人事労務

交通事故で会社が労災を使う判断|保険の優先順と申請条件

経営リスクナビ編集部

交通事故と労災の対応は、従業員が勤務中・通勤中に事故に遭った(または起こした)場面で、会社として労災保険を使うべきか、任意保険・自賠責との優先関係をどう整理するかがすぐに問われます。初動の判断や記録が曖昧なまま進むと、治療費・休業補償・慰謝料の切り分けや支給調整が複雑化し、申請協力の拒否や過失割合の争いをきっかけに、社内外の紛争・クレームへ発展し得ます。特に事故当日から72時間は、警察対応・証拠保全・社内連絡の分担を決めて動けるかが、その後の実務負担を左右します。以下では、交通事故時に労災保険を使うかどうかの判断材料として、制度の枠組みと会社の実務対応を示します。

目次

交通事故と労災の基本枠組み

勤務中・通勤の事故が労災になる範囲

業務中または通勤中に発生した交通事故は、要件を満たす限り労災保険(業務災害・通勤災害)の補償対象になります。業務中の事故は、会社の指揮命令下にある業務遂行に伴って負傷等したものとして業務災害に整理されます。

通勤中の事故は、住居と就業場所との間などを合理的な経路・方法で移動する途中の災害として通勤災害に整理されます。通勤経路から外れる「逸脱」や、移動をやめて別行為をする「中断」がある場合、原則としてその後の移動は通勤に当たりませんが、日用品の購入など日常生活上やむを得ない最小限の行為であれば、元の経路に復帰した後の移動が再び通勤として扱われ得ます。

また、実務上は、勤務形態の多様化により、テレワークを含む働き方に関連した移動中の事故が問題になることがあります。厚生労働省資料でも、テレワークからの移動中の事故が論点として取り上げられており、事故時点の行為目的・移動経路・指揮命令関係を丁寧に事実整理することが重要です。

労災保険と損害賠償が並行する考え方

交通事故の被害者(被災労働者)は、労災保険給付の請求と、加害者に対する民事上の損害賠償請求を並行して検討できます(いわゆる並存主義)。民事責任の法的構成は、加害者本人の不法行為責任(民法709条)に加え、加害者が業務中の被用者である場合の使用者責任(民法715条)などが典型です。

ただし、同一損害について二重に補償を受け取ることはできないため、実務では支給調整(控除・求償)が問題になります。労災保険給付は政府が行うもので、事業主が直接支払う制度ではありませんが、労災の支給決定がされると、会社側にはメリット制による保険料影響や就業規則上の上積み補償条項の発動など、複数の影響が生じ得ます。

さらに、損害賠償の算定・控除の順序も実務で争点になります。最高裁は、過失相殺を先に行い、その後に労災保険給付等の控除(損益相殺)を行うべきとする考え方を示しています(大石塗装・鹿島建設事件、 高田建設従業員事件)。

会社の労災保険義務と負担

労働者を雇う会社の加入義務

労働者を一人でも使用する会社は、労災保険の適用事業として保険関係を成立させ、所定の手続きを行う必要があります。雇用形態(正社員・パート・アルバイト等)を問わず、労働者として賃金を受けて働く限り保護対象になり得るため、実務上は「短期雇用だから対象外」といった運用はできません。

また、給付請求の主体は会社ではなく、労働者・遺族・葬祭を行う者です(労働者災害補償保険法第12条の8第2項)。もっとも、被災者が入院等で手続できない場合など、実務上は会社が書類作成を補助する場面が多く、会社は事実関係の証明(事業主証明)などで手続に関与します。

保険料負担と会社の費用影響

労災保険料は、原則として事業主が負担し、年度更新で申告・納付します。一般保険料額の算定は、賃金総額に保険料率を乗じる仕組みで、法令上は賃金総額×(労災保険率+雇用保険率)で算定されることが明示されています(労働保険の保険料の徴収等に関する法律11条〜12条の枠組みで整理されます)。

保険料率(労災保険率)は事業の種類ごとに定められ、災害リスクの高低が反映されます。したがって、交通事故対応の局面でも、再発防止(安全運転管理、マイカー業務利用ルール、長時間運転の抑制等)を講じることが、結果として費用影響の抑制につながります。

