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不法行為の損害賠償請求で弁護士費用は相手に請求できるか?法的根拠と相場を解説

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不法行為によって予期せぬ損害を被った企業の担当者にとって、加害者への損害賠償請求は正当な権利の行使です。しかし、その手続きのために弁護士に依頼した場合、高額となることが多い弁護士費用を損害の一部として相手方に請求できるのかは、実務上極めて重要な関心事となります。この記事では、不法行為に基づく損害賠償請求において弁護士費用を相手方に請求できる法的根拠、認められる金額の相場、そして債務不履行との違いや契約実務上のポイントまでを網羅的に解説します。

目次

弁護士費用の相手方請求に関する基本原則

原則として弁護士費用は自己負担となる理由

日本の民事訴訟制度では、訴訟で勝訴したとしても、原則として自身が依頼した弁護士の費用を相手方に請求することはできません。これは、各当事者が自己の責任で費用を負担するという「自己負担の原則」に基づいています。法律上、弁護士への依頼は強制されておらず、本人で訴訟を行う選択肢も保障されていることが背景にあります。

民事訴訟法で定められ、敗訴者が負担する「訴訟費用」には、裁判所に納める手数料(印紙代)や郵便切手代などは含まれますが、弁護士への報酬は含まれていません。この原則には、以下のようないくつかの理由があります。

弁護士費用が原則自己負担となる主な理由
  • 訴訟当事者には、弁護士を選任するかどうかを選択する自由があるため(弁護士強制主義が採用されていないため)
  • 民事訴訟法が定める「訴訟費用」に、弁護士への報酬は含まれていないため
  • 弁護士報酬は法律事務所ごとに異なり、一律の基準がないため
  • 敗訴時の費用負担を過大にすると、正当な権利主張が萎縮するおそれがあるため

例外的に請求が認められる「不法行為」に基づく損害賠償

弁護士費用は原則自己負担ですが、「不法行為」に基づく損害賠償請求においては、例外的にその一部を相手方に請求することが認められています。

不法行為とは、交通事故、不貞行為、名誉毀損など、加害者の違法な行為によって権利や利益が侵害される事案を指します。このような場合、被害者は損害を回復するために、やむを得ず訴訟を提起せざるを得ない状況に置かれることがあります。そこで裁判所は、訴訟対応のために要した弁護士費用も、加害者の不法行為と「相当因果関係」のある損害の一部であると判断します。

被害者が専門的な訴訟活動を独力で行うことは困難であり、弁護士の助力が事実上不可欠であるという実情が考慮される結果です。ただし、請求が認められるのは実際に支払った費用の全額ではなく、裁判所が相当と認めた範囲(一般的には認容された損害額の1割程度)に限られます。

不法行為で弁護士費用請求が認められる法的根拠と要件

法的根拠となる最高裁判例(昭和44年2月27日判決)の要点

不法行為の事案で弁護士費用を損害として請求できる法的根拠は、最高裁判所昭和44年2月27日判決によって確立されました。

この判決は、日本の法制度が弁護士の選任を強制していない(弁護士強制主義ではない)ことを認めつつも、現代の訴訟は専門化・技術化しており、一般人が独力で十分な訴訟活動を行うことは極めて困難であると指摘しました。そのため、不法行為によって権利を侵害された被害者が、損害賠償を求めるために訴訟を提起せざるを得ない場合、弁護士への依頼は事実上不可欠であると判断しました。

その上で最高裁は、弁護士に支払った費用のうち、「事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲」に限り、不法行為と相当因果関係にある損害として加害者側に賠償を命じることができる、との判断を示しました。この判例法理が、現在の実務の基礎となっています。

弁護士費用が「相当因果関係のある損害」と判断される仕組み

弁護士費用が損害として認められるのは、それが「加害者の不法行為がなければ、本来支払う必要のなかった費用」と評価されるためです。つまり、加害者の違法行為によって、被害者が損害回復のために出費を余儀なくされたと捉えられます。

裁判所は、弁護士費用を独立した損害項目としてではなく、不法行為によって生じた一連の損害の中に含まれるものとして捉えます。この結びつきを法的に説明する概念が「相当因果関係」です。ただし、被害者が弁護士と契約した報酬額のすべてが、自動的に相当因果関係のある損害と認められるわけではありません。裁判所が事案の内容や認容される損害額などを総合的に考慮し、社会通念上、妥当と判断される金額のみが損害として認定されます。

請求認容の前提となる要件(訴訟提起の必要性・相当性)

不法行為事案であっても、弁護士費用を相手方に請求するには、単に弁護士に依頼したというだけでは不十分です。権利を守るために「訴訟を提起することを余儀なくされた」といえる状況、すなわち訴訟の必要性・相当性が要求されます。

これは、前述の最高裁判例でも示されている要件です。例えば、加害者が当初から賠償責任を認めており、交渉によって円満な解決が可能であったにもかかわらず訴訟を提起した場合、その弁護士費用は損害として認められない可能性があります。あくまで、相手方が支払いに応じないため、やむを得ず専門家である弁護士に依頼して法的手続きに訴える必要があった、という点が重要になります。示談交渉段階で発生した弁護士費用は、原則として自己負担となると解されています。

