取締役は個人再生をしても辞任不要?役員の地位を守る法的知識
会社の取締役が個人再生を検討する際、役員の地位を失うのではないかと不安に感じる方は少なくありません。個人再生は、自己破産とは異なり、原則として役員の地位を維持したまま個人の債務を整理できる可能性があります。この記事では、取締役が個人再生を行う際の法的地位、会社との金銭関係の整理、手続き上の注意点について詳しく解説します。
個人再生と取締役の地位
取締役の地位は法的に維持される
個人再生の手続きを申し立てても、取締役の地位は法的に維持されます。自己破産とは異なり、個人再生は民法上の委任契約の終了事由に含まれていないためです。したがって、会社の事業が継続している限り、経営者は代表取締役や取締役として引き続き業務を行えます。 経営者個人の負債を整理しながら会社の経営を立て直したい場合、役員の地位を失わずに済む点は個人再生の大きなメリットです。
| 手続き | 取締役の地位 | 根拠 |
|---|---|---|
| 個人再生 | 維持される | 民法の委任契約終了事由に該当しないため |
| 自己破産 | 一度退任となる | 民法の規定により委任契約が当然に終了するため |
会社法の欠格事由に該当しない根拠
個人再生手続きの開始は、会社法が定める取締役の欠格事由には該当しません。会社法で取締役になれない条件は厳格に定められており、個人の債務整理手続きは対象外とされています。 かつての法律では破産者が欠格事由とされていましたが、法改正により削除されました。ましてや、債務を減額して返済を続ける個人再生は、会社法上の資格を制限する理由には全くならないのです。
- 法人
- 成年被後見人または被保佐人
- 会社法などの法令に違反し、刑の執行を終えてから2年を経過しない者
自己破産における資格制限との違い
自己破産には一部の職業に就けなくなる「資格制限」がありますが、個人再生には資格制限が一切ありません。自己破産は借金をゼロにする強力な手続きである反面、手続き中は一時的に特定の資格や職業が制限されます。一方、個人再生は返済を継続する手続きであるため、そのような制限は不要とされています。 この違いにより、資格制限の対象となる職業に就いている経営者にとっては、事業を継続しながら生活再建を図れる個人再生が有効な選択肢となります。
| 手続き | 資格制限 | 制限される職種の例 |
|---|---|---|
| 個人再生 | 一切なし | (制限される職種はない) |
| 自己破産 | あり(手続き中) | 弁護士、税理士、警備員、生命保険募集人など |
会社との金銭関係の整理
会社の連帯保証人になっている場合
経営者個人が会社の連帯保証人になっている場合、その保証債務も個人再生の手続きに含めて整理する必要があります。個人再生はすべての債権者を平等に扱うという原則があり、特定の債務だけを手続きから除外することは認められません。
- 会社の連帯保証債務も個人再生の整理対象に含める必要がある。
- 特定の債務だけを除外することは債権者平等の原則に反するため認められない。
- 連帯保証債務を含めた負債総額が5,000万円以下である必要がある(住宅ローンを除く)。
会社の借入額が大きく、保証債務を含めた総額が5,000万円を超えると個人再生を利用できない可能性があるため、事前の正確な負債額の把握が重要です。
会社からの借入金の法的な扱い
経営者個人が自身の会社からお金を借り入れている場合、その会社は法的に「債権者」として扱われます。個人と法人は別人格であり、たとえ経営者であっても会社との金銭の貸し借りは厳格な債権債務関係となるからです。 この借入金も個人再生の申告対象となり、減額された上で返済計画に組み込まれます。会社への返済だけを優先すると「偏頗弁済」という禁止行為にあたるため注意が必要です。手続きが始まると、裁判所から会社宛てに債権者としての通知が送付されます。
役員報酬を継続的収入とする要点
個人再生を認めてもらうには、役員報酬が「将来にわたって継続的または反復して収入を得る見込み」があると裁判所に判断されることが不可欠です。個人再生は、原則3年間、減額された借金を分割返済する手続きであるため、安定した返済能力の証明が求められます。
