解雇通知書を請求されたら?企業の法的義務とトラブルを防ぐ書き方
従業員から解雇通知書の発行を求められた際、その法的な義務や適切な対応方法に迷うことはありませんか。この書類は単なる手続き上の書面ではなく、記載内容一つで後の労働紛争のリスクを大きく左右する重要な証拠となります。適切な対応を怠ると、不当解雇として争われ、思わぬ経済的損失を被る可能性も否定できません。この記事では、解雇通知書の基礎知識から関連書類との違い、従業員から請求された際の具体的な対応手順、そして理由別の書き方までを網羅的に解説します。
解雇通知書の基礎知識
解雇通知書の発行は法的な義務か
解雇通知書の発行自体は、労働基準法において直接的に義務付けられているわけではありません。民法上、契約の解除は口頭の意思表示でも成立するため、書面がなくても解雇自体は有効とされ得ます。
しかし、実務上は書面による通知が不可欠です。労働基準法第22条では、労働者が退職の理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付する義務を負っています。解雇は労働者の生活に重大な影響を与えるため、「言った言わない」のトラブルを避ける必要があります。
したがって、解雇通知書の発行は、法的な義務はなくとも、以下のような観点から実質的な義務と同等の重要性を持っています。
- 解雇の意思表示を明確な証拠として残し、後の紛争を防止する
- 解雇日を確定させ、解雇予告手当の計算や社会保険手続きの起算点を明確にする
- 就業規則で書面の交付が定められている場合、その規定を遵守する
- 適正な手続きを踏んだことを示し、企業のコンプライアンス体制を内外に示す
企業側から見た通知書の役割
企業にとって解雇通知書は、単なる事務連絡ではなく、法的リスク管理と組織マネジメントの両面で重要な役割を担う戦略的な文書です。
主な役割は以下の通りです。
- 証拠としての機能: 解雇の意思表示が「いつ」「誰から」「誰に」伝えられたかを客観的に証明する
- 雇用契約終了日の確定: 解雇日を明確にし、賃金計算や社会保険の資格喪失手続きなどを正確に行う根拠となる
- 訴訟における書証: 不当解雇訴訟や労働審判において、手続きの適正性を主張するための最重要証拠となる
- 解雇理由の固定: 通知書に記載した理由に限定することで、後から理由を追加・変更することを防ぎ、主張の一貫性を保つ
- 組織規律の維持: 他の従業員に対し、規律違反には厳正に対処するという企業の姿勢を示し、職場秩序を維持する
発行しない場合に想定されるリスク
解雇通知書を発行せず、口頭のみで解雇を伝えた場合、企業は多くの深刻なリスクを負うことになります。
最大のリスクは、従業員から「解雇された覚えはない」と主張され、解雇の事実自体を争われることです。この場合、企業側が解雇の意思表示を立証する必要があり、その証明は極めて困難です。
- バックペイの発生: 解雇が無効と判断された場合、解雇期間中の賃金を遡って支払う義務が生じる
- 解雇予告手当の支払義務違反: 解雇日が不明確なため、適切な解雇予告や手当支払いがなされていないと判断される
- 証明書交付義務違反: 労働基準法第22条違反として、労働基準監督署から是正勧告や罰金(30万円以下)が科される可能性がある
- 社会保険手続きの遅延: 雇用保険や健康保険の資格喪失手続きが遅れ、行政上の問題に発展する
- 企業信用の失墜: 労務管理がずさんな「ブラック企業」との評判が広まり、採用活動や取引関係に悪影響を及ぼす
関連書類との違いを整理
「解雇予告通知書」との相違点
「解雇予告通知書」と「解雇通知書」は、交付するタイミングと法的な効力発生時期が異なります。両者は目的が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
| 項目 | 解雇予告通知書 | 解雇通知書 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 解雇予定日を事前に知らせ、準備期間を与える | 雇用契約の終了を確定的に通知する |
| 法的根拠 | 労働基準法第20条(解雇の予告) | 民法上の意思表示 |
| 発行タイミング | 解雇予定日の30日以上前 | 解雇日当日(即日解雇の場合)または予告期間満了時 |
| 効力 | 通知時点では雇用契約は継続している | 通知(または指定日)をもって雇用契約が終了する |
実務上は「解雇予告通知書」という表題で、解雇日を明記して解雇通知書の機能を兼ねさせることもあります。
「解雇理由証明書」との相違点
「解雇理由証明書」は、解雇の「なぜ」を説明する文書であり、解雇の意思表示そのものである「解雇通知書」とは性質が全く異なります。
