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セクハラを訴えるには?法的手続きの種類、慰謝料相場、必要な準備を解説

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職場でセクシュアルハラスメントの被害に遭い、精神的に深く傷つき、加害者や会社に対して法的な措置を取りたいと考えている方もいらっしゃるでしょう。しかし、具体的に何から始め、どのような手続きがあるのか、不安に感じるのは当然のことです。この記事では、セクハラ被害を法的に訴えるための具体的な準備、手続きの種類と流れ、請求できる慰謝料の相場、そして伴うリスクまで、実務的な観点から網羅的に解説します。

目次

セクハラを訴える前の準備と相談先

法的手続きに不可欠な証拠の集め方と具体例

セクシャルハラスメント(セクハラ)の被害を法的に訴えるには、客観的な証拠が極めて重要です。裁判所などの第三者は、提出された証拠に基づいて事実を判断するため、被害を証明できる資料を計画的に収集する必要があります。

有力な証拠の具体例は以下の通りです。

セクハラの有力な証拠の例
  • 録音・録画データ: 被害時の会話や行為を記録した音声や映像は、直接的な証拠として高い証明力を持ちます。スマートフォンなどを常に携帯し、すぐに記録できるよう準備しておくことが有効です。
  • メールやSNSの記録: 不快なメッセージや画像は、送信者や日時が分かるようにスクリーンショットや印刷物として保存します。被害者が拒絶の意思を示した返信も、同意がなかったことの証明になります。
  • 日記やメモ: 被害に遭った日時、場所、加害者の具体的な言動、その時の自分の感情などを詳細に記録したものは、供述の信用性を高める証拠となり得ます。
  • 同僚などの第三者の証言: 被害の現場を目撃した同僚がいれば、証言を依頼します。証言内容を書面にしてもらったり、協力者との会話を録音したりしておくことが望ましいです。
  • 医師の診断書: セクハラが原因で心身に不調をきたし通院した場合、医師の診断書は精神的苦痛という損害を客観的に示す重要な証拠となります。

これらの証拠は、単独では弱くても、複数組み合わせることで全体の証明力が高まります。時間が経つと記憶が曖昧になったりデータが消えたりする恐れがあるため、被害に遭った直後から迅速に収集を開始することが重要です。

社内の相談窓口を利用する場合のメリットと注意点

多くの企業では、男女雇用機会均等法に基づき、ハラスメント相談窓口の設置が義務付けられています。この窓口を利用することには、メリットと注意点の両方があります。

内容
メリット 社内規定に基づき、迅速な事実調査や加害者への懲戒処分が期待できます。裁判を経ずに、配置転換などの具体的な職場環境の改善につながる可能性があります。
注意点 担当者が人事部などで中立性が確保されにくい場合があります。相談内容が外部に漏れたり、相談したことで不利益な扱いを受けたりするリスクもゼロではありません。
社内相談窓口のメリットと注意点

社内窓口を利用する際は、プライバシー保護のルールを事前に確認し、相談内容の記録を自分でも残しておくといった自衛策が大切です。

労働局など公的機関への相談とその役割

社内での解決が難しい場合、各都道府県に設置されている労働局に相談する方法があります。労働局では、専門の相談員による無料のカウンセリングが受けられ、法的な情報提供や助言を得ることができます。

労働局の主な役割は以下の通りです。

労働局の主な役割
  • 情報提供・助言: 専門の相談員が、法令や判例に基づいたアドバイスを行います。
  • 助言・指導: 労働局長が、問題があると判断した企業に対して、自主的な解決を促すための助言や指導を行います。
  • あっせん: 労働問題の専門家が中立な第三者として介入し、当事者間の話し合いを仲介して和解を目指す「紛争調整委員会によるあっせん」手続きを利用できます。

ただし、労働局の助言や指導、あっせんには、裁判所のような法的な強制力はありません。そのため、会社側が話し合いを拒否した場合は、手続きがそこで終了してしまう点に注意が必要です。

弁護士への相談が有効なケースと選び方のポイント

慰謝料請求など、加害者や会社に対して法的な責任を本格的に追及したい場合は、弁護士への相談が最も効果的です。弁護士は代理人として交渉を行うため、被害者自身が相手方と直接やり取りする精神的負担を軽減できます。

弁護士への相談が特に有効なのは、以下のようなケースです。

弁護士への相談が有効なケース
  • 加害者や会社に対して、慰謝料などの損害賠償を請求したい場合
  • 相手方との交渉をすべて専門家に任せ、精神的負担を減らしたい場合
  • どのような証拠を集めればよいか、専門的なアドバイスが欲しい場合

