従業員の交通事故で会社が知るべき行政処分|点数制度から決定の流れ
従業員が起こした交通事故で科される行政処分について、その全体像を正確に把握することは企業にとって重要です。刑事罰や民事責任との違いも複雑で、その仕組みや流れを理解しておかないと、従業員の就業に大きな影響を及ぼす可能性があります。この記事では、行政処分の基礎となる点数制度から、免許停止・取消の具体的な基準、処分が決定するまでの手続きを体系的に解説します。
交通事故に関する3つの責任
行政処分とは何か?その目的と根拠
交通事故や交通違反をした運転者に対して科される行政処分とは、将来の道路交通における危険を未然に防ぎ、交通の安全を確保することを目的とした措置です。過去の行為に対する制裁(罰)ではなく、あくまでも予防的な措置という性格を持ちます。
この処分は道路交通法を根拠とし、各都道府県の公安委員会が、安全な運転に適さないと判断した運転者の免許の効力を一時的に停止(免許停止)したり、取り消したり(免許取消)する権限を行使するものです。運転免許は、本来禁止されている公道での自動車運転を特別に許可するものであるため、その適性を欠くと判断されれば許可が制限されるという考え方に基づいています。
処分の基準は、違反や事故の内容に応じて点数を加算する点数制度によって客観的に定められています。これにより、危険性の高い運転者を交通の場から一時的に排除する一方で、安全運転を続ける運転者には点数計算上の優遇措置を設け、安全運転を促す機能も果たします。
刑事処分・民事責任との相違点
交通事故を起こした場合、運転者は行政処分に加えて、刑事処分と民事責任という、性質の異なる2つの責任も同時に問われる可能性があります。これら3つの責任は目的や根拠法が異なるため、それぞれ独立した手続きとして進められます。
| 責任の種類 | 目的 | 根拠法 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 行政処分 | 将来の交通上の危険防止 | 道路交通法 | 運転免許の停止・取消し |
| 刑事処分 | 過去の犯罪行為への制裁 | 刑法、自動車運転処罰法など | 罰金、禁錮、懲役などの刑罰 |
| 民事責任 | 被害者への損害賠償 | 民法 | 治療費、慰謝料、修理費などの金銭的補償 |
例えば、被害者との示談が成立して民事責任を果たしたとしても、それによって刑事処分や行政処分が自動的に免除されるわけではありません。同様に、刑事処分で不起訴となった場合でも、交通違反の事実があれば行政処分の点数は加算されます。
行政処分の基礎となる点数制度
点数制度の基本的な仕組み
行政処分の基準となる点数制度は、交通違反や交通事故に対して所定の点数を付け、過去3年間の累積点数に応じて免許停止や免許取消といった処分を決定する仕組みです。一般的に誤解されがちな減点方式ではなく、違反のたびに点数が加算されていく累積方式(加点方式)が採用されています。
ただし、安全運転を奨励するための優遇措置も設けられています。
- 1年間無事故・無違反・無処分だった場合、それ以前の点数は合算されません。
- 2年以上無事故・無違反だった人が3点以下の軽微な違反をし、その後3か月間無事故・無違反で過ごした場合、その違反点数は合算されません。
これらの措置により、違反から一定期間が経過し、安全運転を継続しているドライバーは、過去の違反が将来の処分に影響しにくくなっています。
違反行為の種類で決まる「基礎点数」
違反行為に付けられる点数は「基礎点数」と呼ばれ、行為の危険性や悪質性に応じて一般違反行為と特定違反行為に大別されます。
| 分類 | 概要と違反例 | 点数 |
|---|---|---|
| 一般違反行為 | 信号無視、速度超過など、比較的発生しやすい違反 | 1点〜25点 |
| 特定違反行為 | 酒酔い運転、ひき逃げなど、特に悪質・危険な違反 | 35点〜62点 |
特定違反行為は、一度の違反で直ちに免許取消処分の対象となる極めて重い点数が設定されています。例えば、酒酔い運転は35点、運転殺人等は62点です。複数の違反を同時に犯した場合は、原則として最も点数の高い違反の点数が適用されます。
事故の過失と結果で加わる「付加点数」
