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交通事故の加害者も慰謝料は請求できる?条件・過失相殺・手続きを解説

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交通事故で加害者となったものの、ご自身も負傷され、治療費や慰謝料を請求できるのかお悩みではありませんか。加害者という立場から請求をためらう方もいますが、相手方にも過失があれば、正当な損害賠償を求めることが可能です。この記事では、交通事故の加害者が慰謝料などを請求するための具体的な条件、過失相殺の仕組み、そして請求手続きの流れについて詳しく解説します。

加害者が慰謝料を請求できる条件

条件①:加害者自身が負傷している

交通事故の「加害者」(過失割合の大きい側)であっても、事故によって自身が負傷した場合は、精神的苦痛に対する賠償として慰謝料を請求できます。慰謝料は、原則として身体的な傷害を負った場合に認められる損害項目です。

たとえ自身の過失が大きい事故であっても、衝突の衝撃でむち打ちや骨折などの怪我を負うことは少なくありません。事故後に医療機関で治療を受ければ、その精神的苦痛に対する慰謝料請求の基本的な要件を満たします。

ただし、慰謝料請求の根拠とするためには、医師の診断書など、怪我の事実を客観的に証明する資料が不可欠です。車両の損傷のみで身体的な負傷がない物損事故の場合、原則として慰謝料を請求することはできません。

条件②:相手方(被害者)にも過失がある

加害者が慰謝料を請求するためには、事故の相手方(被害者)にも過失があることが絶対的な条件です。損害賠償請求は、相手方の不法行為責任(民法709条)を根拠とするため、相手方に一切の過失がなければ責任を問うことはできません。

例えば、赤信号で停車中の車に追突したケースのように、加害者の過失が100%(10対0)と判断される事故では、加害者がどれほど重傷を負っていても相手方に慰謝料を請求することは不可能です。

しかし、信号のない交差点での出会い頭の衝突など、多くの事故では双方に何らかの不注意が認められます。このように相手方にも過失が認定される場合は、その過失割合に応じて、加害者から相手方への慰謝料請求が法的に可能となります。

慰謝料の算定基準と過失相殺

慰謝料算定の3つの基準と比較

交通事故の慰謝料を算定する際には、3つの異なる基準が用いられ、どの基準を適用するかで金額が大きく変わります。相手方の保険会社は、通常、自社に有利な低い基準で金額を提示してきます。

基準の名称 概要 金額の水準
自賠責保険基準 法律に基づき、被害者へ最低限の補償を行うことを目的とした基準 最も低い
任意保険基準 各保険会社が社内的に定めている非公開の基準 自賠責保険基準と同等か、少し高い程度
弁護士基準(裁判基準) 過去の裁判例に基づいて定められた、法的に適正とされる基準 最も高い
慰謝料算定の3つの基準

適正な賠償額を得るためには、最も高額となる弁護士基準での算定を主張し、交渉することが重要です。

過失相殺による請求額の調整とは

過失相殺とは、事故の当事者双方に過失がある場合に、それぞれの過失割合に応じて損害賠償額を減額し、損害の公平な分担を図るための法的な仕組みです(民法722条2項)。

自身の過失割合に相当する分は、相手方に請求できる損害賠償の総額から差し引かれます。この調整は、慰謝料だけでなく、治療費や休業損害、車両修理費など、全ての損害項目に適用されます。

例えば、自身の過失割合が8割であれば、自身に生じた損害総額のうち、相手に請求できるのは残りの2割分のみとなります。このように、過失相殺は最終的に受け取れる賠償額を決定づける極めて重要な要素です。

【具体例】過失相殺の計算方法

過失相殺の計算は、当事者それぞれの損害額に対し、相手方の過失割合を乗じて請求額を算出し、最終的に双方の請求額を相殺することで行われます。ここでは、加害者の過失が8割、相手方の過失が2割で、加害者に生じた損害総額が300万円だったケースを想定します。

