人事労務

ハート保育園ストライキから見る保育園労務リスクと対応

経営リスクナビ編集部

ハート保育園ストライキのように、コロナ対応や人員配置・保育環境をめぐる不満が現場で噴き上がると、「ストライキ」「一斉退職」が現実の選択肢として浮上し、経営判断が遅れるほど園運営と対外対応が同時に不安定化します。とくに団体交渉の申入れ後は、初動の誤りが資料提出・回答期限をめぐる対立を固定化し、8月の2,100人超の署名提出のように外部化する不利益も生じ得ます。感情論に寄せず、事実関係と制度上の論点(安全配慮、労働時間、異動、交渉対応)を分解しておくと、自園で何を整備し、どこから是正・説明すべきかを決めやすくなります。以下では、紛争予防と初動対応の判断材料として、押さえるべき論点と実務ポイントを示します。

目次

ハート保育園ストライキの経過

事案の概要と時系列を整理

横浜市鶴見区の認可保育所である鶴見ハート保育園で、運営会社トライコーポレーション合同会社と保育士の間で労働紛争が生じ、団体交渉無期限ストライキに発展した事案です。争点は、コロナ禍の出勤方針(全員出勤・系列園応援)、在宅勤務中の賃金(残業代)取扱い、そして異動命令の相当性(報復人事の疑い)といった、労務管理の複合論点でした。

主な出来事(時系列)
  1. 緊急事態宣言下で登園児童が1日1〜2名まで減少した局面で、会社が正社員保育士全員の出勤や系列他園への応援を指示しました。
  2. 感染リスク等を理由に保育士2名が改善を求め、在宅勤務自体は認められた一方、在宅中の書類作成等に関する残業代の支払いが争点化しました。
  3. 5月18日、当該2名に対して事前の十分な内示がないまま他園への異動命令が通告され、保育士側は報復的な不利益取扱いだと受け止めました。
  4. 5月26日、介護・保育ユニオンに加入し団体交渉を申し入れました。
  5. 会社の回答が先延ばしと評価され、6月1日から無期限ストライキに入りました。
  6. 第1回団体交渉後も資料提出が進まず、2回目交渉の実施をめぐって対立が継続し、8月には2,100人超の署名が横浜市に提出されました。

本件は、労務面の論点が「出勤命令の安全配慮」「在宅勤務の労働時間」「異動命令の相当性」「団体交渉(資料提出を含む)の誠実性」と連鎖し、結果として社会的な注目(署名提出)も伴って深刻化した類型といえます。

一斉退職ではなくストライキが選ばれた背景

保育現場では、労働条件への不満が高まると「年度末に一斉退職」という形で噴出しやすい一方、ストライキは雇用契約を維持したまま要求を可視化し、交渉で是正を求める手段になり得ます。特に保育は、子ども・保護者との継続関係が業務の中核にあり、退職は関係断絶の心理的負担が大きくなりやすい点が背景になります。

一方で、経営側が「自主退職を促す」対応に傾きすぎると、後から不当な圧力(退職強要)と評価されるリスクがあります。また、退職をめぐって金銭要求が出た場合でも、参照される実務論として「退職金等を他の従業員より過剰に上乗せしない」など、社内公平性と説明可能性が重要とされています(個別事案の適法性は別途検討が必要です)。

さらに、紛争が社会問題として広がる過程では、マスメディアとネットが相互に論点を深掘りし、過重労働などへの世論の関心を高め、行政の対応を促すことがある点は、保育分野でも無関係ではありません。「保育園落ちた日本死ね」を契機に待機児童・過重労働が社会課題として注目された経緯は、労使紛争が外部化した場合の波及を考える材料になります。

保育園のコロナ対策と安全義務

コロナ下の安全配慮義務の基本

コロナ禍のような感染症流行下では、園児の安全だけでなく、職員が安全に働ける環境を整えることが経営の重要課題になります。法的には、使用者は労働者の生命・身体の安全に配慮すべき義務を負い(安全配慮義務)、配置・衛生・業務設計・情報共有の各面で「やったこと/やらなかったこと」が後に検証対象になります。

