自己破産で給与差し押さえはいつ止まる?解除までの流れと期間を解説
給与が差し押さえられ、将来への不安と精神的なストレスで追い詰められている方もいらっしゃるかもしれません。借金問題を法的に解決し、生活を立て直すための手段として自己破産があります。この記事では、自己破産の手続きを通じて、給与差し押さえをいつ、どのように解除できるのか、その具体的な仕組みや流れ、かかる期間について詳しく解説します。
自己破産で給与差し押さえが停止・失効する仕組み
「破産手続開始決定」で差し押さえは一旦「中止」される
裁判所に自己破産を申し立て、支払不能状態にあると認められると「破産手続開始決定」が出されます。この決定により、進行中の給与差し押さえなどの強制執行は法的に影響を受けます。
手続きの種類が「同時廃止事件」の場合、開始決定が出ると差し押さえは一旦「中止」されます。中止とは、差し押さえの効力自体は残ったまま、債権者が給与を取り立てる行為だけが停止される状態です。この段階では、勤務先は差し押さえ対象分の給与を債権者にも本人にも支払えず、社内で保管するか法務局へ供託することになります。したがって、破産手続開始決定が出ても、すぐに給与の手取り額が元に戻るわけではありません。
「免責許可決定の確定」で差し押さえの効力が「失効」する
同時廃止事件において差し押さえが中止された後、給与を全額受け取るためには「免責許可決定の確定」が必要です。免責許可決定とは、裁判所が借金の支払義務を免除する決定です。この決定が官報に掲載され、一定期間が経過して債権者からの不服申し立てがなければ「確定」します。
この免責許可決定の確定をもって、中止されていた差し押さえの効力は完全に消滅し「失効」します。失効すると、勤務先が保管していたり法務局に供託されていたりした給与の法的な拘束がなくなり、本人に支払われます。これ以降の給与も、全額を受け取れるようになります。実務上は、免責許可決定の確定を証明する書類を執行裁判所に提出し、差し押さえ命令を取り消してもらう手続きが必要です。
手続きの種類(同時廃止・管財事件)による差押解除プロセスの違い
自己破産には、財産が少ない場合に適用される「同時廃止」と、破産管財人が選任される「管財事件」があり、差し押さえ解除のプロセスが大きく異なります。
| 項目 | 同時廃止事件 | 管財事件 |
|---|---|---|
| 開始決定時の効力 | 差押えは「中止」される | 差押えは「失効」する |
| 差押えの失効時期 | 免責許可決定の確定時(開始決定から約3ヶ月後) | 破産手続開始決定と同時 |
| 給与の全額受取 | 免責確定後、留保分も含めて受け取れる | 開始決定後、将来の給与から全額受け取れる |
| 特徴 | 手続きが比較的簡素で費用が安い | 費用は高額だが、差押えを迅速に解除できる |
管財事件では、破産管財人が財産を管理するため、個別の債権者による強制執行は認められず、開始決定と同時に差し押さえが失効します。これにより、同時廃止よりも早く生活の立て直しに着手できるメリットがあります。
注意点:税金や養育費など非免責債権による差し押さえの扱い
自己破産をしても、支払い義務が免除されない「非免責債権」が存在します。これらの債権に基づく差し押さえは、自己破産の手続きをしても停止・失効しない、または扱いが異なるため注意が必要です。
- 税金、国民健康保険料、年金保険料などの公租公課
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 故意または重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 養育費や婚姻費用などの扶養義務に関する請求権
特に税金滞納による差し押さえ(滞納処分)は、破産手続とは別に進められるため、破産手続開始決定が出ても効力は失われません。これらの非免責債権については、自己破産とは別に、役所との分割納付交渉や家庭裁判所での調停など、個別の対応が必要です。
弁護士への依頼から自己破産申立てまでの具体的なステップ
ステップ1:弁護士への相談と正式な依頼
