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請求の放棄における訴訟費用は誰が負担?法的根拠と手続きを解説

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訴訟で「請求の放棄」を検討する際、訴訟費用の負担者が誰になるのか、その法的根拠がわからず判断に困っていませんか。費用の負担関係を誤解していると、相手方から予期せぬコストを請求されるなど、さらなる財務的損失を招く恐れがあります。この記事では、請求の放棄における訴訟費用の負担原則と、費用として認められる具体的な範囲、そして類似の手続きとの違いを明確に解説します。

「請求の放棄」の基礎知識

請求の放棄とは何か(定義)

原告が、自らの訴訟上の請求に理由がないことを法廷で自認し、その権利主張を撤回する意思表示のことです。訴訟の進行中に、自社の主張を裏付ける証拠が不十分であると判明したり、相手方の反論により勝訴の見込みが極めて低いと判断されたりした場合に選択されます。この手続きにより、原告は自らの意思で訴訟を終結させますが、その効果は実質的な敗訴判決と同じです。

請求の放棄が認められるための要件

請求の放棄は、どのような訴訟でも認められるわけではなく、いくつかの要件を満たす必要があります。特に、当事者が自由に処分できる権利であることが大前提となります。

請求の放棄が認められるための主な要件
  • 当事者が自由に処分できる私法上の権利に関する訴訟であること(例:貸金返還請求)
  • 身分関係を争う人事訴訟など、公益性が高く当事者の自由な処分が制限されていること
  • 手続きを行う当事者に訴訟能力が備わっていること
  • 代理人が行う場合は、請求の放棄に関する特別な権限を委任されていること

請求の放棄がもたらす法的効果

請求の放棄の陳述が口頭弁論期日などで行われ、その内容が裁判所の調書に記載されると、訴訟は直ちに終了し、強力な法的効果が生じます。

請求の放棄による主な法的効果
  • 陳述が調書に記載されると、確定判決と同一の効力が生じる
  • 既判力(きはんりょく)が発生し、同じ理由で再び訴訟を提起することができなくなる(再訴禁止)
  • 裁判所の判断を待たずに訴訟が直ちに終了する
  • 原告は全面的に敗訴したことになり、訴訟費用を負担する義務を負う

請求の放棄を経営判断する際の留意点と社内手続

請求の放棄は実質的な敗訴を自ら認める行為であるため、経営上の意思決定には慎重な検討が求められます。特に、企業の信用や他の取引への影響を多角的に評価する必要があります。

経営判断における留意点と推奨される社内手続き
  • 実質的な敗訴を認めることによるレピュテーションリスク(企業の評判低下)を評価する
  • 敗訴判決を公に受けるダメージと、自ら請求を放棄するダメージを比較検討する
  • 顧問弁護士から勝訴の見込みに関する客観的な意見書を取得する
  • 取締役会などの機関で、撤退理由を明確にして意思決定を行う
  • 意思決定のプロセスと合理的根拠を議事録に詳細に記録し、取締役の善管注意義務を果たした証拠を残す

訴訟費用の負担ルール

原則は「敗訴者負担」(民事訴訟法61条)

日本の民事訴訟では、訴訟費用は敗訴した当事者が負担するという大原則が定められています。この「敗訴者負担の原則」は、正当な権利者が費用の心配なく権利を実現できるようにするとともに、根拠の薄い訴訟の提起を抑制する目的があります。具体的には、原告の請求が全て認められれば被告が、全て退けられれば原告が、訴訟費用の全額を負担します。

請求の放棄では原告が敗訴者扱いとなる

自ら請求に理由がないと認めて権利主張を取り下げる「請求の放棄」を行った原告は、訴訟手続き上、全面的に敗訴したものとして扱われます。その結果、原告は自身が支出した訴訟費用だけでなく、被告が訴訟に対応するために支出した訴訟費用についても、その全額を支払う義務を負います。法務担当者は、訴訟からの撤退を検討する際、相手方から請求される費用という財務的リスクも正確に見積もる必要があります。

