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サプライチェーン監査とは?目的・監査項目からプロセス、外部委託のポイントまで解説

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グローバル化やESG経営への関心が高まる中、サプライチェーン全体に潜む人権・環境・労働安全といったリスクの管理は、企業にとって重要な経営課題となっています。こうした複雑なリスクを的確に把握し、事業の持続可能性を高めるための有効な手段がサプライチェーン監査です。この記事では、サプライチェーン監査の目的や重要性から、具体的な監査項目、計画から是正措置までの進め方、外部機関の選び方までを体系的に解説します。

目次

サプライチェーン監査とは?目的と高まる重要性

サプライチェーン監査の定義と目的

サプライチェーン監査とは、原材料の調達から製造、流通、最終的な廃棄に至るまでの供給網全体を対象に、関連プロセスや運用の実態を体系的に評価する活動です。その目的は単なる法令遵守の確認にとどまらず、多岐にわたります。

サプライチェーン監査の主な目的
  • 業務上の非効率性や遅延要因を特定・排除し、供給網のレジリエンス(強靭性)を向上させる
  • 不測の事態においても事業を継続できる安定した基盤を整える
  • 取引先が定めた基準を誠実に履行しているか検証し、供給網全体のインテグリティ(誠実性)を担保する
  • 法令や社会規範を遵守し、コンプライアンスを徹底する

ESG経営や人権デューデリジェンスにおける監査の役割

環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視するESG経営において、監査は非財務情報の信頼性を担保する診断的な機能を果たします。特に、企業が自社および取引先における人権侵害リスクを特定し、防止・是正を図る「人権デューデリジェンス」のプロセスにおいて、監査は不可欠な手段です。方針策定だけでは把握が難しい現場の実態を直接調査することで、客観的なデータに基づいた改善策の立案が可能となり、ステークホルダーへの説明責任を果たすことにつながります。

人権デューデリジェンスで調査する実態の例
  • 労働者の自由を不当に拘束する強制労働
  • 法定の就業年齢に満たない児童労働
  • 従業員に対する差別やハラスメント
  • 不適切な労働時間や賃金の未払い

近年サプライチェーン監査の重要性が高まる背景

サプライチェーン監査の重要性が高まっている背景には、事業環境の複雑化と社会的な要請の変化があります。

監査の重要性が高まる背景
  • 地政学リスクの増大: 世界的な供給網の複雑化に伴い、一箇所の問題が企業全体の信用失墜につながるリスクが増大している。
  • 規制強化の動き: 欧州の「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」など、人権や環境に関する調査を法的に義務付ける動きが世界的に進んでいる。
  • 市場からの評価: 投資家や消費者が企業の持続可能性を厳しく評価するようになり、倫理的な調達が市場での競争優位性を左右するようになった。
  • 透明性への要求: ステークホルダーから透明性の高い管理体制の構築を求められるようになり、企業はこれに対応する必要がある。

サプライヤー監査・CSR監査との関係性と違い

サプライヤー監査との比較(対象範囲と焦点の違い)

サプライヤー監査が主に直接の取引先を対象とするのに対し、サプライチェーン監査はより広範な領域を評価します。

項目 サプライヤー監査 サプライチェーン監査
主な対象範囲 直接取引のある一次仕入先 二次以降の取引先や原材料の産地までを含む供給網全体
主な焦点 品質、コスト、納期(QCD)といった従来の取引基準の維持 供給網全体の持続可能性、脆弱性、人権・環境リスクの評価
目的 個別の取引先との契約遵守の確認 供給途絶リスクや社会的な不祥事を包括的に管理
サプライヤー監査とサプライチェーン監査の比較

CSR監査との比較(監査基準と目的の違い)

CSR監査が企業の社会的責任に焦点を当てるのに対し、サプライチェーン監査は事業運営の実務的な側面も重視します。

項目 CSR監査 サプライチェーン監査
主な監査基準 労働環境や環境保護といった社会的な基準が中心 社会的基準に加え、情報セキュリティや事業継続計画(BCP)など実務的な運用面も含む
主な目的 企業の社会的責任(CSR)を果たし、社会的な信頼を獲得すること リスク低減と価値創造を両立させ、企業の持続的な成長を支えること
性格 社会貢献や倫理的側面に重きを置く より戦略的かつ包括的なリスク管理の性格を持つ
CSR監査とサプライチェーン監査の比較

