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手形割引の実務|割引料の仕組み・審査基準から不渡りリスクまで解説

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企業の資金繰りにおいて、手形割引は支払期日前の売上を早期に現金化できる有効な手段です。しかし、割引料の仕組みや審査基準を理解せずに利用すると、想定外のコストが発生したり、不渡り時のリスクに対応できない可能性があります。この記事では、手形割引の基本的な仕組みから審査のポイント、銀行と専門業者の違い、さらにはファクタリングとの比較まで、利用を検討する上で不可欠な情報を網羅的に解説します。

目次

手形割引の基本と仕組み

手形割引とは(仕組みの概要)

手形割引とは、支払期日が到来する前の約束手形を、銀行や手形割引業者といった金融機関に買い取ってもらうことで早期に現金化する資金調達手法です。企業間取引で受け取った手形は、現金化までに数ヶ月かかることがあり、この間の資金繰りを補うために利用されます。

現金化する際には、手形の額面金額から「割引料」が差し引かれます。これは、支払期日までの利息に相当する手数料です。法的には手形の「売買」契約ですが、実質的には手形を担保とした「融資」に近い性質を持っています。手形割引は、企業が保有する資産を有効活用し、キャッシュフローを安定させるための重要な手段です。

現金化までの手続きの流れ

手形割引は、金融機関への申し込みから入金まで、いくつかのステップを経て行われます。融資の一種として扱われるため、金融機関による審査が必ず実施されます。

手形割引の基本的な手続き
  1. 申し込み: 割引を希望する手形と、決算書や商業登記簿謄本などの必要書類を金融機関に提出します。
  2. 審査: 金融機関が、手形の振出人(支払人)と割引申込人(自社)双方の信用力を審査します。
  3. 契約・裏書: 審査通過後、契約を締結します。手形の裏面に譲渡の証として署名・捺印(裏書)を行います。
  4. 入金: 手形の額面金額から割引料や取立手数料を差し引いた金額が、指定の口座に振り込まれます。

手形割引料(手数料)の計算方法

手形割引料は、手形の額面金額、割引率(年率)、そして支払期日までの日数に基づいて日割りで計算されます。これは、金融機関が資金を立て替える期間に対する利息としての性格を持つためです。

計算式は以下の通りです。

手形割引料 = 手形額面金額 × 割引率(年率) × 割引実行日から支払期日までの日数 ÷ 365日

例えば、額面1,000万円の手形を、割引率3.0%で支払期日の90日前に割り引く場合、割引料は「1,000万円 × 3.0% × 90日 ÷ 365日 ≒ 73,972円」となります。この他に、金融機関によっては手形1枚あたりの取立手数料が別途かかることもあります。

割引率と審査のポイント

審査で重視される2つの信用力

手形割引の審査では、手形を振り出した「振出人」と、割引を依頼した「申込人」の双方の信用力が厳しく評価されます。これは、金融機関が貸し倒れリスクを避けるために不可欠な手続きです。

審査で評価される信用力
  • 振出人の信用力: 最も重視されるポイントです。振出人の業績や財務状況、過去の決済履歴から、期日に手形が確実に決済されるか(不渡りにならないか)を判断します。上場企業や優良企業が振り出した手形は、信用力が高く評価されます。
  • 申込人の信用力: 手形が万が一不渡りになった場合、申込人は手形を買い戻す義務(遡求権)を負います。そのため、申込人にその買い戻し能力があるか、財務状況や事業の安定性も審査対象となります。

割引率が決まる主な要因

割引率は、金融機関が負うリスクの大きさに応じて変動します。主な要因は以下の通りです。

割引率を左右する主な要因
  • 振出人の信用度: 振出人が上場企業など信用力の高い企業であれば、不渡りリスクが低いため割引率は低くなります。逆に、信用力が低いと判断されれば割引率は高くなります。
  • 支払期日までの期間: 期日までの期間が長いほど、その間に振出人の経営状況が悪化する不確実性が増すため、割引率は上昇する傾向にあります。
  • 依頼先の種類: 銀行は審査が厳しい分、割引率は低めです。一方、手形割引業者は審査が柔軟な代わりに、割引率は高めに設定されています。
  • 申込人と金融機関の取引実績: 長年の取引実績や良好な関係があると、割引率が優遇される場合があります。

審査を有利に進めるための準備と交渉のポイント

審査を円滑に進め、より良い条件を引き出すためには、事前の準備が重要です。金融機関に対し、取引の正当性と手形決済の確実性を客観的な資料で示す必要があります。

審査を有利にするための準備
  • 商取引の証明: 割引を依頼する手形が、正規の商取引に基づいていることを証明するため、請求書や納品書、契約書などを揃えて提出します。
  • 継続的取引の証明: 過去からの継続的な取引がある場合は、入金履歴がわかる預金通帳のコピーなどを提示すると、取引の信憑性が高まります。
  • 信用力の高い手形の選定: 複数の手形を保有している場合は、できるだけ信用力の高い優良企業が振り出した手形を割引に出すのが有利です。

