生活保護受給者のための訴訟費用支援ガイド|法テラスの利用法を解説
生活保護を受けている状況で、行政への不服申し立てなど訴訟を考えなければならない時、一番の心配は費用ではないでしょうか。弁護士費用や裁判費用は高額で、用意するのは難しいと感じるかもしれません。しかし、経済的な理由で「裁判を受ける権利」を諦める必要はありません。この記事では、生活保護を受給している方が利用できる法テラスの民事法律扶助や裁判所の訴訟救助制度について、その仕組みや利用条件、手続きの流れを詳しく解説します。
生活保護受給者が訴訟で直面する費用面の課題
訴訟に必要な費用の内訳(弁護士費用・実費・印紙代など)
民事訴訟を起こして解決を目指すには、大きく分けて「裁判所に納める費用」と「弁護士に支払う費用」の2種類が必要です。生活保護受給者にとって、これらの費用をすぐに用意することは非常に困難です。
- 収入印紙代: 訴状に貼る印紙の代金で、請求額(訴額)に応じて金額が決まります。
- 予納郵券代: 裁判所が相手方へ書類を送るための切手代で、数千円から数万円を事前に納めます。
- その他: 証人の旅費日当や専門家による鑑定費用など、事案によって追加費用がかかる場合があります。
- 着手金: 事件を依頼する際に支払う費用で、結果にかかわらず返金されないのが一般的です。
- 報酬金: 事件が解決した際に、得られた経済的利益に応じて支払う成功報酬です。
- 実費: 弁護士が活動するためにかかった交通費、通信費、コピー代などです。
経済的な理由で「裁判を受ける権利」が制約される現実
日本国憲法第32条は、すべての国民に裁判を受ける権利を保障しています。しかし、訴訟には多額の費用がかかるため、経済的な理由で権利の行使を諦めざるを得ない状況が生まれています。特に生活保護費は、健康で文化的な最低限度の生活を保障するためのものであり、訴訟費用に充てることは制度の趣旨から想定されていません。
このような経済格差が司法へのアクセスの格差につながらないよう、国は公的な支援制度を設けています。
- 民事法律扶助制度(法テラス): 資力の乏しい人々のために、弁護士費用などを立て替えたり、無料法律相談を行ったりします。
- 訴訟上の救助(裁判所): 裁判所に納める印紙代などの支払いを、一時的に猶予する制度です。
これらの制度は、経済状況にかかわらず誰もが法的な救済を受けられるようにするための重要なセーフティネットです。しかし、制度の存在が十分に知られていなかったり、手続きの複雑さから利用をためらったりするケースもあり、周知と利用促進が課題となっています。
中心的な支援制度:法テラスの民事法律扶助とは
弁護士費用などを立て替える「代理援助」の仕組み
経済的に余裕のない方が法的トラブルを解決するうえで中心的な役割を果たすのが、日本司法支援センター(通称:法テラス)の民事法律扶助制度です。その中核となる「代理援助」は、弁護士や司法書士に依頼する際の費用を法テラスが一時的に立て替える仕組みです。
- 費用の立替え: 着手金や実費など、依頼時に必要となる費用を法テラスが立て替えます。
- 分割での返済(償還): 立て替えられた費用は、原則として月々5,000円から10,000円程度の無理のない範囲で分割返済します。
- 低廉な報酬基準: 弁護士費用は法テラスが定めた基準で算出されるため、一般的な相場より低額になる傾向があります。
この制度を利用することで、手元にまとまった資金がなくても、すぐに専門家のサポートを受けて問題解決に着手できます。
生活保護受給者の返済が免除される「償還免除」制度
法テラスの代理援助は立替金の返済が原則ですが、生活保護受給者には特例的な措置が用意されています。
- 償還の猶予: 生活保護を受給している間は、立替金の返済(償還)が一時的に猶予されます。
- 償還の免除: 事件が終了した時点でも生活保護を受給しており、資力の回復が見込めない場合、申請と審査を経て立替金の返済が全額免除されることがあります。
この償還免除制度を利用するためには、事件終了後に改めて法テラスへの申請が必要です。ただし、訴訟の結果、相手方から賠償金などまとまった金銭を得た場合は、その中から立替費用を返済する必要があり、必ずしも全額が免除されるわけではありません。この制度により、経済的に最も困窮している状況の方でも、費用の心配なく法的手続きを進めることが可能です。
民事法律扶助の対象となる事件の種類と範囲
民事法律扶助制度は、個人の権利や利益を守るための幅広いトラブルを対象としています。