自己破産手続きの第一歩は、弁護士への相談です。相談時には、借入先、借金総額、収入、財産状況などを正直に伝え、自己破産が最善の方法か、他の債務整理手続きが適しているかを判断してもらいます。手続きに伴うデメリット(資格制限など)についても説明を受け、方針と費用に納得できれば委任契約を結び、正式に依頼します。多くの事務所では無料相談や費用の分割払いに対応しているため、資金に不安がある場合でもまずは相談することが重要です。
ステップ2:受任通知の送付で債権者からの直接請求を停止
弁護士に正式に依頼すると、弁護士は各債権者へ「受任通知」を発送します。この通知が債権者に届くと、貸金業法に基づき、債務者本人への直接の電話や郵便による督促が禁止されます。これにより精神的な負担が軽減され、返済も一旦ストップします。この期間を利用して、弁護士費用や裁判所費用の積み立て、生活の再建を進めます。ただし、受任通知はあくまで督促を止めるだけで、訴訟や給与差し押さえ自体を法的に防ぐ効力はありません。
ステップ3:必要書類の収集と自己破産申立書の作成
次に、裁判所に提出する申立書と添付書類の準備に取りかかります。支払い不能であることを客観的に示すため、多数の書類が必要です。準備には通常2〜3ヶ月程度かかりますが、差し押さえ解除を急ぐ場合は迅速な対応が求められます。書類に不備があると免責が認められないリスクもあるため、弁護士の指示に従い、正確な書類を収集することが不可欠です。
- 住民票、戸籍謄本
- 収入に関する資料(給与明細、源泉徴収票など)
- 財産に関する資料(預金通帳の写し、保険証券、車検証など)
- 借金に関する資料(債権者一覧表、契約書など)
- 家計全体の状況がわかる資料(家計簿など)
ステップ4:管轄の地方裁判所へ自己破産を申立て
必要書類がすべて揃い、申立費用(収入印紙、郵便切手、予納金など)の準備ができたら、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に自己破産を申し立てます。申立書が受理されると事件番号が付与され、正式な裁判手続きが始まります。弁護士が代理人となっている場合、迅速に手続きを進めるための「即日面接」制度を利用できる裁判所もあります。この申し立て後、裁判所の審査を経て「破産手続開始決定」が出されることで、給与差し押さえを止めるための法的な効力が発生します。
【手続き別】自己破産申立てから給与差し押さえ解除までの流れ
同時廃止事件の場合:破産手続開始決定から差押解除までのプロセス
同時廃止事件の場合、以下の流れで給与差し押さえが解除されます。
- 裁判所が破産手続開始決定を出し、給与差し押さえが「中止」される。
- 勤務先は差し押さえ相当額を社内留保または法務局へ供託する。
- 弁護士が執行裁判所に対し、破産手続が開始された旨を報告(上申)することがあります。
- 約2〜3ヶ月後、裁判所が免責許可決定を出す。
- 免責許可決定が官報に掲載され、約1ヶ月後に「確定」する。
- 免責確定をもって、差し押さえの効力が「失効」する。
- 弁護士が執行裁判所に対し、差押命令の取消を上申し、会社への通知を促します。
- 会社に留保されていた給与が本人に支払われ、以降の給与も全額受け取れるようになる。
管財事件の場合:破産手続開始決定から差押解除までのプロセス
管財事件の場合、より迅速に差し押さえが解除されます。
- 裁判所が破産手続開始決定を出し、破産管財人を選任する。
- 開始決定と同時に、給与差し押さえの効力が「失効」する。
- 破産管財人が執行裁判所に差押命令の取消を上申する。
- 執行裁判所から会社へ差押命令の取消通知が送付される。
- 会社は通知を受け取り次第、給与の全額支払いを再開する。
このように、管財事件では開始決定後すぐに給与を満額受け取れるようになります。ただし、開始決定前にすでに支払われた分は取り戻せません。
強制執行中止命令の上申が必要となるケースとは
自己破産を申し立ててから破産手続開始決定が出るまでには、数週間から1ヶ月程度かかることがあります。この間に給料日が来て差し押さえが実行されると生活に困窮するおそれがあります。このような緊急時に利用できるのが「強制執行中止命令」の申し立てです。
これは、開始決定を待たずに、裁判所の命令で強制執行を一時的に停止させる制度です。申し立てが認められれば、開始決定前でも給与が債権者に渡るのを防ぎ、会社に留保させることができます。ただし、これは例外的な措置であり、申し立てには緊急の必要性を裁判所に説明する必要があります。