各監査の位置づけと実務における使い分け

これらの監査は目的に応じて使い分けられ、組み合わせて実施されることが一般的です。サプライチェーン監査は、他の監査を統合した高度なリスク管理手法と位置づけられます。実務では、事業への影響度やリスクの大きさを評価して監査対象を絞り込む「リスクベースアプローチ」に基づき、特定の重要部材の供給元やリスクが高い地域に対し、重点的にサプライチェーン監査を適用します。組織の規模や経営戦略に応じてこれらの監査を組み合わせることが、実効性のある統制環境の構築につながります。

サプライチェーン監査の主要な監査項目

人権・労働環境(強制労働、児童労働、労働時間など)

人権と労働環境の項目では、国際的な労働基準や各国の法令に基づき、不当な労働搾取が行われていないかを厳格に検証します。

主な監査項目(人権・労働環境)
  • 強制労働児童労働といった、いかなる形態の非人道的な労働の有無
  • 外国人技能実習生など、特に脆弱な立場にある労働者の不適切な処遇(賃金未払い、劣悪な居住環境など)の有無
  • 法定労働時間や休日、賃金に関する規定の遵守状況
  • 従業員への直接ヒアリングを通じたハラスメントや差別の実態把握

労働安全衛生(労働災害防止、化学物質管理など)

労働安全衛生の項目では、従業員が安全かつ健康に働ける環境が維持されているかを評価します。

主な監査項目(労働安全衛生)
  • 機械設備の安全装置の設置や定期点検など、労働災害を未然に防ぐ体制の整備状況
  • 有害な化学物質の適切な管理(安全データシート(SDS)の周知、保護具の着用、作業環境測定など)
  • 火災や爆発事故を防ぐための消防設備の点検や避難訓練の実施記録
  • 従業員の健康管理に関する取り組み(健康診断の実施など)

環境(廃棄物、汚染、エネルギー消費など)

環境に関する項目では、事業活動が環境に与える負荷を最小限に抑えるための取り組みを評価します。

主な監査項目(環境)
  • 廃棄物の適法な分別・処理、および不法投棄による土壌・水質汚染リスクの管理状況
  • サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(スコープ3)の算定と削減への取り組み
  • エネルギー消費量のモニタリングと削減目標の達成状況
  • 資源を有効活用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)への適合性
  • 各国の環境関連法規や基準の遵守状況

企業倫理(贈収賄防止、公正な取引など)

企業倫理の項目では、公明正大な事業運営を支える規範が組織全体に浸透しているかを確認します。

主な監査項目(企業倫理)
  • 贈収賄を防止するための社内規程の整備と、実効性のある内部通報制度の運用状況
  • 独占禁止法や下請法を遵守し、優越的地位の濫用など不公正な取引が行われていないか
  • 競合他社とのカルテルや談合といった不正行為の有無
  • 知的財産の尊重や、ステークホルダーに対する適切な情報開示の姿勢

情報セキュリティと事業継続計画(BCP)

情報セキュリティと事業継続計画(BCP)の項目では、サイバー攻撃や自然災害といった不測の事態においても供給を止めないための体制を評価します。

主な監査項目(情報セキュリティ・BCP)
  • 取引先のITシステムにおけるアクセス制御、ログ管理、脆弱性対策などの実施状況
  • 機密情報や個人情報の漏洩・改ざんリスクに対する管理体制
  • 自然災害やシステム障害を想定した事業継続計画(BCP)の策定と、その実効性を検証する定期的な訓練の実施状況
  • サプライチェーンの寸断に備えた代替調達先や代替生産ラインの確保状況

サプライチェーン監査の進め方|計画から是正措置までの流れ

ステップ1:監査計画の策定と準備(対象範囲・基準の決定)

最初のステップでは、監査の目的、範囲、基準を明確に定め、効率的な実施に向けた準備を行います。

監査計画・準備の主な手順
  1. 監査目的と対象範囲(国、地域、取引先など)を明確に定義します。
  2. 事業への影響度や潜在的なリスクを評価し、監査の優先順位を決定します。
  3. ISO規格や業界の行動規範、自社独自のガイドラインなど、適用する監査基準を選定します。
  4. 取引先に自己評価質問票を送付し、事前に課題を把握した上で、具体的な監査スケジュールを立案します。
  5. 監査チームの編成や関係部署との役割分担を決定します。

ステップ2:監査の実施(書類審査・現地視察・インタビュー)

計画に基づき、監査員が現地を訪問して直接的な検証を行います。複数の手法を組み合わせて、多角的に実態を把握します。

主な監査手法
  • 書類審査: 規程集、作業記録、許認可証、契約書などを閲覧し、ルールと実務の整合性を確認します。
  • 現地視察: 生産ラインや倉庫などを直接観察し、設備の安全管理、環境対策、労働環境などを評価します。
  • インタビュー: 経営層から現場の作業員まで幅広い階層にヒアリングを行い、書面ではわからない実情や組織風土を把握します。