ただし、感染症と安全配慮義務の整理としては、出社命令それ自体が直ちに安全配慮義務違反と評価される場面は限定され、少なくとも「出社により新型コロナウイルス感染症に感染することが具体的に予見できた」など、具体的危険の程度が重要になるとされています。一方で、トラブル予防の観点から、出社の必要性が高度でない場合にテレワークを認める運用も一考とされています。

実務として整えるべき感染対策(例)
  • 施設内の衛生管理(接触頻度が高い箇所の消毒、玩具の管理、清掃の記録化)を運用として残すことです。
  • 換気や動線設計(密集の回避、クラス運営方法の見直し)を「判断根拠」ごと共有することです。
  • 職員の勤務設計(固定チーム化、応援派遣の要否、体調不良時の就業制限)を事前にルール化することです。
  • 保護者対応(立入制限、情報提供の頻度、クレーム発生時の担当変更・増員等)を体制として準備することです。

安全配慮義務は「抽象論」ではなく、事後的には記録で評価されます。園としての決裁プロセス、周知内容、現場の実施記録を残すことが、紛争予防としても重要です。

登園自粛と出勤指示の判断軸

登園自粛要請下での出勤指示は、「業務の必要性」と「感染リスク低減」を両立させる設計が求められます。登園児童が大きく減っているのに、従前同様に全員を出勤させると、密度の上昇・接触機会増加につながり、職員から合理性を問われやすくなります。

その際の注意点として、感染症と安全配慮義務の実務整理では、出社命令を控える義務が直ちに肯定されにくい場面がある一方、出社の必要性が高度でない場合にはテレワークを認めることも一考とされています。つまり、法的リスクの最小化だけでなく、紛争予防の観点からも、出勤人数の最適化や在宅業務の設計が重要です。

出勤指示の合理性を支える要素(記録しておく事項)
  • 当日の登園見込み人数と、それに対応する必要配置の算定過程です。
  • 出勤が必要な業務(保育実施、設備管理、緊急対応等)と在宅可能業務(計画・書類等)の切り分けです。
  • 系列園応援の必要性(受入側の人員不足の根拠、派遣期間、派遣者選定基準)です。
  • 感染対策の実施状況(物資、手順、周知、実施記録)です。

登園児が1〜2名まで減った局面で、出勤維持・休業・在宅勤務をどう切り分けるか

登園児童が1〜2名まで減少するような局面では、「最低限の保育提供」と「密度低減」を同時に満たすため、出勤維持・在宅勤務・休業を組み合わせて設計する必要があります。本件で問題化したのは、登園児童が1日1〜2名に激減した状況でも正社員保育士全員の出勤系列園応援が指示され、現場が感染リスクの増大と受け止めた点でした。

また、在宅勤務へ切り替える場合、在宅は「休み」ではなく、業務指示があれば労働時間として扱われ、賃金支払いの前提になります。逆に、業務指示のない待機・休業として取り扱うなら、その根拠と賃金取り扱いを明確化し、後日の争点化を避けることが必要です。

区分 会社が決めるべきこと 紛争になりやすい点
最低限の出勤 誰を出勤させるか、感染対策、緊急時の責任者 「全員出勤」の必要性の説明が弱いと不信が強まります
在宅勤務 業務内容の具体化、労働時間管理、残業の承認手順 在宅分の賃金・残業代不払いが起こりやすいです
休業・待機 指示の有無、賃金の取り扱い、期間と見直し条件 待機なのに実質業務をさせると未払い賃金化します
人員が余る局面の切り分け(考え方)
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保育士の労務問題と報復人事リスク

未払い残業代と在宅勤務の論点

在宅勤務や持ち帰り業務が増えると、労働時間の把握が曖昧になり、未払い残業代が紛争化しやすくなります。実務上重要なのは、会社の指示の有無だけで形式的に割り切らず、実態として「業務としてやらざるを得ない状況を作っていないか」を検証される点です。

