取締役会決議議事録の書き方|必須記載と保存10年の要件
取締役会決議議事録(取締役会議事録)は、取締役会を回している法務・総務・経営企画にとって「作ること」自体が目的になりやすい一方、会社法・会社法施行規則の要求を外すと、登記・監査・紛争対応で手続の適法性を説明できなくなります。とくに反対意見の扱いや書面決議、電子化(電子署名)まで含めて運用が分断していると、ひな形を埋めても要件充足の根拠が残らないままになりがちです。開催日から10年間、本店に備え置くという保管義務まで見据えると、作成・確定・回収・保存を一気通貫で設計しておく必要があります。実務で最初に押さえるべきは法的位置づけと必須記載事項です。記載順序から見ていきます。
取締役会議事録の法的位置づけ
作成義務と根拠条文
取締役会議事録は、取締役会の議事について書面または電磁的記録(コンピュータデータ)で作成しなければならない法定文書であり(会社法第369条)、取締役会設置会社では作成実務を「任意の社内ルール」ではなく法令遵守事項として運用する必要があります。議事録に求められる情報は、少なくとも開催の日時・場所・定足数・議事の経過と結果・特別利害関係人等といった中核項目を押さえることが前提です(会社法施行規則の議事録記載事項)。
また、議事録は後日の監査・登記・紛争対応で「適法に意思決定した」ことを説明する基礎資料になります。特にIPO準備やガバナンス強化の局面では、ひな形を埋めるだけでなく、定足数を満たして開会したこと、議長の下で議事に入ったこと、議題(報告/決議)を区別して処理したことまで一貫して説明できる体裁に整えておくことが重要です。
異議を議事録に残すかで責任評価が分かれる場面
取締役会議事録に反対(異議)をとどめたかは、取締役個人の責任評価に直結します。会社法は、取締役会決議に参加した取締役が議事録に異議をとどめないときは、その決議に賛成したものと推定すると定めています(会社法第369条)。参照資料でも、反対した取締役がいるときはその旨を記載しないと賛成推定が働き、株主訴訟等で責任追及を受けた場合に推定を覆すのが困難になる点が強調されています。
- 反対(異議)を述べた取締役の氏名
- 反対の対象となった議案(決議事項)の特定
- 反対の趣旨(賛否)と、可能な限りの理由の要旨
- 採決結果(全員一致か賛成多数か等)と、反対者がいる事実
取締役会議事録の記載事項
基本項目と記載順序
取締役会議事録は、会社法施行規則で定められる必要的記載事項を、監査・登記・内部統制のいずれの用途でも読み取れる形で整序して記載します。参照資料のひな形(「【資料6】取締役会議事録」)でも、冒頭で開催日時(例:平成〇年〇月〇日(〇)午前10時)、開催場所(例:当社本社会議室)、出席者(例:取締役3名中3名、監査役1名中1名)を示し、「以上により、所定の定足数が満たされた」旨を明確化したうえで、議長が開会宣言し議事に入る、という流れが採られています。
- 開催日時(開始時刻まで明記)
- 開催場所(主会場を特定できる記載)
- 出席者・欠席者(取締役・監査役等の区分が分かるように記載)
- 定足数充足の宣言(例:「所定の定足数が満たされた」)
- 議長の氏名と開会宣言(誰が議長として進行したか)
- 議題(報告事項/決議事項を区別)
- 議事の経過の要領および結果(議案ごと)
- 閉会宣言(例:午前11時閉会)
- 議事録作成年月日
- 出席取締役・出席監査役の署名または記名押印(電磁的記録の場合は電子署名)
議事の経過と結果のまとめ方
「議事の経過の要領およびその結果」は、逐語録ではなく、誰が何を提案し、どの資料に基づき、どのような質疑や論点を経て、どの結論に至ったかを追える粒度でまとめます(会社法施行規則の記載事項)。参照資料の文例でも、報告事項では「議長の指名により、〇取締役から、〇について、添付資料のとおり報告があった」とし、決議事項では「〇〇取締役より説明し、議場に諮ったところ、全員一致で承認可決した」と、提案→説明→諮問→決議結果が分かる書き方になっています。
- 提案者(議長/担当取締役等)と提案内容の要旨
- 参照資料の明示(例:「添付資料のとおり」)
- 主要な論点・質問の存在と、回答や補足説明があったこと
- 採決方法と結果(全員一致か、賛成多数か)
- 反対・留保があれば、その旨(賛成推定との関係で重要)
特別利害関係取締役がいる議案で、どこまで利害関係を記すかの判断基準
