金融機関が納得する経営改善計画書の書き方|構成要素から専門家への依頼まで解説
金融機関から融資継続や返済条件変更のために経営改善計画書の提出を求められ、何から手をつければよいかお悩みではないでしょうか。この計画書は、企業の未来を左右する重要な「再生の設計図」であり、その出来栄えが金融機関の判断に直結します。この記事では、金融機関を納得させる経営改善計画書の目的や基本構成から、各項目の具体的な書き方、さらには専門家の活用法までを網羅的に解説します。
経営改善計画書とは?目的と金融機関の評価ポイント
経営改善計画書の目的と提出が必要になる場面
経営改善計画書とは、企業の財務状況と事業内容を客観的に分析し、そこから明らかになった経営課題を解決するための具体的な行動計画と数値目標をまとめた文書です。これは単なる社内資料ではなく、経営の安定化や成長を促す「再生の設計図」としての役割を担います。
経営改善計画書は、特に企業の資金繰りが悪化し、金融機関からの支援が必要になった際に重要な意味を持ちます。計画書の作成は、赤字に転落した初期段階で着手することが理想的です。問題を先送りせず、早期に対策を講じることが、深刻な事態に陥る前での立て直しを可能にします。
- 金融機関に返済条件の変更(リスケジュール)を要請する場合
- 新規融資や追加融資を申し込む場合
- 事業承継にあたり、後継者に経営状況と改善策を明確に引き継ぐ場合
- 経営者自身が自社の課題を客観的に把握し、経営戦略を再構築する場合
金融機関はどこを見る?評価される計画書の3つの条件
金融機関は経営改善計画書を評価する際、主に3つの条件を重視します。これらの条件を満たすことで、計画書は金融機関との信頼関係を再構築するための強力なツールとなります。
- 計画の実現可能性: 過去の実績や市場動向に基づいた、現実的な数値目標が設定されているか。一般的には、高い蓋然性をもって達成可能と見込まれる内容が求められます。
- 財務諸表間の整合性: 損益計画、貸借対照表、資金繰り計画の数値が論理的に連動しているか。利益が出ていても、運転資金の増加などを考慮した結果、資金ショートを起こさないことが重要です。
- 経営者の当事者意識と自助努力: 役員報酬の減額や私財提供、不採算事業からの撤退など、経営者が痛みを伴う改革を断行する強い意志と覚悟が示されているか。
計画書作成の全体的な流れと基本的な手順
経営改善計画書の作成は、体系的な手順に沿って進めることで、網羅的かつ説得力のある内容に仕上げることができます。以下に、その基本的な流れを示します。
- 現状分析(デューデリジェンス): 過去数年分の決算書や試算表を基に、財務状況と事業内容を客観的に分析・評価します。
- 経営課題の抽出と改善方針の決定: 分析結果から根本的な経営課題を特定し、経営理念に沿った改善の基本方針を定めます。
- 具体的な改善施策の立案: 売上向上やコスト削減など、課題解決のための具体的なアクションを策定します。
- 数値計画への落とし込み: 施策を実行した場合の損益計画や資金繰り計画を3年から5年の中長期で作成し、返済能力を数値で示します。
- アクションプランの作成: 「誰が」「いつまでに」「何を行うか」を明確にした詳細な行動計画を作成します。
- 金融機関との協議・合意形成: 完成した計画書案を基に金融機関と協議を重ね、内容の合意を目指します。
- モニタリング体制の構築: 計画策定後の進捗を定期的に確認し、必要に応じて軌道修正を行う体制を整えます。
経営改善計画書の基本構成と各項目の書き方
項目①:企業の現状分析(事業概要・財務状況)
現状分析は、計画全体の土台となる最も重要な部分です。ここでは、財務デューデリジェンス(財務分析)と事業デューデリジェンス(事業分析)の両面から、客観的な事実を記述します。
財務分析では、過去数期分の財務諸表を基に収益性や安全性を評価します。回収不能な債権や過剰在庫、簿外債務などを洗い出し、実態の純資産額を把握する「実態貸借対照表」を作成することが重要です。
事業分析では、自社のビジネスモデル、市場での立ち位置、強みと弱み(SWOT分析など)を整理し、なぜ経営が苦しくなったのかという窮境原因を根本から特定します。この分析が詳細かつ客観的であるほど、後の改善策の説得力が高まります。
