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特許異議申立ての「決定」とは?3つの種類と効力、不服申立ての方法を解説

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特許異議申立ての手続きに関与する中で、最終的に下される「決定」がどのような意味を持つのか、正確に把握したいとお考えではないでしょうか。申立人・特許権者いずれの立場であっても、決定の種類とその法的効力を正しく理解することは、その後の事業戦略や知財戦略を立てる上で不可欠です。この記事では、特許異議申立てにおける「維持決定」「取消決定」「訂正を認める決定」の3種類を詳しく解説し、それぞれが当事者に与える影響や、決定後の対応策までを網羅的に説明します。

目次

特許異議申立てにおける「決定」とは

制度の概要と手続きにおける「決定」の位置づけ

特許異議申立て制度は、特許掲載公報の発行日から6か月以内に、誰でも特許庁長官に対して特許の取消しを求めることができる手続きです。この制度は、特許庁自らが特許処分の妥当性を再審理し、誤り(瑕疵)があれば是正することで、特許権の早期安定化を図ることを目的としています。

この一連の手続きにおいて、審判官合議体が下す最終的な行政処分が「決定」です。決定は、特許をそのまま維持するか、取り消すかを判断するもので、特許権の存続に直接影響を与える重要な法的効果を持ちます。決定が確定することにより、特許権の有効性が公的に再確認されるか、あるいは権利が初めから存在しなかったものとして扱われるかが決まります。

審理の方式と決定を下す主体(審判官合議体)

特許異議申立ての審理と決定は、3名または5名の審判官で構成される「合議体」が担当します。合議体は、高度な専門的知見に基づき、特許の有効性を中立的な立場で判断します。

審理には、迅速性と効率性を重視した特徴があります。

審理方式の特徴
  • 書面審理が原則: 当事者が審判廷に出頭する口頭審理は行われず、提出された書面(申立書、意見書、証拠など)のみで審理が進められます。
  • 職権審理が中心: 申立人が主張した理由や証拠に限定されず、審判官が自らの職権で必要な調査を行い、審理の対象とすることができます。

合議体は、これらの審理を通じて得られたすべての情報に基づき、最終的な結論として決定を下します。

特許異議申立てにおける3つの決定とその内容

決定の種類①:特許を維持する「維持決定」

審判官合議体が審理した結果、申立ての理由が認められない場合、または特許権者による訂正によって取消理由が解消された場合に下されるのが「維持決定」です。

この決定が確定すると、対象の特許は有効なものとして存続します。申立人が提出した主張や証拠では特許を取り消すには不十分と判断された場合や、職権による調査でも取消理由が見つからなかった場合がこれに該当します。維持決定により、異議申立て手続きは終了し、特許権者は権利を安定した形で保有し続けることができます。

決定の種類②:特許を取り消す「取消決定」

審理の結果、特許に取消理由が存在すると認められ、かつ特許権者が提出した意見書や訂正請求によってもその理由が解消されない場合に下されるのが「取消決定」です。

取消決定が確定すると、特許権は設定登録の時に遡って初めから存在しなかったものとみなされます。一部の請求項にのみ取消理由がある場合は、その請求項のみが取り消されることもあります。なお、特許庁が取消決定を行う前には、必ず特許権者に対して取消理由を通知し、反論や訂正の機会を与えることが法律で定められています。

決定の種類③:特許請求の範囲の訂正を認めた上で特許を維持する決定

特許権者は、取消理由が通知された際に、特許請求の範囲や明細書などを「訂正」して取消理由の解消を図ることができます。この訂正が審判官合議体に認められ、その結果として取消理由がなくなったと判断された場合、訂正後の内容で特許を維持する決定が下されます。

この決定は、形式的には「維持決定」の一種ですが、当初の特許内容からは変更が生じている点が特徴です。多くの場合、訂正によって権利範囲が狭まる(減縮される)ことになり、特許権者は訂正後の限定された権利範囲で特許を保有し続けることになります。

各決定が申立人・特許権者に与える影響

維持決定が下された場合の法的効力と各当事者への影響

維持決定は、その謄本が当事者に送達された時点で直ちに確定します。これにより、特許権の有効性が行政庁によって再確認されます。

当事者 影響
特許権者 権利が安定し、安心して事業活動やライセンス交渉を進めることが可能になる。
申立人 異議が認められなかったことになるが、この決定に対して不服申立てはできない
維持決定が各当事者に与える影響

申立人が引き続き特許の無効を主張したい場合は、別途「特許無効審判」を請求する必要があります。異議申立ての維持決定には一事不再理のような効力はないため、同じ理由や証拠を用いて無効審判を請求することも可能です。

取消決定が下された場合の法的効力と各当事者への影響

取消決定に対して、特許権者は不服を申し立てることができます。決定謄本の送達日から30日以内に、知的財産高等裁判所へ決定の取消しを求める訴え(決定取消訴訟)を提起できます。

