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交通捜査とは?仕事内容や捜査の流れ、期間について解説

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交通事故が発生した際、警察はどのように真相を解明するのでしょうか。また、その専門家である交通捜査官は、日々どのような業務にあたっているのでしょうか。交通事故の当事者となってしまった方や、交通捜査という仕事に関心を持つ方にとって、そのプロセスは分かりにくい点も多いかもしれません。この記事では、交通捜査の具体的な仕事内容から、ひき逃げ事件などの捜査フロー、捜査にかかる期間、そして捜査官に求められる資質までを体系的に解説します。

目次

交通捜査とは?その役割と具体的な仕事内容

交通捜査の目的と警察組織における位置づけ

交通捜査の最大の目的は、道路交通における安全と秩序を維持することです。個人の生命、身体、財産を保護するため、犯罪の予防、捜査、交通違反の取り締まりを行います。悲惨な交通事故をなくし、死傷者を減らすことで、誰もが安心して暮らせる交通社会の実現を目指します。

警察組織において、この役割は各都道府県警察本部の交通部に所属する交通捜査課が担います。各警察署にも交通課内に捜査係が置かれています。殺人や強盗といった一般的な刑法犯を扱う刑事部に対し、交通捜査課は道路交通に起因する事故や事件に特化した専門部隊の一つといえます。

交通捜査課が担当する主な業務

交通捜査課が担当する業務は多岐にわたります。代表的な業務は、交通事故事件の捜査です。このほか、交通にまつわる特殊な犯罪も担当することがあります。

交通捜査課の主な担当業務
  • 交通事故事件の捜査:人身事故、ひき逃げ事件、危険運転致死傷事件などの全容を解明します。
  • 交通特殊事件の捜査:当たり屋などの保険金詐欺や、道路を不法に占拠する事案などを扱います。
  • 違法行為の摘発:無許可で営業する白タクや白バス、不正な車検に関連する事案などを摘発します。
  • 暴走族対策:暴走族に対する総合的な対策や指導、取り締まりを行います。

実況見分:事故現場の状況を客観的に記録する

実況見分は、交通事故の発生後、速やかに行われる重要な捜査活動です。事故現場に被害者、加害者、目撃者などの関係者が立ち会い、警察官が現場の状況を詳細に確認します。目的は、事故当時の状況を客観的に記録し、証拠を保全することです。

実況見分で確認・記録される主な項目
  • 路面に残されたスリップ痕やブレーキ痕の長さ・形状
  • 車両の破損状況や最終的な停止位置
  • 道路の幅員、勾配、路面の状態
  • 信号機の表示サイクルや標識の有無、周辺の見通し

実況見分の結果は実況見分調書という書面にまとめられ、図面や写真と共に後の過失割合の算定や刑事裁判で客観的な証拠として用いられます。

聞き込みと事情聴取:関係者から情報を収集する

聞き込みと事情聴取は、目に見えない事故の経緯や、当事者の認識などを明らかにするための手続きです。警察官は、事故現場の周辺で目撃者を探したり、防犯カメラの有無を確認したりする聞き込み捜査を行います。

事情聴取では、加害者や被害者から事故直前の速度、信号の色、相手を認識した地点などを詳しく聞き取ります。この聴取内容は供述調書という書面にまとめられ、本人が内容を確認した上で署名・押印することで、原則として証拠となります。記憶は時間と共に薄れる傾向にあるため、捜査は可能な限り迅速に行われます。当事者の言い分が異なる場合は、客観的証拠と照らし合わせて真実を追求します。

証拠資料の分析:客観的な事実を科学的に明らかにする

現代の交通捜査では、高度な科学技術を用いた証拠資料の分析が不可欠です。交通鑑識と呼ばれる専門係員が、現場に残されたわずかな痕跡から事実を解明します。

科学捜査で用いられる主な分析・技術
  • 遺留品の分析:ひき逃げ現場に残された塗膜片から車種を特定したり、衣服の繊維を分析したりします。
  • 三次元計測:モービルマッピングシステムといった技術を活用し、事故現場の精密な三次元データを迅速に取得します。
  • 画像解析:ドライブレコーダーや防犯カメラの映像を解析し、秒単位での車両の動きや衝突状況を解明します。

