法人破産ができない4つのケースとは?放置するリスクと具体的な対処法を解説
会社の経営が悪化し、法人破産を考えざるを得ない状況は、経営者にとって非常に厳しい決断です。しかし、いざ手続きを進めようとしても、費用の問題や法律上の要件など、様々な理由で申立てができないケースも少なくありません。この記事では、法人破産ができない具体的な4つのケースと、手続きをせずに放置した場合のリスク、そして破産が困難な場合の具体的な対処法について、実務的な観点から詳しく解説します。
法人破産の申立てが認められない4つのケース
ケース1:破産原因(支払不能・債務超過)が存在しない
法人破産の手続を開始するためには、法律で定められた破産手続開始原因が存在することが必要です。この原因が認められない場合、申立ては裁判所に棄却されます。
破産手続開始原因には「支払不能」と「債務超過」の2種類があり、いずれかの状態にあることを客観的な資料で証明しなければなりません。
- 支払不能: 会社の財産、信用、事業活動による収益のいずれをもってしても、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に返済できない客観的な状態を指します。
- 債務超過: 会社の負債総額が、保有する資産の総額を上回っている状態を指します。
一時的に資金繰りが厳しいだけであったり、特定の債権者にのみ支払いが滞っていたりする状況は「支払不能」とは見なされません。近い将来に確実な入金があり、それによって債務を完済できる見込みがある場合も同様です。また、「債務超過」の判断においては、貸借対照表上の資産が実態に即して適正に評価されているかが重要となります。
破産手続は債権者の権利を大きく制約するため、開始原因の有無は厳格に審査されます。申立てにあたっては、決算書や資金繰り表などの資料を用いて、法人が経済的に破綻している事実を具体的に示す必要があります。
ケース2:破産手続の費用(予納金)を納付できない
法人破産を申し立てるには、裁判所が定める予納金を納付する必要があります。この予納金は、破産手続を進めるために不可欠な費用であり、納付できなければ申立ては却下されます。
予納金は、主に破産管財人の報酬や手続に必要な実費に充てられます。
- 破産管財人の報酬
- 官報公告費用
- 裁判所が手続で利用する郵送費用など
予納金の額は負債総額や事案の複雑さによって変動し、一般的な管財事件では最低でも数十万円、負債額が大きければ数百万円に上ることもあります。弁護士に依頼して少額管財制度を利用できれば、予納金を20万円程度に抑えられる可能性がありますが、それでも一定の費用は必要です。
資金が完全に枯渇する前に、予納金や弁護士費用を確保した上で破産を決断することが、実務上きわめて重要です。費用を捻出するために不適切な方法で資産を処分すると、後に法的な問題となるため、必ず弁護士に相談しながら進める必要があります。
ケース3:不当な目的での破産申立てと判断された
破産原因があり、費用も納付できる状態であっても、その申立てが不当な目的で行われたと裁判所が判断した場合は、申立ては棄却されます。破産法は、手続の公正さを害するような濫用的な申立てを認めていません。
不当な目的とは、債権者全体の利益を害したり、破産制度を悪用して不正な利益を得ようとしたりする意図を指します。
- 価値のある資産や事業を別会社へ不当に安く移転させる計画倒産
- 返済の意思なく多額の借入れを行い、直後に破産を申し立てて債務を免れようとする行為
- 特定の債権者への嫌がらせや、債権者全体の利益を害する目的での申立て
破産管財人は、申立て前の資産の動きなどを厳しく調査します。不当な目的が認められた場合、手続が認められないだけでなく、詐欺破産罪などの刑事罰の対象となる可能性もあります。誠実な態度で全ての情報を開示し、債権者平等の原則を守ることが、破産手続を進める上での大前提となります。
ケース4:他の倒産手続がすでに進行している
破産手続は、法人の債務を整理する最終的な「清算」の手段です。そのため、すでに他の倒産手続が開始されている場合、原則として破産を申し立てることはできません。手続の重複による混乱や非効率を避けるためです。
特に、民事再生や会社更生といった再建型の手続が先行している場合、事業を継続させることでの債権者への弁済が優先されるため、破産手続は開始されません。また、同じ清算型の手続である特別清算が進行中の場合も同様です。
| 手続の種類 | 目的 | 破産との関係 |
|---|---|---|
| 民事再生・会社更生 | 事業の再建 | これらの再建型手続が進行中の場合、破産申立ては原則として認められない |
| 特別清算 | 簡易な清算 | この手続が進行中の場合、重ねての破産申立ては通常認められない |
| 破産 | 全資産の清算 | 他の手続が不調に終わった場合の最終的な清算手段となる |
ただし、民事再生などの再建手続がうまくいかず、計画が認可されない場合には、裁判所の判断で破産手続に移行することがあります。どの手続を選択すべきかは、法人の客観的な状況や再建可能性を慎重に分析した上で判断する必要があります。
法人破産できないまま放置した場合に起こりうること
債権者からの督促や取り立てが継続する
