債権差押命令の陳述書の書き方|第三債務者の対応と提出後の実務
裁判所から「債権差押命令」が届き、同封された陳述書の書き方について、具体的な記入例や注意点をお探しではありませんか。陳述書の提出は第三債務者である会社の法的義務であり、対応を誤ると損害賠償などの不測のリスクを負う可能性があります。この記事では、企業の法務・財務担当者が初めて対応する場合でも迷わないよう、陳述書の項目別記載方法、差押可能額の計算、提出後の実務フローまでを網羅的に解説します。
債権差押命令と第三債務者の役割
第三債務者とは何か
第三債務者とは、債務者に対して金銭の支払い義務を負っている個人や法人のことを指します。債権者が、債務者が直接所有する財産ではなく、債務者が第三者から受け取る権利のある金銭(債権)を差し押さえる際に登場します。企業は、従業員や取引先の債務問題により、突然この「第三債務者」という立場になり、法的な対応を求められることがあります。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 給与債権の場合:従業員に給与を支払う義務を負う勤務先の会社
- 預金債権の場合:債務者の預金を管理する銀行
- 売掛金債権の場合:債務者(取引先)に売掛金を支払う義務を負う会社
陳述書が果たす役割と目的
陳述書とは、債権差押命令を受けた第三債務者が、差し押さえの対象となる債権(給与など)の有無や金額について、裁判所に報告するための公式な書類です。裁判所は、債権者からの申立て情報のみで差押命令を発令するため、差し押さえ対象の債権が実際に存在するか、いくらあるかを事前に把握していません。そのため、第三債務者からの正確な情報提供が不可欠となります。
陳述書は、主に以下の情報を裁判所や債権者に伝え、強制執行の実効性を確保する目的で提出されます。
- 差し押さえられた給与債権が存在するかどうか
- 毎月の給与や賞与の支給額、手取額はいくらか
- すでに他の債権者からの差押えや、税金の滞納処分が行われていないか
これらの情報を事前に確認することで、差し押さえが空振りに終わることを防ぎ、法的手続きを円滑に進めることができます。
差押命令の効力発生のタイミング
差押命令の効力は、裁判所から発送された「債権差押命令正本」が第三債務者(会社)に送達された時点で直ちに発生します。民事執行法に基づき、この送達をもって、第三債務者は債務者本人(従業員)への弁済が法的に禁止されます。
つまり、会社が差押命令の書類を受け取った瞬間から、対象従業員に対して、差し押さえられた範囲の給与を支払うことはできなくなります。もし命令の効力発生後に誤って給与を全額支払ってしまった場合、その支払いは債権者に対して無効となり、後から債権者に同額の支払いを求められる二重払いのリスクが生じます。そのため、書類を受け取ったら速やかに給与支払いの事務処理を停止し、法的に正しい対応に切り替える必要があります。
陳述書の提出義務と期限
陳述書の提出は法的義務
債権差押命令に同封されている「陳述催告書」を受け取った場合、陳述書を提出することは、民事執行法で定められた第三債務者の法的義務です。これは任意のアンケートではなく、法律に基づく報告義務であるため、必ず対応しなければなりません。
たとえ対象の従業員がすでに退職していたり、そもそも雇用関係がなかったりする場合でも、その事実を記載した陳述書を提出する必要があります。会社の都合や従業員への個人的な配慮を理由に回答を拒否することはできず、誠実かつ迅速に事実を記載して提出することが求められます。
提出期限は送達日から2週間
陳述書の提出期限は、原則として差押命令の書類が会社に送達された日(受け取った日)から2週間以内です。この期限は、債権者が差し押さえた債権を速やかに取り立てる手続きに進めるように設定されています。
会社は、書類が到着した日から起算して2週間以内に、裁判所に陳述書が到着するように返送手続きを完了させる必要があります。期限内に提出されないと、債権者は差し押さえが有効かどうかを判断できず、手続きが停滞してしまいます。担当部署は速やかに連携し、期限を厳守できるよう事務処理を進めなければなりません。
提出を怠った場合のリスク
