財務

設備投資とキャッシュフロー計算書|投資活動CFの計算方法と分析のポイント

catfish_admin

企業の成長に不可欠な設備投資ですが、その実態をキャッシュフロー計算書から正確に読み解くことは、経営分析における重要なポイントです。特に「投資活動によるキャッシュフロー」の計算は、貸借対照表や損益計算書の数値を調整する必要があり、複雑に感じられるかもしれません。この記事では、設備投資がキャッシュフロー計算書に与える影響について、具体的な計算方法から分析のポイントまでを設例を交えて解説します。

設備投資とCF計算書の基本

設備投資は「投資活動によるCF」に記載

設備投資の状況は、キャッシュフロー計算書の「投資活動によるキャッシュフロー」の区分に、マイナスの数値で記載されます。この区分は、企業が将来の収益獲得のためにどれだけ資金を支出し、回収したかを示すからです。

事業の継続的な発展には、建物や機械設備といった有形固定資産や、業務効率化のためのソフトウェアなどの無形固定資産への投資が不可欠です。これらの事業用資産を取得するための支出は、手元の現金を減少させるため、キャッシュフロー計算書上では資金の減少、すなわちマイナスとして表現されます。したがって、企業の成長に向けた資金投下の規模や戦略を把握するには、投資活動によるキャッシュフローの項目を詳細に確認することが重要です。

投資活動によるCFの主な内訳項目

投資活動によるキャッシュフローには、企業の事業基盤の構築や余剰資金の運用に関わる、中長期的な現金の増減が網羅的に記録されます。その主な内訳は以下の通りです。

投資活動によるキャッシュフローの主な項目
  • 有形固定資産および無形固定資産の取得による支出
  • 有形固定資産および無形固定資産の売却による収入
  • 他社への貸付けによる支出およびその回収による収入
  • 有価証券や投資有価証券の取得による支出および売却による収入
  • 預入期間が3ヶ月を超える定期預金の預入れによる支出および払戻しによる収入

これらの項目を精査することで、企業がどのような対象に重点的に資金を投じているかという、経営陣の投資戦略を読み解くことができます。

設備投資キャッシュフローの計算方法

有形固定資産の取得による支出の求め方

有形固定資産の取得による支出額を正確に計算するには、貸借対照表上の期首と期末の差額を見るだけでは不十分です。なぜなら、その差額には新規取得だけでなく、既存資産の売却や減価償却による減少分が混在しているためです。

実際の現金支出額を算出するには、以下の手順で未払金などの増減調整を行う必要があります。

有形固定資産の取得による支出額の計算手順
  1. 当期の総取得額を算出する(期末取得原価 – 期首取得原価 + 当期に除売却した資産の取得原価)。
  2. 算出した総取得額に対し、設備投資にかかる未払金の増減を調整する。
  3. 当期に新たに発生した未払金(まだ現金支出していない分)を取得額から差し引く。
  4. 前期以前に発生した未払金のうち、当期に支払った額(現金が流出した分)を取得額に加える。

この厳密な調整を経て、投資活動における真の資金流出額が算出されます。

有形固定資産の売却による収入の求め方

有形固定資産の売却による収入を算出する際も、損益計算書の売却損益や貸借対照表の数値を調整し、実際の現金収入額を導き出す必要があります。これは、売却代金が未収入金として計上される場合、会計上の認識と実際の入金タイミングにズレが生じるためです。

有形固定資産の売却による収入額の計算手順
  1. 会計上の売却額を算出する(対象資産の帳簿価額 + 固定資産売却益、または – 固定資産売却損)。
  2. 算出した売却額に対し、売却代金にかかる未収入金の増減を調整する。
  3. 当期の売却で発生した未収入金(まだ現金で受け取っていない分)を売却額から差し引く。
  4. 前期以前の売却で発生した未収入金のうち、当期に回収した額(現金が入金された分)を売却額に加える。

このように、会計上の数値から非資金項目や債権債務の増減を調整することで、実際に手元に入ってきた現金収入額を把握できます。

減価償却費とキャッシュフローの関係性

減価償却費は、損益計算書では費用として計上されますが、実際の現金の支出を伴わない「非資金費用項目」です。そのため、間接法でキャッシュフロー計算書を作成する際には、税引前当期純利益に加算して調整されます。