労災を使うと保険料が必ず上がるとは限らない|メリット制の対象事業場かを先に確認する

「労災を使うと必ず会社の保険料が上がる」という誤解から申請を渋るケースがありますが、メリット制(労働災害の多寡に応じた増減)は、一定要件を満たす特定事業に限って適用されます。メリット制は、連続する3年間の保険料に対する保険給付の割合(メリット収支率)に応じて、メリット増減率を定め、翌々年度の労災保険率を増減させる仕組みです(徴収法12条3項)。

参照情報上も、メリット増減率はマイナス40%からプラス40%の範囲で設定されるとされています。したがって、会社としては次の順で確認し、申請協力の可否を保険料の恐れだけで判断しないことが重要です。

メリット制を前提に会社が最初に確認する順序
  1. 自社が特定事業に該当するか(適用要件と対象範囲を社会保険労務士等とも確認する)。
  2. 対象になる場合でも、評価期間が「連続する3年間」である点と、反映が「翌々年度」である点を踏まえ、中長期で影響を見積もる。
  3. 労災給付の支給決定が、就業規則の上積み補償条項の発動要件になっていないか確認する。
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交通事故で労災を使う判断

労災保険を使うメリットと限界

交通事故で労災保険を使う実務上の利点は、治療費や休業補償が制度的に整理され、被災者の生活を早期に支えやすい点です。労災保険給付は政府が行うため、会社が「会社が払うから労災は使わない」という整理は制度趣旨とズレが生じやすく、会社負担の設計を誤ると後の精算や紛争の火種になります。

一方で、労災保険給付にはカバー範囲の限界があります。損害賠償実務で整理される損害項目には、労災給付と対応して調整され得るものと、対応しないものがあります。

労災保険給付の種類 損害の項目
療養補償給付 治療費
休業補償給付、障害補償給付、傷病補償年金、遺族補償給付 休業損害、逸失利益
葬祭料 葬儀費用
介護補償給付 介護費
なし 入院雑費、付添看護費等
なし 慰謝料
労災保険給付と損害項目の対応(典型)

この表のとおり、慰謝料は労災給付に対応がなく、民事(自賠責・任意保険・加害者本人)での回収領域になります。また、治療関係費でも、例えば付添費用や入院雑費など、労災給付と単純対応しない費目があるため、会社としては「労災で全部解決」と誤認しない整理が必要です。

自賠責保険・任意保険との優先関係

労災保険と自賠責・任意保険は、同一事故でも並行し得ますが、実務では「どちらを先に動かすか」で、被災従業員の資金繰りや手続負担が変わります。行政運用として自賠責先行が語られることはありますが、会社として重要なのは、被災者の治療継続とトラブル抑止の観点で、どの順が合理的かを事案ごとに判断することです。

特に、事故直後の初動で警察対応や証拠保全が不十分だと、相手方から後日に異なる主張や要求が出て、過失割合・因果関係・損害範囲の争いが長期化します。参照情報でも、相手から「警察は呼ばなくてよい」「話し合いで済ませよう」と言われても応じるべきではないとされ、第三者を介した事実確認・証拠保全が後の保険実務の土台になると整理されています。

治療費・休業補償・慰謝料の違い

労災と民事賠償(自賠責・任意保険を含む)は、損害項目ごとに対応関係があり、費目ごとに独立して支給調整・精算が行われるのが基本です。損害賠償実務上の損害項目は、財産的損害(積極損害・消極損害)と精神的損害に整理され、慰謝料は精神的損害に当たります。

参照情報の整理に基づき、治療関係費のうち典型的に問題となる項目は次のとおりです(いずれも「必要かつ相当」が前提になります)。

治療関係費で争点になりやすい項目(民事賠償側の整理)
  • 付添費用:入院付添は近親者付添で1日6,500円が一般的取扱いとされ、通院付添は1日3,300円が一般的取扱いとされます。
  • 入院雑費:1日1,500円が一般的取扱いとされます。
  • 通院交通費:原則は電車・バス等で、自家用車はガソリン代・高速代・駐車代等が対象となり得ます(タクシーは相当性が必要)。

会社としては、労災で支給される費目と、民事でしか回収しにくい費目(慰謝料、付添費、入院雑費等)を切り分け、被災従業員の領収書・通院記録・付添の必要性を示す資料を早期から揃えることが実務上有効です。