参照される裁判例・実務傾向として、労災認定実務では、使用者の指示の有無にかかわらず、自宅で持ち帰り仕事に従事した時間も労働時間として取り扱い、業務負荷を検討する傾向があるとされています(国・中央労基署長(大丸東京店)事件:東京地判平20・1・17 労判961号68頁)。また、安全配慮義務違反が問題となる事案でも、持ち帰り仕事時間を労働時間として業務負荷を判断することがあるとされます(アルゴグラフィックス事件:東京地判令2・3・25 労判1228号63頁)。

さらに、労災保険給付の不支給処分取消訴訟の裁判例として、自宅作業は職場に比べ緊張程度が低い面がある一方で、持ち帰りにより睡眠時間が減ったことが健康リスク要因になり得る旨を指摘したものもあります(地公災基金熊本県支部長(私立小学校教諭)事件:福岡高判令2・9・25 労判1235号5頁)。園の実務では、賃金請求リスクだけでなく、健康配慮(過重負荷)リスクとしても無視できません。

在宅勤務・持ち帰り仕事で最低限整える運用
  • 在宅業務の指示を「業務内容・期限・成果物」で具体化し、口頭指示だけにしないことです。
  • 労働時間の申告・承認フロー(残業の事前承認、事後申告の扱い)を決めることです。
  • PC稼働ログや送受信履歴等の客観記録を、プライバシーに配慮しつつ争点化に備えて保全することです。
  • 持ち帰りが常態化している場合は、業務量・配置・締切設計そのものを是正することです。

異動命令が報復人事となる境界

異動命令は一般に会社の人事権の範囲で行われますが、権利濫用に当たる場合は無効となり得ます。実務では、(1)業務上の必要性、(2)不当な動機・目的、(3)労働者の不利益の程度(受忍限度を超えるか)といった要素を総合して争点化します。

本件のように、コロナ対策や賃金(残業代)の扱いについて意見した職員に対し、抗議の直後に、十分な内示や説明を欠いた異動を命じると、「不当な動機(報復)」を疑われやすくなります。さらに、配置転換を契機にメンタルヘルス不調が顕在化した場合には、安全配慮義務違反として損害賠償請求が提起されることがあり、その検討で厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平23.12.26基発1226第1号、最終改正:令和2.8.21 基発0821第4号)が参照される傾向がある点にも留意が必要です。

同認定基準では、因果関係認定の要件の一つとして「発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷」が挙げられ、配置転換や転勤は基本的に心理的負荷が「中」とされる一方、一定類型では「強」となる例が示されています。保育現場で問題になり得るのは、例えば「過去に経験した業務と全く異なる質の業務に従事」「異例に重い責任」「左遷・孤立」などに近い実態が生じるケースです。

年度途中の異動命令で争いになりやすい会社の説明不足とは何か

年度途中の異動は、保育の継続性(年間指導計画、子ども・保護者との関係)への影響が大きく、説明不足があると不信が一気に高まります。説明不足として争点化しやすいのは、「なぜ今なのか」「なぜこの人なのか」「代替案は検討したのか」を、客観資料と手続で示せないことです。

加えて、異動が精神的負荷を強めたと評価される場面では、前記の厚生労働省の認定基準が参照され得るため、会社側は「丁寧なプロセス設計」を証拠として残す必要があります。

説明責任を果たすために揃えるべき要素
  • 異動の業務上必要性(欠員・新規受入・監査対応等)を示す資料です。
  • 人選基準(経験、資格、通勤、本人事情の聴取結果)と比較可能な説明です。
  • 内示から発令までのプロセス(面談記録、検討経緯、代替案検討)です。
  • 異動後の支援策(引継ぎ期間、業務量調整、相談窓口)です。

労働組合とストライキへの対応

ユニオン加入と団体交渉の基本対応

外部の合同労働組合(いわゆるユニオン)から団体交渉の申入れが来た場合、会社は初動で対立姿勢を強めるほど、紛争が長期化・外部化しやすくなります。法的には、使用者は団体交渉に関して誠実に対応すべき枠組みがあり、交渉窓口・回答期限・議事運営ルールを整えることが実務上の優先事項です。