請求放棄時の費用負担に関する法的根拠

請求の放棄が記載された調書は、民事訴訟法上、確定判決と同一の効力を持つと定められています。この規定により、敗訴者負担の原則(民事訴訟法61条)がそのまま適用されることになります。また、判決に至らずに訴訟が終了した場合の費用負担については、当事者の申立てに基づき、第一審裁判所が決定で命じる仕組みも整備されており、法的な根拠は明確です。

例外的に負担割合が調整されるケース

敗訴者負担はあくまで原則であり、裁判所は公平の観点から、その裁量によって負担割合を調整することがあります。たとえ勝訴した側であっても、訴訟の進行を不当に遅らせるなどの行為があった場合には、その行為によって生じた費用を負担させられることがあります。

訴訟費用負担が調整される例外的なケース
  • 勝訴者が、勝敗に無関係な行為で不必要な費用を生じさせた場合
  • 当事者が期日を守らないなど、故意または重過失により訴訟を遅延させた場合
  • その他、公平の観点から裁判所が調整を相当と認めた場合

訴訟費用に含まれるもの

訴訟費用として認められる費用の範囲

敗訴者が負担する「訴訟費用」は、裁判にかかった全ての費用を指すわけではありません。「民事訴訟費用等に関する法律」で定められた項目に限定されており、敗訴者に過大な負担がかからないよう配慮されています。主な内訳は、裁判所に納付する手数料、書類の郵送費、当事者や証人の出廷にかかる旅費などです。

内訳①:裁判所に納付する費用(印紙代等)

訴訟費用の中で大きな割合を占めるのが、訴えを提起する際に訴状に収入印紙を貼って納付する手数料です。この手数料は、訴訟で請求する金額(訴額)が大きくなるほど高額になります。また、裁判所が被告に訴状などを送達するために使う郵便切手(郵券)も、原告が事前に予納する必要があり、これも訴訟費用に含まれます。

内訳②:書類作成や送付にかかる費用

訴状や準備書面といった裁判書類の提出に必要な郵送費は訴訟費用に含まれます。ただし、これらの書面を作成するための費用(人件費など)は原則として含まれません。 また、当事者や会社の代表者が期日に出頭した際の日当、交通費、宿泊料も対象となりますが、これも実費ではなく、合理的な経路に基づく法定の基準額に従って算出されます。

弁護士費用は原則として含まれない

訴訟を弁護士に依頼した場合の着手金や報酬金は、原則として訴訟費用には含まれません。したがって、たとえ勝訴しても、弁護士費用を敗訴した相手方に請求することはできません。これは、弁護士への依頼は当事者の任意であり、本人自身で訴訟を行うことも可能とされているためです。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟など、一部の例外的なケースでは、弁護士費用の一部が損害として認められることがあります。

被告へ支払う訴訟費用の会計・税務上の取り扱い

自社が請求を放棄するなどして敗訴し、相手方に訴訟費用を支払う場合、その支出は会計上および税務上で適切に処理する必要があります。

訴訟費用の会計・税務処理のポイント
  • 会計処理: 支払義務が確定した事業年度において、営業外費用や特別損失として計上する。
  • 税務処理(原則): 法人の事業遂行に直接関連する費用として、損金への算入が認められる。
  • 税務上のリスク: 訴訟の原因が役員の個人的な問題である場合など、業務関連性が低いと判断されると、役員賞与とみなされ損金不算入となる可能性がある。

類似手続きとの費用負担の違い

「訴えの取下げ」との相違点

「訴えの取下げ」は、訴訟を初めからなかった状態に戻す手続きです。敗訴が確定する「請求の放棄」とは異なり、確定判決と同一の効力は生じません。そのため、後日同じ内容で再び訴訟を提起することも可能です。費用負担は、取下げを行った原告が原則として負担しますが、被告が応訴した後では被告の同意が必要となり、実務上は「お互いに費用は請求しない」という合意の上で取り下げられるケースが多く見られます。

「和解」との相違点

「和解」は、原告と被告が互いに譲歩し、話し合いによって紛争を解決する手続きです。勝敗を決めるのではなく、当事者間の合意で終了する点が最大の特徴です。訴訟費用の負担についても、当事者が自由に決めることができ、実務上は「各自が支出した費用はそれぞれが負担する」という条項(費用各自負担)を設けるのが一般的です。これにより、予期せぬ費用負担のリスクをなくし、経済的損失を確定させることができます。