| 項目 | 解雇理由証明書 | 解雇通知書 |
|---|---|---|
| 発行の主体 | 従業員の請求に基づき発行する(会社の義務) | 会社が自発的に発行する(実務上の必要性) |
| 主な目的 | 解雇の具体的な理由を証明する | 解雇の事実と解雇日を通知する |
| 法的根拠 | 労働基準法第22条 | 民法上の意思表示 |
| 記載内容の制約 | 従業員が請求しない事項は記載してはならない | 会社が必要と判断する事項を記載できる |
| 文書の性質 | 説明的・防御的(解雇の正当性を説明する) | 通告的・攻撃的(雇用契約を終了させる) |
各書類の役割と発行タイミング
解雇に関する各書類は、手続きの進行に合わせて適切なタイミングで発行されます。その流れを理解しておくことが重要です。
以下に、一般的な発行手順を示します。
- 解雇予告通知書の発行: 解雇方針決定後、解雇予定日の30日以上前に、解雇を予告するために交付する。
- 解雇通知書の発行: 即日解雇の場合や、予告期間が満了し実際に雇用契約が終了する日に交付する。
- 解雇理由証明書の発行: 解雇予告後から退職日までの間、または退職後に、従業員から請求があった場合に遅滞なく交付する。
実務では、解雇を通告する面談の場で「解雇通知書」または「解雇予告通知書」を手渡し、その場で従業員から理由の説明を求められた場合に備え、「解雇理由証明書」も準備しておくことが望ましい対応です。
従業員から請求された際の対応
まず確認すべき事項
従業員から解雇に関する書面の交付を請求された際は、直ちに作成に入るのではなく、まず以下の事項を正確に確認する必要があります。
- 請求内容の具体的な範囲: 使用期間、業務内容、地位、賃金、退職事由のうち、どの項目の証明を求めているか。
- 解雇理由の記載レベル: 解雇という事実のみか、具体的な理由の詳細まで求めているか。
- 請求のタイミング: 解雇予告期間中か、すでに退職後か(これにより書類の名称が変わる場合がある)。
- 請求権の時効: 退職から2年以内であるか。
- 請求の背景: 単なる行政手続きのためか、あるいは不当解雇などを主張する紛争の準備段階にあるか。
特に、労働紛争に発展する可能性がある場合は、記載内容が会社の主張を縛る重要な証拠となるため、弁護士などの専門家に相談することが不可欠です。
書面作成から通知までの手順
請求内容を確認した後の、書面作成から通知までの基本的な手順は以下の通りです。
- 客観的資料の収集: 就業規則、雇用契約書、指導記録、人事考課などの関連資料を揃える。
- 文案の作成: 収集した資料に基づき、事実関係を時系列で整理し、就業規則の該当条項と関連付けて記載する。
- リーガルチェック: 作成した文案を、法務担当者や顧問弁護士に確認してもらい、法的な妥当性を検証する。
- 正式な書面の発行: 内容が確定したら、会社名と代表者名を記載し、社印を押印して正式な文書とする。
- 書面の交付: 原則として対面で手渡しし、受領書に署名をもらう。
- 郵送による通知(対面不可の場合): 配達証明付きの内容証明郵便で送付し、到達の事実を公的に証明できるようにする。
- 記録の保管: 交付した書面の控え、受領書、配達証明書などを一括して厳重に保管する。
請求の意図を確認し、適切な書類を発行する
従業員が書面を請求する意図は様々です。失業保険の受給手続きのために形式的な証明書が必要な場合もあれば、不当解雇を争う訴訟の証拠として詳細な理由を求めている場合もあります。
したがって、請求された書類をただ発行するのではなく、その利用目的や背景にある意図を推察し、記載内容を慎重に検討することが重要です。意図を誤ると、不必要な情報を与えてしまったり、逆に記載すべき事項が漏れてしまったりして、新たなトラブルの原因になりかねません。
ただし、証明書の交付は法律上の義務であるため、意図を探ることに時間をかけすぎて交付を遅延させることは許されません。「遅滞なく交付する」という義務を果たしつつ、記載内容は法的に問題のないものに仕上げるという、慎重かつ迅速な対応が求められます。
解雇通知書の書き方と記載事項
記載が必須となる項目
解雇通知書が法的に有効な文書として機能するためには、以下の項目を漏れなく記載する必要があります。
- 宛名: 解雇対象となる従業員の氏名を正確に記載する。
- 発行日: 会社が解雇の意思表示を行った日付を明記する。
- 解雇日: 雇用契約が終了する年月日を明確に指定する。
- 会社情報: 通知の主体である会社名(法人名)、代表者名を記載し、社印を押印する。
- 解雇の意思表示: 「貴殿を解雇します」など、解雇する旨を明確かつ確定的に示す文言を入れる。