これらの科学的な手法により、客観的な証拠に基づいて事故の真相を明らかにします。

交通捜査の対象となる事件と捜査の流れ

ひき逃げ・当て逃げ事件における捜査手法

ひき逃げや当て逃げ事件では、逃走した車両と運転者を特定するため、迅速な初動捜査が重要です。警察は、現場に残された部品の破片や塗膜片などの遺留品を徹底的に捜索し、車種の特定を進めます。同時に、周辺の防犯カメラやドライブレコーダーの映像を収集・分析し、逃走経路を割り出します。最新の分析機器を用いることで、ごくわずかな遺留品から容疑車両を特定できる場合もあります。被害者の救護を怠る悪質な行為であるため、警察は可能な限り迅速かつ徹底的に被疑者を追跡します。

死亡・重傷事故など重大な交通事故の捜査

死亡事故や重傷事故のような重大な交通事故では、より緻密で組織的な捜査体制が敷かれます。多くの場合、都道府県警察本部の交通捜査課等から専門の捜査員や指揮官が現場へ赴き、捜査を指揮することがあります。重大な結果が発生しているため、通常の過失運転致死傷罪だけでなく、より罰則の重い危険運転致死傷罪の適用も視野に入れて捜査が進められます。

特に、アルコールや薬物の影響、制御不能なほどの高速走行がなかったかなどが重点的に調査されます。被害者が亡くなっている場合は一方の当事者から話を聞けないため、科学的な解析による事故状況の再現が極めて重要となります。

交通事故発生から送検までの基本的な捜査フロー

交通事故が発生してから、事件が検察庁に送られるまでの流れは以下の通りです。

交通事故の基本的な捜査フロー
  1. 事故発生・初動捜査:事故を認知し、負傷者の救護と現場での実況見分を行います。
  2. 捜査開始と身柄拘束の判断:本格的な捜査を開始し、被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあれば逮捕します。
  3. 検察官への送致:逮捕した場合は48時間以内に、身柄を拘束しない在宅事件の場合は捜査が完了次第、事件を検察官へ送致します(送検)。
  4. 検察官による捜査と処分決定:検察官が証拠を精査し、最終的に起訴するか不起訴にするかを判断します。
  5. 刑事裁判:起訴された場合、略式裁判による罰金刑または正式な刑事裁判へと進みます。

被害者連絡制度とは?捜査状況が知られる仕組み

被害者連絡制度は、重大な交通事故の被害者やその遺族に対して、事件の捜査状況などを定期的に知らせる制度です。対象となるのは、ひき逃げ事件、交通死亡事故、全治3か月以上の重傷事故などです。

被害者連絡制度で提供される主な情報
  • 被疑者の検挙状況、氏名、年齢など
  • 事件が検察庁へ送致された事実
  • 起訴・不起訴といった最終的な処分結果

犯罪被害者は事件の行方に強い不安を抱えることが多いため、警察は心情に配慮しながら、捜査に支障のない範囲で丁寧な情報提供に努めます。情報提供を希望しない場合は、その旨を伝えれば連絡を止めることも可能です。

交通捜査にかかる期間の目安

一般的な交通事故捜査に要する期間

交通事故の捜査期間は、事故の態様や負傷の程度によって大きく異なります。被害が軽傷で、加害者が事実関係を認めているような単純な物損事故や人身事故の場合、事故発生から1〜3か月程度で捜査が完了し、送検や処分が決まることが一般的です。

ただし、捜査の進捗はケースバイケースです。被疑者が逮捕・勾留される身柄事件では、法律上の時間制限があるため、逮捕から検察官による処分決定までには、通常、最長で23日程度の期間が設けられています。一方、日常生活を送りながら捜査が進む在宅事件では、捜査期間に厳密な制限がないため、処分が決まるまでに半年以上を要することもあります。