設備投資の代金は取得した年度に支払い済みであり、翌年度以降の減価償却費は、その取得費用を耐用年数にわたって会計上配分する手続きにすぎません。利益計算の段階で控除されている減価償却費を足し戻すことで、実際の資金の動きが正しく反映されます。結果として、減価償却費は法人税等の負担を軽減しつつ、現金は社外に流出しないため、社内に資金を留保する「内部金融効果(タックスシールド)」をもたらします。

リース取引におけるキャッシュフロー上の注意点

リース取引におけるキャッシュフローの表示区分は、契約の性質によって異なります。特に、実質的な資産の分割払い購入と見なされるファイナンス・リース取引では、注意が必要です。

借手が支払うリース料のうち、元本の返済に相当する部分は、借入金の返済と同様に「財務活動によるキャッシュフロー」にマイナスで記載されます。一方、利息に相当する部分は、企業の会計方針に基づき、「営業活動によるキャッシュフロー」または「財務活動によるキャッシュフロー」のいずれかに記載されます。

【設例】投資活動CFの計算プロセス

前提:B/S・P/Lの関連数値

投資活動によるキャッシュフローの計算プロセスを理解するため、以下の前提数値を用いて解説します。

計算の前提条件
  • 有形固定資産の期首残高: 3,000万円
  • 有形固定資産の期末残高: 3,500万円
  • 当期の減価償却費: 500万円
  • 当期に売却した資産の帳簿価額: 1,000万円
  • 上記資産の売却価額: 500万円
  • 設備投資未払金の期首残高: 200万円
  • 当期の設備投資による未払金発生額: 2,000万円

計算①:固定資産の取得による支出額

固定資産の取得による現金支出額は、資産の増減と関連する未払金の増減を組み合わせて計算します。会計上の資産増加額と実際の資金流出額には、未払金によるタイムラグが存在するためです。

まず、当期の有形固定資産の総取得額を算出します。期末残高(3,500万円)から期首残高(3,000万円)を差し引いた純増額に、当期の減少要因である減価償却費(500万円)と売却資産の帳簿価額(1,000万円)を加算すると、総取得額は2,000万円となります。

次に、この取得額から現金支出額を求めます。総取得額(2,000万円)から当期に発生した未払金(2,000万円)を差し引き、前期から繰り越され当期に支払った期首未払金残高(200万円)を加算します。その結果、有形固定資産の取得による支出額は200万円となり、投資活動CFでは「-200万円」と表示されます。

計算②:固定資産の売却による収入額

固定資産の売却による収入額は、実際の売却価額そのものが現金で回収されたかに基づいて算出します。設例では、売却した資産の帳簿価額は1,000万円、実際の売却価額は500万円でした。この差額500万円は「固定資産売却損」として損益計算書に計上されます。

売却代金500万円が当期中にすべて現金で回収され、未収入金がないと仮定します。この場合、実際の現金の流入額は売却価額と同額になります。したがって、投資CFにおける有形固定資産の売却による収入は「+500万円」と表示されます。なお、固定資産売却損(500万円)は現金の動きを伴わないため、営業活動CFの区分で税引前当期純利益に加算調整されます。

投資活動CFの分析ポイント

フリーキャッシュフローから見る投資余力

企業の投資余力は、フリーキャッシュフロー(FCF)で評価できます。FCFは、本業で稼いだ現金(営業活動CF)から事業維持や成長に必要な投資(投資活動CF)を差し引いた、企業が自由に使える現金を示す指標です。

  • FCFがプラスの場合: 本業の稼ぎで設備投資を賄えており、借入金の返済や株主への配当を行う財務的な余裕があると判断できます。
  • FCFがマイナスの場合: 本業の稼ぎだけでは投資をカバーできず、外部からの資金調達や資産売却が必要な状態を示唆します。

設備投資額と減価償却費のバランス評価

投資活動を分析する際は、実際の設備投資額と減価償却費を比較することが重要です。減価償却費は、過去の投資を費用化したものであり、現在の事業規模を維持するために最低限必要な更新投資の目安となります。