手形割引のメリット

支払期日前の早期資金化

最大のメリットは、数ヶ月先の支払期日を待つことなく、迅速に現金を確保できる点です。これにより、急な仕入代金の支払いや人件費、納税などの資金需要に柔軟に対応できます。特に手形割引業者を利用すれば、最短即日での資金化も可能であり、一時的な資金ショートを回避する上で非常に有効な手段となります。

融資より柔軟な審査基準

一般的な銀行融資と比較して、審査のハードルが低い傾向にあります。通常の融資は申込人自身の財務状況が厳しく審査されますが、手形割引は手形振出人の信用力が重視されるためです。自社が赤字決算や創業間もない状況であっても、信用力の高い企業が振り出した手形であれば、審査を通過できる可能性が高まります。

他の資金調達より低いコスト

ビジネスローンやノンバンクからの借入といった他の資金調達方法に比べ、手数料(割引料)が低い傾向にあります。これは、手形という法的に保全された債権が担保となるため、金融機関にとって貸し倒れリスクが低いためです。特に銀行で利用する場合、割引率は年率数パーセント程度に収まることが多く、コストを抑えた資金調達が可能です。

デメリットと注意すべきリスク

割引料による受取額の減少

手形割引を利用すると、必ず割引料が差し引かれるため、手形の額面金額を満額受け取ることはできません。支払期日までの日数が長かったり、割引率が高かったりすると、その分手取り額は減少します。頻繁な利用は実質的な利益の圧迫につながるため、本当に必要な場面での利用に留まるべきです。

不渡り時の買戻請求権(遡求権)

最大のリスクは、割引に出した手形が不渡りになった場合です。この場合、金融機関は割引を依頼した企業に対し、手形を買い戻すよう請求します(買戻請求権または遡求権)。この請求に応じられないと、割引で調達した資金を返済できず、最悪の場合、連鎖倒産に陥る危険性があります。

手形額面の一部割引は不可

紙の約束手形は、一枚の有価証券として完結しているため、額面の一部だけを分割して割り引くことは原則としてできません。例えば、300万円が必要な時に1,000万円の手形しか保有していなければ、1,000万円全額を割り引く必要があり、不要な700万円分に対しても割引料を支払うことになり、コスト効率が悪くなります。

不渡りリスクに備えるための与信管理と事前対策

不渡りによる連鎖倒産のリスクを避けるためには、日頃からの与信管理が不可欠です。危険な手形を割引に出さない仕組みを社内で構築することが重要です。

不渡りリスクへの備え
  • 取引先の信用調査: 信用調査機関の情報を活用し、取引先の経営状況や支払能力を定期的にチェックします。
  • 社内基準の策定: 経営状態に懸念がある企業からの手形は受け取らない、あるいは割引対象外とするなど、明確な社内ルールを設けます。
  • リスクの高い手形の把握: どの手形に潜在的なリスクがあるかを常に把握し、不測の事態に備えます。

依頼先の選び方と条件の違い

銀行の利用条件と特徴

銀行の手形割引は、割引率が低いという大きなメリットがありますが、その分、審査が厳格で時間を要します。振出人だけでなく申込人自身の財務健全性や取引実績も総合的に評価されるため、誰でも利用できるわけではありません。普段から取引があり、資金調達までに時間的余裕がある企業に向いています。

手形割引業者の利用条件と特徴

手形割引業者は、銀行に比べて審査が柔軟で、スピーディーな現金化を強みとしています。申込人の業績が芳しくなくても、振出人の信用力が高ければ対応してくれる可能性が高いです。ただし、その分、割引率は銀行よりも高く設定されています。緊急の資金需要がある場合や、銀行の審査に通らなかった場合に有効な選択肢です。

どちらを選ぶべきかの判断基準

銀行と手形割引業者のどちらを選ぶかは、資金調達の緊急性、コスト、そして自社の状況を総合的に勘案して決定します。それぞれの特徴を以下の表にまとめます。

項目 銀行 手形割引業者
割引率(コスト) 低い(年率1.5%~5.0%程度) 高い(年率5.0%~20.0%程度)
審査スピード 遅い(数日~1週間程度) 速い(最短即日)
審査の厳しさ 厳しい(振出人と申込人双方を評価) 柔軟(主に振出人を評価)
向いているケース 時間に余裕がありコストを抑えたい場合 緊急で資金が必要な場合、銀行で断られた場合
依頼先の比較(銀行 vs 手形割引業者)

ファクタリングとの違いを比較

対象債権と法的な性質の違い

手形割引は「約束手形」という有価証券を対象とし、法的には手形の売買契約ですが、遡求権があるため実質的には融資に類似した性質を持ちます。一方、ファクタリングは「売掛金(売掛債権)」を対象とし、法的には債権の売買(債権譲渡)にあたります。

