財務

法人の不動産売却、税金計算の要点。個人との違いや節税特例まで網羅

経営リスクナビ編集部

法人が所有する不動産を売却する際の税金は、個人の場合と仕組みが大きく異なり、その計算は複雑です。他の事業損益と合算して課税所得を計算する法人特有のルールを理解せずに進めると、予期せぬ税負担が発生するだけでなく、活用できる節税の機会を逃すことにもなりかねません。この記事では、法人の不動産売却で課される税金の種類から、譲渡所得の具体的な計算方法、さらには実践的な節税策まで、実務に沿って分かりやすく解説します。

個人による売却との税制上の違い

課税対象となる所得の範囲

法人が不動産を売却して得た利益は、他の事業損益と合算され、会社全体の所得の一部として課税されます。これは、不動産売却益を本業の利益やその他の収益とすべて合算し、会社全体の所得として税額を計算する仕組みです。例えば、本業が赤字でも不動産売却で大きな利益が出れば、それらを合算した後の所得に課税されます。逆に、不動産売却で損失が出た場合は、本業の黒字と相殺して全体の所得を圧縮し、節税することが可能です(損益通算)。

一方、個人の場合は、不動産の売却益を給与所得など他の所得とは切り離して計算する分離課税が適用されます。このように、法人と個人では課税対象となる所得の捉え方が根本的に異なります。

項目 法人 個人
課税方式 法人所得として合算課税 分離課税
課税対象 他の事業損益と合算した会社全体の所得 不動産の譲渡所得のみ(他の所得とは別)
損益通算 不動産売却損を他の事業利益と相殺可能 原則として他の所得との相殺は不可
課税対象の比較(法人 vs 個人)

適用される税率構造

不動産売却益に適用される税率も、法人と個人で大きく異なります。法人の場合、不動産の所有期間にかかわらず、会社全体の所得に対して所定の法人税率(実効税率)が適用されます。これは、資本金の額や年間の所得金額に応じて決まります。特に、資本金1億円以下の中小法人の場合、年間所得800万円以下の部分には軽減税率が適用されます。

一方、個人の場合は不動産の所有期間が税率を大きく左右します。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得として約39%、5年を超える場合は長期譲渡所得として約20%の税率が課されます。

項目 法人 個人
所有期間の影響 なし(期間に関わらず一定の法人税率) あり(5年を境に税率が大きく変動)
税率の種類 法人実効税率(資本金や所得額で変動) 長期譲渡所得(約20%)/短期譲渡所得(約39%)
短期売買の有利不利 短期で売却する場合、個人より税率が低くなる傾向がある 短期で売却する場合、非常に高い税率が課される
適用税率の比較(法人 vs 個人)

損益通算の仕組み

不動産売却で損失(譲渡損失)が出た場合、その損失を他の利益と相殺する損益通算の仕組みにおいて、法人は個人に比べて非常に柔軟な対応が可能です。

法人の場合、不動産売却によって生じた損失は、本業の事業で得た利益と制限なく相殺することができます。これにより、会社全体の課税所得を圧縮し、法人税の負担を軽減できます。例えば、業績が好調な年度にあえて含み損を抱える不動産を売却し、意図的に利益を圧縮するという戦略的な財務コントロールも可能です。

一方、個人の場合、不動産の譲渡損失を給与所得や事業所得など他の所得と相殺することは、一部の特例を除き原則として認められていません

経費として認められる範囲

不動産売却益から差し引ける経費の範囲も、法人と個人で大きく異なります。法人の場合、不動産売却に直接かかった仲介手数料などの費用だけでなく、事業運営に関連する様々な支出を全体の経費として計上し、結果的に会社全体の税負担を軽減することができます。

例えば、不動産を売却して多額の利益が出た年度に合わせて、役員報酬の増額、従業員への決算賞与の支給、広告宣伝費や研究開発費への投資などを行うことで、会社全体の利益を調整し、税負担を軽減することが可能です。

一方、個人の場合は、売却した不動産の取得費や、仲介手数料といった売却に直接関連する譲渡費用しか経費として差し引くことができません。

法人の不動産売却で課される税金

法人税

法人税は、会社のすべての事業活動から得られた利益(所得)に対して課される国税です。不動産の売却益も、本業の利益などと合算された課税所得を基に計算されます。会社の経済的な負担能力に応じて課税する考え方に基づいているため、特定の取引だけでなく企業全体の経営成績が税額に反映されます。

法人税の主な特徴
  • 不動産売却益を含めた、その事業年度の全所得が課税対象となる。
  • 本業の赤字と不動産売却益を相殺した結果、会社全体の所得が赤字になれば法人税は課されない。
  • 資本金1億円以下の中小法人の場合、年間所得800万円以下の部分には軽減税率が適用される。

