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強制執行を自分で行う手順|必要書類・費用から弁護士に依頼する基準まで解説

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裁判で勝訴判決などを得たにもかかわらず、債務者が支払いに応じず、お困りではないでしょうか。弁護士費用を抑えるため、ご自身で強制執行の手続きを進めたいと考える経営者や担当者の方も多いでしょう。この記事では、自分で強制執行を申し立てるための前提条件から、財産別の手続き、必要書類、費用、そして注意点までをステップに沿って具体的に解説します。

目次

強制執行を自分で行うための前提条件

① 債務名義の正本(判決、和解調書など)

強制執行を申し立てるには、「債務名義(さいむめいぎ)」と呼ばれる公的な文書が不可欠です。債務名義とは、債権者が債務者に対して金銭の支払いなどを請求できる権利(請求権)があることと、その内容を公的に証明する文書を指します。

主な債務名義の種類
  • 確定判決:裁判所が下した判決で、控訴などができなくなり内容が確定したもの。
  • 和解調書・調停調書:裁判上の話し合い(和解・調停)で合意した内容をまとめたもの。
  • 仮執行宣言付支払督促:簡易裁判所を通じて行われる支払督促手続きで、仮執行宣言が付されたもの。
  • 執行証書:公証役場で作成される公正証書のうち、「債務者が強制執行されても異議はない」旨の文言(執行受諾文言)が記載されたもの。

申立てには、これらの債務名義のコピーではなく、裁判所や公証役場から交付された「正本」が必要です。もし正本を紛失した場合は、発行元の機関に再交付を申請しなければなりません。

② 執行文付与の申立て

原則として、取得した債務名義に「執行文(しっこうぶん)」の付与を受ける必要があります。執行文とは、その債務名義に基づいて強制執行できる状態であることを証明するもので、債務名義の正本の末尾に付記されます。

申立ては、債務名義の事件記録を保管している裁判所の書記官、または執行証書の原本を保管している公証人に対して行います。ただし、少額訴訟の判決や仮執行宣言付支払督促など、一部の債務名義では執行文が不要な場合もあります。

特定の条件が満たされたときに初めて執行できる「条件成就執行文」や、債務者の死亡により相続人が義務を引き継いだ場合の「承継執行文」など、状況に応じた特殊な執行文が必要になることもあります。

③ 債務名義の送達証明書

強制執行を開始するには、債務名義の正本または謄本が、事前に債務者へ送達されていることが条件となります。これは、債務者に対して、これから行われる強制執行の根拠となる文書の内容を知らせ、反論などの防御の機会を与えるためです。

この送達が完了したことを証明する「送達証明書」は、強制執行の申立て時に必ず提出しなければならない書類です。送達証明書は、債務名義を発行した裁判所や公証役場に申請して取得します。

債務者が受け取りを拒否したり、住所が不明だったりする場合でも、「付郵便送達」や「公示送達」といった法的な手続きによって送達を完了させ、その証明書を取得する必要があります。

取得した債務名義の時効管理と更新手続きの重要性

確定判決などで認められた権利には消滅時効があり、原則として10年で権利が消滅する可能性があります。時効の成立を防ぐためには、時効期間が経過する前に、時効の進行をリセットする「時効の更新」手続きが必要です。

強制執行の申立ては、この時効更新の有効な手段となります。申立てを行うと、手続きが終了するまでの間は時効の完成が猶予され、終了後に新たに時効期間が進行します。たとえ債務者に財産がなく、差押えが空振りに終わった(執行不能となった)場合でも、時効を更新する効果は得られます。将来の回収可能性を残すため、10年が経過する前に再度強制執行を申し立てることが重要です。

【STEP別】強制執行の申立てから回収までの全体的な流れ

強制執行の手続きは、以下のステップで進められます。

強制執行の申立てから回収までの流れ
  1. STEP1:対象財産の調査と特定

強制執行では、裁判所が財産を探してくれるわけではないため、債権者自身が債務者の財産を調査し、特定する必要があります。例えば、不動産なら法務局で登記事項証明書を取得し、預貯金であれば金融機関名と支店名を特定します。財産が不明な場合は、裁判所の「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」といった制度を利用して調査することも可能です。

