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関連当事者取引の取締役会承認とは?会社法の手続きと議事録を解説

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企業の経営者や法務・財務担当者にとって、関連当事者取引における取締役会の承認は、避けて通れない重要な手続きです。会社法が定める利益相反取引のルールを正しく理解せず手続きを怠ると、取締役個人が損害賠償責任を問われるなど、深刻な法的リスクにつながりかねません。適切なプロセスを遵守することは、会社と役員自身を守る上で不可欠です。この記事では、会社法における利益相反取引の承認要件、具体的な決議の流れ、議事録の作成実務、そして承認を怠った場合の法的責任について詳しく解説します。

関連当事者取引の基本

関連当事者取引の定義と対象範囲

関連当事者取引とは、企業がその役員や親会社、主要株主といった密接な関係を持つ者(関連当事者)と行う取引のことです。これらの取引は、通常の市場原理とは異なる条件で行われ、企業の財政状態を不当に歪める可能性があるため、金融商品取引法や会計基準に基づき厳格な情報開示が求められます。

対象となる関連当事者の範囲は広範にわたります。

関連当事者の主な範囲(法人)
  • 親会社、子会社、関連会社
  • 同一の親会社を持つ兄弟会社
  • 議決権の10%以上を保有する法人株主とその子会社
  • 従業員のための企業年金(重要な取引がある場合)
関連当事者の主な範囲(個人)
  • 議決権の10%以上を保有する個人株主とその近親者(二親等以内)
  • 取締役や監査役などの役員とその近親者(二親等以内)
  • 親会社や重要な子会社の役員とその近親者(二親等以内)
  • 上記の者が議決権の過半数を所有する会社とその子会社

取引の範囲も、資産やサービスの移転を伴うあらゆる行為が対象となります。

関連当事者取引に該当する行為の例
  • 商品や不動産の売買・賃貸借
  • 資金の貸付や借入
  • 債務保証や担保提供
  • 役務の提供や受領
  • 役員報酬(開示対象外となる場合もある)

利益相反取引との違いと関係性

関連当事者取引と利益相反取引は、関連当事者取引の方がより広い概念であり、利益相反取引は関連当事者取引の一種と位置づけられます。両者は規制の目的や根拠法が異なります。

項目 関連当事者取引 利益相反取引
目的 財務諸表の透明性確保(投資家保護) 会社の利益保護(株主保護)
根拠法 金融商品取引法、会計基準など 会社法
規制方法 事後的な情報開示 事前の機関承認(取締役会など)
主な対象範囲 親会社、子会社、主要株主、役員とその近親者など広範囲 取締役と会社間の特定の取引に限定
関連当事者取引と利益相反取引の比較

例えば、親会社と子会社の間の通常の取引は「関連当事者取引」に該当しますが、取締役個人の利益とは直接関係しないため、通常は「利益相反取引」にはあたりません。一方で、取締役が代表を務める別会社と自社が取引する場合は、両方の概念に該当する可能性があります。

会社法と金融商品取引法の規制比較

関連当事者との取引に対する規制は、会社法と金融商品取引法で目的とアプローチが異なります。企業は両方の法律の要求を満たす必要があります。

項目 会社法(利益相反取引) 金融商品取引法(関連当事者取引)
目的 株主保護、会社の財産保護 投資家保護、市場の透明性確保
規制のタイミング 事前の規制 事後の規制
主な規制内容 取引実行前に取締役会等の承認を得る義務 重要な取引について有価証券報告書等で開示する義務
対象 取締役と会社の利益が相反する取引 関連当事者との取引全般(重要性の基準あり)
会社法と金融商品取引法の規制比較

会社法では、利益相反取引を行う前に取締役会や株主総会での承認が必須です。一方、金融商品取引法では、関連当事者との間で重要な取引(例:個人で1,000万円超など)があった場合に、その内容を有価証券報告書で事後的に開示することが求められます。

会社法上の取締役会承認

承認が必要となる取引の類型

会社法で取締役会の承認が必要とされる利益相反取引は、「直接取引」「間接取引」の2つに大別されます。これらは、取締役が会社に対する忠実義務に反し、自己または第三者の利益を優先するリスクがあるためです。

利益相反取引の類型
  • 直接取引: 取締役が「自己または第三者のため」に会社と直接契約を結ぶ取引。
  • 間接取引: 会社と第三者との取引だが、実質的に会社と取締役の利益が相反する取引。
各類型の具体例
  • 直接取引の例: 取締役が会社の製品を個人的に購入する。/取締役が代表を務める別の会社と自社が売買契約を締結する。
  • 間接取引の例: 取締役個人の借金に対し、会社が連帯保証人になる。/取締役の債務の担保として、会社の不動産を提供する。

