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給与差押通知が届いたら?差押可能額の計算と会社の実務対応

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従業員の給与差押えについて裁判所から通知が届いた際、担当者は差押可能額の計算を正確に行う法的義務を負います。もし計算や手続きを誤ると、会社が二重払いのリスクを負うなど重大な問題に発展しかねません。この記事では、給与差押え額の計算ルールを原則から例外ケースまで詳しく解説し、会社が取るべき対応フローを具体的に説明します。

給与差押え額の計算ルール

原則は手取り額の4分の1が上限

給与の差押え上限額は、原則として手取り額の4分の1と法律で定められています。これは、借金の返済が滞った場合でも債務者(従業員)の生活を保障し、最低限の生計を維持できるようにするためです。給与全額を差し押さえると生活が破綻してしまうため、民事執行法で差押えが禁止される財産の範囲が厳格に規定されています。

例えば、手取り額が20万円の従業員の場合、差押えが可能なのはその4分の1にあたる5万円までです。残りの15万円は従業員の生活費として必ず本人に支給しなければなりません。会社は裁判所から「債権差押命令」を受け取ったとしても、給与全額を差し押さえることはできず、法律で定められた上限額を正確に計算して対応する義務があります。

計算基準となる「手取り額」の定義

差押え額の計算基準となる「手取り額」とは、給与の総支給額から法定控除項目のみを差し引いた金額を指します。単に銀行口座に振り込まれる金額とは異なるため、注意が必要です。

総支給額は、基本給や残業代、各種手当などを合計したものです。この総支給額から、法律で控除が義務付けられている税金や社会保険料を差し引いた金額が、差押え計算の土台となります。

一方で、会社と従業員の合意に基づき天引きされている以下の項目は、法定控除ではないため、手取り額の計算上、総支給額から差し引くことはできません。

手取り額計算で控除できない項目(任意控除)の例
  • 財形貯蓄の積立金
  • 社宅や寮の家賃
  • 労働組合費や親睦会費
  • 会社からの借入金の返済分
  • 社内預金

手取り額から控除すべき項目

手取り額を計算する際に、給与の総支給額から差し引くことが認められているのは、法律で天引きが義務付けられている「法定控除金」に限られます。

具体的には、以下の税金と社会保険料が該当します。

手取り額計算で控除する項目(法定控除)
  • 税金:所得税、住民税
  • 社会保険料:健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(40歳以上の場合)

これら以外の項目、例えば従業員が個人的に会社から借りたお金の返済分などを総支給額から差し引いて手取り額を計算することは認められません。会社は、法定控除のみを正確に差し引いて手取り額を算出し、差押え可能額を確定させる必要があります。

【ケース別】差押え上限額の計算例

手取り月額が30万円の場合

手取り月額が30万円の場合、差押えの上限額は7万5,000円です。これは、手取り額が44万円以下であるため、原則通り「手取り額の4分の1」が適用されるからです。

  • 計算式:30万円 × 1/4 = 7万5,000円

会社は、給与から7万5,000円を差し引き、残りの22万5,000円を従業員本人に支給します。差し引いた7万5,000円は、差押命令書に従い債権者に直接支払うか、複数の差押えが競合する場合には法務局へ供託します。

手取り月額が50万円の場合

手取り月額が50万円の場合、差押えの上限額は17万円となります。手取り額が44万円を超える高所得者の場合、「手取り額から33万円を差し引いた金額」という特例が適用されるためです。

  • 計算式:50万円 – 33万円 = 17万円

このケースでは、会社は給与から17万円を差し引き、従業員の生活費として33万円を本人に支給します。手取り額が44万円を超える場合は、単純な4分の1計算ではない点に注意が必要です。

養育費の差押えの場合

差押えの原因が養育費や婚姻費用などの扶養義務に関するものである場合、例外的に手取り額の2分の1まで差押えが可能となります。これは、子どもの生活などを保障する扶養義務に関する権利が、一般の債権よりも強く保護されているためです。

例えば、手取り額が30万円の従業員の場合、通常の借金であれば上限は7万5,000円ですが、養育費の未払いであれば15万円まで差し押さえられます。

  • 計算式:30万円 × 1/2 = 15万円

会社は、差押命令書に記載された債権の種類を確認し、養育費であればこの特例ルールを用いて計算する必要があります。

差押え上限が変動する例外ケース

手取り月額が44万円を超える場合

手取り月額が44万円を超える高額給与所得者の場合、差押え禁止額が33万円となるため、手取り額から33万円を差し引いた金額が差押えの対象となります。法律で定められた最低生活保障の基準額が33万円であり、それを超える部分については生活保障の必要性が低いと判断されるためです。

