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少額訴訟のやり方|訴状準備から強制執行までの流れと費用を解説

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60万円以下の売掛金回収などには、迅速かつ低コストな「少額訴訟」が有効な手段です。しかし、自分で手続きを進めるには、具体的な流れや必要書類が分からず不安に感じる方も多いでしょう。少額訴訟は、弁護士に依頼せずとも申し立てが可能で、費用倒れのリスクを抑えながら債権回収を目指せる制度です。この記事では、訴状の準備から判決後の強制執行まで、ご自身で少額訴訟を行うための具体的な手順と流れを詳しく解説します。

少額訴訟の基礎知識

少額訴訟とは?制度の概要

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる、特別な民事訴訟手続きです。通常の訴訟に比べて時間と費用を大幅に節約できるため、少額の債権回収に適しています。売掛金、貸付金、未払い賃金などの回収に活用されます。

原則として審理は1回で終了し、その日のうちに判決が言い渡されるのが最大の特徴です。そのため、複雑な事実認定が必要な事件には向いていません。管轄は簡易裁判所となり、書類審査のみの支払督促とは異なり、法廷での審理が行われます。

少額訴訟の主な特徴
  • 請求額が60万円以下の金銭支払いが対象
  • 原則として1回の期日で審理が完了する
  • 審理の当日中に判決が言い渡される
  • 簡易裁判所が管轄となる
  • 手続きが簡略化されており費用も比較的低額

利用できる3つの条件

少額訴訟を利用するためには、迅速な審理を実現するため、法律で定められた3つの条件をすべて満たす必要があります。

少額訴訟の利用条件
  • 請求する元本の金額が60万円以下であること
  • 金銭の支払いを目的とする請求であること
  • 同一の簡易裁判所での利用が年間10回以内であること

請求額の算定には、利息や遅延損害金は含まれません。また、建物の明け渡しや物品の引き渡しといった、金銭以外の請求には利用できません。さらに、相手方が通常訴訟での審理を希望した場合は、原則として通常訴訟に移行するため、相手方の意向が結果に影響を与えることがあります。

メリット:迅速・低コスト

少額訴訟の最大のメリットは、手続きが簡略化されていることによる迅速な解決低コストです。通常の民事訴訟では判決まで半年以上かかることも珍しくありませんが、少額訴訟は訴状提出から約1~2ヶ月で期日が指定され、原則として即日判決が出ます。

少額訴訟の主なメリット
  • 迅速な解決: 訴状提出から短期間で期日が指定され、原則即日判決が下される。
  • 低コスト: 申立手数料が低額で、弁護士に依頼せず本人で手続きを進めやすい。
  • 手続きの簡便さ: 定型化された書式が用意されており、専門家でなくても対応しやすい。
  • 柔軟な解決: 審理の場で裁判官から和解案が提示されることが多く、円満な解決も期待できる。

これらのメリットにより、少額の債権回収における費用倒れのリスクを大幅に軽減できます。

デメリット:注意すべき点

少額訴訟は迅速性を優先する反面、当事者の権利保護に一定の制約があり、いくつかのデメリットや注意点が存在します。

少額訴訟の主なデメリットと注意点
  • 通常訴訟への移行: 相手方が通常訴訟での審理を希望した場合や、裁判所が事件が複雑であると判断した場合は、通常訴訟へ移行することがあります。
  • 不服申し立ての制限: 判決に対して控訴はできず、同じ簡易裁判所への異議申し立てしかできない。
  • 分割払いの判決: 裁判所の判断で、分割払いや支払猶予、遅延損害金の免除が命じられることがある。

特に、相手が争う姿勢を見せている場合、通常訴訟への移行で準備が無駄になる可能性があります。また、一括での回収を強く望む場合には、分割払いを命じられるリスクを考慮する必要があります。

訴訟提起前に検討すべき「回収可能性」の判断

訴訟を提起する前に、可能な範囲で相手方の資産状況を調査し、回収可能性を判断することが重要です。勝訴判決を得ても、相手方に支払う資力がなければ、債権を回収することはできません。

