決等で回収の土台を作れる
被害回復ルートの実務比較

選定にあたっては、損害賠償命令制度が「使える事件か(対象犯罪か)」を最初に切り分け、対象外(典型的には横領・背任・情報漏えい等)なら、資産散逸を防ぐ観点から保全(仮差押等)→民事の検討に速やかに移るのが合理的です。

示談と刑事和解の進め方

示談で確認すべき条件

示談は「合意すれば終わり」ではなく、企業にとっては履行確保の設計が中核です。参照される示談書例では、当事者(例: 甲ら・乙)を明確にし、事故等の特定、損害賠償債務の認定、支払方法(指定口座への振込)、残部請求放棄や清算条項、作成通数(例では3通)までを条項化しています。企業の実務では、事案に応じて「解決金」「和解金」など表現を調整しつつ、回収とリスク遮断に資する条項へ落とし込みます。

示談書で最低限入れるべき実務条項
  • 当事者の特定(法人名・代表者、個人の住所氏名等)と対象事実の特定(いつ・どこで・何が起きたか)。
  • 支払義務の認定(損害賠償債務として認めるのか、解決金として扱うのか)。
  • 支払方法(例: 指定銀行口座への振込)と、振込手数料負担者の明記(例では支払側負担)。
  • 分割の場合の期限の利益喪失条項(1回の遅滞で残額一括請求できる設計)。
  • 担保提供または連帯保証(回収確実性の補強)。
  • 清算条項の範囲を限定し、未判明損害・未知の不正が後日発覚した場合に備える。

宥恕条項(処罰感情を宥める趣旨の条項)は、例示条項では「宥恕する」と明記され、さらに「刑事上の請求放棄」まで含む形になっています。企業として厳正な刑事対応を維持したい場合は、宥恕条項や刑事上の請求放棄条項を入れるか否かを分けて検討し、「弁済合意(弁済協定)」として金銭支払と履行確保に絞る設計も選択肢になります。

刑事和解の効力と限界

刑事和解は、刑事裁判の中で被告人と被害者が合意した内容を公判調書に記載してもらい、履行確保につなげる発想です。合意が成立し、公判調書に和解内容が残れば、民事の裁判上の和解に準じて、未払い時の強制執行へつなげやすいという利点があります。

一方、損害回復の局面では、刑事手続に付随する被害回復制度として、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(同法32条)の損害賠償命令が位置付けられ、さらに仮執行宣言付損害賠償命令(法22条3号の2に該当する整理)が問題になることがあります。仮執行が付されると、確定前でも執行局面へ進める余地が生じうるため、刑事側の結論が出るタイミングと回収のタイミングを意識して手段を検討します。

ただし刑事和解は、相手が認否を争う場合や、金額に合意できない場合には成立しません。また、債務名義に近いものを得ても、相手に差し押さえるべき資産がなければ回収は困難です。したがって「和解の可否」と「資産の有無・散逸リスク」を分けて評価し、必要なら早期に保全・調査へ移る判断が必要です。

厳重処罰を求める場合と早期回収を優先する場合の社内判断基準

社内不正・暴力・恐喝等に直面すると、企業は「厳重処罰(刑事責任追及)」と「早期回収(弁済確保)」の優先順位を決める必要があります。街宣活動等の被害類型では、成立しうる犯罪として威力業務妨害罪(刑法第234条)、恐喝罪(刑法第249条)、強要罪(刑法第223条)などが整理され、警察への相談・被害届提出や刑事告訴が現実的選択肢になります。

社内判断で比較すべき観点
  • 再発防止・規律維持の必要性(見せしめ目的ではなく、統制・抑止の実効性で評価)。
  • 取引先・顧客への説明責任(公表要否、説明資料の整備、二次被害の抑止)。
  • 回収実務(宥恕条項を入れるか、刑事上の請求放棄まで含めるか、分割なら担保を取れるか)。
  • 相手の資力と散逸リスク(合意の成立可能性とは別に、差押対象があるか)。
  • 手続の時間軸(警察相談は「なるべく早期」とされ、準備不足だと立件・交渉とも不利になりうる)。

早期回収を最優先する場合は、示談書例にあるような宥恕条項や「刑事上の請求放棄」条項が交渉材料になることがありますが、企業としてはリスク(再発・他被害者との関係・社内統制への影響)を踏まえ、条項の入れ方を個別に設計することが重要です。

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損害賠償命令制度を知る

制度の趣旨と使える犯罪類型

損害賠償命令制度は、刑事裁判の流れの中で被害回復を図る制度で、被害者側の手続負担を軽減する趣旨があります。刑事裁判で整理された証拠関係を活用できるため、民事で一から同じ立証を積み上げるより効率化できる場面があります。

