役員報酬返還請求の可否|判例と手続で返還義務の境界を確かめる
役員報酬返還請求は、株主総会決議や定款の手続を経ないまま支給してきた報酬について、会社法上どこまで会社が返還を求められるかが正面から問われるテーマです。放置すると、不当利得(民法第703条)や任務懈怠(会社法第423条)での紛争化に加え、源泉徴収や損金算入の整理が崩れて実務対応が後追いになりやすくなります。返還請求と自主返納をどちらで設計するか、決議欠缺・限度額超過・全株主同意の立証をどう組み立てるか、そして税務処理まで一続きで判断できる状態を作ることがポイントです。以下では、返還可否の判断材料として会社法上の枠組みと実務の確認順を示します。
役員報酬返還請求の全体像
争点は請求方向で分ける
役員報酬を巡る紛争は、主に「会社→役員」の既払い報酬の返還請求と、「役員→会社」の未払い報酬の支払請求に分けて整理すると、論点の取り違えを防げます。前者は、(i) 株主総会決議・定款授権などの会社法上の根拠を欠く支給として不当利得(民法第703条)で返還を求める構成と、(ii) 手続を経ずに支給させた取締役らの善管注意義務違反・忠実義務違反を理由に会社損害の賠償を求める構成が中心です。後者は、そもそも報酬が「労働の対価(賃金)」ではなく、取締役の委任関係の対価(報酬)である点を踏まえ、定款・株主総会決議等により報酬請求権が成立しているかが核心になります。
また、実務上は「役員給与・人件費」の税務調査の観点から、総会決議・定款の限度額を超える部分が過大役員給与として損金不算入になり得る(法令70の趣旨)点が、返還交渉の背景事情として争点化しやすいです。法務(会社法上の有効性)と税務(損金算入・源泉)の二本立てで、当事者が拠るべき根拠を早期に棚卸しすることが重要です。
返還請求と自主返納を区別する
「返還請求(法律上の原因がない支給の是正)」と「自主返納(確定した報酬請求権の放棄・免除)」は、法的性質も税務上の処理も異なるため、同じ“返した”でも結論がぶれます。
| 区分 | 法的な位置付け | 会社側の主張構成 | 税務・源泉で問題になりやすい点 |
|---|---|---|---|
| 返還請求 | 報酬決定が無効等で法律上の原因がない給付の是正 | 不当利得(民法第703条)を中心に、必要に応じて任務懈怠による損害賠償(会社法第423条)も検討 | 「そもそも支給が有効だったか」を前提に修正申告・更正の請求等の要否を検討しやすい |
| 自主返納 | 役員が受領(または受領権)を辞退する私法上の合意・権利放棄 | 会社は債務免除を受ける側になり得る | 未払役員給与の受領辞退は、原則として免除時点で「支払があったもの」として源泉徴収が必要とされる(所得税基本通達28-10等の考え方) |
特に、未払の役員給与を「業績悪化だから受領しない」とした場面は、源泉徴収漏れが問題化しやすいです。給与等の支払者が未払金につき債務免除を受けた場合、原則として免除時点で支払があったものとして源泉徴収を行う整理が示されています(所得税基本通達28-10、181〜223共3の考え方)。例外として、本来の支給日前の辞退や、特別清算開始命令、破産・再生・更生手続開始決定、会社整理状態での債務切捨て協議といった特殊事情の下では、源泉徴収しなくて差し支えない場合があるとされています。返還スキームを誤ると、法務面の整合は取れても、源泉・法人税で追加負担が生じ得るため、最初に区別して設計します。
会社法上の役員報酬の決め方
会社法361条と報酬決定
取締役の報酬は、原則として定款の定め又は株主総会決議で定める必要があります(会社法第361条)。同条は、形式だけでなく「何を決めるべきか」も要求しており、少なくとも次のように整理できます。
- 確定金額報酬は「その額」を定めます。
- 不確定金額報酬は「具体的な算定方法」を定めます。
- 募集株式・募集新株予約権等を用いる場合は「数の上限その他法務省令事項」を定めます。
- 募集株式・募集新株予約権等以外の非金銭報酬は「具体的な内容」を定めます。
手続が厳格なのは、お手盛り防止と株主保護のためであり、決定事項の欠落は「決議があるようで実は足りない」という形で無効・争訟リスクを生みます。加えて税務面では、株主総会決議又は定款で定めた限度額を超える部分は、過大役員給与として損金不算入となり得る(法令70の趣旨)ため、会社法上の適法性と税務上の適正性が同じ資料(議事録・定款)に依存する点が実務上の要点です。
