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訴訟費用額確定処分の申立て実務|手続きの流れと費用計算を解説

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訴訟で勝訴判決を得たものの、「訴訟費用額確定処分」の手続きが分からず、実際に費用を回収できずに困っていませんか。判決文だけでは具体的な請求額が定まらないため、この手続きを経なければ相手方への請求や強制執行はできず、権利が時効で消滅するリスクもあります。訴訟にかかった費用を確実に回収するには、法的な手続きを正確に理解することが不可欠です。この記事では、訴訟費用額確定処分の申立て方法から必要書類の書き方、費用の計算方法、そして相手方が支払わない場合の強制執行まで、実務の流れを網羅的に解説します。

訴訟費用額確定処分とは

訴訟費用額を法的に確定させる手続き

訴訟費用額確定処分とは、民事訴訟の終了後、勝訴した当事者が相手方に請求できる訴訟費用の具体的な金額を、裁判所書記官に決定してもらう手続きです。判決では費用をどちらがどの割合で負担するかは示されますが、具体的な金額までは明記されません。そのため、この手続きによって金額を法的に確定させなければ、相手方への請求や強制執行を行うことができません。

例えば、「訴訟費用は被告の負担とする」という勝訴判決を得ても、原告が実際に支払った印紙代や郵便切手代の合計額は判決文には記載されていません。そこで原告は、自身が支出した費用の計算書などを裁判所に提出し、請求できる金額を確定してもらう必要があります。このように、訴訟費用額確定処分は、判決で認められた権利を、実際に回収可能な金銭債権へと具体化するための重要な手続きです。

費用の負担割合を決める裁判との違い

費用の負担割合を決める「判決」と、具体的な金額を決める「訴訟費用額確定処分」は、判断する主体や決定内容が根本的に異なります。

項目 費用の負担割合を決める裁判(判決) 訴訟費用額確定処分
判断主体 裁判官 裁判所書記官
決定内容 費用の負担割合(例:被告が全額負担) 証拠に基づく具体的な金額(例:○○円)
効力 費用負担の義務を抽象的に発生させる 強制執行の根拠となる債務名義となる
判決と訴訟費用額確定処分の違い

判決主文に「訴訟費用は被告の負担とする」と書かれていても、その判決書だけでは相手方の財産を差し押さえることはできません。強制執行を行うためには、具体的な請求金額が記載された「債務名義」が必要であり、この訴訟費用額確定処分の正本がそれに該当します。つまり、判決は費用支払いの前提を定め、確定処分はその義務を具体的な金額として実現させる、それぞれ独立した手続きと位置づけられています。

申立て手続きの流れ

申立てから処分確定までのステップ

訴訟費用額確定処分の申立ては、判決確定後、以下の流れで進められます。当事者双方に主張と反論の機会を与え、公平性を担保する仕組みになっています。

申立てから処分確定までの流れ
  1. 判決の確定: 第一審から最高裁までの判決が確定するか、和解などで事件が終結し、費用の負担に関する裁判が執行力を持つことが前提となります。
  2. 申立て: 申立人が、第一審の裁判所書記官に対し、申立書、費用計算書、疎明資料(領収書など)を提出します。
  3. 相手方への催告: 裁判所書記官は、相手方に対し、期間を定めて費用計算書と疎明資料を提出するよう催告します。
  4. 費用の算出と相殺: 相手方からも書類が提出された場合、双方が負担すべき費用額を算出し、対当額で相殺します。相手方から提出がなければ、申立人の資料のみで計算されます。
  5. 処分の作成と送達: 裁判所書記官が、相手方が支払うべき具体的な金額を記載した「訴訟費用額確定処分」を作成し、双方の当事者に送達します。
  6. 処分の確定: 処分が送達されてから1週間の不変期間内に、どちらの当事者からも異議申し立てがなければ、処分が法的に確定します。

申立てに必要な書類

申立ての際は、裁判所書記官が費用を正確に算定するための根拠となる書類を、漏れなく提出する必要があります。客観的な証拠に基づいてのみ費用は認定されるため、裏付けのない支出は認められません。

主な必要書類
  • 訴訟費用額確定処分申立書: 手続きの開始を正式に求める書面です。
  • 費用計算書: 支出した費用の内訳を項目別に記載した一覧表です。
  • 疎明資料: 支出を証明する客観的な資料(収入印紙の領収書、郵便切手の使用明細、交通費の領収書など)です。
  • 資格証明書(申立人が法人の場合): 商業登記簿謄本などを取得した際の手数料の領収書も対象となります。
  • 委任状: 代理人である弁護士が申立てを行う場合に必要です。