過失割合が争われそうな事故で会社が労災先行を検討すべき分かれ目

過失割合が争われそうな事故では、会社としては労災先行を検討し、治療の継続性と生活保障を優先する整理が有効です。民事賠償では、過失相殺が損害額全体に影響し得るのに対し、参照情報が示すとおり、損害賠償の最終精算では過失相殺が先、労災給付控除が後という順序が前提になるため、初期に過失で揉める事案ほど、治療費・休業の資金面を労災で安定させるメリットが大きくなります。

また、事故直後の相手方の言い分が後から変わることもあり得ます。参照情報でも、警察を介さずに済ませることのリスク(後から「別のキズがあった」などの主張が出る可能性)が指摘されています。会社が上司等を現場に同席させ、説明状況や相手方の初期主張を複数名で確認しておくことは、使用者責任を前提とした請求を受けた場合にも、事実面の防御力を高めます。

交通事故後の会社対応と労災申請

労災申請の流れと会社の証明対応

労災保険の給付請求は、一般に被災労働者等が労働基準監督署長に対して行い、給付は政府が行います。会社は当事者ではありませんが、手続では事業主証明や平均賃金算定への協力など、実務上重要な役割を担います。

事業主証明については、給付請求書の「負傷年月日」「災害発生の原因および状況」等を事業主が証明することが求められています(労災保険法施行規則23条1項)。被災者が入院等で手続できない場合、会社が助力すべきことも同規則で整理されています。

会社と従業員の間で事故態様の認識に相違がある場合でも、会社が一方的に申請そのものを止めるのではなく、証明可能な客観事実(勤務割・指揮命令・移動目的等)を整理した上で、必要に応じて意見書で見解を補足し、判断は労基署の調査・認定に委ねる運用が紛争予防に資します。

事故当日から72時間で誰が何を集めるか|人事・現場・法務の証拠確保分担

事故発生直後は、証拠と連絡体制の有無で、その後の労災・保険・紛争対応の難易度が大きく変わります。参照情報では、接触事故でも直ちに警察へ連絡し、実況見分に可能な限り立ち会い、事故状況を説明し、相手方被害状況を写真等で保全する重要性が示されています。また、相手から「警察は呼ばなくてよい」等と言われても応じないことが推奨されています。

事故当日から72時間の分担(最低限)
  1. 現場(上司・管理者):警察連絡と実況見分対応を徹底し、相手方車両・損傷・現場状況を写真等で保全し、可能なら上司も現場同席して説明状況を複数名で確認する。
  2. 人事労務:安否確認と治療先の把握、勤務割・出退勤記録・出張命令等の業務関連資料の保全、労災手続の全体像(誰が請求者か等)を被災者に説明する。
  3. 法務・総務:会社または本人の加入する損害保険会社へ速やかに連絡し、対外窓口・発信ルール(不用意な過失認定発言をしない等)を整理する。

労災指定外医療機関を受診したときに会社が立替金・証憑・請求漏れを管理する方法

救急搬送等で労災指定外医療機関を受診した場合、いったん健康保険で受診してしまう、または全額自己負担が発生するなど、経路が分かれます。参照情報では、労災への切替手続として、病院に提出する請求書が様式第5号または様式第16号の3であること、また「いったん全額を自己負担してから労災手続」をする場合の具体的段取りが示されています。

健康保険で受診してしまった場合の切替管理(参照情報に基づく流れ)
  1. 健康保険の保険者(全国健康保険協会等)へ労働災害である旨を申し出る。
  2. 保険者から医療費の返還通知書等が届いたら返還額を支払う(医療機関からレセプトが届くまで2〜3か月程度かかるため通知まで時間を要し得ます)。
  3. 労災保険の様式第7号又は第16号の5を記入し、返還額の領収書と窓口で支払った一部負担金の領収書を添えて労働基準監督署へ請求する(レセプト写しが必要になるため保険者に依頼します)。

会社が立替金を扱う場合は、金銭管理だけでなく、後日の支給調整・精算に耐える証憑管理が重要です。

立替金・証憑・進捗の管理ポイント
  • 領収書原本・診療明細・返還通知書・返還領収書・レセプト写しを、事故別フォルダで時系列に保全する。
  • 立替の根拠(会社貸付か立替精算か)と精算方法(相殺・振込)を社内決裁で明確にする。
  • 様式(第7号・第16号の5等)ごとに提出日と不足書類を台帳化し、請求漏れを防ぐ。
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勤務先の民事責任と是正策