正当な理由なく陳述書の提出を怠ったり、意図的に虚偽の内容を記載したりした場合、第三債務者である会社が損害賠償責任を負う可能性があります。民事執行法では、故意または過失による不提出や不実の陳述によって債権者に損害が生じた場合、その損害を賠償する義務があると定められています。
- 債権者への損害賠償責任:陳述があれば防げたはずの訴訟費用や、回収機会を逸したことによる損害を請求される可能性がある。
- 債権者からの取立訴訟の提起:会社自身が被告として、差し押さえた金銭の支払いを求める訴訟を起こされる可能性がある。
事務的な怠慢や従業員をかばうための隠蔽行為は、会社に直接的な経済的損失や訴訟リスクをもたらすため、極めて危険です。
陳述書を作成する前の社内確認事項
陳述書に正確な情報を記載するため、作成前に社内で事実関係を調査・確認する必要があります。回答内容に誤りがあると、後の支払い手続きや供託手続きに重大な支障をきたすため、入念な確認が不可欠です。
主に以下の点について、人事部門や経理部門が連携して確認します。
- 対象者の在籍状況:現在も雇用関係にあるか、すでに退職しているか(退職日の確認)。
- 債権の有無と内容:未払いの給与や退職金が残っていないか、雇用形態は何か。
- 先行する差押え等の有無:他の債権者や税務署などから、すでに差押命令や滞納処分の通知が届いていないか。
これらの情報を正確に洗い出し、社内で共有することが、適切な陳述書作成の第一歩となります。
【項目別】陳述書の書き方と注意点
差押債権の有無(認否)の記載
「差押債権の存否」の項目では、会社が債務者(従業員)に対して給与などの支払い義務を負っているかどうかを明確に回答します。この回答が、債権回収の可否を判断する最初の重要な情報となります。
差押債権目録の記載内容と自社の支払い実態を照らし合わせ、以下のように記載します。
- 「有り」と回答する場合:従業員が在籍しており、給与を支払っているケース。
- 「無し」と回答する場合:すでに対象者が退職しており、未払い給与なども存在しないケース。理由として退職日を明記する。
- 「無し」と回答する場合(その他):対象者が役員で、差押債権目録が「給料債権」のみを対象としているケース(役員報酬は対象外となるため)。
債権の額や支払状況の記載
債権が「有り」の場合、給与の具体的な支給額、手取額、支払日などを正確に記載します。これは、債権者が毎月いくら取り立てることができるのかを計算するための基礎情報となります。
- 総支給額:基本給や各種手当を合算した給与の総額。
- 法定控除額:所得税、住民税、社会保険料など、法律で控除が定められている金額の合計。
- 差引支給額(手取額):総支給額から法定控除額を差し引いた金額。
- 給与の締日と支払日:会社の給与サイクル。
- 賞与の支給予定:支給が見込まれる場合はその時期と金額。
給与額が変動する場合は、直近数ヶ月の平均額を記載し、変動がある旨を補足するのが親切です。
先行する他の差押え等の有無
今回の差押命令が届く前に、すでに別の債権者や公的機関(税務署、市役所など)から差押えや滞納処分の通知が届いていないかを確認し、その事実を漏れなく申告します。複数の差し押さえが競合している場合、会社は債権者に直接支払うのではなく、法務局への供託という別の法的手続きをとる義務が生じる可能性があるため、この報告は極めて重要です。
先行する差押えがある場合は、以下の情報を記載します。
- 債権者名または官公署名
- 事件番号
- 請求債権額
過去の送達記録を正確に管理し、差押えが競合しているかどうかを正しく報告することが、二重払いのリスクを回避し、会社を守ることにつながります。
給与債権における差押可能額の計算
差押命令で対象となる債権の範囲(給与・賞与・退職金など)
給与債権の差し押さえは、毎月の給与だけでなく、賞与や退職金なども対象範囲に含まれます。民事執行法では、差押えの効力は、差押債権者の請求額に達するまで、将来支払われる給付にも及ぶと定められています。
- 毎月の給与(基本給、残業手当、役職手当など各種手当を含む)
- 賞与(ボーナス)
- 退職金、退職年金
ただし、通勤手当や実費弁償的な出張旅費などは、給与としての実質を持たないため、通常は計算の対象外となります。
計算の基礎となる手取額の範囲