過失相殺の計算例
  1. 相手方に請求できる金額の計算: 加害者の損害総額300万円に、相手方の過失割合(2割)を掛け合わせます。請求可能な金額は「300万円 × 0.2 = 60万円」となります。
  2. 自身が支払うべき金額の計算: 同様に、相手方に生じた損害額(仮に100万円とします)に、自身の過失割合(8割)を掛け合わせます。支払うべき金額は「100万円 × 0.8 = 80万円」となります。
  3. 最終的な精算: 実務上は、双方が請求し合う金額を相殺します。この例では、加害者が80万円を支払い、60万円を受け取る権利があるため、差額の「80万円 – 60万円 = 20万円」を加害者が相手方に支払うことで解決します。

提示された過失割合に納得できない場合の対処法

相手方の保険会社から提示された過失割合に納得できない場合は、安易に示談書に署名せず、客観的な証拠に基づいて交渉することが重要です。保険会社の提示が常に正しいとは限りません。

過失割合に納得できない場合の対処法
  • ドライブレコーダーの映像を確認し、相手の速度や信号の色などを証明する。
  • 警察が作成する実況見分調書を取り寄せ、正確な事故状況を把握する。
  • 証拠に基づき、相手方の速度超過や前方不注視といった過失の加算要素を具体的に主張する。
  • 交渉が難航する場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談する。

慰謝料以外に請求できる損害項目

治療関係費(治療費や通院交通費)

交通事故による負傷の治療にかかった費用は、積極損害として相手方に請求できます。事故と因果関係があり、必要かつ妥当な範囲の支出が対象となります。

主な治療関係費
  • 治療費: 診察料、手術料、投薬料、入院費など医療機関に支払った費用。
  • 通院交通費: 電車やバスなどの公共交通機関の運賃や、自家用車を使用した場合のガソリン代など。
  • 入院雑費: 入院中に必要となる日用品の購入費などで、1日あたり1,500円程度の定額で算定される。
  • 装具・器具購入費: 医師の指示に基づいて購入したコルセットや松葉杖などの費用。

これらの費用を請求する際は、領収書などの支払いを証明する書類を必ず保管しておきましょう。

休業損害(仕事を休んだ分の補償)

事故による怪我が原因で仕事を休み、収入が減少した場合は、その減収分を休業損害として請求できます。事故がなければ得られたはずの利益の補償です。

休業損害の対象者と基礎収入の算定根拠
  • 給与所得者: 事故前3ヶ月の給与明細を基に1日あたりの基礎収入を算定します。有給休暇を利用した場合も請求対象です。
  • 個人事業主・自営業者: 前年度の確定申告書を基に基礎収入を算定します。
  • 家事従事者(主婦・主夫): 家事労働も経済的に評価され、国の賃金統計(賃金センサス)を基に損害額を算定します。

逸失利益(後遺障害による将来の減収)

治療を続けても症状が改善しなくなった状態(症状固定)で、後遺障害が残った場合、それによって労働能力が低下し、将来得られるはずだった収入の減少分逸失利益として請求できます。

逸失利益は、以下の要素を基に複雑な計算を経て算出されるため、損害賠償項目の中でも特に高額になる傾向があります。

逸失利益の主な算定要素
  • 基礎収入: 事故前の年収。
  • 労働能力喪失率: 認定された後遺障害等級に応じて定められた割合。
  • 労働能力喪失期間: 症状固定時から原則67歳までの年数。
  • ライプニッツ係数: 将来の収入を前倒しで受け取るため、中間利息を控除するための数値。

損害賠償を請求する手続きの流れ

相手方の保険会社との示談交渉

損害賠償請求は、加害者本人ではなく、相手方が加入する任意保険会社の担当者と示談交渉を行うのが一般的です。以下の流れで進みます。

示談交渉の基本的な流れ
  1. 怪我の治療が完了し、損害の総額が確定する。
  2. 相手方の保険会社から、賠償額や過失割合を記載した示談案が提示される。
  3. 示談案の内容(損害項目、慰謝料の算定基準、過失割合など)を慎重に確認する。
  4. 内容に不満があれば、客観的な証拠を基に増額や修正を求めて交渉する。
  5. 双方が賠償条件に合意したら、示談書(免責証書)に署名・捺印する。
  6. 示談書が保険会社に到着後、指定の銀行口座に賠償金が振り込まれる。

