人事労務

休職中の従業員への退職勧奨|適法に進めるための手順と注意点

経営リスクナビ編集部

休職中の従業員への対応に苦慮し、退職勧奨を検討しているものの、不当解雇などの法的リスクを懸念されている経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。対応を誤れば「退職強要」とみなされ、深刻な労務トラブルに発展する可能性があり、慎重な判断が求められます。この記事では、休職中の従業員に対して適法に退職勧奨を進めるための具体的な5つのステップ、違法となるNG行動の境界線、そして円満な合意退職に至るための交渉のポイントについて詳しく解説します。

目次

退職勧奨の基礎知識

退職勧奨とは?目的と法的性質

退職勧奨とは、会社が従業員に対し、自発的な退職を促す行為です。その目的は、労使双方の合意に基づいて円満に雇用契約を終了させ、将来的な法的紛争のリスクを低減することにあります。

法的に、退職勧奨は会社から従業員に対する「雇用契約の合意解約の申込み」と位置づけられます。あくまで従業員の自由な意思による同意が前提となるため、退職勧奨そのものが直ちに違法となることはありません。従業員が退職に応じるかどうかを自由に決定できる点が、この手続きの最大の特徴です。

解雇との決定的な違い

退職勧奨と解雇の最も大きな違いは、従業員の同意が必要かどうかという点にあります。解雇は、会社が一方的な意思表示によって雇用契約を終了させる行為であり、従業員の同意を必要としません。しかし、解雇が法的に有効と認められるには、労働契約法第16条に基づき「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が厳格に求められます。

一方で、退職勧奨は従業員が退職に同意しなければ雇用契約は終了しません。この違いを正しく理解することが、適切な労務管理の第一歩となります。

項目 退職勧奨 解雇
従業員の同意 必要(合意により雇用契約が終了) 不要(会社の一方的な意思表示)
法的性質 雇用契約の合意解約の申込み 会社による一方的な雇用契約の解約
法的要件 原則なし(ただし、退職強要は違法) 客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性
紛争リスク 比較的低い 高い(不当解雇訴訟のリスク)
退職勧奨と解雇の比較

休職期間満了による退職との関係

休職期間満了による退職とは、就業規則の定めに基づき、休職期間が満了しても復職できない場合に自動的に雇用契約が終了する制度です。これは会社による解雇ではなく、「自然退職」として扱われるのが一般的です。

ただし、この制度が有効であるためには、就業規則に合理的な休職制度が定められており、復職可否の判断が慎重に行われることが前提となります。退職勧奨は、休職期間満了を待たずに、従業員との話し合いによって解決を図るための一つの選択肢として活用されることがあります。これにより、休職満了に伴うトラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。

休職者への退職勧奨と適法性

退職勧奨が適法と判断される要件

退職勧奨が適法と認められるためには、何よりも従業員の自由な意思決定が保障されていることが不可欠です。あくまで会社からの提案であるため、従業員が冷静に検討し、自らの意思で退職するか否かを判断できる状況を確保しなければなりません。

具体的には、以下の点が重要となります。

適法な退職勧奨のポイント
  • 従業員の自由な意思決定を尊重し、心理的圧迫を与えないこと。
  • 面談の回数、時間、頻度を社会通念上相当な範囲に収めること。
  • 従業員が明確に退職を拒否した場合は、執拗な勧奨を中止すること。
  • 退職を勧める理由を、客観的な事実に基づいて誠実に説明すること。
  • 威圧的・侮辱的な言動を避け、冷静かつ丁寧な対話を心がけること。

違法となる「退職強要」の境界線

適法な「退職勧奨」と違法な「退職強要」の境界線は、従業員に対する心理的圧迫の度合いにあります。従業員が自由な意思決定を妨げられたと判断されるような行為は、違法な退職強要とみなされます。