  • 設備投資額 < 減価償却費: 成長投資が手控えられており、設備の老朽化や競争力低下が懸念されます。
  • 設備投資額 > 減価償却費: 事業規模の拡大や新規事業など、積極的な成長投資を行っていると推測できます。ただし、過大な投資は資金繰りを圧迫するリスクも伴います。

企業の成長ステージを読み解く視点

営業・投資・財務の3つのキャッシュフローの組み合わせを見ることで、企業の成長ステージを読み解くことができます。企業はライフサイクルに応じて、資金の獲得方法と使い方が変化する傾向があるためです。

成長ステージ 営業CF 投資CF 財務CF 特徴
創業・成長期 ー or 小+ 事業拡大のため、外部から資金を調達して大規模な先行投資を行う段階。
成熟期 本業で安定的に現金を創出し、その範囲内で設備投資や借入金返済を行う段階。
衰退期 ー or + 本業の採算が悪化し、保有資産を売却して事業維持の資金を確保する段階。
企業の成長ステージとキャッシュフローのパターン

投資の「質」を見極める視点(維持投資か成長投資か)

投資の総額だけでなく、その内訳、つまり「投資の質」を見極めることが重要です。同じ投資額でも、その目的によって企業価値への影響は大きく異なります。

投資の目的による分類
  • 維持投資: 既存設備の老朽化に伴う更新や修繕が中心。現状維持が目的であり、大きな収益向上は期待しにくい。
  • 成長投資: 新規事業の立ち上げ、DX推進のためのIT投資、M&Aなど。将来の競争優位性を確立するための戦略的な投資。

よくある質問

Q. 無形固定資産への投資も投資活動に含まれますか?

はい、含まれます。ソフトウェア、特許権、商標権といった無形固定資産の取得による支出も、有形固定資産と同様に、長期的に事業へ貢献する資産への投資と見なされ、「投資活動によるキャッシュフロー」にマイナスで記載されます。

Q. 建設仮勘定はキャッシュフローでどう扱いますか?

建設仮勘定への支払いは、支出した時点で「有形固定資産の取得による支出」として投資活動CFに記載します。その後、建物などが完成し、建設仮勘定から本勘定へ振り替える会計処理は現金の動きを伴わないため、キャッシュフロー計算書には影響しません。

Q. 上場企業以外でCF計算書の作成義務はありますか?

いいえ、法律上の作成義務はありません。キャッシュフロー計算書の作成が義務付けられているのは、金融商品取引法の適用を受ける上場企業などです。しかし、非上場の企業にとっても、自社の資金繰りを正確に把握し、金融機関からの融資審査に備える上で非常に有用な資料となるため、自主的な作成が強く推奨されます

まとめ:設備投資のキャッシュフロー計算と分析の要点

本記事では、設備投資がキャッシュフロー計算書の「投資活動によるキャッシュフロー」に与える影響について、計算方法から分析の視点までを解説しました。会計上の利益と実際の現金の動きは異なるため、貸借対照表や損益計算書の数値を調整し、正確な資金の増減を把握することが不可欠です。算出された投資キャッシュフローは、営業キャッシュフローと合わせてフリーキャッシュフローを評価したり、減価償却費と比較して投資スタンスを分析したりすることで、企業の財務状況や成長ステージを多角的に読み解くことができます。まずは自社の財務諸表を確認し、設備投資の内訳やその目的(維持投資か成長投資か)を整理することから始めるとよいでしょう。キャッシュフロー計算書の作成や詳細な分析には専門的な知識が求められるため、不明な点があれば会計士や税理士といった専門家へ相談することをお勧めします。

Baseconnect株式会社
サイト運営会社

本メディアは、「企業が経営リスクを正しく知り、素早く動けるように」という想いから、Baseconnect株式会社が運営しています。

当社は、日本最大級の法人データベース「Musubu」において国内1200万件超の企業情報を掲げ、企業の変化の兆しを捉える情報基盤を整備しています。

加えて、与信管理・コンプライアンスチェック・法人確認を支援する「Riskdog」では、年間20億件のリスク情報をAI処理、日々4000以上のニュース媒体を自動取得、1.8億件のデータベース等を活用し、取引先の倒産・不正等の兆候の早期把握を支援しています。

記事URLをコピーしました