法人住民税

法人住民税は、会社が事業所を置く都道府県や市区町村に納める地方税です。地方自治体が提供する行政サービス(道路、消防、警察など)の費用を分担する目的があります。この税金は「法人税割」と「均等割」の2つの部分で構成されています。

法人住民税の構成要素
  • 法人税割: 法人税額を基に計算されるため、利益が多いほど税額も増える。
  • 均等割: 会社の資本金や従業員数に応じて定額で課される。会社が赤字であっても納税義務がある。

不動産売却で損失が出て会社全体が赤字決算となった場合でも、均等割の部分は必ず納付しなければならない点に注意が必要です。

法人事業税

法人事業税は、会社が事業を行う上で利用する公共サービスや施設の維持費を負担する目的で、都道府県に納める地方税です。原則として、法人税と同じく会社の所得を基準に計算されますが、税率は所得額に応じて段階的に変動します。

法人事業税の主な特徴
  • 会社の所得金額を基に計算される「所得割」が中心となる。
  • 資本金1億円超の法人の場合は、所得に関わらず資本金や付加価値額などを基に課税される外形標準課税が適用される。
  • 外形標準課税が適用される法人は、赤字決算であっても一定の納税義務が生じる。

消費税(課税対象となる場合)

法人が不動産を売却する際、建物の売却代金は消費税の課税対象ですが、土地の売却代金は非課税です。土地は資本の移転とみなされ、消費の対象ではないためです。

土地と建物を一括で売却する場合は、売買契約書などで売却総額を土地代金と建物代金に明確に区分し、建物代金に対してのみ消費税を計算する必要があります。買主から預かった消費税は、仕入れなどで支払った消費税と相殺(仕入税額控除)した上で、税務署に申告・納付します。建物の売却額が大きいと消費税も高額になるため、納税資金の管理が重要です。

印紙税(売買契約書)

印紙税は、不動産の売買契約書など、法律で定められた特定の文書(課税文書)を作成する際に課される国税です。納税は、契約書に契約金額に応じた額の収入印紙を貼り付け、消印をすることで完了します。

印紙税のポイント
  • 契約書に記載された取引金額に応じて税額が段階的に決定される。
  • 一定の要件を満たす不動産売買契約書については、税負担を軽減する特例措置が設けられている場合がある。
  • 納税義務は売主と買主の双方が負うが、実務上は契約書を2通作成し、各自が保有する分の印紙代をそれぞれ負担することが多い。

消費税が売買価格交渉に与える影響と契約時の注意点

建物の売却には消費税が課されるため、売買価格の交渉や契約書の作成においては消費税の取り扱いを明確にすることが極めて重要です。総額表示が消費税込みの価格(内税)なのか、別途加算される価格(外税)なのかによって、法人の実質的な手取額は大きく変動します。

契約時の主な注意点
  • 土地と建物の価格を明確に区分する: 区分が曖昧だと、税務調査で否認され追徴課税を受けるリスクがある。
  • 合理的な根拠で価格を按分する: 固定資産税評価額の比率など、客観的な基準を用いて土地と建物の価格を分けることが望ましい。
  • 消費税額を明記する: 契約書には、建物価格とそれに対する消費税額を明記し、後のトラブルを未然に防ぐ。

不動産売却益(譲渡所得)の計算

計算式の基本構造

法人の不動産売却における利益(譲渡所得)は、以下の計算式で算出されます。この計算結果が、法人税などの課税対象となる所得の基礎となるため、各項目を正確に把握することが重要です。

譲渡所得 = 譲渡価額 – (取得費 + 譲渡費用)

各項目の概要
  • 譲渡価額: 不動産を売却して買主から受け取る収入の総額。
  • 取得費: 売却した不動産を過去に購入した際の代金や手数料などから、建物の減価償却費を差し引いたもの。
  • 譲渡費用: 不動産を売却するために直接かかった仲介手数料や印紙代などの経費。

例えば、1億円で売却した不動産の取得費が8,000万円、譲渡費用が500万円の場合、譲渡所得は1,500万円となります。

譲渡価額の確定

譲渡価額とは、不動産を売却したことによって得られる収入の総額です。売買契約書に記載された金額が基本となりますが、それ以外にも含まれるものがあります。

譲渡価額に含まれる主な項目
  • 売買代金: 契約書に記載された土地と建物の合計金額。
  • 固定資産税・都市計画税の精算金: 売買の年に、買主が負担すべき固定資産税等として売主が受け取る金銭。
  • 消費税(税込経理の場合): 税込経理方式を採用している法人の場合、建物代金にかかる消費税額も譲渡価額に含めて計算します。