これらの項目、特に日付に不備があると、解雇の効力そのものが争われたり、解雇日を巡る紛争に発展したりするリスクがあります。
解雇理由の記載における注意点
解雇理由の記載は、解雇通知書作成において最も重要かつ慎重さが求められる部分です。記載にあたっては、以下の点に注意が必要です。
- 具体性の確保: 「勤務態度不良」といった抽象的な表現は避け、具体的な日時や行為内容を記述する。
- 客観的証拠との整合性: 記載する理由は、指導記録や人事データなど客観的な証拠で裏付けられるものに限る。
- 理由の追加は不可: 原則として、通知書に記載しなかった理由を後の裁判で追加主張することはできないため、根拠となる事実は網羅的に記載する。
- 論理的な構成: 複数の理由がある場合は、重要度の高いものから順に、論理的に整理して記載する。
- 懲戒解雇との区別: 懲戒解雇の場合は、就業規則の懲戒事由に該当する事実に限定して記載する。
就業規則の該当条項と具体的な事実を関連付けて記載する
解雇の正当性を高めるためには、従業員の行為が就業規則上のどの解雇事由に該当するのかを明確に関連付けて記載することが極めて有効です。
具体的には、「就業規則第〇条第〇項の(条文内容)に該当するため」といった形で根拠条文を引用し、その直後に「貴殿が〇月〇日に行った〇〇という行為は、上記条項に該当します」と、具体的な事実を結びつけます。
この手法を用いることで、解雇が会社の感情的・恣意的な判断ではなく、あらかじめ定められた社内ルールに基づく公正な処分であることを客観的に示すことができます。複数の解雇事由がある場合も、それぞれに対応する就業規則の条項を個別に示し、解雇の根拠をより強固なものにすることが重要です。
解雇理由別の記載ポイント
普通解雇の場合の書き方
普通解雇(能力不足、協調性欠如、傷病など)の理由を記載する際は、解雇がやむを得ない措置であったことを客観的に示すことがポイントです。
特に、会社側が解雇を回避するために指導や配慮を尽くした経緯を具体的に記述することが重要です。例えば、能力不足が理由であれば、単に成績が悪いと書くのではなく、複数回にわたる教育研修の実施、業務改善指導の記録、配置転換の検討などを時系列で記載し、それでも改善が見られなかった事実を示します。
傷病による場合は、医師の診断書の内容、休職期間の満了、復職に向けた協議の経緯などを記載し、就業規則上の規定に基づき、就労が困難であると判断した根拠を丁寧に説明します。
懲戒解雇の場合の書き方
懲戒解雇は、従業員の重大な規律違反に対する制裁罰としての性格を持つため、記載内容はより厳格さが求められます。
ポイントは、対象となる非違行為と、就業規則の懲戒解雇事由とが完全に合致していることを明確に示すことです。「いつ、どこで、誰が、何をしたか」という事実関係を、客観的な証拠に基づいて詳細に特定します。横領であれば金額や手口、経歴詐称であれば採用時の提出書類と事実との相違点などを具体的に記述します。
また、本人に弁明の機会を与えた日時や、懲戒委員会の審議結果など、手続きの適正性を担保する事実も盛り込むべきです。記載した事実以外の理由を後から追加することはできないため、調査で判明した懲戒事由はすべて網羅的に記載する必要があります。
整理解雇の場合の書き方
整理解雇は、会社の経営上の理由によるもので、従業員に責任はありません。そのため、解雇の有効性を判断する「整理解雇の四要件」を満たしていることを丁寧に説明する構成で記載します。
- 人員削減の必要性: 会社の経営状況(赤字額、売上減少率など)を具体的に示し、人員削減が不可避であることを説明する。
- 解雇回避努力: 役員報酬カット、経費削減、希望退職者の募集など、解雇を避けるために会社が尽くした努力を列挙する。
- 被解雇者選定の合理性: 年齢、勤務成績、担当業務などを基に、どのような客観的で合理的な基準で対象者を選定したかを明記する。
- 手続きの妥当性: 労働組合や従業員代表と十分な協議を重ねた経緯や、説明会の開催実績などを記載し、真摯な対応を行ったことを示す。
従業員に納得してもらい、紛争を避けるための説明文書としての役割も担います。
解雇通知書の適切な渡し方
対面での手渡しを原則とする理由
解雇通知書は、可能な限り対面で手渡しすることが原則です。これは、単なるマナーの問題ではなく、法的なリスク管理と円滑な手続き進行の観点から重要な意味を持ちます。
- 確実な意思表示の到達: 相手が確実に通知書を受け取ったことをその場で確認できる。
- 丁寧な補足説明: 解雇理由や今後の手続きについて口頭で補足し、従業員の疑問や不安を軽減できる。
- 受領の証拠確保: その場で受領書に署名をもらうことで、「受け取っていない」という主張を確実に防げる。