項目②:経営課題の抽出と原因分析
現状分析の結果に基づき、解決すべき具体的な経営課題を抽出します。ここでは、「売上が減少した」という表面的な現象だけでなく、「なぜ売上が減少したのか」という根本原因を深掘りすることが重要です。
課題は、自社の努力でコントロール可能な内部環境(例:コスト構造、生産性、組織体制)の問題に焦点を当てて記述します。特定した課題は、重要度や緊急性に応じて優先順位をつけ、論理的に整理します。精神論ではなく、どの業務プロセスのどの指標に問題があるのかを数値的な根拠と共に示すことで、計画の説得力が増します。
項目③:具体的な経営改善施策(売上向上・コスト削減)
抽出した経営課題を解決するため、具体的な改善施策を「売上向上」「コスト削減」「事業構造の再構築」の観点から立案します。各施策は、誰が、いつまでに、何を行うかを明確にし、現場が実行できるレベルまで具体化する必要があります。
- 売上向上策: 新規顧客開拓、既存顧客への深耕営業、新商品・サービスの開発、販売チャネルの見直しなど。
- コスト削減策: 原材料費や外注費の見直し、業務効率化による生産性向上、遊休資産の売却、役員報酬の減額など。
- 事業構造の再構築: 不採算事業からの撤退、事業拠点の統廃合、組織体制の変更など。
これらの施策が、最終的に財務数値のどの項目(売上、利益、キャッシュフローなど)を改善させるのかを明確に紐付けて記述します。
項目④:数値計画(損益計画・資金繰り計画)の策定方法
数値計画は、改善施策を実行した結果、企業の財務状況が今後どのように推移するかを予測するものです。損益計画と資金繰り計画は必ずセットで作成し、両者の整合性を保つことが不可欠です。
損益計画では、売上や経費を月次単位で詳細に見積もり、数年以内に経常黒字化し、債務超過を解消する道筋を示します。売上予測は、過去の実績や確定している受注状況などを基に、保守的(堅実)に立てることが基本です。
資金繰り計画では、損益上の利益だけでなく、売掛金の回収や買掛金の支払い、借入金の返済といった現金の出入りを正確に予測します。利益が出ていても現金が不足する「黒字倒産」を避けるため、キャッシュフローの動きを精密にシミュレーションすることが極めて重要です。複数のシナリオを想定し、リスク耐性を確認することも有効です。
項目⑤:資金計画と返済計画の立て方
返済計画は、策定した資金繰り計画に基づき、金融機関への借入金を無理なく返済していくスケジュールを具体的に示すものです。返済の原資は、原則として税引後当期純利益に減価償却費を加えた簡易キャッシュフローを基礎として検討されます。
返済可能額を算出する際は、将来の設備投資や不測の事態に備える資金を確保した上で、残りの範囲内で設定します。有利子負債を年間のキャッシュフローで割った「債務償還年数」が、おおむね10年~15年以内に収まる計画が望ましいとされています。
リスケジュールを要請する場合は、どの程度の返済猶予が必要で、いつから正常な返済に戻れるのかを論理的に説明します。複数の金融機関から借り入れがある場合は、債権者間の公平性を保った計画を提示することが重要です。実現可能な返済計画は、金融機関からの長期的な信頼と支援を得るための鍵となります。
計画の実現可能性を示すアクションプランの盛り込み方
アクションプランは、経営改善施策を日々の業務レベルまで落とし込んだ具体的な行動予定表であり、計画の実現可能性を担保する上で不可欠です。数値計画が「ゴール」なら、アクションプランはそこに至るまでの「手順書」と言えます。
- 課題・施策内容: 解決すべき課題と、それに対応する具体的な改善策。
- 実施時期: 施策を開始し、完了するまでの具体的なスケジュール(開始月、終了月など)。
- 担当部署・責任者: その施策の実行責任を負う部署や担当者を明確に指定。
- KPI(重要業績評価指標): 施策の進捗や達成度を測定するための具体的な数値指標(例:月間訪問件数、成約率、コスト削減額など)。
また、計画の進捗を定期的に確認するモニタリングの仕組みも明記します。これにより、計画が絵に描いた餅で終わらず、着実に実行される体制があることを示し、金融機関からの信頼を高めます。
