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ランサムウェア感染時の初動対応と復旧手順|企業が取るべき対策を解説

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ランサムウェアへの感染が疑われる事態は、事業継続における重大な危機であり、経営者として冷静な判断が求められます。何から手をつけるべきか、どのような被害が想定されるのか、不安を感じている方も多いでしょう。この記事では、ランサムウェア感染時に企業が直面する被害シナリオから、被害拡大を防ぐ初動対応、そしてシステム復旧と再発防止に至るまでの一連のプロセスを網羅的に解説します。

目次

ランサムウェア感染で企業に起こりうる被害シナリオ

事業停止による機会損失と信用の低下

ランサムウェアに感染すると、社内のコンピュータやサーバーが暗号化され、業務システムが停止することで事業活動そのものが中断するリスクがあります。警察庁の統計によると、被害組織の約7割が復旧に1週間以上を要しており、その間の事業停止による機会損失は甚大です。

事業停止がもたらす主な被害
  • 製造ラインや診療業務の停止による直接的な機会損失
  • 納期遅延やサービス提供不可による顧客離れ
  • 長年かけて築き上げたブランドイメージや社会的信用の失墜
  • サプライチェーン全体への影響拡大

基幹システムや業務データの暗号化によるアクセス不能

攻撃者は企業の心臓部である基幹システムを標的とし、会計データや顧客情報などの重要データを暗号化します。正しい復号キーがなければデータにアクセスできなくなり、企業の根幹業務が麻痺する事態に陥ります。

アクセス不能となる重要データ・システムの例
  • 会計データや販売管理システム
  • 顧客情報データベース
  • 従業員の給与計算システム
  • 生産管理システム
  • 近年の攻撃ではネットワーク経由でバックアップデータも暗号化の対象となります。

二重恐喝(ダブルエクストーション)による情報漏洩リスク

近年の主流は、データを暗号化するだけでなく、事前に窃取した情報を公開すると脅す「二重恐喝(ダブルエクストーション)」と呼ばれる手法です。これにより、システム復旧とは別に、深刻な情報漏洩のリスクに直面します。

二重恐喝による複合的なリスク
  • 営業秘密や知的財産といった機密情報の流出
  • 顧客や従業員の個人情報の漏洩
  • 情報漏洩に伴う損害賠償請求法的責任の追及
  • 監督官庁からの行政処分や業務停止命令

感染発覚時に最優先で実施すべき初動対応フロー

被害拡大を防ぐための感染端末のネットワークからの隔離

ランサムウェア感染の兆候を検知したら、直ちに被害の拡大を防ぐ措置が必要です。感染が疑われる端末をネットワークから物理的に隔離することが最優先となります。

ネットワークからの隔離手順
  1. 感染が疑われる端末からLANケーブルを抜きます。
  2. 無線LAN(Wi-Fi)に接続している場合は、Wi-Fiをオフにするか、機内モードを有効にします。
  3. これにより、他の端末やサーバーへの横展開(感染拡大)を防ぎます。
  4. 念のため、同じネットワークセグメントにある他の端末も隔離を検討します。

証拠保全の実施(シャットダウンは慎重に判断)

感染拡大防止と並行し、原因究明に必要な証拠を保全します。ただし、端末のシャットダウンは慎重に判断する必要があります。

証拠保全における注意点
  • 原則として電源は切らない: メモリ上に残っている攻撃の痕跡が消えるのを防ぐためです。
  • 例外的に電源を切る: 目の前でファイルの暗号化が進行している場合は、被害拡大を止めるためにシャットダウンが有効な場合があります。
  • 現状の記録: 身代金要求画面(ランサムノート)やエラーメッセージをスマートフォンなどで撮影し、記録を残します。

経営層・法務部門への迅速なエスカレーションと対策本部の設置

現場でのインシデント確認後、直ちに経営層や法務部門へ報告し、組織的な対応体制を構築します。ランサムウェア対応は、技術問題だけでなく経営判断を伴うため、迅速なエスカレーションが不可欠です。