特別利害関係を有する取締役がいる議案では、その取締役の氏名と、決議に参加しなかった事実を議事録に記載する取扱いが前提になります(会社法施行規則の記載事項)。実務上は「利害関係があるため参加しなかった」とだけ記すのでは、後日、取引の公正性や手続の適正を説明できないおそれがあります。
- 当該取締役の氏名と、特別利害関係に該当する類型(当該取締役本人との取引/当該取締役が代表者を兼務する他社との取引等)
- 当該取締役が議案説明に関与した場合は、その後に審議・採決から外れた事実(退席や議決不参加)
- 定足数・採決の計算において、当該取締役をどう扱ったか(適法性説明に必要な範囲で)
決議類型別の議事録作成
決議事項と報告事項の記載例
取締役会議事録では、報告事項と決議事項を明確に区分し、それぞれに適した密度で記載します。参照資料の「【資料6】取締役会議事録」でも、議題の中で「報告事項」「決議事項」と章立てし、報告は「添付資料のとおり報告があった」と受領事実を中心に記し、決議は「説明→議場に諮る→全員一致で承認可決」と意思決定の結果が分かる形にしています。
| 区分 | 議事録に残す中心要素 | 文例の型 |
|---|---|---|
| 報告事項 | 報告者、報告テーマ、資料に基づく報告があった事実 | 「議長の指名により、〇取締役から、〇について、添付資料のとおり報告があった。」 |
| 決議事項 | 提案、説明、諮問、採決結果(全員一致等) | 「議長は本議案を付議し、〇〇取締役より…説明し、議場に諮ったところ、全員一致で承認可決した。」 |
書面決議の記載事項
取締役会を実開催せず、取締役全員の同意(書面または電磁的記録)により決議があったものとみなす手続は会社法第370条に基づきます。この場合も議事録作成は必要で、会社法施行規則は、みなし決議の議事録に記載すべき事項を整理しています。
- 取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
- 当該事項を提案した取締役の氏名
- 取締役会の決議があったものとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
実開催がないため「出席者」概念は弱く、通常の議事進行(開会宣言・閉会宣言等)を無理に当てはめるより、上記4項目と、同意書面・メール等の裏付け記録が整理されていることを優先します。加えて、実務上は「監査役が異議を述べなかった」ことも、手続要件の充足関係で紐づけて管理しておくと説明が容易です(会社法第370条)。
書面報告では省略できず、実開催が必要になる報告の線引き
取締役会への報告は、一定の場合に書面通知で省略できる一方(会社法第372条)、代表取締役・業務執行取締役の職務執行状況の報告は省略できないと整理されています(会社法第372条、会社法第363条)。参照資料でも、この報告は取締役会の監督機能にとって不可欠であるため、少なくとも3カ月に1回以上の頻度で、取締役会の場で直接報告すべき点が明記されています。
- 職務執行状況報告であること(報告の性質の特定)
- 直前の報告からの期間管理(少なくとも3カ月に1回以上の運用になっていること)
- Web会議等で実施した場合でも、双方向で意見交換できる状態で実施したこと
取締役会議事録の作成方法
紙議事録の記名押印と署名
書面で作成する取締役会議事録は、出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければなりません(会社法第369条)。参照資料でも、議事録末尾に「以上、議事の経過および結果を明確にするため本議事録を作成し、出席取締役および出席監査役は次に記名押印する」と明記する体裁が示されています。
- 「出席取締役」「出席監査役」の範囲を明確にし、その者が署名または記名押印する
- 議事の経過と結果を明確にする目的で作成した旨を末尾に置く(文例の定型)
- 作成年月日を入れ、原本性が分かる形で管理する
電子議事録と電子署名の要件
取締役会議事録は、電磁的記録(コンピュータデータ)で作成することもできます(会社法施行規則の定め)。電磁的記録で作成した場合、出席取締役および出席監査役は、書面の署名・記名押印に代えて電子署名を行う必要があります(会社法第369条)。参照資料でも、電子記録の場合は電子署名が必要である点が明確にされています。