定款と株主総会決議の役割
役員報酬の授権は定款又は株主総会決議で行いますが、実務では株主総会決議で総額の限度を定め、個別配分を社内に委ねる運用が多いです。ただし、決議書面を整えるだけで足りず、株主総会の参考書類・議案設計として、次の情報を揃えておくと後日の争いと税務否認に強くなります。
- 取締役報酬を相当とする理由を説明できるようにします。
- 報酬等の算定基準を明確にします。
- 既存の報酬等を変更する場合は変更の理由を示します。
- 2人以上の取締役(監査役)を対象にする場合は、当該定めに係る員数を記載します。
- 退職慰労金議案で退任者がいる場合は、退職する各取締役・各監査役の略歴を用意します。
また、実務上よく起きる落とし穴として「定款に限度額が書かれていたのを失念していた」「前年と同じ限度額を漫然と決議し続け、実態として超過が発生していた」などが挙げられ、調査局面では超過部分が過大役員給与として問題化しやすいとされています。会社法上も、限度額超過は授権の枠外であり、返還請求の起点になり得ます。
取締役会配分と再委任の範囲
株主総会で取締役報酬の枠(上限)を定めた後、個別配分を取締役会で決め、さらに代表取締役へ一任する運用はあり得ますが、後で「代表が恣意的に決めた」と評価されると、配分決定の有効性が崩れやすいです。そこで、委任・再委任の局面では、基準の見える化と記録が重要になります。
- 一任の決議が「何を」「どの範囲で」任せるのかが客観的に読めるようにします。
- 算定基準(職務内容・責任・業績連動など)を、取締役会の決議・規程・参考書類のいずれかで固定します。
- 報酬の種別(基本報酬・業績連動報酬・株式報酬)を区分して説明できるようにします。
開示・説明の観点では、取締役および監査役の「支給人数」と「報酬等の総額」を、基本報酬・業績連動報酬・株式報酬に区分して整理する様式が示されており、少なくとも社内管理資料として同様の区分管理をしておくと、後日の立証(いつ、誰に、何の名目で、いくら)が容易になります。なお、取締役の報酬総額には、使用人兼務取締役の使用人分給与は含めない取扱いで整理されます(区分管理が前提になります)。
株主総会決議なしの返還請求
決議なしで請求権は生じるか
株主総会決議(又は定款授権)がない場合、取締役の報酬請求権は原則として成立しない、という整理が出発点になります(会社法第361条)。この場合、会社としては「そもそも支給の根拠がない」ことを主張しやすく、返還請求(不当利得)に接続します。
他方で、例外的に「全株主の同意」等により実質的な授権があったかが問題になります。ここで重要なのは、単に“同族で揉めていなかった”ではなく、株主が報酬の内容を把握し、承認したと言える客観資料があるかです。税務調査実務でも、株主総会決議・定款で定めた限度額を超えていないかの確認が重要視されるため、決議がない状態は会社法・税務の両面で同時に不安定になります。
会社の返還請求の法的構成
決議なく支給した報酬の返還は、まず不当利得返還(民法第703条)として構成されます。次に、支給を主導した代表取締役や関与した取締役に対して、任務懈怠に基づく損害賠償(会社法第423条)を検討します。
- 受領した役員に対する不当利得返還請求(法律上の原因の不存在を基礎づけます)。
- 支給を決めた側に対する損害賠償請求(決議欠缺や限度額超過の看過を任務懈怠として位置付けます)。
税務面でも、定款・株主総会決議で定めた限度額を超える部分は過大役員給与として損金不算入となり得るため(法令70の趣旨)、会社は「会社法上無効で返還対象」という主張と「税務否認を招く支給だった」という事情を、整合的に組み立てる必要があります。
全株主同意の有無は誰が何で立証するか|議事録不備でも見る資料の順番
株主総会議事録がない場面で「全株主同意があったから有効」と主張するなら、原則として有効性を主張する側(多くは役員側)が、同意の存在を客観資料で説明できる状態にしておく必要があります。形式書類が欠けるときほど、資料の当たり順(優先順位)を決めて確認します。
- 総株主が署名押印した同意書・承諾書・決議書面の有無を確認します。
- 株主に交付された事業報告・計算書類・決算説明資料に、役員報酬の枠や変更理由が読み取れる記載があるか確認します。