  1. STEP2:必要書類の準備と申立書の作成
  2. 差し押さえる財産が特定できたら、管轄裁判所に提出する申立書と添付書類を準備します。申立書には、当事者(債権者・債務者)の情報、請求する債権の内容、差し押さえる財産を記載した目録などを添付します。裁判所のウェブサイトで書式が提供されていることが多いため、それを活用するとよいでしょう。書類に不備があると手続きが遅れる原因となるため、慎重に作成します。

  3. STEP3:管轄の裁判所へ強制執行の申立て
  4. 準備した書類一式を、管轄の裁判所に提出します。申立先の裁判所は、差し押さえる財産の種類によって異なります。申立て時には、手数料として収入印紙を貼り、裁判所からの連絡などに使われる郵便切手(予納郵券)を納付する必要があります。

  5. STEP4:裁判所による差押命令の発令・送達
  6. 申立てが受理され、内容に問題がないと判断されると、裁判所は「差押命令」を発令します。預貯金や給与の差押えの場合、この命令はまず銀行や勤務先といった「第三債務者」に送達され、その後に債務者本人に送達されます。これは、債務者が事前に差押えを知って財産を隠すのを防ぐためです。第三債務者に命令が届いた時点で、法的な拘束力が発生します。

  7. STEP5:債権の取立てまたは財産の換価・配当
  8. 差押えが完了した後の手続きは、財産の種類で異なります。預貯金や給与の場合は、命令が債務者に送達されてから一定期間(預金は1週間、給与は4週間)が経過すると、債権者が直接第三債務者から支払いを受けることができます(取立て)。不動産や動産の場合は、裁判所が競売などで売却(換価)し、その売却代金から支払い(配当)を受けることになります。

【財産別】強制執行の申立て手順と必要書類

債権執行(預貯金・給与)の手続きと注意点

預貯金や給与といった債権を差し押さえる手続きを「債権執行」と呼びます。申立てには、債権差押命令申立書に「当事者目録」「請求債権目録」「差押債権目録」などを添付します。

預金は金融機関名と支店名の特定が必須です。給与は勤務先の特定が必要です。差押えには上限があり、給与は原則として手取り額の4分の1まで、養育費などの場合は2分の1までと定められています。また、預金の差押えは、差押命令が銀行に届いた時点の残高が対象となり、その後の入金分には効力が及ばない点に注意が必要です。

不動産執行(強制競売・強制管理)の手続きと注意点

債務者名義の土地や建物を差し押さえ、競売にかける手続きです。回収額が大きくなる可能性がある一方、手続きが複雑で、時間と費用が多くかかります。申立てには、不動産登記事項証明書や固定資産税評価証明書など多数の書類が必要です。また、裁判所に数十万円以上の高額な予納金を納めなければなりません。

注意点として、対象不動産に住宅ローンなどの抵当権が設定されている場合、競売で売却できても優先的に返済に充てられ、申立人に配当が回ってこない「無剰余」のリスクがあります。この場合、強制執行手続きは取り消されます。

動産執行(現金・有価証券など)の手続きと注意点

執行官が債務者の自宅や事務所に直接赴き、現金、貴金属、有価証券などを差し押さえる手続きです。しかし、生活に不可欠な家具・家電や、仕事で使う道具などは「差押禁止財産」とされており、差し押さえられません。価値のある財産が見つからず、「執行不能」として費用だけがかかって終わるケースも少なくありません。一方で、執行官が自宅に来るという心理的圧迫から、債務者が任意に支払いに応じる効果が期待できる場合もあります。

各申立てに共通する必要書類と財産ごとの追加書類

どの強制執行手続きでも、基本となる3つの書類が必要です。それに加え、差し押さえる財産の種類に応じた書類を追加で提出します。

全ての申立てに共通する必要書類
  • 債務名義の正本
  • 執行文
  • 送達証明書
財産の種類 主な追加書類
債権(預貯金・給与) 当事者目録、請求債権目録、差押債権目録
不動産 登記事項証明書、固定資産税評価証明書、物件の図面類
動産 執行場所の地図
財産ごとの主な追加書類

このほか、当事者が法人の場合は代表者の資格証明書(登記事項証明書)、債務名義の記載から住所や氏名が変わっている場合は、つながりを証明する住民票や戸籍謄本なども必要です。