- 民事事件: 債務整理(自己破産など)、交通事故の損害賠償請求、賃貸トラブル、労働問題(未払い賃金請求など)
- 家事事件: 離婚、養育費請求、親権問題、遺産分割などの相続問題
- 行政事件: 国や地方公共団体の処分に対する不服申立てや取消訴訟
一方で、制度の趣旨に合わない、または他の制度で対応すべき事件は対象外となります。
- 刑事事件: 被疑者・被告人の弁護活動(国選弁護制度の対象となります)
- 報復感情や宣伝目的の訴訟: 法的な権利実現を目的としないもの
- 権利濫用にあたる訴訟: 社会的に見て不当な目的を持つもの
法テラスの民事法律扶助を利用するための条件と手続きの流れ
利用の前提となる収入・資産の基準
法テラスの民事法律扶助を利用するには、申込者とその配偶者の収入・資産が一定の基準以下であるという資力基準を満たす必要があります。生活保護受給者は、公的な扶助を受けていることから、原則としてこの資力基準を満たしていると判断されます。
- 収入基準: 手取り月収額(賞与含む)が世帯人数や居住地に応じて定められた基準額以下であること。(例:単身者で約20万円以下)
- 資産基準: 現金や預貯金の合計額が一定額以下であること。(例:単身者で180万円以下)
これらの基準はあくまで目安であり、家賃や住宅ローンの負担がある場合は基準額が加算される特例もあるため、詳細は法テラスに確認することが重要です。
申し込みから審査、援助決定までの具体的な手順
民事法律扶助の利用は、以下の手順で進められます。
- 法律相談: まずは法テラスの窓口や契約している弁護士・司法書士に相談します。
- 援助の申込み: 相談した専門家を通じて、法テラスに援助申込書や必要書類を提出します。
- 審査: 法テラスが「資力基準」「勝訴の見込み」「制度趣旨への適合性」の3つの要件について審査します。
- 援助決定: 審査に通ると援助開始決定が通知され、法テラス、依頼者、専門家の三者間で契約が結ばれます。
申込みから援助決定までの審査期間は、通常2週間から1か月程度かかります。
審査で必要となる主な提出書類
法テラスの審査では、申込者の状況を証明するためにいくつかの書類提出が求められます。依頼する弁護士や司法書士が準備をサポートしてくれます。
- 本人確認書類: 住民票(世帯全員、本籍・続柄記載のもの)
- 資力を証明する書類: 生活保護受給者の場合は「生活保護受給証明書」がこれに代わります。
- 資産を証明する書類: 保有する全ての預貯金通帳の写しなど。
- 事件に関する書類: 借金の契約書、戸籍謄本、交通事故証明書など、相談内容に応じた資料。
書類に不備がないよう、事前にしっかり準備することがスムーズな手続きにつながります。
利用条件の一つである「勝訴の見込み」の考え方
民事法律扶助を利用するには、「勝訴の見込みがないとはいえないこと」という条件を満たす必要があります。これは、全く勝ち目がない訴訟に公的資金は使えないという趣旨です。
ただし、ここでの「勝訴」は、判決で完全に勝利することだけを意味するわけではありません。和解や調停によって紛争が解決する見込みがある場合や、自己破産で免責許可決定を得られる見込みがある場合なども含まれます。一方で、法的な主張自体が成り立たない場合や、それを裏付ける証拠が全くない場合は、見込みがないと判断されることがあります。この判断は専門的であるため、事前の法律相談で弁護士に見通しを確認することが重要です。
法テラス利用をケースワーカーへ相談・報告する際のポイント
生活保護受給者が法テラスを利用する際は、担当のケースワーカーとの連携が不可欠です。円滑に手続きを進めるため、以下の点を押さえておきましょう。
- 生活保護受給証明書の発行: 福祉事務所の窓口で、法テラスへ提出する旨を伝えて発行を依頼します。
- 状況の共有: 法テラスの審査では資産状況なども確認されるため、ケースワーカーに伝えている情報と齟齬がないようにします。
- 進捗と結果の報告: 法的手続きの経過や、金銭を受け取った場合の結果などを速やかに報告し、指示を仰ぎます。
特に自己破産など生活再建に関わる手続きでは、事前にケースワーカーへ相談しておくことで、必要なサポートを得やすくなります。
もう一つの選択肢:裁判所の訴訟救助制度
訴訟救助制度の概要と対象となる費用
裁判所には、訴訟費用を支払う資力がない人のために「訴訟上の救助」という制度があります。この制度を利用すると、裁判所に納める費用の支払いが一時的に猶予されます。あくまで支払いの猶予であり、免除ではない点が特徴です。