- 税務提出資料(勘定科目内訳書の役員報酬欄、役員報酬の内訳管理表など)と社内帳票の整合を確認します。
- 報酬の算定基準(相当とする理由、算定基準、変更理由、対象員数)を説明できるメモ・稟議・取締役会記録があるか確認します。
口頭の了解や事後的推認だけでは、会社法上の授権を補うだけの「具体性ある同意」として評価されにくく、後から少数株主が問題提起した場合にも耐えません。
100%株主会社と少数株主がいる会社で結論が分かれやすい場面
100%株主会社では、実質的に株主意思が一元化しているため、手続の欠缺があっても全株主同意の認定に傾きやすい一方、少数株主がいる会社では、手続違反が株主保護を直撃するため、決議欠缺が厳格に評価されやすいです。
また、少数株主がいる場合は「決議で定めた限度額を超える支給」があると、会社法上の返還論だけでなく、税務上も超過部分が過大役員給与として損金不算入となり得る(法令70の趣旨)ため、説明責任のハードルが上がります。実務上は、社外取締役とそれ以外の取締役を区分して記載すべき情報があるなど、情報の出し方自体が争点になり得るため、形式整備を軽視しないことが重要です。
判例でみる返還義務の境界
返還請求を認めた事案の特徴
返還が認められやすいのは、(i) 決議欠缺・授権逸脱(限度額超過等)と、(ii) 実質的な不当性(貢献のない名義役員への高額支給、経営悪化下での独断増額等)が重なっている類型です。税務実務の観点でも、「不相当に高額な部分」は損金算入が認められない整理があり、同族関係者など名義上の役員に対する支給が問題になりやすいとされています。会社側としては、会社法上の無効・不当利得だけでなく、職務内容との乖離や比較可能資料(同一企業内の役職間の整合、報酬の算定基準)を組み合わせ、実質的不当性を具体化することが重要です。
権利濫用で否定した事案の特徴
会社側の返還請求が権利濫用(信義則)として否定されやすいのは、長年にわたり、株主が報酬を認識しながら決算承認等で実質的に容認してきたなど、役員側に「このまま受領してよい」という信頼が形成されている場合です。
もっとも、税務・源泉の局面では、たとえば未払役員給与の受領辞退をした場合、原則として免除時点で支払があったものとして源泉徴収が必要とされる整理があるため(所得税基本通達28-10等の考え方)、単に「返した/受け取らない」で整理すると別のリスクが出ます。権利濫用の抗弁が通り得る局面ほど、会社側は“争う目的の正当性”だけでなく、処理の一貫性(法務・会計・税務)も問われます。
権利濫用を主張する側・崩す側で拾う事情は何が違うか
同じ事案でも、権利濫用を主張する側(役員)と、それを崩す側(会社)では、集める事実の方向性が異なります。
| 立場 | 拾う事情(例) | 狙い |
|---|---|---|
| 役員側(権利濫用を主張) | 決算承認の積み重ね、報酬の算定基準が共有されていた経緯、支給が継続していた期間、職務内容と報酬の整合 | 会社が後から返還を求めるのは信義則違反と位置付けます |
| 会社側(権利濫用を崩す) | 会社法第361条に基づく決議欠缺、限度額超過(法令70の趣旨に照らした逸脱)、利益相反的な決定経緯、少数株主への説明欠如 | 形式違反の重大性と不当性を具体化して返還を基礎づけます |
実務では「報酬の算定基準」「変更理由」「対象員数」など、株主総会議案として説明すべき事項の欠落が、形式違反の中身を具体化する材料として効きます。
減額・返上・解任時の扱い
減額と不支給の手続要件
役員報酬を減額・不支給とする局面は、「将来分をどうするか」と「過去分をどう扱うか」で整理が異なります。将来分の減額は、原則として株主総会決議(又は定款)に基づく枠組みの見直しと、個別の同意・合理的理由の有無が問題になります。
税務実務上は、役員給与を期中で変動させていないかが調査ポイントとされており、手続・理由付けなく減額すると、会社法上の有効性だけでなく税務上の説明も困難になります。従業員の賃金が雇用契約に基づくのに対し、取締役報酬は委任関係に基づくため、労務的な「減給」発想のまま進めると、同意取得や決議設計が抜け落ちがちです。
解任前後の報酬等の扱い
任期途中の解任では、正当な理由がない限り、解任された取締役は損害賠償請求が可能です(会社法第339条)。損害には残任期間に得られたはずの報酬相当額が含まれ得ます。