償還請求権(遡求権)の有無

両者の最も大きな違いは、償還請求権(遡求権)の有無です。手形割引は原則として償還請求権があり、手形が不渡りになると、利用者が金融機関に返済義務を負います。一方、ファクタリングは償還請求権がない「ノンリコース契約」が一般的で、売掛先が倒産しても利用者が返済義務を負うことはありません。未回収リスクは、手形割引では利用企業が負い、ノンリコース型のファクタリングではファクタリング会社が負います。

手数料と審査対象の違い

手数料と審査の重点も異なります。手形割引は利用者がリスクを負うため手数料(割引率)は比較的低く、審査は振出人と申込人双方の信用力が対象です。ファクタリングは業者がリスクを負うため手数料は高めに設定されますが、審査は主に売掛先の信用力に集中するため、申込人の経営状況が悪くても利用しやすいという特徴があります。

項目 手形割引 ファクタリング
対象債権 約束手形 売掛金(売掛債権)
法的性質 手形の売買契約 債権譲渡(売掛金の売買)
償還請求権 あり(利用者がリスクを負う) なし(業者がリスクを負う)
手数料相場 低い(年率換算) 高い(月率換算)
審査対象 振出人と申込人の両方 主に売掛先
手形割引とファクタリングの比較

手形割引に関するよくある質問

審査に落ちるのはどのような場合ですか?

審査が否決される主な理由は、手形の不渡りリスクや、申込人の買戻し能力に懸念があると金融機関に判断された場合です。

主な審査否決の理由
  • 振出人の業績が著しく悪化している、または不渡り履歴がある。
  • 申込人の財務状況が悪く、買戻し能力がないと判断された(税金滞納など)。
  • 手形の支払期日までの期間が長すぎる。
  • 手形の記載に不備がある、または実態のない「融通手形」と疑われる。

会計処理(仕訳)はどのように行いますか?

手形割引を行った際は、手形という資産の「売却」として会計処理します。割引料は「受取手形売却損」という勘定科目を用いて費用計上するのが一般的です。借方に「当座預金(入金額)」と「受取手形売却損(割引料)」、貸方に「受取手形(額面金額)」を記載します。また、不渡り時の買戻し義務は偶発債務にあたるため、貸借対照表に注記が必要です。

借入金として扱われますか?信用情報への影響は?

会計上、手形割引は原則として借入金として扱われません。資産の売却として処理されるため、貸借対照表の負債は増えず、財務指標を悪化させずに資金調達ができます。また、手形が期日通りに決済される限り、手形割引を利用したことが信用情報に影響することもありません。ただし、手形が不渡りになり買戻し義務を履行できなかった場合は、金融事故として信用情報に記録されます。

2026年の手形廃止後、手形割引はどうなりますか?

政府は2026年度末をめどに紙の約束手形を廃止する方針ですが、手形割引という資金調達の仕組み自体はなくなりません。今後は紙の手形に代わり、「電子記録債権(でんさい)」が主流となります。この電子記録債権も、手形と同様に金融機関で割り引くことが可能であり、資金化の機能は引き継がれていきます。

電子記録債権(でんさい)も割引できますか?

はい、電子記録債権(でんさい)も割引が可能です。 紙の手形よりも利便性が高く、多くのメリットがあります。

電子記録債権(でんさい)割引のメリット
  • 分割割引が可能: 必要な金額だけを債権から分割して割り引くことができ、無駄な手数料を削減できます。
  • 手続きがオンラインで完結: 手形の現物を持ち運ぶ必要がなく、紛失や盗難のリスクがありません。
  • 印紙税が不要: 紙の手形と異なり、印紙を貼る必要がないためコストを削減できます。
  • 事務作業の効率化: 手形の保管や期日管理といった煩雑な事務作業が不要になります。

振出人が小規模事業者や新設法人の場合でも割引は可能ですか?

振出人が小規模事業者や新設法人の場合、銀行での手形割引は難しくなる傾向があります。これらの企業は財務データや過去の実績が乏しく、金融機関が決済能力を正確に判断することが困難なためです。ただし、銀行で断られた場合でも、リスク許容度の高い手形割引専門業者であれば、審査の上で割引に応じてくれる可能性があります。

まとめ:手形割引を賢く利用するための重要ポイント

本記事では、手形割引の仕組みからメリット・デメリット、依頼先の選び方までを解説しました。手形割引は、手形を早期現金化できる迅速な資金調達手段ですが、割引料が発生し、不渡り時には買戻し義務(遡求権)が生じるリスクも伴います。依頼先を選ぶ際は、低コストだが審査が厳しい銀行か、迅速で柔軟だがコストが高い専門業者か、自社の緊急性や信用状況に応じて判断することが重要です。今後は電子記録債権(でんさい)への移行も進むため、新しい決済手段にも対応できるよう準備しておく必要があります。最終的な判断にあたっては、個別の状況が大きく影響するため、必ず取引金融機関や税理士などの専門家にご相談ください。

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