少額訴訟後の給料差し押さえは回避できる?流れと対処法を解説
少額訴訟で敗訴し、給料を差し押さえられるかもしれないと不安に感じていませんか。給料差し押さえは、債権者が裁判所を通じて行う法的な手続きであり、一度始まると給与の一部が直接債権者に支払われ、その事実は会社にも通知されます。具体的な流れや差し押さえられる金額、職場への影響が分からないままでは、有効な対策を立てることは困難です。この記事では、少額訴訟の判決などから給料差し押さえに至るまでの法的な流れ、差し押さえの範囲、そして回避・停止する方法について、順を追って詳しく解説します。
少額訴訟から給料差し押さえまでの流れ
ステップ1:債務名義の確定(判決・和解)
給料を差し押さえるには、まず債権者が裁判所などの公的機関を通じて、その権利の存在と範囲を証明する「債務名義(さいむめいぎ)」を取得する必要があります。国家権力を用いて個人の財産を強制的に回収するためには、こうした公的な裏付けが不可欠だからです。
債務名義は、少額訴訟や通常訴訟で勝訴した際の確定判決、訴訟上の和解で作成される和解調書などが代表的です。これらを取得して初めて、債権者は強制執行という次の段階に進むことができます。
- 裁判所が支払いを命じる確定判決
- 訴訟の途中で当事者が合意した内容を記した和解調書
- 支払督促の手続きで得られる仮執行宣言付支払督促
- 公証役場で作成される執行認諾文言付公正証書
ステップ2:裁判所への債権差押命令の申立て
債務名義を取得しても、自動的に差し押さえが始まるわけではありません。債権者は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に対し、「債権差押命令」を自ら申し立てる必要があります。
この申立てでは、差し押さえる財産を具体的に特定しなければなりません。給料を対象とする場合は、債務者が勤務する会社の名称と所在地を「第三債務者」として正確に記載します。金融機関などの債権者は、契約時に得た勤務先情報を基に手続きを進めるのが一般的です。裁判所が書類を審査し、要件を満たしていると判断すれば、債権差押命令が発令されます。
- 債権差押命令申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義が債務者に送達されたことを証明する送達証明書
- 当事者(債権者・債務者・第三債務者)の資格証明書(法人の場合)
ステップ3:会社への差押命令の送達
裁判所が発令した債権差押命令は、まず債務者本人ではなく、勤務先の会社(第三債務者)に送達されます。これは、給与を支払う立場にある会社を法的に拘束し、債務者本人への支払いを禁止することで、債権を確実に保全するためです。
命令を受け取った会社は、第三債務者としての法的な義務を負います。命令書に同封されている「陳述書」に、給与債権の有無や今後の支払い意思などを記載し、原則として2週間以内に裁判所へ返送しなければなりません。この義務を怠ると、会社自身が債権者から損害賠償を請求されるリスクがあります。会社への送達後、少し遅れて債務者本人にも差押命令が届きます。
ステップ4:会社から債権者への支払い開始
差押命令が会社に送達された後、一定期間が経過すると、会社から債権者への直接支払いが始まります。これにより、強制執行の目的である債権回収が実行されます。
債務者本人に差押命令が送達されてから4週間が経過すると、債権者に「取立権」が発生し、会社に対して直接支払いを請求できるようになります(養育費などの場合は期間が1週間に短縮)。会社は、差押可能額を給与から天引きし、債権者が指定する口座へ振り込みます。もし複数の債権者から差し押さえが競合した場合、会社は特定の債権者には支払わず、差し押さえた金銭を法務局に供託(きょうたく)して、裁判所の配当手続きに委ねなければなりません。
給料差し押さえによる具体的な影響
差し押さえ可能な給料の金額と計算方法
給料の差し押さえでは、債務者の生活を保障するため、法律で差し押さえが禁止される範囲が定められています。給与の全額が対象になることはありません。
計算の基準となるのは、所得税・住民税・社会保険料などを控除した「手取り額」です(通勤手当は除きます)。債権の種類によって、差し押さえ可能な上限額が異なります。
| 債権の種類 | 差押可能額(原則) | 高所得者の場合の特例(手取り額が基準を超える場合) |
|---|---|---|
| 一般債権(借金など) | 手取り額の4分の1まで | 手取り額が44万円を超える場合、33万円を超えた全額 |
| 養育費・婚姻費用など | 手取り額の2分の1まで | 手取り額が66万円を超える場合、33万円を超えた全額 |
なお、税金の滞納による差し押さえ(滞納処分)は、国税徴収法に基づき、上記とは異なる計算方法が適用され、より多くの金額が差し押さえられる傾向にあります。
会社(職場)への通知と経理部門の対応
裁判所から債権差押命令が届いた場合、会社の経理部門や人事部門は、第三債務者として中立かつ厳格な法的対応を速やかに行う義務を負います。従業員への同情から不適切な処理を行うと、債権者から損害賠償を請求されるなど、会社自身が不利益を被る可能性があるためです。
会社の経理部門は、法務的な知識も動員しながら、ミスのない事務処理を継続する必要があります。