- 会社の事業状況が安定しており、将来にわたって収入が見込めること。
- 役員報酬が毎月、定められた日に、定められた金額で支払われている実績があること。
- 提出する返済計画(再生計画案)が、その収入の範囲内で無理なく履行可能であること。
会社の業績悪化により報酬の支払いが不安定な場合、履行可能性がないと判断される恐れがあるため、申し立て前に財務状況を整えておくことが重要です。
再生手続における会社との利益相反リスクと注意点
経営者が自身の会社を債権者として個人再生を行う場合、法的な利益相反関係が生じます。なぜなら、経営者個人は「借金を減らしたい」立場、会社は「貸したお金を全額回収したい」立場となり、両者の利害が完全に対立するからです。 この状況で、経営者が会社の代表者として自身の借金減額に同意することは、会社に対する忠実義務に反するため認められません。このようなケースでは、会社の利益を守るために裁判所が特別代理人を選任するなど、特別な手続きが必要になることがあります。
手続き進行上の特有の注意点
個人再生委員が選任されやすい理由
経営者の個人再生では、多くの場合、裁判所によって個人再生委員が選任されます。これは、経営者の財産関係が複雑で、客観的な第三者による厳格な調査が必要と判断されるためです。
- 個人の財産と会社の資産が混同されやすく、財産調査が複雑になるため。
- 保有する自社株式の価値評価など、専門的な判断が必要になるため。
- 会社の連帯保証債務を含めると負債総額が高額になる傾向があるため。
- 役員報酬という収入の安定性や返済計画の実現可能性を厳格に審査する必要があるため。
個人再生委員が選任されると、監督・調査の対価としておおむね数十万円の予納金が追加で必要になるため、費用面も考慮しておく必要があります。
会社に知られず進めることの現実性
経営者が、自身が経営する会社に一切知られずに個人再生を進めることは現実的に極めて困難です。手続きの過程で、会社の協力や書類の提出が不可欠となる場面が必ず出てくるからです。
- 安定収入の証明として、役員報酬に関する書類の提出が必要になるため。
- 会社から借入金がある場合、会社が債権者として扱われ、裁判所から通知が送付されるため。
- 保有する自社株式の資産価値を評価するため、会社の決算書の提出が必要になるため。
他の役員や経理担当者がいる場合、これらの対応を一人で隠し通すことは不可能です。トラブルを避けるためにも、関係者には事前に事情を説明しておくことが賢明です。
法人破産も同時に行う場合との違い
会社の経営が行き詰まり法人破産を選択する際に、経営者個人が個人再生を選ぶことも可能です。ただし、両者は手続きの目的が大きく異なります。 法人破産は会社を清算して消滅させる手続きですが、個人再生は経営者個人の生活を再建するための手続きです。例えば、住宅ローン返済中の自宅を残したい経営者が、会社は破産させ、個人は再生手続きを選ぶケースがあります。
| 項目 | 法人破産 | 個人再生(経営者個人) |
|---|---|---|
| 目的 | 会社の資産・負債を清算し、法人格を消滅させる | 個人の負債を減額し、経済生活の再生を図る |
| 対象 | 会社(法人) | 経営者(個人) |
| 主な動機 | 事業継続が困難 | 住宅ローン返済中の自宅などを守りたい場合 |
この二つを同時に進める場合、法人の清算価値の算定などが複雑に絡み合うため、高度な専門知識が求められます。
金融機関や取引先に知られた場合の対外的な説明ポイント
個人再生の手続きをとると官報に掲載されるため、金融機関や取引先に知られる可能性があります。その際は、個人の問題と法人の経営を切り離して、論理的に説明することが重要です。
- 個人再生は経営者個人の債務整理であり、法人の経営とは切り離された問題であること。
- 会社の財産は保全されており、事業の継続性に影響はないことを客観的データで示すこと。
- 経営者個人の経済問題が解決することで、より事業に専念できる環境が整ったと説明すること。
誠実かつ迅速な対応で、個人の信用問題が会社の信用不安に発展しないよう努めることが不可欠です。
再生後の経営とキャリア
再生計画が会社経営に与える影響
