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仮差押えの取り下げ手続き|必要書類・供託金取戻しの流れを解説

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和解の成立や債務の弁済により、一度申し立てた仮差押えを解除する必要が生じることがあります。この手続きは債権者・債務者双方にとって重要ですが、手順や必要書類が複雑で、特に担保として預けた供託金の扱いに戸惑う方も少なくありません。この記事では、仮差押えの申立てを取り下げるための具体的な流れ、ケース別の手続き、必要書類、そして供託金の取戻し方法まで、実務上の注意点を交えて網羅的に解説します。

目次

仮差押えを取り下げる主な事由

債務者との和解が成立した場合

債権者と債務者との間で和解が成立することは、仮差押えを取り下げる最も一般的な事由です。和解とは、当事者双方が譲歩し、争いを終結させるための契約を指します。不動産や預金口座などが仮差押えで凍結されると、債務者は経済活動に大きな支障をきたすため、和解の条件として仮差押えの解除を求めるのが通常です。双方が合意した内容で和解契約書を締結すると、債権者は債権を保全する必要性がなくなったと判断し、裁判所へ自発的に取下書を提出します。この際、将来の紛争を防ぐため、和解契約で定めた以外の債権債務が相互に存在しないことを確認する清算条項を盛り込むことが重要です。裁判外での示談交渉による合意も、裁判上の和解と同様に取下げの有効な理由となります。

債務者による債務の全額弁済が確認できた場合

債務者が、請求されていた元本、利息、遅延損害金のすべてを支払った場合、仮差押えを維持する実体的な理由が消滅します。仮差押えは、将来の強制執行に備えて債務者の財産を一時的に確保する「保全手続」です。そのため、債務の弁済が完了すれば、その目的は達成されたことになります。実務上、債権者は債務の全額が支払われたことを確認したのち、速やかに裁判所へ取下書を提出します。債務者側は、弁済と引き換えに財産の凍結解除を求めるため、支払いの確認と取下げ手続きが同時に行われることが多くあります。一部の弁済に留まる場合は、残りの債務を保全するために仮差押えを継続するか、一部だけを取り下げるか、債権者の判断が必要です。

本案訴訟で債権者の敗訴が確定した場合

仮差押えの根拠となっていた権利(被保全権利)について、本案訴訟で債権者の請求が認められず、敗訴が確定した場合、仮差押えは取り下げられるべき状態となります。これは、そもそも仮差押えの前提となる権利が存在しなかったことを意味します。この場合、仮差押えは不当であったとみなされ、債務者に損害が生じていれば、債権者は損害賠償責任を問われる可能性があります。敗訴した債権者は、自発的に取下げを行うか、債務者からの保全取消しの申立てに応じて手続きを進めることになります。不当な仮差押えによるリスクを最小限に抑えるためにも、敗訴確定後は速やかに取り下げることが求められます。

仮差押え取り下げ手続きの全体的な流れ

仮差押えの取下げは、以下の手順で進められます。

仮差押え取り下げの基本ステップ
  1. ステップ1:取下げ事由の発生と方針の決定

和解成立や全額弁済など、取下げの理由となる事実が発生したことを確認します。その上で、差し押さえている財産のすべてを取り下げるか、一部のみを解除するかの方針を決定します。

  1. ステップ2:必要書類の準備・作成
  2. 裁判所に提出する「保全命令申立取下書」を作成します。事件を特定する情報に加え、当事者目録や物件目録、仮差押債権目録などを添付します。不動産の場合は、登記抹消嘱託に必要な登録免許税や郵便切手などを、取下書提出時に合わせて納付することがあります。

  3. ステップ3:裁判所への申立て
  4. 準備した書類一式を、仮差押命令を発令した裁判所の担当部署(保全部など)に提出します。書類が受理されると、仮差押命令の効力は申立ての時点に遡って消滅します。

  5. ステップ4:担保取消決定と供託金の取戻し
  6. 取下げだけでは、債権者が担保として預けた供託金は返還されません。別途、裁判所に「担保取消申立」を行い、担保取消決定を得る必要があります。この決定が確定した後に、法務局で還付手続きを行います。

  7. ステップ5:仮差押え執行の取消し(登記抹消など)
  8. 裁判所は、取下げの受理後、法務局や銀行(第三債務者)などの関係機関に執行を取り消すよう通知します。不動産の場合は登記が抹消され、預金の場合は口座の凍結が解除されて、すべての手続きが完了します。

【方法別】仮差押え取り下げの具体的な手続き

債権者単独で行う「保全命令申立取下書」の提出

債権者は、債務者の同意がなくても、自らの意思でいつでも仮差押えの申立てを取り下げることができます。この場合、「保全命令申立取下書」を裁判所に提出します。取下書には、事件番号、当事者、取り下げる対象財産などを正確に記載した目録を添付する必要があります。書類が受理されると仮差押えの効力は失われますが、この手続きだけでは担保として預けた供託金は返還されません。供託金をスムーズに取り戻すためには、この取下げ手続きとは別に、債務者から担保取消しへの同意を得るのが実務上の一般的な進め方です。