これらの書類は、原則として裁判所用(正本)と相手方送達用(副本)の2部を提出します。

申立書の書き方と記載事項

申立書は、手続きの開始を求める重要な書面であり、定められた事項を正確に記載する必要があります。不備があると手続きが遅れる原因になります。

申立書の主な記載事項
  • 宛先: 第一審の裁判所名を記載し、宛先は「裁判官殿」ではなく「裁判所書記官殿」とします。
  • 当事者の表示: 申立人と相手方の氏名・住所を正確に記載します。
  • 事件の表示: 対象となる訴訟の事件番号と事件名を明記します。
  • 申立ての趣旨: 判決が確定した事実と費用負担の割合に触れ、相手方が負担すべき訴訟費用額を確定するよう求める旨を記載します。
  • 添付書類: 提出する費用計算書や疎明資料の名称と通数をリスト形式で記載します。
  • 申立人の署名・押印: 申立人が記名押印または署名します。

費用計算書の書き方と注意点

費用計算書は、請求金額の根拠を示す最も重要な書類です。裁判所書記官は、この計算書と疎明資料を照合して費用の妥当性を審査します。

費用計算書作成時の注意点
  • 法律上の費用のみ計上する: 法律で訴訟費用と認められない費用(例:弁護士との打ち合わせ交通費)は含められません。
  • 法定基準で計算する: 出廷日当や旅費、書類作成費用などは、実際の支出額ではなく、法律や規則で定められた基準に従って計算する必要があります。
  • 客観的証拠と一致させる: 計算書に記載する全ての項目は、領収書などの疎明資料と一致していなければなりません。
  • 正確に分類・集計する: 収入印紙代、郵便切手代、旅費・日当などを正確に項目分けし、計算ミスがないように注意します。

訴訟費用に含まれる費用の範囲

訴訟費用として認められる費用の内訳

相手方に請求できる訴訟費用は、「民事訴訟費用等に関する法律」で定められた、裁判手続きの遂行に客観的に必要と認められる費用に限定されます。

訴訟費用として認められる費用の例
  • 手数料: 訴状や申立書に貼付した収入印紙代です。
  • 送達費用: 訴状などの書類を送達するために裁判所に予納した郵便切手代です。
  • 出廷費用: 当事者本人や証人が出廷した際の旅費、日当、宿泊料(規定の範囲内)です。
  • 書類作成・提出費用: 訴状や準備書面などの作成および提出にかかる費用(定額)です。
  • 各種証明書の取得費用: 訴訟に必要な法人の資格証明書などを取得するための手数料です。

費用の具体的な計算方法

訴訟費用の金額は、実際に支出した金額(実費)ではなく、法律や最高裁判所の規則で定められた基準に基づいて算出されます。これにより、当事者間の公平性と手続きの画一性が保たれています。

主な費用の計算基準
  • 手数料(印紙代): 訴訟の目的の価額(請求額)に応じて、法律で定められた金額となります。
  • 旅費: 鉄道賃、船賃、航空賃、車賃は、原則として実費相当額が認められますが、その計算方法は法律や規則で定められています。日当や宿泊料は、1日あたりの上限額や地域区分に応じた定額が定められています。
  • 書類作成・提出費用: 書類1通あたりで定められた定額を基準に計算されます。

領収書の金額をそのまま合計するのではなく、法令上の基準に当てはめて計算する必要がある点に注意が必要です。

弁護士費用は訴訟費用に含まれるか

原則として、弁護士に支払う着手金や報酬金などの弁護士費用は、訴訟費用に含まれません。 日本の民事訴訟では弁護士への依頼は任意であり、本人訴訟も可能なため、弁護士費用は当事者が個人的に負担すべき費用と解釈されているからです。

ただし、例外として、交通事故などの不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では、弁護士に依頼しなければ権利の実現が困難であるとの考えから、損害額の1割程度が弁護士費用相当額として損害の一部と認められる判例があります。しかし、この場合も訴訟費用額確定処分で請求するのではなく、本案訴訟の中で損害賠償金の一部として請求する必要があります。

申立ての注意点と事後対応

申立ての期限と時効

訴訟費用額確定処分の申立て自体に、法律上の厳密な期限はありません。しかし、判決によって確定した訴訟費用請求権は金銭債権の一種であり、10年の消滅時効にかかります。判決確定から10年が経過すると、時効によって権利が消滅し、相手方に請求できなくなる可能性があります。

また、時間が経つと領収書などの疎明資料を紛失するリスクも高まります。権利を確実に行使するためにも、判決が確定したら速やかに申立ての準備を進めることが重要です。

相手方が支払わない場合の強制執行

訴訟費用額確定処分が確定しても相手方が任意に支払わない場合は、確定処分の正本を債務名義として、地方裁判所に強制執行を申し立てることができます。裁判所が自動的に取り立ててくれるわけではないため、債権者自身が行動を起こす必要があります。

強制執行までの主な流れ
  1. 執行文付与等の申立て: 処分を下した第一審の裁判所書記官に、確定処分の正本に「執行文」を付与してもらい、相手方への「送達証明書」を取得します。
  2. 財産の特定: 相手方の銀行預金口座、勤務先(給与債権)、不動産などの財産を調査して特定します。
  3. 強制執行の申立て: 相手方の財産を管轄する地方裁判所に対し、強制執行(債権差押え、不動産競売など)を申し立てます。

