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RPAの費用対効果を算出する方法|人件費削減効果の計算式と事例を解説

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人手不足やコスト削減といった経営課題への対策として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を検討されている企業は少なくありません。しかし、その意思決定には「どれだけ人件費を削減できるのか」という具体的な投資対効果(ROI)の算出が不可欠です。正確な効果測定は、経営層への説明責任を果たす上でも重要な根拠となります。この記事では、RPA導入による人件費削減効果の具体的な計算方法から、費用対効果(ROI)の算出、そして導入効果を最大化するためのポイントまでを網羅的に解説します。

目次

RPA導入による人件費削減効果の算出方法

はじめに:自動化対象業務の洗い出しと作業時間の可視化

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で人件費削減効果を得るには、まず現状業務を正確に把握する業務の棚卸しが不可欠です。自動化に適しているのは、ルールが明確な定型業務で、かつ定期的に大量の処理が発生する業務です。業務の可視化と工数の数値化は、以下の手順で進めます。

業務の洗い出しと可視化の手順
  1. 自動化候補となる業務をリストアップする。
  2. 現場担当者へのヒアリングを通じて、各業務の作業手順を詳細に分解する。
  3. 分解した各工程の担当者、使用システム、作業目的を明らかにする。
  4. 各工程にかかる作業時間を実測や申告に基づき正確に測定・記録する。
  5. 収集した情報を基に、業務全体の流れと工数を可視化し、ボトルネックを特定する。

人件費単価(時給・月給)の具体的な設定方法

削減効果を金額換算する基礎となる人件費単価は、企業が従業員一人を雇用するために実際に支払っている総コストを基に算出します。これにより、より実態に即した効果測定が可能になります。算出の際は、基本給だけでなく、以下の項目を含めることが重要です。

人件費単価の算出に含める項目
  • 基本給および各種手当(役職手当、住宅手当、通勤手当など)
  • 年間の賞与合計額
  • 事業者負担分の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)や労働保険料といった法定福利費

これらの年間総コストを、企業の年間総労働時間で割ることで、1時間あたりの人件費単価が算出できます。担当者の役職や雇用形態に応じて個別の単価を設定すると、さらに精度が高まります。

【計算式】年間削減時間と人件費単価から削減効果を算出する

RPA導入による年間の人件費削減額は、自動化によって削減できた時間に人件費単価を掛けることで算出します。具体的な計算は以下のステップで行います。

人件費削減効果の計算ステップ
  1. 1回の業務で削減できる作業時間(自動化前の時間 – 自動化後の時間)を算出する。
  2. 「1回の削減時間 × 1日あたりの発生頻度 × 年間稼働日数」で年間総削減時間を求める。
  3. 「年間総削減時間 × 人件費単価」を計算し、年間の人件費削減効果額を確定する。

この計算により、効率化という抽象的な概念を、経営判断に活用できる具体的な財務指標に変換できます。なお、人が確認する作業などが残る場合は、その時間を差し引いて純粋な削減時間を算出する必要があります。

モデルケースで見る人件費削減効果の計算例

具体的な数値を用いて、人件費削減効果をシミュレーションします。

シミュレーションの前提条件
  • 対象業務:部署の従業員10名が、各自毎日30分かけて行う売上集計・転記作業
  • 年間稼働日数:240日
  • 人件費単価:1時間あたり2,500円(各種手当、法定福利費などを含む)

この条件で、年間の人件費削減額は以下のように計算できます。

削減効果の計算例
  1. 1人あたりの年間削減時間を算出:0.5時間/日 × 240日 = 120時間
  2. 部署全体の年間削減時間を算出:120時間/人 × 10名 = 1,200時間
  3. 年間の人件費削減額を算出:1,200時間 × 2,500円/時間 = 300万円

このように、日々のわずかな作業改善でも、組織全体で年間を通してみると大きなコスト削減につながることがわかります。さらに、業務量増加に伴う将来的な増員コスト(採用費・教育費)の抑制効果も期待できます。

RPA導入にかかる費用の内訳

初期費用(導入コスト)の内訳と目安

RPA導入時に一度だけ発生する初期費用(イニシャルコスト)には、ソフトウェアの購入費以外にも様々な費用が含まれます。投資対効果を正しく算出するためにも、これらの費用を正確に把握することが重要です。