第三債務者(銀行・勤務先)への協力依頼と実務上の注意点

債権執行を申し立てる際、第三債務者(銀行や勤務先)に対し、差押え対象の債権が存在するかどうかなどを回答するよう求める「陳述催告(ちんじゅつさいこく)」を併せて申し立てることが重要です。第三債務者から回答を得ることで、実際に回収が可能かどうかを事前に判断できます。

差押命令の送達から一定期間が経過して取立権が発生したら、債権者自身が第三債務者に連絡を取り、支払い方法などを協議して回収を進めます。もし第三債務者が支払いを拒んだり、法務局にお金を預ける「供託」をしたりした場合は、別の法的手続きが必要になることがあります。

自分で強制執行を行う場合の費用内訳

申立手数料(収入印紙)

強制執行の申立てには、手数料を収入印紙で納付します。債権執行や不動産執行の場合、債権者1名、債務者1名、債務名義1通につき原則4,000円です。この収入印紙は申立書に貼付して提出しますが、消印はしません。

連絡用の郵便切手(予納郵券)

裁判所が債務者や第三債務者へ書類を送付するための郵便切手を、あらかじめまとめて納付します。これを「予納郵券(よのうゆうけん)」と呼びます。金額や切手の組み合わせは裁判所によって異なりますが、債権執行で当事者が少ない場合は3,000円〜5,000円程度が目安です。手続き終了後に余った切手は返還されます。

登録免許税(不動産執行の場合)

不動産を差し押さえる場合、差押えの事実を登記するために登録免許税が必要となります。税額は、請求する債権額の0.4%です。例えば、請求額が1,000万円であれば、4万円の登録免許税がかかります。原則として現金で納付し、その領収証書を申立書に添付します。

執行官への予納金(動産執行の場合)

動産執行を申し立てる際は、執行官が現地へ赴くための日当や交通費として、あらかじめ予納金を納める必要があります。金額は事案によりますが、3万円~5万円程度が目安です。もし鍵の開錠や荷物の運び出しなどで専門業者が必要になった場合は、その費用は別途実費でかかります。

その他実費(登記事項証明書の取得費用など)

申立ての準備として、各種証明書を取得するための費用がかかります。例えば、不動産や法人の登記事項証明書は1通600円程度、住民票や戸籍謄本は1通数百円程度です。これらの費用は、手続きが成功すれば「執行費用」として、本来の債権額と合わせて債務者から回収することができます。

自分で強制執行を行うメリットとデメリット

メリット:弁護士費用を節約できる点

自分で強制執行を行う最大のメリットは、弁護士費用を節約できることです。弁護士に依頼した場合、着手金や成功報酬で数十万円程度の費用がかかるのが一般的です。債権額が少ない場合、弁護士費用を支払うと費用倒れになる可能性がありますが、自分で行えば実費のみで済ませることができます。

デメリット①:手続きが複雑で多くの時間と労力がかかる

強制執行は専門的な法的手続きであり、提出する書類の作成には厳格なルールがあります。記載に誤りがあると、裁判所から何度も訂正を求められることになります。また、書類収集や裁判所とのやり取りは平日の日中に行う必要があり、本業を持つ人にとっては時間的・労力的な負担が非常に大きい点がデメリットです。

デメリット②:書類の不備による申立て却下のリスク

手続きに関する知識が不十分なまま進めると、書類の不備や要件を満たしていないことを理由に、申立てが却下されるリスクがあります。手続きが滞っている間に、債務者が財産を隠したり処分したりしてしまう恐れもあり、回収の機会を逃すことにもつながりかねません。

デメリット③:差押えが失敗し費用倒れになる可能性

時間と費用をかけて強制執行を申し立てても、必ず回収できるとは限りません。債務者に差し押さえるべき財産がなければ、差押えは空振りに終わります。その場合でも、申立てにかかった手数料や予納金などの費用は返還されません。特に予納金が高額な不動産執行や動産執行では、費用倒れのリスクを慎重に検討する必要があります。

専門家(弁護士)への依頼を検討すべきケース

以下のようなケースでは、自分で手続きを行うよりも、弁護士などの専門家に依頼することを推奨します。

弁護士への依頼を検討すべき主なケース
  • ### 相手方の財産が不明で、財産調査から必要な場合

弁護士は、職務上の権限で金融機関などに情報を照会できる「弁護士会照会(23条照会)」を利用できます。これにより、個人では難しい財産調査を効率的に進めることが可能です。