信頼できる弁護士を選ぶためには、いくつかのポイントがあります。

弁護士選びのポイント
  • 労働問題やハラスメント事案の解決実績が豊富であること。
  • 被害者の心情に寄り添い、親身に話を聞いてくれること。
  • 解決までの見通しや費用について、明確で分かりやすい説明があること。

弁護士会の紹介制度や、インターネットのポータルサイトなどを活用し、複数の事務所の初回相談を受けて比較検討することをおすすめします。

訴訟プロセスにおける二次被害のリスクと対策

セクハラ被害を法的に訴える過程で、周囲の無理解な言動や手続き上の負担によって、被害者がさらに精神的なダメージを受ける「二次被害(セカンドハラスメント)」が発生するリスクがあります。裁判では被害の詳細を繰り返し説明する必要があり、それが精神的な負担となることも少なくありません。

これらのリスクに対しては、以下のような対策が考えられます。

二次被害への対策
  • 非公開手続きの活用: 裁判では、公開の法廷ではなく非公開の準備手続きを中心に審理を進めることができます。
  • 尋問時の配慮: 証人尋問の際に、加害者と顔を合わせずに済むよう、ついたてを設置する「遮へい措置」や、別室からモニターを通じて証言する「ビデオリンク方式」を利用できます。
  • 専門家との連携: 弁護士や被害者支援団体と密に連携し、精神的なサポートを受けながら手続きを進めることが重要です。

二次被害を避けるためには、信頼できる専門家と協力し、心身の安全を確保しながら慎重に手続きを進めることが不可欠です。

誰を訴えることができるか?加害者と会社の法的責任

加害者本人に対する法的責任(不法行為責任)

セクハラの加害者本人に対しては、民法第709条の「不法行為」に基づく損害賠償責任を追及できます。不法行為とは、故意または過失によって他人の権利を違法に侵害し、損害を与える行為のことです。セクハラは、被害者の人格権や性的な自己決定権を侵害する行為であり、不法行為にあたります。

不法行為が成立するには、加害者の言動が社会通念上許される範囲を超えていることが必要です。加害者に「セクハラの意図はなかった」と主張されても、客観的に見て相手が不快に感じる性的な言動であり、それによって就業環境が害されたと判断されれば、法的責任を免れることはできません。悪質なケースでは、不同意わいせつ罪などの刑事責任が問われる可能性もあります。

会社に対する法的責任(使用者責任・職場環境配慮義務違反)

セクハラ問題では、加害者本人だけでなく、会社に対しても法的責任を追及できる場合があります。その主な根拠は「使用者責任」と「職場環境配慮義務違反」の2つです。

責任の種類 根拠となる法律 内容
使用者責任 民法第715条 従業員が職務に関連して他人に損害を与えた場合、雇用主である会社も連帯して賠償責任を負うというもの。上司が地位を利用した場合などが該当します。
職場環境配慮義務違反 労働契約法第5条 会社は労働者が安全で健康に働ける職場環境を整備する義務を負っているというもの。セクハラ防止研修を怠ったり、被害の訴えを放置したりした場合にこの義務違反が問われます。
会社の法的責任の根拠

被害者は、加害者と会社の両方に対して損害賠償を請求できます。実務上は、双方を被告として訴訟を提起し、組織全体の管理責任を問うのが一般的です。

セクハラを訴えるための法的手続きの種類と流れ

民事訴訟(裁判)のメリット・デメリット

民事訴訟は、裁判官が法に基づいて最終的な判断(判決)を下す、最も厳格な手続きです。メリットとデメリットを理解した上で選択する必要があります。

メリット デメリット
判決に強い強制力があり、相手が支払いに応じなければ財産を差し押さえることができる。 解決までにおおむね1年以上の長い期間を要することが多く、心身の負担が大きい。
厳密な証拠調べが行われ、事実関係を公的に明らかにできる。 原則として公開の法廷で行われるため、プライバシーが他者に知られるリスクがある。
勝訴判決により、社会的に被害が認められたという精神的な区切りをつけやすい。 弁護士費用が高額になりやすく、証拠が不十分な場合は敗訴するリスクもある。
民事訴訟のメリット・デメリット