特に、預金や給与の差押えは、訴訟費用のような比較的少額な債権の回収において効果的な手段です。

申立てを検討する際の費用対効果と判断基準

申立てを行うかどうかは、回収できる見込み額と、手続きにかかる手間やコスト(実費)を比較して、経済合理性の観点から慎重に判断すべきです。費用倒れになるリスクも考慮する必要があります。

申立てを検討する際の判断基準
  • 請求できる費用の額: 請求額が高額な印紙代を含み、数十万円以上になる場合は、積極的に検討する価値があります。
  • 相手方の資力: 相手方に支払い能力があるか、差し押さえるべき財産(預金、給与、不動産など)の目処が立っているかを確認します。
  • 手続きの手間とコスト: 申立てや強制執行には書類作成などの手間がかかるため、そのコストに見合う回収額か検討します。
  • 相手方の状況: 相手方が自己破産を予定しているなど、回収が絶望的な場合は、申立てを見送る判断も必要です。

回収後の社内における経理処理と債権管理

訴訟費用を回収した後は、社内の会計ルールに従って正確な経理処理を行い、債権管理を完了させる必要があります。これを怠ると、財務諸表の不正確な記載や税務上の問題につながる可能性があります。

回収後の主な経理処理
  • 収益の計上: 支出時に「租税公課」などで費用計上していた場合、回収した金銭は「雑収入」として計上するのが一般的です。
  • 債権の消込: 相手方に対する未収金が残っていた場合、回収額を充当して消込処理を行います。
  • 費用の精算: 強制執行にかかった費用なども含めて、一連の法務コストを最終的に精算します。

よくある質問

申立てにかかる費用はいくらですか?

訴訟費用額確定処分の申立て自体に、裁判所へ納める手数料(収入印紙)はかからず、原則無料です。ただし、申立書などを相手方に送達するための郵便切手代(通常、数千円程度)を予納する必要があります。したがって、申立てに要する直接的な費用は、この郵便切手代などの実費のみとなります。

相手方が処分に不服を申し立てたら?

裁判所書記官の処分に不服がある当事者は、処分の告知を受けた日から一週間の不変期間内に、当該書記官の所属する裁判所に対して異議を申し立てることができます。異議が申し立てられると、事件は裁判官による審理に移ります。

裁判官が審査した結果、異議に理由があると判断すれば、自ら正しい費用額を決定します。理由がないと判断されれば、異議は棄却され、当初の処分が維持されます。異議が出されると、その結論が出るまで手続きは一時的に停止します。

和解で終了した場合でも請求できますか?

裁判上の和解で訴訟が終了した場合、訴訟費用の請求可否は和解条項の記載内容によります。実務上は「訴訟費用は各自の負担とする」と定められることが多く、この場合は相手方に請求できません。

和解条項と訴訟費用請求の可否
  • 「訴訟費用は被告(相手方)の負担とする」: この記載があれば、和解調書を根拠に申立てが可能です。
  • 「訴訟費用は各自の負担とする」: 相手方への請求権を放棄したとみなされ、申立ては不可能です。
  • 費用の負担について記載がない: 法律の規定により、各自が負担することになるため、申立ては不可能です。

控訴審・上告審の費用も請求できますか?

はい、可能です。控訴審や上告審まで争った場合、最終的に勝訴すれば、第一審から最終審までの全ての訴訟費用をまとめて請求できます。申立て先は、複数の審級にまたがる場合でも、事件の記録が保管されている第一審の裁判所書記官に対して行います。審級ごとに別々に申し立てる必要はありません。

根拠となる法律の条文は何ですか?

訴訟費用額確定処分に関する手続きは、主に「民事訴訟法」と「民事訴訟費用等に関する法律」という2つの法律に定められています。

主な根拠法と規定内容
  • 民事訴訟法 第61条: 敗訴した当事者が訴訟費用を負担するという原則を定めています。
  • 民事訴訟法 第71条: 裁判所書記官が申立てにより費用額を定めるという、確定処分の手続きそのものを規定しています。
  • 民事訴訟費用等に関する法律: どのような費用が訴訟費用に含まれるか、その具体的な計算方法など、費用の内訳と算定基準を詳細に定めています。

まとめ:訴訟費用額確定処分を理解し、勝訴判決後の費用を確実に回収する

本記事では、訴訟費用額確定処分の手続きについて解説しました。この手続きは、勝訴判決で認められた費用負担の権利を、強制執行が可能な具体的な金銭債権へと転換させるための不可欠なプロセスです。申立てを行う際は、請求できる費用の範囲を正しく理解し、疎明資料を揃えることが重要となります。特に、弁護士費用は原則として含まれない点や、日当・旅費は法定基準で計算する必要がある点に注意が必要です。相手方の資力や手続きにかかる手間を考慮し、費用対効果を見極めた上で申立てを判断しましょう。手続きに不安がある場合や、相手方が支払いに応じない場合の強制執行については、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。個別の事情に応じた最適な対応を取るためにも、専門家の助言を仰ぐことが賢明です。

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