通勤災害とは?労災認定の要件から手続き、会社の対応までを解説
従業員が通勤中に事故に遭った際、企業の人事・労務担当者としては、それが労災保険の対象となる「通勤災害」にあたるのか、迅速かつ正確な判断が求められます。しかし、「通勤」の定義や認定要件は複雑で、「どこまでが通勤と認められるのか」「会社として何をすべきか」といった実務的な疑問も多いのではないでしょうか。この記事では、労災保険における通勤災害の基本的な考え方から、認定される具体的なケース・されないケース、発生時の手続き、企業の対応までを網羅的に解説します。
通勤災害とは?労災保険における「通勤」の定義と認定要件
通勤災害の基本的な考え方と業務災害との違い
通勤災害とは、労働者が通勤によって被った負傷、疾病、障害または死亡のことです。労災保険は、事業主の支配管理下で発生する「業務災害」と、通勤中に発生する「通勤災害」を主な保護対象としています。両者の最も大きな違いは、災害が事業主の支配管理下で起きたかどうかという点です。
業務災害は事業主の指揮命令下にあるため、労働基準法に基づき事業主に災害補償責任が生じます。一方、通勤災害は事業主の支配下を離れた移動中に発生するため、原則として事業主に直接的な補償責任はありません。しかし、通勤は就業に不可欠な行為であるため、労災保険制度によって保護されています。
この違いにより、保険給付の内容にもいくつかの相違点があります。特に、休業開始から3日間の待機期間中の補償や、解雇制限の適用の有無は、労働者にとって重要なポイントです。
| 項目 | 業務災害 | 通勤災害 |
|---|---|---|
| 事業主の補償責任 | あり(労働基準法) | 原則なし |
| 療養給付の一部負担金 | なし | 原則なし(ただし、労災指定医療機関以外で受診し、費用を立て替えた場合は、後日請求により払い戻される) |
| 休業給付の待機期間(3日間) | 事業主が休業補償(平均賃金の60%以上)を支払う義務あり | 事業主に補償義務なし(原則無給) |
| 解雇制限 | 休業期間中およびその後30日間は解雇禁止 | 解雇制限の適用なし |
労災保険における「通勤」の定義
労災保険法における「通勤」とは、労働者が就業に関し、住居と就業場所の往復などを、合理的な経路および方法により行うことを指し、業務の性質を有する移動は除かれます。単に会社と自宅の間を移動していれば、すべてが通勤と認められるわけではなく、法律上の定義に合致する必要があります。
具体的に「通勤」と認められる移動には、以下の3つの類型があります。
- 住居と就業の場所との間の往復:自宅から会社への出勤や、会社から自宅への退勤など、最も一般的なケースです。
- 就業の場所から他の就業の場所への移動:副業や兼業をしている人が、1つ目の勤務先から2つ目の勤務先へ直接移動するケースです。
- 単身赴任者の住居間の移動:単身赴任者が、赴任先の住居と家族が住む帰省先住居との間を移動するケースです(一定の要件あり)。
これらの移動が通勤として認められるには、移動の途中で私的な目的のために経路を逸脱したり、移動を中断したりしていないことが原則となります。ただし、日常生活上必要な行為については、例外も設けられています。
要件1:就業に関する移動であること
「就業に関し」とは、その移動が業務に就くため、または業務を終えたことに伴って行われることを意味します。原則として、被災当日に就業する予定であったか、実際に就業したことが必要です。
出勤の場合、会社の始業時刻に合わせて移動を開始していれば、通常は就業との関連性が認められます。業務上の都合による早出や交通事情による遅刻なども問題ありません。しかし、業務とは無関係な私的利用(例:会社の近くで映画を観るため数時間早く家を出る)が目的の場合、就業との関連性が否定される可能性があります。
退勤の場合も同様で、業務終了後、社会通念上合理的な時間内に事業場を出て帰路に就く必要があります。業務終了後に同僚と短時間雑談する程度であれば問題ありませんが、長時間にわたって遊興(例:麻雀、宴会)やサークル活動などを行った後の移動は、就業との関連性が断絶したとみなされ、通勤とは認められません。
要件2:合理的な経路および方法による移動であること
「合理的な経路」とは、労働者が通勤のために通常利用する経路を指します。これには、会社に届け出ている経路だけでなく、当日の交通事情(渋滞、交通機関の遅延など)を避けるための迂回路も含まれます。共働きの労働者が子供を保育園に送迎するために経由するルートなども、日常生活上必要な行為として合理的な経路と認められます。ただし、特段の理由なく著しく遠回りをする場合は、合理性が否定されます。