承認決議の要件と具体的な流れ

利益相反取引の承認を得るには、会社法に定められた要件と手続きを厳格に遵守する必要があります。これは、決議の公正性を担保し、会社の利益を守るためです。

承認決議は、以下の流れで進められます。

承認決議の基本的な流れ
  1. 取引を行う取締役が、取締役会に対して取引に関する重要な事実を開示する。
  2. 開示された情報や客観的資料(不動産鑑定書、相見積もり等)に基づき、会社に不利益がないか慎重に審議する。
  3. 特別利害関係取締役(当該取引の当事者)を議決から除外した上で、承認の決議を行う。
  4. 決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって成立する(定款で加重することも可能)。
  5. 決議の内容や審議の経過を、正確に取締役会議事録へ記録する。

特別利害関係取締役の決議参加

利益相反取引の承認決議において、その取引の当事者である取締役は「特別利害関係取締役」として扱われ、決議への参加が厳しく制限されます。これは、自己の利益が関わる議案に対し、客観的かつ公正な判断を期待することが困難なためです。

特別利害関係取締役の制限事項
  • 承認決議における議決権の行使ができない。
  • 取締役会が成立するための定足数の算定から除外される。
  • 当該議案の審議において議長を務めることができない。

実務上は、審議の公正性を確保するため、当該取締役は議案の説明後、審議・決議の場から退席を求められるのが一般的です。

取引価格の妥当性に関する説明責任と立証方法

利益相反取引では、取引を行う取締役は、取引価格が客観的に見て公正かつ妥当であることを他の取締役に説明し、立証する責任を負います。会社の利益が不当に害されることのないよう、取引の正当性を証明する必要があるためです。

立証のためには、以下のような客観的な資料を提示することが有効です。

取引価格の妥当性を立証する資料の例
  • 不動産取引の場合: 複数の不動産鑑定士による鑑定評価書や、不動産仲介業者による査定書
  • 動産やサービスの取引の場合: 同種の取引における市場価格の調査データや、複数の第三者企業から取得した相見積もり

取締役会議事録の作成実務

会社法が定める記載必須事項

利益相反取引を承認した取締役会の議事録は、決議が適法に行われたことを証明する重要な証拠となります。そのため、会社法施行規則で定められた事項を漏れなく記載しなければなりません。

取締役会議事録の法定記載事項
  • 取締役会の開催日時および場所(Web会議の場合はその旨も記載)
  • 議事の経過の要領およびその結果
  • 出席した取締役および監査役の氏名
  • 議長の氏名(議長を置いた場合)
  • 特別の利害関係を有する取締役の氏名
  • 反対した取締役がいる場合はその氏名と反対理由

特に、利益相反取引の承認議案については、誰が特別利害関係取締役として決議に参加しなかったかを明確に記録することが極めて重要です。

取引の重要事実を開示するポイント

議事録には、単に「承認可決」と記録するだけでなく、どのような「重要事実」が開示され、審議されたかを具体的に記載することが重要です。これにより、後日、取引の妥当性を問われた際に、適正な手続きを経て判断されたことを証明できます。

「重要事実」として記載すべきポイント
  • 取引の当事者: 誰と取引を行うのか
  • 取引の対象: 何を(不動産の所在地、製品名など)取引するのか
  • 取引の条件: 金額、支払方法、契約期間など
  • 取引の必要性: なぜその取引を会社が行う必要があるのか
  • 条件の妥当性: 取引価格が市場価格等と比較して適正であると判断した根拠

議事録の作成・保管における注意点

取締役会議事録は、作成から保管まで会社法に基づき適切に取り扱う必要があります。不備があると、過料の制裁を受けたり、登記手続きに支障をきたしたりする可能性があります。

議事録の作成・保管に関する注意点
  • 署名・押印: 出席した取締役および監査役は、議事録(紙媒体)に署名または記名押印する義務がある。
  • 電子署名: 電子議事録として作成する場合は、法的に有効な電子署名が必要となる。
  • 保管義務: 作成した議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置かなければならない。
  • 閲覧・謄写: 株主や債権者から法令に基づく請求があった場合、議事録を開示する必要がある。

承認を怠った場合の法的責任

取締役の善管注意義務・忠実義務

取締役は、会社との委任契約に基づき、善良な管理者として期待される注意義務(善管注意義務)と、会社の利益を最優先する義務(忠実義務)を負っています。利益相反取引の承認手続きを怠ることは、これらの根源的な義務に対する重大な違反行為とみなされます。