請求が認められにくい、または減額されるケース

不法行為に基づく損害賠償請求であっても、事案の内容によっては弁護士費用の請求が認められにくかったり、認められる金額が低くなったりする場合があります。

請求が認められにくい、または減額されやすいケース
  • 事案が簡易で争点が少なく、本人訴訟でも十分に対応可能と判断される場合
  • 請求額自体が社会通念に照らして極めて少額である場合
  • 裁判所が認定した損害額が、原告の請求額を大幅に下回った場合
  • 訴訟提起の必要性が低く、交渉による解決が妥当であったと評価される場合

損害として認められる弁護士費用の相場と算定方法

認容額の目安は「請求認容額の1割程度」

不法行為の訴訟において、損害として認められる弁護士費用の額は、裁判で最終的に認められた損害賠償額(元本)の「1割程度」が実務上の目安とされています。

例えば、交通事故の訴訟で、治療費や慰謝料など合計1,000万円の損害が認められた場合、その1割にあたる100万円が弁護士費用相当の損害として上乗せされ、判決では合計1,100万円の支払いが命じられることになります。

重要なのは、この「1割」は、被害者が実際に弁護士に支払う着手金や成功報酬の合計額とは必ずしも一致しない点に注意が必要です。実際の弁護士報酬が判決で認められた額を上回ることもあり、その場合は差額が自己負担となります。

実際の認容額が相場から変動する要因(事案の難易度・特殊性など)

「認容額の1割」はあくまで目安であり、個別の事情に応じて裁判所の裁量で増減することがあります。裁判所は、具体的な審理の実態に合わせて相当額を判断します。

弁護士費用相当額が相場から変動する主な要因
  • 事案の難易度:医学的知見を要する医療過誤など、高度な専門性が求められるか
  • 審理の経過:相手方の不合理な主張により審理が長期化・複雑化したか
  • 立証活動の困難性:証拠収集に多大な労力を要したか
  • 認容された損害額:損害額が極めて高額な場合、割合が調整されることがある

特に、事案が複雑で立証に多大な労力を要したと認められる場合には1割を超える額が認定されることがあります。逆に、認容額が高額であっても争点が単純な事案では1割を下回る可能性もあります。

訴訟で一部勝訴した場合の弁護士費用額の考え方

訴訟で請求した金額の一部しか認められなかった場合(一部勝訴)、弁護士費用相当の損害額は、当初の請求額ではなく、裁判所が実際に認容した損害額を基準として算定されます。

例えば、3,000万円の損害賠償を請求して訴訟を起こし、判決で300万円の損害のみが認められたとします。この場合、弁護士費用として認められるのは、3,000万円の1割(300万円)ではなく、認容額である300万円の1割程度(約30万円)となります。

原告が弁護士に支払う着手金は、当初の請求額(経済的利益)である3,000万円を基準に計算されることが多いため、判決で認められる弁護士費用との差が大きくなり、自己負担が増える可能性がある点には注意が必要です。

【比較】債務不履行における弁護士費用請求の扱い

不法行為と異なり、原則として請求が認められなかった背景

契約違反など「債務不履行」に基づく損害賠償請求では、これまで原則として弁護士費用の請求は認められてきませんでした。不法行為とは異なり、契約関係にある当事者間では、契約締結時に相手方が義務を果たさないリスクをある程度予測できると考えられているためです。

具体的には、契約書に違約金や損害賠償額の予定に関する条項を設けるなど、事前の対策が可能です。また、金銭の貸し借りなどでは、遅延損害金が法律で定められており、それが損害を填補するものと解されてきました。そのため、債務の履行を求めるために弁護士を依頼したとしても、その費用は当然には相手方に負担させられないと解されていました。

近時の判例動向と限定的に認められるケース

近年、債務不履行の事案であっても、その性質が不法行為に類似する場合には、例外的に弁護士費用の請求を認める判例が出てきています。

代表的なものが、労働災害における会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求です(最高裁平成24年2月24日判決)。この判決は、労働者が会社の責任を追及するために主張・立証すべき内容は不法行為の場合とほとんど変わらず、弁護士に依頼しなければ十分な訴訟活動は困難であるとして、弁護士費用を損害の一部と認めました。

このほか、医療過誤や建築瑕疵など、高度な専門性が求められ、不法行為と債務不履行の両方の構成が考えられるような事案でも、債務不履行を理由とする請求で弁護士費用が認められる傾向にあります。

項目 不法行為に基づく損害賠償 債務不履行に基づく損害賠償
請求の可否 原則として認められる(例外的扱い) 原則として認められない
根拠 加害行為と相当因果関係のある損害と評価されるため 契約当事者はリスクを予測し、違約金条項等で備えることが可能なため
近時の動向 確立した実務として定着 安全配慮義務違反など、不法行為と性質が類似する事案では認められる傾向
不法行為と債務不履行における弁護士費用請求の比較