「合理的な方法」とは、電車、バス、自家用車、バイク、自転車、徒歩など、社会通念上、通勤に用いられる一般的な移動手段を指します。たとえ会社がマイカー通勤を禁止していても、労働者がマイカーで通勤途中に事故に遭った場合、その移動自体は「合理的な方法」として認められ、通勤災害の対象となることがほとんどです。ただし、無免許運転や泥酔運転など、著しく法規範を逸脱した危険な方法は、合理的な方法とは認められません。
要件3:業務の性質を有するものではないこと
通勤災害の定義には、「業務の性質を有するものを除く」という規定があります。これは、移動自体が業務の一環とみなされる場合は、通勤災害ではなく業務災害として扱われることを意味します。
移動が業務災害と判断されるのは、その移動が事業主の支配管理下にあると認められる場合です。どちらに該当するかで補償内容が異なるため、この区別は重要です。
- 会社が手配した送迎バスでの移動
- 出張先への移動や、出張中の宿泊先と用務先との間の移動
- 営業担当者が顧客先から次の顧客先へ移動する間の移動
- 緊急の業務のために会社から呼び出され、自宅から会社へ向かう移動
【具体例】通勤災害として労災認定されるケース
自宅と会社の往復中に発生した事故
最も典型的なのは、自宅と会社の間の往復中に起こる事故です。例えば、出勤時に駅の階段で転倒して骨折した場合や、自転車で帰宅中に自動車と接触して負傷した場合などが該当します。これらの事故は、通常の経路と方法による移動であれば、通勤災害として認定されます。
また、電車の遅延などにより、やむを得ず普段と違う経路で迂回している最中の事故も、合理的な経路の範囲内として通勤災害の対象となります。通勤の始点は「住居」の玄関を出た時点とされており、マンション等の集合住宅の場合、自室のドアを出て共用廊下や階段、エレベーターを利用中の事故も、合理的な経路であれば通勤災害に含まれると考えられます。
複数の就業場所間の移動中に起きた災害
副業や兼業が広がる中、複数の勤務先を移動する際の災害も通勤災害として保護されます。例えば、午前にA社で勤務を終え、午後からB社で勤務するために直接B社へ向かう途中で事故に遭った場合、この移動はB社への「通勤」とみなされ、労災保険の対象となります。
この場合、当該移動がその後に就業する事業場(例ではB社)への通勤と認められれば、労災保険の対象となります。ただし、A社からB社への移動の途中で、長時間にわたる私的な寄り道をした場合は、後述する「逸脱・中断」と判断され、保護の対象から外れる可能性があります。
単身赴任先と帰省先住居の間の移動
転勤によりやむを得ず家族と別居している単身赴任者が、赴任先の住居と家族の住む帰省先住居との間を移動する際の災害も、一定の要件を満たせば通勤災害と認められます。
- 会社の転勤命令など、業務上の都合でやむを得ず家族と別居していること。
- その移動に反復・継続性が認められること(回数は個別の状況により判断されます)。
- 就業日の前日・当日または就業を終えた当日・翌日の移動であること。
例えば、金曜の業務終了後に赴任先を出て帰省し、日曜の夜に赴任先へ戻る移動などがこれに該当します。ただし、業務との関連性が薄い長期休暇中の移動などは、対象外となる場合があります。
通勤に通常伴うささいな行為中の災害
通勤の途中で、経路の近くにある公衆トイレを利用したり、スタンドでガソリンを入れたり、売店で飲み物を買ったりする行為は「ささいな行為」とされ、通勤の連続性は失われません。これらの行為の前後や、行為を終えて通常の通勤経路に戻った後の移動中に発生した災害は、通勤災害として認定されます。
「ささいな行為」は、通勤の流れを断ち切る「逸脱・中断」とは区別されます。生理的な欲求を満たすための短時間・小範囲の行動は、通勤に通常伴う行為として認められています。
【具体例】通勤災害として認定されないケース(経路の逸脱・中断)
経路の「逸脱」と「中断」の基本的な考え方
通勤災害の認定で重要なのが「逸脱」と「中断」です。「逸脱」は通勤経路からそれること、「中断」は通勤経路上で通勤とは無関係な行為をすることを指します。
原則として、通勤経路を逸脱したり、通勤を中断したりした場合、その逸脱・中断の間およびその後の移動は、通勤とはみなされません。一度私的な目的で寄り道をすると、たとえ元の経路に戻ったとしても、その時点から自宅または会社に着くまで労災保険の保護対象外となります。これは、私的行為によって業務との密接な関連性が断ち切られたと解釈されるためです。ただし、後述する日常生活上のやむを得ない行為については、例外が認められています。
私的な目的での寄り道(映画鑑賞、友人との会食など)