経営者個人が再生計画の認可を受けても、法人としての会社経営に直接的な法的影響は生じません。法人と個人は別人格であるため、個人の債務整理が法人の事業活動や契約関係を制限することはないからです。 会社の事業はこれまで通り継続でき、経営者も代表取締役として指揮を執り続けられます。ただし、個人としては再生計画に基づく返済義務を負うため、役員報酬の中から計画的に返済資金を確保していく自己管理が強く求められます。
役員の再任や退任の自由度
個人再生手続きの前後を問わず、役員の再任や退任は会社法のルールに従って自由に行うことができます。前述の通り、個人再生は役員の欠格事由に該当しないため、法的な身分制限は一切受けません。 任期満了に伴う再任決議や、自らの意思による辞任など、他の役員と全く同じ条件で手続きを進めることが可能です。経営者は自身の債務整理に縛られることなく、会社の状況に応じた柔軟な判断ができます。
新会社設立や役員就任の可否
個人再生の手続き中や完了後であっても、新たに会社を設立したり、他の会社の役員に就任したりすることは法的に認められています。個人再生は、職業選択の自由や起業する権利を制限するものではありません。 発起人として出資し、登記を済ませれば新法人を設立できます。ただし、手続き中に多額の出資を行うと財産隠しを疑われる可能性があるため、タイミングについては弁護士などの専門家と相談し、慎重に進める必要があります。
信用情報への影響が法人融資や契約に及ぼす範囲
個人再生を行うと、信用情報機関に事故情報が登録されます(いわゆるブラックリスト)。この情報は、法人としての新規融資や契約に悪影響を及ぼす可能性が高いです。 中小企業の場合、法人の信用力と代表者個人の信用力は一体で審査されることが多いためです。具体的には、代表者が連帯保証人になれないことで銀行融資を断られたり、法人名義のクレジットカードやリース契約の審査に通りにくくなったりします。再生後は、金融機関からの資金調達に頼らない経営計画が重要になります。
よくある質問
保有する自社株式はどうなりますか?
保有する自社株式が没収されることはありません。しかし、その株式の資産価値が再生計画の返済額に影響します。 個人再生には、自身が保有する財産の総額(清算価値)以上の金額は返済しなければならないという「清算価値保障の原則」があります。例えば、自社株式の評価額が2,000万円であれば、法律上の基準で計算した最低弁済額がそれ以下であっても、最低2,000万円を返済する必要があります。非上場株式の評価は専門的であり、事前に正確な価値を把握しておくことが重要です。
役員報酬減額時、返済は可能ですか?
はい、可能です。裁判所が重視するのは収入額の多寡ではなく、減額後の収入で再生計画を最後まで履行できるかという「履行可能性」です。 例えば、役員報酬が減額されたとしても、家計を見直すことで再生計画で定められた月々の返済額を安定的に捻出できることを家計簿などで証明できれば、手続きは認められる可能性があります。ただし、減額幅が大きく生活費すら賄えないような状況では、履行不可能と判断されるリスクもあります。
再生中に新たな連帯保証人になれますか?
法律で禁止されてはいませんが、実務上は極めて困難です。 連帯保証人になる際の審査では個人の信用情報が必ず照会されます。個人再生手続き中は信用情報機関に事故情報が登録されているため、保証会社などの審査を通過することは事実上不可能です。法的な禁止規定はありませんが、信用情報という面での制約から、新たな連帯保証人になることはできないと考えておくべきです。
まとめ:取締役が個人再生をしても役員を継続できる理由と注意点
この記事で解説した通り、個人再生は自己破産と異なり、法律上、取締役の地位を失うことはありません。会社法上の欠格事由にも該当せず、資格制限もないため、経営を続けながら個人の債務整理を進めることが可能です。ただし、会社の連帯保証人になっている場合や会社から借金がある場合は、会社を債権者として手続きに含める必要があります。経営者の個人再生は財産関係が複雑になりやすく、会社に知られずに進めることは困難なため、関係者への説明が不可欠です。個別の状況に応じて最適な進め方は異なるため、まずは弁護士などの専門家に相談し、会社経営への影響を最小限に抑える方法を検討することが重要です。