給与差し押さえが解除されるまでにかかる期間の目安
弁護士への依頼から自己破産申立てまでの期間
弁護士に相談・依頼してから、裁判所へ自己破産を申し立てるまでの期間は、通常2ヶ月から6ヶ月程度です。この期間は、必要書類の収集にかかる時間や、弁護士費用・裁判所費用の積立状況によって変動します。特に、勤務先に発行を依頼する書類(退職金見込額証明書など)は時間がかかる場合があります。差し押さえを急いで止めたい場合は、弁護士と協力し、迅速に書類を準備することが重要です。
自己破産申立てから差押中止(破産手続開始決定)までの期間
裁判所に自己破産を申し立ててから、破産手続開始決定が出るまでの期間は、通常おおむね1週間から1ヶ月程度です。書類に不備がなければ数日で決定が出ることもありますが、裁判所の審査状況や追加資料の提出を求められた場合は期間が長引きます。この期間は差し押さえが継続するため、申し立て前の準備を万全に行い、スムーズな審査を促すことが早期解決の鍵となります。
破産手続開始決定から差押解除(失効)までの期間
破産手続開始決定から、差し押さえが完全に解除(失効)されるまでの期間は、手続きの種類によって大きく異なります。
- 管財事件の場合:開始決定と同時に失効するため、実質0日です。破産管財人による事務手続きを経て、速やかに給与の全額支払いが再開されます。
- 同時廃止事件の場合:免責許可決定が確定するまで効力は失効しません。開始決定から失効まで約3ヶ月から4ヶ月かかります。この間、給与の一部は会社に留保され続けることになります。
自己破産と勤務先の関係(給与の扱いや解雇リスク)
破産手続開始決定後、給与は全額受け取れるのか
はい、原則として全額受け取れます。破産手続開始決定後に労働の対価として発生する給与は「新得財産」と呼ばれ、破産財団には含まれません。これは、破産者の生活再建を保障するためのルールです。したがって、差し押さえが解除されれば、将来の給与は全額を自由に使うことができます。
ただし、開始決定時にすでに発生している未払いの給与は破産財団に含まれる可能性がありますが、その場合でも法律で定められた差押禁止範囲(手取り額の4分の3など)は保護されます。
会社に自己破産の事実が伝わるタイミングと経緯
自己破産の事実が勤務先に伝わるのは、主に以下のようなケースです。
- 債権者から給与差し押さえの申立てがあり、裁判所から会社に通知が届いた場合
- 会社から借金(社内貸付など)をしており、会社が債権者として手続きに含まれる場合
- 退職金見込額証明書の発行を会社に依頼した場合
- 官報に掲載された氏名・住所を会社関係者が見た場合
給与差し押さえを受けている時点で、すでに会社には借金問題の事実が伝わっている状態といえます。
給与差し押さえや自己破産を理由とする解雇の可否
自己破産や給与差し押さえを理由として、会社が従業員を解雇することは法律上認められていません。これらは従業員の私生活上の問題であり、業務遂行能力とは直接関係がないため、解雇は「客観的に合理的な理由を欠く」として解雇権の濫用(労働契約法第16条)にあたり、無効となる可能性が極めて高いです。
ただし、一部の職業では、破産手続中の一定期間、資格が制限されることがあります。その場合は休職や配置転換などの対応が必要になる可能性があります。
- 弁護士、税理士、司法書士などの士業
- 警備員
- 生命保険募集人、貸金業者の役職員
差し押さえ中止・失効後、会社(経理担当者)への説明と連携のポイント
差し押さえが法的に解除された後は、速やかに給与支払いを正常な状態に戻してもらうため、会社(経理担当者)との連携が必要です。弁護士から、執行裁判所が発行した「差押命令取消決定書」などの写しを受け取り、会社に提出します。その際、これまでの迷惑を詫びつつも、法的手続きが完了した旨を事務的に、かつ丁寧に伝えることが円滑なコミュニケーションのポイントです。弁護士を通じて、いつ頃裁判所から正式な通知が届くかを事前に伝えておくと、会社側も安心して対応できます。
自己破産による給与差し押さえに関するよくある質問
給与差し押さえが解除された後、会社にどのような手続きをすればよいですか?