安全配慮義務違反が問われる場面

従業員が業務中(営業車・社用車・マイカー業務利用を含む)に交通事故を起こした場合、会社は対外的に使用者責任(民法715条)を問われ得ます。また、対内的には安全配慮義務違反(債務不履行責任:民法415条)として争われることがあります。

もっとも、安全配慮義務の範囲について、最高裁は、国の安全配慮義務が問題となった事案で、運転者が道路交通法等に基づき当然負うべき通常の注意義務は、直ちに使用者の安全配慮義務の内容に含まれるものではないとして、安全配慮義務違反を否定した判断があります(陸上自衛隊331会計隊事件:最二小判昭58・5・27)。一方で、現実の交通事故では、被用者側に注意義務違反があるケースが多く、結果として使用者責任が認められる場面が多い点も踏まえ、会社は「安全配慮義務だけが論点」と捉えず、使用者責任リスクも含めて対策を講じる必要があります。

会社が整備しておきたい是正策(交通事故向け)
  • マイカー業務利用の許可基準、使用申請、運転記録、任意保険加入条件(対人・対物等)のルール化。
  • 長時間運転や夜間運転の抑制、代替交通手段の検討、危険運転(速度・ながら運転等)の禁止と教育。
  • 事故時の連絡網、警察対応の徹底、保険会社連絡、証拠保全の手順書の整備。

未加入・申請拒否が招く会社リスク

労災保険の適用手続を怠る、または労災申請への協力を不当に拒むと、会社は行政対応・財務負担・紛争の各面でリスクが高まります。参照情報のとおり、給付請求の主体は労働者等であり、会社は事業主証明などで関与する立場であるため、「会社が嫌だから申請させない」という整理は制度上無理があります。

また、事業主証明は給付請求書の重要項目(負傷年月日、災害原因・状況等)について求められ(労災保険法施行規則23条1項)、被災者が入院等で手続できない場合には会社が助力すべきことも示されています。同規則に沿わない対応は、従業員からの不信を招き、結果として外部相談・労使紛争・訴訟対応のコスト増につながり得ます。

さらに、会社が先に独自に損害賠償(見舞金を超える実質賠償)をした場合でも、そのことを理由に会社が労災給付を受け取れるわけではないと解されています(三共自動車事件:最一小判平元・4・27)。初動で「会社が払うから労災は不要」と進めることは、後の制度利用・精算の面で不利になり得ます。

会社が申請協力を渋って紛争化する典型パターン|不支給リスクより先に確認すべき事実

申請協力を渋って紛争化する典型は、(1)保険料が上がる誤解、(2)社内ルール違反=不支給と短絡する誤解、(3)会社が先に支払えば労災の問題が消える誤解、が重なるケースです。

参照情報のとおり、メリット制は特定事業に限られ、しかも連続3年の実績を基に翌々年度の率を調整し、増減率も±40%の範囲で設定されます。したがって、「今回の交通事故で直ちに来期保険料が跳ねる」と決め打ちするのではなく、対象性と影響時期を確認した上で、申請協力の方針を決めるべきです。

不支給リスクより先に会社が確認すべき客観事実
  • 事故時点が業務指示に基づく移動か(出張命令、配送指示、直行直帰の承認等)。
  • 通勤経路の合理性と、逸脱・中断の有無および内容(日用品購入等の最小限行為か)。
  • 警察への届出と実況見分の状況、写真等の証拠の有無(後日の主張変化に備える)。
  • 労災上積み補償規定の有無(支給決定が要件になっていないか)。

示談・訴訟と請求の進め方

示談と訴訟の違いと選び方

示談は当事者の合意で早期解決を図れる一方、文言次第で将来の請求関係に大きな影響が出ます。参照情報にも、示談書(合意書)例として「その余の民事上および刑事上の請求を放棄する」「本示談書に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった条項が示されています。

会社として注意すべきは、労災給付・後遺障害・休業期間などが未確定の段階で、包括的清算条項を含む示談を拙速に進めると、被災者側に不利益が出たり、会社側も後日の求償・精算関係で整理が困難になったりする点です。重傷事案や過失割合が争点化する事案では、訴訟で過失割合や損害額の公的判断を得る選択肢も現実的になります。

時効を踏まえた請求管理の要点

時効管理は、請求漏れがそのまま補償欠落につながるため、会社として実務フローに組み込む必要があります。参照情報にあるとおり、健康保険から労災への切替では、医療機関から保険者へのレセプト到達に2〜3か月程度かかり得て、返還通知の到着が遅れ、結果として労災請求が後ろ倒しになることがあります。