  • ### 手続きに割く時間や人員が社内で確保できない場合
  • 法人が債権回収を行う場合、担当者が通常業務と並行して複雑な手続きを進めるのは大きな負担です。弁護士に依頼すれば、手続きの一切を任せられるため、社内のリソースを本業に集中させることができます。

  • ### 複数の財産を差し押さえるなど事案が複雑な場合
  • 複数の財産を同時に差し押さえたい場合や、他の債権者との権利関係が絡む場合など、事案が複雑なときは高度な法的判断が求められます。弁護士であれば、状況に応じた最適な戦略を立てて手続きを進めることができます。

  • ### 債務者との交渉や法的な判断が必要となる場面
  • 強制執行の過程で、債務者から分割払いの交渉を持ちかけられたり、法的な対抗措置を取られたりすることがあります。弁護士が代理人となることで、法的に不利にならないよう交渉を進め、予期せぬトラブルにも適切に対応できます。

強制執行に関するよくある質問

Q. 相手の財産(預金口座や勤務先)が不明な場合、どうすれば調査できますか?

裁判所の「財産開示手続」「第三者からの情報取得手続」といった法的な制度を利用できます。これらの手続きを通じて、債務者本人や金融機関、市町村などから財産情報を得ることが可能です。また、弁護士に依頼して「弁護士会照会」を行う方法もあります。

Q. 強制執行をしても全額回収できないのはどのような場合ですか?

差し押さえた預金口座の残高が請求額に満たない場合や、不動産に高額な住宅ローン(抵当権)が設定されていて、売却代金がローンの返済に優先的に充当されてしまう場合(無剰余)などです。また、税金などの滞納がある場合も、そちらが優先されるため回収額が減ることがあります。

Q. 「費用倒れ」を避けるために注意すべき点は何ですか?

申立ての前に財産調査を十分に行い、回収の見込みが高い財産を特定することが最も重要です。申立てにかかる費用と、予想される回収額を比較し、採算が取れるかどうかを慎重に見極める必要があります。特に、動産執行は空振りに終わる可能性が高いため注意が必要です。

Q. 申立てにかかった費用は、相手に請求できますか?

はい、請求できます。申立手数料や郵便切手代、書類の取得費用など、強制執行手続きに必要となった費用は「執行費用」として、債務者に請求することが法律で認められています。回収した金銭から、元本や利息と合わせて充当することができます。

Q. 給与を差し押さえた後、相手が退職してしまったらどうなりますか?

債務者が退職した場合、その勤務先に対する給与差押えの効力は失われます。ただし、退職金が支払われる場合は、その退職金(手取り額の4分の1まで)を差し押さえることが可能です。もし転職先が判明した場合は、改めて新しい勤務先を第三債務者として、再度、債権差押命令の申立てを行う必要があります。

Q. 手続きの申立てから回収まで、どれくらいの期間がかかりますか?

財産の種類によって大きく異なります。預貯金や給与などの債権執行は手続きが比較的速く、申立てからおおむね1ヶ月~2ヶ月程度で回収できるケースが多いです。一方、不動産執行は競売などの手続きに時間がかかるため、おおむね半年から1年以上を要するのが一般的です。

Q. 債務者が破産した場合、強制執行は中止されますか?

はい、中止されます。裁判所によって債務者の破産手続開始決定が出されると、個別の債権者が行っている強制執行はすべて効力を失います。その後は、破産管財人が債務者の財産を管理・換価し、法に従って各債権者に平等に配当する手続きに移行します。

まとめ:強制執行を自分で行う際の重要ポイントと次の一歩

本記事では、自分で強制執行を行うための具体的な手順や必要書類、費用について解説しました。強制執行を成功させる鍵は、申立て前の「財産調査」にあります。どの財産を差し押さえるかを特定できなければ、手続きは始められません。手続き自体はご自身でも可能ですが、書類作成の複雑さや時間的な制約、そして財産がない場合の費用倒れリスクも伴います。まずはこの記事で解説した流れと費用を参考に、自社で対応可能か、それとも財産調査の段階から弁護士に依頼する方が効率的かを慎重に判断しましょう。

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