相手方の勤務先、預貯金口座、所有不動産といった財産情報を事前に把握しておくことが望ましいです。財産が全くない相手に訴訟を起こしても、印紙代や郵券代などの費用が無駄になる「費用倒れ」に終わるリスクがあります。法的手続きはあくまで回収手段の一つであり、相手の資力を冷静に分析した上で実行可否を決定する必要があります。

少額訴訟の手続きと流れ

手続きの全体像(訴訟提起から判決まで)

少額訴訟は、1回の期日で審理を終結させるという目的を達成するため、訴訟提起から判決までが迅速に進むよう設計されています。手続きの基本的な流れは以下の通りです。

少額訴訟の手続きフロー
  1. 訴状と証拠書類を管轄の簡易裁判所に提出する。
  2. 裁判所が訴状を審査し、口頭弁論期日を指定する(約1~2ヶ月後)。
  3. 裁判所から相手方(被告)へ訴状や期日呼出状が送達される。
  4. 相手方は期日までに答弁書を提出する。
  5. 口頭弁論期日で、裁判官を交えて双方の主張と証拠調べを行う。
  6. 審理が終結し、原則としてその日のうちに判決が言い渡される(和解成立の場合は和解調書作成)。

訴状の作成と必要書類

少額訴訟では、1回の期日で裁判官に事案を理解してもらう必要があるため、正確な訴状の作成と必要書類の準備が不可欠です。簡易裁判所には定型の訴状書式が用意されているため、活用すると便利です。

訴状の主な記載事項
  • 当事者の表示: 原告と被告の氏名(名称)および住所を正確に記載する。
  • 請求の趣旨: 相手方に求める支払い金額などを明確に記載する。
  • 請求の原因: 請求を裏付ける事実関係を時系列に沿って具体的に記載する。
提出時の主な必要書類
  • 訴状: 裁判所へ提出する正本1通と、相手方の人数分の副本。
  • 証拠書類: 契約書や請求書など、請求の原因を証明する書類の写し。
  • 資格証明書: 当事者が法人の場合、発行から3ヶ月以内の登記事項証明書などが必要。

証拠の準備と整理の仕方

少額訴訟の審理は1回で終了するため、後から証拠を追加する機会は原則としてありません。 期日当日に即座に取り調べることができる証拠を、訴状提出時にすべて揃えておく必要があります。

主な証拠書類の例
  • 契約書、発注書、納品書、請求書、領収書
  • メールやSNSなどでの相手方とのやり取りの記録
  • 内容証明郵便の控え
  • 録音データの文字起こし(反訳書)

証拠を提出する際は、証拠ごとに番号を付け、何によって何を証明したいのかを記した証拠説明書を作成します。これにより、裁判官が事案を迅速かつ正確に理解する助けとなります。また、証人を立てる場合は、原則として期日当日に出頭できる人に限られるのが一般的です。

管轄裁判所への訴状提出

作成した訴状と証拠書類は、法律で定められた管轄の裁判所に提出しなければなりません。管轄を誤ると、事件が移送されて時間がかかってしまうため注意が必要です。

金銭の支払いを求める訴訟の場合、以下のいずれかの簡易裁判所に提起できます。

管轄裁判所の選択肢
  • 被告の住所地を管轄する簡易裁判所(原則)
  • 原告の住所地を管轄する簡易裁判所(義務履行地として)
  • 不法行為があった場所を管轄する簡易裁判所(不法行為に基づく請求の場合)

一般的には、債権者である原告の住所地を管轄する簡易裁判所に提起できるため、自社にとって手続きが進めやすい裁判所を選択することが可能です。提出方法は、裁判所の窓口への持参または郵送となります。

口頭弁論期日の審理と判決

口頭弁論期日は、当事者の主張と証拠に基づいて判決が下される、事実上の最終決戦の場です。期日では、裁判官が訴状や答弁書をもとに事実関係を確認し、当事者双方に質問をしながら争点を整理します。感情的にならず、客観的な事実に基づき冷静に回答することが重要です。