対策本部の役割
  • 指揮命令系統の一本化と情報共有のハブ機能
  • 事業継続の観点からの復旧優先順位の決定
  • 顧客や取引先、監督官庁への公表方針の決定
  • 法的責任や広報対応に関する経営判断

外部の専門機関(調査会社・弁護士)への相談

社内リソースのみでの対応は困難なため、早期に外部の専門機関へ相談することが重要です。客観的な調査と法的な助言が、後の対応を円滑にします。

専門機関 主な役割
フォレンジック調査会社 感染経路の特定、被害範囲の調査、証拠保全、データの復旧支援
サイバーインシデント対応に強い弁護士 法的報告義務の判断、攻撃者との交渉支援、警察対応、訴訟リスクの整理
外部専門機関の役割分担

サイバー保険の適用確認と保険会社への連絡

サイバー保険に加入している場合、速やかに保険会社へ事故発生の第一報を入れます。多くの保険契約では、事故発生から24時間~72時間以内の通知が求められており、遅れると補償が受けられない可能性があります。

サイバー保険で受けられる支援の例
  • フォレンジック調査費用やシステム復旧費用の補填
  • 弁護士費用や損害賠償金の補填
  • 保険会社が提携する専門業者の紹介
  • 初動対応に関するアドバイスを提供する緊急時ホットライン

感染原因の特定からシステム復旧までのプロセス

専門家によるフォレンジック調査と感染経路の特定

システム復旧に着手する前に、フォレンジック調査を行い、侵入経路と原因を特定することが不可欠です。原因を特定しなければ、復旧後に同じ手口で再感染するリスクが残ります。

フォレンジック調査で解明する内容
  • 侵入の起点(例: VPN機器の脆弱性、フィッシングメール)
  • 攻撃者がネットワーク内で行った活動の時系列での再構築
  • 情報が外部に窃取されたかどうかの確認
  • ネットワーク内に仕掛けられたバックドア(裏口)の有無

被害範囲の確定と事業継続を踏まえた復旧計画の策定

調査結果を基に、暗号化されたデータや侵害されたアカウントの範囲を正確に把握し、被害の全体像を確定させます。その上で、事業継続を最優先に考えた復旧計画を策定します。

復旧計画に含めるべき主要項目
  • 事業インパクト分析に基づくシステムの復旧優先順位
  • 各システムの目標復旧時間(RTO)の設定
  • 復旧作業に必要な人員や代替リソースの確保計画
  • 作業の進捗管理と関係者への報告体制

バックアップからのデータリストアと正常性の検証

暗号化されたデータは、バックアップから復元(リストア)します。この際、バックアップデータ自体がマルウェアに感染していないか、慎重に検証する必要があります。

安全なデータリストアの手順
  1. 使用するバックアップデータがマルウェアに感染していないことを確認します。
  2. クリーンな環境でデータをリストアし、データの整合性やプログラムの正常動作をテストします。
  3. 正常性が確認できたシステムから、段階的に本番ネットワークへ接続し、業務を再開します。

システムのクリーンアップと脆弱性への対処

データの復元と並行して、システムから攻撃の痕跡を完全に除去し、侵入経路となった脆弱性を解消します。これにより、システムの安全性を確保し、再感染を防ぎます。

主なクリーンアップと脆弱性対策
  • 感染した端末やサーバーの初期化とOSの再インストール
  • 侵入原因となった脆弱性に対するセキュリティパッチの適用
  • 侵害された可能性のあるアカウントのパスワードリセット
  • 不正な設定変更や不審なファイルが残っていないかの最終確認

業務影響を最小化するための暫定的な代替業務プロセスの検討

システムの完全復旧には時間がかかるため、事業を継続させるための暫定的な代替策を検討します。これにより、システム停止中の顧客や取引先への影響を最小限に抑えます。

代替業務プロセスの例
  • 紙の伝票やExcelなどを用いた手動での業務プロセスへの一時的な切り替え
  • 影響を受けていないクラウドサービスなどを活用したオンライン業務の継続
  • 最低限の受注、出荷、問い合わせ対応を維持するための体制構築

関係各所への報告義務とコミュニケーションプラン

個人情報保護委員会など監督官庁への報告義務の有無と期限

個人情報の漏洩、またはそのおそれがある場合、個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会への報告が義務付けられています。