債務者の同意を得て行う「担保取消の申立て」

仮差押えの取下げ後に供託金を最も早く取り戻す方法は、債務者の同意を得て担保取消しを申し立てることです。この方法では、担保取消申立書に、債務者が作成した「担保取消への同意書」と「印鑑証明書」を添付して裁判所に提出します。裁判上の和解調書に担保取消しに同意する旨の記載があれば、それが同意の証明となります。債務者の同意があることで、裁判所の手続きが大幅に短縮され、通常は申立てからおおむね1週間程度で担保取消決定が出されます。和解交渉の際には、和解金の支払いと引き換えに、これらの書類を交付するよう取り決めることが一般的です。

仮差押え取り下げの必要書類一覧

取下げ手続きには、対象財産に応じて以下の書類が必要となります。

対象財産 必要書類など
不動産 ・保全命令申立取下書(正本1通、副本は債務者の数)<br>・物件目録(2通)<br>・登録免許税(不動産1個につき1,000円の収入印紙)<br>・郵便切手
債権(預金など) ・保全命令申立取下書(正本1通、副本は債務者・第三債務者の数)<br>・仮差押債権目録<br>・郵便切手
共通 ・当事者の住所や商号に変更がある場合、変更の経緯を証明する書類(住民票や商業登記事項証明書など)
仮差押えの対象財産と必要書類

和解後の取り下げタイミングに関する実務上の注意点

和解が成立しても、どのタイミングで仮差押えを取り下げるかは慎重に判断する必要があります。債務者からは早期の財産解放を求められますが、和解金の入金前に取り下げてしまうのは非常に危険です。万が一、入金がなかった場合、一度解除した財産を再度差し押さえることは困難であり、その間に財産を処分されるリスクがあるからです。そのため、実務では、和解金全額が債権者の口座に着金したことを確認してから、取下書を裁判所に提出するのが鉄則です。分割払いの場合は、最終回の支払いが完了するまで仮差押えを維持することが、債権保全の観点から最も安全な対応と言えます。

供託金(担保)の取戻し手続き

担保取消決定に基づく供託金取戻しの流れ

供託金を取り戻すには、裁判所から担保取消決定を得た後、法務局で手続きを行う必要があります。

供託金取戻しの手順
  1. 裁判所へ担保取消しを申し立てる

債務者の同意書や本案訴訟の勝訴判決などを添付し、裁判所に「担保取消申立書」を提出します。

  1. 裁判所から担保取消決定を得る
  2. 申立てが認められると、裁判所から「担保取消決定」の正本が交付されます。この決定が確定するのを待ちます。

  3. 供託原因消滅証明書を取得する
  4. 担保取消決定の確定後、裁判所に申請して「供託原因消滅証明書」を発行してもらいます。

  5. 法務局で払渡請求を行う
  6. 管轄の法務局(供託所)に、供託物払渡請求書と上記証明書などを提出します。

  7. 供託金が還付される
  8. 法務局での審査後、指定した銀行口座に供託金が振り込まれます。

供託金の取戻請求に必要な書類と提出先

法務局(供託所)での取戻請求には、主に以下の書類が必要です。

供託金取戻請求の必要書類
  • 供託物払渡請求書(法務局の窓口で入手)
  • 担保取消決定の正本
  • 供託原因消滅証明書
  • 供託書正本(供託時に交付されたもの)
  • 請求者が法人の場合:代表者の資格証明書(発行後3か月以内)、印鑑証明書
  • 請求者が個人の場合:印鑑証明書、本人確認書類(運転免許証など)
  • 代理人が手続きする場合:委任状

担保取消決定における「権利行使の催告」とは

債務者から担保取消しの同意が得られない場合、債権者は裁判所に対し「権利行使の催告」を申し立てることができます。これは、裁判所が債務者に対し、「仮差押えによって損害を受けたのであれば、一定期間内に訴訟を起こすなど権利を行使してください」と通知する手続きです。債務者が指定された期間内(通常おおむね2週間〜1か月程度)に権利を行使しなかった場合、担保取消しに同意したものとみなされ、債権者は単独で担保取消決定を得ることができます。ただし、この手続きは債務者への送達などに時間を要するため、供託金が戻るまでにおおむね2か月以上かかることもあります。

不動産仮差押え登記の抹消手続き

裁判所による登記抹消の嘱託手続き

不動産の仮差押え登記は、債権者や債務者が直接法務局で手続きするのではなく、裁判所の「嘱託(しょくたく)」によって抹消されます。債権者から取下書が提出され、裁判所が受理すると、裁判所書記官が管轄の法務局に対し「登記抹消嘱託書」を送付します。この嘱託書に基づき、法務局の登記官が登記簿に記載された仮差押えの記録を抹消します。この一連の手続きは公的機関の間で進められるため、当事者が法務局に出向いて申請する必要はありません。

