法務

株主代表訴訟の弁護士費用は誰が負担?相場と役員・会社の費用負担ルールを解説

経営リスクナビ編集部

株主代表訴訟を提起されるリスクに直面した際、弁護士費用がどの程度かかり、最終的に誰が負担するのかは、経営者や法務・財務担当者にとって喫緊の課題です。費用負担のルールを正確に理解していなければ、会社や役員個人が想定外の経済的打撃を受けるだけでなく、適切な訴訟対応も難しくなります。この訴訟では、原告株主、被告役員、そして会社の三者間で費用負担関係が複雑に絡み合います。この記事では、株主代表訴訟における弁護士費用の内訳から、D&O保険や税務上の扱いまで、誰がどのように費用を負担するのかをケース別に詳しく解説します。

株主代表訴訟の基本

株主代表訴訟の制度概要と目的

株主代表訴訟とは、会社が特定の役員に対して損害賠償請求などを行うべき状況であるにもかかわらず、その請求を怠る場合に、株主が会社に代わって役員の経営責任を追及するための訴訟制度です。

本来、役員の任務懈怠などによって会社が損害を被った場合、会社自身がその役員に対して責任を追及すべきです。しかし、役員同士の同僚意識や社内の力関係が働き、適切な責任追及がなされないおそれがあります。このような事態を防ぎ、会社の利益を守るために、株主が会社を代表して訴訟を提起する権利が法律で認められています。

この制度は、会社が被った損害を回復させるだけでなく、役員による違法または不適切な業務執行を抑制し、経営の適法性を確保するという重要な目的も担っています。経営陣の行動が司法の場で問われる可能性を示すことで、健全な企業統治(コーポレート・ガバナンス)を機能させる効果が期待されています。

訴訟の対象となる役員の責任

株主代表訴訟で追及できる役員の責任は、任務懈怠責任が主要な追及対象ですが、それに限りません。役員は会社に対して善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)や忠実義務を負っており、これらに違反して会社に損害を与えた場合の損害賠償責任が、追及対象の代表例です。

さらに、最高裁判所の判例によれば、役員個人の会社からの借入金の返済義務など、役員としての地位に基づかない一般的な取引上の債務も株主代表訴訟の対象に含まれるとされています。一方で、不動産の登記名義の回復請求のような、純粋な所有権に基づく物権的請求権は対象外とされています。したがって、役員の業務上の不正行為だけでなく、会社との個人的な金銭トラブルから生じた債務の不履行についても、株主から責任を問われる可能性があります。

株主代表訴訟の費用内訳

弁護士費用(着手金・報酬金)

株主代表訴訟における弁護士費用は、「着手金」と「報酬金」の二つの要素で構成されるのが一般的です。着手金は、訴訟の結果にかかわらず、弁護士に業務を依頼した時点で支払う初期費用です。一方、報酬金は訴訟が終了した際に得られた経済的利益に応じて支払う成功報酬であり、全面敗訴した場合は原則として発生しません。

訴訟の当事者である原告(株主)と被告(役員)は、それぞれが弁護士を選任し、各自で費用を負担するのが原則です。特に被告となった役員は、会社から独立して自身の正当性を主張する必要があり、請求額が数億円以上にのぼる場合は、着手金だけでも高額になる可能性があります。

実費(印紙代・予納郵券代など)

株主代表訴訟を提起する際、弁護士費用とは別に、裁判所に納める実費が必要になります。通常の民事訴訟では、訴訟で請求する金額(訴額)に比例して収入印紙の費用(印紙代)が高くなります。しかし、株主代表訴訟は「財産権上の請求でない請求」とみなされるため、請求額の大きさにかかわらず、印紙代は一律13,000円に固定されています。

この制度は、株主が勝訴しても賠償金は会社に帰属し、株主個人に直接的な利益がないことから、高額な印紙代が提訴の障壁とならないように配慮されたものです。その他、訴状の送達などに使われる郵便切手代(予納郵券代)や、証拠収集のための調査費用、交通費なども実費として発生します。

弁護士費用の一般的な算定方法

弁護士費用の算定は、訴訟によって得られる(または争われる)経済的利益を基準に、一定の割合で計算する方法が広く用いられています。

着手金の算定基礎 報酬金の算定基礎
原告(株主)側 訴訟で請求する損害賠償額 勝訴して会社に支払われた賠償額
被告(役員)側 株主から請求された損害賠償額 請求を退け、支払いを免れた金額
弁護士費用の算定基準(原告・被告別)

請求額が数億円を超えるような大規模な訴訟では、着手金は請求額の数パーセント、報酬金はその倍程度の割合で設定されることがあります。ただし、株主代表訴訟は事案が複雑化しやすいため、経済的利益による算定ではなく、弁護士の稼働時間に応じて費用を計算するタイムチャージ方式が採用されるケースも少なくありません。