取得費の算定方法

取得費は、売却した不動産を取得するためにかかった費用です。土地と建物では算定方法が異なります。

取得費の算定方法
  • 土地: 購入代金、購入時に支払った仲介手数料、登録免許税、不動産取得税などの合計額。
  • 建物: 購入代金や建築代金などの合計額から、所有期間中の減価償却費の累計額を差し引いた金額(帳簿価額)。

過去に増改築などの資本的支出を行っている場合は、その費用も取得費に加算できます。土地と建物を一括で購入し、価格の内訳が不明な場合は、固定資産税評価額の比率など合理的な基準で按分計算する必要があります。

譲渡費用の具体例

譲渡費用とは、不動産を売却するために直接要した費用を指します。売却に間接的に関連するだけの費用は含まれないため、範囲を正しく理解しておく必要があります。

譲渡費用に含まれる費用・含まれない費用の例
  • 含まれる費用: 仲介手数料、売買契約書の印紙代、売却のための測量費、建物の解体費用(更地渡しの場合)、名義書換料など。
  • 含まれない費用: 売却代金で返済した借入金の利息や繰り上げ返済手数料、抵当権抹消の登記費用、修繕費や固定資産税など。

譲渡費用に該当しない費用でも、法人の経費(損金)として計上することは可能です。

取得費が不明な場合の概算取得費と税務上の留意点

購入時期が古く契約書などを紛失したため、実際の取得費が分からない場合には、帳簿書類や関連資料から取得費を合理的に算定することが求められます。個人の所得税における『概算取得費』(売却代金の5%)の規定は法人税には直接適用されませんが、取得費を証明できない場合の合理的な推計として用いられることがあります。

ただし、この特例を適用すると、実際の取得費よりもかなり低く計算されることが多く、その結果として譲渡所得が大きくなり、税負担が重くなる傾向があるため注意が必要です。可能な限り、購入時の資料を探し出し、実際の取得費で申告することが望ましいです。

活用できる節税策と特例制度

収用等に伴う代替資産の取得特例

所有する不動産が公共事業(道路建設など)のために国や地方公共団体に収用され、その補償金で代わりの資産(代替資産)を取得した場合、一定の要件を満たすと譲渡がなかったものとみなされ、課税を将来に繰り延べることができます。これは、公共事業への協力によって事業継続が困難になることを防ぐための制度です。

主な適用要件
  • 収用された不動産が固定資産であること。
  • 原則として、収用された日から2年以内に代替資産を取得すること。
  • 取得した代替資産が、収用された資産と原則として同種類のものであること。

特定資産の買換え特例

事業で使用している特定の不動産を売却し、一定期間内に新たな事業用不動産に買い換えた場合、譲渡益の最大80%に対する課税を、買い換えた資産を将来売却する時まで繰り延べることができます。企業の設備投資や事業拠点の移転などを税制面で支援する制度です。

主な適用要件
  • 譲渡する資産と買い換える資産が、ともに事業用であること。
  • 原則として、譲渡した事業年度内に買換資産を取得し、取得日から1年以内に事業に使うこと。

繰越欠損金の活用

過去の事業年度で生じた赤字(税務上の欠損金)は、青色申告をしていれば最大10年間繰り越すことができます。これを繰越欠損金と呼びます。

不動産を売却して大きな利益が出た事業年度に、この繰越欠損金をぶつけることで利益と相殺し、課税所得を大幅に圧縮することが可能です。期限が切れそうな繰越欠損金がある場合、含み益のある不動産を売却して利益を確定させ、欠損金を有効活用する戦略も考えられます。

役員退職金の支給

経営者の退職といったタイミングに合わせて不動産を売却し、その売却益を原資として役員退職金を支給する方法も有効な節税策です。適正な金額の役員退職金は、会社の経費(損金)として全額算入できるため、会社の利益を圧縮し法人税の負担を軽減できます。

また、退職金を受け取る役員個人にとっても、退職所得は他の所得と分離して課税され、税負担が大幅に軽減される「退職所得控除」という大きなメリットがあります。ただし、不相当に高額な退職金は税務調査で否認されるリスクがあるため、功績倍率法など合理的な基準で算定する必要があります。

設備投資による損金算入

不動産売却益が出た事業年度に、新たな機械装置の購入やソフトウェアの導入といった設備投資を前倒しで実行することで、利益を圧縮できます。特に中小企業経営強化税制などの優遇税制を活用すれば、取得した資産の価額をその年の経費として一括で計上(即時償却)できる場合があります。