また、退職で収束させようとして「自主退職を促す」発想に寄りすぎると、後から退職強要・不利益取扱いと争われるリスクがあります。仮に退職金等の金銭要求が出たとしても、社内公平性を欠く「過剰な上乗せ」を安易に約束すると、説明不能な支出として別の火種になり得ます。

ストライキの法的位置づけと限界

ストライキ(争議行為)は、正当性が認められる範囲では法的保護が及びますが、無制限ではありません。目的が労働条件の維持改善等の範囲を外れたり、手段が暴力・器物損壊・就業妨害など不法行為に及ぶと、正当性を失い得ます。

会社側の実務としては、争議行為中の賃金はノーワークノーペイの原則で控除の整理が必要になる一方、スト参加を理由とする懲戒・不利益取扱いは不当労働行為になり得るため、事実確認と法的評価の切り分けが重要です。

団体交渉の申入れを受けた直後に、経営・園長・本部法務が48時間でそろえる資料

団体交渉は初回の出方で、その後の固定化(対立の深掘り)を招きます。申し入れ直後の48時間は、感情的な反射行動を止め、事実と証拠を揃える時間にします。

48時間で最低限集約する資料(園・本部共通)
  • 労働条件通知書・雇用契約書・就業規則・賃金規程・服務規律関連規程です。
  • 直近の賃金台帳と勤怠記録(タイムカード、システムログ、シフト表)です。
  • 在宅勤務の指示書面、業務連絡の送受信履歴、業務成果物の提出状況です。
  • 異動の内示・発令資料、面談記録、人選基準メモ、異動の業務上必要性資料です。
  • メンタル不調の申出や相談記録がある場合は、取扱いルールと対応記録(個人情報に配慮して管理)です。

加えて、解雇・退職を絡めた対応を検討する場合でも、普通解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは権利濫用として無効」とされ(労働契約法第16条)、解雇予告(30日前または30日分の解雇予告手当)といった手続面も含めて慎重な検討が必要です。

資料提出を拒む・回答を先延ばしにする対応が不誠実交渉と評価される分かれ目

資料提出の拒否や回答の先延ばしが問題視されるのは、「出せない理由」そのものより、理由の説明と代替提案がなく、交渉を前に進める意思がないと受け取られる場合です。営業機密・個人情報の配慮で全部開示できない場面はあり得ますが、その場合でも、範囲を限定した開示、マスキング、閲覧方法の提案など、紛争解決へ向けた姿勢が問われます。

また、労務紛争は外部化すると、マスメディアとネットが連動して論点を深掘りし、行政・自治体の動きを促す形で拡大し得ます。これは「炎上」一般論ではなく、待機児童・過重労働が社会問題化した局面で実際に見られた現象であり、園としては「隠す・引き延ばす」ほど不信が増幅される点に注意が必要です。

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保育園運営への影響と実務対応

園運営と保護者対応の初動

ストライキが発生した場合、園運営の最優先は児童の安全確保であり、次に保護者の生活への影響を最小化するための情報提供です。場当たり的な対応は、保護者不安と行政対応(指導・監査)を同時に招きやすくなります。

初動で行う運営・保護者対応
  1. 当日の人員見込みと受入可能人数を確定し、配置が安全に満たせない場合は縮小保育や受入制限を判断します。
  2. 事実(発生日時、運営影響、当日の対応)を、配信システムや書面で迅速に周知します。
  3. 代替策(系列園支援の可否、臨時要員、家庭保育の協力要請)を具体的選択肢として提示します。
  4. クレームが増える局面では、状況に応じて担当者の変更・増員など、カスタマーハラスメントを含むトラブル対応体制を整えます。

なお、従業員対応の副作用として保護者対応が不十分になると、結果的に園への不信が固定化し、紛争の外部化(署名活動等)を招き得ます。本件でも、8月に2,100人超の署名が横浜市へ提出されるまで事態が拡大しました。