承認を得ずに取引を強行した取締役はもちろん、その事実を知りながら黙認した他の取締役も、監視義務違反として善管注意義務違反に問われる可能性があります。したがって、承認手続きの遵守は、取締役としての責務を果たす上で不可欠です。

任務懈怠責任と損害賠償請求

承認を得ない利益相反取引によって会社に損害が生じた場合、関与した取締役は任務懈怠責任を問われ、会社に対して損害を賠償する義務を負います。会社法の規定により、自らが任務を怠らなかったことを証明しない限り責任を免れない過失推定責任が課されており、極めて重い責任となります。

損害賠償責任を負う可能性のある取締役
  • 当該利益相反取引を直接行った取締役
  • 会社の代表として取引を決定した取締役
  • 取締役会の承認決議に賛成した取締役

損害が発生した場合、会社が取締役に賠償を請求するほか、株主が会社に代わって責任を追及する株主代表訴訟を提起されるリスクもあります。

承認後の『重要な事実の報告』義務とその注意点

取締役会で利益相反取引の承認を得た後も、実際に取引を行った取締役は、遅滞なくその取引に関する重要な事実を取締役会に報告する義務があります(会社法365条2項)。これは、承認された条件通りに取引が実行されたか、想定外の不利益が生じていないかを事後的に監督・確認するためです。

この事後報告を怠ることも任務懈怠にあたります。取引完了後、速やかに取締役会で報告を行い、その旨を議事録に残すことで、一連の適法な手続きが完結します。

関連当事者取引のよくある質問

少額取引でも取締役会の承認は必要ですか?

はい、必要とされます。会社法の利益相反取引規制には、取引金額の多寡による免除規定はありません。たとえ数万円の取引であっても、形式的に利益相反取引に該当する限り、原則として取締役会の承認を得なければなりません。金額の大小で自己判断せず、すべての該当取引を付議する運用がコンプライアンス上、不可欠です。

親会社・子会社との取引は全て対象ですか?

いいえ、必ずしも全てが対象となるわけではありません。特に100%の資本関係にある完全親子会社間の取引は、実質的に株主の利益を害するおそれがないため、原則として利益相反取引には該当せず、取締役会の承認は不要と解されています。ただし、100%未満の子会社との取引で、かつ取締役が双方の代表を兼務している場合などは、少数株主の利益を保護するため承認が必要となる場合があります。

取引内容の変更時に再決議は必要ですか?

はい、当初承認された内容から重要な変更が生じた場合は、改めて取締役会の承認決議が必要です。承認決議は特定の取引条件を前提に行われているため、その前提が崩れる重要な変更については、再度審議し承認を得なければなりません。特に、取引価格や金利など、会社にとって不利益になり得る条件の変更は、再決議が必須とお考えください。

役員の親族はどこまでが対象範囲ですか?

適用される法律によって対象範囲が異なります。会社法の利益相反取引では、役員の親族との取引が直ちに規制対象となるわけではありませんが、会計上の関連当事者取引では、役員の二親等以内の親族との取引が開示対象として明確に定められています。したがって、親族との取引を行う際は、会社法上の承認要否と、会計上の開示要否の両面から検討する必要があります。

取締役会がない会社の承認方法は?

取締役会を設置していない株式会社では、利益相反取引を行う場合、会社法に明文の承認規定はありませんが、取締役の忠実義務を果たすため、実務上は株主総会の普通決議による承認を得ることが推奨されます。この場合、取引の当事者である取締役も株主としての議決権を行使できますが、その行使が著しく不公正な方法で行われ、会社の利益を害する場合には、決議の効力が争われる可能性もあります。

まとめ:関連当事者取引の適正な手続きが会社と役員を守る

本記事では、関連当事者取引における会社法上の取締役会承認について解説しました。要点として、取締役と会社の利益が相反する「利益相反取引」は、金額の大小にかかわらず、事前に取締役会の承認を得る必要があります。その際、特別利害関係取締役は決議に参加できず、取引の妥当性を客観的資料で示すことが求められます。また、承認決議の内容は議事録に正確に記録し、取引完了後には取締役会への事後報告も忘れてはなりません。関連当事者との取引を検討する際は、まずその取引が利益相反取引に該当するかどうかを確認し、少しでも疑義があれば法務部門や顧問弁護士などの専門家に相談することが重要です。これらの適正な手続きを遵守することが、会社を健全に運営し、取締役自身を法的なリスクから守るための鍵となります。

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