労働基準法の罰則一覧|違反行為と懲役・罰金、発覚後の流れを解説
企業の労務管理において、労働基準法の罰則を正確に把握することは、経営上の重要なリスク管理です。意図しない法令違反が、懲役や罰金といった刑事罰だけでなく、企業名の公表など深刻な事態を招く可能性があります。この記事では、労働基準法で定められた罰則を重い順に整理し、具体的な違反行為から違反が発覚した後の流れ、企業が負うリスクまでを網羅的に解説します。
労働基準法の罰則(重い順)
1年以上10年以下の懲役または20万~300万円以下の罰金
労働基準法で最も重い罰則は、強制労働の禁止(第5条)に違反した場合に適用されます。これは、労働者の意思に反して労働を強制する行為が、きわめて重大な人権侵害とみなされるためです。この罰則は、労働関連法規の中で最も重く、違反した場合は企業の存続を揺るがす事態に発展します。
- 暴行、脅迫、監禁などの直接的な手段で労働を強要する行為
- 精神的または身体の自由を不当に拘束して労働させる行為
- 多額の借金を理由に、労働者の意思に反して労働させる行為
- 退職を申し出た労働者に対し、損害賠償をちらつかせて辞めさせない行為
1年以下の懲役または50万円以下の罰金
中間搾取の排除(第6条)などに違反した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。法律で認められた労働者派遣などを除き、第三者が労働者と使用者の間に入って不当に利益を得る「ピンハネ」行為は、労働者の生活を脅かすため厳しく禁止されています。また、寄宿舎規則の作成・届出に関する一部の違反も、同様の罰則対象となる場合があります。
- 第三者が業として他人の就業に介入し、手数料などを搾取する行為(中間搾取)
- 法定の最低年齢に満たない児童を労働させる行為
- 満18歳未満の者や妊産婦を、法令で禁止されている危険有害業務や坑内労働に従事させる行為
6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金
労働時間、賃金、解雇といった重要な労働条件に関する違反には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が適用されます。これらの違反は、労働者の健康や生活に直接影響を与える基本的な権利を侵害する行為とみなされます。日常の労務管理で発生しやすく、企業にとっては最も身近なリスクの一つです。
- 36協定を締結せずに法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる行為
- 時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金を支払わない行為
- 法律で定められた休憩や休日を与えない行為
- 年次有給休暇の取得を不当に拒否する行為
- 解雇する際に30日前の予告をせず、解雇予告手当も支払わない行為
- 労働基準監督署に違反を申告したことを理由に、労働者を解雇するなど不利益な取り扱いをする行為
30万円以下の罰金
労働条件の明示や就業規則の作成・届出といった手続き上の義務に違反した場合、30万円以下の罰金が科されます。これらの手続きを怠ると、労働契約の透明性が損なわれ、労使間のトラブルに発展する原因となります。企業は、必要な書類の整備や手続きを適正に行い、健全な労務管理体制を構築する責任があります。
- 労働契約の締結時に、賃金や労働時間などの労働条件を書面で明示しない行為
- 常時10人以上の労働者を使用しているにもかかわらず、就業規則を作成・届出・周知しない行為
- 会社の都合で労働者を休業させた場合に、休業手当を支払わない行為
- 年10日以上の有給休暇が付与される労働者に、年5日の有給休暇を取得させない行為
- 賃金台帳や労働者名簿などの法定帳簿を作成・保存しない行為
主な違反行為と罰則の対応
労働時間・休憩・休日に関する違反
労働時間、休憩、休日に関する規定は、労働者の心身の健康を守るために設けられています。これらの規定に違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。企業は、タイムカードやPCのログなど客観的な記録に基づき、労働時間を正確に管理する義務があります。
- 36協定を締結・届出せずに、法定労働時間を超えて労働させる
- 36協定の上限時間(原則月45時間・年360時間)を超えて時間外労働をさせる
- 労働時間が6時間を超える場合に45分、8時間を超える場合に1時間以上の休憩を与えない
- 毎週少なくとも1日の休日(法定休日)を与えない
賃金・割増賃金に関する違反