一度示談が成立すると原則としてやり直しはできないため、署名・捺印は慎重に行う必要があります。

自身の「人身傷害保険」を使う選択肢

自身の過失割合が大きく、相手方から十分な賠償金を受け取れない場合や、交渉が長引く場合には、自身が加入する自動車保険の人身傷害保険を利用することが有効です。

人身傷害保険を利用するメリット
  • 自身の過失割合に関係なく、保険契約で定められた基準で実際の損害額が支払われる。
  • 相手方との示談成立を待つことなく、早期に保険金を受け取れる
  • 相手方が無保険の場合でも補償を受けられる。
  • 利用しても翌年度の保険等級が下がらない「ノーカウント事故」として扱われる場合が多い。

人身傷害保険は、自身の過失による減額リスクを回避し、確実な補償を迅速に得るための非常に有力な手段です。

請求における自身の保険会社との連携ポイント

損害賠償請求をスムーズに進めるためには、自身が加入している保険会社の担当者と密に連携することが重要です。利用できる補償を最大限に活用し、手続きを正確に進めるための基盤となります。

自身の保険会社との連携ポイント
  • 事故発生後、速やかに状況を報告し、利用可能な保険や特約の内容を確認する。
  • 相手方との交渉状況や治療の進捗などを適宜共有し、情報連携を密にする。
  • 保険金請求に必要な書類の準備や手続きについて、担当者の指示に正確に従う。

よくある質問

過失割合10対0でも請求できますか?

できません。 自身の過失が10割(10対0)で、相手方に全く過失がない事故の場合、相手方に対する損害賠償請求は法的に不可能です。不法行為責任は相手方の過失を前提とするためです。

この場合、自身の怪我の治療費などは、自身が加入している人身傷害保険搭乗者傷害保険などを利用して補うことになります。

人身傷害保険を使っても相手に請求できますか?

請求できる場合があります。 人身傷害保険から保険金を受け取った後でも、その保険金でカバーしきれなかった損害が残っている場合は、不足分を相手方に請求することが可能です。

例えば、弁護士基準で算定した損害額が人身傷害保険の支払額を上回るケースでは、その差額について別途相手方に請求できるという考え方が判例で確立されています。

慰謝料請求で弁護士に依頼するメリットは?

慰謝料請求を弁護士に依頼すると、被害者にとって多くのメリットがあります。特に、賠償額の増額と精神的負担の軽減が大きな利点です。

弁護士に依頼する主なメリット
  • 賠償額の増額: 最も高額な弁護士基準(裁判基準)を用いて交渉するため、賠償金の大幅な増額が期待できる。
  • 交渉の代行: 保険会社との煩雑でストレスの多い交渉をすべて一任でき、治療や仕事復帰に専念できる。
  • 法的なサポート: 過失割合の交渉や後遺障害等級の認定など、専門的な手続きで適切なサポートを受けられる。

相手が無保険の場合はどうなりますか?

相手方が任意保険に未加入でも、損害賠償を確保する方法は残されています。以下の手順で対応するのが一般的です。

相手方が無保険の場合の対応手順
  1. まず、法律で加入が義務付けられている相手方の自賠責保険に対し、被害者請求を行います。
  2. 相手が自賠責保険にも未加入の場合は、政府の保障事業を利用し、自賠責保険と同等の補償を求めます。
  3. 上記で補償しきれない損害は、自身が加入する人身傷害保険無保険車傷害保険(特約)を利用してカバーします。
  4. 最終手段として加害者本人に直接請求することも可能ですが、支払い能力がない場合も多く、回収は困難なケースが少なくありません。

まとめ:交通事故の加害者が慰謝料を請求するための要点

交通事故の加害者であっても、自身が負傷し、かつ相手方にも過失がある場合には、慰謝料を含む損害賠償を請求できます。請求できる金額は、自身の損害総額から自分の過失割合分を差し引く「過失相殺」によって調整されるため、過失割合の交渉が非常に重要です。相手方の保険会社から提示された賠償額や過失割合に納得できない場合は、安易に示談せず、ドライブレコーダーなどの客観的証拠をもとに交渉しましょう。交渉が難しい場合や、自身の過失割合が大きい状況では、ご自身の人身傷害保険の利用や、交通事故に詳しい弁護士への相談が有効な解決策となります。個別の状況に応じた最適な対応については、専門家にご相談ください。

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