実務上のポイント:契約における弁護士費用負担条項の活用

契約書に弁護士費用負担に関する条項を設ける有効性

特に債務不履行の場面で問題となる弁護士費用ですが、将来の紛争に備え、あらかじめ契約書に弁護士費用の負担に関する条項を設けておくことが実務上有効な対策となります。

契約上の義務違反が生じた場合に「相手方は合理的な弁護士費用を含む一切の費用を負担する」といった合意があれば、裁判所はその条項を根拠として弁護士費用の請求を認める可能性が高まります。債務不履行では原則として弁護士費用が請求できないからこそ、契約によって特約を設けておく意義は大きいといえます。これにより、債権回収などにかかるコストを相手方に転嫁し、自社の損害を最小限に抑えることが期待できます。

紛争予防のために定めるべき条項の記載内容と注意点

契約書に弁護士費用に関する条項を設ける際は、その内容をできるだけ明確にすることが重要です。単に「弁護士費用を負担する」と定めるだけでなく、「本契約の不履行に関連して、権利の保全または実行のために要した合理的な弁護士費用を含む一切の費用を負担する」のように、負担の範囲を具体的に記載することが望ましいでしょう。

ただし、条項を設けた場合でも、いくつか注意すべき点があります。

弁護士費用負担条項を定める際の注意点
  • 「合理的な弁護士費用」など、負担の範囲を具体的に明記することが重要です。
  • 条項があっても、裁判所が「相当」と認める範囲に限定解釈される可能性があります。
  • 消費者契約では、消費者契約法に基づき、消費者の利益を一方的に害する条項として無効と判断されるリスクがあります。
  • 当事者間の力関係によっては、公序良俗違反と評価される可能性もゼロではありません。

不法行為における弁護士費用請求のよくある質問

示談交渉で解決した場合、弁護士費用は請求できますか?

訴訟を提起せず、示談交渉で解決した場合、原則として相手方に弁護士費用を法的な損害として請求することはできません。弁護士費用が損害と認められるのは、あくまで「訴訟を提起することを余儀なくされた」場合だからです。

ただし、示談の合意内容として、相手方が解決金に弁護士費用相当額を上乗せして支払うことを承諾すれば、実質的に回収することは可能です。これは、あくまで当事者間の合意に基づくものです。

「損害額の1割」という相場は、どのような事件でも同じですか?

いいえ、同じではありません。 「損害額の1割」はあくまで一般的な目安であり、すべての事件に一律で適用されるわけではありません。事案の難易度、審理の長期化、立証の困難性といった個別具体的な事情を裁判官が総合的に考慮し、最終的な金額を裁量で決定します。

そのため、事案が簡易であれば1割を下回ることもありますし、逆に極めて複雑な事案では1割を超える額が認められることもあります。

特に弁護士費用が損害として認められやすい不法行為の類型はありますか?

はい、あります。特に以下のような類型では、専門家の助力が不可欠と判断されやすく、弁護士費用の請求が認められやすい傾向にあります。

弁護士費用が損害として認められやすい主な不法行為類型
  • 交通事故:損害額の算定や過失割合の判断が専門的であるため。
  • 医療過誤:医療行為の過失を立証するために高度な専門知識が必要なため。
  • 名誉毀損:権利侵害の有無や損害の立証が複雑なため。
  • 不貞行為:慰謝料額の算定や証拠の評価に法的な判断が求められるため。
  • 労働災害:会社の安全配慮義務違反などを立証する必要があるため。

弁護士費用保険特約を利用した場合、相手方への請求はどうなりますか?

ご自身が加入している自動車保険や火災保険の弁護士費用特約を利用して弁護士費用を支払った場合でも、不法行為の加害者に対する弁護士費用相当額の損害賠償請求権がなくなるわけではありません。判決で相手方への請求が認められれば、相手方は支払義務を負います。

ただし、被害者が保険会社からの保険金と、加害者からの賠償金を二重取りすることは通常できません。回収した賠償金は保険会社に返還する、あるいは保険会社がその権利を代わって取得する(求償する)といった仕組みになっているのが一般的です。詳しくはご加入の保険の約款をご確認ください。

まとめ:不法行為の損害賠償では弁護士費用も請求可能。相場は認容額の1割

本記事では、不法行為に基づく損害賠償請求における弁護士費用の取り扱いについて解説しました。原則自己負担とされる弁護士費用ですが、不法行為の被害回復のために訴訟が不可欠であった場合、例外的に「相当因果関係のある損害」として相手方への請求が認められます。その法的根拠は最高裁判例によって確立されており、実務上の相場は「裁判で認容された損害額の1割程度」が目安となります。ただし、この金額は事案の難易度などによって変動する点に注意が必要です。一方で、契約違反などの債務不履行では原則として請求が認められないため、契約書に弁護士費用負担条項を設けておくことが有効なリスク対策となります。不法行為の被害に遭われた際は、弁護士費用も損害の一部として請求できる可能性を念頭に、速やかに専門家へ相談することをお勧めします。

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