差し押さえが「失効」すると、執行裁判所から会社(第三債務者)へ「差押命令取消決定」の通知が送られます。基本的にはこの通知をもって会社の事務処理が進みますが、念のため本人や代理人弁護士からも会社に一報を入れるとスムーズです。特に、同時廃止事件で給与が会社に留保されていた場合は、その留保分の支払いを明確に依頼する必要があります。もし会社が法務局へ供託していた場合は、弁護士のサポートを受けながら供託金の還付手続きを行います。
給与だけでなく、ボーナスや退職金も差し押さえの対象になりますか?
はい、ボーナス(賞与)や退職金も給与と同様に差し押さえの対象となります。差し押さえられる金額の上限は、原則として手取り額の4分の1までです。ただし、養育費や婚姻費用といった扶養義務に関する債務の場合は、例外的に手取り額の2分の1まで差し押さえられる可能性があります。また、自己破産手続きの中では、退職金見込額の一部が資産(破産財団)とみなされ、債権者への配当に充てられる場合があります。
弁護士に依頼せず、自分で自己破産の手続きを進めて差押を解除できますか?
法律上は可能ですが、給与差し押さえを解除する目的で個人が手続きを進めるのは極めて困難です。専門家である弁護士に依頼しない場合、以下のようなデメリットがあります。
- 受任通知が送付されないため、申立準備中も債権者からの督促が続く。
- 差し押さえを止めるための複雑な裁判所手続きをすべて自分で行う必要がある。
- 書類の不備で手続きが遅れ、その間も差し押さえが続いてしまう。
- 費用が安く済む「少額管財」制度は、弁護士代理が原則のため利用できない。
迅速かつ確実に差し押さえを解除するためには、弁護士への依頼が事実上必須といえます。
給与差し押さえ中に会社を退職した場合、差し押さえはどうなりますか?
給与差し押さえ中に会社を退職すると、その会社からの給与支払いがなくなるため、差し押さえの効力は一旦停止します。ただし、これは問題の先延ばしにすぎません。退職金が支払われる場合は、その退職金が差し押さえの対象となります。また、借金自体はなくならないため、債権者は新しい勤務先を調査して、再び差し押さえを申し立ててくる可能性があります。退職は根本的な解決にはならず、自己破産などの債務整理手続きを検討することが重要です。
まとめ:自己破産で給与差し押さえを解除し、生活再建の第一歩を
給与差し押さえは、自己破産手続きによって法的に解除することが可能です。裁判所に申し立て、「破産手続開始決定」が出されることで差し押さえは停止され、最終的に「免責許可決定」が確定することでその効力は完全に失われます。手続きには財産状況に応じて「同時廃止」と「管財事件」があり、後者の方がより迅速に差し押さえを解除できる特徴があります。ただし、税金や養育費など一部の債権は自己破産後も支払い義務が残るため注意が必要です。複雑な手続きを正確かつ迅速に進めるためには、弁護士への相談が不可欠です。まずは専門家に現状を相談し、生活再建に向けた具体的な一歩を踏み出すことを検討しましょう。