賃金は労働者の生活の基盤であり、その支払いを怠ることは重大な違反とみなされます。時間外労働などに対する割増賃金の未払いは特に問題となりやすく、違反した場合は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金などの対象となります。企業は労働時間を1分単位で正確に把握し、法令に基づいた正しい計算で賃金を支払わなければなりません。
- 時間外・休日・深夜労働に対して、法定の割増率で計算した賃金を支払わない
- タイムカードを打刻させた後に業務をさせる、いわゆる「サービス残業」を強いる
- 各都道府県で定められた最低賃金額を下回る賃金しか支払わない
- 会社都合の休業にもかかわらず、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わない
解雇・退職に関する違反
解雇や退職に関する手続きの違反は、労働者の地位を不当に脅かす行為として厳しく規制されています。特に解雇予告義務違反には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。使用者は、解雇の客観的合理性や社会的相当性を慎重に判断するとともに、法定の手続きを遵守することが不可欠です。
- 労働者を解雇する際に30日以上前の予告を行わず、解雇予告手当も支払わない
- 業務上の傷病による休業期間とその後30日間など、法律で解雇が禁止されている期間に解雇する
- 労働者が退職を希望しているにもかかわらず、不当な理由で引き留め、退職を妨害する
- 労働者の退職後、定められた期日までに賃金や積立金などを返還しない
就業規則に関する違反
就業規則は、職場のルールを明確にし、労使間の無用なトラブルを防ぐための重要な書類です。作成や届出、周知に関する義務を怠った場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。企業は、事業場の実態に合った就業規則を整備し、法改正などに応じて適切に見直す必要があります。
- 常時10人以上の労働者を使用する事業場で、就業規則を作成していない
- 作成した就業規則について、労働者の過半数代表者からの意見聴取を行っていない
- 作成・変更した就業規則を、管轄の労働基準監督署長に届け出ていない
- 就業規則を職場への掲示や書面での配布などにより、労働者に周知していない
意図せず違反となりやすい「名ばかり管理職」と固定残業代の誤解
「名ばかり管理職」と「固定残業代」の誤った運用は、使用者が意図せず労働基準法違反を犯してしまう典型的な例です。制度の要件を正しく理解せず、人件費削減を目的として都合よく解釈することが原因です。
- 名ばかり管理職: 肩書が管理職でも、経営への関与や労働時間の裁量がなく、地位にふさわしい待遇でなければ法律上の「管理監督者」には該当せず、残業代の支払い義務が発生します。
- 固定残業代の誤解: 固定残業代(みなし残業代)制度を導入していても、あらかじめ定めた固定残業時間を超えて労働させた分については、追加で割増賃金を支払わなければなりません。
違反発覚から罰則までの流れ
労働基準監督署による調査(臨検監督)
労働基準法違反が疑われる場合、まず労働基準監督署の労働基準監督官が事業場に立ち入って調査を行います。これを臨検監督と呼びます。調査は、労働者からの申告に基づく場合や、定期的な計画に基づいて抜き打ちで行われる場合があります。監督官は、タイムカードや賃金台帳などの書類の提出を求め、関係者への聞き取り調査を実施します。この調査を正当な理由なく拒否したり、虚偽の報告をしたりする行為自体も、罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。
是正勧告・指導と改善報告書の提出
臨検監督の結果、法令違反が確認された場合、労働基準監督署から是正勧告書が交付されます。これは違反状態を改めるよう求める行政指導であり、違反内容と是正期日が明記されています。企業は、指摘された問題を期日までに是正し、その結果をまとめた是正報告書を提出しなければなりません。是正勧告自体に法的な強制力はありませんが、これを無視すると、より厳しい司法処分へと進むことになります。
悪質な場合の司法処分(送検・起訴)
是正勧告に繰り返し従わない、あるいは違反内容が極めて悪質であると判断された場合、労働基準監督官は司法警察員として強制捜査を行います。証拠の収集や関係者の逮捕を行い、事件を検察庁に送致します(送検)。検察官が起訴を決定し、刑事裁判で有罪が確定すると、行為者個人や法人に対して懲役刑や罰金刑が科されます。有罪判決は前科となり、企業の社会的信用を完全に失墜させる深刻な事態です。
是正勧告で指摘された際の改善報告書作成のポイント
是正報告書は、指摘された違反が確実に改善されたことを客観的に証明するための重要な書類です。以下のポイントを押さえて作成し、速やかに提出する必要があります。
- 指摘された違反条項と違反事実を正確に記載する