「請求の認諾」との相違点

「請求の認諾」は、「請求の放棄」とは逆に、被告が原告の請求を全面的に認める意思表示です。認諾を行った被告が敗訴者となり、訴訟費用を全額負担する義務を負います。認諾も確定判決と同一の効力を持つため、原告は直ちに強制執行の手続きに進むことができます。被告としては、争う実益がないと判断した場合でも、認諾する前に費用負担について交渉し、和解に切り替えるといった戦略的な対応が求められます。

訴訟費用額の確定手続き

訴訟費用額確定手続の概要

判決などで費用の負担割合が定められても、それだけでは相手方に具体的な金額を請求できません。実際に支払われるべき金額を法的に確定させるためには、訴訟終了後に、別途「訴訟費用額確定手続」を裁判所に申し立てる必要があります。この手続きを経て、裁判所書記官が具体的な金額を算定した「処分」を得ることで、初めて強制執行が可能な債務名義となります。

申立てから金額確定までの流れ

訴訟費用額確定手続は、申立てから金額が最終的に決まるまで、以下のような流れで進められます。

訴訟費用額確定手続の主な流れ
  1. 権利者(費用を請求する側)が、費用計算書や領収書等を添えて第一審裁判所に申立てを行う。
  2. 裁判所書記官が、相手方(支払う側)に申立てがあったことを通知し、意見を述べる機会を与える。
  3. 双方から提出された費用計算書に基づき、裁判所書記官が必要に応じて相殺計算などを行う。
  4. 裁判所書記官が内容を審査し、「訴訟費用額確定処分」として具体的な支払額を正式に決定する。
  5. 処分が相手方に送達され、不服申立て期間が経過すると金額が確定し、債務名義となる。
  6. 相手方が支払いに応じない場合、確定した債務名義に基づき強制執行(財産の差押えなど)が可能となる。

よくある質問

Q. 請求の放棄に相手方の同意は必要ですか?

一切必要ありません。 請求の放棄は、原告が一方的に行うことができる単独の意思表示です。被告にとっては勝訴と同じ結果となり、何ら不利益は生じないため、その同意を得る必要なく、いつでも訴訟を終結することができます。

Q. 請求放棄で損害賠償義務もなくなりますか?

自動的に消滅するわけではありません。 原告が自らの請求を放棄しても、それはあくまで原告から被告への請求権がなくなるだけです。もし被告が原告に対して損害賠償などを求める「反訴」を提起していた場合、その反訴の審理は継続します。すべての紛争を一度に解決したい場合は、互いの権利関係を清算する「和解」の手続きを選択する必要があります。

Q. 訴訟費用の負担はいつどのように決まりますか?

訴訟費用の負担は、以下の二段階で決まります。

  1. 負担割合の決定: 訴訟が終了する際の判決や決定で、「誰が」「どの割合で」費用を負担するかが決まります。
  2. 金額の確定: 訴訟終了後、別途「訴訟費用額確定手続」を申し立て、裁判所書記官が具体的な支払金額を算定・確定させます。

Q. 被告が費用を請求できる期限はありますか?

費用額を確定させる申立て自体に明確な期限はありません。しかし、費用を請求する権利(費用償還請求権)には消滅時効があります。判決などで費用負担が確定してから原則として10年が経過すると、相手方が時効の成立を主張した場合、請求できなくなります。権利が確定したら、速やかに手続きを進めることが重要です。

まとめ:請求の放棄における訴訟費用は敗訴者として原告が負担する

本記事では、請求の放棄における訴訟費用の負担について解説しました。請求の放棄は実質的な敗訴とみなされるため、民事訴訟法の「敗訴者負担の原則」に基づき、放棄した原告が訴訟費用を全額負担するのが原則です。この訴訟費用には、裁判所に納付した印紙代や書類の送付費用などが含まれますが、弁護士費用は原則として対象外となります。訴訟からの撤退を検討する際は、自社が負担すべき費用総額を念頭に置きつつ、費用各自負担で終結できる可能性がある「和解」など、他の手続きとの比較検討が不可欠です。具体的な費用額は訴訟終了後の「訴訟費用額確定手続」によって正式に決定されますので、個別の事案における最適な判断については、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。

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