主な初期費用
  • ライセンス費用:RPAツールの利用権を取得するための費用
  • 開発費用:業務手順を自動化するロボット(シナリオ)の作成費用
  • コンサルティング費用:導入支援や業務分析を外部に依頼する場合の費用
  • 教育費用:社内担当者への操作トレーニングやマニュアル作成にかかる費用
  • 基盤構築費用:サーバーの設置やシステム連携など、動作環境の構築に必要な費用

運用費用(ランニングコスト)の内訳と目安

導入後に継続して発生する運用費用(ランニングコスト)の管理は、長期的な費用対効果を見極める上で欠かせません。年間運用費の目安は、一般的に初期開発費の10%~15%程度とされていますが、業務の複雑さによって変動します。

主な運用費用
  • 保守・ライセンス更新料:ソフトウェアの年間保守契約やライセンスの更新費用
  • サーバー・インフラ利用料:サーバー維持費やクラウドサービスの月額利用料
  • 改修・メンテナンス費用:業務フローの変更や連携システムの更新に伴うロボットの修正費用
  • トラブル対応費用:エラー発生時の原因調査や復旧作業にかかる費用

見落としがちなライセンス費用以外の「人的コスト」

RPAの費用対効果を評価する際、ツール利用料などの直接的な費用だけでなく、社内で発生する見えない人的コストも見過ごせません。これらのコストを無視すると、効果を過大評価してしまうリスクがあります。

主な人的コストの例
  • 監視・運用工数:ロボットが正常に動作しているかを定期的に確認する時間
  • シナリオ修正工数:業務ルールの変更をロボットの動作に反映させる作業時間
  • 管理・報告工数:新たな自動化対象の検討会議や、成果報告資料の作成に要する時間
  • 教育・学習コスト:担当者のスキル習得や、社内へのノウハウ共有にかかる時間

費用対効果(ROI)の計算式とシミュレーション

投資対効果(ROI)の基本的な計算式

ROI(Return on Investment:投資利益率)は、投じた費用に対してどれだけの利益を生んだかを測定するための重要な指標です。基本的な計算式は「(利益 ÷ 投資額)× 100」で算出され、数値が高いほど投資効率が良いことを意味します。RPA導入における「利益」と「投資額」は、以下のように考えます。

要素 内容
利益 人件費削減額、生産性向上による売上増加分など、RPA導入によって得られたリターンの総額
投資額 初期費用と運用費用(保守費、人的コストなど)を合計したTCO(総保有コスト)
ROI計算式の構成要素

短期的な数値だけでなく、業務の安定化に伴う将来的な効果の向上も視野に入れて評価することが、デジタル投資の真の価値を見極める上で重要です。

【シミュレーション】具体的な数値で見るROIの算出例

具体的な数値を当てはめて、ROIを算出してみましょう。これにより、投資の妥当性を客観的に評価できます。

ROIシミュレーションの前提条件
  • 初期費用:300万円
  • 年間運用コスト:100万円
  • 年間人件費削減額:1,200万円
  • 生産性向上による追加利益:300万円

この場合、初年度のROIは以下のように計算されます。

ROIの計算手順
  1. 年間の総利益を算出:1,200万円(人件費削減) + 300万円(追加利益) = 1,500万円
  2. 初年度の総投資額を算出:300万円(初期費用) + 100万円(運用コスト) = 400万円
  3. ROIを算出:(1,500万円 – 400万円) ÷ 400万円 × 100 = 275%

この結果は、投資額1円あたり2.75円の利益が生まれていることを示しており、非常に効率的な投資であると判断できます。こうした具体的なシミュレーションは、経営層への強力な説得材料となります。

投資回収期間の考え方と算出方法

投資回収期間とは、初期投資額を何年で回収できるかを示す指標です。「投資総額 ÷ 年間のコスト削減効果額」というシンプルな計算式で算出できます。例えば、初期投資が500万円で、年間のコスト削減効果が250万円の場合、投資回収期間は2年となります。特に資金力に制約がある企業では、リスクを抑えるために1年~3年程度の短期回収を目指すことが一般的です。