民事訴訟(裁判)の手続きの流れと期間の目安

民事訴訟は、以下の流れで進められるのが一般的です。提訴から第一審の判決までには、おおむね1年半の期間がかかります。

民事訴訟の基本的な流れ
  1. 訴状の提出: 原告が裁判所に訴状を提出して裁判を開始します。
  2. 口頭弁論期日: 提訴から約1~2ヶ月後に第一回の期日が開かれます。その後は1~2ヶ月に一度のペースで期日が設定され、書面(準備書面)でお互いの主張を重ねます。
  3. 証拠調べ: 主張の対立点について、証人尋問や本人尋問が行われます。
  4. 和解または判決: 尋問終了後、裁判所から和解が勧められることが多く、合意すれば和解で終了します。和解が成立しない場合、審理が終結し、判決が言い渡されます。

労働審判のメリット・デメリット

労働審判は、労働者と事業主との間のトラブルを、迅速かつ柔軟に解決するために設けられた裁判所の手続きです。民事訴訟とは異なる特徴があります。

メリット デメリット
迅速な解決が可能で、おおむね3回以内の期日で、申立てからおおむね3ヶ月で終了する。 審判の内容に不服がある当事者が異議申し立てをすると、自動的に民事訴訟に移行してしまう。
裁判官と労働問題の専門家(労働審判員)が判断するため、実態に即した解決が期待できる。 訴訟に移行した場合、労働審判にかけた時間が結果的に無駄になる可能性がある。
手続きは非公開で行われるため、プライバシーが保護されやすい。 事実関係が非常に複雑な事案には向いていない場合がある。
労働審判のメリット・デメリット

労働審判の手続きの流れと期間の目安

労働審判は、迅速な解決を目指すため、集中的に審理が行われます。申立てから終了までの期間の目安はおおむね3ヶ月です。

労働審判の基本的な流れ
  1. 申立書の提出: 労働者が裁判所に労働審判申立書を提出します。
  2. 第一回期日: 申立てから40日以内に第一回期日が指定されます。ここで裁判官と審判員が双方から事情を詳しく聞き、多くの場合、この日のうちに調停(和解案)が試みられます。
  3. 調停または審判: 話し合いで合意できれば調停成立となり、手続きは終了します。合意できない場合は、審判委員会が事案の実情に応じた判断(審判)を下します。
  4. 確定: 審判が下されてから2週間以内にどちらからも異議申し立てがなければ、審判は確定し、判決と同じ効力を持ちます。

セクハラで請求できる慰謝料の相場と算定要素

セクハラ慰謝料の相場と過去の裁判例

セクハラによって受けた精神的苦痛に対する賠償金である慰謝料の相場は、おおむね30万円~300万円程度となるケースが多いです。ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個別の事情によって金額は大きく変動します。

例えば、執拗な身体的接触や性的な関係の強要など行為が悪質な場合や、被害者が退職に追い込まれたり精神疾患を発症したりするなど被害の結果が重大な場合には、相場を大幅に上回る金額が認められることもあります。一方で、発言のみで比較的軽微と判断された場合は、数十万円程度にとどまる傾向があります。

慰謝料額に影響する主な算定要素(行為の悪質性・被害の程度など)

慰謝料の金額は、裁判所が様々な要素を総合的に考慮して決定します。金額に影響を与える主な要素は以下の通りです。

慰謝料の算定で考慮される主な要素
  • 行為の態様や悪質性: 言葉のみか、身体接触があったか、性的な関係の強要があったかなど。
  • 行為の継続性や頻度: 一度きりか、長期間にわたり執拗に繰り返されたか。
  • 当事者の関係性: 拒否しにくい立場(上司と部下など)を悪用したか。
  • 被害者が受けた損害の程度: 精神疾患の発症、休職や退職に至ったかなど。
  • 会社の事後対応: 被害の訴えを放置したり、被害者に不利益な扱いをしたりしなかったか。

慰謝料以外に請求できる損害賠償の項目(治療費・休業損害など)

セクハラ被害で請求できるのは、精神的苦痛に対する慰謝料だけではありません。実際に発生した経済的な損害についても、賠償を求めることができます。

慰謝料以外に請求できる損害賠償の例
  • 治療費: セクハラが原因で通院した場合の医療費やカウンセリング費用など。
  • 休業損害: 精神的な不調で仕事を休まざるを得なかった期間の賃金相当額。
  • 逸失利益: 被害が原因で退職に追い込まれた場合に、将来得られたはずの収入。
  • 弁護士費用: 裁判で認められた損害額の1割程度が、相手方に請求できる場合があります。