通勤の途中であっても、娯楽や私的な交際を目的とした寄り道は、典型的な「逸脱・中断」に該当します。例えば、帰宅途中に映画館に立ち寄って映画を鑑賞した場合、映画館にいる間とその後の帰宅途中の移動は、通勤とは認められません。
同様に、通勤経路上の居酒屋で友人と長時間飲食した場合も、その時点で通勤は「中断」したとみなされます。その後に事故に遭っても、通勤災害としては認定されません。パチンコやジム通い、デートなども同様に、就業との関連性を失わせる私的行為と判断されます。
通勤とは無関係な場所への立ち寄り
通勤経路から大きく外れた、通勤とは無関係な場所へ立ち寄る行為は「逸脱」とみなされます。例えば、帰宅途中に通勤経路とは反対方向にある実家に立ち寄り、その後自宅へ向かう途中で事故に遭った場合、実家へ向かった時点で逸脱となり、その後の移動は通勤には該当しません(ただし、家族の介護などやむを得ない場合は例外あり)。
また、趣味のスクールや習い事への立ち寄りも、原則として私的な目的による逸脱・中断と判断されます。その後に事故が起きても通勤災害とは認められません。
例外的に逸脱・中断と見なされない日常生活上の行為
通勤の逸脱・中断には例外があります。「日常生活上必要な行為」を「やむを得ない事由により」「最小限度の範囲で」行う場合は、その行為を終えて合理的な経路に復帰した後の移動は、再び通勤として保護の対象となります。
- スーパーなどでの日用品や総菜の購入
- 病院や診療所での診察・治療
- 選挙権の行使
- 理髪店や美容院への立ち寄り
- 要介護状態にある家族(父母、配偶者、子など)の介護
例えば、帰宅途中にスーパーで買い物をした場合、店内にいる間の事故は保護されませんが、買い物を終えて再び帰宅経路に戻った後であれば、通勤災害の対象となります。
通勤災害が発生した場合の手続きと企業の対応
従業員が行うべき初動対応(会社への報告と病院受診)
通勤中に災害に遭った場合、従業員は落ち着いて以下の対応を取る必要があります。
- 安全の確保と医療機関の受診:必要に応じて救急車や警察に連絡し、速やかに病院で治療を受けます。
- 会社への速やかな報告:事故の日時、場所、状況、怪我の程度などを会社に正確に報告します。
- 病院での申し出:病院の受付で、健康保険証は使わず「労災(通勤災害)です」と明確に伝えます。これにより、原則として窓口負担なしで治療が受けられます。
会社(担当者)が行うべき対応フロー
従業員から通勤災害の報告を受けた会社は、以下のフローで対応します。
- 安否確認と状況のヒアリング:従業員の安全を第一に確認し、事故の詳しい状況(日時、場所、経路、目撃者の有無など)を聴取します。
- 労災申請書類の準備と提供:状況に応じた労災保険の給付請求書を用意し、事業主証明欄に記入・捺印の上、従業員に渡します。
- 労働者死傷病報告の提出:従業員の休業が4日以上に及ぶ場合は、所轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出する義務があります。
労働基準監督署へ提出する主な書類と記載事項
通勤災害で主に使われる申請書類は以下の通りです。これらの書類には、災害の発生状況を具体的に記載する必要があります。特に、通勤経路や逸脱・中断の有無については、図を描くなどして分かりやすく説明することが求められます。
- 療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3):労災指定病院で治療を受ける場合
- 療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5):労災指定外の病院で治療を受け、費用を立て替えた場合
- 休業給付支給請求書(様式第16号の6):療養のために4日以上仕事を休み、賃金が支払われない場合
労災申請における企業の協力義務と注意点
企業には、従業員が労災申請を行う際に必要な手助けをする「助力義務」があります。申請書の提供や事業主証明への記入など、誠実な対応が求められます。
会社の判断で労災保険の利用を妨げたり、事実を隠蔽したりする「労災隠し」は、労働安全衛生法違反となる犯罪行為です。絶対に避けなければなりません。また、会社が通勤災害ではないと判断して事業主証明を拒否した場合でも、労働者は証明なしで申請を行う権利があります。最終的な認定は労働基準監督署が行います。
従業員からの第一報で会社が確認すべき事項
従業員から事故の連絡を受けたら、後の手続きを円滑に進めるため、以下の情報を正確に確認・記録しておくことが重要です。
- 事故が発生した日時と場所
- 通勤に利用した経路と手段
- 経路の逸脱や中断の有無
- 事故の相手方の有無(交通事故の場合)
- 怪我の程度と受診した、またはする予定の医療機関名