計画書の説得力を高めるための注意点とコツ
根拠のある客観的なデータを用いる
計画書の説得力は、主観的な希望的観測ではなく、客観的なデータによる裏付けによって大きく左右されます。売上予測などには、自社の過去の実績に加え、公的機関が発表する統計や業界団体の資料などを活用し、第三者が見ても妥当性のある根拠を示します。データをグラフや図表で視覚的に示すことも、理解を助ける上で有効です。
抽象的な表現を避け、具体的な行動計画を示す
「頑張る」「努力する」といった抽象的な精神論は避け、「いつ、誰が、何を、どのように実行するか」を具体的に記述します。例えば「コストを削減する」ではなく、「ペーパーレス化の推進により、20XX年度の印刷関連費用を前年比で15%削減する」のように、行動と目標数値を明確にします。具体的な記述は、経営陣が課題解決のプロセスを深く理解している証拠となります。
経営者の改善への強い意志を伝える
計画書は、最終的に経営者自身が実行責任を負うものです。その覚悟を示すため、役員報酬の減額や私財提供といった自助努力を具体的に盛り込むことが有効です。また、なぜこの事業を再生させたいのかという経営者の想いを、自身の言葉で誠実に記述することも、金融機関担当者の共感を得る上で効果的です。経営者が計画策定に主体的に関与し、その内容を細部まで説明できることが、何よりの意志の証明となります。
計画書提出前に金融機関担当者と共有すべきこと
完成した計画書を突然提出するのではなく、作成の早い段階からメインバンクの担当者と情報共有し、方向性について相談しておくことが重要です。ドラフトの段階で意見交換を行うことで、金融機関側の懸念を事前に解消し、スムーズな合意形成に繋がります。特に、返済猶予の期間や他行との調整方針など、重要な論点については事前調整が不可欠です。
専門家の活用も検討|認定支援機関への相談
認定支援機関(経営革新等支援機関)とは?
認定支援機関とは、中小企業の経営課題解決を支援する専門家として、国が認定した機関や個人の総称です。税理士、公認会計士、中小企業診断士といった専門家のほか、金融機関や商工会議所なども認定を受けています。国が専門知識や実務経験を審査しているため、安心して相談できるパートナーとなります。経営改善計画の策定だけでなく、補助金申請や資金調達など、幅広い経営相談に対応しています。
専門家に作成を依頼するメリットとデメリット
自社だけで計画を作成するのが困難な場合、専門家の活用は有効な選択肢です。ただし、メリットとデメリットを理解した上で依頼することが重要です。
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 計画の質 | 客観的で精度の高い分析に基づき、金融機関が納得する計画を策定できる | 専門家との相性や得意分野が自社に合わないリスクがある |
| 経営者の負担 | 書類作成や金融機関交渉の負担が減り、本業の立て直しに専念できる | 専門家に任せきりにすると、経営者の当事者意識が薄れる可能性がある |
| コスト | 国の補助金制度を活用すれば、費用負担を大幅に軽減できる | 専門家への報酬(着手金や成功報酬)が発生する |
専門家への依頼費用の相場と補助金の活用
専門家への依頼費用は、企業の規模や課題の難易度により数十万円から数百万円と幅がありますが、国の補助金制度を活用することで負担を軽減できます。
代表的な制度が「経営改善計画策定支援事業(通称:405事業)」です。認定支援機関の支援を受けて本格的な経営改善計画を策定する場合、専門家費用の3分の2(上限あり)が国から補助されます。これにより、実質3分の1の自己負担で質の高い支援を受けることが可能です。
専門家選びで失敗しないための確認事項
専門家選びは、計画の成否を左右する重要なプロセスです。依頼先を決定する前に、以下の点を確認しましょう。
- 自社の業種や課題に近い分野での支援実績が豊富か
- 金融機関との交渉経験は十分か
- 料金体系が明確で、支援の範囲がはっきりしているか
- 経営者の想いを理解し、分かりやすい言葉で対話できるか(相性)
経営改善計画書に関するよくある質問
計画通りに業績が改善しなかった場合はどうなりますか?