行政報告と認可園監督の枠組み

認可保育所は、公費(委託費・補助)で運営され、配置基準や運営体制の遵守について所管自治体の監督を受けます。ストライキ等で開所や配置に支障が出る見込みが生じた時点で、所管課へ状況を報告し、園児の安全確保策と運営見通しを共有することが不可欠です。

また、危機管理の実務としては「危機管理広報対応方針」を事前にまとめ、初動の情報収集、社内連絡、ホールディングコメント(現時点で確定している事実と今後の確認方針を述べる暫定コメント)によるメディア対応、状況報告書の作成、方針の承認取得といった流れを準備しておくことが推奨されます。行政報告と対外発信が矛盾すると、説明の一貫性が崩れ、監督・監査対応が困難になります。

経営者の対話と再発防止策

ストライキや団体交渉が発生した局面では、経営者が「現場と対話しない」こと自体が、長期化の要因になります。再発防止策は、抽象的なスローガンではなく、労働時間管理・配置・ハラスメント・メンタルヘルスを具体的に扱う必要があります。

参照される行政目標として、第14次労働災害防止計画(令和5年(2023年)4月1日〜令和10年(2028年)3月31日)の枠組みでは、メンタルヘルス対策に取り組む事業場を80%以上とすることや、年次有給休暇取得率70%以上(2025年まで)などの指標が示されています。保育現場の紛争予防でも、メンタル不調の兆候を「個人の弱さ」にせず、制度として拾い上げる設計が重要です。

また、従業員の健康リスクの現状として、精神障害等に係る労災は2022年に請求数2,683件、認定件数710件と増加傾向にあるとされています。過重負荷や対立の固定化を放置すると、園としては労務リスクだけでなく、安全配慮(健康配慮)リスクにも直結します。

自社保育園での予防体制

就業規則と労務運営の点検項目

労使紛争の予防は、「良好な関係づくり」だけでなく、就業規則・運用・記録の三点セットを整えることが前提になります。特にコロナ禍以降は、在宅勤務、応援派遣、感染時の就業制限、クレーム対応など、従来の規程では想定が薄い論点が増えています。

規程と運用の点検項目(保育事業向け)
  • 時間外労働・休日勤務の命令根拠と、割増賃金を含む支払いルールの明文化です。
  • 在宅勤務の位置づけ(業務指示方法、労働時間の把握、残業承認、費用負担の整理)です。
  • グループ園への応援派遣の根拠、対象者選定の基準、期間、同意取得の扱いです。
  • ハラスメント対応(相談窓口、調査手順、是正措置、処分規程)の整備と周知です。
  • 休暇制度の設計(例として育児に関する特別有給休暇を1年間で3日間とする制度例があるように、職員の不安を下げる制度設計)です。

加えて、普通解雇を検討する局面は最も事故が起きやすく、客観的合理性と社会通念上の相当性を欠く解雇は無効となる点(労働契約法第16条)を前提に、解雇予告の30日前ルール(または30日分支払い)など、手続面も含めて慎重に運用する必要があります。

安全と安心を両立する組織運営

安全と安心の両立は、理念よりも「対立が起きたときの設計」で決まります。現場の不満が蓄積すると、ストライキ・一斉退職といった形で園運営が急激に不安定化し、結果として子どもの安全にも跳ね返ります。

メンタルヘルス対策の重要性は、2022年の精神障害等の労災が請求2,683件・認定710件という数字にも表れています。対話の仕組み(労使協議、意見窓口)と、業務負荷の見える化(持ち帰りの発生源の特定、配置・締切の見直し)を組み合わせ、紛争化する前に「小さく止血する」ことが実務です。

また、安全配慮の観点では、配置転換がメンタル不調を招いたとして争われるケースがあり、裁判所が厚生労働省の認定基準(発病前おおむね6か月の心理的負荷など)を参考にする傾向がある点も踏まえ、異動や業務変更の際は、負荷評価とフォロー面談を制度として組み込むことが望ましいです。