一方で、解任・退任に伴い退職慰労金を議案化する場合、不祥事や業績低迷があると株主から厳しい質問が出やすいとされ、実務では「退職慰労金は在任中の職務執行の対価の後払いという側面がある」ことを丁寧に説明し、株主の納得を得る必要があります。退職慰労金について第三者一任を行う場合は、一定の基準の内容を株主が知り得るようにする措置を講ずるべきとされており、後日の紛争予防の観点でも基準の明確化が重要です。
いつの支給分から止めるか|月額報酬・賞与・退職慰労金で異なる線引き
支給停止の可否は、金銭の法的性質と「権利が既に確定したか」で線引きします。
- 月額報酬は、既に発生・確定した部分を一方的に止めると、未払いとして紛争化しやすいです。
- 賞与は、決議前で未確定なら、支給しない決定により止められる余地があります。
- 退職慰労金は、株主総会決議や規程により具体的受給権が成立する前なら、不支給決議により差し止めが問題になりにくいです。
税務・制度面では、分掌変更等により役員給与が「おおむね50%以上減少」した場合は、地位の変動があったとみて退職給与の支給を認め得るという考え方が示されています。また、取締役が監査役になった場合も「経営の第一線を退いた」として退職給与が認められ得ますが、監査役に就任しても実質的に経営上主要な地位を占める者や、オーナー一族など一定の持株要件を満たす者は除かれ得るとされます。支給停止・減額・退職慰労金の設計は、会社法だけでなく、こうした税務上の評価軸も踏まえて整合させる必要があります。
返還請求の実務対応と税務
社内決裁と合意書の進め方
返還請求を進める際は、「法的根拠の特定」「社内決裁」「合意書」の順に、証拠と処理を揃えます。特に、役員報酬は会社法上、確定額なら額、不確定額なら算定方法、非金銭なら内容を決めるべき枠組みがあるため(会社法第361条)、何が欠けていたのかを合意書で特定できないと、返還の法的性質が曖昧になります。
- 対象期間・対象者・支給名目(基本報酬・業績連動・株式報酬等)を確定し、決議・定款・規程との齟齬(限度額超過、決議欠缺)を整理します。
- 返還請求の根拠を、不当利得(民法第703条)か、任務懈怠(会社法第423条)か、または併用かで社内方針化します。
- 取締役会・株主総会で、返還請求・和解条件(分割、期限、遅延時措置等)の決裁を取ります。
- 合意書に、返還の理由(決議欠缺、限度額超過、算定基準逸脱等)と、返還金の性質(返還か返上か)を明記します。
税務会計で見る返還と返上
税務・源泉の観点では、同じ金銭の動きでも「返還(無効給付の是正)」と「返上(受領辞退・債務免除)」で取扱いが変わり得ます。特に、未払役員給与の受領辞退は、原則として免除時点で支払があったものとして源泉徴収が必要とされる整理があるため(所得税基本通達28-10等の考え方)、返上スキームを採る場合は源泉・帳簿処理の検討が不可欠です。
また、株主総会決議又は定款で定めた限度額を超える部分は過大役員給与として損金算入が認められなくなり得る(法令70の趣旨)ため、返還交渉の帰結として、超過部分をどのように是正し、申告関係をどう整えるかが実務論点になります。会社法上の無効・有効の主張と、法人税上の損金算入の整理が矛盾しないように、税務調査で確認されやすいポイント(源泉所得税関係の処理、役員給与の期中変動、過大役員給与・退職金)も同時に点検します。
請求前に法務・経理・人事で切り分ける確認事項|源泉税・仕訳・回収可能性の順で見る
返還請求は、請求書面を出す前に、法務・経理・人事で確認事項を切り分けないと、請求後に「源泉や仕訳が破綻する」形で手戻りが出ます。
- 源泉所得税の取扱いを確認し、受領辞退(債務免除)に当たる場合は免除時点の源泉徴収要否を検討します(所得税基本通達28-10等の考え方)。
- 会計処理を確定し、返還金を未収金・役員貸付金・過年度損益修正等のどの勘定で処理するか、社内基準を決めます。
- 回収可能性(資力・資産・所在)を確認し、必要なら民事保全(仮差押え等)を検討します。
また、取締役の報酬総額の整理では、使用人兼務取締役の使用人分給与を取締役報酬総額に含めないなど、区分管理が前提になります。返還対象が「報酬」なのか「使用人給与」なのかが混在すると、会社法上の授権と源泉・社会保険の実務がずれ、紛争を拡大させるため、報酬通知書等の資料で区分を確認します。
よくある質問
決議のない役員報酬は何年分まで返還請求できますか?