差押可能額を計算する際の基礎となるのは、給与の総支給額から「法定控除額」のみを差し引いた手取額です。法定控除額とは、所得税、住民税、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)など、法律によって給与からの控除が義務付けられているものを指します。
注意すべきは、社内預金、財形貯蓄、組合費、社員旅行の積立金といった会社独自の控除項目は、法定控除ではないため、これらを差し引く前の金額を基礎として計算しなければならない点です。給与明細の「差引支給額」と、法律上の「手取額」は必ずしも一致しないため、計算の際には注意が必要です。
原則的な差押禁止範囲(4分の3)
債務者(従業員)とその家族の生活を保障するため、民事執行法では給与の一定額を差し押さえることを禁止しています。原則として、給与の手取額の4分の3に相当する部分は差し押さえが禁止されており、従業員本人に支払わなければなりません。
したがって、差し押さえが可能なのは、手取額の4分の1となります。
ただし、手取額が月額44万円を超える高額所得者の場合は例外があり、「手取額から33万円を控除した残額」のすべてを差し押さえることが可能です。
差押範囲の例外(養育費など)
請求されている債権が、養育費や婚姻費用といった扶養義務に関する債権である場合、差押禁止範囲は縮小される特例があります。これは、子の養育などに関わる債権は、通常の貸金債権よりも強く保護される必要があるためです。
この特例では、差押禁止範囲が手取額の4分の3から2分の1に縮小され、手取額の2分の1まで差し押さえることが可能になります。 手取額が高額な場合でも、債務者に最低限33万円は保障されるという考え方は変わりません。そのため、手取額の2分の1が33万円を超える場合は、「手取額から33万円を控除した残額」が差し押さえ可能額となります。
| 請求債権の種類 | 差押禁止範囲 | 差押可能範囲 |
|---|---|---|
| 一般の貸金債権など | 手取額の4分の3 | 手取額の4分の1 |
| 養育費・婚姻費用など | 手取額の2分の1 | 手取額の2分の1 |
会社は、差押命令の請求債権目録を確認し、どちらの計算ルールを適用すべきかを正しく判断する必要があります。
陳述書提出後の実務フロー
債務者本人(従業員等)への通知
陳述書を提出する前後の適切なタイミングで、会社は対象従業員本人に対し、差押命令が届いた事実と、今後の給与から天引きが開始される旨を通知します。これは、従業員が給与の減額に混乱するのを防ぎ、会社が法的手続きに則って適正に処理していることを理解してもらうために重要です。
通知する際の注意点は以下の通りです。
- 他の従業員に情報が漏洩しないよう、プライバシーに配慮して個室などで面談を行う。
- 会社には法的な支払い保留義務が生じているため、給与の満額支払いを求められても応じられないことを毅然と伝える。
- 個人的な借金問題の相談には乗らず、速やかに債権者と直接交渉するよう促す。
同情に流されず、事務的かつ透明性のある説明を心がけることが、後のトラブルを未然に防ぎます。
債権者への支払いまたは供託手続
差し押さえた給与は、以下のいずれかの方法で処理します。
- 債権者への直接支払い:差押命令が第三債務者に送達された時点で、第三債務者は債務者への弁済が禁止され、債権者は第三債務者に対し差押債権の取立てができるようになります。ただし、債務者による不服申立ての期間(通常は債務者への送達から2週間)が経過し、差押命令が確定してから支払うことが一般的です。会社は債権者と連絡を取り、指定された口座に差し押さえ分を振り込みます(振込手数料は債権者の負担となることが一般的)。
- 法務局への供託:複数の差押えが競合した場合は義務供託となります。また、会社が債権者との直接のやり取りを避けたい場合などに、法務局に金銭を預ける「権利供託」という制度を利用することもできます。供託すれば、会社は支払い義務を果たしたことになります。
自社の事務負担やリスクを考慮し、適切な方法を選択します。
差押えが競合した場合の対応
複数の債権者から差押命令が届き、差し押さえ額の合計が給与の差押可能額を超える「競合状態」になった場合、会社は法務局への供託が義務付けられます。会社が独自の判断で特定の債権者に優先して支払うことは法律で禁止されており、裁判所の配当手続きに委ねなければなりません。