ただし、制度の使い勝手は「対象犯罪に当たるか」でほぼ決まります。企業被害で多い横領・背任・情報漏えい等は対象外になりやすく、対象外の場合はこの制度に依存せず、民事での請求設計を進める必要があります。

また、損害賠償命令には仮執行宣言が付される場合があり(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律32条2項、同法上の整理として法22条3号の2)、確定前の回収局面(強制執行)を意識した検討が必要になることがあります。

申立て要件と期限・申立先

申立先や時期の管理は、制度利用の成否を左右します。刑事公判の進行に合わせて申立て可能期間が区切られるため、企業側(または代理人)は公判期日と結審見込みを把握し、提出書類の準備を前倒しで進めます。

本制度の具体的負担として、申立手数料が請求額にかかわらず2,000円とされており、通常の民事訴訟の提起と比べて初期費用を抑えて開始できる点が特徴です。また、異議申立てがあると通常訴訟へ移行しうるため、相手が争う蓋然性(認否・資力・交渉態度)も見立てに含めます。

対象外になりやすい横領・背任・情報漏えい事案で民事請求へ切り替える判断線

横領・背任・情報漏えいなど、企業で頻発する経済事案が制度対象外になりやすい場合、刑事の立件や公判を待つだけでは資産散逸を許すおそれがあります。したがって、社内調査・フォレンジック等で「客観的証拠」と「被害額の算定根拠」の骨格が固まった段階で、民事(保全を含む)に切り替える実務設計が重要です。

参照される実務資料では、サイバー攻撃・情報漏えい対応の初動として、原因究明ができない状態で復旧を急ぐと二次被害の危険があるだけでなく、取引先から証拠隠滅を疑われ、取引停止から終了に至り得る点が指摘されています。デジタルフォレンジック(ログ、タイムスタンプ等の分析)で侵入経路・攻撃手段・流出可能性を分析しつつ、VPN遮断、パスワード強制変更、EDR導入、リモートデスクトップ停止などの応急措置で被害拡大を止めるという流れが典型です。

民事訴訟手続で請求する

訴訟の流れと立証の考え方

民事訴訟は、企業(原告)が訴状を提出して開始し、答弁書、口頭弁論・弁論準備、証拠調べを経て、判決または裁判上の和解で終結します。企業側は、請求原因(不法行為・債務不履行など)に応じて、違法行為、損害、因果関係を証拠で一貫して説明できる構成にする必要があります。

証拠提出については、実務資料に挙げられるように、領収書・受領書・検査結果報告書・取扱説明書・交渉履歴・相手名義書面などを「甲号証」として整理し、訴状副本、証拠説明書、資格証明書、委任状などの附属書類を揃えて提出します。裁判所の書式(用紙が裁判所に備え付けられている旨の説明がある)に合わせ、提出物の体裁を整えることが訴訟運用上の基本です。

また、強制執行を見据える場合、判決主文で「訴訟費用は被告の負担とする」や、金銭給付について仮執行宣言を求める構成が検討対象になります(個別事案により裁判所判断)。

回収可能性が低い相手でも訴えるべきケースと見送るべきケース

相手に資力が乏しいと見えても、訴える意義が残る場面があります。他方で、訴訟が企業側の二次被害(機密露出等)を生む場合や、費用対効果が明確に崩れる場合は見送る判断も合理的です。

実務上は、強制執行の局面で「係争中の損害賠償請求権」でも一定の条件で手続上取り扱われ得ることが裁判例で論じられており、争いがあるから直ちに手段が閉ざされるわけではありません(大判昭和8年7月15日、札幌高決昭和55年6月2日、東京高決平成10年12月15日などの整理)。一方で、悪意による不法行為者が転付命令等を用いて相殺禁止の潜脱を図るような場面では制約が論じられるなど(最判昭和54年3月8日参照)、執行・保全は万能ではないため、個別の法的構成を詰める必要があります。

回収可能性が低くても提起を検討する場面
  • 企業として不正を放置しない姿勢を示す必要が強い場合(ガバナンス・説明責任)。
  • 関連当事者が複数で、連帯責任や使用者責任等の広がりを検討できる場合。
  • 財産状況が不明で、開示・情報取得等を含めて調査を進める必要がある場合。
見送る判断が合理的になりやすい場面
  • 企業の機密情報・ノウハウが公開の訴訟手続で露出し、被害が拡大するおそれがある場合。
  • 回収見込みに対して、調査・訴訟対応コストが過大で、意思決定として説明できない場合。

加害者の住所・勤務先・口座情報が不足する場合に社内で先に集める資料

相手の特定情報が不足すると、訴状送達、和解条項の履行管理、強制執行のいずれも詰まります。まずは社内で保有する資料を横断的に確認し、次に手続(照会・開示・情報取得)を検討します。