捜査が長期化する主な要因とケース

交通捜査が長期化する要因は、物理的な事情と当事者間の主張の対立に大別されます。

捜査が長期化する主な要因
  • 科学捜査研究所での高度な鑑定や専門家による工学的な解析が必要な場合
  • ひき逃げ事件で被疑者の特定が難航している場合
  • ドライブレコーダー等の映像が不鮮明で、詳細な解析に時間を要する場合
  • 当事者が事故の状況や過失を否認しているなど、慎重な裏付け捜査が求められる場合
  • 複数の車両が関係する多重衝突事故で、関係者の事情聴取や供述の整理に時間がかかる場合

交通捜査官に求められる資質とキャリア

捜査官に不可欠な専門知識と技術的スキル

交通捜査官には、法律知識に加えて、理数系や技術的な専門スキルが求められます。交通事故の現象を解明するには、交通工学や物理学の視点から物体の動きを分析する能力が不可欠です。

交通捜査官に求められる専門知識・スキル
  • 車両の速度推定や、路面の痕跡から挙動を導き出す計算能力
  • モービルマッピングシステムや3Dレーザースキャナなど最新機器の操作技術
  • ドライブレコーダーの映像解析能力や、車両の構造に関する深い知識

警視庁などでは、土木工学などを専攻した交通技術職という専門職員も採用している場合があります。常に進化する技術に対応し続ける学習意欲が求められる専門性の高い仕事です。

高い倫理観と冷静な判断力

交通事故の現場は凄惨な状況であることも多く、捜査官には極めて高い倫理観と冷静な判断力が不可欠です。一つの事故が当事者やその家族の人生を大きく左右するため、感情に流されることなく、中立的な立場で客観的な事実のみを追求する姿勢が求められます。現場に残されたわずかな証拠から真実を探るためには、個人的な先入観を排除し、誠実に職務を遂行する強い精神力が必要です。

交通捜査の仕事におけるやりがい

交通捜査の最大のやりがいは、事件の真相を解明し、社会正義を実現することにあります。特に、地道な捜査の末に悪質なひき逃げ犯を検挙できた時の達成感は大きいものです。

交通捜査におけるやりがい
  • わずかな遺留品を手がかりに、逃走車両を特定し犯人を検挙したとき
  • 被害者や遺族から感謝の言葉をかけられ、職務の意義を実感したとき
  • 正確な捜査によって事故の公正な解決に貢献し、交通社会の安全を守っていると実感したとき

一件でも多くの悲惨な事故をなくしたいという強い使命感が、この仕事の原動力となります。

職務に伴う厳しさと精神的な負担

交通捜査官の仕事は、心身ともに過酷な側面を持っています。死亡事故の現場では、被害者の無念や遺族の深い悲しみに直接向き合わなければなりません。

交通捜査の職務に伴う厳しさ・負担
  • 凄惨な事故現場での長時間にわたる証拠収集活動
  • 雨天や夜間など、過酷な環境下での現場作業
  • 身柄事件における厳しい時間制限と、立証責任の重圧
  • 事実を否認する被疑者と辛抱強く向き合う精神的な消耗

これらの重圧に耐えながら、常に公正な捜査をやり遂げるという強い精神力が求められます。

交通捜査に関するよくある質問

交通捜査と刑事捜査の違いは何ですか?

交通捜査と刑事捜査の最も大きな違いは、担当する部署と対象となる犯罪の種類です。両者の違いを以下の表にまとめます。

項目 交通捜査 刑事捜査
所属部署 交通部 刑事部
主な対象犯罪 道路交通に起因する犯罪(過失運転致死傷罪、道交法違反など) 刑法犯全般(殺人、強盗、窃盗など)
主な捜査手法 実況見分、交通事故の科学的解析、交通鑑識 聞き込み、張り込み、取り調べ、指紋・DNA鑑定など
交通捜査と刑事捜査の主な違い

ただし、同じ警察官であることに変わりはなく、事件の内容に応じて両者が連携して捜査にあたることもあります。

交通捜査課から電話がかかってくるのはどのような場合ですか?