例えば、従業員が明確に退職を拒否しているにもかかわらず、何度も面談を強要したり、長時間にわたって詰問したりする行為は違法性を帯びます。また、大人数で従業員を取り囲んで威圧したり、退職以外の選択肢がないかのように精神的に追い詰めたりする行為は、不法行為にあたる可能性が極めて高くなります。勧奨の手段が社会通念上許容される範囲を超えていないか、常に客観的な視点で確認することが重要です。

違法とみなされるNG言動・行動

退職勧奨の面談において、以下のような言動や行動は違法な退職強要と判断されるリスクが非常に高いため、絶対に行ってはいけません。

退職強要とみなされるNG言動・行動の例
  • 「退職に応じなければ懲戒解雇にする」など、不当に解雇を示唆して脅すこと。
  • 「無能だ」「会社に不要な存在だ」といった、従業員の人格や尊厳を傷つける発言をすること。
  • 大人数で従業員を取り囲んだり、密室で長時間の面談を強いたりすること。
  • 退職を拒否した従業員に対し、嫌がらせ目的で仕事を与えなかったり、隔離したりすること。
  • 合理的な理由なく、何度も繰り返し面談を要求し、精神的に疲弊させること。
広告

退職勧奨の具体的な進め方

ステップ1:現状把握と方針決定

退職勧奨を適切に進めるための手順は、以下の通りです。

退職勧奨の進め方 5ステップ
  1. 現状把握と方針決定:対象従業員の勤務態度や業務成績、休職中であれば病状や復職の見込みなど、客観的な情報を収集します。その上で、退職勧奨が本当に最善の選択肢なのかを社内で慎重に検討し、方針を決定します。
  2. 面談の準備と事前調整:面談の日時・場所を、他の従業員の目に触れないよう配慮して設定します。担当者の役割分担や想定問答、退職金の上乗せといった条件面を事前に整理し、面談のシナリオを準備します。
  3. 初回面談での意向打診:退職を勧める理由を客観的事実に基づき冷静に説明します。その上で、退職という選択肢について検討してほしいと伝えます。この段階では即答を求めず、従業員が持ち帰って考える時間を与えることが重要です。
  4. 条件交渉と合意形成:従業員が退職を検討する姿勢を見せた場合、退職日、有給休暇の消化、退職金の加算(解決金)、再就職支援といった具体的な条件を提示し、交渉を行います。双方が納得できる着地点を探り、合意形成を目指します。
  5. 退職合意書の作成と締結:全ての条件について合意に至ったら、その内容を明記した退職合意書を作成します。後日の紛争を防ぐため、合意した金銭以外の債権債務がないことを確認する「清算条項」などを盛り込み、双方が署名・捺印して手続きを正式に完了させます。

ステップ2:面談の準備と事前調整

(上記番号付きリストに統合)

ステップ3:初回面談での意向打診

(上記番号付きリストに統合)

ステップ4:条件交渉と合意形成

(上記番号付きリストに統合)

ステップ5:退職合意書の作成と締結

(上記番号付きリストに統合)

社内関係者との連携と客観的根拠の確保

退職勧奨のプロセス全体を通じて、社内関係者との連携と客観的根拠の確保は極めて重要です。これにより、手続きの透明性を高め、万一のトラブルに備えることができます。

円滑な進行とリスク管理のポイント
  • 人事部門と現場管理職が緊密に連携し、指導履歴や面談記録を文書で残すこと。
  • メールや業務日報など、客観的に確認できる証拠を時系列で整理・保管しておくこと。
  • 面談内容は詳細な議事録を作成し、可能であれば双方で内容を確認し署名すること。
  • 法的リスクが懸念される場合や判断に迷う場合は、早期に弁護士などの専門家へ相談すること。

【ケース別】特に注意すべき点

私傷病で休職中の従業員への配慮

業務外の病気やケガ(私傷病)で休職している従業員への退職勧奨は、特に慎重な配慮が求められます。会社には従業員の健康と安全に配慮する安全配慮義務があり、治療中の従業員に性急に退職を迫ることは、この義務に反する可能性があります。