審理の過程で、裁判官から和解が打診されることが頻繁にあります。双方が合意すれば、確定判決と同じ法的効力を持つ和解調書が作成され、訴訟は終了します。和解に至らない場合は審理が終結し、原則としてその日のうちに判決が言い渡されます。

少額訴訟にかかる費用

費用の内訳(申立手数料・郵券代)

少額訴訟を提起する際には、主に申立手数料と予納郵券代という2つの実費を裁判所に納める必要があります。

少額訴訟の主な費用
  • 申立手数料(収入印紙): 訴額(請求金額)に応じて法律で定められており、収入印紙を訴状に貼付して納付する。
  • 予納郵券代(郵便切手): 裁判所から相手方へ訴状などを送達するための費用。裁判所ごとに金額が異なり、概ね5,000円から7,000円程度。
  • その他: 当事者が法人の場合の登記事項証明書の取得費用(数百円)や、裁判所への交通費、証拠のコピー代などが別途発生する。

弁護士に依頼しない場合、これらの実費のみで手続きを進められるため、費用を低く抑えることが可能です。

請求金額別の手数料目安

申立手数料は、請求する金額(訴額)が大きくなるにつれて段階的に増加します。少額訴訟の上限である60万円までの手数料は以下の通りです。

請求金額(訴額) 申立手数料(収入印紙代)
10万円まで 1,000円
20万円まで 2,000円
30万円まで 3,000円
40万円まで 4,000円
50万円まで 5,000円
60万円まで 6,000円
請求金額(訴額)と申立手数料

この訴額には、利息や遅延損害金は含まれず、元本の金額のみで計算します。請求金額に応じて過不足なく収入印紙を準備する必要があります。

訴訟費用は相手に請求できるか

勝訴判決を得た場合、訴訟に要した費用(申立手数料や郵券代など)を「訴訟費用」として、法律に基づき相手方に請求することが可能です。判決主文で「訴訟費用は被告の負担とする」といった形で負担者が指定されます。

ただし、弁護士費用は原則としてこの訴訟費用には含まれません。また、和解で解決した場合は、各自が負担すると定められることが一般的です。実務上、訴訟費用の回収まで行うには別途手間がかかるため、金額が少額である場合は回収を追求しないケースも多く見られます。

判決後の強制執行手続き

勝訴判決だけでは回収できない場合

勝訴判決は、相手方に支払い義務があることを公的に確定させるものですが、それだけで自動的に債権が回収できるわけではありません。相手方が判決に従わず、自発的に支払わない場合は、別途「強制執行」の手続きを取る必要があります。

少額訴訟の判決には、原則として「仮執行宣言」が付されるため、判決が確定する前でも強制執行を申し立てることが可能です。しかし、強制執行を行うには、債権者自身が差し押さえるべき相手方の財産を特定しなければならず、裁判所が財産を探してくれるわけではありません。

少額訴訟債権執行とは

少額訴訟債権執行は、少額訴訟で得た判決などの債務名義に基づき、相手方の金銭債権を差し押さえるための簡易的な強制執行手続きです。少額訴訟の利用者が、地方裁判所ではなく、同じ簡易裁判所で迅速に手続きを進められるように設けられた制度です。

少額訴訟債権執行の特徴
  • 少額訴訟で得た債務名義で利用できる。
  • 判決を下した簡易裁判所に申し立てる。
  • 対象は預貯金給与などの金銭債権に限定される。
  • 不動産や動産の差し押さえはこの手続きではできない。