具体的な対応フローは以下の通りです。
- 複数の差押命令が届き、差押可能額では全債権者の請求額を満たせない状況(競合状態)であることを確認する。
- 会社独自の判断での支払いは絶対にせず、差し押さえた差押可能額の全額を管轄の法務局に義務供託する。
- 供託後、裁判所に「事情届」を提出し、その後の配当手続きから離脱する。
競合が発生した場合は、速やかに供託と事情届の提出を実行し、二重払いや債権者間のトラブルに巻き込まれるリスクを完全に排除する必要があります。
よくある質問
Q. 陳述書の提出が期限に間に合わない場合は?
万が一、提出期限に遅れそうな場合は、無断で遅延するのではなく、事前に裁判所の担当書記官へ電話で連絡し、事情を説明することが重要です。その際は、事件番号と会社名を伝え、社内調査に時間を要しているなどの理由と、具体的な提出予定日を伝えます。期限を過ぎても陳述書は受理されますが、放置すると損害賠償リスクが高まるため、遅れても必ず提出してください。
Q. 事実と異なる内容を記載した場合のリスクは?
従業員をかばうためなどに、意図的に事実と異なる内容(虚偽の記載)を陳述書に記載した場合、会社は深刻な法的リスクを負うことになります。
- 損害賠償請求:虚偽の陳述によって債権者が被った損害(無駄になった訴訟費用など)を請求される。
- 取立訴訟の提起:会社が被告となり、債権者から支払いを求める訴訟を起こされる。
- 刑事責任の追及:悪質なケースでは、強制執行妨害罪などの刑事責任を問われるおそれがある。
いかなる事情があっても、事実を正直に記載しなければなりません。
Q. 対象債権が全くない場合も提出は必要ですか?
はい、必ず提出が必要です。対象となる従業員がすでに退職している、あるいは同姓同名の別人であるなど、差し押さえるべき給与債権が全くない場合でも、その事実を報告する義務があります。陳述書を提出しないと、裁判所や債権者は「債権があるにもかかわらず隠している」と疑い、不要なトラブルに発展する可能性があります。債権の有無にかかわらず、陳述書の「債権なし」の欄にチェックを入れ、理由(例:「令和○年○月○日付で退職済」)を明記して必ず返送してください。
Q. 陳述書はどこに、どのように提出しますか?
陳述書は、裁判所と債権者の両方に提出するのが一般的です。 通常、裁判所からの書類には、裁判所宛ての返信用封筒や、債権者宛ての封筒が同封されている場合が多いです。
- 陳述書を必要部数(通常は裁判所用、債権者用、自社控え用の3部)作成する。
- 1通を裁判所宛ての返信用封筒に入れ、郵送する。
- もう1通を債権者宛ての封筒に入れ、郵送する。
- 残りの1通を、提出の記録として自社で保管する。
指定された提出先すべてに漏れなく送付し、自社の対応履歴を確実に残しておくことが重要です。
まとめ:債権差押命令の陳述書は、正確な記載と期限厳守が重要
本記事では、債権差押命令に伴う陳述書の書き方と実務上の注意点について解説しました。第三債務者となった会社は、差押命令を受け取った日から2週間以内に、差押債権の有無や金額などを記載した陳述書を裁判所に提出する法的義務を負います。陳述書を作成する際は、給与の総支給額や法定控除額を正確に把握し、差押可能額を正しく計算することが不可欠です。万が一、意図的に虚偽の記載をしたり提出を怠ったりすると、会社自身が損害賠償責任を問われる可能性があるため、必ず事実に基づいて誠実に対応してください。まずは社内で対象者の在籍状況や給与データを速やかに確認し、対応に着手しましょう。もし複数の差押えが競合するなど複雑なケースで判断に迷う場合は、自己判断で進めず、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