交通事故を起こした場合は、原因となった違反行為の基礎点数に加えて、事故の結果と運転者の過失の程度に応じた「付加点数」が加算されます。
- 死亡事故(加害者の不注意が主な原因の場合): 20点
- 傷害事故(治療期間3か月以上または後遺障害あり、加害者の不注意が主な原因の場合): 13点
- 傷害事故(治療期間15日未満、加害者の不注意が主な原因の場合): 3点
- 建造物損壊事故: 2点または3点
- 当て逃げ(物損事故後の措置義務違反): 5点
人が死傷しない物損事故では、原則として付加点数は加算されません。ただし、事故後に危険防止措置などを怠って現場から走り去る「当て逃げ」には付加点数が科されます。また、人身事故を起こして被害者を救護せずに逃走する「ひき逃げ」は、特定違反行為として基礎点数35点が科されるため、極めて重い処分につながります。
行政処分の種類と適用基準
免許停止(免停)となる点数と期間
免許停止(免停)は、一定期間、運転免許の効力を停止させる処分です。停止期間は最短30日から最長180日まであり、累積点数と過去3年以内の行政処分歴(前歴)の回数によって決まります。
前歴があるほど、より少ない点数で、より長期間の処分が科されます。
| 前歴回数 | 30日免停 | 60日免停 | 90日免停 | 120日免停 | 150日免停 | 180日免停 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0回 | 6~8点 | 9~11点 | 12~14点 | – | – | – |
| 1回 | – | 4~5点 | 6~7点 | 8~9点 | – | – |
| 2回 | – | – | 2点 | 3点 | 4点 | – |
| 3回 | – | – | – | 2点 | 3点 | – |
| 4回以上 | – | – | – | – | 2点 | 3点 |
免許停止期間中に運転すると無免許運転となり、基礎点数25点が加算され、免許取消処分が科されるほか、刑事罰の対象にもなります。
免許取消(免取)となる点数と欠格期間
免許取消(免取)は、運転免許の効力を失わせる最も重い行政処分です。免許を再取得するには、指定された欠格期間が満了した後に、改めて運転免許試験を受け直さなければなりません。
取消処分となる基準点数も、免許停止と同様に前歴回数によって変動します。
| 前歴回数 | 免許取消となる点数 |
|---|---|
| 0回 | 15点以上 |
| 1回 | 10点以上 |
| 2回 | 5点以上 |
| 3回以上 | 4点以上 |
また、免許取消処分には、免許を再取得できない期間として「欠格期間」が定められます。この期間は、累積点数や前歴回数に応じて1年から最長10年に及びます。欠格期間満了後、免許を再取得するためには取消処分者講習の受講が義務付けられています。
処分が決定するまでの流れ
事故発生から処分通知までの主な流れ
交通違反や事故の発生から行政処分が通知されるまでには、警察内部でいくつかの手続きが踏まれます。
- 警察官が現場で違反や事故の事実確認を行い、調書を作成します。
- 警察内部の行政処分担当部署へ情報が送付されます。
- 担当部署が点数を算出し、過去の違反歴と照合して累積点数を確定します。
- 処分基準に達している場合、本人宛に「行政処分出頭通知書」などが郵送されます。
通知書が届くまでの期間は事案によって異なり、単純な違反では数週間から1か月程度ですが、人身事故など捜査に時間がかかる場合は半年から1年以上を要することもあります。
処分の前に行われる「意見の聴取」
免許取消や90日以上の長期免許停止など、重い行政処分が予定される場合、処分の前に意見の聴取という手続きが開かれます。これは、処分対象者から直接事情を聞き、処分が妥当かどうかを慎重に判断するための機会です。
- 違反や事故の状況について、自身の言い分を主張する。
- 被害者との示談が成立している証明書など、有利な証拠を提出する。
- 反省の意を示す上申書や、関係者からの嘆願書を提出する。
正当な理由なく欠席すると、予定通りの処分が下されるため、処分軽減の可能性がある場合は出席することが重要です。
「意見の聴取」に従業員が出席する際の会社の関与と注意点