ステップ3:監査報告と評価(結果の分析と報告書作成)

監査で収集した客観的な証拠に基づき、結果を分析・評価し、報告書としてまとめます。

監査報告・評価の主な手順
  1. 収集した情報や記録(証拠)を監査基準と照らし合わせ、適合・不適合を判断します。
  2. 不適合事項については、その重要性や事業への影響度に応じて深刻度を評価(格付け)します。
  3. 良好な点と改善が必要な点を明記した、具体的で分かりやすい監査報告書を作成します。
  4. 作成した監査報告書を経営陣や関連部署に報告し、結果を共有します。

ステップ4:是正措置の要求とフォローアップ

監査で不適合事項が発見された場合、改善を促し、その進捗を継続的に確認します。

是正・フォローアップの主な手順
  1. 監査結果に基づき、取引先に対して改善を求める是正措置を要求します。
  2. 問題の根本原因を分析させ、実効性のある再発防止策を含む行動計画の提出を求めます。
  3. 提出された計画の妥当性を評価し、改善の進捗状況を定期的にモニタリングします。
  4. 必要に応じて現地を再訪するフォローアップ監査を実施し、是正措置が完了・定着したことを確認します。

監査結果の共有とサプライヤーとの建設的な対話の進め方

監査結果の共有は、一方的な指摘の場ではなく、取引先との信頼関係を深めるための建設的な対話の機会と捉えることが重要です。なぜ改善が必要なのかという背景や、改善が双方の持続的な成長にどう貢献するかといった共通の目的を丁寧に説明します。取引先の実情にも配慮しながら共に解決策を探る姿勢が、サプライチェーン全体の質的向上と長期的なパートナーシップの構築につながります。

サプライチェーン監査の実施によるメリットと効果

サプライチェーンにおけるリスクの可視化と低減

監査を通じて、自社の目が届きにくい下流の取引先に潜むリスクを可視化できます。潜在的な人権・環境問題や、部材の供給遅延につながる要因を早期に特定し、対策を講じることで、大規模な供給途絶やブランド価値を毀損する不祥事を未然に防ぎます。これにより、組織のレジリエンスが強化され、安定した事業基盤が確保されます。

法令遵守(コンプライアンス)と企業ブランド価値の向上

各国の労働法や環境法などの法規制を遵守していることを客観的に示すことは、法的制裁のリスクを回避するだけでなく、企業の社会的責任を果たす姿勢のアピールにもなります。倫理的な調達を実践する企業として顧客や投資家からの信頼が高まり、企業ブランドの価値向上につながります。これは、優秀な人材の獲得や新規取引、資金調達においても有利に働きます。

サプライヤーとの関係強化と持続可能な調達の実現

監査をきっかけとした対話は、単なる価格や納期だけの関係を超え、強固なパートナーシップを築く機会となります。課題解決に向けた共同の取り組みは、取引先の管理能力や技術力の向上を促し、供給網全体の品質向上に貢献します。相互理解を深めることで、外的要因に左右されにくい持続可能な調達体制が実現し、企業の長期的な成長を支えます。

監査結果の経営活用とサステナビリティ情報開示への応用

監査で得られたデータや改善実績は、経営戦略を策定する上で重要な判断材料となります。自社の供給網が抱える強みと弱みを客観的に分析し、リソースの重点配分や事業ポートフォリオの見直しに役立てることができます。また、これらの実績をサステナビリティレポートなどで開示することにより、非財務情報の信頼性が高まり、ESG投資を重視する機関投資家からの評価獲得につながります。

外部監査機関の選び方と委託時のポイント

自社監査(内部監査)と外部委託の判断基準

監査の実施方法には自社で行う内部監査と、専門機関に委託する外部監査があります。それぞれに利点があり、目的や状況に応じて使い分けることが重要です。

項目 自社監査(内部監査) 外部委託
メリット ・社内事情に精通しているため、実態に即した監査が可能<br>・コストを比較的低く抑えられる ・高度な専門知識や最新の規制動向に基づいた評価が可能<br>・第三者の視点による客観性と透明性が担保される
デメリット ・客観性や専門性の担保が難しい場合がある<br>・内部の人間関係による手心が加わる可能性がある ・比較的高コストになる傾向がある<br>・社内の個別事情への理解に時間がかかる場合がある
選択基準 ・定型的な監査<br>・内部統制の日常的なモニタリング ・高度な専門性が求められる監査<br>・海外拠点など自社での対応が困難な場合<br>・第三者への説明責任が強く求められる場合
自社監査と外部委託の比較