法人破産の手続をせずに放置した場合、債権者からの督促や取り立ては止まりません。破産手続が開始されると、法律の力で個別の取り立ては禁止されますが、そうでなければ債権者はあらゆる手段で債権回収を図ります。
事態は段階的に悪化し、最終的には事業の継続が不可能な状況に追い込まれます。
- 金融機関や取引先からの電話や書面による督促が続く
- 債権者が裁判所に訴訟や支払督促を申し立てる
- 裁判所から判決や支払命令が下され、債務名義が確定する
- 債務名義に基づき、預金口座や売掛金、不動産などが差し押さえられる
- 事業の継続が不可能となり、社会的信用も完全に失墜する
弁護士に依頼して受任通知を送付すれば一時的に督促は止まりますが、これはあくまで破産申立てを前提とした措置です。問題を先送りにすることは、債権者との対立を深め、より深刻な事態を招くだけです。法的な保護の下で問題を解決するためには、早期の申立てが不可欠です。
遅延損害金により債務総額が増え続ける
返済を怠ったまま放置すると、元金に対して遅延損害金が発生し、負債は時間とともに膨れ上がります。遅延損害金は、通常の利息よりも高い利率で設定されていることがほとんどです。
- 借入契約で定められた高い利率(年14.6%~20%が一般的)が適用される
- 支払期日の翌日から完済まで毎日発生し、債務総額が雪だるま式に増加する
- 税金や社会保険料の延滞金はさらに利率が高く、差し押さえも迅速に実行される
- 破産手続を開始すれば、手続開始後の遅延損害金の発生を実質的に停止できる
例えば、数千万円の負債を1年間放置すれば、遅延損害金だけで数百万円以上が加算されることも珍しくありません。当初は対応可能だった債務も、放置することで返済不可能なレベルまで悪化します。負債の増大を食い止めるためにも、早期の法的整理が重要です。
代表者個人の保証債務などの問題が解決されない
中小企業の場合、法人が金融機関から融資を受ける際に、代表者が連帯保証人になっていることがほとんどです。法人が破産しても、この代表者個人の保証債務が自動的になくなるわけではありません。
法人破産をせずに放置すると、債権者は連帯保証人である代表者個人に対して返済を求めてきます。その結果、代表者の自宅や預貯金などの個人資産が差し押さえられるリスクに常にさらされ続けることになります。多額の法人債務を個人で返済することは事実上不可能であり、最終的には代表者自身も自己破産せざるを得なくなるケースがほとんどです。
法人破産と代表者の自己破産を同時に申し立てることで、手続を効率的に進め、費用を抑えながら、法人と個人の問題を一体的に解決できます。問題を放置することは、代表者自身の人生の再建を遅らせるだけでなく、他の保証人となっている親族などにまで多大な迷惑をかけることにつながります。
経営判断の遅れが招く役員の損害賠償責任リスク
経営状態が悪化し、破綻が避けられないと認識しながらも、適切な時期に破産などの法的整理を行わずに事業を継続すると、取締役の任務懈怠(善管注意義務違反)を問われる可能性があります。破綻状態での不適切な資産処分や特定の債権者への優先的な返済は、会社の財産を不当に減少させる行為と見なされます。
その結果、取締役個人が会社や債権者に対して損害賠償責任を負うことになる場合があります。破産手続が開始されると、破産管財人は役員の経営責任を調査し、問題があれば個人資産に対して賠償を求めることもあります。判断の遅れがさらなる損害を生まないよう、早期の決断が役員自身の責任を軽減するためにも重要です。
法人破産が困難な場合の具体的な対処法
資産の売却や債権回収による費用の捻出
破産申立てに必要な費用が不足している場合、まずは法人名義の資産を現金化することを検討します。ただし、その方法には法的な制約があるため注意が必要です。
- 法人所有の不動産、社用車、機械設備などの資産を適正価格で売却する
- 取引先に対する未回収の売掛金を速やかに回収する
- 在庫商品や什器備品などを専門業者に売却する
これらの資産処分を行う上で最も重要なのは、適正な市場価格で売却することです。知人や親族に著しく安い価格で譲渡する行為は、後に破産管財人から否認権を行使され、取引が無効とされる可能性があります。また、売却で得た資金を特定の債権者への返済に充てる偏頗弁済も厳しく禁じられています。全ての資産処分は、弁護士の指導のもとで透明性を確保し、適正な手続に則って行う必要があります。
法人破産以外の法的整理手続を検討する
破産が唯一の選択肢ではありません。会社の状況によっては、事業の再建を目指す手続や、より簡易な清算手続が適している場合があります。
| 手続名 | 目的 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 民事再生 | 再建型 | 経営陣が主導して事業を継続しながら再建を目指す。 |
| 会社更生 | 再建型 | 主に大企業が対象。裁判所が選任した管財人が経営権を掌握する。 |
| 特別清算 | 清算型 | 債権者の協力が得られる場合に利用できる簡易な清算手続。 |
収益性のある事業が残っており、スポンサーの支援が見込める場合は民事再生が選択肢となります。また、債権者の協力が得られるのであれば、破産よりも費用や手続の負担が少ない特別清算が有効な場合があります。弁護士と相談し、法人の実情に最も合った手続を選択することが重要です。