計画通りに進まないことは起こり得ます。重要なのは、その事実を隠さず、速やかに金融機関へ報告し、誠実に対応することです。
- 問題が発覚した時点で、速やかに金融機関へ状況を報告する。
- 計画と実績が乖離した原因を客観的に分析する。
- 具体的なリカバリー策(軌道修正案)を策定し、提示する。
- 必要に応じて計画を修正し、再度金融機関の合意を得る。
金融機関は、結果だけでなく、問題に対して真摯に向き合う経営者の姿勢も評価します。
日本政策金融公庫向けの計画書で特に注意すべき点はありますか?
日本政策金融公庫は公的金融機関であるため、計画書には一般的な返済能力に加え、事業の継続がもたらす社会的な意義(雇用の維持など)を盛り込むと、より説得力が増す場合があります。また、公庫が公表している業種別の経営指標などを参考に、自社の立ち位置を客観的に示すことも有効です。公庫所定のフォーマットを基本としつつ、分かりやすい補足資料を添付すると親切です。
計画書の適切なボリューム(ページ数)はどのくらいですか?
企業の規模や状況によりますが、一般的にはA4用紙で10~20ページ程度が一つの目安です。ただし、重要なのはページ数ではなく、内容の密度です。現状分析から改善施策、数値計画までが論理的に一貫しており、説得力があるかどうかが問われます。一般的な市場分析などは簡潔にまとめ、自社固有の課題と具体的な行動計画に内容を集中させましょう。
簡易的な計画書で対応できるケースはありますか?
はい、あります。業績悪化がまだ初期段階である場合や、資金繰りの問題が一時的なものである場合は、「早期経営改善計画策定支援(通称:プレ405事業)」の枠組みを活用し、簡易的な計画書で対応できることがあります。これは、本格的な再生計画よりも簡素な様式で、資金繰りの改善やビジネスモデルの確認を主目的とするものです。
計画提出後の進捗報告(モニタリング)はどのように行うべきですか?
計画の合意後は、定期的な進捗報告(モニタリング)が不可欠です。これにより金融機関との信頼関係が維持されます。
- 月次報告: 毎月、月次試算表や資金繰り実績表を金融機関に提出する。
- 定例報告会: 3ヶ月に1度など、定期的に対面での報告会(バンクミーティング)を開催する。
- 報告内容: アクションプランの進捗状況と数値目標の達成度を報告し、課題や今後の対策について協議する。
この継続的なコミュニケーションが、将来の追加支援などを円滑に進めるための土台となります。
まとめ:実現可能な計画書で、事業再生の第一歩を踏み出す
本記事では、金融機関を納得させる経営改善計画書の作成方法を、構成要素から具体的な記載ポイントまで解説しました。重要なのは、客観的なデータに基づく現状分析、実現可能性の高い改善策、そして整合性の取れた数値計画を論理的に結びつけることです。単なる書類作成に留まらず、経営者自身の強い意志と自助努力を示すことが、金融機関との信頼関係を再構築する鍵となります。計画書の作成は、自社の課題を根本から見つめ直し、筋肉質な経営体質へと転換させる絶好の機会です。自力での作成に不安がある場合は、認定支援機関など専門家の力を借りることも有効な選択肢と言えるでしょう。まずはこの記事を参考に、事業再生に向けた確かな一歩を踏み出してください。