- 従業員の状況把握: 相手の精神的・身体的な状態を直接確認し、不測の事態に備えることができる。
解雇という厳しい内容を伝えるからこそ、誠実な対応が求められます。
郵送する場合の注意点と方法
従業員が出社を拒否している、休職中であるなど、対面での手渡しが困難な場合は、郵送で通知します。その際は、「いつ」「誰が」「どのような内容の文書を」「いつ受け取ったか」を公的に証明できる方法を選択しなければなりません。
具体的には、「配達証明付きの内容証明郵便」を利用するのが唯一の適切な方法です。普通郵便や宅配便、簡易書留では、中身が解雇通知書であったことまで証明できないため不十分です。
内容証明郵便は、相手が受取を拒否するリスクもあります。その場合でも、通常は到達したものと法的に解釈されることが多いですが、念のため特定記録郵便を併用するなど、複数の手段で到達を試みることも有効です。
交付後の控えと受領記録の適切な保管方法
解雇通知書を交付した後は、その控えと受領の証拠を適切に保管することが、将来の紛争に備える上で極めて重要です。
- 保管対象: 手渡しの場合は「署名入りの受領書」、郵送の場合は「内容証明郵便の謄本(控え)」と「配達証明書のハガキ」。
- 保管期間: 労働基準法では関連書類の保存義務は5年とされていますが、民事訴訟のリスクを考慮し、少なくとも5年間、可能であればより長期にわたって保管することが望ましいです。
- 保管方法: 紙媒体での原本保管に加え、スキャンして電子データとしてバックアップを取っておくと、紛失や劣化のリスクに備えられます。これらの書類は機密性の高い個人情報であるため、アクセス権限を設けるなど厳重なセキュリティ管理が必要です。
解雇通知書に関するよくある質問
口頭での解雇通告は有効ですか?
はい、法的には口頭での解雇通告も有効です。民法上、契約解除の意思表示に特定の形式は求められていないため、口頭でも解雇の効力は発生します。
しかし、実務上は絶対に避けるべきです。口頭でのやり取りは記録に残らないため、後日、従業員から「解雇とは言われていない」と主張された場合、会社側が解雇の事実を立証することが極めて困難になります。結果として解雇が無効と判断され、多額のバックペイ(解雇期間中の賃金)の支払いを命じられるリスクがあります。リスク管理の観点から、解雇は必ず書面で行うべきです。
従業員が受け取りを拒否した場合どうすればよいですか?
従業員が受け取りを拒否しても、法的に解雇の意思表示を到達させることは可能です。
対面の場合は、相手の目の前に通知書を置き、内容を口頭で明確に伝えれば、相手が知り得る状態(了知可能状態)になったとして「到達」したとみなされます。その際は、拒否された日時、場所、状況などを詳細に記録し、同席者がいれば証人として署名をもらっておくことが重要です。
その後、念のため同じ内容の文書を「配達証明付き内容証明郵便」で本人の自宅住所へ送付します。郵便が受け取り拒否された場合でも、通常は到達したものと法的に扱われます。感情的にならず、粛々と法的な手続きを進めることが肝心です。
パートやアルバイトにも通知書は必要ですか?
はい、必要です。パートタイム労働者やアルバイトであっても、雇用契約を結んだ労働者であることに変わりはなく、労働基準法や労働契約法が原則として適用されます。
したがって、正社員を解雇する場合と同様に、解雇通知書を発行し、原則として30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。「パートだから」「アルバイトだから」といった理由で手続きを省略すると、正社員の場合と同様に不当解雇として争われ、法的な責任を問われる可能性があります。雇用形態にかかわらず、解雇という重大な処分を行う際には、必ず書面による通知を徹底すべきです。
まとめ:解雇通知書の適切な発行で、法務リスクを管理する
本記事で解説した通り、解雇通知書の発行は法律で直接義務付けられてはいませんが、解雇の事実を証明し、後の紛争を防ぐために実務上不可欠な文書です。記載する解雇理由は、客観的な事実と就業規則に基づいて具体的に記述する必要があり、その内容が解雇の有効性を左右する重要な証拠となります。従業員から書面を請求された場合は、その意図を慎重に確認し、解雇通知書、解雇予告通知書、解雇理由証明書の中から適切な書類を遅滞なく発行することが求められます。手続きに少しでも不安がある場合や、紛争に発展する可能性がある場合は、安易に自己判断せず、速やかに弁護士などの専門家に相談し、リーガルチェックを受けることを強く推奨します。適切な手続きを踏むことが、最終的に企業を法務リスクから守ることに繋がります。