- 事故の目撃者の有無と連絡先
- 警察への届出状況(交通事故の場合)
事業主証明の役割と証明できない場合の対応
労災申請書の「事業主証明欄」は、会社が申請書に記載された災害発生の日時や状況、賃金に関する情報などを確認し、事実と相違ないことを証明するものです。これにより、申請内容の信頼性が高まります。
もし会社が、災害の状況から通勤災害とは認められないと判断し、証明を拒否する場合でも、労働者の申請権を妨げることはできません。その場合、労働者は事業主の証明がないまま申請書を労働基準監督署に提出できます。労基署は会社に事実確認の調査を行った上で、通勤災害に該当するかどうかを判断します。
労災保険から受けられる給付の種類と内容
療養(補償)給付:治療費や薬代など
通勤災害による傷病の治療にかかる費用を給付する制度です。労災指定医療機関であれば、窓口負担なしで治療を受けられます(現物給付)。指定外の医療機関で費用を立て替えた場合は、後日その費用が払い戻されます(現金給付)。診察料、薬剤費、手術費、入院費、通院交通費などが対象となります。
休業(補償)給付:仕事を休んだ際の所得補償
療養のために働くことができず、賃金を受けられない場合に、休業4日目から支給されます。支給額は、休業1日につき給付基礎日額(平均賃金に相当)の80%(休業給付60%+休業特別支給金20%)です。これにより、療養中の生活が保障されます。
障害(補償)給付:後遺障害が残った場合の給付
治療を続けても完治せず、身体に一定の後遺障害が残った場合(症状固定後)に支給されます。障害の程度に応じて第1級から第14級までの等級が定められており、重い障害(第1級~第7級)には障害年金が、比較的軽い障害(第8級~第14級)には障害一時金が支給されます。
遺族(補償)給付・葬祭料:死亡した場合の給付
労働者が通勤災害により死亡した場合、その労働者の収入によって生計を維持していた遺族の生活を支えるために給付されます。遺族の構成などに応じて遺族年金または遺族一時金が支給されます。 また、葬儀を行った者には、葬儀費用を補うための葬祭給付(葬祭料)が支給されます。
傷病(補償)年金・介護(補償)給付などその他の給付
療養開始から1年6ヶ月を経過しても傷病が治らず、その障害の程度が重い(傷病等級第1級~第3級)場合には、休業給付に代わって傷病年金が支給されます。また、障害年金や傷病年金を受給しており、常時または随時介護が必要な状態にある方には、介護給付が支給されます。
通勤中の交通事故における自賠責保険との関係
労災保険と自賠責保険の役割の違い
通勤中の交通事故は、加害者がいる「第三者行為災害」にあたり、被害者である労働者は労災保険と、加害者が加入する自賠責保険の双方に請求する権利を持ちます。ただし、同じ損害に対して二重に給付を受けることはできません。両制度には以下のような違いがあります。
| 項目 | 労災保険 | 自賠責保険 |
|---|---|---|
| 目的 | 労働者の保護 | 交通事故被害者の最低限の救済 |
| 支払限度額 | 原則なし(治療費・休業補償など) | あり(例:傷害分120万円まで) |
| 慰謝料 | なし | あり |
| 過失相殺 | 原則なし | あり(被害者の過失割合に応じて減額) |
どちらを優先して使うべきか?調整の仕組みを解説
労災保険と自賠責保険のどちらを先に使うかは、原則として労働者が自由に選べます。一般的には、慰謝料請求も可能な自賠責保険を先行させることが検討されます。ただし、手続きの迅速性や支払限度額、自身の過失割合などを考慮し、どちらを先行させるか判断する必要があります。しかし、自身の過失割合が大きい事故では、過失相殺のない労災保険を先行させる方が有利な場合もあります。
どちらを先行させた場合でも、最終的に受け取れる補償の総額が大きく変わるわけではありませんが、状況によって最適な選択は異なります。労災保険を使う場合は、必ず「第三者行為災害届」を労働基準監督署に提出する必要があります。
二重受給は不可|給付調整に関する注意点
治療費や休業損害など、同じ性質の損害について労災保険と自賠責保険から二重に給付を受けることはできません。これを支給調整といいます。例えば、自賠責保険から休業損害として100万円を受け取った場合、労災保険の休業給付はその100万円を超えた部分から支給されます。
ただし、労災保険独自の給付である「特別支給金」(休業特別支給金、障害特別支給金など)は、福祉的な給付とされ、支給調整の対象外です。これは、自賠責保険からの受給額に関わらず全額受け取れるため、労災保険を利用する大きなメリットの一つです。
通勤災害に関するよくある質問
パートやアルバイト、派遣社員でも通勤災害は労災保険の対象になりますか?