社内で優先的に確認する資料例
  • 履歴書・入社時提出書類、緊急連絡先、身元保証書の写し。
  • 給与振込口座の登録履歴、交通費精算等の口座情報に関する社内記録。
  • 退職時の誓約書や貸与物返却記録、鍵・IDカード返却の受領記録。
  • 端末・アカウントのログイン履歴、ファイルサーバ上のアクセスログ(被害場所がファイルサーバとなる事案の例示もある)。

社内資料だけで不足する場合は、弁護士照会等の活用を検討します。さらに、判決等を得た後の執行段階で財産が不明な場合は、民事執行法上の各種手続を選択肢として整理し、差押え可能な資産(預貯金・給与・不動産等)の手がかりを集めます。

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企業の犯罪被害対応と回収判断

初動対応と証拠収集の要点

初動対応は、回収の可否だけでなく、取引先対応・当局対応・レピュテーションにも直結します。特に情報漏えい・サイバー攻撃では、原因究明をしないまま復旧を進めると攻撃者が潜伏して再侵入し、二次被害を受ける可能性があると指摘されています。また、取引先への報告局面で証拠隠滅と受け取られ、取引停止のまま終了に至り得る点も実務上の重要リスクです。

証拠保全と被害拡大防止の基本手順
  1. アカウント停止・権限遮断、関係端末やサーバの保全など、被害拡大防止を優先して実施します。
  2. デジタルフォレンジックでログやタイムスタンプ等を保全し、侵入経路・攻撃手段・流出可能性を分析できる状態にします。
  3. 応急対応としてVPN切り離し・停止、パスワード強制変更、EDR導入、リモートデスクトップ等の利用停止を行い、追加被害の発生確率を下げます。
  4. 取引先・関係者への説明は、原因究明と証拠保全の状況を踏まえ、隠蔽と評価されない記録を残しながら進めます。

加害者ヒアリングは、証拠が揃わない段階で性急に行うと証拠隠滅を誘発し得るため、基本は証拠確保後に実施します。事実関係を文章化した自認書等を作成する場合も、後の民事立証で使えるよう、日時・手口・対象資産・関与者・金額算定根拠が具体化する形で整えます。

賠償資力・社内対応・保険の整理

回収は「相手から取る」だけではなく、保険・保証・相殺可能性などを並行で検討するのが実務です。相手の資力が乏しいと見える場合でも、回収ルートの棚卸しが遅れるほど回収可能性は下がります。

また、従業員が業務中に犯罪被害を受けた場合、労災保険給付は一定の基準で補償される一方、逸失利益や慰謝料がカバーされないことがあり得るため、被災者や遺族が不法行為責任・債務不履行責任(安全配慮義務違反)で損害賠償請求を検討しうる整理が示されています。企業側でも、労災対応と民事回収・求償関係(加害者への請求、保険適用)を分けて整理し、社内の意思決定と支払実務の混乱を避ける必要があります。

役員・従業員による内部不正で請求先が分かれる場面と社内決裁の進め方

内部不正の請求構成は、行為者が従業員か役員かで分岐します。従業員には不法行為責任・債務不履行責任を、役員にはこれに加えて会社法上の義務違反(善管注意義務・忠実義務)に基づく責任追及を検討します。

加えて、加害行為が暴力団等の反社会的勢力と結び付く、またはその威力を背景として継続的に被害が発生している局面では、個人の加害者だけでなく、上部者・代表者等への責任追及が争点化することがあります。参照される裁判例として、指定暴力団トップ等の責任が問題となった大阪高判平成27年1月29日、広島高判平成31年2月20日、東京高判令和元年12月19日等が挙げられており、事案次第で請求対象・立証方針が変わり得ます。

社内決裁では、特別利害関係者を意思決定から外し、監査役や外部専門家を含む体制で事実認定を固めた上で、取締役会等の正式決裁を経て請求に進むことが、後日の説明責任(株主・監督当局・取引先)にも耐える実務対応になります。

支援制度と公的な被害回復

日本司法支援センターの法律相談

日本司法支援センター(法テラス)は、犯罪被害者等向けの相談窓口を持ち、法制度の案内や弁護士紹介等の支援を行います。民事法律扶助は原則として個人の資力要件を前提とするため、企業が直接費用立替の対象になりにくい点には留意が必要です。

一方で、企業が被害者となる局面でも、従業員が被害者であるケース(通勤・業務中の被害等)では、従業員本人の相談導線として活用余地があります。特に、労災給付でカバーされない損害(逸失利益・慰謝料等)が問題となり、不法行為責任・安全配慮義務違反に基づく請求関係が絡む場合には、従業員側の精神的負担軽減と手続理解の観点から、相談先を確保しておく実務的意味があります。