時効期間の議論に入る前に、実務上は「返還の法的構成が不当利得(民法第703条)なのか、任務懈怠による損害賠償(会社法第423条)なのか」で、起算点や主張立証が変わり得る点を先に整理します。そのうえで、消滅時効は民法の一般規定に従い、改正民法施行後は「権利を行使できることを知った時から5年」又は「権利を行使できる時から10年」といった枠組みで検討します(具体的な起算点は事実関係に依存します)。
なお、税務面では、総会決議・定款の限度額を超える部分が過大役員給与として損金不算入となり得る(法令70の趣旨)ため、返還範囲の検討は、会社法上の無効範囲(枠外・決議欠缺)と、税務上の否認範囲(不相当に高額、限度額超過)を切り分けて行う必要があります。
100%株主の社長でも株主総会決議は必要ですか?
必要です。取締役の報酬は定款又は株主総会決議で定める建付けであり(会社法第361条)、一人会社でも会社と株主は別人格である以上、手続を省略すると「決議欠缺」の弱点が残ります。
また、税務調査の観点でも、支給した役員給与が株主総会決議や定款の定めによる限度額を上回っていないかは確認事項とされ、失念や漫然決議により超過が生じている事例が見受けられるとされています。将来、事業承継や清算・倒産局面で過去の支給を精査されると、会社法上の返還請求(不当利得)と税務否認の双方が同時に問題化し得るため、100%株主会社ほど議事録・決議書面の整備が実務上の防御になります。
自主返納と返還請求で税務はどう違いますか?
自主返納(受領辞退・債務免除)に寄ると、原則として未払金の免除時点で「支払があったもの」として源泉徴収が必要とされる整理があり(所得税基本通達28-10等の考え方)、源泉徴収漏れや会社側の課税関係が問題になり得ます。これに対し、返還請求(無効給付の是正)として整理できる場合は、そもそも支給の有効性を欠くことを前提に、過年度の処理・申告関係をどのように是正するかを検討することになります。
いずれにせよ、取締役報酬は委任関係の対価であり、賃金(雇用契約の対価)とは根拠が異なるため、労務的な「返上」発想で処理すると、会社法上の授権・税務上の源泉の両方が崩れることがあります。返還か返上かは、合意書の文言だけでなく、決議・定款・算定基準の欠缺(会社法第361条)の有無と整合させて決める必要があります。
役員報酬返還請求への対応で次にすべきこと
役員報酬返還請求は、まず「返還請求(不当利得(民法第703条)等)として組み立てるのか」「自主返納(受領辞退・債務免除)として処理するのか」を切り分け、法務と税務の結論が矛盾しない筋道を作ることが要点です。株主総会決議・定款授権(会社法第361条)の欠缺や限度額超過があるか、全株主同意を主張できるかは、議事録だけでなく同意書・決算資料・税務提出資料・社内記録の順で客観資料を当てて判断します。未払役員給与の受領辞退を含む場面では、原則として免除時点で「支払があったもの」として源泉徴収が必要になり得るため、請求・合意の前に源泉と会計処理を先行確認するのが安全です。次のアクションとしては、対象期間・名目・支給根拠資料を棚卸しし、法務(会社法・紛争対応)と税務(源泉・申告関係)を同じテーブルで検討できる体制を整えます。個別事案では事実関係と社内決裁の状況で結論が分かれるため、最終的な方針決定は専門家への相談も前提に進めるのが実務的です。