手取り額が44万円の場合、差押え禁止額(残りの4分の3)が33万円(44万円 × 3/4)となるため、44万円が計算方法の分岐点となります。

手取り月額 差押え上限額の計算方法
44万円以下 手取り額 × 1/4
44万円超 手取り額 – 33万円
手取り額に応じた差押え上限額の計算方法(一般債権)

例えば、手取り額が60万円であれば27万円(60万円 – 33万円)が、80万円であれば47万円(80万円 – 33万円)が差押え可能額となります。このルールは賞与(ボーナス)にも同様に適用されます。

養育費など扶養義務に関する債務

養育費や婚姻費用など、家族の扶養に関する債務の差押えでは、債務者自身の生活保障よりも権利者の生活保障が優先されるため、差押えの上限が拡大されます。

手取り月額 差押え上限額の計算方法
66万円以下 手取り額 × 1/2
66万円超 手取り額 – 33万円
手取り額に応じた差押え上限額の計算方法(養育費等)

この場合、手取りが66万円を超えると、差押え禁止額(残りの2分の1)が33万円を超えるため、計算方法が変わります。また、養育費の場合は、過去の未払い分だけでなく、将来発生する分についても継続的に差し押さえることが可能です。

税金・社会保険料の滞納による差押え

税金や社会保険料の滞納による差押えは、民間の債権とは異なり、国税徴収法などの公法に基づいて行われます。この場合、裁判所を介さず、税務署や自治体などの行政機関が直接差押えを行います。

計算方法も民事執行とは異なり、画一的な割合ではなく、滞納者の家族構成などを考慮した個別の計算式が用いられます。大まかな流れは以下の通りです。

税金滞納による差押え額の計算手順
  1. 給与の総支給額から、所得税・住民税・社会保険料を控除する。
  2. 1の金額から、国税徴収法に定められた基準額に基づき、滞納者本人の生活費としておおむね10万円を控除する。
  3. 生計を同一にする配偶者や扶養親族がいる場合、国税徴収法に定められた基準額に基づき、1人あたりおおむね4万5,000円をさらに控除する。
  4. 残った金額が、原則として差押えの対象となる。

この手続きは「滞納処分」と呼ばれ、予告なく実行されることもあるため、会社は行政機関からの通知に従い、専用の計算方法で慎重に対応する必要があります。

給与差押命令後の会社の対応フロー

裁判所から給与の差押命令を受け取った会社は、「第三債務者」という法的な立場に置かれます。命令を無視したり対応を誤ったりすると、会社自身が不利益を被る可能性があるため、以下のフローに沿って適切に対応する必要があります。

会社の対応フロー
  1. 差押命令の受領と内容確認

命令書が届いたら、まず記載内容を正確に確認します。特に「債権者」「債務者(従業員)」「請求債権額」「差押えの対象(給与、賞与など)」といった点を精査し、自社で対応すべき事案であることを確かめます。

  1. 債務者(従業員)への事実通知
  2. 対象となる従業員に対し、裁判所から差押命令が届いた事実を速やかに伝えます。プライバシーに配慮し、個室で面談するなどして、今後の給与から法律に基づき一定額を差し引く義務があることを説明します。この際、会社には命令に従う義務があり、従業員の個人的な要望で支払いを止めることはできない点を明確に伝えます。

  3. 陳述書の作成と裁判所への提出
  4. 差押命令に同封されている「陳述書」に必要事項を記入し、受領から2週間以内に裁判所へ返送します。陳述書には、従業員の在籍事実、給与の支払状況、他に差押えがないか(競合の有無)などを正確に記載します。これを怠ると、債権者から直接訴訟を起こされるリスクがあります。

  5. 債権者への支払いまたは供託の実行
  6. 給与から差押え可能額を控除した後、その金銭を処理します。差押えが1件のみであれば、債権者に直接支払います。複数の債権者から差押えが競合した場合は、会社が支払先を判断することはできないため、必ず法務局に供託手続きを取ります。

  7. 完済まで支払いを継続
  8. 請求債権額が全額支払われるまで、毎月の給与から控除と支払いを継続します。完済すれば差押えは終了し、会社は控除を停止します。

従業員への通知におけるプライバシー保護と注意点

従業員に差押えの事実を伝える際は、プライバシー保護に最大限配慮しなければなりません。借金問題は極めて機微な個人情報であり、情報が漏洩すれば本人の名誉を傷つけ、職場いじめなどの原因にもなりかねません。

