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損害賠償責任保険とは?事業者に必要な理由や種類、補償内容を解説

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事業を運営する上で、従業員のミスや施設の不備など、予期せぬ事故によって第三者に損害を与えてしまうリスクは常に存在します。一度の事故が多額の賠償請求につながり、企業の存続を揺るがす事態に発展することも少なくありません。このような経営上の重大なリスクに備えるために不可欠なのが、損害賠償責任保険です。この記事では、損害賠償責任保険の基本的な仕組みから、事業活動で賠償責任が問われる法的根拠、具体的な保険の種類と選び方のポイントまでを網羅的に解説します。

目次

損害賠償責任保険とは?事業運営における基本的な役割

損害賠償責任保険の基本的な仕組み

損害賠償責任保険とは、事業者が業務の遂行や施設の管理などに関連して、他人の身体や財産に損害を与え、法律上の賠償責任を負った場合に生じる経済的な損失を補償する保険です。この保険は、被保険者が直接受けた損害ではなく、被害者(第三者)に対して支払うべき賠償金をカバーする点に大きな特徴があります。

保険金が支払われるには、被保険者と第三者の間に法律上の損害賠償責任が発生していることが前提となります。裁判の確定判決を待たず、保険会社が承認した示談による解決費用も補償の対象となることが一般的です。ただし、事故が発生すれば直ちに保険金が支払われるわけではなく、個別の事案ごとに責任の有無や法令との適合性が慎重に審査されます。

事業者が賠償責任保険に加入する必要性

現代の事業運営において、賠償リスクを自己資金のみで管理することは極めて困難です。一度の事故で数億円規模の賠償請求を受ける可能性はあらゆる業種に存在し、備えがなければ会社の存続を揺るがす倒産リスクに直面します。特に中小企業や個人事業主は財務基盤が脆弱なため、賠償責任保険は安定した経営に不可欠な投資といえます。

この保険は、高額な賠償金の支払いに備えるだけでなく、事故後の迅速な対応を通じて企業の社会的信用を維持する役割も担います。また、多くの業務上の事故には自動車事故の自賠責保険のような強制保険制度が存在しないため、民間の保険で自衛する必要があります。近年では取引先から契約の条件として保険への加入を求められることも増えており、ビジネスを円滑に進める上での社会的なインフラとしての性格も強まっています。

一般的な損害保険と賠償責任保険の違い

損害保険は、補償対象によって大きく「自社の資産を守る保険」と「他者への賠償責任を補償する保険」に分けられます。火災保険や動産総合保険といった一般的な損害保険は前者にあたり、自社の建物や設備が損害を受けた際の修理費用などを補填します。

これに対し、損害賠償責任保険は常に被害者である第三者の存在を前提としており、自社の財産に生じた損害は原則として補償されません。例えば、従業員の不注意で自社の倉庫が燃えた場合、倉庫の修理代は補償されませんが、その火災が隣の建物に燃え移り、法的な賠償義務が生じた場合に保険金が支払われます。守るべき対象が「資産」か「負債」かという点が根本的な違いです。

比較項目 一般的な損害保険(火災保険など) 損害賠償責任保険
補償の対象 自社が所有する建物・設備などの資産 第三者に対して負う法律上の賠償責任(負債)
損害の原因 火災、自然災害、盗難など 業務上の過失、施設の欠陥、製品の欠陥など
被害者の存在 不要(自社の損害を補償) 必須(被害者である第三者の存在が前提)
主な機能 損害を受けた資産の修理・再調達費用の補填 損害賠償金、訴訟費用、示談交渉サポートなど
一般的な損害保険と賠償責任保険の比較

事業活動で賠償責任が問われる法的根拠

不法行為責任:従業員の過失や施設の欠陥など

不法行為責任とは、故意または過失によって他人の権利や利益を違法に侵害した際に、生じた損害を賠償する責任のことです(民法709条)。事業活動においては、従業員の過失による事故や、施設の管理不備に起因する事故が主に問われます。

事業活動における主な不法行為責任
  • 使用者責任: 従業員が業務中に起こした事故について、雇用主である会社も連帯して賠償責任を負います。従業員の活動によって利益を得ている以上、それに伴うリスクも負担すべきという「報償責任」の考えに基づいています。
  • 土地工作物責任: 建物や看板などの設置・保存に欠陥があったことが原因で他人に損害を与えた場合、まず占有者が、次いで所有者が責任を負います。所有者は、過失がなくても責任を免れない無過失責任を問われる可能性があります。