ROIの算出結果を社内で説明し、合意形成する際のポイント

算出したROIを基に社内の合意形成を得るためには、単に数字を示すだけでなく、説得力のある伝え方が求められます。以下のポイントを意識することが重要です。

社内合意形成のポイント
  • 導入目的と企業の経営目標(KGI)との関連性を明確にする。
  • 算出した数値の根拠となったデータや仮説を具体的に提示する。
  • 潜在的なリスクや不確実な要素も率直に共有し、報告の信頼性を高める。
  • コスト削減だけでなく、生産性向上や従業員の負担軽減といった多面的な効果を伝える。
  • 導入後の展望や次のステップを示し、組織全体の前向きな変革へとつなげる。

人件費削減だけではないRPAの導入効果

生産性向上やリードタイム短縮などの「定量的効果」

RPAの導入効果は人件費削減に留まりません。ロボットは24時間365日稼働できるため、業務の処理能力が飛躍的に向上します。これにより、業務の開始から完了までの時間、すなわちリードタイムが大幅に短縮されます。例えば、数日かかっていた月次決算処理が数時間に短縮されれば、経営判断の迅速化に繋がり、市場変化への対応力も高まります。これは、機会損失を防ぎ、企業の競争力を強化する上で重要な効果です。

業務品質の安定化とヒューマンエラー削減

人間による手作業では、疲労や集中力の低下によるヒューマンエラーを完全になくすことは困難です。RPAは定義されたルール通りに正確な処理を繰り返すため、入力ミスや転記漏れといった人為的ミスを大幅に削減できます。業務品質が安定することは、手戻りや修正作業のコストを削減するだけでなく、顧客からの信頼を維持し、企業のブランド価値を守ることにも繋がります。また、データの正確性が担保されることで、法令遵守や内部統制の強化にも貢献します。

従業員の満足度向上など数値化しにくい「定性的効果」

RPAは、数値化しにくい定性的な効果ももたらします。単調な繰り返し作業から解放された従業員は、より創造的で付加価値の高いコア業務に集中できるようになり、仕事へのモチベーションが向上します。また、残業時間の削減はワークライフバランスの改善に直結し、従業員満足度や組織へのエンゲージメント(帰属意識)を高めます。こうした働きやすい環境は、離職率の低下や優秀な人材の確保にも繋がり、企業の持続的な成長を支える無形の資産となります。

RPA導入で費用対効果を高めるためのポイント

小規模な業務から着手し、成功体験を積む(スモールスタート)

費用対効果を最大化するには、最初から大規模な導入を目指すのではなく、特定の部門や業務に絞って「小さく始める」スモールスタートが有効です。これにより、初期投資を抑えつつ、短期間で効果を検証し、課題を洗い出すことができます。小さな成功体験を積み重ねることは、社内のRPAに対する理解を深め、全社展開に向けた協力体制を築く上で極めて重要です。

導入目的と評価指標(KPI)を明確に設定する

導入を成功させるには、「なぜ導入するのか」という目的を具体的にし、その達成度を測るためのKPI(重要業績評価指標)を事前に設定することが不可欠です。「効率化を目指す」といった曖昧な目標ではなく、「受注処理にかかる時間を平均20%削減する」のように、誰が見ても達成度がわかる数値目標を設定します。明確なKPIは、現場の行動指針となり、導入後の効果測定と改善活動の土台となります。

現場部門を巻き込み、業務に即した自動化を行う

自動化の対象業務を最も深く理解しているのは、日々の実務を担う現場の従業員です。計画段階から現場部門を巻き込み、彼らの意見や知見を反映させることで、より実態に即した精度の高い自動化が可能になります。RPAを「仕事を奪う敵」ではなく「面倒な作業を代行してくれる仲間」として認識してもらう協力体制を築くことが、導入後の定着と継続的な改善を成功させる鍵です。

導入後の運用・保守体制を事前に計画する

RPAは導入して終わりではなく、その後の継続的な運用・保守が成果を左右します。ロボットの監視、エラー発生時の対応、業務変更に伴うシナリオ修正などを、どの部署がどのような手順で行うのか、運用・保守体制を事前に明確に計画しておく必要があります。情報システム部門だけでなく、現場部門でも簡単な修正ができるような体制を整えることで、迅速な対応が可能になり、長期的な安定稼働に繋がります。

導入後の定期的な効果測定と改善計画の見直し

運用開始後は、事前に設定したKPIに基づき、定期的に効果を測定することが重要です。実際の削減時間やコスト削減額を数値で評価し、期待通りの効果が出ていない場合は、その原因を分析します。そして、業務プロセスの見直しやロボットの改修といった改善策を実行します。このようなPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を継続的に回し続けることが、RPAの導入効果を最大化し、組織に変革を根付かせるための要諦です。