当事者 影響
特許権者 訴えを提起せず決定が確定、または訴訟で敗訴すると、特許権は遡及的に消滅する。
申立人 目的が達成され、競合特許という事業上の障害が取り除かれる。
取消決定が各当事者に与える影響

特許権が遡及消滅すると、権利行使の根拠が失われ、過去に得たライセンス料の返還義務などが生じる可能性があります。

訂正を認める決定が下された場合の法的効力と各当事者への影響

訂正を認めた上での維持決定が確定すると、特許権の内容は訂正後のものに変更され、その効力は特許出願時まで遡ります

当事者 影響
特許権者 権利範囲が減縮される場合があるが、権利自体は維持され、取消しという最悪の事態を回避できる。
申立人 特許権の完全な取消しは実現できないが、権利範囲が狭まることで自社製品が権利範囲外になるなど、実質的な利益を得られる場合がある。
訂正を認める決定が各当事者に与える影響

このように、訂正による決着は、双方にとって一定の妥協点となることがあります。

決定から「確定」までの期間における実務上の注意点

決定が法的に覆らない状態になることを「確定」と呼びますが、決定の種類によって確定までの期間が異なります。

決定の種類と確定のタイミング
  • 維持決定: 決定謄本の送達と同時に確定します。
  • 取消決定: 特許権者の不服申立期間(30日間)の経過後、または提起された訴訟の判決確定後まで確定しません。

特に取消決定後の未確定期間中は、特許権は形式的に存続しているものの、将来的に消滅するリスクを抱えた不安定な状態にあります。この期間中、特許権者は新規ライセンス契約の締結や権利行使を慎重に行うべきです。同様に、第三者がその発明を実施する場合も、決定が覆るリスクを考慮する必要があります。

異議申立てから決定までの手続きの流れと期間

申立書の提出から決定通知までの具体的なフロー

特許異議申立ての手続きは、以下の流れで進められます。

手続きの基本的なフロー
  1. 申立書の提出: 申立人が特許庁長官宛に特許異議申立書を提出します。
  2. 方式審査・副本送付: 特許庁が申立書の形式的な要件を確認し、受理されると副本が特許権者に送付されます。
  3. 審理開始: 審判官合議体による審理が始まります。
  4. 取消理由の通知(該当する場合): 審理の過程で取消理由が発見された場合、特許権者にその内容が通知されます。
  5. 意見書・訂正請求: 特許権者は、指定期間内に意見書での反論や、明細書等の訂正請求ができます。
  6. 意見書提出の機会(該当する場合): 特許権者から訂正請求があった場合、原則として申立人にも意見を述べる機会が与えられます。
  7. 最終決定: 合議体が最終的な判断を下し、「維持決定」または「取消決定」の決定書が当事者双方に送達されます。

決定が下されるまでの標準的な期間の目安

特許異議申立てから決定が下されるまでの期間は、事案の複雑さなどによりますが、標準的には6か月から1年程度が目安です。

取消理由が通知されずに維持決定となるシンプルな事案では比較的早期に結論が出ます。一方で、以下のようなケースでは審理が長期化し、1年を超えることもあります。

審理が長期化する要因の例
  • 取消理由が通知され、特許権者が訂正請求や意見書提出で応答するケース
  • 当事者間で意見書のやり取りが複数回にわたるケース
  • 技術的な判断が特に複雑で、慎重な審理を要するケース

決定に不服がある場合の対応策

申立人は決定に対して不服申立てができない

特許異議申立てにおいて、特許を維持する「維持決定」が下された場合、申立人はその決定に対して不服を申し立てることは一切できません。行政不服審査法に基づく審査請求も認められていません。

これは、異議申立てが特許庁の行政処分を自律的に見直すための手続きであり、申立人はそのきっかけとなる情報を提供する立場にすぎないとされているためです。維持決定に納得できない場合、申立人が取り得る次の手段は、別途「特許無効審判」を請求することになります。

特許権者が取消決定に対して行える「審決取消訴訟」

特許権者は、「取消決定」に不服がある場合、その決定の取り消しを求めて裁判所に訴えることができます。これを決定取消訴訟と呼びます。

決定取消訴訟のポイント
  • 提訴先: 知的財産高等裁判所(東京高等裁判所の特別部)
  • 提訴期間: 決定謄本の送達日から30日以内
  • 当事者: 原告は特許権者、被告は特許庁長官