よくある質問

保育園でストライキが起きた場合、利用児童の安全確保はどこまで園の責任になりますか

ストライキ中であっても、園が受け入れた児童の安全確保責任は免除されません。園児に事故が生じた場合、園側の管理責任が問われるだけでなく、従業員が第三者に損害を与えたときに使用者も連帯して責任を負う使用者責任(民法715条1項(民法第715条))が問題になることがあります。民法715条1項但書による免責は、相当の注意を尽くしたこと等の立証が必要で、実務上は「損害発生を予期して防止する具体的措置」を講じていたレベルでないと認められにくいとされています。

したがって、ストライキが予告された場合は特に、受入制限・縮小保育・代替要員・保護者周知といった具体措置を事前に尽くし、記録として残すことが重要です。

ストライキを行った保育士への懲戒処分や配置転換はどこまで許されるのでしょうか

正当な手続きを経た争議行為に参加したことのみを理由に、懲戒処分や不利益な配置転換を行うと、不当労働行為として争われやすくなります。一方で、争議行為の枠を逸脱した暴力・器物損壊・物理的就業妨害などの不法行為があれば、個別行為として調査・評価し、就業規則に基づき対応を検討します。

配置転換を行う場合も、メンタルヘルス不調との関係で安全配慮義務が争点化し得るため、厚生労働省の認定基準が参照され得ること(発病前おおむね6か月の心理的負荷など)を踏まえ、必要性・人選基準・本人事情の聴取・フォローを丁寧に行うことが実務上の防御線になります。

保育士が個人でユニオンに加盟した場合でも、会社は団体交渉に応じる義務がありますか

保育士が1人で外部ユニオンに加入した場合でも、団体交渉の申入れがあれば、会社は誠実に対応すべき枠組みの中で対応が求められます。実務上は、申入書を受領したら、交渉事項の整理、社内窓口の一本化、資料収集、回答期限の設定を行い、交渉を「拒む」「放置する」形にしないことが重要です。

また、紛争を退職で収束させようとして「自主退職を促す」対応に寄せると、後に退職強要と評価されるリスクがあります。退職金等の支払いが絡む場面でも、社内公平性を欠く過剰な上乗せは別の紛争要因になり得るため、慎重な設計が必要です。

一斉退職とストライキでは、企業側のリスクや対応はどう違いますか

一斉退職は、配置基準が即時に崩れることで休園等の運営危機に直結し、退職者には団体交渉の枠組みで戻ってもらうことも難しくなりがちです。一方、ストライキは雇用契約が継続しているため、団体交渉を通じて合意形成ができれば、復帰と運営正常化の可能性が残ります。

会社側の対応の違いとしては、ストライキ局面で解雇等の強硬策に寄せるほど、後に無効となるリスクが高まります。普通解雇は客観的合理性と社会通念上の相当性を欠けば無効であり(労働契約法第16条)、さらに解雇予告は30日前または30日分の支払いが必要とされます。結果として、拙速な処分は「紛争の解決」ではなく「紛争の大型化」につながり得るため、勤怠・賃金・異動の客観資料を基礎に、誠実交渉で論点を限定していくことが実務的です。

ハート保育園ストライキへの対応で次にすべきこと

ハート保育園ストライキの事案は、出勤方針と感染対策、在宅勤務の労働時間・未払い残業代、異動命令の相当性、団体交渉の誠実対応が連鎖して深刻化し得ることを示しています。判断の軸は、法的に争点になりやすいポイントを「説明できる根拠(記録)」に落とし込み、交渉・対外対応を一貫させられるかどうかです。実務の次アクションとしては、団体交渉の申入れがあった場合に備え、申入れ直後の48時間で揃える資料の棚卸しと、勤怠・賃金・異動プロセスの証拠化を先に進めることが現実的です。あわせて、園運営への影響が出る局面では、所管自治体への報告と保護者周知を同時並行で設計し、外部化した場合の不信増幅を避ける視点が重要になります。個別の適法性や対応手順は事情で変わるため、紛争化の兆候がある段階で人事労務・法務および必要に応じて専門家に相談し、拙速な処分や引き延ばしを避けて検討してください。



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