債務不履行責任:契約内容を果たせなかった場合の責任

債務不履行責任とは、契約によって約束した義務を正当な理由なく果たさなかった場合に生じる損害賠償責任です。例えば、納品した部品の欠陥が原因で、発注元の製造ラインが停止し多額の逸失利益が生じた場合などがこれにあたります。

この責任の特徴は、不法行為責任と異なり、被害者(債権者)が加害者(債務者)の過失を証明する必要がない点です。債務を果たさなかった事実があれば、債務者側が「自分に責任はない」と証明しない限り、賠償義務を免れることはできません。

債務不履行責任の3つの形態
  • 履行遅滞: 正当な理由なく、約束の期日までに義務を果たさないこと。
  • 履行不能: 契約後に発生した事由により、義務を果たすことが物理的に不可能になること。
  • 不完全履行: 義務は果たしたが、その内容が契約の趣旨に沿った完全なものではないこと(例:納品物の品質不良)。

製造物責任(PL法):製品の欠陥が原因で発生した損害

製造物責任法(PL法)は、製品の欠陥によって消費者の生命、身体、または財産に損害が生じた場合に、製造業者などが負うべき損害賠償責任を定めた法律です。この法律の最大の特徴は、被害者が製造業者側の過失を証明する必要がなく、製品に「欠陥」があったことさえ証明できれば賠償を請求できる点にあります。

責任を負うのは製造業者だけでなく、輸入業者や、自社ブランド名を表示した事業者も含まれます。サプライチェーン全体でのリスク管理が求められます。

PL法における「欠陥」の種類
  • 製造上の欠陥: 製造過程でのミスにより、安全性を欠いた製品ができてしまった状態。
  • 設計上の欠陥: 製品の設計自体に問題があり、そもそも安全な製品が作れない状態。
  • 指示・警告上の欠陥: 製品の危険性について、取扱説明書などで適切な情報提供がされていない状態。

損害賠償責任保険の主な補償内容

法律上の損害賠償金(治療費・慰謝料など)

賠償責任保険の最も中核となる補償は、被害者に対して支払う法律上の損害賠償金です。賠償金額は、被保険者と被害者の過失割合を考慮した過失相殺を経て、法的に妥当な範囲で決定されます。個人的に支払った見舞金などは原則として対象外です。

主な損害賠償金の内訳
  • 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費などの実費。
  • 慰謝料: 事故による精神的苦痛に対する補償。
  • 逸失利益: 事故がなければ将来得られたはずの収入。
  • 休業損害: 治療のために仕事を休んだことによる減収。
  • 財物損壊: 壊れた物の修理費用や時価額。

訴訟費用や弁護士費用などの争訟費用

事故の解決が訴訟や調停に発展した場合に必要となる争訟費用も、重要な補償対象です。弁護士への着手金や報酬金、裁判所に納める印紙代などがこれに含まれます。訴訟が長期化するとこれらの費用は高額になりがちですが、保険でカバーされることで、事業者は経済的な負担を気にせず法的に適切な対応をとることが可能になります。

争訟費用の補償は、多くの場合、損害賠償金の支払限度額とは別枠で支払われます。ただし、契約内容によっては限度額が適用される場合もあるため、事前の確認が重要です。

事故後の応急手当や護送にかかる費用

事故発生直後の緊急対応に要した費用も、損害の発生や拡大を防止するための緊急措置費用として補償されます。これらは、最終的に被保険者に法的責任がないと判断された場合でも、有益かつ妥当な支出であれば支払われるのが一般的です。

補償対象となる主な緊急措置・協力費用
  • 応急手当費用: 被害者の応急処置にかかった費用。
  • 護送費用: 被害者を病院へ搬送するための費用。
  • 損害防止・軽減費用: 二次災害を防ぐために緊急で講じた措置の費用。
  • 協力費用: 保険会社の調査に協力するために生じた費用。