はい、対象になります。労災保険は、正社員、パート、アルバイト、派遣社員といった雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されます。勤務時間や日数の長短は関係ありません。万が一事故に遭った場合は、雇用形態を理由に躊躇せず、速やかに会社に報告し、必要な手続きを進めてください。
会社が労災申請に協力的でない場合はどうすればよいですか?
会社が手続きに協力してくれない場合や、事業主証明を拒否された場合でも、労働者自身で労災申請を行うことができます。申請書に必要事項を記入し、事業主証明欄は空欄のまま、所轄の労働基準監督署に直接提出してください。その際、会社が協力してくれない事情を説明するメモを添えるとよいでしょう。最終的な判断は労基署が行いますので、諦めずに相談することが重要です。
マイカー通勤中の事故も通勤災害の対象になりますか?
はい、対象になります。自家用車、バイク、自転車での通勤は、一般的に「合理的な方法」と認められます。会社に届出を出していなかったり、会社がマイカー通勤を規則で禁止していたりした場合でも、その通勤経路や方法が客観的に見て合理的であれば、通勤災害として認定される可能性が高いです。ただし、会社の規則違反については、労災認定とは別に懲戒処分の対象となる可能性はあります。
申請してから労災認定まで、どのくらいの期間がかかりますか?
事案によりますが、事実関係が単純で明らかなケースでは、申請からおおむね1ヶ月程度で認定されることもあります。しかし、通勤経路の合理性や逸脱・中断の有無が争点となる複雑な事案では、調査に時間がかかり、数ヶ月から半年以上を要する場合もあります。認定が下りるまでは給付を受けられないため、その間の生活費については、場合によっては他の生活保障制度の利用を検討するか、会社の制度(有給休暇の利用など)を確認することが考えられます。なお、労災保険の対象となる傷病には健康保険からの傷病手当金は原則として支給されません。
届出と異なる通勤経路(例:無断の車通勤)で事故が起きた場合、労災は適用されますか?
適用される可能性が高いです。労災の認定は、会社への届出内容よりも、事故当日の実際の通勤実態が合理的であったかどうかで判断されます。例えば、電車通勤として届け出て交通費を受け取りながら、実際は車で通勤していた場合でも、その経路や方法が合理的であれば通勤災害と認定されます。ただし、交通費の不正受給や就業規則違反については、労災認定とは別の問題として、会社から返還請求や懲戒処分を受ける可能性があります。
まとめ:通勤災害の正しい理解が、いざという時の適切な対応につながる
本記事では、通勤災害の定義から認定要件、具体的な手続き、企業の対応までを解説しました。通勤災害として認定されるには、「就業に関する移動」であり、「合理的な経路・方法」であることが基本要件となります。私的な目的での「逸脱・中断」があれば原則として通勤とは認められませんが、日用品の購入や通院など、日常生活上やむを得ない行為には例外規定がある点を理解しておくことが重要です。従業員から通勤災害の報告を受けた際は、企業には労災申請への助力義務があり、迅速な状況確認と手続きのサポートが求められます。本記事で解説した認定基準や手続きの流れを把握し、万が一の事態に備えておくことが、従業員を守り、企業の適切な労務管理を実践する上で不可欠です。

