監査法人(会計監査人)の選任手続き|スケジュール・株主総会での決議・登記まで解説
企業の経営判断や法令上の要請により、新たに会計監査人を選任することは、多くの企業にとって重要な経営課題です。特に初めて選任する場合や監査法人を変更する際には、監査役会や取締役会、株主総会といった各機関の役割や、複雑な手続きの流れを正確に把握する必要があります。この記事では、会計監査人を選任するための基礎知識から、具体的な手続き、スケジュール、選任後の実務までを時系列に沿って網羅的に解説します。
会計監査人選任の前提となる基礎知識
会計監査人とは?その役割と職務内容
会計監査人とは、株式会社の計算書類等が法令や会計基準に準拠して適正に作成されているかを、外部の独立した立場から検証し、監査報告を作成する会社の機関です。その職務は、企業の財務情報の信頼性を保証し、株主や投資家、債権者といった利害関係者を保護する重要な役割を担います。
会計監査人は、その職務を遂行するために、会社法によって強力な権限と義務を与えられています。
- 会計帳簿や関連資料を閲覧・謄写する調査権
- 取締役や従業員に対して会計に関する報告を求める報告要求権
- 職務遂行上必要な場合に、子会社の業務や財産の状況を調査する権限
- 取締役の職務執行に関して不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見した場合に、監査役(監査役会設置会社の場合は監査役会)へ報告する義務
このように、会計監査人は単なる書類のチェックに留まらず、適正な企業統治(コーポレート・ガバナンス)を支える外部監視機関として機能します。
会計監査人の設置が義務付けられている会社
会社法に基づき、会計監査人の設置が義務付けられているのは、主に以下に該当する会社です。
- 大会社: 最終事業年度の貸借対照表において、資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上である株式会社
- 監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社: 会社の機関設計上、法律で設置が必須とされている会社
- 定款で任意に設置した会社: 設置義務はないものの、定款の定めによって会計監査人を置くこととした会社
上記に加え、金融商品取引法の適用を受ける上場企業なども、投資家保護の観点から公認会計士または監査法人による監査が義務付けられています。設置義務があるにもかかわらず選任を怠ると、過料が科される可能性があるため注意が必要です。
会計監査人になれる資格要件(公認会計士または監査法人)
会計監査人になることができるのは、公認会計士または監査法人に限定されています。監査法人は、5名以上の公認会計士を社員として設立される法人です。税理士や弁護士といった他の専門家は、会計監査人に就任することはできません。
また、資格があっても、監査の公正性を担保するため、独立性を損なう者は会計監査人になれないと定められています。これを欠格事由といい、以下のようなケースが該当します。
- 公認会計士法の規定により、監査対象会社の計算書類等の監査ができない者
- 監査対象会社やその子会社から、監査業務以外の業務で継続的な報酬を受けている者
- 監査対象会社の役員等の配偶者
- 業務停止処分を受け、その期間が終了していない者や監査法人
会計監査人には、資格だけでなく、実質的な独立性が厳しく求められます。
選任手続きに関わる主要な機関とそれぞれの役割
会計監査人の選任手続きでは、監査役会、取締役会、株主総会がそれぞれ独立した役割を担い、相互に牽制することでプロセスの透明性を確保しています。
| 機関 | 主な役割 |
|---|---|
| 監査役会 | 株主総会に提出する会計監査人の選任・不再任・解任に関する議案の内容を決定する権限を持つ |
| 取締役会 | 監査役会が決定した議案に基づき、株主総会の招集と議案の提出を正式に決議する |
| 株主総会 | 会社の最高意思決定機関として、普通決議によって会計監査人を最終的に選任する |
以前は取締役会が議案を決定していましたが、監査対象である執行側が監査人を選ぶことの利益相反を防ぐため、監査役会が議案決定権を持つように会社法が改正されました。取締役会は、監査役会が決定した議案の内容を変更することはできません。
監査法人(会計監査人)選任の具体的な手続きとスケジュール
ステップ1:監査法人候補の選定と事前交渉
監査法人選任の最初のステップは、自社の事業規模や業種、上場準備などの状況に適した候補を探し、事前に交渉することです。近年は監査を引き受ける法人が見つかりにくい「監査難民」と呼ばれる状況もあるため、スケジュールに十分な余裕を持って早めに動き出すことが重要です。
一般的には複数の監査法人に提案を依頼し、各法人から監査方針や体制、監査報酬の見積もりなどの提示を受けます。監査法人は契約締結の可否を判断するため、企業の内部管理体制などを確認する予備調査(ショートレビュー)を実施します。