そのため、事故発生直後から、次のように期限と必要書類を台帳で管理し、被災者任せにしない運用が有効です。

会社側の請求・期限管理(最低限の設計)
  • 健康保険で受診した可能性がある場合、保険者への申し出日、返還通知の見込み(2〜3か月)を予定に組み込み、到来時に遅滞なく返還・請求できるよう準備する。
  • 様式第5号/第16号の3(医療機関提出)と、様式第7号/第16号の5(労基署請求)を取り違えないよう、事案ごとに提出先・提出日を管理する。
  • 領収書原本、返還領収書、レセプト写し等、後から入手困難になる書類を早期に確保する。

よくある質問

労災保険を使うと慰謝料や示談金は減りますか?

労災保険を使ったこと自体で、慰謝料が当然に減るわけではありません。参照情報の「労災保険給付と損害項目の対応」のとおり、慰謝料は労災給付に対応がなく、民事賠償領域の請求になります。

一方で、治療費や休業損害など、労災給付と同質の損害項目は支給調整の対象になり得ます。また、損害賠償の精算では、最高裁が過失相殺を先に行ったうえで労災給付控除を行うべきと整理しているため、過失割合が大きい事案では精算結果に影響が出やすい点に留意が必要です。

私用の買い物後の通勤事故も労災になりますか?

通勤経路からの逸脱・中断があると、原則としてその後の移動は通勤と認められません。ただし、日用品の購入など日常生活に不可欠な最小限の行為であれば、元の経路に復帰した後の移動が通勤として扱われ得ます。

実務では、立ち寄りの目的、所要時間、経路の外れ方の程度などが争点になります。会社としては、本人の申告だけで判断せず、事故時刻、立ち寄り先、経路(地図)、領収書等の客観資料を確保し、労基署の判断に委ねる形で進めるのが安全です。

会社が労災申請に協力しないときも手続きできますか?

会社が事業主証明に協力しない場合でも、被災従業員は労働基準監督署に対して給付請求を行えます。参照情報のとおり、事業主証明は給付請求書の重要項目について求められ(労災保険法施行規則23条1項)、被災者が入院等で手続できない場合には会社が助力すべきとも整理されています。

会社側が事実関係に争いがあるとしても、申請そのものを止めるのではなく、客観資料に基づき証明可能な範囲を記載し、必要に応じて意見書で補足する運用が、紛争の長期化を避けるうえで現実的です。

マイカー営業中の交通事故も労災になりますか?

マイカーを営業等の業務目的で使用中の事故は、業務遂行性・業務起因性が認められれば業務災害になり得ます。対外的には、加害者が自社従業員である場合、被害者から会社に使用者責任(民法715条)に基づく請求が向くことがあります。

また、安全配慮義務違反が常に認められるわけではない点については、最高裁が、運転者の通常の注意義務が直ちに安全配慮義務の内容に含まれるとはいえないとした判断(陸上自衛隊331会計隊事件)があります。ただし、実際には使用者責任で責任追及されるケースが多いため、会社としては、マイカー業務利用の許可要件や保険加入条件、事故時の警察連絡・保険会社連絡の徹底など、再発防止と紛争予防の体制整備が重要です。

交通事故と労災への対応で次にすべきこと

勤務中・通勤中の交通事故では、労災と民事(自賠責・任意保険)を「どちらか一方」と捉えず、損害項目ごとの対応関係と支給調整を前提に、会社の関与範囲を整理することが重要です。保険料影響については、メリット制が特定事業に限られ、連続する3年間の実績を基に翌々年度へ反映される点を踏まえ、申請協力の可否を短期の印象で決めない運用が紛争予防につながります。初動は、事故当日から72時間の分担(警察連絡・証拠保全・保険会社連絡・業務関連資料の保全)を決め、事実関係を客観資料で固めておくことが、過失割合や因果関係が争われた場合の防御力になります。次アクションとしては、労災指定外受診や健康保険利用の有無も含めて手続経路を確認し、領収書原本やレセプト写し等の証憑を事故別に時系列で管理してください。個別事案の認定や示談条項の判断は事実関係で結論が変わり得るため、必要に応じて社会保険労務士・弁護士等の専門家に相談することが安全です。



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