- 対象となる従業員を特定し、次回給与から差押可能額を正確に算出する体制を整える。
- 裁判所から送付された陳述書を作成し、指定された期限内に返送する。
- 従業員本人に事実を伝え、裁判所の命令に基づき給与の一部を控除する旨を説明する。
- 裁判所から差し押さえの取下げ通知が届くまで、自己判断で給与の全額支払いを再開しない。
差し押さえを理由とした解雇の可否
従業員の給与が差し押さえられたという事実のみを理由として、会社がその従業員を解雇することは、原則として法的に認められません。
労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効とされています。給与の差し押さえは従業員の私生活上の問題であり、直ちに業務遂行能力の欠如や職場の秩序を乱す行為とは評価されないため、不当解雇と判断される可能性が極めて高いです。
ただし、借金問題に起因して従業員が会社の資金を横領するなど、明確な業務上の不正行為があれば、その行為自体を理由とする懲戒処分の対象となり得ます。
給与明細への記載と本人への心理的影響
差し押さえが実行されると、給与明細には「差押控除」などの名目で控除額が明記されます。これにより手取り額が大幅に減少し、家計がさらに苦しくなるだけでなく、従業員本人に継続的な心理的負担を与えます。
毎月の給与明細で強制的な天引きの事実を目の当たりにすることは、本人にとって大きなストレスとなります。
- 経済的な困窮を毎月突きつけられる精神的苦痛
- 自分の経済状況を会社に知られ続けているという羞恥心
- 職場での居心地の悪さや、同僚に知られているのではないかという不安
- 仕事へのモチベーション低下や精神的なストレス
会社に差し押さえを知られた場合の適切な対応と説明
会社から差し押さえについて事情を聴かれた場合、隠したり嘘をついたりせず、誠実な態度で状況を説明することが重要です。会社は法的な義務を負って事務処理を行っているため、従業員の非協力的な態度は信頼関係を著しく損ないます。
真摯な姿勢で問題解決に取り組む意思を示すことが、会社からの信頼を維持し、職場での立場を守るために不可欠です。
- 私的な問題で経理担当者などに負担をかけることについて、率直に謝罪する。
- 弁護士に相談して債務整理を検討しているなど、解決に向けた具体的な行動を説明する。
- 今後の会社の事務処理に全面的に協力する姿勢を示す。
給料差し押さえを回避・停止する方法
差押え前の任意での一括・分割払い交渉
裁判所の手続きが始まる前に、債権者と直接交渉し、返済計画について合意できれば、給与差し押さえを回避できます。債権者にとっても、裁判手続きの手間や費用をかけずに回収できるメリットがあるため、交渉に応じる可能性は十分にあります。
債権者から一括請求や差押予告の通知が届いた段階が、交渉の最後のチャンスです。督促を無視せず、早期に自ら連絡を取り、誠実に返済の意思を示すことが事態の打開につながります。
- 督促の通知が届いたら、放置せずにすぐ債権者に連絡する。
- 現在の収支状況を正直に説明し、現実的に支払い可能な分割案を提示する。
- 交渉が成立した場合は、必ず合意内容を記載した和解書などの書面を作成する。
債務整理による差押えの停止・中止
自力での返済や交渉が困難な場合は、弁護士などの専門家に依頼し、自己破産や個人再生といった法的な債務整理手続きを行うことで、給与差し押さえを停止・中止させることができます。これらの手続きには、個別の強制執行を停止させる強力な法的効力があります。
| 債務整理の種類 | 差押えへの効果 |
|---|---|
| 自己破産 | 裁判所が破産手続開始決定を出すと、進行中の差押えは中止され、免責許可決定が確定すると失効する。 |
| 個人再生 | 裁判所が再生手続開始決定を出すと、進行中の差押えは中止され、再生計画の認可決定が確定すると失効する。 |
| 任意整理 | 裁判所を介さない私的な交渉のため、すでに開始された差押えを停止させる法的効力はない。 |
請求異議の訴え(限定的なケース)
債務名義が成立した後に、すでに借金を完済していたり、消滅時効が成立していたりするなど、債権者の請求権そのものが消滅しているにもかかわらず差し押さえを申し立てられた、という極めて限定的なケースでは、「請求異議の訴え」を裁判所に提起して争うことができます。
この訴えが認められれば、強制執行は不許可となります。ただし、訴えを起こすだけでは差し押さえは止まらないため、併せて強制執行停止の申立ても行う必要があります。
差し押さえの期間と対象財産
差し押さえがいつまで続くのか
給料の差し押さえには、法律上の期限はありません。一度開始されると、原則として、請求されている元金、遅延損害金、執行費用の全額が回収されるまで半永久的に継続します。
給与は毎月発生する債権であるため、一度の差押命令の効力は将来の給与にも及び続けます。毎月の返済額はまず遅延損害金などに充当されるため、元金がなかなか減らず、差し押さえが数年以上にわたって続くことも珍しくありません。
差し押さえが終了する3つの条件
長期間続くこともある給与差し押さえが法的に終了し、給与を再び満額受け取れるようになるには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 債権全額の完済: 勤務先からの支払いや本人による返済で、元金・遅延損害金・執行費用の全額が支払われる。