- 「いつ」「誰が」「何を」「どのように」改善したのかを具体的に記述する
- 未払い賃金の支払い記録など、是正措置を証明する客観的な証拠を添付する
- 言い訳や弁明は記載せず、是正した事実のみを簡潔に報告する
罰則の対象者と付随リスク
法人と担当者が対象になる両罰規定とは
労働基準法の多くの罰則には両罰規定が設けられています。これは、違反行為を行った担当者(例:工場長、人事部長など)個人を罰するだけでなく、その使用者である法人(会社)に対しても罰金刑を科すという規定です。経営者が直接指示していなくても、違反行為を防ぐための注意や監督を怠ったとみなされれば、法人の責任が問われます。この規定により、企業全体として法令遵守体制を構築することが強く求められています。
罰金以外のペナルティ(企業名公表等)
労働基準法に違反した場合、刑事罰である罰金以外にも、企業の社会的信用を大きく損なうペナルティが存在します。その代表例が企業名の公表です。違法な長時間労働が常態化し、是正勧告にも応じない大企業や、送検された企業は、厚生労働省のウェブサイトなどで社名が公表されることがあります。
- 「ブラック企業」という社会的評価の定着と、ブランドイメージの著しい低下
- 採用活動における応募者の減少や、内定辞退の増加
- 既存社員のエンゲージメント低下と、離職率の上昇
- 取引先からの契約見直しや、新規取引の停止
- 公共事業における入札参加資格の停止
刑事罰とは別に民事上の損害賠償責任を問われる可能性
労働基準法違反で刑事罰を受けたとしても、それで問題が終結するわけではありません。違反行為によって損害を被った労働者やその遺族から、民事上の損害賠償を請求される可能性があります。例えば、長時間労働が原因で精神疾患を発症した場合、企業は安全配慮義務違反を問われ、多額の慰謝料や逸失利益の支払いを命じられることがあります。また、未払い残業代の請求訴訟では、未払い分に加えて、それと同額の付加金の支払いを命じられるリスクもあります。
労働基準法の罰則に関するFAQ
企業名が公表されるケースはありますか?
はい、実際に公表されるケースは存在します。これは、悪質な法令違反を行う企業に対して社会的な制裁を加え、再発を防止することを目的としています。公表の対象となり得るのは、主に以下のようなケースです。
- 大企業において、違法な長時間労働が複数の事業場で常態化し、是正指導に応じない場合
- 労働基準法違反の疑いで、労働基準監督署から検察庁へ送検された事案
- 過労死や過労自殺など、社会的に影響の大きい重大な労働災害を発生させた場合
是正勧告に従わない場合のリスクは?
是正勧告を無視すると、行政指導から刑事手続きへと移行し、リスクが段階的に深刻化します。違法状態を放置することは、極めて悪質な行為とみなされます。
- 労働基準監督署による再監督(より厳しい内容の調査)が実施される
- 悪質と判断された場合、強制捜査(捜索・差押え)に発展し、検察庁に書類送検される
- 検察官が起訴を決定すれば刑事裁判となり、法人と行為者個人に刑事罰が科される
- 送検された事実は原則として公表され、企業の社会的信用が失墜する
違反の公訴時効は何年ですか?
労働基準法違反の公訴時効(刑事罰を科すための時効)は、罰則の重さによって異なりますが、多くの違反行為については原則3年です。ただし、最も重い強制労働罪などは、より長い時効期間が設定されています。注意すべきは、刑事罰の時効と、労働者が未払い賃金を請求できる民事上の時効は別である点です。未払い賃金の請求権の時効は、当面の経過措置として3年(本来は5年)と定められています。したがって、公訴時効が成立しても、民事上の支払い義務が残る可能性があります。
| 区分 | 内容 | 時効期間 | 根拠法 |
|---|---|---|---|
| 刑事罰 | 労働基準法違反に対する罰則の公訴時効 | 原則3年(重い罪はより長い) | 刑事訴訟法 |
| 民事請求権 | 労働者による未払い賃金(残業代など)の請求権 | 当面3年(本来は5年) | 労働基準法 |
まとめ:労働基準法の罰則を理解し、健全な労務管理体制を構築する
労働基準法は、強制労働のような重大な人権侵害から、就業規則の届出といった手続き上の義務違反まで、行為の悪質性に応じて段階的な罰則を定めています。これらの罰則は、違反行為者だけでなく両罰規定により法人にも科され、刑事罰とは別に企業名公表や民事上の損害賠償責任を問われるなど、経営に与える影響は甚大です。まずは自社の労働時間管理、賃金支払い、各種手続きが法令を遵守しているか、客観的な記録に基づいて再点検することが不可欠です。労務管理の運用に少しでも不安な点があれば、労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談し、適切な指導を受けることが賢明な判断と言えるでしょう。