企業側はこの段階で、監査法人の専門性や実績、担当者との相性などを比較検討し、候補を絞り込んで就任の内諾を得るための調整を進めます。
監査法人候補の探し方と実務的な選定ポイント
監査法人候補を探す際には、大手から中小まで幅広く検討するのが現実的です。具体的な探し方としては、以下のような方法が挙げられます。
- 日本公認会計士協会が公表している監査事務所の名簿を参照する
- 主幹事証券会社やベンチャーキャピタル、取引金融機関に紹介を依頼する
- 顧問弁護士や顧問税理士などの専門家から情報を得る
候補を比較検討する際は、以下の点を実務的な選定ポイントとすることが推奨されます。
- 監査実績: 特に自社と同業種や同規模の会社の監査経験が豊富か
- 監査報酬: 見積もりの妥当性と明確な根拠が示されているか
- コミュニケーション: 担当チームとの意思疎通が円滑に行えるか
- 対応力: 意思決定のスピード感や、自社の成長ステージに応じた柔軟な対応が期待できるか
ステップ2:監査役会による選任議案の内容決定
候補となる監査法人から就任の内諾を得たら、次に監査役会が株主総会に提出する選任議案の内容を正式に決定します。これは、会計監査人の独立性を確保するための、監査役会に与えられた重要な法的権限です。
監査役会は、経営陣から提案された候補者について、選定プロセスが適切であったかを確認するとともに、独自の視点で評価を行います。審議では、主に以下の項目を総合的に判断します。
- 独立性: 欠格事由に該当せず、実質的な独立性が保たれているか
- 専門性: 企業の事業内容を理解し、適切な監査を実施できる専門知識や経験を有しているか
- 品質管理体制: 監査法人内部の品質管理体制が有効に機能しているか
- 監査報酬の相当性: 提示された監査報酬が、監査の品質を確保する上で妥当な水準か
監査役会で可決された議案の内容は、取締役会へ通知されます。
ステップ3:取締役会による株主総会への議案提出決議
監査役会からの通知を受け、取締役会は株主総会の招集と、会計監査人選任議案の提出を正式に決議します。この手続きにおける取締役会の役割は、監査役会が決定した議案をそのまま株主総会に上程することです。
取締役会は、監査役会が決定した候補者を変更したり、議案の提出自体を拒否したりすることはできません。取締役会決議では、株主総会の開催日時や場所を決定し、招集通知に同封する株主総会参考書類の内容を承認します。この決議を経て、株主への招集通知の発送準備が進められます。公開会社の場合、株主総会の2週間前までに招集通知を発送する必要があるため、それに間に合うようスケジュールを管理します。
ステップ4:株主総会における選任決議
会計監査人の選任は、株主総会の普通決議によって最終的に確定します。普通決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数が出席し、その出席株主の議決権の過半数の賛成によって成立します。
株主総会の場では、監査役会が決定した選任理由が、株主の重要な判断材料となります。特に監査法人を交代する場合には、交代の必要性や新任候補者の適格性について株主から質問が出る可能性があるため、監査役は合理的な説明ができるよう準備しておく必要があります。
選任議案が可決されると、その時点で会計監査人の選任の効力が発生します。この決議内容は、議事録に正確に記録されなければなりません。
ステップ5:就任承諾書の取得と選任登記
株主総会での選任決議後、選任された公認会計士または監査法人から就任承諾書を取得します。会社による選任の意思表示に対し、候補者が就任を承諾することで、両者間の委任契約が正式に成立します。
次に、法務局で選任登記の手続きを行います。会計監査人の氏名や名称は登記事項であり、変更が生じた日から2週間以内に登記申請を行う必要があります。この期限を過ぎると登記懈怠となり、代表者に過料が科されるおそれがあるため、迅速な対応が不可欠です。
登記申請には、主に以下の書類が必要となります。
- 登記申請書
- 選任を決議した株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 資格を証明する書面(監査法人の登記事項証明書や公認会計士の登録証明書など)
登記が完了すると、対外的に新しい会計監査人が公示され、一連の選任手続きが完了します。
会計監査人選任後の主要な実務
選任後の監査契約締結と社内連携体制の構築
会計監査人の選任手続きが完了した後、会社は会計監査人との間で正式な監査契約を締結します。この契約書には、監査の範囲やスケジュール、監査報酬の額と支払条件などが具体的に記載されます。