交通捜査課から電話がかかってくる場合、いくつかの理由が考えられます。

交通捜査課から連絡が来る主な理由
  • 交通事故の被疑者(加害者)として、取り調べのための出頭要請
  • 交通事故の参考人として、目撃情報などを提供するための協力依頼
  • 家族や親族が交通事故の被害に遭った際の緊急連絡
  • 事故現場での遺失物に関する連絡

電話を受けた際は、相手の警察署名、所属、氏名を確認し、不安な場合は一度電話を切って警察署の代表番号にかけ直して確認するとよいでしょう。

物損事故(当て逃げなど)でも本格的な捜査は行われるのですか?

物損事故は、原則として、刑事事件としての立件には至らず、簡易な書類(物件事故報告書など)で処理されることが一般的です。しかし、車両を損傷させたにもかかわらず、危険防止措置や警察への報告をせずに現場を立ち去る当て逃げは、道路交通法違反という犯罪にあたるため、捜査の対象となります。

被害届が提出され、現場に遺留品があったり防犯カメラ映像が残っていたりする場合、警察は逃走車両の特定を進めます。ただし、捜査の優先順位は、人身事故に比べて低くなる傾向にありますが、証拠が明確な場合は被疑者が検挙される可能性は十分にあります。

「交通捜査員」とは警察官のことですか?

一般的に「交通捜査員」とは、交通部門で捜査に従事する警察官を指します。ただし、交通捜査の現場では、警察官以外の専門職員も活躍しています。代表的なのが交通技術職の職員で、土木工学などの専門知識を活かして現場の測量や図面作成、信号機の分析などを行い、科学的な捜査を支援しています。捜査の中心は捜査権を持つ警察官ですが、こうした専門家と協力して事件を解明しています。

ドライブレコーダーの映像は捜査でどのように活用されますか?

ドライブレコーダーの映像は、事故の客観的な状況を記録した極めて重要な証拠の一つとして活用されます。

ドライブレコーダー映像の主な活用方法
  • 信号の色、一時停止の有無、歩行者の動きなど、客観的な事実認定に利用
  • 映像の解析による、衝突時の速度や車両の位置関係の特定
  • ひき逃げ事件における、逃走車両のナンバーや車種の割り出し
  • 当事者の記憶や供述の裏付け、または矛盾点の指摘

映像データは、必要に応じて科学捜査研究所で精密な解析が行われ、裁判でも有力な証拠となります。

物損事故から人身事故への切り替えと捜査への影響

事故直後は痛みを感じず物損事故として処理しても、後日、診断書を警察に提出することで人身事故に切り替えることが可能です。この切り替えにより、警察の対応と捜査の進め方は大きく変わります。

人身事故への切り替えによる主な変化
  • 捜査が本格化し、実況見分調書や供述調書などの詳細な書類が作成される。
  • 物損事故としての処理から、刑事事件としての捜査へと移行します。
  • 加害者には、過失運転致死傷罪などの刑事責任が問われる可能性が生じます。
  • 事故原因がより詳細に究明され、被害者の正当な損害賠償請求の根拠となる。

切り替えによって捜査や手続きに時間はかかりますが、被害者の権利を守り、事故の責任を明確にする上で重要な手続きです。

まとめ:交通捜査の全体像と社会における重要性

交通捜査は、交通事故の真相を科学的かつ客観的な証拠に基づいて解明し、交通社会の安全と秩序を守るための重要な役割を担っています。実況見分や聞き込みといった基本的な捜査に加え、ドライブレコーダーの解析や交通鑑識などの高度な科学技術を駆使して、ひき逃げや重大事故といった複雑な事案の解決に挑みます。捜査期間は事案の複雑さによって異なりますが、いずれの事件においても、捜査官には専門知識と技術、そして何より中立公正な立場で真実を追求する強い倫理観が求められます。この記事で解説した内容が、交通捜査という仕事への理解を深め、あるいは万が一事故に遭遇した際の捜査プロセスを把握する一助となれば幸いです。

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