生活保護受給者は、生活保護受給証明書を提出することで、資力がないことの証明となり、この制度を利用しやすくなります。「勝訴の見込みがないとはいえないこと」も要件ですが、比較的緩やかに判断される傾向があります。
- 訴状に貼る収入印紙代(申立手数料)
- 書類送達のための郵便料(予納郵券)
- 証人の旅費・日当
- 鑑定費用
法テラスの制度との違いと利用上の注意点
裁判所の訴訟救助と法テラスの民事法律扶助は、支援の範囲が異なります。弁護士を立てて訴訟を行う場合は、両者の違いを理解し、適切に利用することが重要です。
| 項目 | 法テラスの民事法律扶助 | 裁判所の訴訟救助 |
|---|---|---|
| 運営主体 | 日本司法支援センター(法テラス) | 裁判所 |
| 対象費用 | 弁護士費用と実費(印紙代など) | 裁判所に納める費用(印紙代など)のみ |
| 支援内容 | 立替え(生活保護受給者は免除の可能性あり) | 猶予(免除ではない) |
実務上、法テラスの代理援助を利用する際に、まず裁判所の訴訟救助を申し立てるよう促されることがあります。これは、両制度を併用し、公的な支援を最大限活用するためです。訴訟救助で猶予された費用は、最終的に裁判の結果に応じて支払う必要がある点に注意が必要です。
費用をかけずに弁護士へ相談する方法
法テラスが実施する無料法律相談
法テラスでは、資力が一定基準以下の方(生活保護受給者を含む)を対象に、無料法律相談(法律相談援助)を行っています。1つの問題につき原則3回まで、1回30分程度、弁護士や司法書士に無料で相談できます。
利用するには、法テラスの地方事務所や、法テラスと契約している法律事務所への事前予約が必要です。法テラス・サポートダイヤルに電話するか、最寄りの事務所に問い合わせてみましょう。この相談を通じて、問題解決への道筋や民事法律扶助の利用について、具体的なアドバイスを受けられます。
弁護士会や自治体が設けている法律相談窓口
法テラス以外にも、無料で法律相談ができる窓口があります。
- 弁護士会の法律相談センター: 各都道府県の弁護士会が運営しており、借金問題や相続など特定の分野で初回相談無料の相談会を定期的に開催しています。
- 市区町村の役所: 住民サービスの一環として、予約制の無料法律相談を実施しています。地元の弁護士が相談員を務めることが多く、身近な窓口として利用できます。
担当のケースワーカーに尋ねれば、利用できる地域の相談窓口について情報提供や紹介をしてくれる場合もあります。
訴訟の結果による費用負担はどう変わるか
勝訴した場合:相手方から経済的利益を得た際の返済義務
法テラスを利用して勝訴し、相手方から賠償金などの経済的利益を得た場合、生活保護受給者であっても返済義務が生じます。償還免除制度は、あくまで資力がない状態が続くことが前提です。
得られた金銭は、まず法テラスが立て替えた費用(着手金、実費、報酬金)の返済に充てられます。その残額が手元に残ることになります。ただし、得た利益が少額で、返済すると生活の自立に支障が出るような場合は、返済額が調整されることもありますので、事件終了時に担当弁護士や法テラスとよく相談してください。
要注意:勝訴で得た金銭が「収入認定」されるリスク
訴訟で得た賠償金などは、生活保護制度上、収入として扱われます。これを「収入認定」といい、福祉事務所への申告が義務付けられています。
収入認定されると、その金額に応じて生活保護費が減額されたり、一時的に支給が停止されたりします。場合によっては、これまで受給した保護費の一部返還を求められることもあります。その結果、訴訟で得た金銭が法テラスへの返済や保護費の調整で相殺され、手元にほとんど残らないという事態も起こり得ます。訴訟を始める前に、勝訴した場合の生活への影響について、弁護士やケースワーカーと十分に確認しておくことが非常に重要です。
敗訴した場合:相手方の訴訟費用を負担する必要はあるか
訴訟で敗訴した場合、相手方が依頼した弁護士費用を負担する必要は原則としてありません。日本の民事訴訟では、弁護士費用は各自が負担するのが基本です。
一方で、印紙代や郵便料といった訴訟費用については、判決で敗訴した側が負担するよう命じられるのが一般的です。もし裁判所の訴訟救助制度で支払いを猶予されていた場合、敗訴によってその効力がなくなり、猶予されていた費用を裁判所から請求されることになります。生活保護受給者には支払い能力がないため、実際に強制的な回収が行われることは稀ですが、法律上の支払い義務は残る可能性があります。
生活保護と訴訟費用に関するよくある質問
法テラスの利用中に生活保護が打ち切りになった場合、立替費用はどうなりますか?