登記抹消の完了を確認する方法

登記が抹消されたかを確実に確認するためには、法務局でその不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を改めて取得します。裁判所から嘱託書が発送されても、法務局での処理には数日から1週間程度かかることがあるため、取下げ手続きから少し日を置いて確認するのがよいでしょう。最近では、オンラインの「登記情報提供サービス」を利用すれば、より手軽に最新の登記状況を確認できます。不動産売買などを理由に仮差押えを取り下げた場合は、所有権移転登記の前提として抹消の確認が不可欠となります。

仮差押え取り下げにかかる費用と期間の目安

手続きに要する費用の内訳(印紙代・郵券など)

主な費用の内訳
  • 登録免許税:不動産の登記を抹消する場合に、不動産1個につき1,000円分の収入印紙が必要です。
  • 郵便切手代:裁判所から関係各所への通知発送用として、数千円程度を納付します(金額は裁判所や事案により異なります)。
  • 証明書発行手数料:担保取消し後の供託原因消滅証明書の申請に150円の収入印紙が必要です。
  • 弁護士・司法書士費用:専門家に依頼する場合、事案に応じて10万円〜20万円程度の報酬が別途発生します。

申立てから取下げ完了までの期間

取下げ申立てから執行が解除されるまでの期間は比較的短く、書類に不備がなければ、裁判所が通知を発送し、おおむね数日〜1週間程度で完了します。しかし、供託金を取り戻す手続きまで含めると、さらに時間が必要です。債務者の同意がある場合でも、担保取消決定などを経て実際に還付されるまでには合計でおおむね3週間〜1か月程度が目安です。債務者の同意がなく、権利行使の催告手続きを利用する場合は、おおむね2か月以上の期間を見込む必要があります。

仮差押えの取り下げに関するよくある質問

仮差押えの取り下げに相手方(債務者)の同意は必要ですか?

仮差押えの申立てを取り下げること自体に、債務者の同意は原則として不要です。債権者は自らの判断でいつでも取り下げることができます。ただし、供託金を取り戻すための「担保取消し」手続きを迅速に進めるためには、債務者の同意が事実上不可欠です。同意がない場合、「権利行使の催告」という時間のかかる手続きが必要になるため、実務上は和解交渉の際に同意を取り付けておくことが一般的です。

弁護士に依頼せず、自分で取り下げ手続きを行うことは可能ですか?

債権者本人が自分で取下げ手続きを行うことは法的に可能です。しかし、正確な目録の作成、裁判所ごとの細かな運用への対応、担保取消しや供託金還付請求といった一連の手続きには、専門的な知識が求められます。書類の不備で手続きが遅延するリスクを避けるためにも、法律の専門家である弁護士や司法書士に依頼することをお勧めします

和解契約書に記載すべき取り下げに関する条項は何ですか?

和解契約書には、取下げと担保取消しを円滑に進めるための条項を盛り込むことが極めて重要です。

和解契約書に盛り込むべき主要な条項
  • 取下げの義務:「債権者は、本和解金の全額を受領後、速やかに仮差押えの申立てを取り下げる」といった時期と義務を明記します。
  • 担保取消への同意:「債務者は、本件仮差押えの担保取消手続きに同意し、これに必要な書類(同意書、印鑑証明書)を交付する」という条項を加えます。
  • 即時抗告権の放棄:担保取消決定に対する債務者の不服申立ての権利を放棄させ、決定の早期確定を図ります。
  • 清算条項:「本和解契約に定めるほか、債権者と債務者との間には何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する」という条項で、紛争の蒸し返しを防ぎます。

仮差押えを一部だけ取り下げることはできますか?

可能です。複数の財産(例:複数の土地、複数の預金口座)を差し押さえている場合に、そのうちの一部だけを対象として取り下げることができます。例えば、和解金の一部弁済と引き換えに特定の不動産の差押えを解除したり、売却の必要がある物件だけを解放したりするケースが考えられます。手続きの際は、取下書に取り下げる対象の財産を特定した目録を添付します。

何十年も前の古い仮差押え登記を抹消するにはどうすればよいですか?

長期間放置された仮差押え登記を抹消するには、専門的な法的手続きが必要です。まず、債務者側から裁判所に対して、債権者に本案訴訟を起こすよう命じる「起訴命令の申立て」が考えられます。債権者が指定期間内に提訴しなければ、債務者は仮差押えの取消しを求めることができます。また、債権者が死亡・解散している場合や、債権が時効消滅していることを主張して、「事情変更による保全取消しの申立て」を行う方法もあります。いずれも法的な主張や立証が必要となるため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

まとめ:仮差押えの取下げは供託金回収まで見据えた計画的な進行が重要

仮差押えの取下げは、単に裁判所へ申立てを解除するだけでなく、その後の手続きまで見通して進めることが肝要です。特に、債権者が担保として預けた供託金を円滑に回収するためには、債務者の同意を得て担保取消手続きを進めるのが最も効率的な方法です。そのため、和解交渉の段階で、和解金の支払いと引き換えに担保取消への同意や必要書類の交付を明確に取り決めておくことが、実務上の重要な鍵となります。一連の手続きには専門的な書類作成や法的な判断が求められるため、不明な点があれば弁護士などの専門家に相談し、確実な財産権の回復と紛争の終結を目指しましょう。

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