【類型別】RPA導入による費用対効果の改善事例

経理・財務部門:請求書・伝票処理の自動化

経理・財務部門は、請求書のデータ入力、入金消込、経費精算など、ルールに基づいた定型業務が多いため、RPA導入の効果が特に現れやすい領域です。ある企業では、毎月数十時間を要していた請求書の会計システムへの転記作業を自動化し、処理時間を8割以上削減しました。これにより、担当者は月末の繁忙期から解放されただけでなく、月次決算の早期化が実現し、経営層の迅速な意思決定に貢献しています。

人事・総務部門:入退社手続きや勤怠管理の自動化

人事・総務部門では、入退社に伴う各種手続き、勤怠データの集計、給与計算ソフトへの連携といった、正確性が求められる煩雑な業務を自動化することで大きな効果が期待できます。例えば、RPAを用いて従業員の勤怠データを自動で集計・チェックすることで、手作業によるミスをなくし、担当者の作業時間を大幅に短縮した事例があります。創出された時間は、採用活動の強化や人事制度の企画といった、より戦略的な業務に充てられています。

RPAの費用対効果に関するよくある質問

Q. RPA導入の費用対効果は、どのくらいの期間で実感できますか?

自動化する業務の規模によりますが、スモールスタートで始めた場合、一般的に1ヶ月から3ヶ月程度で初期効果が実感できることが多いです。単純な作業の時間短縮といった目に見える成果が早期に現れるためです。その後、自動化の範囲を拡大していくことで、半年から1年後には投資回収が本格化し、明確な費用対効果として認識できるようになります。

Q. 部署や業務内容によって費用対効果は変わりますか?

はい、大きく変わります。特に、経理、人事、受発注管理など、ルールが明確で処理件数が多いバックオフィス部門の定型業務は、自動化による時間削減効果が大きく、高い費用対効果を得やすい傾向にあります。一方で、複雑な判断や顧客とのコミュニケーションが求められる非定型業務は自動化が難しく、効果が出にくい場合があります。どの業務から着手するかが成功の鍵となります。

Q. RPA導入で費用対効果が出ないのはどのようなケースですか?

期待した効果が得られない場合、いくつかの典型的な原因が考えられます。

費用対効果が出ない主なケース
  • 業務プロセスが標準化されておらず、例外処理が多すぎる業務を自動化しようとした。
  • 現場の意見を聞かずに導入を進め、実態に合わないロボットが作られてしまった。
  • 導入後の運用・保守体制が不明確で、エラー発生時に対応できず放置されてしまう。
  • そもそも自動化による削減効果が小さい業務を選んでしまった。

Q. 費用対効果が想定を下回った場合、プロジェクトをどう見直すべきですか?

まずは計画通りに進まなかった原因を分析することが重要です。その上で、以下のような見直しを検討します。

プロジェクトの見直し方針
  • 自動化対象の業務プロセスそのものを見直し、不要な工程を削減・簡素化する。
  • エラーが頻発する工程は人が行い、それ以外の部分をRPAに任せるなど、役割分担を再設計する。
  • 現場の担当者がロボットを使いこなせるよう、追加のトレーニングやマニュアルの改善を行う。
  • より費用対効果の高い別の業務に自動化の対象を切り替える。

失敗から学び、柔軟に計画を修正していく姿勢が、最終的な成功に繋がります。

まとめ:正確な効果測定がRPA導入成功の鍵

RPA導入の意思決定において、人件費削減効果を客観的な数値で示すことは不可欠です。本記事で解説したように、まずは自動化対象業務の作業時間を正確に可視化し、法定福利費などを含めた人件費単価を用いて削減額を算出することが基本となります。同時に、ライセンス費用だけでなく、開発や運用にかかる人的コストを含めた総投資額(TCO)を把握することが、現実的な費用対効果(ROI)を算出する上で重要です。人件費削減という直接的な効果に加え、生産性向上やヒューマンエラーの削減、従業員満足度の向上といった多面的なメリットも考慮に入れることで、より説得力のある導入計画を立てられます。まずはスモールスタートを意識し、特定の業務からKPIを設定して効果を可視化することが、全社的なDX推進を成功に導く第一歩となるでしょう。

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