相手の預金口座や勤務先が判明している場合に、非常に有効な回収手段となります。

強制執行の申立て手順

強制執行は国家権力によって相手の財産を差し押さえる強力な手続きであるため、申立てには厳格な手順と正確な書類作成が求められます。

強制執行(債権差押え)の申立て手順
  1. 執行力のある債務名義の正本(少額訴訟の判決正本など)を準備する。
  2. 債務名義が相手方に送達されたことを証明する「送達証明書」を裁判所で取得する。
  3. 債権差押命令申立書と、当事者や差し押さえる債権を特定した目録を作成する。
  4. 申立手数料(収入印紙4,000円)と郵便切手を添えて、管轄の裁判所に提出する。
  5. 裁判所が書類を審査し、問題がなければ差押命令が発令される。

効果的な強制執行のための財産調査の重要性

強制執行を成功させるための鍵は、事前の財産調査にあります。差し押さえるべき財産を債権者自身が具体的に特定できなければ、申立て自体ができないか、実行しても空振りに終わってしまいます。

例えば、預金を差し押さえるには金融機関名と支店名を、給与を差し押さえるには現在の勤務先を正確に把握している必要があります。日頃から取引先の資産状況に関心を持ち、与信管理の一環として情報を収集しておくことが、いざという時の債権回収に繋がります。

少額訴訟のよくある質問

相手が裁判を欠席・無視した場合は?

相手方が口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出しない場合、民事訴訟法の「擬制自白」という規定により、原告の主張をすべて認めたものとみなされます。その結果、提出された訴状と証拠に基づいて審理が行われ、原告の全面勝訴となる判決が即日言い渡されます。

相手の住所が不明でも訴訟できますか?

相手の住所や勤務先が不明で、訴状を送達できない場合、少額訴訟を利用することはできません。少額訴訟では、相手に書類が届かない場合に用いられる「公示送達」という手続きが認められていないためです。この場合は、通常訴訟を選択し、公示送達の要件を満たした上で手続きを進める必要があります。

弁護士に依頼せず自分だけでできますか?

はい、少額訴訟は本人だけで手続きを行うことが十分に可能です。手続きが簡略化・定型化されており、簡易裁判所のウェブサイトや窓口で書式や手引書を入手できます。審理も、威圧感の少ない円卓形式で行われるなど、当事者本人が利用しやすいように配慮されています。

判決に不服がある場合、控訴はできますか?

少額訴訟の判決に対して、高等裁判所へ控訴することはできません。不服がある場合は、判決を下した同じ簡易裁判所に対し、判決書を受け取った日の翌日から2週間以内に「異議申し立て」を行うことのみ可能です。異議申し立てが適法になされた場合、手続きは通常訴訟に移行し、同じ裁判所で再度審理が行われます。

法人が原告または被告になることは可能ですか?

はい、法人が当事者となることは全く問題ありません。企業間の売掛金トラブルなど、ビジネスの現場で広く活用されています。法人が当事者となる場合、訴状に代表者の氏名を記載するとともに、会社の資格証明書として、法務局で取得した「登記事項証明書」などを添付する必要があります。

審理で分割払いの和解はできますか?

はい、分割払いでの和解は可能であり、裁判所も柔軟な解決策として積極的に推奨しています。相手に支払いの意思はあるものの、一括での支払いが困難な場合に有効な選択肢です。その際は、支払いが滞った場合に残額を一括請求できる「期限の利益喪失条項」を和解内容に盛り込むことが、支払いを確保する上で非常に重要です。

まとめ:少額訴訟を自分で進め、債権回収を成功させるポイント

本記事では、60万円以下の金銭債権を回収するための少額訴訟について、手続きの流れから費用、強制執行までを解説しました。少額訴訟は、原則1回の審理で即日判決が下されるため、迅速かつ低コストで解決を図れる点が大きな特徴です。 手続きを成功させる鍵は、訴訟提起前の「回収可能性」の見極めと、期日までに請求を裏付ける証拠を漏れなく準備することにあります。まずは契約書や請求書、相手とのやり取りの記録といった証拠を整理し、相手の資産状況について把握している情報を確認することから始めましょう。勝訴判決後の強制執行も見据え、相手の財産を特定しておくことが重要です。この記事で解説した内容は一般的な手続きの流れであり、個別の事案で判断に迷う場合は、専門家へ相談することもご検討ください。

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