裁判所が特許庁の判断に誤りがあると認め、決定を取り消す判決を下した場合、事件は特許庁に差し戻され、審理が再開されます。

維持決定が出た後、申立人が検討すべき次の選択肢

維持決定により特許の存続が決まった後も、申立人は他の手段でその特許の有効性を争うことができます。主な選択肢は以下の通りです。

維持決定後の申立人の選択肢
  • 特許無効審判の請求: より厳密な当事者対立構造のもとで、新たな証拠を追加して特許の無効を主張する。
  • 判定制度の利用: 自社の製品や技術が、対象の特許権の技術的範囲に属するか否かについて、特許庁の公的な見解を求める。
  • 侵害訴訟における無効の抗弁: 特許権者から特許侵害で訴えられた場合に、その裁判の中で特許の無効を主張する。

これらの手段を事業戦略に応じて組み合わせ、特許権によるリスクを管理することが重要です。

「特許無効審判」の審決との違い

申立て・請求できる当事者の範囲の違い

手続きの種類 請求できる者
特許異議申立て 何人も可能。利害関係は問われない(公益的性格)。
特許無効審判 原則として利害関係人のみ可能(私的紛争解決の性格)。
当事者の範囲の違い

特許無効審判における「利害関係人」とは、その特許の存在によって事業上の不利益を受ける可能性のある同業者などを指します。

審理方式(職権審理と当事者対立構造)の違い

手続きの種類 審理方式
特許異議申立て 書面審理が原則。審判官が主導する職権主義が強い。
特許無効審判 口頭審理が原則。請求人と特許権者が対立する当事者主義が基本。
審理方式の違い

特許異議申立てでは特許庁が主体的に審理を進めるのに対し、特許無効審判では当事者間の主張・立証活動が審理の中心となります。

不服申立ての可否に関する違い

手続きの種類 不服申立て
特許異議申立て 取消決定に対し特許権者のみが訴訟を提起できる(片面的不服申立て)。
特許無効審判 審決(無効または維持)に対し、敗訴した当事者の双方が訴訟を提起できる(双方的不服申立て)。
不服申立て制度の違い

無効審判では当事者双方に公平な不服申立ての機会が保障されているのに対し、異議申立てでは権利を失う特許権者の保護がより重視された制度設計となっています。

特許異議申立ての決定に関するよくある質問

特許異議申立ての成功率(取消決定率)はどのくらいですか?

統計上、特許異議申立てにより特許が完全に取り消される割合はおおむね10%程度です。ただし、申立てがきっかけで特許権者が訂正を行い、結果的に権利範囲が狭まるケースは少なくありません。そのため、特許権を消滅させるまでには至らなくとも、申立てによって自社の事業活動の自由度が高まるなど、実質的に目的を達成できる可能性は十分にあります

特許権者は異議申立てに対してどのような対応ができますか?

特許権者は、特許庁から取消理由の通知を受けた場合、主に以下の対抗手段を取ることができます。

特許権者の主な対抗手段
  • 意見書の提出: 取消理由は妥当ではない旨を、証拠などを示して反論する。
  • 訂正請求: 特許請求の範囲の減縮や誤記の訂正などを行い、指摘された瑕疵を解消する。

これらは、特許権を維持するために極めて重要な防御手段です。

異議申立ての決定内容は公開されますか?

はい、公開されます。 決定の全文や、申立てから決定に至るまでの経過情報は、特許庁のウェブサイト「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」などを通じて誰でも閲覧できます。特許権の消滅や権利範囲の変更は第三者の利害にも関わるため、その内容は公に示されます。

異議申立てにかかる費用はどのくらいですか?

費用は、特許庁に納付する「手数料」と、専門家である弁理士に依頼する場合の「代理人費用」に大別されます。

異議申立て費用の内訳
  • 特許庁手数料: 16,500円 + (請求項の数 × 2,400円) で計算されます。
  • 弁理士費用: 依頼する事務所によりますが、申立書の作成や中間対応を含め、数十万円程度が一般的です。

特許庁手数料は、特許無効審判(49,500円 + 請求項の数 × 5,500円)と比較して安価に設定されています。

まとめ:特許異議申立ての「決定」を理解し、次の戦略へ

本記事では、特許異議申立ての最終判断である「決定」について解説しました。決定には、特許をそのまま認める「維持決定」、権利を遡及的に消滅させる「取消決定」、そして訂正を認めた上で維持する決定の3種類が存在します。それぞれの決定は、申立人と特許権者の双方に異なる法的効力を及ぼし、その後の対応策も大きく変わってきます。

特に重要なのは、維持決定に対して申立人は不服を申し立てられない一方、取消決定に対しては特許権者のみが訴訟を提起できるという非対称な制度設計です。自社がどちらの立場であれ、下された決定の意味を正しく理解し、自社への影響を正確に評価することが極めて重要です。この決定内容を踏まえ、維持決定であれば特許無効審判を、取消決定であれば決定取消訴訟を検討するなど、適切な次のアクションを判断し、自社の事業と知財戦略を守るための一歩を踏み出しましょう。

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