これにより、数千万円の不動産売却益が出たとしても、同額の設備投資を行うことで利益を相殺し、納税額をゼロにすることも可能です。利益を単に税金として納めるのではなく、将来の成長に向けた事業投資に振り向けることで、企業価値の向上にも繋がります。

よくある質問

Q. 売却で損失が出た場合、どう扱われますか?

結論として、法人が不動産を売却して損失(譲渡損失)が出た場合、その損失は他の事業の利益と相殺(損益通算)できます。それでもなお損失が残る場合は、繰越欠損金として翌事業年度以降に繰り越すことが可能です。

不動産売却損の取り扱い
  • 損益通算: 売却損を本業の利益などと合算し、会社全体の課税所得を減らすことができる。
  • 繰越控除: 損益通算しても残った赤字は、青色申告をしていれば最大10年間繰り越し、将来の黒字と相殺できる。
  • 繰戻し還付: 中小法人の場合、当期の赤字を前期の黒字と相殺し、前期に納付した法人税の還付を受ける制度を選択することも可能。

このように、法人の不動産売却損は、将来の税負担をコントロールするための有効な手段となり得ます。

Q. 所有期間が短いと個人のように税率が高くなりますか?

いいえ、法人の場合は所有期間の長短によって税率が変わることはありません。不動産売却益は、所有期間にかかわらず他の事業利益と合算され、一律の法人税率で課税されます。

法人 個人
所有期間5年以下の場合 他の所得と合算し、通常の法人税率が適用される 短期譲渡所得として、約39%の高い税率が課される
税制上の有利不利 短期的な売買を繰り返す場合、税負担を抑えやすい 短期的な転売に対しては、懲罰的ともいえる重い税負担となる
短期売却時の税率比較(法人 vs 個人)

Q. 役員へ時価より安く売却した場合の問題点は?

法人が所有する不動産を、適正な市場価格(時価)よりも著しく低い価額で役員に売却した場合、税務上は時価で取引が行われたものとみなされ、法人と役員個人の両方に重い税金が課されるリスクがあります。

低額譲渡によって生じる主な課税リスク
  • 法人側のリスク: 時価と売却価額の差額が「役員への賞与(寄附金)」と認定される。この賞与は原則として経費(損金)に算入できず、法人税の負担が増える。
  • 個人側のリスク: 時価と売却価額の差額が「給与所得」とみなされ、高額な所得税・住民税が課される。役員は現金収入がないにもかかわらず、多額の納税資金を準備する必要に迫られる。

このような事態を避けるため、役員へ不動産を売却する際は、必ず不動産鑑定士など専門家による時価評価を行い、その価格に基づいて取引することが不可欠です。

Q. 売却益にかかる税金の申告・納税はいつまでですか?

不動産売却益にかかる税金の申告・納税は、その不動産を売却した取引が含まれる事業年度の終了日(決算日)の翌日から2ヶ月以内に行う必要があります。個人のように「売却した翌年の2月16日~3月15日」といった固定の期間ではない点に注意が必要です。

申告・納税までの流れ(3月決算法人の例)
  1. 事業年度中(例: 4月1日~翌年3月31日)に不動産を売却する。
  2. 決算日(例: 3月31日)を迎える。
  3. 決算日から2ヶ月以内(例: 5月31日まで)に、不動産売却益を含めたその事業年度全体の所得を計算し、確定申告書を提出する。
  4. 申告書の提出と同時に、算出された法人税、法人住民税、法人事業税などを納付する。

売却代金を他の支払いに充ててしまい、納税資金が不足する事態に陥らないよう、売却時点で納税額を予測し、計画的に資金を管理することが極めて重要です。

まとめ:法人の不動産売却における税務を理解し、適切な節税対策を

法人が不動産を売却した際の税務は、個人の分離課税とは異なり、他の事業損益と合算して課税所得を計算する点が最大の特徴です。これにより、売却で出た利益は法人税等の対象となる一方、損失が出た場合は本業の黒字と相殺(損益通算)して全体の税負担を軽減できる柔軟性があります。正確な納税額を把握するには、まず「譲渡価額 – (取得費 + 譲渡費用)」の計算式に基づき譲渡所得を算出し、自社の繰越欠損金の有無や他の事業の状況と合わせて課税所得をシミュレーションすることが重要です。その上で、買換え特例や設備投資、役員退職金の支給といった節税策が自社の状況で活用できるか検討を進めるのが良いでしょう。不動産売却の税務は専門的な知識を要するため、最終的な申告や最適な節税策の選択については、必ず税理士などの専門家に相談し、個別の事情に応じたアドバイスを受けるようにしてください。

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