法テラスを利用中に就労などで生活保護が廃止された場合、それまで猶予されていた立替金の返済(償還)が開始されます。生活保護受給中の償還猶予は、あくまで受給期間中の特例だからです。ただし、保護が打ち切りになっても経済的に苦しい状況が続く場合は、法テラスに相談することで、月々の返済額の減額や、返済の再猶予が認められる可能性があります。状況が変わった際は、速やかに法テラスへ連絡してください。
弁護士費用は全額免除されますか?自己負担は発生しますか?
事件終了時にも生活保護を受給しており、相手方から金銭を得ていない場合、法テラスの立替金は審査を経て全額免除される可能性が高いです。しかし、自己負担が全く発生しないとは限りません。例えば、自己破産手続きで破産管財人が選任される場合、裁判所に納める「管財予納金」は法テラスの立替対象外となることがあり、別途用意する必要があります。また、勝訴して金銭を得た場合は、その中から費用を支払うため、実質的な自己負担が発生します。
法テラスの審査にはどのくらいの期間がかかりますか?
申込みから援助決定までの審査期間は、通常2週間から1か月程度が目安です。生活保護受給者の場合、資力要件の確認はスムーズですが、事件内容の審査に時間がかかることがあります。提出書類に不備があると審査が中断してしまうため、弁護士とよく相談し、必要書類を正確に準備することが、手続きを早く進めるためのポイントです。
どのような弁護士でも法テラスの制度で依頼できますか?
いいえ、法テラスの民事法律扶助を利用して依頼できるのは、法テラスと契約している弁護士・司法書士(契約弁護士など)に限られます。自分で弁護士を探す場合は、その弁護士が法テラスの案件を取り扱っているか、事前に確認が必要です。法テラスの窓口で相談すれば、契約弁護士を紹介してもらうこともできます。
家族に知られずに法テラスを利用することはできますか?
原則として困難です。法テラスの審査は世帯単位で行われるため、同居家族の収入や資産に関する書類が必要となり、家族の協力が不可欠です。ただし、DVや虐待など、家族に知られることで危険が伴う特別な事情がある場合は、例外的に本人のみの資力で審査するなどの配慮がなされることがあります。事情がある場合は、必ず最初の相談で弁護士や法テラスの担当者に伝えてください。
まとめ:生活保護でも諦めない!公的支援を活用して法的問題に立ち向かう
生活保護を受給中に訴訟が必要となった場合でも、法テラスの民事法律扶助や裁判所の訴訟救助といった公的な支援制度を利用することで、費用の問題を解決できる可能性があります。特に法テラスでは、弁護士費用の立替えだけでなく、事件終了後も生活保護を受給していれば返済が免除される特例があります。ただし、これらの制度には利用条件があり、勝訴して金銭を得た場合には返済義務や収入認定のリスクも伴うため注意が必要です。まずは一人で抱え込まず、法テラスや自治体の無料法律相談を利用して専門家である弁護士に相談してみましょう。ご自身の状況でどの制度が使えるのか、どのような見通しになるのかを確認することが、問題解決への大切な第一歩となります。