被害回復給付金と報奨金充当

財産犯を含む一定の犯罪では、国が没収・追徴した犯罪被害財産を原資として分配する被害回復給付金支給制度が回収ルートになり得ます。加害者が資産を隠匿しており、民事の差押え等が空振りになりやすい事案で、企業単独の回収を補完する制度として位置付けます。

実務上は、検察官が手続開始後に官報等で告知し、被害者側が期間内に申請し、被害を裏付ける資料を添付する運用が想定されます。給付額は没収等された総額と被害総額の関係で按分され得るため、全額回復を前提にせず、「回収の一部を補う公的ルート」として見積もることが重要です。

自賠責と暴力団犯罪の支援

交通事故に関する被害回復は、自賠責の枠組みの理解が出発点になります。業務中・通勤途上等の事故で人的損害が発生した場合、労災と並行して整理が必要になり得ます。

また、暴力団等の威力を背景に不当要求・恐喝・強要が疑われる場合、成立しうる犯罪として恐喝罪(刑法第249条)、強要罪(刑法第223条)等が問題となり得ます。企業単独での交渉が危険・困難な局面では、警察への早期相談と、被害状況が分かる資料の持参、被害届提出等を含めた手続選択を検討し、社内安全と被害拡大防止を優先します。

よくある質問

民事訴訟手続だけで請求できますか?

刑事手続(被害届・刑事告訴)を経ず、民事訴訟だけで損害賠償請求を行うこと自体は可能です。もっとも、刑事事件化すると、威力業務妨害罪(刑法第234条)や名誉毀損罪(刑法第230条)等の成否が捜査の俎上に載り、被害状況が公的手続で整理されることがあります。

刑事を使わない場合は、強制捜査で得られる資料に依拠しにくいため、企業側でログ、伝票、交渉履歴等を揃えて、違法行為・損害・因果関係を一から主張立証する設計が必要になります。提出書類も、訴状副本、証拠説明書等を含めて不備なく準備し、立証の厚みを確保することが重要です。

加害者が服役中でも請求できますか?

服役中でも民事訴訟の提起自体は可能で、送達や期日対応は施設宛送達等の形で進み得ます。ただし回収は相手の資産次第であり、服役中は給与差押え等の即時回収が難しい場面が多いです。

そのため、将来の回収に備えて「差押え可能な財産の有無」を調べ、必要に応じて民事執行法上の情報取得・開示の手続を検討します。係争中の損害賠償請求権の取扱いが問題になる局面もあり得るため(大判昭和8年7月15日等の裁判例で議論)、執行・保全の可否は個別に詰める必要があります。

法テラスの支援は法人でも使えますか?

法テラスの民事法律扶助(無料相談や費用立替)は原則として個人の資力要件を前提とするため、法人が直接費用立替を受けることは基本的に想定しにくいです。

ただし、従業員が被害者となっている事案では、従業員個人の相談先として活用でき、労災給付で補い切れない損害について不法行為責任・安全配慮義務違反の検討が必要なケースで、制度理解と心理的負担軽減に資することがあります。企業としても、弁護士紹介等の情報提供面を含め、社内の支援導線を整える観点で位置付けると運用しやすいです。

故意の自動車事故は自賠責と並行できますか?

故意による衝突等は、自賠責の免責が問題になる場面があり、原則としては加害者への直接請求(民事)が中心になります。

一方で、交通事故に伴う人的損害がある場合、企業側では労災対応との並行整理も必要になり得ます。労災給付は定型基準で補償され、逸失利益や慰謝料がカバーされない場合があるため、不法行為責任等での請求検討が必要になることがある、という点は押さえておくと実務判断に資します。

犯罪損害賠償への対応で次にすべきこと

犯罪損害賠償は、刑事と民事が別枠組みであることを前提に、示談・刑事和解・損害賠償命令制度・通常訴訟を「回収可能性(相手の資力)」「立証負担」「スピード」で選び分けるのが要点です。損害賠償命令制度は申立手数料が請求額にかかわらず2,000円で始めやすい反面、対象犯罪の限定があるため、まず「制度対象か」を早期に切り分けることが判断軸になります。対象外になりやすい類型や資産散逸が懸念される局面では、証拠確保と並行して保全(仮差押等)や民事請求へ移る選択肢を含め、時間軸で組み立てます。次のアクションとしては、社内のログ・入出金記録・人事関連資料等を横断的に点検し、回収設計(条項案、請求原因、執行の見立て)を具体化したうえで、必要に応じて警察相談や弁護士等の専門家に相談するのが実務的です。個別事案では争点やリスクが変動するため、一般論に寄せすぎず、手続選択と証拠化の優先順位を事案に即して調整してください。



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