また、一部を自社で、専門的な部分を外部に委託するコソーシングという形態も有効な選択肢です。

監査機関を選定する際の比較検討ポイント

外部監査機関を選定する際は、複数の候補を比較し、自社のニーズに最も合致したパートナーを選ぶことが重要です。

監査機関の選定ポイント
  • 自社の業種や監査対象領域における専門知識と豊富な実績
  • 対象国の言語や法規制、商習慣への精通度
  • 監査品質を担保するための内部体制や監査員の資格(例: APSCA認定)
  • 報告書の具体性や、ビジネスの文脈に沿った改善提案の能力
  • 監査費用と提供されるサービスのバランス

外部委託する際の注意点と円滑な連携のコツ

外部機関に委託する際は、事前の取り決めと円滑なコミュニケーションが成功の鍵となります。

外部委託する際の注意点
  • 契約時に監査の範囲、責任分担、成果物の形式、費用などを書面で明確に定義する。
  • 機密情報の取り扱いに関する守秘義務契約を締結し、情報漏洩リスクに備える。
円滑な連携のコツ
  • 委託先を単なる業者ではなく、共通の目的を持つパートナーとして尊重する。
  • 定期的な進捗会議などを設け、懸念事項をリアルタイムで共有できる体制を構築する。
  • 自社の担当者が監査に可能な限り立ち会い、外部の専門知識を社内に蓄積する機会とする。

サプライチェーン監査に関するよくある質問

Q. サプライチェーン監査に法的な実施義務はありますか?

A. 現時点の日本国内法では、全ての企業に一律でサプライチェーン監査を義務付ける法律は存在しません。しかし、人権尊重に関する政府ガイドラインが策定されるなど自主的な取り組みへの要請は強まっています。また、欧州などでは関連法規によって供給網全体の調査が義務化されており、グローバルに事業展開する企業にとっては事実上の必須要件となりつつあります。

Q. 監査の頻度はどの程度が適切でしょうか?

A. 一般的には、2年に1回程度の定期監査が一つの目安とされます。ただし、これは画一的なものではなく、取引先の重要度、過去の監査結果、所在国のリスクレベルなどに応じて柔軟に調整すべきです。重大なリスクが認められた拠点には、半年や1年ごとなど、より高い頻度でフォローアップ監査を実施することもあります。

Q. 中小企業でもサプライチェーン監査は必要ですか?

A. 必要性が高まっています。大企業のサプライチェーンを構成する中小企業に対して、取引継続の条件として監査への対応を求めるケースが増加しています。規模にかかわらず、持続可能な経営体制を構築し、それを対外的に示すことは、新たなビジネス機会の獲得や顧客からの信頼維持に不可欠です。まずは自社のできる範囲から管理体制を整備することが推奨されます。

Q. 監査で問題が見つかった場合、サプライヤーとの取引はどうすべきですか?

A. 問題が発覚しても、直ちに取引を停止するのは最終手段と考えるのが原則です。まずは対話を通じて改善を促し、是正に向けた取り組みを支援することが、サプライチェーン全体のレベルアップにつながります。ただし、再三の指導にもかかわらず重大な違反が改善されない場合や、改善の意思が見られない場合には、取引関係の見直しを検討する必要があります。

Q. 監査にかかる費用や期間の目安を教えてください。

A. 費用や期間は、対象拠点の規模、監査の深度、移動距離、委託する監査機関などによって大きく変動するため、一概には言えません。一般的に、監査の計画から報告書の完成までには、全体で数ヶ月を要することが多いです。効率的に監査を行うためには、リスクベースアプローチに基づき、リスクの高い領域にリソースを集中させることが重要です。

まとめ:リスク管理と企業価値向上を実現するサプライチェーン監査

本記事で解説したように、サプライチェーン監査は、法令遵守の枠を超え、供給網全体のリスクを可視化し、事業の強靭性を高めるための戦略的な取り組みです。人権・労働環境から情報セキュリティまで、多岐にわたる項目を網羅的に評価することで、潜在的な問題を早期に発見し、ブランド価値の毀損を防ぎます。監査の成功は、計画的なプロセスと、監査後の是正措置、そして何よりもサプライヤーとの建設的な対話にかかっています。自社での実施が難しい場合は、専門的な外部機関の活用も有効な選択肢となるでしょう。サプライチェーン監査を適切に導入・運用することは、企業の社会的責任を果たし、持続可能な成長と競争優位性を確立するための不可欠な一歩と言えます。

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