運用上は、誰がいつ確定版に署名したか、確定版以外(ドラフト)に署名していないかが内部統制上の要点になります。電子署名の方式やサービス選定は個社判断になりますが、少なくとも「出席者全員の電子署名を回収する」という会社法上の要求から逆算して、回収・保管・閲覧権限まで含めた設計にしておくべきです。
Web会議後の議事録確定は誰がいつ回収するか|法務・総務・議長の役割分担
Web会議で開催した取締役会でも、議事録の作成・確定・署名(押印)回収の実務は、紙より遅れやすい傾向があります。ひな形頼みを避けるには、社内で「誰が」「どの順で」「何を確認するか」を固定し、議長確認と全員署名回収までを一気通貫にします。
- 事務局(法務・総務)が議事メモや資料を基にドラフトを作成し、日時・場所・定足数・議題区分(報告/決議)まで整形する
- 議長(通常は代表取締役)が、決議結果(全員一致等)と重要論点の抜け漏れ、反対意見の記載要否を確認する
- 事務局が確定版を出席取締役・出席監査役へ回覧し、書面なら署名/記名押印、電子なら電子署名を回収する(会社法第369条)
- 回収後、原本(電磁的記録を含む)を開催日から10年間、本店で備置・管理する(会社法第371条)
取締役会議事録の保管とリスク
作成時期と承認フロー
会社法は取締役会議事録の作成を義務づけていますが(会社法第369条)、条文上、作成期限が日数で明記されているわけではありません。そのため実務では、「後から争点になったときに議事の再構成が必要になる」事態を避けるため、議事メモ・添付資料の所在が明確なうちに、事務局が速やかにドラフト化し、議長確認を経て、出席役員の署名(押印)または電子署名を回収する運用が重要です。
- 事務局:日時・場所・定足数・出席者・議題(報告/決議)・添付資料の整理
- 議長:決議結果(全員一致等)と、議事の経過の要領が過不足ないかの確認
- 各役員:自分の発言(特に反対・留保)や不正関連指摘の記載が反映されているかの確認
保存期間と本店支店の備置
取締役会議事録は、開催日(書面決議の場合は決議があったものとみなされた日)から10年間、本店に備え置く必要があります(会社法第371条)。参照資料でも「開催日から10年間、本店に備え置く必要」が明記されています。保存対象には、実開催の議事録だけでなく、会社法第370条の同意書面・電磁的記録を伴うみなし決議の記録も実務上一体で管理するのが安全です。
- 本店備置が原則であり、10年間の保存を前提に検索性(年度・開催日・議案)を設計する
- 電磁的記録の場合は、原本性・改ざん防止・アクセス権限を明確化して保管する
- 添付資料(例:取締役会規程の新旧対照表等)を議事録と紐づけて一体管理する
閲覧謄写請求の対象と手続き
取締役会議事録は、株主等の閲覧・謄写請求の対象となり得ます。会社法上、株主は原則として取締役会議事録の閲覧・謄写を請求できますが(会社法第371条)、監査役設置会社等では、株主が閲覧・謄写をするために裁判所の許可が必要となる場面があります(会社法第371条)。また債権者も、一定の目的(役員等の責任追及の必要性)がある場合に、裁判所の許可を得て請求できる枠組みが定められています(会社法第371条)。
- 請求者の属性(株主/債権者等)と請求目的を確認し、社内の取扱窓口(法務・総務)を一本化する
- 会社の機関設計(監査役設置会社等)により裁判所の許可が必要かを確認する(会社法第371条)
- 許可が必要な類型では、許可書面の有無を確認し、対象範囲(閲覧のみか謄写もか)を整理する
- 秘密情報の取扱い(閲覧場所、複製範囲、同席者、ログ)を決め、記録を残して実施する
取締役会議事録の不備対策
反対意見と不正関連発言の記載
取締役会議事録は結論だけでなく、重要な意見の要旨を残すことで、意思決定の適法性と監督機能の実効性を支えます。参照資料でも、決議事項に反対した取締役がいる場合には、その旨を記載しないと賛成推定が働くため(会社法第369条)、反対は必ず議事録に残すべきと整理されています。
また、取締役の不正行為・法令違反・定款違反等の疑いについて、監査役や他の取締役から指摘・意見が出た場合には、その発言の概要を記録すべき事項として位置づけられています(会社法施行規則の記載事項)。
- 反対意見:反対者の氏名、反対した議案、反対理由の要旨
- 留保意見:条件付き賛成の条件(例:追加資料提出、契約条項修正等)の要旨
- 不正関連の指摘:指摘者、指摘対象、指摘の要旨と会社側の説明・対応方針の要旨
虚偽記載と記載漏れの責任