事業者向け賠償責任保険の主な種類と補償例

施設賠償責任保険:施設の管理不備による事故を補償

施設賠償責任保険は、事業者が所有・使用・管理する施設の欠陥や、その施設内で行う業務の遂行に起因して発生した対人・対物事故の賠償責任を補償する保険です。店舗や事務所など、不特定多数の人が出入りする施設を運営する事業者にとって、最も基本的な備えとなります。ただし、自動車事故や、施設外で発生した製品事故などは通常、補償の対象外です。

施設賠償責任保険の主な補償例
  • 店舗の床が濡れていて、来客が転倒し負傷した。
  • 建物の外壁が剥がれ落ち、通行中の車を破損させた。
  • 従業員が誤って飲み物をこぼし、顧客の衣服や所持品を汚損した。

生産物賠償責任保険(PL保険):製造・販売した製品の欠陥による事故を補償

生産物賠償責任保険(PL保険)は、製造または販売した製品や、行った仕事の結果に欠陥があったことが原因で、他人の身体や財産に損害を与えた場合の賠償責任を補償します。この保険は、製品などが事業者の管理下を離れた後に発生した事故を対象とする点が特徴です。近年では、製品の回収(リコール)費用を補償する特約も重要性を増しています。

PL保険の主な補償例
  • 製造・販売した食品が原因で集団食中毒が発生した。
  • 販売した家電製品から出火し、購入者の家が火事になった。
  • 建設工事で設置した設備に不備があり、引き渡し後に事故が発生した。

請負業者賠償責任保険:工事中の事故などを補償

請負業者賠償責任保険は、建設工事や清掃作業といった請負業務の遂行中に発生した偶然な事故による賠償責任を補償します。PL保険が「仕事の結果(引き渡し後)」を対象とするのに対し、この保険は「仕事の過程(作業中)」のリスクをカバーする点が大きな違いです。業務内容に応じて、地盤沈下のリスクを補償する特約などを付加する必要があります。

請負業者賠償責任保険の主な補償例
  • 工事現場で資材を落下させ、通行人に怪我を負わせた。
  • 塗装作業中に塗料が飛散し、近隣の車両を汚してしまった。
  • 重機を操作中に誤って隣接する建物を破損させた。

会社役員賠償責任保険(D&O保険):役員の経営判断ミスによる損害を補償

会社役員賠償責任保険(D&O保険)は、取締役や監査役などの役員がその職務遂行に関して行った行為が原因で、損害賠償請求をされた場合に生じる損害を補償する保険です。主なリスクとして株主代表訴訟が挙げられます。補償内容には、賠償金だけでなく、高額になりがちな訴訟費用や弁護士費用も含まれます。ただし、役員の犯罪行為や法令違反を認識していた行為などは補償されません。

令和元年の会社法改正で会社による保険料負担が認められたこともあり、優秀な経営人材を確保する目的で、非上場企業やベンチャー企業でも加入が広がっています。

賠償責任保険の加入を検討する際のポイント

自社の事業内容に潜むリスクを正確に把握する

適切な賠償責任保険を選ぶには、まず自社の事業活動のどの場面で、誰にどのような損害を与える可能性があるかを洗い出す「リスクの棚卸し」が不可欠です。業種によって直面するリスクの性質は大きく異なるため、事業プロセスに沿って漏れのない補償範囲を設定することが重要です。業界の事故事例や取引先との契約書に記載された賠償条項を確認することも、具体的なリスクを把握する上で役立ちます。

補償される範囲と保険金が支払われない免責事項を確認する

賠償責任保険には、必ず保険金が支払われない免責事項が定められています。契約者の故意による損害や、戦争・大規模な自然災害(地震、噴火、津波など)に起因する損害は、多くの保険で共通の免責事項とされています。また、業務内容によっては、自動車事故や地盤崩壊のように、特約を付加しなければ補償されないリスクも存在します。約款をよく読み、自社の主要なリスクが免責となっていないかを確認することが極めて重要です。

事業規模に応じた適切な保険金額(支払限度額)を設定する

保険金額(支払限度額)の設定は、万一の際に会社を守れるかを左右する重要な判断です。低すぎれば自己資金で不足分を補う必要が生じ、高すぎれば保険料が経営を圧迫します。適切な限度額は、自社の売上高や過去の判例、取引先からの要求などを基に決定します。特に人身事故では賠償額が数億円に達することもあるため、被害者1名あたりの限度額だけでなく、1事故あたりの総限度額にも注意が必要です。