- 債権者による取下げ: 債務者が一括返済に応じるなどして、債権者が自発的に差し押さえを取り下げる。
- 債務整理手続きの完了: 債務者が自己破産や個人再生を申し立て、裁判所から免責許可決定や再生計画認可決定が確定する。
給料以外の差押対象(預貯金など)
強制執行の対象は給料に限りません。債権者は債権を回収するため、法律で保護される一部の財産(差押禁止財産)を除き、債務者が所有するあらゆる財産を差し押さえることができます。
特に預貯金は、給料と違って差押禁止の範囲が定められていないため、差押命令が銀行に届いた時点の口座残高が、請求額に達するまで全額差し押さえられる可能性があります。
- 銀行や信用金庫などの預貯金
- 自宅や土地などの不動産(競売にかけられる)
- 生命保険の解約返戻金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 自動車や高価な貴金属などの動産
差し押さえ期間中に転職・退職した場合の注意点
給与差し押さえ中に会社を退職すると、その会社に対する差押命令の効力は失われます。しかし、これは借金がなくなったわけではなく、債務名義に基づく返済義務はそのまま残ります。
退職や転職は根本的な解決策にはならず、むしろ追及が続くリスクがあります。
- 支給される退職金も給与と同様に差し押さえの対象となる。
- 債務名義の効力は消滅しないため、返済義務は継続する。
- 債権者は転職先を調査し、再びその会社に対して給与差し押さえを申し立てることができる。
よくある質問
債権者はどのように勤務先を調べるのですか?
債権者は、過去の契約情報だけでなく、法律で認められた公的な制度を利用して債務者の勤務先を調査することができます。そのため、債務者が隠そうとしても、高確率で特定されてしまいます。
- ローンやクレジットカードの申込書に記載された勤務先情報
- 裁判所を通じて財産情報を開示させる「財産開示手続」(虚偽の陳述には罰則あり)
- 裁判所を通じて公的機関に照会する「第三者からの情報取得手続」(市区町村や日本年金機構などから情報を取得)
給料が振り込まれた後の銀行預金も差し押さえられますか?
はい、差し押さえられます。給料は法律で一部が保護されますが、一度銀行口座に振り込まれると「預金債権」という別の財産に性質が変わり、給料としての保護が及ばなくなります。その結果、差押命令が銀行に届いた時点の口座残高が、生活費であっても全額差し押さえられる危険性があります。
| 財産の種類 | 差押禁止範囲 |
|---|---|
| 給料(会社から支払われる前) | 原則として手取り額の4分の3(または2分の1)は保護される。 |
| 預金(口座に振り込まれた後) | 原則として保護される範囲はなく、残高全額が差押えの対象となる。 |
ボーナス(賞与)や退職金も対象になりますか?
はい、毎月の給料と同様に、ボーナス(賞与)や退職金も差し押さえの対象となります。これらも労働の対価として支払われる賃金とみなされるためです。ただし、退職金は生活保障の性質が強いことから、計算方法が若干異なります。
| 対象 | 差押可能額の計算方法 |
|---|---|
| ボーナス(賞与) | 毎月の給料と全く同じ。手取り額の4分の1(または2分の1)まで。 |
| 退職金 | 手取り額の4分の1まで。ただし、手取り額が44万円を超える場合は、33万円を超えた全額が差し押さえの対象となる。 |
パートやアルバイトの給料も差し押さえの対象ですか?
はい、対象です。雇用形態にかかわらず、会社から支払われる労働の対価はすべて「給与債権」として差し押さえの対象となります。正社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員などの給料も同様に差し押さえられます。支払い方法が現金手渡しであっても、差し押さえを免れることはできません。
会社は従業員の給料差し押さえを拒否できますか?
いいえ、一切拒否できません。裁判所からの債権差押命令は、国家権力に基づく法的な強制力を持ちます。会社(第三債務者)は、この命令に厳格に従う法的義務を負っています。
もし会社が命令を無視して従業員に給与を全額支払った場合、債権者に対してその金額を別途支払う「二重払い」のリスクを負うことになります。会社は従業員との関係性よりも、法令遵守を優先しなければなりません。
まとめ:少額訴訟後の給料差し押さえを正しく理解し、冷静に対処するために
少額訴訟で敗訴すると、債権者は判決などの債務名義に基づき、給料を差し押さえることができます。差し押さえは、裁判所から会社へ命令が送達されることで始まり、手取り額の原則4分の1が完済まで継続的に天引きされます。この手続きは法的な強制力を持ち、会社は拒否できないため、職場に知られることは避けられません。しかし、差し押さえを理由とした解雇は原則として認められないため、冷静に対応することが重要です。もし差し押さえを回避・停止したい場合は、債権者との交渉や、自己破産・個人再生といった法的な債務整理が有効な手段となります。どのような対応が最適かは個々の状況によるため、一人で悩まず、早めに弁護士などの法律専門家へ相談することをおすすめします。