私的整理(任意整理)による再建を模索する
私的整理とは、裁判所を介さず、主に金融機関などの大口債権者と直接交渉し、返済条件の変更や債務の減免などを合意によって進める方法です。任意整理とも呼ばれます。
- 裁判所を介さないため、迅速かつ柔軟な解決が期待できる
- 取引先等を対象から外し、事業を継続しながら再建を目指せる
- 倒産の事実が公にならないため、ブランドイメージや信用の毀損を最小限に抑えられる
- 対象となる金融機関など、全ての債権者の同意がなければ成立しない
- 法的拘束力がないため、一部の債権者が差押えなどの法的措置を取るリスクがある
- 交渉が不調に終わった場合、かえって状況が悪化する可能性がある
私的整理を成功させるには、実現可能性の高い再建計画を策定し、債権者の理解を得ることが不可欠です。中小企業再生支援協議会などの第三者機関を利用することで、交渉の客観性や信頼性を高めることができます。ただし、交渉が決裂した場合は速やかに法的整理へ移行できるよう、常に準備しておく必要があります。
費用捻出のための資産売却における注意点と否認権リスク
破産費用を捻出するための資産売却は、その方法を誤ると深刻な問題を引き起こします。特に注意すべきは否認権のリスクです。
否認権とは、破産手続の開始前に会社が行った不適切な財産処分行為の効力を、破産管財人が否定し、流出した財産を破産財団に取り戻す強力な権利です。支払不能に陥った後の、市場価格を大幅に下回る価格での資産売却や、特定の関係者への財産譲渡は、債権者全体の利益を害する行為として否認の対象となります。
資産を売却する際は、必ず複数の業者から見積もりを取るなどして、取引価格が適正であることを客観的に証明できるようにしておく必要があります。自己判断で安易な資産処分を行うことは、手続を複雑化させるだけでなく、役員個人の責任問題に発展する可能性もあるため、必ず弁護士の指導を仰いでください。
法人破産に関するよくある質問
破産費用がどうしても用意できない場合、法テラスは利用できますか?
いいえ、法人が法テラスを利用することはできません。法テラスの民事法律扶助制度は、経済的に困窮している個人を対象とした制度であるため、株式会社などの法人は対象外です。
ただし、法人の代表者が個人として自己破産を同時に申し立てる場合、代表者個人の手続費用については、収入や資産などの要件を満たせば法テラスの立替制度を利用できる可能性があります。
法人の破産費用については、会社の資産売却や売掛金回収、あるいは親族からの援助などで捻出する必要があります。
法人破産と代表者個人の自己破産は、必ず同時に行う必要がありますか?
法律上は別々の手続ですが、実務上は同時に申し立てることが強く推奨されます。中小企業では、法人の借入れに代表者が連帯保証していることがほとんどだからです。
法人が破産すると、債権者は保証人である代表者個人に返済を請求します。多額の保証債務を個人で返済できるケースは極めてまれなため、結局は代表者も自己破産せざるを得ません。
法人と個人の破産を同時に申し立てれば、裁判所に納める予納金が低額になったり、手続が効率化されたりするメリットがあります。特別な事情がない限り、一体的に解決することが、代表者自身の円滑な再スタートにつながります。
税金や社会保険料を滞納している場合でも、法人破産は可能ですか?
はい、税金や社会保険料を滞納していても法人破産は可能です。むしろ、放置すれば延滞金が増え続け、資産を差し押さえられるリスクが高まるため、早期の破産申立てが有効です。
破産手続において、滞納している税金などは財団債権や優先的破産債権として扱われ、他の一般債権よりも優先的に配当されます。法人の資産を換価してもなお支払いきれなかった税金については、法人が破産手続によって消滅すると同時に、その支払義務もなくなります。
破産手続を弁護士に依頼する具体的なメリットは何ですか?
弁護士に依頼することで、複雑で精神的負担の大きい破産手続を、法的リスクを回避しながら円滑に進めることができます。具体的なメリットは以下の通りです。
- 受任通知の発送により、債権者からの直接の督促が停止する
- 複雑な申立書類の作成や裁判所との対応を全て任せられる
- 不適切な資産処分(否認対象行為)などの法的リスクを回避できる
- 少額管財制度を利用しやすくなり、裁判所に納める予納金を低く抑えられる
- 経営者の精神的負担を軽減し、生活の再建に集中できる
まとめ:法人破産ができない状況を乗り越え、次の一手を打つために
本記事では、法人破産が認められない具体的なケースと、その場合の対処法について解説しました。破産手続には、破産原因の存在や予納金の納付といった法律上の要件があり、これらをクリアできなければ申立ては進みません。しかし、手続きをせずに放置すれば、債権者からの督促は続き、遅延損害金によって債務は膨らみ続けるなど、状況は悪化の一途をたどります。費用が捻出できない場合でも、弁護士の助言のもとで適正に資産を売却する方法や、民事再生、私的整理といった破産以外の選択肢も存在します。最も重要なのは、独断で行動せず、早期に専門家へ相談することです。自社の状況を正確に把握し、法的なリスクを回避しながら、再建または清算に向けた最適な一歩を踏み出しましょう。