プライバシー保護のための注意点
  • 面談は必ず他の従業員に内容が聞こえない個室で行う。
  • 関係書類は施錠できる場所に保管し、データはアクセス制限をかける。
  • 担当者には守秘義務を徹底させ、業務上知り得た情報を他言しないよう指導する。

従業員の人権を守りながら、法的な義務を冷静に遂行することが重要です。

会社が対応を誤った場合のリスク(二重払いや損害賠償)

会社が差押命令を無視して従業員に給与を全額支払うなど、対応を誤った場合には、以下のような重大なリスクが生じます。

対応を誤った場合の主なリスク
  • 二重払いのリスク:従業員に給与を全額支払った後でも、債権者から差押え分の支払いを請求されます。この請求を拒否すると会社が訴訟を起こされ、結果的に会社の資金から支払う「二重払い」の状態になります。
  • 損害賠償のリスク:複数の差押えが競合している状況で、会社の独断で特定の債権者に支払うと、配当を受けられなかった他の債権者から損害賠償を請求される可能性があります。

これらのリスクを避けるためにも、法的手続きを正確に理解し、ルールに則って厳格に処理することが不可欠です。

よくある質問

給与差押えを理由に従業員を解雇できますか?

原則として、給与が差し押さえられたことだけを理由に従業員を解雇することはできません。

借金などの金銭トラブルは従業員の私生活上の問題であり、会社の業務に直接的な支障(例:経理担当者の横領が発覚したなど)が生じない限り、解雇の正当な理由にはなりません。差押え対応で事務負担が増えるといった理由だけで解雇した場合、不当解雇として法的に無効と判断される可能性が極めて高いです。

ボーナスや退職金も差押えの対象ですか?

はい、ボーナス(賞与)や退職金も差押えの対象となります。

これらも従業員への労働の対価として支払われる金銭債権であるためです。計算ルールは毎月の給与と同様で、原則として手取り額の4分の1が上限です。ただし、手取り額が高額になる場合は、33万円を超える部分が全額差押えの対象となる特例が適用されます。

複数の差押えが競合した場合の対応は?

法務局への「執行供託」が必要です。

複数の債権者から差押命令が届いた場合、会社が独自に支払いの優先順位や金額を判断することは法律で禁じられています。この場合、給与から控除した差押え相当額を法務局に預ける「供託」という手続きを取ります。供託後は、裁判所が法律に基づいて各債権者へ配当を行うため、会社は二重払いや債権者間のトラブルのリスクから解放されます。

計算で生じた1円未満の端数の処理方法は?

民事執行法には1円未満の端数処理に関する明確な規定はありません。実務上は、円未満を切り捨てて計算するのが一般的です。ただし、債権者や裁判所から特定の処理方法を指示された場合は、その指示に従う必要があります。

手取りが非常に低い場合も差押えは可能ですか?

はい、原則として差押えは可能です。しかし、差押えによって生活が著しく困窮する場合、債務者(従業員)本人が裁判所に対して「差押禁止債権の範囲変更の申立て」を行うことができます。この申立てが認められれば、差押え額が減額されたり、差押え自体が取り消されたりすることがあります。自動的に免除されるわけではなく、従業員自身による法的な手続きが必要です。

差押えが終了するのはいつですか?会社側の手続きは?

差押えは、差押命令書に記載された請求債権の全額が支払われた時点で終了します。

会社は毎月の支払額を記録・管理し、累計額が請求額に達した時点で控除を停止します。完済すると、通常は債権者から裁判所に「取立完了届」が提出されるため、会社側で特別な終了手続きを行う必要は原則ありません。また、従業員が退職した場合は、支払われるべき給与がなくなるため、その時点で差押えは事実上終了します。

まとめ:給与差押えの計算方法と会社が取るべき法的対応

本記事では、給与差押えにおける差押可能額の計算ルールと、会社が取るべき対応について解説しました。差押え上限は原則として手取り額の4分の1ですが、手取り額が44万円を超える場合や、養育費・税金滞納といったケースでは計算方法が大きく変わるため注意が必要です。会社は「第三債務者」として、差押命令書に基づき正確に計算・控除を行い、複数の差押えが競合した際は必ず法務局へ供託する義務があります。従業員のプライバシーに配慮しつつ、対応に迷う点があれば速やかに弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします。これはあくまで一般的な解説であり、個別の事案については専門家の助言を求めるようにしてください。

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