ケース別に見る費用負担者

会社が役員の弁護士費用を負担する場合

会社が、被告となった役員の弁護士費用を負担することは、一定の要件と手続きを満たす場合に限り認められます。役員が職務執行に関して責任を追及された場合に備え、会社はその防御費用を補償する契約(補償契約)を役員と締結できます。

ただし、役員が自己若しくは第三者の不正な利益を図り、又は当該会社に損害を加える目的で職務を行ったことが判明した場合には、会社は補償した金額の返還を請求できます。これにより、悪質な役員の防御費用まで会社の財産で賄われるという不当な事態を防いでいます。役員が勝訴した場合は、職務執行の正当性が認められたことになるため、会社が弁護士費用を負担することは利益供与にはあたらず、実務上も正当化されやすい傾向にあります。

提訴株主が勝訴した場合の費用請求

提訴した株主が勝訴(一部勝訴や和解を含む)した場合、その株主は会社に対して、訴訟遂行に要した費用の支払いを請求できます。株主代表訴訟で得られた賠償金は、株主個人ではなく会社に支払われます。つまり、株主は自らの費用と労力で会社に財産的利益をもたらした功労者といえます。

この功労に報いるため、会社法は、株主が支出した弁護士報酬や調査費用などのうち、「相当と認められる額」を会社に請求できると定めています。この「相当額」は、会社が得た利益の大きさや事案の難易度、弁護士の活動内容などを裁判所が総合的に考慮して決定します。

提訴株主が敗訴した場合の責任

提訴した株主が敗訴した場合でも、原則として会社や被告役員に対して損害賠償責任を負うことはありません。これは、敗訴した場合のリスクを過大にすると、正当な問題意識に基づく訴訟の提起までもが抑制されてしまうことを防ぐためです。

ただし、例外として、株主が「悪意」をもって訴えを提起した場合には、会社に対して損害賠償責任を負うことがあります。ここでの「悪意」とは、役員に責任がないことを知りながら、不当な目的で意図的に訴訟を起こしたような極めて限定的なケースを指します。なお、被告役員は、株主の提訴が悪意によるものであると疑われる場合、裁判所に対し、株主に相当の担保を立てるよう命じることを申し立てることができます。

会社による費用負担を決定する際の社内手続きと取締役会の役割

会社が役員との間で補償契約を締結し、弁護士費用の負担を決定する際には、厳格な社内手続きが求められます。補償契約の内容を決定するには、株主総会の決議、または取締役会設置会社においては取締役会の決議が必要です。

会社が役員の費用を負担する行為は、会社と役員の利益が相反する「利益相反取引」の性質を持つため、手続きの透明性を確保し、経営の公正性を保つことが強く求められます。また、実際に補償を受けた役員などは、遅滞なくその事実を取締役会に報告する義務があり、事後的な監視体制も整備されています。

D&O保険による費用てん補

D&O保険の補償範囲とは

D&O保険(会社役員賠償責任保険)は、役員が業務遂行に起因して損害賠償請求をされた場合に、役員個人が被る経済的損害を補償する保険です。これにより、役員は訴訟リスクに過度に萎縮することなく、積極的な経営判断を行うことができます。

D&O保険の主な補償対象
  • 株主代表訴訟などで支払いを命じられた損害賠償金
  • 訴訟上の和解で支払うことになった和解金
  • 訴訟対応に要する弁護士費用などの争訟費用

また、特約を付帯することで、訴訟前の社内調査費用や第三者委員会の設置費用など、初期対応にかかる各種費用も補償の対象とすることが可能です。

保険を適用する際の手続きと注意点

会社が役員のためにD&O保険に加入し、その保険料を負担する場合、契約内容の決定には株主総会または取締役会の決議が必要です。この手続きを適切に行うことで、会社による保険料負担が適法とみなされ、役員への給与として課税されることもありません。

保険を適用する際には、以下の点に注意が必要です。

D&O保険利用時の主な注意点
  • 請求時点: 保険期間中に損害賠償請求がなされることが補償の条件となるのが一般的です。
  • 退任後のリスク: 役員退任後も在任中の行為について訴えられるリスクがあるため、退任後の補償期間を延長する特約の有無が重要です。
  • 費用の前払い: 訴訟が長期化する場合、弁護士費用を保険会社が前払いしてくれるかどうかも、資金繰りの観点から重要な確認事項です。