契約締結と並行して、監査が円滑に進むよう社内の連携体制を構築することも重要です。経理部門を中心に、会計監査人が要求する資料を迅速に提供できる仕組みを整えるほか、監査役会と会計監査人が定期的に協議する場を設け、監査計画やリスク認識を共有する体制を確立します。これにより、監査の品質と効率性の向上が期待できます。
会計監査人の任期と再任の手続き
会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと定められています。つまり、任期は原則1年です。
ただし、会社法には自動再任制度が設けられており、定時株主総会において会計監査人を再任しない、または別の会計監査人を選任するといった別段の決議がなされなかった場合、現任の会計監査人が再任されたものとみなされます。
- 再任のための株主総会決議は不要だが、監査役会は毎期、現任会計監査人の再任の適否を審議する義務がある
- 監査の品質等に問題があると監査役会が判断した場合、不再任の議案を提出することができる
- 自動再任であっても、定時株主総会終結後2週間以内に法務局での重任登記は毎年必要となる
監査報酬の決定方法と監査役会の同意
会計監査人の監査報酬は、監査計画に必要な工数などに基づいて、取締役が決定します。しかし、その決定にあたっては、監査役(または監査役会)の同意を得なければならないと会社法で定められています。
この規定は、取締役が報酬額を不当に低く設定して監査の品質を低下させたり、逆に過大な報酬を支払って監査人の独立性を損なったりすることを防ぐための重要な仕組みです。監査役会は、報酬額の妥当性を判断するにあたり、以下のような多角的な視点から精査を行います。
- 監査計画の内容や監査日数と報酬額のバランス
- 同規模・同業他社の報酬水準との比較
- 監査業務とコンサルティング等の非監査業務の報酬比率
- 監査法人から提示された報酬の具体的な積算根拠
監査役会の同意を得た後、取締役会が報酬額を正式に決定し、監査契約に反映されます。
会計監査人の選任に関するよくある質問
株主総会で会計監査人の選任議案が否決された場合、どうすればよいですか?
万が一、株主総会で会計監査人の選任議案が否決された場合、会計監査人が不在の状態(欠員)となります。特に設置義務のある会社では法令違反となるため、速やかな対応が必要です。
原則として、会社は遅滞なく臨時株主総会を招集し、新たな候補者を選任するための決議を行わなければなりません。ただし、臨時株主総会の開催には時間がかかるため、その間の暫定的な措置として、裁判所に一時会計監査人の選任を申し立てることができます。一時会計監査人は、後任者が正式に選任されるまでの間、会計監査人としての職務を代行します。
監査法人を変更(交代)する場合も、新規選任と同じ手続きですか?
はい、監査法人を変更する場合の手続きも、基本的には新規選任の場合と同じです。監査役会が後任候補を選んだ上で選任議案の内容を決定し、取締役会が株主総会への提出を決議、最終的に株主総会の普通決議で選任するという流れになります。
ただし、変更特有の留意点も存在します。
- 現任の会計監査人を再任しない旨(不再任)の議案も、後任者の選任議案とあわせて株主総会に提出する必要がある
- 新旧の監査法人間で、過去の監査調書などの情報を円滑に引き継げるよう、会社が調整役を担う
- 株主総会参考書類や事業報告などで、交代に至った具体的な理由を株主に対して明確に説明する責任がある
会計監査人の選任登記は、いつまでに行う必要がありますか?
会計監査人の選任登記は、就任(または重任)の日から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する法務局へ申請する必要があります。「就任の日」とは、株主総会で選任が決議され、かつ本人が就任を承諾した日を指します。
この登記義務は、新たに選任された場合だけでなく、任期満了に伴い自動再任制度によって重任した場合も同様に発生します。毎年、定時株主総会の終結後に登記が必要です。
期限内に登記申請を怠ると「登記懈怠」となり、会社の代表者個人に対して裁判所から100万円以下の過料が科される可能性があります。会社の信用にも関わるため、スケジュール管理を徹底し、速やかに手続きを行うことが重要です。
まとめ:会計監査人の選任は、計画的なスケジュールと各機関の連携が成功の鍵
本記事では、会計監査人の選任に関する基礎知識から、具体的な手続き、スケジュール、選任後の実務までを解説しました。会計監査人の選任は、企業の透明性と信頼性を担保する重要な手続きであり、監査役会が議案決定権を持つなど、各機関の役割が会社法で厳密に定められています。候補先の選定から株主総会での決議、そして選任後の登記まで、一連のプロセスには複数のステップと法的な期限が存在するため、計画的なスケジュール管理が不可欠です。これから会計監査人を選任される担当者の方は、まず自社の状況に適した監査法人候補のリストアップに着手し、監査役会や取締役会と連携しながら、余裕を持ったスケジュールで手続きを進めていきましょう。