取締役会議事録の不作成や虚偽記載は、会社法上の制裁対象になり得ます。会社法は、議事録を作成すべき者が作成を怠った場合や、記載すべき事項を記載せず、または虚偽の記載をした場合に、過料の定めを置いています(会社法第976条)。
さらに、議事録の記載が不十分なために適法な意思決定プロセスを立証できないと、任務懈怠を理由とする損害賠償責任(会社法第423条、会社法第429条)の局面で、防御が困難になることがあります。登記申請の添付書面として虚偽の議事録を提出し、不実の登記をさせた場合には、刑法上の問題(公正証書原本不実記載等:刑法第157条)に発展し得る点も、コンプライアンス上の重要リスクです。
登記添付前に確認したい不備の頻出パターン|日付・権限・定足数の見落とし
登記添付に回す取締役会議事録は、内容面だけでなく形式面の整合が問われます。参照資料のひな形のように、開催日時(例:午前10時)・閉会時刻(例:午前11時)まで含めて一貫して記載し、冒頭で「所定の定足数が満たされた」旨を示すなど、基本情報の整合を先に固めると補正リスクを減らせます。
- 日付:実開催日、(書面決議なら)みなし決議日、議事録作成年月日の整合
- 権限:議長・提案者・決議機関(取締役会決議で足りる事項か)の取り違え防止
- 定足数:出席者数の記載(例:取締役3名中3名)と、定足数充足の宣言、特別利害関係人がいる場合の扱い
よくある質問
書面決議でも取締役会議事録は必要ですか?
書面決議(みなし決議)でも取締役会議事録は必要です。取締役全員が書面または電磁的記録で同意し、監査役が異議を述べないときは取締役会決議があったものとみなされますが(会社法第370条)、この場合も議事録を整備し、開催日(みなし決議日)から10年間本店に備え置く義務があります(会社法第371条)。
- みなし決議事項の内容
- 提案取締役の氏名
- みなし決議日
- 議事録作成職務を行った取締役の氏名
電子署名だけで取締役会議事録を作成できますか?
電磁的記録で取締役会議事録を作成する運用自体が認められており(会社法施行規則の定め)、その場合は出席取締役・出席監査役が紙の署名/記名押印に代えて電子署名を行う必要があります(会社法第369条)。参照資料でも、電子記録の場合に電子署名が必要であることが明示されています。実務では、確定版データに対する署名であること、出席者全員分が揃っていること、保存時に原本性を維持できることを満たす形で運用してください。
Web会議の取締役会で開催場所はどう書きますか?
取締役会議事録には、開催の「場所」を記載するのが基本であり(参照資料でも議事録記載事項として「場所」が挙げられています)、Web会議で全員が分散して参加した場合でも、議事録上は主会場を定めて記載する運用が一般的です。例えば「当社本社会議室」のように主たる場所を置き、必要に応じて「一部の出席者はWeb会議により参加した」旨を補足して、双方向で議論できる通信状態であったことを残すと、開催実態の説明がしやすくなります。
閲覧・謄写請求を拒否できる場合はありますか?
株主による取締役会議事録の閲覧・謄写請求は原則として認められますが(会社法第371条)、監査役設置会社等の類型では、株主が閲覧・謄写をするために裁判所の許可が必要とされ、裁判所が許可を出さない場合には結果として閲覧等に応じない対応になります(会社法第371条)。また債権者の請求も、裁判所の許可を前提とする枠組みであり(会社法第371条)、目的や必要性が認められない場合には許可が得られず、会社としては許可の有無を厳格に確認して対応します。
取締役会議事録への対応で次にすべきこと
取締役会議事録は、作成義務(会社法第369条)を満たすだけでなく、決議の適法性を後日説明できるように「定足数・議題区分・経過と結果・特別利害関係・反対意見」を一貫して残すことが判断の軸になります。とくに反対(異議)を議事録にとどめない場合の賛成推定や、みなし決議(会社法第370条)の必須項目など、類型ごとの落とし穴を先に潰しておくことが重要です。運用面では、Web会議後の確定フローと署名(押印)/電子署名の回収、そして開催日から10年間、本店に備え置く保管設計(会社法第371条)までを同じ手順書でつなげて確認してください。登記添付や閲覧謄写請求の可能性がある案件では、形式面の整合(日時・場所・日付・権限)を事務局と議長で二重チェックし、必要に応じて法務・専門家へ個別相談することが安全です。