報告種別 報告期限 報告内容
速報 事態を認識してから概ね3~5日以内 その時点で判明している事項の概要
確報 原則として30日以内(不正目的の場合は60日以内) 調査結果、原因、再発防止策など詳細
個人情報保護委員会への報告期限

金融や医療など特定の業種では、所管の監督官庁への別途報告が求められる場合があります。

警察への被害届の提出と捜査協力

ランサムウェア被害はサイバー犯罪であり、警察へ被害届を提出することが推奨されます。

警察へ被害届を提出するメリット
  • 被害届の受理番号が、サイバー保険の請求や税務上の損害処理で公的な証明となります。
  • 警察が保有する攻撃者情報や、開発・公開されている復号ツールに関する情報提供を受けられる可能性があります。
  • 捜査に協力することで、社会全体のサイバー犯罪抑止に貢献できます。

顧客・取引先への事実公表と問い合わせ窓口の設置

被害を隠蔽せず、透明性をもって事実を公表することが、長期的な信頼回復に繋がります。ウェブサイトでの公表やプレスリリースに加え、専用の問い合わせ窓口を設置し、誠実な対応を心がけます。

顧客・取引先へのコミュニケーションで重要なこと
  • 発生した事象(何が起きたか)の客観的な説明
  • 個人情報などへの影響範囲の報告
  • 現在の対応状況と今後の見通しの共有
  • 不安や疑問に答えるための専用問い合わせ窓口の設置と丁寧な対応

身代金(ランサム)要求に対する基本的な考え方とリスク

なぜ身代金の支払いは推奨されないのか

警察庁や政府機関は、身代金の支払いに応じないよう強く推奨しています。支払いには多くのリスクが伴い、問題解決に繋がらないケースが多いためです。

身代金を支払うべきでない主な理由
  • 支払ってもデータが復旧される保証がない(復号キーが提供されない、ツールが不完全など)。
  • 「支払いに応じる企業」と認識され、再攻撃の標的になるリスクが高まる。
  • 支払った金銭が犯罪組織の活動資金となり、さらなるサイバー犯罪を助長する。

身代金を支払うことで生じる法的・実務的なリスク

身代金の支払いは、倫理的な問題だけでなく、法的なリスクや実務上の不利益をもたらす可能性があります。

身代金支払いに伴う法的・実務的リスク
  • 送金先が経済制裁対象の組織である場合、外為法などの法令に抵触するリスクがある。
  • 企業のコンプライアンス違反とみなされ、株主代表訴訟などに発展するおそれがある。
  • 攻撃者との交渉や支払い事実が漏洩し、企業の社会的信用が失墜する。

復旧後に講じるべき恒久的な再発防止策

技術的対策の強化(EDR導入・アクセス権限の最小化)

再発防止には、侵入を前提とした多層防御の考え方が重要です。技術的な対策を強化し、攻撃者が活動しにくい環境を構築します。

強化すべき技術的対策
  • EDR (Endpoint Detection and Response) の導入による端末のリアルタイム監視と不審な挙動の検知・隔離
  • 最小権限の原則に基づき、従業員やシステムのアカウント権限を業務上必要な範囲に限定
  • 多要素認証(MFA)の導入による、ID・パスワード漏洩時の不正アクセス防止

バックアップ戦略の再構築(3-2-1ルールの徹底)

データを守る最後の砦であるバックアップ戦略を見直し、ランサムウェア攻撃に耐えうる体制を構築します。特に、データの保管方法を定めた「3-2-1ルール」の徹底が有効です。

3-2-1ルールに基づいたバックアップ戦略
  • 3つのデータコピーを保持する(原本+2つのバックアップ)。
  • 2種類の異なるメディア(例: ハードディスクとクラウド)に保存する。
  • 1つのコピーはオフラインまたは遠隔地(ネットワークから隔離された場所)に保管する。
  • 定期的に復元テストを実施し、バックアップの実効性を確認することが不可欠です。