D&O保険が適用されないケースと契約内容の確認事項

D&O保険には、保険金が支払われない免責事由が定められています。契約前には、どのようなケースが補償対象外となるのかを十分に確認しておく必要があります。

D&O保険の主な免責事由
  • 役員が法令に違反することを認識しながら行った行為
  • 役員が不正な利益を得る目的で行った行為
  • 役員の犯罪行為に起因する損害
  • 公害やアスベスト問題など、特定の分野に関する賠償請求

これらの免責条項の範囲は保険商品によって異なるため、自社の事業リスクと照らし合わせ、必要な補償内容を備えた保険を設計することが不可欠です。

費用負担に関する税務上の扱い

会社が負担した役員の弁護士費用

会社が負担した役員の弁護士費用は、訴訟の結果によって税務上の扱いが大きく異なります。

訴訟の結果 会社側の扱い 役員個人への影響
役員が勝訴 業務に関連する正当な費用として損金に算入できる。 給与課税はされない
役員が敗訴 役員個人への賞与とみなされ、損金に算入できない 会社が負担した費用が給与所得として課税される。
訴訟結果による税務上の扱いの違い(会社負担の役員弁護士費用)

役員が勝訴した場合は、その費用は会社の正当な業務を守るための支出とみなされます。一方、敗訴した場合は、役員個人の責任を会社が肩代わりしたと解釈されるため、役員への経済的利益の供与(賞与)として扱われます。

役員個人が負担した弁護士費用

役員が個人で弁護士費用を負担した場合、その費用を自身の所得税計算において必要経費として計上することは原則として認められません。役員の報酬は給与所得に分類されるため、特定の経費を個別に控除することは通常できないためです。

ただし、役員が勝訴し、事後的に会社から弁護士費用相当額の補填を受けた場合、その補填金は実費の精算とみなされ、課税対象の所得には含まれません。一方で、敗訴して弁護士費用や賠償金を自己負担した場合、その支出に対する税務上の救済措置はなく、全額が個人の負担となります。

株主代表訴訟の費用に関するFAQ

和解した場合、弁護士費用は誰が負担しますか?

訴訟が和解で終結した場合、弁護士費用の負担者は和解条項の定めに従います。実務上は、原告株主の弁護士費用については、会社がその功労に報いる形で一定額を負担する内容で合意されることが多く見られます。被告役員の弁護士費用については、会社との補償契約やD&O保険の適用範囲に基づき、会社や保険会社が負担するか、役員個人が負担するかが決まります。

会社による役員の弁護士費用負担は利益供与にあたりますか?

会社による役員の弁護士費用負担が、違法な利益供与にあたるかどうかは、適法な社内手続きを経ているかが重要な判断基準となります。会社法に定められた手続き(株主総会や取締役会の決議)を経て締結された補償契約に基づく費用負担であれば、原則として正当な行為とみなされ、利益供与にはあたりません。特に役員が勝訴した場合は、会社の業務遂行の正当性を守るための費用として、その適法性が認められます。

勝訴した株主は弁護士費用を全額回収できますか?

必ずしも全額を回収できるとは限りません。勝訴した株主は会社に対して弁護士費用の支払いを請求できますが、会社法ではその範囲を「相当と認められる額」に限定しています。この相当額は、訴訟によって会社が得た利益の規模、事案の難易度、弁護士の活動内容などを裁判所が総合的に判断して決定します。そのため、株主が実際に支払った費用よりも、裁判所が認定した相当額が低くなる可能性は十分にあります。

敗訴役員が賠償金を支払えない場合はどうなりますか?

敗訴した役員が命じられた巨額の賠償金を支払えない場合、まずは役員の個人資産から弁済することになります。D&O保険が適用される場合は保険金から支払われますが、免責事由に該当したり、支払限度額を超えたりした部分は自己負担となります。それでもなお支払いきれない場合、役員個人が自己破産を選択せざるを得ない状況も考えられます。役員が破産し、裁判所から免責が許可されると、残りの賠償金の支払義務は免除されます。その結果、会社は判決で認められた損害額を全額回収できず、大きな損失を被ることになります。

まとめ:株主代表訴訟の弁護士費用と負担ルールを理解し、有事に備える

この記事では、株主代表訴訟における弁護士費用とその複雑な負担関係について解説しました。株主代表訴訟の費用は、提訴時の印紙代は一律ですが、弁護士費用は高額になる可能性があり、その負担者は勝敗や立場によって大きく異なります。原告株主が勝訴すれば会社に費用を請求でき、被告役員の費用は補償契約やD&O保険でカバーされる場合があります。経営陣が訴訟リスクを過度に恐れず適切な経営判断を行うためには、平時からD&O保険の補償内容を確認し、役員との補償契約を整備しておくことが重要な備えとなります。ただし、費用負担の可否や税務上の扱いは個別の事案によって判断が分かれるため、具体的な対応については必ず弁護士や税理士などの専門家に相談してください。


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