まずは休職制度を活用し、従業員が治療に専念できる環境を提供することが大前提です。その上で、休職期間が満了に近づいても復職の目途が立たない場合に、初めて退職勧奨を検討します。面談を行う際は、従業員の体調を最優先し、心身に過度な負担をかけないよう、時間や場所を十分に配慮する必要があります。

メンタルヘルス不調者への特別な注意

うつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調を抱える従業員への退職勧奨は、通常以上に高いリスクを伴います。精神的な不調により判断能力が低下している可能性があり、その状態で行われた退職の合意は、後日「無効」であると主張されるリスクがあります。

対応にあたっては、まず主治医の診断書などを通じて本人の病状を客観的に把握することが不可欠です。面談では、プレッシャーを与える言動を厳に慎み、本人の回復状況を慎重に見極める必要があります。場合によっては、家族の同席を求めるなど、従業員を孤立させない配慮も重要です。

主治医と産業医の意見が異なる場合の判断

休職者の復職可否について、患者の治療を主眼とする「主治医」と、会社の業務遂行能力を評価する「産業医」の意見が異なるケースは少なくありません。主治医が「復職可」と診断しても、それは必ずしも会社が求めるレベルでの業務遂行が可能であることを意味するわけではありません。

このような場合、会社は自社の業務内容を熟知している産業医の意見をより重視して判断することが一般的です。最終的な判断は会社が行いますが、産業医を通じて主治医に業務内容に関する情報提供を行い、意見交換を促すなど、医学的見解と業務実態をすり合わせるプロセスが重要です。その判断過程は、客観的な記録として必ず残しておきましょう。

広告

退職勧奨の交渉と条件設定

退職金の上乗せに関する考え方

退職勧奨に応じてもらうために、通常の退職金に加えて特別退職金を上乗せしたり、解決金を支払ったりすることは、法律上の義務ではありません。しかし、円満な合意退職を実現するための有効な交渉材料として、実務上広く用いられています。

上乗せ額に決まった相場はありませんが、一般的には給与の3ヶ月分から6ヶ月分程度が目安とされることが多いです。会社としては、紛争が長期化した場合の訴訟費用や企業イメージの低下といったリスクを考慮し、妥当な金額を提示することが、結果的に双方にとってメリットのある解決につながります。

退職理由の扱い(会社都合/自己都合)

退職勧奨による退職の場合、雇用保険上の離職理由は、原則として「会社都合」として扱います。会社からの働きかけが退職のきっかけであるため、これを従業員の「自己都合」として処理することは適切ではありません。

会社都合退職となると、従業員は失業給付(基本手当)を短い待期期間で受給でき、給付日数も自己都合の場合より長くなるメリットがあります。これは従業員が退職勧奨に応じる大きなインセンティブになります。助成金の受給要件などを理由に自己都合での処理を強要すると、後日ハローワークでトラブルになる可能性が高いため、事実に基づいて正しく処理することが重要です。

退職勧奨を拒否された場合の対応

勧奨を継続する場合の注意点

従業員に退職勧奨を明確に拒否された場合、同じ条件で執拗に面談を繰り返すことは退職強要とみなされるため、絶対に避けるべきです。もし勧奨を継続するのであれば、十分な冷却期間を置いた上で、退職金の上乗せ額を増やすなど、従業員が再検討するに値する新たな条件を提示する必要があります。あくまで「交渉」であるという姿勢を忘れず、強制ではないことを伝え続けることが重要です。

休職期間満了による退職への移行

退職勧奨を拒否した従業員が休職中である場合は、就業規則の定めに従い、休職期間満了による自然退職へと移行することを検討します。休職期間が満了しても、客観的にみて元の業務に復帰できる状態まで回復していないと判断されれば、規定に基づき雇用契約を終了させることが可能です。この手続きを適正に進めるためには、事前に休職期間の満了日を通知し、産業医の意見も踏まえて公正に復職可否を判断するプロセスが不可欠です。