全従業員を対象としたセキュリティ教育と標的型攻撃メール訓練

技術対策と同時に、人的な脆弱性を低減させるための取り組みも欠かせません。全従業員のセキュリティ意識向上が、組織全体の防御力を高めます。

効果的なセキュリティ教育・訓練
  • 最新のサイバー攻撃手口に関する定期的な研修の実施
  • 標的型攻撃メール訓練を行い、不審なメールへの対応能力を養う
  • セキュリティインシデントを発見した際に、躊躇なく報告できる組織文化の醸成

インシデント対応計画(IRP)の策定と定期的な見直し

今回のインシデント対応で得られた教訓を基に、インシデント対応計画(IRP)を策定または見直します。

実効性のあるIRPのポイント
  • インシデント発生時の役割分担と連絡体制を明確化する。
  • 具体的な復旧手順や判断基準を文書化する。
  • 定期的な机上演習や訓練を通じて、計画の有効性を検証し、改善を続ける。
  • 事業継続計画(BCP)の一環として位置づけ、組織全体で取り組む。

ランサムウェア対応に関するよくある質問

身代金を支払えば、暗号化されたデータは本当に復旧できますか?

いいえ、データが確実に復旧できる保証は一切ありません。警察や専門機関は、以下の理由から身代金の支払いを推奨していません。

身代金を支払っても復旧が保証されない理由
  • 支払い後に復号ツールが提供されない、または正常に機能しないケースが多数報告されています。
  • 支払いに応じると、将来的に再び攻撃の標的となるリスクが高まります。
  • まずはバックアップからの復旧や、公的機関が提供する復号ツールの利用を検討すべきです。

警察に被害を届け出るメリットとデメリットは何ですか?

警察への被害届提出は、捜査協力にリソースを要するという側面もありますが、デメリットを上回るメリットがあると考えられます。

内容
メリット ・被害の公的な証明となり、保険請求税務処理に利用できる<br>・警察から攻撃情報復号ツールの情報提供を受けられる可能性がある<br>・企業の透明性と誠実な対応姿勢を示すことができる
デメリット ・事情聴取や証拠提出など、捜査協力に時間やリソースを要する
警察への被害届提出のメリット・デメリット

バックアップデータも暗号化されてしまった場合の対処法はありますか?

バックアップも被害に遭った場合でも、いくつかの対処法が考えられます。諦めずに専門家へ相談することが重要です。

バックアップが利用できない場合の対処手順
  1. ネットワークから切り離されていた古い世代のバックアップや、別の場所に保管されたデータがないか徹底的に探します。
  2. 専門のデータ復旧業者に相談し、暗号化前のデータの痕跡から復元できる可能性を探ります。
  3. 攻撃に使われたランサムウェアの種類を特定し、公的機関などが提供する無償の復号ツールが存在しないか確認します。

専門の調査・復旧業者に依頼する際の費用はどのくらいかかりますか?

費用は被害規模によって大きく変動しますが、決して安価ではありません。中小規模のインシデントでも数百万円、大規模なものでは数千万円以上かかることもあります。

費用に関するポイント
  • 費用は調査対象となるサーバーや端末の台数、調査の難易度によって決まります。
  • サイバー保険に加入していれば、これらの高額な調査・復旧費用をカバーできる場合があります。
  • 被害を最小限に抑える迅速な初動対応が、結果的に総費用を抑えることに繋がります。

まとめ:迅速な初動対応と専門家連携が被害を最小化する鍵

ランサムウェア感染は、事業停止、データ暗号化、情報漏洩といった複合的な被害をもたらす重大な経営リスクです。被害を最小限に抑える鍵は、感染発覚直後の「ネットワークからの隔離」「証拠保全」「経営層への報告」といった迅速かつ的確な初動対応にあります。身代金の支払いは原則として避け、フォレンジック調査会社や弁護士といった外部専門家と連携し、原因特定と安全なシステム復旧を進めることが不可欠です。今回のインシデント対応を教訓とし、バックアップ戦略の見直しなどの恒久的な再発防止策を講じ、組織全体のセキュリティ体制を再構築することが求められます。まずは落ち着いて、本記事で解説した初動対応フローを確実に実行に移してください。

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