業務で運転する従業員が意見の聴取の対象となった場合、会社が直接手続きに介入することはできません。しかし、処分軽減に向けた支援として、会社が作成した嘆願書を従業員に持参させることが有効です。
- 従業員の平素の真面目な勤務態度や人柄
- 会社の事業運営において、その従業員の運転業務がいかに不可欠であるか
- 会社として再発防止策を徹底し、今後の安全運転を監督する旨の表明
ただし、事実を誇張したり、虚偽の内容を記載したりすることは、かえって心証を悪くする可能性があるため、真摯な姿勢で寛大な処分を求める内容にすることが肝要です。
処分が科されない・軽減されるケース
点数が処分基準に達した場合でも、状況によっては処分が科されなかったり、軽減されたりすることがあります。
- 違反者講習の受講: 前歴がなく累積点数が6点(軽微な違反の積み重ね)の場合、講習を受けると免許停止処分が免除され、点数も合算されなくなります。
- 意見の聴取での情状酌量: やむを得ない事情や深い反省が認められると、予定されていた処分が一段階軽減されることがあります(例:免許取消→180日免停)。
- 停止処分者講習の受講: 免停処分を受けた後、任意で講習を受けて考査で良い成績を収めると、停止期間が大幅に短縮されます。
交通事故の行政処分に関するFAQ
行政処分の通知はいつ頃届きますか?
通知が届くまでの期間は、事案の内容や警察の処理状況によって大きく異なります。速度超過などの単純な違反であれば数週間から1か月程度で届くことが多いですが、人身事故などで捜査に時間を要するケースでは、半年から1年以上経ってから通知が来ることもあります。
処分は誰が最終的に決定するのですか?
行政処分を最終的に決定する権限を持つのは、各都道府県の公安委員会です。現場の警察官は違反の取り締まりや事故の捜査を行いますが、その場で処分を決定する権限はありません。警察の捜査結果に基づき、公安委員会が意見の聴取などを経て最終的な処分を決定します。
物損事故のみでも行政処分はありますか?
人が死傷していない単独の物損事故では、原則として違反点数は加算されず、行政処分の対象にはなりません。ただし、事故の原因が信号無視などの交通違反にある場合はその違反に対する点数が、また、建造物を壊した場合や当て逃げをした場合には付加点数が科され、行政処分につながる可能性があります。
行政処分と刑事罰の両方が科されますか?
はい、科される可能性があります。行政処分は将来の危険防止を目的とする免許に関する措置、刑事罰は過去の行為に対する制裁であり、目的が全く異なるため、両方が科されても二重処罰にはあたりません。そのため、2つの手続きは並行して進められます。
処分の内容に不服申し立てはできますか?
はい、可能です。決定された処分に不服がある場合、審査請求(行政不服審査法)や処分の取消訴訟(行政事件訴訟法)といった法的な手段で争うことができます。ただし、これらは処分が決定した後にその妥当性を争う手続きであり、処分前に事情を説明して軽減を求める「意見の聴取」とは性質が異なります。
会社は従業員の免許情報をどう管理すべきですか?
業務で自動車を運転する従業員を雇用する会社は、従業員が有効な運転免許を保持しているかを確認・管理する安全運転管理者の選任等の義務を負っています。定期的な免許証の目視確認や、運転者台帳の整備、違反や事故を起こした際の報告義務を社内規程で定めるなどの対策が求められます。
まとめ:交通事故の行政処分を正しく理解し、適切な対応に繋げる
交通事故における行政処分は、将来の危険防止を目的とした免許の停止・取消であり、刑事罰や民事責任とは独立した手続きです。処分は違反や事故に応じた点数の累積で決まり、特に免許取消などの重い処分前には「意見の聴取」という弁明の機会が設けられます。会社としては、この意見の聴取に従業員が出席する際に嘆願書を作成するなど、処分軽減に向けた支援が可能です。従業員が事故を起こした際は、まず行政処分の全体像を理解し、処分通知が届いた際にはどのような手続きが進むのかを把握しておくことが初動対応の鍵となります。ただし、本記事の内容は一般的な解説であり、個別の事案に対する具体的な法的助言は、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