最終手段としての普通解雇の検討

退職勧奨が不調に終わり、休職期間満了も適用できない場合の最終手段が普通解雇です。しかし、解雇のハードルは極めて高く、業務遂行能力の著しい不足や重大な規律違反など、客観的で合理的な理由がなければ認められません。さらに、配置転換や再教育など、会社が解雇を回避するために最大限の努力を尽くしたことも証明する必要があります。不当解雇として訴訟に発展するリスクが最も高い手段であるため、実行の可否は弁護士などの専門家に相談の上、極めて慎重に判断しなければなりません。

よくある質問

退職勧奨の面談回数に法的な上限はありますか?

法律で面談回数の上限が具体的に定められているわけではありません。しかし、裁判例では、従業員が明確に拒否の意思を示した後に繰り返される面談は、社会通念上の相当性を逸脱し、違法な退職強要と判断される傾向にあります。一般的には、2〜3回程度が一つの目安とされ、新たな提案がない限り長引かせるべきではありません。

メンタル不調者との面談で診断書は必須ですか?

法的に必須ではありませんが、リスク管理の観点から極めて重要です。メンタルヘルス不調の従業員は正常な判断能力が低下している可能性があり、その状態での退職合意は後から無効とされるリスクがあります。主治医の診断書で、少なくとも面談や重要な判断を行える状態にあるかを確認しておくことは、会社を守る上で有効な手段です。

パートや契約社員にも退職勧奨は可能ですか?

はい、可能です。パートタイマーや契約社員といった有期雇用労働者に対しても、正社員と同様に退職勧奨を行うことができます。特に有期雇用の場合、「やむを得ない事由」がなければ契約期間中の解雇は認められず、正社員以上に解雇のハードルが高いため、合意による退職を目指す退職勧奨は有効な選択肢となります。

面談内容を録音された場合のリスクはありますか?

従業員が面談内容を録音していた場合、その音声データは裁判で有力な証拠として採用される可能性が高いです。したがって、最大のリスク管理は「録音されても問題のない、誠実で適切な対応を終始一貫して行うこと」に尽きます。威圧的な発言や不当な解雇の示唆などを絶対に行わず、常に冷静かつ客観的な事実に基づいて対話することを心がけてください。

まとめ:休職者への退職勧奨を適法に進め、労務リスクを回避する

本記事では、休職中の従業員に対する退職勧奨の基礎知識から具体的な進め方、注意点までを解説しました。最も重要なのは、あくまで従業員の自由な意思決定を尊重し、威圧的な言動や執拗な勧奨を避けて「退職強要」とみなされないようにすることです。特にメンタルヘルス不調者など、デリケートな状況にある従業員への対応は、産業医の意見も参考にしながら、本人の体調に最大限配慮しなくてはなりません。退職勧奨を進める際は、面談記録などの客観的証拠を確保し、最終的には双方合意のもと「退職合意書」を締結することが紛争防止の鍵となります。本稿で解説した内容は一般的な手続きであり、個別の事案は複雑な判断を要するため、少しでも不安があれば自己判断せず、早期に弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。



Baseconnect株式会社
サイト運営会社

本メディアは、「企業が経営リスクを正しく知り、素早く動けるように」という想いから、Baseconnect株式会社が運営しています。

当社は、日本最大級の法人データベース「Musubu」において国内1200万件超の企業情報を掲げ、企業の変化の兆しを捉える情報基盤を整備しています。

加えて、与信管理・コンプライアンスチェック・法人確認を支援する「Riskdog」では、年間20億件のリスク情報をAI処理、日々4000以上のニュース媒体を自動取得、1.8億件のデータベース等を活用し、取引先の倒産・不正等の兆候の早期把握を支援しています。

記事URLをコピーしました