これらの損害を請求するためには、領収書や給与明細など、損害額を証明する客観的な資料が必要となります。

訴訟や労働審判にかかる費用の内訳

弁護士費用の種類(着手金・報酬金・相談料)と相場

弁護士に依頼する場合、主に「着手金」と「報酬金」が発生します。法律事務所によって料金体系は異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

弁護士費用の内訳と相場
  • 法律相談料: 弁護士に正式に依頼する前の相談にかかる費用。おおむね30分5,000円~1万円程度が相場ですが、初回無料の事務所も多いです。
  • 着手金: 事件を依頼する際に支払う初期費用。結果にかかわらず返金されないのが原則です。労働審判で20万円~、訴訟で30万円~が目安です。
  • 報酬金: 事件が成功した場合に、その成果に応じて支払う費用。おおむね獲得した経済的利益の10%~20%程度が相場です。

依頼する前には必ず見積もりを確認し、費用について納得のいく説明を受けることが重要です。

裁判所や労働審判委員会に支払う実費(申立手数料・郵券代など)

弁護士費用とは別に、裁判所に手続きを申し立てるための実費が必要です。これは自分で行う場合でも、弁護士に依頼する場合でも発生します。

裁判所に納める実費の例
  • 申立手数料: 訴状や申立書に収入印紙を貼って納付します。請求額に応じて金額が決まり、例えば300万円を請求する場合、訴訟なら2万円、労働審判なら1万円です。
  • 予納郵券: 裁判所が相手方へ書類を送るための切手代。数千円~1万円程度をあらかじめ納付し、余剰分は手続き終了後に返還されます。

この他に、証拠の取り寄せにかかる費用や、遠方の裁判所へ行くための交通費などが発生することもあります。

セクハラを訴える際のよくある質問

証拠が全くない場合でも訴えることはできますか?

訴えること自体は可能ですが、客観的な証拠が何もない場合、相手が事実を否定すると、裁判で被害を証明するのは非常に困難になります。ただし、被害者本人の供述が一貫しており具体的であれば、それ自体が重要な証拠と評価されることもあります。また、被害直後に友人に相談した際のメッセージなど、状況を補強する間接的な証拠も有効です。証拠がないと諦めず、まずは専門家に相談することが大切です。

セクハラの慰謝料請求に時効はありますか?

はい、あります。セクハラの慰謝料請求権は、一定期間が経過すると時効によって消滅してしまいます。時効の期間は、法的根拠によって異なります。

  • 加害者本人への不法行為に基づく請求: 被害者が損害および加害者を知った時から3年(生命・身体への被害の場合は5年)。
  • 会社への安全配慮義務違反に基づく請求: 権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年

時効の完成が近い場合は、提訴などの手段で時効の進行を止める必要がありますので、早めに弁護士に相談してください。

セクハラを警察に訴える(刑事告訴する)ことは可能ですか?

セクハラの態様が刑法などの犯罪に該当する場合は、警察に被害を届け出て、刑事告訴することが可能です。例えば、無理やり体に触る行為は「不同意わいせつ罪」、言葉による嫌がらせが公然と行われれば「名誉毀損罪」などに問える可能性があります。刑事事件として捜査が進めば、加害者に刑事罰が科されるだけでなく、民事上の慰謝料請求交渉を有利に進められることもあります。

弁護士に依頼せず、自分で手続きを進めることはできますか?

法律上、弁護士を立てずに自分で裁判や労働審判を行う「本人訴訟」は可能です。しかし、セクハラ事案では、法的な主張の組み立てや証拠による立証が専門的で難しく、相手方が弁護士を立ててきた場合、知識や経験の差から不利な結果になりかねません。特に、第一回期日が極めて重要な労働審判では、準備不足が致命的になる恐れもあります。適切な解決を目指すためには、できる限り専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。

まとめ:法的措置を検討する際に押さえるべき重要ポイント

この記事では、セクハラ被害を法的に訴えるための準備から具体的な手続きまでを解説しました。セクハラを訴えるには、まず録音やメールといった客観的な証拠を確保することが極めて重要です。その上で、加害者本人だけでなく、使用者責任などを根拠に会社に対しても責任を追及できる可能性があります。法的手続きには、迅速な解決を目指す「労働審判」と、強制力のある判断を求める「民事訴訟」があり、それぞれの特性を理解して選択する必要があります。一人で抱え込まず、まずは労働問題に詳しい弁護士などの専門家に相談し、ご自身の状況に最適な解決策を見つけることが、権利回復への確実な第一歩となるでしょう。

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