万一の事故発生時に備えた社内体制と保険会社への報告手順

保険に加入していても、事故発生時の対応を誤ると保険金が支払われないことがあります。事故後は速やかに保険会社へ通知する義務があり、また、保険会社の承諾なしに独断で被害者と示談を進めることは厳禁です。事前に社内で対応手順をマニュアル化し、従業員に周知徹底しておくことが、スムーズな保険金請求と紛争解決につながります。

事故発生時の基本的な対応フロー
  1. 被害者の救護と安全確保: 最優先で人命救助と二次災害の防止措置を講じる。
  2. 状況の記録: 日時、場所、被害状況、事故の経緯を記録し、写真などで証拠を保全する。
  3. 保険会社への通知: 契約内容に従い、遅滞なく代理店または保険会社へ事故を報告する。
  4. 賠償責任の安易な承認禁止: 保険会社の同意なく、被害者に対して責任を認めたり賠償を約束したりしない。
  5. 保険会社との連携: 示談交渉やその後の対応は、必ず保険会社の担当者と相談しながら進める。

損害賠償責任保険に関するよくある質問

個人事業主も賠償責任保険に加入すべきでしょうか?

はい、強く推奨されます。法人と異なり、個人事業主は事業上の責任を無限に負うため、高額な賠償が発生した場合、事業用資産だけでなく個人の預貯金や自宅なども含めた全財産が差し押さえの対象となるリスクがあります。一度の事故が生活基盤そのものを破壊しかねないため、保険の重要性は法人以上に高いといえます。近年はフリーランス向けの保険も充実しており、取引先から加入を求められるケースも増えています。

従業員が起こした事故による損害も補償の対象になりますか?

はい、原則として補償の対象となります。民法上の使用者責任に基づき、会社は従業員(正社員、アルバイト、派遣スタッフなど)が業務中に第三者に与えた損害を賠償する義務を負いますが、このリスクは賠償責任保険でカバーされます。ただし、補償されるのは第三者への賠償責任のみであり、事故を起こした従業員自身の怪我や所持品の損害は対象外です。これらは労災保険などで別途備える必要があります。

保険金が支払われないのは、具体的にどのようなケースですか?

保険金が支払われないケースは、契約の免責事項として定められています。以下に典型的な例を挙げます。

保険金が支払われない主なケース
  • 法令違反・犯罪行為: 無免許運転など、法令に違反する行為に起因する損害。
  • 故意: 被保険者が意図的に起こした事故による損害。
  • 自己の財物の損壊: 被保険者が所有・管理する財物に対する損害。
  • 契約で定められた免責事項: 地震・噴火・津波などの巨大自然災害や、アスベスト・サイバー攻撃などの特殊リスク。

下請業者や業務委託先が起こした事故の責任はどこまで問われますか?

下請業者が起こした事故であっても、元請業者が注文者としての責任使用者責任を問われる場合があります。特に、元請業者が現場で具体的な指揮監督を行っていたと判断されると、下請業者の過失に対しても連帯して賠償責任を負う可能性があります。そのため、多くの事業者向け保険では、下請業者が起こした事故も元請業者の保険でカバーできる仕組みになっています。ただし、契約上の責任分担と保険の被保険者設定を慎重に確認しておくことが重要です。

まとめ:事業継続に不可欠なリスクマネジメントとしての賠償責任保険

損害賠償責任保険は、事業活動に伴う第三者への賠償リスクという、企業の存続を脅かしかねない重大な負債から経営を守るための重要なセーフティネットです。その責任は、従業員の過失(不法行為責任)から製品の欠陥(製造物責任)まで多岐にわたる法的根拠に基づいて発生します。この保険は、高額な賠償金だけでなく、複雑な示談交渉や訴訟にかかる費用もカバーし、事故後の円滑な事業再建を支える役割を担います。自社の事業内容に潜むリスクを正確に洗い出し、補償範囲や免責事項を慎重に確認した上で、事業規模に見合った適切な保険に加入することが、持続可能な経営を実現するための不可欠なリスクマネジメントと言えるでしょう。特に個人事業主は事業上の責任が個人の全財産に及ぶため、その必要性は法人以上に高いことを認識しておく必要があります。

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